
なぜ相手は本音を語らないのか。メンバーの「個人主語」を引き出す簡単な方法
MIMIGURI共同代表の安斎勇樹氏はある日、社内のSlackにこう投稿した。
「組織の話をするの、飽きちゃった」
新著『冒険する組織のつくりかた』の発行部数が4万部を超え、組織開発の講演が立て続く中、あえて「心の声」を開示した。代表自ら「職場の規範」を逸脱することで、社員が本音を語りやすくすることが狙いだ。
メンバーから「個人主語」の語りをいかに引き出すか。これは現代のマネジャーの重要な仕事の一つだろう。安斎氏が実践する方法はシンプルかつ現実的なものだった——。

メンバーの内発的動機を発見する「絶好のタイミング」
——現代のミドルマネジャーは、多様なメンバーと向き合い、主体性や納得感を引き出すことが求められています。どのように取り組むと良いでしょうか。
安斎 メンバーの目標設定を例に考えてみましょう。多くの組織では上から目標が降ってきます。上位下達でそれに従わせるのではなく、個々のメンバーにどう納得してもらうかが肝になる。その鍵は、メンバーの内発的動機のツボを特定することです。
外発的動機は個人差が大きくありません。100万円もらえれば誰でも喜びます。しかし内発的動機は驚くほど違います。裁量の大きさに価値を感じる人もいれば、誰かに喜んでもらえることでテンションが上がる人もいる。マネジャーはメンバーごとに内発的動機のツボを把握しておかないと、真の合意形成は難しくなります。
——内発的動機のツボは、どう見つけるのが良いでしょうか。
安斎 重要なポイントは期末の振り返りです。パフォーマンスの反省会にせず、今年1年の仕事で何が面白かったのか、後悔したことはあるか、なぜそう感じたのか——そうした話を「個人主語」で語ってもらいましょう。その過程でメンバーが面白がっていることや好奇心を持つ対象、モヤモヤしていることなどを特定していくのです。

内発的動機が把握できたら、上から降ってきた目標と結びつけ、「この目標に取り組むことで、あなたが面白がっていたことをもっと深められる」といった形で伝えるのが良いでしょう。
とはいえ、ストーリーを語るのが得意ではないマネジャーもいます。その場合は、目標をいきなり渡すのではなく、「この目標にどう取り組んでいきたいか」「どういう機会にしたいか」などとメンバーにヒアリングしながら、一緒に取り組み方を考えていく。内発的動機を把握していれば、対話を重ねる中で「それなら、こういうアプローチはどう?」と提案でき、目標への納得感を高められます。
——そのような対話を行うためには、メンバーの本心を引き出すことが鍵になりそうです。ヒアリングに際して、注意すべきことはありますか。
安斎 「特にないですね」を誘発する質問をしないことです。世の中にはその手の質問が多い。「この会社で何かやりたいことある?」はその典型です。
広すぎて答えづらいため、部下は「考えておきます」と濁しがちです。それを聞いた上司は「主体性がない」などとネガティブに受け止めますが、聞き方が良くないんです。
例えば「来季うちのチームで進めようと思っているプロジェクトが三つあるけど、どれが一番興味ある?」と聞く。あるいは「今年やった案件A、B、Cで、どれが面白くて、どれがしんどかった?」と聞いてみる。「面白かったのは案件Aです」と答えたら、「どの辺が?」と掘り下げる。すると「Aはこの点がこんな理由で面白くて」と語ってくれます。
案件Aが面白かった理由は「会社でこの先やっていきたいこと」と近接しているため、メンバーのキャリア開発のヒントにもなります。

——選択肢を絞ってあげる方が良いわけですね。
安斎 その通りです。多くの質問集には「クローズドクエスチョンはやめた方がいい。オープンクエスチョンで自由に答えてもらいましょう」と書いてありますが、僕の経験則では完全に真理の逆です。
例えば上司が新規サービスのアイデアを立案して、部下に「改善点やフィードバックはないですか?」と尋ねても、「特にないですね」という答えが返ってきがちです。「フィードバック」という言葉が重すぎて、部下は上司のアイデアに意見しづらいのです。
そこで「このサービス案をユーザー目線で見た時に、100点満点で何点をつけますか?」と聞く。そうすると、部下は自分の意見をユーザーのせいにできるので、角が立たない。点数の理由を尋ねれば、企画へのフィードバックが自然と出てきます。

あなた自身が「個人」を出しているか
——多くのビジネスパーソンは組織の中での立場や肩書きに即した「組織人格」で動いています。「個人人格」を引き出すために、安斎さんが工夫していることはありますか。
安斎 まず前提として、マネジャーが組織人格を前面に押し出していれば、メンバーが個人人格を出すことは難しくなります。
逆説的な言い方になりますが、マネジメントが上手い人は、マネジャーっぽくないことを言います。僕もそれを意識しています。「経営者としては“この企画はやらない”と言うべきかもしれませんが、個人的にやった方が良いと思っているので、やります」といった具合です。
外部発信でも同様です。以前、音声プラットフォーム「Voicy」の個人チャンネル『安斎勇樹の冒険のヒント』に「Voicyでの発信をどうやって採用につなげていますか?」と質問をいただいたことがありましたが、「この活動をMIMIGURIの採用につなげようとは1ミリも思っていません」と答えました(笑)。そういう発言を社員も聞いています。
僕自身が個人主語で喋ることを突き通すと、社員も同じように振る舞うようになります。組織人格全開で向き合えば、メンバーも建前しか返しません。
——あえて「ルール」から外れることをして見せるわけですね。
安斎 職場は基本的に「村」であり、規範、役割、期待、忖度が存在します。時にはそこからの逸脱が必要です。

例えば「最近飽きたこと」を話し合ってみる。「仕事に飽きた」と口にするのは一般的には望ましくないことですが、僕はむしろ積極的に言います。
「『冒険する組織』についての話をしすぎたので、しばらく組織の話をしたくない」と発言したり社内のSlackに書いたりする。そして、メンバーにも「最近、飽きた仕事ある?」と尋ねます。
露悪的にこのような発言をしているわけではありません。事前に「“飽き”は創造性の発露である」といった考えを全体に発信し、「飽きはネガティブな状態ではない」ということを共有しています。するとメンバーたちは、いま何に飽きてきているかを積極的に語ってくれるようになります。
——「飽きたこと」という設定が絶妙ですね。「嫌いなこと」や「したくない仕事」だと、建設的でない不満や極論を引き出しかねません。
安斎 「飽き」の特定は、次に進むべき方向を考えるきっかけになるのが良いですよね。多くの人は飽きたことを口に出さないまま働き続けていますが、それは組織のネジや歯車になることの始まりです。そうなる前に口に出した方がいい。
マネジャーの皆さんもぜひメンバーに聞いてみてください。仮に「これ以上、数を積み重ねる営業をしたくないです」といった発言が飛び出しても、不満として受け止める必要はありません。メンバーがこの先チャレンジしていくことを見定める材料として捉えれば、そこから組織にとっても個人にとっても価値ある対話が生まれます。
(構成:下元陽、トップ写真:AOI Pro.提供/その他写真:三井実撮影)
🔹インタビュー前編では、議論を通じて合意形成の質を高める方法を安斎さんに教えていただきました。こちらも併せてご覧ください。
『合意形成は遅らせろ。MIMIGURI安斎氏が教える「本質的な納得」のつくり方』

📕書籍紹介
「会議で意見が出ない」「メンバーが指示待ちになっている」——そんな悩みを抱えるリーダーへ。命令で動く「軍隊型チーム」を、メンバー一人ひとりが考え、判断し、行動する「冒険型チーム」に変える鍵が「問いかけ」である。本書では、相手の思考と行動を引き出す「見立てる」「組み立てる」「投げかける」の3つのサイクルを解説。1on1や会議で使える具体的な質問技法も充実している。中原淳氏、佐渡島庸平氏も推薦する、チームを動かすマネジャー必読書。

『新 問いかけの作法』
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン著者:安斎勇樹書籍リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/4799332252/
メンバーの内発的動機を発見する「絶好のタイミング」
——現代のミドルマネジャーは、多様なメンバーと向き合い、主体性や納得感を引き出すことが求められています。どのように取り組むと良いでしょうか。
安斎 メンバーの目標設定を例に考えてみましょう。多くの組織では上から目標が降ってきます。上位下達でそれに従わせるのではなく、個々のメンバーにどう納得してもらうかが肝になる。その鍵は、メンバーの内発的動機のツボを特定することです。
外発的動機は個人差が大きくありません。100万円もらえれば誰でも喜びます。しかし内発的動機は驚くほど違います。裁量の大きさに価値を感じる人もいれば、誰かに喜んでもらえることでテンションが上がる人もいる。マネジャーはメンバーごとに内発的動機のツボを把握しておかないと、真の合意形成は難しくなります。
——内発的動機のツボは、どう見つけるのが良いでしょうか。
安斎 重要なポイントは期末の振り返りです。パフォーマンスの反省会にせず、今年1年の仕事で何が面白かったのか、後悔したことはあるか、なぜそう感じたのか——そうした話を「個人主語」で語ってもらいましょう。その過程でメンバーが面白がっていることや好奇心を持つ対象、モヤモヤしていることなどを特定していくのです。

内発的動機が把握できたら、上から降ってきた目標と結びつけ、「この目標に取り組むことで、あなたが面白がっていたことをもっと深められる」といった形で伝えるのが良いでしょう。
とはいえ、ストーリーを語るのが得意ではないマネジャーもいます。その場合は、目標をいきなり渡すのではなく、「この目標にどう取り組んでいきたいか」「どういう機会にしたいか」などとメンバーにヒアリングしながら、一緒に取り組み方を考えていく。内発的動機を把握していれば、対話を重ねる中で「それなら、こういうアプローチはどう?」と提案でき、目標への納得感を高められます。
——そのような対話を行うためには、メンバーの本心を引き出すことが鍵になりそうです。ヒアリングに際して、注意すべきことはありますか。
安斎 「特にないですね」を誘発する質問をしないことです。世の中にはその手の質問が多い。「この会社で何かやりたいことある?」はその典型です。
広すぎて答えづらいため、部下は「考えておきます」と濁しがちです。それを聞いた上司は「主体性がない」などとネガティブに受け止めますが、聞き方が良くないんです。
例えば「来季うちのチームで進めようと思っているプロジェクトが三つあるけど、どれが一番興味ある?」と聞く。あるいは「今年やった案件A、B、Cで、どれが面白くて、どれがしんどかった?」と聞いてみる。「面白かったのは案件Aです」と答えたら、「どの辺が?」と掘り下げる。すると「Aはこの点がこんな理由で面白くて」と語ってくれます。
案件Aが面白かった理由は「会社でこの先やっていきたいこと」と近接しているため、メンバーのキャリア開発のヒントにもなります。

——選択肢を絞ってあげる方が良いわけですね。
安斎 その通りです。多くの質問集には「クローズドクエスチョンはやめた方がいい。オープンクエスチョンで自由に答えてもらいましょう」と書いてありますが、僕の経験則では完全に真理の逆です。
例えば上司が新規サービスのアイデアを立案して、部下に「改善点やフィードバックはないですか?」と尋ねても、「特にないですね」という答えが返ってきがちです。「フィードバック」という言葉が重すぎて、部下は上司のアイデアに意見しづらいのです。
そこで「このサービス案をユーザー目線で見た時に、100点満点で何点をつけますか?」と聞く。そうすると、部下は自分の意見をユーザーのせいにできるので、角が立たない。点数の理由を尋ねれば、企画へのフィードバックが自然と出てきます。

あなた自身が「個人」を出しているか
——多くのビジネスパーソンは組織の中での立場や肩書きに即した「組織人格」で動いています。「個人人格」を引き出すために、安斎さんが工夫していることはありますか。
安斎 まず前提として、マネジャーが組織人格を前面に押し出していれば、メンバーが個人人格を出すことは難しくなります。
逆説的な言い方になりますが、マネジメントが上手い人は、マネジャーっぽくないことを言います。僕もそれを意識しています。「経営者としては“この企画はやらない”と言うべきかもしれませんが、個人的にやった方が良いと思っているので、やります」といった具合です。
外部発信でも同様です。以前、音声プラットフォーム「Voicy」の個人チャンネル『安斎勇樹の冒険のヒント』に「Voicyでの発信をどうやって採用につなげていますか?」と質問をいただいたことがありましたが、「この活動をMIMIGURIの採用につなげようとは1ミリも思っていません」と答えました(笑)。そういう発言を社員も聞いています。
僕自身が個人主語で喋ることを突き通すと、社員も同じように振る舞うようになります。組織人格全開で向き合えば、メンバーも建前しか返しません。
——あえて「ルール」から外れることをして見せるわけですね。
安斎 職場は基本的に「村」であり、規範、役割、期待、忖度が存在します。時にはそこからの逸脱が必要です。

例えば「最近飽きたこと」を話し合ってみる。「仕事に飽きた」と口にするのは一般的には望ましくないことですが、僕はむしろ積極的に言います。
「『冒険する組織』についての話をしすぎたので、しばらく組織の話をしたくない」と発言したり社内のSlackに書いたりする。そして、メンバーにも「最近、飽きた仕事ある?」と尋ねます。
露悪的にこのような発言をしているわけではありません。事前に「“飽き”は創造性の発露である」といった考えを全体に発信し、「飽きはネガティブな状態ではない」ということを共有しています。するとメンバーたちは、いま何に飽きてきているかを積極的に語ってくれるようになります。
——「飽きたこと」という設定が絶妙ですね。「嫌いなこと」や「したくない仕事」だと、建設的でない不満や極論を引き出しかねません。
安斎 「飽き」の特定は、次に進むべき方向を考えるきっかけになるのが良いですよね。多くの人は飽きたことを口に出さないまま働き続けていますが、それは組織のネジや歯車になることの始まりです。そうなる前に口に出した方がいい。
マネジャーの皆さんもぜひメンバーに聞いてみてください。仮に「これ以上、数を積み重ねる営業をしたくないです」といった発言が飛び出しても、不満として受け止める必要はありません。メンバーがこの先チャレンジしていくことを見定める材料として捉えれば、そこから組織にとっても個人にとっても価値ある対話が生まれます。
(構成:下元陽、トップ写真:AOI Pro.提供/その他写真:三井実撮影)
🔹インタビュー前編では、議論を通じて合意形成の質を高める方法を安斎さんに教えていただきました。こちらも併せてご覧ください。
『合意形成は遅らせろ。MIMIGURI安斎氏が教える「本質的な納得」のつくり方』

📕書籍紹介
「会議で意見が出ない」「メンバーが指示待ちになっている」——そんな悩みを抱えるリーダーへ。命令で動く「軍隊型チーム」を、メンバー一人ひとりが考え、判断し、行動する「冒険型チーム」に変える鍵が「問いかけ」である。本書では、相手の思考と行動を引き出す「見立てる」「組み立てる」「投げかける」の3つのサイクルを解説。1on1や会議で使える具体的な質問技法も充実している。中原淳氏、佐渡島庸平氏も推薦する、チームを動かすマネジャー必読書。

『新 問いかけの作法』
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン著者:安斎勇樹書籍リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/4799332252/





