ホーム
1on1実践
1on1にAIをどこまで介入させて良いのか——プロ人事2人の激論
1on1にAIをどこまで介入させて良いのか——プロ人事2人の激論

1on1にAIをどこまで介入させて良いのか——プロ人事2人の激論

2025年12月12日、1on1総研で配信した記事がX上で大きな反響を呼びました。筆者は人事図書館館長の吉田洋介さん。AIを活用して1on1の事前準備を効率化し、対話の質と満足度を高めた企業事例を紹介する記事です。

📕「1on1の準備をAIに任せたら、負担は激減し満足度は向上した」

Xでは本記事に対し様々な意見が寄せられましたが、中でも注目を集めたのが「組織開発するマン」としてXで発信するこがねん氏の引用リポスト

「『人が人を観察する』ことは人間が頑張るべき最後の砦。(内容に)違和感しかありませんでした」——記事への異議を唱えるその投稿は、いいね446件、表示13.5万回を記録しました(2026年2月16日時点)。

これを受けて1月某日、1on1総研編集部は両者の対談を実施。こがねん氏が覚えた「違和感」の正体とは何なのか。立場を異にする二人の議論はどこに着地するのか。両者が熱い言葉を交わした90分に及ぶ対談を、前後編に分けてお届けします。

(ファシリテート:下元陽/撮影:小池大介)


目次

「お前の人生にとって何の意味があるの?」二人の1on1原体験

——本日はXでも話題になった吉田さんの連載記事についてお二人に振り返っていただきたいと思います。

吉田 一つ提案ですが、まずはお互いの1on1の原体験を共有しませんか。昨今、1on1の捉え方が多様化しているので、我々の「1on1観」を明確にした上で、記事を振り返った方が良い気がしまして。

こがねん そうですね、そうしましょう。

吉田 ありがとうございます。まず私からお伝えすると、現体験はリクルート時代です。「レボ」と呼ばれるマネジャーとの1対1の場が週1回30分ありました。マネジャーに案件の相談をすると、「その仕事はお前の人生にとって何の意味があるの?」と問いかけてくるんです(笑)。

僕は「仕事だからちゃんとやらなければ」と思っているだけなんですけど、「人生の貴重な時間を使ってるんだぞ。仕事の意味をどう考えてるの?」と畳み掛けられて、「うーん……わかんないっす」みたいな(笑)。

マネジャーは僕自身が忘れていることも覚えていて、「お前、以前こんな仕事がしたいと言ってたじゃないか。今回の案件は共通性があるし、お前にとって意味のある仕事なんじゃないの?」と踏み込んでくることもありました。

今思えば、当時のマネジャーは僕以上に僕のことを考え続けてくれている人ばかり。だからこそ1on1は、苦しくもありながら、豊かさも感じる時間でした。こがねんさんの原体験はどんな感じですか?

こがねん ヤフー時代ですね。初めて1on1を目にしたのは、ビジネスサイドで働いていた2009年頃です。当時ヤフーに吸収合併された外資系の会社の社員が同じオフィスで働くことになったのですが、24人で使える会議室を二人だけで使っていて、「あの人たち何やってんの?」「1on1って言ってたけど」「あんな大きな部屋で二人で話すの?」みたいな(笑)。ヤフーはドメスティックな文化だったので、黒船が来た感覚でした。

その後、宮坂学さんがトップになり、人事責任者の本間浩輔さんが1on1を全社導入しました。私もマネジャーに昇格してメンバーと1on1をやる立場になったんですが、初回が地獄でした。人事部が推奨する通り「何か困っていることはありますか?」から会話を始めたら、「いま、あなたに困っています」とメンバーに言われて。

吉田 強烈な洗礼ですね(笑)。

こがねん 開始1分で「俺のマネジメント人生が終わったやん」と思いましたね。それでも毎週1on1の時間はやってくるので、踏ん張り続けていたら、ふと気づいたんです。1on1はメンバーとの関係から逃げないための時間であり、苦手な人とも向き合うための機会なんだな、と。

その後人事に異動して、1on1がものすごく上手いマネジャーに出会いました。人の話をずっと聞いてくれる人で、何でも喋れるから、その時間がすごく待ち遠しくなりました。それと同時に、自分がマネジャーだったとき、メンバーにこんな1on1はできてなかったなと痛感しました。

ただ、僕と同じように「この1on1は良かった」と思える経験をした人は、おそらくそれほど多くないと思います。理由はいろいろありますが、良い1on1のやり方が継承されていないことが一因ではないでしょうか。僕のマネジャーも自分のやり方を言語化できるタイプではなかったですし。

——良い1on1のやり方が属人化し、組織に継承されていかないために、多くの現役マネジャーが手探りで1on1に臨まざるを得ない、と。

こがねん そういう側面はあると思います。あえて悲観的なことを言いますが、おそらく人類全体が対話をうまくなることはない気がします。世の中の諍いの大半は対話ができないせいですよね。私が見聞きする限り、積極的に1on1に取り組んでいる企業でも、うまくできている人は2割から3割くらいの印象です。対話に関する本はたくさん出版されていて、すごくいいことが書かれていますが、それでも対話ってうまくならないんです。

1on1が形骸化する三つのパターン

——多くのビジネスパーソンが対話の仕方に悩んでいるのだとすれば、その壁をテクノロジーで乗り越えられないかという発想が生まれても不思議ではありません。今回の吉田さんの記事もそうした文脈で読まれたようにも思いますが、そもそも吉田さんはなぜこの事例を取り上げようと思われたのでしょうか。

吉田 背景から説明しますね。私は日々、経営者や人事の方から様々な相談を受けていますが、その中には「1on1の形骸化」も含まれます。

形骸化にはいくつかのパターンがあって、一つは導入時点でつまずくケース。「1on1という良い取り組みがあるらしい」と全社導入したものの、その良さを体験的に理解している人も、価値を信じている人もほとんどいないため、うまくワークしない。こういう組織は少なくありません。

次に強い意志を持った推進者がいるのに広がらないケース。推進者が様々な浸透策を講じるものの、その効果が出る前に現場はモチベーションを失い、「役員肝入りの施策だから、ポーズだけでも頑張ろう」などと表層的にこなしてしまう状況が該当します。

三つ目は、現場が1on1の意義を理解し、良い時間にしたいと思っているのに、うまくいっていないケース。マネジャーは業務がパンパンで、1on1の予定だけはなんとか死守するも、事前準備までは手が回らない。メンバーも話したいことはあるのに考えを整理する暇がなく、お互い準備不足のまま本番を迎えてしまう。メンバー数が多い組織ほど、この問題は深刻です。

今回記事で取り上げた企業は、まさに三つ目のケースでした。マネジャー、メンバーともに1on1を良くしたいと思いながら、準備が十分にできない状況に対して、人事がAIを活用してメンバーの事前準備をサポートした。その結果、話したい内容が整理された状態で1on1に臨めるようになり、「意味ある話し合いができた」という実感を双方が得られるようになった。

つまり、意志のある組織が、その意志を実現するためにAIを活用した事例です。これは個人的にも応援したいと思い、連載で取り上げました。ただ、予想を超える反響があり……(苦笑)。

1on1の意義が不明瞭だったり、対話を大事にしたいと思っている人がほとんどいない——そういう組織がAIを活用して1on1を効率化したという話であれば、炎上しても驚けません。ただ、今回の事例は事前準備にフォーカスした内容です。ここまで賛否が生まれたのは正直予想外でした。

——こがねんさんは今回の記事にどんな違和感を覚えたのでしょうか。

こがねん あらかじめ断っておきたいのですが、私のX投稿は、議論を盛り上げるために自分の立ち位置を明確にして発信したものです。1on1に対する価値観が多様化する中、吉田さんの記事は一つの立場からの見解に感じたので、私もポジションを取って意見しようかな、と。炎上しないギリギリのラインが一番盛り上がるので、その辺を狙って(笑)。

吉田  なるほど(笑)。

こがねん で、私が覚えた違和感ですが、私は1on1を「リトマス試験紙」だと思っています。「人間関係が悪い中で1on1をやってもうまくいかないから、まずは信頼関係を築くべき」といった意見がSNSでは人気ですが、私はマネジャーとメンバーの関係が悪いことが可視化されるところに1on1の価値があると考えます。私の経験でいえば、「いま、あなたに困っています」とメンバーから言われたこと自体が価値だと思います。

ヤフーでは「私たちは"良い1on1選手権"をやっているわけじゃない」とよく言われていましたが、それはうまくやることより向き合うことの大事さを指摘するものです。

では「向き合う」とは、具体的にどういうことか。私はそれが「観察」だと思っています。自分を観察すること、相手を観察すること。「相手が黙ってしまって1on1が成立しない、どうしたらいいですか」という相談を受けることがありますが、「いま相手は黙っているな、ということをただ見ていればいいんです」と伝えています。

1on1は相手から何かを引き出すことが必須の場ではありません。相手が黙っていたらグッと堪えて「この人はいま喋りたくないんだな」と受け止める。逆に相手が元気に話していても、「うまくいった」と手放しに喜ぶのではなく、「今日はよく喋るな」と冷静に観察する。マネジャーが興味関心を持ってメンバーを見ているか、「マネジャーは関心を持って自分に向き合ってくれている」とメンバーが感じるか。それこそが1on1の肝です。

そう考えたとき、AIの補助に頼り対話をスムーズにさせることばかりに意識が傾いてしまうと、相手に向き合うことや自分に向き合うことを手放すきっかけになってしまうのではないか。今回の記事に対して、そんな危機感を覚えたんです。

「AIによる対話のサポート」は是か非か

——マネジャーがメンバーを観察し続けることが1on1の核心である。そんなご指摘ですが、その営みの先にどんなゴールを見据えているのでしょうか。

こがねん 1on1のゴールの一つは、メンバーを「経験学習ができる人」に導くことだと思います。極論すれば、自分の経験から学んで成長できる人には、人材開発なんて必要ない。人材開発とは、そういう人を作るためのサポートです。

吉田さんのリクルート時代の話にも通じますよね。「お前の人生にとってそれでいいのか?」という問いをマネジャーが投げかけてきた。ヤフー時代の私も同じようなことを言われていました。「人事は経営より先を見たほうがよい。中期経営計画の射程は3年や5年。人事は10年先を見なさい」と。長い時間軸で人や組織を捉えよということです。1on1はメンバーの才能と情熱を解き放つためにやるもの。そこに行き着くために、自分の経験から学び続けられる人になる。メンバーをそんな状態に導くことが1on1のゴールだと思います。

吉田 お話を聞いていて、すごく暖かさを感じます。マネジャーがメンバーを観察し続け、すぐに解決策が出なくても、「どうしたらいいんだろう」と悩んだり、「メンバーとの関係を変えたいな」と思いを募らせたりしながら向き合い続ける。その中で何かが醸成されていく。私のリクルート時代も、マネジャーが自分のことを見てくれている、観察してくれていると感じられたことに喜びがありました。そうしたプロセス自体に価値があるという考えは、こがねんさんの人間観そのものだなと思います。

一方で、あえて対立的なことを言うと、1on1は形骸化しかけても続けることに意味があるのではないかと思っています。1on1を組織的に続ける中で、人と向き合うことで得られる豊かさを掴み、本質的な対話を体現するようになる人が少数ながら現れるものだと思いますが、その境地に達しない方々にとっても、1on1を悪くない経験にはしていきたいと思っています。踏ん張って続ける中で偶発的に何かを掴むこともあるかもしれないので。そういう結果を導くためには、1on1を一定程度型化したり、AIによるサポートを活用したりしながら、手放さずに続けていく環境を整えることが必要なのではないかと思うんです。

今回のこがねんさんのX投稿について私なりにその趣旨を解釈すると、1on1の一部をAIに任せるとき「1on1の担い手が何をAIに任せたと認識しているか、その自覚が非常に重要である」という指摘なのではないかと理解しています。

こがねん 確かにそうですね。

吉田 その自覚がないと、AIの便利さに引っ張られて、本来人間がやるべきことまで手放してしまうリスクがありますが、自覚を持った上で、人間同士が向き合うことに前向きになるためのサポートとしてAIを活用するなら、より良い時間を生むためのトライとして取り組んでみても良いのでは、というのが私の考えです。

こがねん 吉田さんがおっしゃっていることはすごくわかります。1on1はやり続けないとわからないことがある。せっかく取り入れた1on1を良いものにしたいという機運は高まっていますし、続けながら「定期的に向き合うことが良い時間になると、こんなことが起こるんだ」という気づきが得られるところまで連れていくことが重要ですよね。

そういう着地を目指して、メンバーは1on1の前にAIを使って自己理解や内省を深めておく。マネジャーもメンバーと向き合うための準備としてAIを活用する。それをもとに生の体験としての1on1が継続的かつ質が高く行われていくとしたら、意味のある取り組みだと思います。

その上で、私がこの記事へのコメントで「観察は人間がやるべき重要な営み」と書いたのは、言葉にならない感覚も大事だと思うからなんです。「自分の中ではまだ言葉にならない」とか「これはまだ言いたくない」という感情をメンバーが抱えていることもあります。AIは言語化された情報しか扱えませんが、理想を言えば、そういう言葉以前の機微にもマネジャーが気づけると良いと思うのです。

人間がAIに代替されると言われる時代に、人間がやるべきことは何か。私は、そうした言葉にならないものを感じ取ること、つまり「観察」こそが人間の領域だと思っています。ビジネス上の判断にはどんどんAIが入り込む中で、人への関心を持ち続けることの大切さがこれからますます際立っていく。そんな風に思っています。(後編に続く)

🔹後編はこちら


おすすめ情報一覧
 🔹1on1総研のXアカウントは
こちら 
 🔹1on1総研のメルマガ登録は
こちら
 🔹1on1を進化させる最新資料は
こちら

「お前の人生にとって何の意味があるの?」二人の1on1原体験

——本日はXでも話題になった吉田さんの連載記事についてお二人に振り返っていただきたいと思います。

吉田 一つ提案ですが、まずはお互いの1on1の原体験を共有しませんか。昨今、1on1の捉え方が多様化しているので、我々の「1on1観」を明確にした上で、記事を振り返った方が良い気がしまして。

こがねん そうですね、そうしましょう。

吉田 ありがとうございます。まず私からお伝えすると、現体験はリクルート時代です。「レボ」と呼ばれるマネジャーとの1対1の場が週1回30分ありました。マネジャーに案件の相談をすると、「その仕事はお前の人生にとって何の意味があるの?」と問いかけてくるんです(笑)。

僕は「仕事だからちゃんとやらなければ」と思っているだけなんですけど、「人生の貴重な時間を使ってるんだぞ。仕事の意味をどう考えてるの?」と畳み掛けられて、「うーん……わかんないっす」みたいな(笑)。

マネジャーは僕自身が忘れていることも覚えていて、「お前、以前こんな仕事がしたいと言ってたじゃないか。今回の案件は共通性があるし、お前にとって意味のある仕事なんじゃないの?」と踏み込んでくることもありました。

今思えば、当時のマネジャーは僕以上に僕のことを考え続けてくれている人ばかり。だからこそ1on1は、苦しくもありながら、豊かさも感じる時間でした。こがねんさんの原体験はどんな感じですか?

こがねん ヤフー時代ですね。初めて1on1を目にしたのは、ビジネスサイドで働いていた2009年頃です。当時ヤフーに吸収合併された外資系の会社の社員が同じオフィスで働くことになったのですが、24人で使える会議室を二人だけで使っていて、「あの人たち何やってんの?」「1on1って言ってたけど」「あんな大きな部屋で二人で話すの?」みたいな(笑)。ヤフーはドメスティックな文化だったので、黒船が来た感覚でした。

その後、宮坂学さんがトップになり、人事責任者の本間浩輔さんが1on1を全社導入しました。私もマネジャーに昇格してメンバーと1on1をやる立場になったんですが、初回が地獄でした。人事部が推奨する通り「何か困っていることはありますか?」から会話を始めたら、「いま、あなたに困っています」とメンバーに言われて。

吉田 強烈な洗礼ですね(笑)。

こがねん 開始1分で「俺のマネジメント人生が終わったやん」と思いましたね。それでも毎週1on1の時間はやってくるので、踏ん張り続けていたら、ふと気づいたんです。1on1はメンバーとの関係から逃げないための時間であり、苦手な人とも向き合うための機会なんだな、と。

その後人事に異動して、1on1がものすごく上手いマネジャーに出会いました。人の話をずっと聞いてくれる人で、何でも喋れるから、その時間がすごく待ち遠しくなりました。それと同時に、自分がマネジャーだったとき、メンバーにこんな1on1はできてなかったなと痛感しました。

ただ、僕と同じように「この1on1は良かった」と思える経験をした人は、おそらくそれほど多くないと思います。理由はいろいろありますが、良い1on1のやり方が継承されていないことが一因ではないでしょうか。僕のマネジャーも自分のやり方を言語化できるタイプではなかったですし。

——良い1on1のやり方が属人化し、組織に継承されていかないために、多くの現役マネジャーが手探りで1on1に臨まざるを得ない、と。

こがねん そういう側面はあると思います。あえて悲観的なことを言いますが、おそらく人類全体が対話をうまくなることはない気がします。世の中の諍いの大半は対話ができないせいですよね。私が見聞きする限り、積極的に1on1に取り組んでいる企業でも、うまくできている人は2割から3割くらいの印象です。対話に関する本はたくさん出版されていて、すごくいいことが書かれていますが、それでも対話ってうまくならないんです。

1on1が形骸化する三つのパターン

——多くのビジネスパーソンが対話の仕方に悩んでいるのだとすれば、その壁をテクノロジーで乗り越えられないかという発想が生まれても不思議ではありません。今回の吉田さんの記事もそうした文脈で読まれたようにも思いますが、そもそも吉田さんはなぜこの事例を取り上げようと思われたのでしょうか。

吉田 背景から説明しますね。私は日々、経営者や人事の方から様々な相談を受けていますが、その中には「1on1の形骸化」も含まれます。

形骸化にはいくつかのパターンがあって、一つは導入時点でつまずくケース。「1on1という良い取り組みがあるらしい」と全社導入したものの、その良さを体験的に理解している人も、価値を信じている人もほとんどいないため、うまくワークしない。こういう組織は少なくありません。

次に強い意志を持った推進者がいるのに広がらないケース。推進者が様々な浸透策を講じるものの、その効果が出る前に現場はモチベーションを失い、「役員肝入りの施策だから、ポーズだけでも頑張ろう」などと表層的にこなしてしまう状況が該当します。

三つ目は、現場が1on1の意義を理解し、良い時間にしたいと思っているのに、うまくいっていないケース。マネジャーは業務がパンパンで、1on1の予定だけはなんとか死守するも、事前準備までは手が回らない。メンバーも話したいことはあるのに考えを整理する暇がなく、お互い準備不足のまま本番を迎えてしまう。メンバー数が多い組織ほど、この問題は深刻です。

今回記事で取り上げた企業は、まさに三つ目のケースでした。マネジャー、メンバーともに1on1を良くしたいと思いながら、準備が十分にできない状況に対して、人事がAIを活用してメンバーの事前準備をサポートした。その結果、話したい内容が整理された状態で1on1に臨めるようになり、「意味ある話し合いができた」という実感を双方が得られるようになった。

つまり、意志のある組織が、その意志を実現するためにAIを活用した事例です。これは個人的にも応援したいと思い、連載で取り上げました。ただ、予想を超える反響があり……(苦笑)。

1on1の意義が不明瞭だったり、対話を大事にしたいと思っている人がほとんどいない——そういう組織がAIを活用して1on1を効率化したという話であれば、炎上しても驚けません。ただ、今回の事例は事前準備にフォーカスした内容です。ここまで賛否が生まれたのは正直予想外でした。

——こがねんさんは今回の記事にどんな違和感を覚えたのでしょうか。

こがねん あらかじめ断っておきたいのですが、私のX投稿は、議論を盛り上げるために自分の立ち位置を明確にして発信したものです。1on1に対する価値観が多様化する中、吉田さんの記事は一つの立場からの見解に感じたので、私もポジションを取って意見しようかな、と。炎上しないギリギリのラインが一番盛り上がるので、その辺を狙って(笑)。

吉田  なるほど(笑)。

こがねん で、私が覚えた違和感ですが、私は1on1を「リトマス試験紙」だと思っています。「人間関係が悪い中で1on1をやってもうまくいかないから、まずは信頼関係を築くべき」といった意見がSNSでは人気ですが、私はマネジャーとメンバーの関係が悪いことが可視化されるところに1on1の価値があると考えます。私の経験でいえば、「いま、あなたに困っています」とメンバーから言われたこと自体が価値だと思います。

ヤフーでは「私たちは"良い1on1選手権"をやっているわけじゃない」とよく言われていましたが、それはうまくやることより向き合うことの大事さを指摘するものです。

では「向き合う」とは、具体的にどういうことか。私はそれが「観察」だと思っています。自分を観察すること、相手を観察すること。「相手が黙ってしまって1on1が成立しない、どうしたらいいですか」という相談を受けることがありますが、「いま相手は黙っているな、ということをただ見ていればいいんです」と伝えています。

1on1は相手から何かを引き出すことが必須の場ではありません。相手が黙っていたらグッと堪えて「この人はいま喋りたくないんだな」と受け止める。逆に相手が元気に話していても、「うまくいった」と手放しに喜ぶのではなく、「今日はよく喋るな」と冷静に観察する。マネジャーが興味関心を持ってメンバーを見ているか、「マネジャーは関心を持って自分に向き合ってくれている」とメンバーが感じるか。それこそが1on1の肝です。

そう考えたとき、AIの補助に頼り対話をスムーズにさせることばかりに意識が傾いてしまうと、相手に向き合うことや自分に向き合うことを手放すきっかけになってしまうのではないか。今回の記事に対して、そんな危機感を覚えたんです。

「AIによる対話のサポート」は是か非か

——マネジャーがメンバーを観察し続けることが1on1の核心である。そんなご指摘ですが、その営みの先にどんなゴールを見据えているのでしょうか。

こがねん 1on1のゴールの一つは、メンバーを「経験学習ができる人」に導くことだと思います。極論すれば、自分の経験から学んで成長できる人には、人材開発なんて必要ない。人材開発とは、そういう人を作るためのサポートです。

吉田さんのリクルート時代の話にも通じますよね。「お前の人生にとってそれでいいのか?」という問いをマネジャーが投げかけてきた。ヤフー時代の私も同じようなことを言われていました。「人事は経営より先を見たほうがよい。中期経営計画の射程は3年や5年。人事は10年先を見なさい」と。長い時間軸で人や組織を捉えよということです。1on1はメンバーの才能と情熱を解き放つためにやるもの。そこに行き着くために、自分の経験から学び続けられる人になる。メンバーをそんな状態に導くことが1on1のゴールだと思います。

吉田 お話を聞いていて、すごく暖かさを感じます。マネジャーがメンバーを観察し続け、すぐに解決策が出なくても、「どうしたらいいんだろう」と悩んだり、「メンバーとの関係を変えたいな」と思いを募らせたりしながら向き合い続ける。その中で何かが醸成されていく。私のリクルート時代も、マネジャーが自分のことを見てくれている、観察してくれていると感じられたことに喜びがありました。そうしたプロセス自体に価値があるという考えは、こがねんさんの人間観そのものだなと思います。

一方で、あえて対立的なことを言うと、1on1は形骸化しかけても続けることに意味があるのではないかと思っています。1on1を組織的に続ける中で、人と向き合うことで得られる豊かさを掴み、本質的な対話を体現するようになる人が少数ながら現れるものだと思いますが、その境地に達しない方々にとっても、1on1を悪くない経験にはしていきたいと思っています。踏ん張って続ける中で偶発的に何かを掴むこともあるかもしれないので。そういう結果を導くためには、1on1を一定程度型化したり、AIによるサポートを活用したりしながら、手放さずに続けていく環境を整えることが必要なのではないかと思うんです。

今回のこがねんさんのX投稿について私なりにその趣旨を解釈すると、1on1の一部をAIに任せるとき「1on1の担い手が何をAIに任せたと認識しているか、その自覚が非常に重要である」という指摘なのではないかと理解しています。

こがねん 確かにそうですね。

吉田 その自覚がないと、AIの便利さに引っ張られて、本来人間がやるべきことまで手放してしまうリスクがありますが、自覚を持った上で、人間同士が向き合うことに前向きになるためのサポートとしてAIを活用するなら、より良い時間を生むためのトライとして取り組んでみても良いのでは、というのが私の考えです。

こがねん 吉田さんがおっしゃっていることはすごくわかります。1on1はやり続けないとわからないことがある。せっかく取り入れた1on1を良いものにしたいという機運は高まっていますし、続けながら「定期的に向き合うことが良い時間になると、こんなことが起こるんだ」という気づきが得られるところまで連れていくことが重要ですよね。

そういう着地を目指して、メンバーは1on1の前にAIを使って自己理解や内省を深めておく。マネジャーもメンバーと向き合うための準備としてAIを活用する。それをもとに生の体験としての1on1が継続的かつ質が高く行われていくとしたら、意味のある取り組みだと思います。

その上で、私がこの記事へのコメントで「観察は人間がやるべき重要な営み」と書いたのは、言葉にならない感覚も大事だと思うからなんです。「自分の中ではまだ言葉にならない」とか「これはまだ言いたくない」という感情をメンバーが抱えていることもあります。AIは言語化された情報しか扱えませんが、理想を言えば、そういう言葉以前の機微にもマネジャーが気づけると良いと思うのです。

人間がAIに代替されると言われる時代に、人間がやるべきことは何か。私は、そうした言葉にならないものを感じ取ること、つまり「観察」こそが人間の領域だと思っています。ビジネス上の判断にはどんどんAIが入り込む中で、人への関心を持ち続けることの大切さがこれからますます際立っていく。そんな風に思っています。(後編に続く)

🔹後編はこちら


おすすめ情報一覧
 🔹1on1総研のXアカウントは
こちら 
 🔹1on1総研のメルマガ登録は
こちら
 🔹1on1を進化させる最新資料は
こちら

Kakeai資料3点セットダウンロード バナーKakeai資料3点セットダウンロード バナー
執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

記事一覧
LINE アイコンX アイコンfacebool アイコン

関連記事