業界別1on1
自律性を育む1on1 。富士通が選んだ「職場起点」の組織変革
富士通の人事部門は、国内約8万人の従業員に対して1on1を強制しない。月1回30分の対話を推奨し、双方向のコミュニケーションを通じて自律性を育む支援をするが、積極的な介入はしない。「やらされ感でやっても意味がない」――この言葉に、ジョブ型転換を進める同社の人事哲学が凝縮されている。
1on1導入から4年。従業員一人当たりの年間実施回数は平均12.8回まで増加した。一方で、組織文化の変革が一朝一夕には進まない現実も見えてきている。
富士通の組織開発を担う野村哲也氏、同部門でコミュニケーション変革をリードする成田富男氏、秋田依里香氏に、「職場起点」で進める1on1の理想と現実を聞いた。

パワポよりも1on1と自己開示、カインズ、ブレインパッドに学ぶ組織変革
「考え方や方向性は正しい。しかし、思うように実行が進まない」......企業活動において、こうした歯がゆい経験をするケースは少なくありません。
その最たる例が、組織改革でしょう。
どんなに立派な改革案を掲げていても、内部抵抗に遭う、それも表面上従うふりして内面では反発している「面従腹背」によって、のれんに腕押しのように改革が遅々として進まないということはよく聞く話です。
今回、組織変革の要諦について、ライフネット生命保険、カインズ、ブレインパッドなどの数々の企業でCHRO(最高人事責任者)として組織変革を担ってきた西田政之さんにインタビュー。西田さんは2025年6月11日付でYKK APの専務執行役員兼CHROに就任予定です。
西田さんが組織変革で最初にやることは、1on1を含めた「対話」と「自己開示」。「会社経営においては、『人』という論理や合理性だけではとらえきれない存在が中核にあることを忘れてはならない」という持論がその根底にあるとのことです。
人的資本経営という錦の御旗の下、エンゲージメントの数値向上、ジョブ型などの制度改革も大事だが、まずは「人の心」に焦点を当てる。そんな「組織変革請負人」西田さんの哲学を紐解きます。


4年間の1on1がエンジニア組織を変えた ── 実施率100%の秘密に迫る
エンジニア組織に1on1は必要か? この問いに一つの解を示す企業がある。
世界有数の自動車部品サプライヤー、アイシングループの「アイシン・デジタルエンジニアリング」(ADE)。社員の8割がエンジニアという技術者集団が1on1を始めたのは2021年だった。
コロナ禍でのテレワーク移行により会話の機会を奪われた技術者たちは、仕事に対する不安を抱えながら、それを伝える場所を持たずにいた。また、メンバーの個性を活かした人材育成を進めるためにも、組織は対話の場を必要としていた。
顕在化した組織課題に向き合うべく同社は1on1を始め、2024年からは1on1支援ツール「Kakeai(カケアイ)」を導入。今では「実施率100%」を達成するなど組織に対話が定着している。
今年で5年目となる同社の1on1はなぜ形骸化しないのか。2人のキーパーソンの話から技術者集団を動かす対話の本質を探る。


なぜ1on1で悩み相談ができるようになったのか? エンジニアの心境を変えた上司の対応
「部下は私との1on1に価値を感じているだろうか」——多くのマネジャーはこんな疑問を抱えているだろう。そしてその答えはメンバーの声に隠されている。
自動車部品サプライヤー「アイシン」のグループ会社「アイシン・デジタルエンジニアリング」。エンジニアとして働く同社メンバーの森宏樹氏は、かつて1on1に懐疑的だったが、今では「部下のためのアルコールなしの飲み会」と表現するほどその価値を実感している。
ある上司の姿勢が森氏の心境を大きく変えた。業務報告で終わっていた30分が、なぜ本音を話せる場へと変わっていったのか。その過程からは多くのマネジャーが心得るべき重要な洞察が見えてくる。

医療安全の確保と組織変革を求めて──。大学病院「1on1」導入のリアル
医療現場では、1件の重大事故の背景に29件の軽微な事故、さらにその奥に300件のヒヤリ・ハットが潜んでいるというハインリッヒの法則が知られている。それらの事象の背景には、日常的なコミュニケーション不足という組織課題が横たわっているのかもしれない。
検査データの提供で診断を支える神戸大学医学部附属病院・検査部と、画像診断装置を駆使して医療を支える北海道大学病院・放射線部。この二つの専門部門が、1on1ミーティングを活用しながら、医療安全とワークエンゲージメントの向上に挑んでいる。
2025年2月、株式会社KAKEAI(カケアイ)は神大病院検査部の今西孝充臨床検査技師長と北大病院放射線部の孫田惠一診療放射線技師長の意見交換会を実施。
両部門トップの話からは、医療現場が直面する生々しい課題と、対話の浸透による組織変革の可能性が見えてきた。
