ホーム
組織を動かす
「調整力」の逆襲——生成AI時代に価値を増す、マネジャーの意外な能力
「調整力」の逆襲——生成AI時代に価値を増す、マネジャーの意外な能力

「調整力」の逆襲——生成AI時代に価値を増す、マネジャーの意外な能力

生成AIの台頭により、その存在意義が問われている管理職。部下がAIに相談し、AIの回答を根拠に上司に異議を唱える――そんな光景が珍しくなくなりつつあります。人と向き合うことを簡単に避けられる時代、上司にしかできないこととは何なのか。

PwCコンサルティングの加藤守和氏、キャリアコーチのずんずん氏、KAKEAI代表取締役社長・皆川恵美による鼎談の後編をお届けします。

目次

生成AI時代に上司にしかできないこと

加藤 近年、生成AIが急速に普及し、若い方からは「生成AIと話している方が気楽だ」という声も聞かれます。そうした時代において、マネジャーに求められることとは何なのか。今回はこのテーマで議論していきたいと思います。

皆川 生成AIに仕事の相談をするのはすっかり一般化しましたよね。その回答をどう生かすかは人それぞれでしょうが、最近露骨なケースも耳にします。たとえば、Teamsでの上司の発言に不満を持った部下が、そのやり取りをAIに読み込ませ、「この上司の対応、おかしいと思うんだけど分析してほしい」と相談し、AIが出力した回答を上司に突きつける、とか。

ずんずん それはなかなかですね……(苦笑)

sankai/iStock

皆川 そういう話を聞くにつけ、相手から逃げるようなコミュニケーションは個々の関係性においても組織風土としても避けなければならないと思います。誰もが摩擦を避けようとする時代だからこそ、厳しさも含めて人と人とがしっかり向き合い、それによって得られる良質な体験を届けていく——これが上司の究極的な役割になっていくのではないでしょうか。

加藤 特に若い世代にそのような機会を提供することが求められそうですね。

皆川 そう思います。就職氷河期(1993~2005年)以降の世代は、組織内でコンフリクトを経験したり、合意形成に苦労したりする機会が少なかったはずです。

生身の人間同士がコミュニケーションを通じて合意していくプロセス、その達成による高揚感、人とつながる実感——こうしたものを得られる場を上司が意図的につくり、フィードバックを重ねながら、部下自身が気づいていなかった自身の一面を気づかせる。「ジョハリの窓」でいえば「盲点の窓」を知る機会を与える。こうした関わり方こそ、AI時代の上司像ではないかと考えます。

加藤 鋭い視点ですね。ずんずんさんはどうお考えですか。

ずんずん 生成AIが得意とするのは過去の蓄積の発信ですよね。一方、人間の価値は、未知の世界を見せられることにあると考えます。そしてそれを実現するためには、怒りや悲しみといったネガティブな感情も必要ではないでしょうか。

上司が発破をかけることで「なにくそ、頑張ってやる」と奮起したり、上司が一緒に悲しんでくれることで「このままではダメなんだな」と思い直したり。

私も会社員時代に経験があります。毎年同じ時期に海外の銀行から“バランスしてない”バランスシートが届いて、頭を抱えながら深夜まで残業していたのですが、毎回上司が一緒に残ってくれていたんです。「本当にすみません」と謝ったら、「いや、これがマネジメントだよ」と言ってくれた。その言葉が沁みました。

ピンチのときに部下をほっとかない。最後まで一緒にいて、「自分はひとりじゃない」という感覚を与えてくれる。それは人間にしかできないことだと思います。

加藤 確かに「共感」は互いの心が震えることで起きますが、生成AIとの会話ではそうはならないですよね。ここは大事なポイントだと思います。

エンゲージメントやモチベーションが高い組織には仕事や組織の状態に「起伏」があり、それが働く人の心を震わせます。上司が一緒に喜んでくれた。すごく叱られたけど為になった。そういう山と谷が、仕事の面白みを実感させてくれる。いわば仕事に宿る「ライブ感」。AIにはそのような起伏は作れませんから、それを生み出すことも上司の新たな役割になるかもしれないなと思いました。

皆川 私も似たようなことを考えていまして。仕事はこれからどんどんエンタメ化し、究極的には嗜好品のような営みになっていくと思っています。

AIを活用して成果物を生み出し、クライアントに納品すれば、生活に必要なお金は得られるでしょう。そんな環境になればなるほど、ただ稼ぐよりも楽しいこと、ダイナミズムがあること、山と谷の見える景色があること——そういうものが仕事に求められるようになっていく気がします。

「調整力」が重宝される時代へ

加藤 この数年で生成AIが得意な分野がはっきりしてきました。一般的な仕事は大きく分けると、「トランザクション業務」(処理業務)、人との関係性を築く「リレーショナル業務」、専門性を発揮する「エキスパート業務」の三つになりますが、この中で生成AIが得意なのはトランザクション業務です。その観点で考えると、部下とのリレーション構築は、これまで以上に上司が力を入れるべき領域といえそうです。

ずんずん 私のコーチングのお客様で30代後半から40代の方に多いお悩みに、「専門性がなくて、得意なのが調整業務ばかり」というものがあります。

でも、今のお話を聞いていると、そういう方にとってはこれからすごくいい時代になっていくかもしれませんね。今まで専門性の時代と言われてきましたが、生成AIの登場によって、キーパーソンや影響力と接点を持てる人材が重宝されるようになっていくかもしれない。

皆川 実際、多くの組織で良質な合意形成が求められるシーンが増えているように思います。組織には様々な立場の人がいて、個社で大切にしている段取りがある。

上司がそういう動きを部下に見せたり、巻き込んだりしながら、リレーショナルな動きを身につけてもらう。それはミドル世代の上司たちの経験値が生かしやすい領域だと思います。 

こうした丁寧な調整について、当社のお客様であるIT系の事業部長の方が「マネジメントは表面張力だ」と表現されていました。

加藤 表面張力、ですか。

皆川 コップに水があって、あと何滴落としたら溢れるか。それを見極めながら、ギリギリまで水を落とすことを頑張りなさい、と。

たとえば周囲と連携する際、「ここは私の仕事、ここからは彼の仕事」と切り分けて終わりにしない。大事な連絡を「私は、伝えました」で済ませずリマインドする。

成果を出すために様々な人と合意形成をするには、「今の一滴で足りているか」を常に考えなさい、ということです。そういった姿勢や行動が仕事のスペシャリティとして組織の中で評価されるようになっていくといいですよね。

「罰ゲーム」に陥らないためには必要なこと

加藤 ここまで多角的に議論を重ねてきました。メンバーと期待値をすり合わせ、言うべきことは言う。対話を通じて仕事の意味を伝える。仕事の中で人としっかり向き合う機会をデザインして、メンバーに体験させる——。上司には様々な役割と期待がありますが、その仕事が「罰ゲーム化」しないためにはどうすればいいのか。今回の鼎談の主題であるこの問いについて、最後に改めてご意見をいただけますか。

皆川 一言でいえば「仕事を楽しむ」に尽きると思います。外からは罰ゲーム状態に見えても、仕事にコミットしているマネジャーは自社や自分の役割が好きなんですよね。

ただ、その楽しさややりがい、向き合っている事業の意義を言葉にしていないケースが少なくありません。「伝道師」とまでいかずとも、自分がコミットしている仕事の価値を語り、自信を持って取り組んでいる姿勢を見せていく。

その行動が周囲のみならず自分自身も鼓舞し、罰ゲーム状態に陥ることを防いでくれるのではないかと思います。

ずんずん 私はマネジャーがもっと自分の影響力を楽しむことが大事だと思っています。

自分が動くことでいろんな人が動いて、一つの仕事ができあがっていく。いわば文化祭をやっているようなイメージです。仲間と一つの目標に向かう楽しさは何物にも代えがたいですよね。

そういう場を創り出し、部下にも深く関わる機会を与えて、体験させ、喜びを共有する。そうした営みを通じて充実感を得ていくことが、罰ゲーム化しないために大事なのではないでしょうか。

加藤 「楽しむ」「文化祭」といったキーワードが出ましたが、一緒に仕事をするというのは、誰かが犠牲になることではなく、大きな壁を共に楽しみながら乗り越えていくことですよね。いま苦しんでいるマネジャーの方々に、この議論が少しでも届けば幸いです。


📘あわせて読みたい

 🔹前編『【徹底議論】メンバーの「パフォーマンスマネジメント」と「感情ケア」は両立可能なのか』

 🔹中編『「罰ゲーム」に陥らない人たちは何が違うのか。ミドルマネジャーたちの「生命線」』

生成AI時代に上司にしかできないこと

加藤 近年、生成AIが急速に普及し、若い方からは「生成AIと話している方が気楽だ」という声も聞かれます。そうした時代において、マネジャーに求められることとは何なのか。今回はこのテーマで議論していきたいと思います。

皆川 生成AIに仕事の相談をするのはすっかり一般化しましたよね。その回答をどう生かすかは人それぞれでしょうが、最近露骨なケースも耳にします。たとえば、Teamsでの上司の発言に不満を持った部下が、そのやり取りをAIに読み込ませ、「この上司の対応、おかしいと思うんだけど分析してほしい」と相談し、AIが出力した回答を上司に突きつける、とか。

ずんずん それはなかなかですね……(苦笑)

sankai/iStock

皆川 そういう話を聞くにつけ、相手から逃げるようなコミュニケーションは個々の関係性においても組織風土としても避けなければならないと思います。誰もが摩擦を避けようとする時代だからこそ、厳しさも含めて人と人とがしっかり向き合い、それによって得られる良質な体験を届けていく——これが上司の究極的な役割になっていくのではないでしょうか。

加藤 特に若い世代にそのような機会を提供することが求められそうですね。

皆川 そう思います。就職氷河期(1993~2005年)以降の世代は、組織内でコンフリクトを経験したり、合意形成に苦労したりする機会が少なかったはずです。

生身の人間同士がコミュニケーションを通じて合意していくプロセス、その達成による高揚感、人とつながる実感——こうしたものを得られる場を上司が意図的につくり、フィードバックを重ねながら、部下自身が気づいていなかった自身の一面を気づかせる。「ジョハリの窓」でいえば「盲点の窓」を知る機会を与える。こうした関わり方こそ、AI時代の上司像ではないかと考えます。

加藤 鋭い視点ですね。ずんずんさんはどうお考えですか。

ずんずん 生成AIが得意とするのは過去の蓄積の発信ですよね。一方、人間の価値は、未知の世界を見せられることにあると考えます。そしてそれを実現するためには、怒りや悲しみといったネガティブな感情も必要ではないでしょうか。

上司が発破をかけることで「なにくそ、頑張ってやる」と奮起したり、上司が一緒に悲しんでくれることで「このままではダメなんだな」と思い直したり。

私も会社員時代に経験があります。毎年同じ時期に海外の銀行から“バランスしてない”バランスシートが届いて、頭を抱えながら深夜まで残業していたのですが、毎回上司が一緒に残ってくれていたんです。「本当にすみません」と謝ったら、「いや、これがマネジメントだよ」と言ってくれた。その言葉が沁みました。

ピンチのときに部下をほっとかない。最後まで一緒にいて、「自分はひとりじゃない」という感覚を与えてくれる。それは人間にしかできないことだと思います。

加藤 確かに「共感」は互いの心が震えることで起きますが、生成AIとの会話ではそうはならないですよね。ここは大事なポイントだと思います。

エンゲージメントやモチベーションが高い組織には仕事や組織の状態に「起伏」があり、それが働く人の心を震わせます。上司が一緒に喜んでくれた。すごく叱られたけど為になった。そういう山と谷が、仕事の面白みを実感させてくれる。いわば仕事に宿る「ライブ感」。AIにはそのような起伏は作れませんから、それを生み出すことも上司の新たな役割になるかもしれないなと思いました。

皆川 私も似たようなことを考えていまして。仕事はこれからどんどんエンタメ化し、究極的には嗜好品のような営みになっていくと思っています。

AIを活用して成果物を生み出し、クライアントに納品すれば、生活に必要なお金は得られるでしょう。そんな環境になればなるほど、ただ稼ぐよりも楽しいこと、ダイナミズムがあること、山と谷の見える景色があること——そういうものが仕事に求められるようになっていく気がします。

「調整力」が重宝される時代へ

加藤 この数年で生成AIが得意な分野がはっきりしてきました。一般的な仕事は大きく分けると、「トランザクション業務」(処理業務)、人との関係性を築く「リレーショナル業務」、専門性を発揮する「エキスパート業務」の三つになりますが、この中で生成AIが得意なのはトランザクション業務です。その観点で考えると、部下とのリレーション構築は、これまで以上に上司が力を入れるべき領域といえそうです。

ずんずん 私のコーチングのお客様で30代後半から40代の方に多いお悩みに、「専門性がなくて、得意なのが調整業務ばかり」というものがあります。

でも、今のお話を聞いていると、そういう方にとってはこれからすごくいい時代になっていくかもしれませんね。今まで専門性の時代と言われてきましたが、生成AIの登場によって、キーパーソンや影響力と接点を持てる人材が重宝されるようになっていくかもしれない。

皆川 実際、多くの組織で良質な合意形成が求められるシーンが増えているように思います。組織には様々な立場の人がいて、個社で大切にしている段取りがある。

上司がそういう動きを部下に見せたり、巻き込んだりしながら、リレーショナルな動きを身につけてもらう。それはミドル世代の上司たちの経験値が生かしやすい領域だと思います。 

こうした丁寧な調整について、当社のお客様であるIT系の事業部長の方が「マネジメントは表面張力だ」と表現されていました。

加藤 表面張力、ですか。

皆川 コップに水があって、あと何滴落としたら溢れるか。それを見極めながら、ギリギリまで水を落とすことを頑張りなさい、と。

たとえば周囲と連携する際、「ここは私の仕事、ここからは彼の仕事」と切り分けて終わりにしない。大事な連絡を「私は、伝えました」で済ませずリマインドする。

成果を出すために様々な人と合意形成をするには、「今の一滴で足りているか」を常に考えなさい、ということです。そういった姿勢や行動が仕事のスペシャリティとして組織の中で評価されるようになっていくといいですよね。

「罰ゲーム」に陥らないためには必要なこと

加藤 ここまで多角的に議論を重ねてきました。メンバーと期待値をすり合わせ、言うべきことは言う。対話を通じて仕事の意味を伝える。仕事の中で人としっかり向き合う機会をデザインして、メンバーに体験させる——。上司には様々な役割と期待がありますが、その仕事が「罰ゲーム化」しないためにはどうすればいいのか。今回の鼎談の主題であるこの問いについて、最後に改めてご意見をいただけますか。

皆川 一言でいえば「仕事を楽しむ」に尽きると思います。外からは罰ゲーム状態に見えても、仕事にコミットしているマネジャーは自社や自分の役割が好きなんですよね。

ただ、その楽しさややりがい、向き合っている事業の意義を言葉にしていないケースが少なくありません。「伝道師」とまでいかずとも、自分がコミットしている仕事の価値を語り、自信を持って取り組んでいる姿勢を見せていく。

その行動が周囲のみならず自分自身も鼓舞し、罰ゲーム状態に陥ることを防いでくれるのではないかと思います。

ずんずん 私はマネジャーがもっと自分の影響力を楽しむことが大事だと思っています。

自分が動くことでいろんな人が動いて、一つの仕事ができあがっていく。いわば文化祭をやっているようなイメージです。仲間と一つの目標に向かう楽しさは何物にも代えがたいですよね。

そういう場を創り出し、部下にも深く関わる機会を与えて、体験させ、喜びを共有する。そうした営みを通じて充実感を得ていくことが、罰ゲーム化しないために大事なのではないでしょうか。

加藤 「楽しむ」「文化祭」といったキーワードが出ましたが、一緒に仕事をするというのは、誰かが犠牲になることではなく、大きな壁を共に楽しみながら乗り越えていくことですよね。いま苦しんでいるマネジャーの方々に、この議論が少しでも届けば幸いです。


📘あわせて読みたい

 🔹前編『【徹底議論】メンバーの「パフォーマンスマネジメント」と「感情ケア」は両立可能なのか』

 🔹中編『「罰ゲーム」に陥らない人たちは何が違うのか。ミドルマネジャーたちの「生命線」』

Kakeai資料3点セットダウンロード バナーKakeai資料3点セットダウンロード バナー
執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

記事一覧
LINE アイコンX アイコンfacebool アイコン

関連記事