下元陽
「なぜ多様な人が集まってうまくいくと思うのか」。摩擦を前提にしたマネジメントの始め方
年上の部下、時短勤務のメンバー、価値観の異なる中途入社者。チームの前提がそろわなくなるにつれて、同じ言葉が人によって違う受け取られ方をする場面が増えている。ダイバーシティは推進すべきものとされながら、現場のマネジャーが感じているのは、関わりにくさのほうかもしれない。
社会心理学者の正木郁太郎氏(東京女子大学准教授)は、多様性が語られ始めた頃から、その前提に疑問を持っていたという。人は同質性を好む生き物であり、多様な人が集まれば摩擦も増える。それは避けられないことであり、だからこそ多様性によって何が起きるのか、成功にはどのような工夫が求められるかを分析する必要がある、と。
企業のダイバーシティ推進を支援してきたPwCコンサルティングの吉田亜希子氏もまた、制度は整ってきたものの、何のためにやるのかが宙に浮いたままの企業が増えていると語る。
摩擦は消せない。相手を完全に理解することもできない。ではマネジャーは、目の前のメンバーとどう関わればいいのか。二人の話は、感謝と称賛という具体的な行為と、それが届かない理由へと進んでいった。

「育成キャンセル」は、上司だけの問題か。AI時代の若手の育て方
上司が部下や後輩への指導を控える「育成キャンセル」が注目を集めている。2026年9月21日、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)が育成を避けたがる上司の本音を取り上げ、話題を呼んだ。その後、『ABEMA Prime』でも特集され、KAKEAI代表の本田英貴も出演している。
番組では、管理職の6割以上が「育成キャンセル」を経験しているという調査を起点に、上司がなぜ指導をためらうのかが議論された。
大手チェーン企業の人事部に所属し、自らも中間管理職として部下を育ててきたゲストのよっしー氏は、部下が自分を飛ばして相談窓口に訴えたことがあって以来、部下に言いたいことが言えなくなったと語った。
もっとも、上司が育成から手を引くのは、ハラスメントへの恐怖からだけではない。
昨年の東洋経済オンラインの記事では、仕事に追われ、部下を育てる余力のない管理職の間で「部下育成キャンセル界隈」という言葉が自虐的に使われていると紹介している*。
番組で紹介されたライトワークスの調査では、『何度指導しても改善が見込めず、効果がないと感じた』(55.4%)が、管理職が指導を控える理由の最多だった*。
つまり、「育成キャンセル」の背景には、部下に踏み込むことへの躊躇だけでなく、育てる余力のなさや、「言っても変わらない」という手応えのなさなど、さまざまな事情が絡んでいる。
そこに近年、生成AIの普及が加わり、若手が仕事を覚える環境そのものが揺らぎ始めている。
育成の必要性も難しさもこれまで以上に高まるなか、上司は部下にどう関わればいいのだろうか。
1on1で上司に「何をしてほしいか」が明確な人は、成果につながると感じる割合が高い
1on1で上司に何を求めるかは、人によって異なります。すぐに助言がほしい人もいれば、一緒に考えてほしい人、ただ聞いてほしい人もいる。
では、そうした求めるものがはっきりしている部下と、特にない部下とでは、1on1が成果につながっているという実感に違いがあるのでしょうか。
KAKEAIが2026年5月に、上司と定期的に1on1を行う会社員約1万人に実施した調査から読み解きます。
About 1min.DATA
論点は1つ。数字は1つ。読む時間は1分。
マネジメントにまつわる論点を、毎回1つだけ取り上げるデータ解説企画です。
一息で読み切れる分量で、日頃のモヤモヤを解く手がかりをお届けします。
1on1に主体的に臨む層と受動的に臨む層、「成果実感」に約3倍の差
部下がどんな動機で1on1に臨んでいるか、考えたことはありますか。その動機は、部下自身の成果の実感に、どれくらい関係しているのでしょうか。KAKEAIが2026年5月に、上司と定期的に1on1を行う会社員約1万人に実施した調査から読み解きます。
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面倒見の良い店長の前で、次々に部下が倒れていく。崩壊を食い止めたのは、たった30分の対話だった(ウィル取締役・神野正和氏)
2018年、名古屋。会社が初めて関西の外に構えた拠点で、体調を崩した部下が一人、また一人と離脱していく。崩れゆくチームを前に、店長は呆然としていた。自分はちゃんと部下を見てきたはずなのに、なぜ――。
不動産仲介を中核とする株式会社ウィルの取締役、神野正和さんが8年前に経験した出来事だ。社内の誰よりも熱い思いで1on1に取り組む神野さんの原点は、ここにある。
1対1の対話は、崩れかけたチームをどう変えたのか。当時の状況をありのままに振り返ってもらった。
ABOUT THE SERIES
DISCOVERING 1on1とは
なぜ、あの人は1on1に情熱を注ぐのか。思いの奥には、対話の大切さに気づいた原点がある――。本シリーズでは、1on1に深く向き合ってきたキーパーソンに、その始まりの物語を聞く。さまざまな原体験に触れる中で、私たちも自らが対話を行う理由を見つけていく。
1on1の「頻度」や「時間」は成果につながる? 1万人調査から見えた意外な事実
実施頻度を上げる、時間を延ばす、場所を変える。こうした工夫は、1on1にどのような効果をもたらすのでしょうか。KAKEAIが2026年5月、上司と定期的に1on1を行う会社員約1万人に実施した調査から読み解きます。
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なぜミドルマネジャーに「自己認識」が必要なのか? 自律する組織のつくり方
プレイヤー業務をこなしながら、評価や育成、部門間の調整も担う──。ミドルマネジャーの役割は膨らみ続けるが、その一方で、かつての「管理・指示・命令」型のマネジメントでは、組織は動かなくなっている。自ら考え、動く自律的な組織をつくるには、マネジャーはどうすればいいのか。
PwCコンサルティングでリーダーシップ育成に携わる石川圭悟氏と、企業の人材育成や組織づくりに携わるKUDEN WORLD取締役の柳下聖也氏が、「自己認識」をキーワードに、これからのマネジメントを問い直した。

「組織負債」は、好調のときにしか返済できない。マネーフォワード早川氏が語る、人事の本当の勝負所
「組織の歪みは、業績が傾いてからでは直せない」そう語るのは、マネーフォワードのPeople Forward本部 副本部長の早川直樹氏だ。
急成長のなかで組織にたまっていく歪みを、早川氏は「組織負債」と呼ぶ。歪みを直すプロセスでは、組織に負荷がかかる。その負荷に耐えられるのは、事業に勢いと体力がある好調なときだと早川氏はいう。
ところが、先手を取って対応すべきだと頭ではわかっていても、実際に動ける組織は少ない。なぜ、動き出せないのか。事業畑を歩み、自ら会社を経営した経験も持つ、異色のキャリアに裏打ちされた早川氏の持論をお届けする。

株式会社マネーフォワード People Forward本部 副本部長
2005年、新卒でスタートアップに入社し、事業サイドでキャリアをスタート。2009年、ワークスアプリケーションズに転職し、人事へ。2014年、自ら会社を経営し事業売却を経験。その後、約300名規模のベンチャー企業で人事責任者を務め、2年目からは事業企画を兼務。2022年、マネーフォワード入社後はビジネスセグメントにおける立ち上げ期のHRBP室に加わり、室長を務める。現在は、People Forward本部(全社人事組織)の副本部長として、中途採用・HRBP領域を管掌。

必要なのは「任せる勇気」。AI時代だからこそ求められる、1on1の本質
米国で1on1が広がった経緯を振り返りながら、国内企業の対話の現在地を捉え、「機能する1on1」のあり方を問い直す鼎談企画。
外資系企業で約30年にわたり人事・経営に携わり、日本でもいち早く1on1を導入したFunleash CEOの志水静香氏、組織人事領域のコンサルティングを手がけるPwCコンサルティングの土橋隼人氏、KAKEAI代表取締役社長の皆川恵美が語り合いました。
前編では、米国・西海岸で「人が競争力の源泉である」という思想のもとに1on1が広がった経緯や、コロナ禍を経て目的が多様化してきた日本企業の1on1の現状を取り上げました。
後編では、1on1をどうすればワークさせられるのかを掘り下げます。

なぜ日本の1on1は、やるだけになるのか。置き去りにされた「本来の目的」
国内企業に広く普及した1on1ですが、現場からは「形だけになっている」「何を話せばいいかわからない」という声も聞こえてきます。
もともと米国で始まった1on1は、日本という異なる土壌でどのように育ち、変化してきたのか。
外資系企業で約30年にわたり人事・経営に携わり、日本でもいち早く1on1を導入した経験を持つFunleash CEOの志水静香氏と、KAKEAI代表取締役社長の皆川恵美が語り合いました。ファシリテーターを務めるのは、組織人事領域のコンサルティングを手がけるPwCコンサルティングの土橋隼人氏です。
前編では、国内企業で1on1がどう運用されているのかを確認したうえで、米国企業がそもそも何のために1on1を始めたのかをたどります。日米の「目的」の違いが、議論のなかで輪郭を現していきます。

あなたの会社のCHROは本物か。有沢正人氏が語る、人事が経営に加わる条件
CHROと人事担当役員は、似て非なるものである。
そう断じるのは、HR GENESIS代表取締役の有沢正人氏だ。協和銀行(現りそな銀行)を振り出しに、HOYA、AIU保険(現AIG損害保険)、カゴメと渡り歩き、2025年4月からはいすゞ自動車の常務執行役員CHROを務めた。
2020年9月に経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表したことで、国内大手企業を筆頭に「人的資本経営」が叫ばれるようになり、その船頭役となるCHRO(Chief HumanResources Officer、最高人事責任者)の肩書きを持つ人は大きく増えた。しかし有沢氏は、レポートの公表から6年近くが経った現在も、「“本物のCHRO”はまだまだ少ない」と言い切る。
では、CHROと人事担当役員の境界線はどこにあるのか。有沢氏に、持論を聞いた。

AIトランスフォーメーションの出発点に、なぜ「1on1」が有効なのか
近年、急速に広がる企業のAI活用。だが、その多くは実験段階を出ず、変革につなげた例は少ない。
2026年8月1日、アクセンチュア株式会社から株式会社うるるへ移り、執行役員CHROに就任した太田昂志氏は、同社のAIトランスフォーメーション(AX)の推進を担う。
その太田氏が着任直後の3カ月で取り組むのは、約300人の正社員との1on1だ。
1人30分としても計150時間。なぜAXの出発点に、時間を要する1on1を据えるのか。
その理由をたどると、経営と現場を往復しながら変革の焦点を絞り込む、新しい1on1の使い方が見えてきた。

株式会社うるる 執行役員CHRO
システムインテグレーター等を経て、株式会社ゆめみに転じる。CHRO、取締役、上席執行役員を歴任し、事業の急成長を人事・組織面から牽引。働きがいのある会社として、複数の外部アワード受賞や各種ランキング入賞にも導いた。その後、アクセンチュア株式会社との経営統合を主導。統合後はプリンシパル・ディレクターとして、クライアント企業のカーブアウト型M&Aに伴う組織人事・チェンジマネジメント領域のコンサルティングに従事。2026年8月より現職。共著に『職場を上手にモチベートする科学的方法 無理なくやる気を引き出せる26のスキル』(ダイヤモンド社)
無理に腹を割らなくていい――対人関係が苦手なマネジャーの負荷を下げる二つの方法
苦手な部下がいる。それでも立場上、ミスを指摘したり、耳の痛いフィードバックを返さなければならない。でも、そのたびに気が重くなり、つい後回しにしてしまう——対人関係に苦手意識を持つマネジャーなら、思い当たる場面ではないだろうか。しかもやっかいなのは、この心理的な重さが、避けようとするほど増していくことだ。
では、苦手な部下とどう向き合い、マネジメントを成り立たせていけばいいのか。対人苦手意識の生成過程について研究する東京未来大学こども心理学部の日向野智子准教授へのインタビューの後編では、その具体策を紹介する。

東京未来大学こども心理学部 准教授 昭和女子大学大学院生活機構研究科後期博士課程を修了。博士(学術)。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師などを経て、2013年に東京未来大学こども心理学部専任講師に着任。2017年より現職。専門は対人社会心理学。対人関係における苦手意識や対人ストレス、ソーシャルスキルを主なテーマに研究を続けている。
🔹前編記事
苦手な部下への一言が、なぜこんなに重いのか――マネジャーを縛る「対人苦手意識」の正体
「この件、あの部下に言わないといけない。でも、どう切り出そう」。そう迷ううちにタイミングを逃し、その日も言えずに終わる——。特定の相手との対話になると気が重くなり、つい後回しにしてしまう。人付き合いに苦手意識を持つマネジャーには、覚えがあるのではないだろうか。
部下を支えるリーダーシップが求められる今、対話から逃げられない場面はむしろ増えている。
なぜ、避けたいのに避けられず、避けるほど苦しくなるのか。対人苦手意識の生成過程を研究する東京未来大学こども心理学部の日向野智子准教授に、その仕組みを聞いた。前編では「なぜ避けてしまうのか」を解き明かす。

東京未来大学こども心理学部 准教授 昭和女子大学大学院生活機構研究科後期博士課程を修了。博士(学術)。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師などを経て、2013年に東京未来大学こども心理学部専任講師に着任。2017年より現職。専門は対人社会心理学。対人関係における苦手意識や対人ストレス、ソーシャルスキルを主なテーマに研究を続けている。