
【徹底議論】仕事・職場における「いいヤツ」とはどういう存在か?(仮)
「あの人がいるから働くのが楽しい」——。そう思わせてくれる人が、皆さんの職場にもいませんか。
「1on1総研」ではこれまで組織における対話の価値や人間関係の本質を探求してきました。一緒に働く仲間と良い関係を築くには、互いが「善くあろう」とする姿勢ではないでしょうか。そんな考えの下に、今回は「仕事や職場における"いい人"とは、どういう存在か」というテーマを設定しました。
1on1総研編集長・下元とこのテーマを掘り下げてくれるのは、Podcastユニット「桃山商事」の清田隆之さん、森田さん、さとうさん。人間関係にまつわる配信も多い彼らの番組は、独自の視点で幅広いリスナーを獲得しています。森田さんとさとうさんはJTC(伝統的な日本企業)に勤めるビジネスパーソンでもあり、現場の実感も交えながら、いつもよりゆる〜く、でもちょっとマジメにおしゃべりしました。
お三方、仕事や職場における「いい人」ってどんな人ですか……!?

「いいヤツ🟰都合のいい存在」なのか
森田 編集長は、どうして「いい人」というテーマが気になっていたの?
下元 いろいろありますが、一つは転職について考えたことですね。各種の調査を見ると転職理由の上位に「人間関係」が挙がっています。いまは人材を奪い合う時代だから、会社としては社員に長く働いてほしい。私自身を振り返っても、「この人好きだな」「一緒に働きたいな」と思える人がいると会社に踏みとどまろうと思う。そう考えると「いい人」という存在は、リテンション(人材の確保・定着)の面でも大きな影響があるな、と。
清田 働く理由を突き詰めると、最終的には人でしょ、みたいな。さとうさんは「いい人」の特徴をどう捉えてる?
さとう もう、挨拶ですよ。
清田 挨拶(笑)。
さとう より正確にいえば、何かを頼まれたときの反応の良さや返事のトーン、あとは表情の良さとかな。こういうことを言うと、すごく老害っぽいんですけど(笑)。
清田 さとうさんも挨拶の良さで出世した節があるよね(笑)。
さとう 実際そうですからね。前職時代、私を含む複数の派遣社員の中から一部を正社員にする話が持ち上がってさ。ちょうどその頃、外回りで夜遅くに帰社することがあって、部長と事業部長に「こんな時間にどうしたの?」と聞かれたので、「まだ仕事が残ってるんで、もう少しやろうと思って! 頑張ります!」と元気よく返事したんですよ。そこで正社員化が決まったらしい(笑)。ずいぶん経ってから「お前はあのときの挨拶が良かったから社員にしたんだ」って。
清田 一瞬の反応で、将来が決まった(笑)。
さとう 派遣社員の中には私より仕事ができて、周囲からも信頼されてる人がいたんだけど、結果として私の方が先に正社員になりましたからね。私自身、その人を差し置いて良いものかと思ったけれど、組織の処遇というのは、良くも悪くも人事権を持つ人の一言で決まるところがあるし、私は上の人から「いいヤツ」扱いされやすいタイプなんだと思う。もちろん本物の「いいヤツ」ではなく、「いいヤツと見なされやすいヤツ」という意味ですけど(笑)。
清田 めちゃくちゃわかるな……。この「いいヤツ」というテーマは、自分にとってはコンプレックスを刺激をされるものであり、それと同時にエグさを感じるものでもあるんだよね。
森田 へえ、どうして?
清田 ここにいるみなさんはご存じの通り、自分は大学卒業後に友人と作った会社でライター業を始めたわけだけれど、業界経験も人脈もない状態から仕事が広がっていったのは、私自身の「聞き分けの良さ」が大きかったと思うわけ。
自分で言うのも何なんだけど、攻撃的なところもなければ、揉めごとも起こさない。相手の言うことをちゃんと理解する。そういう「いいヤツ力」のおかげで仕事の幅が広がったな、と。
森田 清田は文筆家だから成果物は原稿でしょ。原稿の質より「いいヤツ力」で認められてきた感覚があるってこと?
清田 原稿にも「いいヤツ」スタンスが表れてるんだよ。要は編集者が「こう書いてほしい」と思っているものを書くのが上手いんだと思う(笑)。
一同 (笑)
清田 編集さんのニーズを汲み取って、そこに予想を超える要素を少し加える。そういうアウトプットの仕方で期待に応えてきた実感があるんだよね。
ライターの世界には飛び抜けて博識な人とか、現場に足を運びまくる人とか、スペシャリストと呼ばれる人たちがゴロゴロいて、専門性の高い企画はそういう人が書いた方が絶対に中身が濃くなると思うのだけれど、その手の企画にも私が選ばれることが結構あってさ。
編集さんの意図を汲み取る力が評価された結果と思えなくもないけど、本当の実力ではない選ばれ方というか、ズルしてるような感覚もあるという……。

森田 どこかさとうさんのエピソードにも通じる話だね。
さとう 私と清田さんは同じ男子校出身ですが、そこで身につけた振る舞いが社会を渡り歩く上で大いに生きてるよね。目上の人に対して、本気で怒られないように気を遣う。でも従順すぎると虐められるから、適度に相手を舐める、みたいな。
清田 そのバランスが大事なんだよね。……とか言ってしまうと、手の内を明かしてるみたいで恥ずかしいんだけど(笑)。
私自身、下町の商店街で育って、小さな頃から年上のおじさんやおばちゃんと話すのに慣れていたし、中高は校則の厳しい男子校だったから、大人にうまく合わせる術とか、社会を渡り歩く嗅覚みたいなものも身についた。正直、そういう力が仕事の機会を獲得する上でモノを言ってるなと思う。
さとう そういう「いいやつ力」の磨き方って、教えようがないんだよね。いま管理職になって部下の育成を担う立場なんですけど、この術をどう伝えていいかわからない。
清田 こうすればすぐ身につく、というものじゃないからね。
森田 さとうさんは、部下もそういう力を身につけた方がいいと思ってるの?
さとう うーん、明確な答えはないな。ただ、身につけた方が生きやすくなるとは思いますけどね。

「いい人仕草」が上手い人が得をする時代!?
清田 「いじられやすさ」とか「ツッコまれやすさ」も「いい人」と関係してない? 我々の先輩とかでも、そういうタイプの人たちは付き合いやすいじゃん。
さとう 相手のために“負けられる人”は典型的な「いい人」だよね。個人的には、後輩に対して隙を作ってくれる人が好き。誰に対してもマウントをせず、ちょっかいを出すと正面から受け止めてくれて、いつも負けてくれる人。そういう先輩には「最近どうすか〜?」って絡みたくなるじゃん。今の上司はまさにこのタイプ。常に心を開いてくれているから好きなんだよね。
森田 それはいいね。私も「いい人」については結構考えていて。スポットの仕事を依頼する相手であれば、成果物の良さが大事にはなるけれど、継続的に一緒に働く相手は「いい人」かどうかがかなり大事だなって思う。
清田 森田さんにとっての「いい人」は、どんな人?
森田 仕事に真面目に取り組む、誠実、話をちゃんと聞く、優しい、攻撃的じゃない……そういうところかな。一緒にいて居心地のよさを感じる相手というか。もちろん成果物を良くするためのフィードバックはし合うけど、それは人格への攻撃じゃなくてアイデアや表現に対してのもの。そういう建設的なやりとりをするには、ベースとして「いい人」であることが大事なんだと思う。
清田 能力が高いけど居心地が悪い人と、能力は普通だけど居心地がいい人がいたら、どちらを選ぶ?
森田 両方兼ね備えた人を探しに行く(笑)。まあ、それはそれとして、いまの職場は「いい人」が多いし、この歳になって、「いい人」の仲間が増えていくことが一番楽しいかもと思うようになってきたね。編集長が思う「いい人」は?
下元 強いていえば、相手の良いところを見つけて接してくれる人ですかね。そういう人とは一緒にいて安心します。対照的なのは、自分の中に強固な基準を持っていて、常にジャッジしてくる人。その人が設定した基準や、何かしらのイニシエーションを通過しないと認めてくれない。そういう人といると「何かすごいことをしなきゃ」と思って息苦しくなりますね。
森田 ジャッジスタンスの人、確かにいるね。しかも、そういう人ほど力を持ったり、出世したりするからな……。
清田 その「いい人」と「権力」という観点で、いつか文章にしたいことがあってさ。「事務仕事を全部引き受けることで権力を握る人」っていうテーマなんだけど。
森田 ああ、めっちゃわかる。いるよね、そういう人。
清田 面倒な事務仕事とか人間関係の調整とか「シャドーワーク」と呼ばれるものを積極的に担って、少しずつ周囲に「貸し」をつくり、いつの間にか権力を握っているタイプの人。トップダウンとは全く異なる、下から周りを押さえるタイプの権力者。
こういう人の行動って、心から「いい人だな」とは感じないけれど、面倒なことを率先して引き受けてくれるから「いい人」という評価を得やすいんだよね。

さとう まあ、信頼を得るための一番の近道とも言えますよね。みんなが面倒くさがることを言われる前にやるのは。
清田 しかも、周囲がひたすらおまかせモードになることで、深く踏み込まれる機会も生まれないから「いい人」像をキープしやすい。こういう「表層的ないいこと」を戦略的にやっている人に怖さを感じるんだよね……。
森田 そう考えると、やっぱり「いい人」って、自分のためではなく、心から他者のために行動できる人のことを言うんだろうね。
清田 この10年くらいの言葉でいうと「利他的」ってことだよね。
森田 そうそう。
清田 政治学者の中島岳志さんの『思いがけず利他』(ミシマ社)という本でも、将来の自利を期待した利他的行為と偶発的に発生した状況で行うそれは別物で、利他の本質は後者にある、といったことを指摘してたと思う。その整理からしても、表面的な利他と魂が込められた利他は全く違うよね。
森田 本当にそう思う。個人的には「魂」とか「志」がない人が偉くなることに、すごく抵抗があるんですよ。確固たる志があって面倒なことも引き受けるなら心から「いい人だな」と思えるけど、ただ権力を得たいだけで利他的なことをされても、空虚に感じるだけ。
下元 私も森田さんと同じ意見で、「いい人仕草」が得意な人ばかりが得をしている状況を目の当たりにすると複雑な気持ちになります。ただ一方で、今は誰もが「表層的ないい人」になりやすい時代なのかもしれないとも思います。例えば、SNSでは自分のビジュアルを加工して発信できるし、会話も、最適な言葉が浮かぶまで待ってから返信できる。つまり、自分が一番良く見える瞬間だけを選んで相手に見せられる環境が整っていますよね。
清田 見せ方が上手い人、増えてるよね。
下元 手軽に外面を良く見せられる時代だし、そういう振る舞いが当たり前になる中で、「インスタントいいヤツ」が増えてるんじゃないかという問題意識があって。本当の「いい人」ってずっと感じが良いというか、「サステナブルいい人」じゃないですか。

清田 でも「インスタントいいヤツ」と「サステナブルいいヤツ」が横並びでいた場合、その違いを見抜ける目を持ってる人って、きっと多くないよね。結果として、サステナブルな人より、インスタントな人が成功してるケースもありそう。
下元 “ハック”の時代でもありますしね。
清田 確かに「ハック系いいやつ」が台頭しやすくなっているかも。……というか、私やさとうさんの振る舞いは、「いいやつハック」をかましてたってこと!?
さとう 私の「挨拶」も、ある意味ハックかもしれないね。私、「会社のために」みたいな魂を持って振る舞っていたわけじゃないし。
森田 まあでも、魂の持ち方っていろいろあると思うよ。
さとう そうだね。私自身、会社や世の中をこうしたいといった思いは正直ないけれど、「周りの人が困らないようにしたい」という魂はあって、面倒なことを引き受けたりしているからなあ。
下元 そういう周囲を鼓舞する「いい人」について、先日、NewsPicks パブリッシング創刊編集長の井上慎平さんと「1on1総研」の企画で話す機会がありまして。
森田 ビジネス書の『弱さ考』を書いた人ですよね。
下元 そうです。その『弱さ考』では、「いい人」の特徴を「触媒的能力」という言葉で表しています。端的にいえば、「自分が何をしたか」ではなく「周りに何をさせたか」を測る能力のこと。例えば、ご機嫌な人が1人いることで周囲が生き生きと働き、チーム全体のパフォーマンスが上がる——そういう影響力を指す言葉ですね。

清田 確かに、チームに1人いると全体のコミュニケーションが円滑になる人、いるよね。私の好きなサッカーの世界でもそういう選手がいて、数字に現れにくい貢献を評価するための指標もどんどん生まれている。実際、そういう選手がいなくなると、途端に連携がチグハグになったりするし、会社組織でも似たようなことがあるんだろうね。
下元 そういう触媒的能力を発揮している人が組織でも高く評価されて欲しいと思うものの、メンバークラスの場合、基本的にはアウトカムベースで評価されるでしょうから、“触媒的貢献”は業績評価に還元されないかもしれません。自分の影響で周りのパフォーマンスが高まっても、残念ながら周りが評価されるだけなのかも。
清田 なるほど……。
下元 ただ井上さんは、触媒的能力を金銭的評価に結びつけすぎると、社内政治が横行したり「いい人仕草」をする人が増えて、しがらみの強い組織になるのでは、と懸念していました。だから、自分が「いい人」であることはあくまで自分自身の満足として受け止め、業績評価はアウトカムベースで行うしかないのでは、という結論になって。「いい人なのに評価されない」と嘆く人が本当にいい人なのか、みたいな“沼”にもハマりそうですし。
森田 確かに。周りが「あの人、いい人なのに出世しないの残念だな」と思ってるのと、本人がそう思ってるのは全然違う話ですよね。魂の籠った「いい人」は「オレ、“いい人”なのに出世しないな」なんて、そもそも思わないだろうし。
下元 結局「いい人」って、自分の「いい人性」に無自覚な人が多そうですしね。そこが魅力だったりもするし。
森田 そうそう。
清田 なるほどな。いろいろ話し合って、「いい人」像の片鱗が少し見えてきた気がするね。ただ、今回は中年男性4人の会話だったから、その属性ならではの景色だったかもしれない。「いい人」のあり方にジェンダー差があるのかも気になるし、そこを掘り下げると新たな発見がありそうだね。
🔹あわせて聴きたい
🍑桃山商事のPodcast
清田隆之さん(文筆業)、森田さん(会社員)、ワッコさん(会社員)、さとうさん(会社員)の4人による、NEOな座談Podcast。聴取はこちらから。
「いいヤツ🟰都合のいい存在」なのか
森田 編集長は、どうして「いい人」というテーマが気になっていたの?
下元 いろいろありますが、一つは転職について考えたことですね。各種の調査を見ると転職理由の上位に「人間関係」が挙がっています。いまは人材を奪い合う時代だから、会社としては社員に長く働いてほしい。私自身を振り返っても、「この人好きだな」「一緒に働きたいな」と思える人がいると会社に踏みとどまろうと思う。そう考えると「いい人」という存在は、リテンション(人材の確保・定着)の面でも大きな影響があるな、と。
清田 働く理由を突き詰めると、最終的には人でしょ、みたいな。さとうさんは「いい人」の特徴をどう捉えてる?
さとう もう、挨拶ですよ。
清田 挨拶(笑)。
さとう より正確にいえば、何かを頼まれたときの反応の良さや返事のトーン、あとは表情の良さとかな。こういうことを言うと、すごく老害っぽいんですけど(笑)。
清田 さとうさんも挨拶の良さで出世した節があるよね(笑)。
さとう 実際そうですからね。前職時代、私を含む複数の派遣社員の中から一部を正社員にする話が持ち上がってさ。ちょうどその頃、外回りで夜遅くに帰社することがあって、部長と事業部長に「こんな時間にどうしたの?」と聞かれたので、「まだ仕事が残ってるんで、もう少しやろうと思って! 頑張ります!」と元気よく返事したんですよ。そこで正社員化が決まったらしい(笑)。ずいぶん経ってから「お前はあのときの挨拶が良かったから社員にしたんだ」って。
清田 一瞬の反応で、将来が決まった(笑)。
さとう 派遣社員の中には私より仕事ができて、周囲からも信頼されてる人がいたんだけど、結果として私の方が先に正社員になりましたからね。私自身、その人を差し置いて良いものかと思ったけれど、組織の処遇というのは、良くも悪くも人事権を持つ人の一言で決まるところがあるし、私は上の人から「いいヤツ」扱いされやすいタイプなんだと思う。もちろん本物の「いいヤツ」ではなく、「いいヤツと見なされやすいヤツ」という意味ですけど(笑)。
清田 めちゃくちゃわかるな……。この「いいヤツ」というテーマは、自分にとってはコンプレックスを刺激をされるものであり、それと同時にエグさを感じるものでもあるんだよね。
森田 へえ、どうして?
清田 ここにいるみなさんはご存じの通り、自分は大学卒業後に友人と作った会社でライター業を始めたわけだけれど、業界経験も人脈もない状態から仕事が広がっていったのは、私自身の「聞き分けの良さ」が大きかったと思うわけ。
自分で言うのも何なんだけど、攻撃的なところもなければ、揉めごとも起こさない。相手の言うことをちゃんと理解する。そういう「いいヤツ力」のおかげで仕事の幅が広がったな、と。
森田 清田は文筆家だから成果物は原稿でしょ。原稿の質より「いいヤツ力」で認められてきた感覚があるってこと?
清田 原稿にも「いいヤツ」スタンスが表れてるんだよ。要は編集者が「こう書いてほしい」と思っているものを書くのが上手いんだと思う(笑)。
一同 (笑)
清田 編集さんのニーズを汲み取って、そこに予想を超える要素を少し加える。そういうアウトプットの仕方で期待に応えてきた実感があるんだよね。
ライターの世界には飛び抜けて博識な人とか、現場に足を運びまくる人とか、スペシャリストと呼ばれる人たちがゴロゴロいて、専門性の高い企画はそういう人が書いた方が絶対に中身が濃くなると思うのだけれど、その手の企画にも私が選ばれることが結構あってさ。
編集さんの意図を汲み取る力が評価された結果と思えなくもないけど、本当の実力ではない選ばれ方というか、ズルしてるような感覚もあるという……。

森田 どこかさとうさんのエピソードにも通じる話だね。
さとう 私と清田さんは同じ男子校出身ですが、そこで身につけた振る舞いが社会を渡り歩く上で大いに生きてるよね。目上の人に対して、本気で怒られないように気を遣う。でも従順すぎると虐められるから、適度に相手を舐める、みたいな。
清田 そのバランスが大事なんだよね。……とか言ってしまうと、手の内を明かしてるみたいで恥ずかしいんだけど(笑)。
私自身、下町の商店街で育って、小さな頃から年上のおじさんやおばちゃんと話すのに慣れていたし、中高は校則の厳しい男子校だったから、大人にうまく合わせる術とか、社会を渡り歩く嗅覚みたいなものも身についた。正直、そういう力が仕事の機会を獲得する上でモノを言ってるなと思う。
さとう そういう「いいやつ力」の磨き方って、教えようがないんだよね。いま管理職になって部下の育成を担う立場なんですけど、この術をどう伝えていいかわからない。
清田 こうすればすぐ身につく、というものじゃないからね。
森田 さとうさんは、部下もそういう力を身につけた方がいいと思ってるの?
さとう うーん、明確な答えはないな。ただ、身につけた方が生きやすくなるとは思いますけどね。

「いい人仕草」が上手い人が得をする時代!?
清田 「いじられやすさ」とか「ツッコまれやすさ」も「いい人」と関係してない? 我々の先輩とかでも、そういうタイプの人たちは付き合いやすいじゃん。
さとう 相手のために“負けられる人”は典型的な「いい人」だよね。個人的には、後輩に対して隙を作ってくれる人が好き。誰に対してもマウントをせず、ちょっかいを出すと正面から受け止めてくれて、いつも負けてくれる人。そういう先輩には「最近どうすか〜?」って絡みたくなるじゃん。今の上司はまさにこのタイプ。常に心を開いてくれているから好きなんだよね。
森田 それはいいね。私も「いい人」については結構考えていて。スポットの仕事を依頼する相手であれば、成果物の良さが大事にはなるけれど、継続的に一緒に働く相手は「いい人」かどうかがかなり大事だなって思う。
清田 森田さんにとっての「いい人」は、どんな人?
森田 仕事に真面目に取り組む、誠実、話をちゃんと聞く、優しい、攻撃的じゃない……そういうところかな。一緒にいて居心地のよさを感じる相手というか。もちろん成果物を良くするためのフィードバックはし合うけど、それは人格への攻撃じゃなくてアイデアや表現に対してのもの。そういう建設的なやりとりをするには、ベースとして「いい人」であることが大事なんだと思う。
清田 能力が高いけど居心地が悪い人と、能力は普通だけど居心地がいい人がいたら、どちらを選ぶ?
森田 両方兼ね備えた人を探しに行く(笑)。まあ、それはそれとして、いまの職場は「いい人」が多いし、この歳になって、「いい人」の仲間が増えていくことが一番楽しいかもと思うようになってきたね。編集長が思う「いい人」は?
下元 強いていえば、相手の良いところを見つけて接してくれる人ですかね。そういう人とは一緒にいて安心します。対照的なのは、自分の中に強固な基準を持っていて、常にジャッジしてくる人。その人が設定した基準や、何かしらのイニシエーションを通過しないと認めてくれない。そういう人といると「何かすごいことをしなきゃ」と思って息苦しくなりますね。
森田 ジャッジスタンスの人、確かにいるね。しかも、そういう人ほど力を持ったり、出世したりするからな……。
清田 その「いい人」と「権力」という観点で、いつか文章にしたいことがあってさ。「事務仕事を全部引き受けることで権力を握る人」っていうテーマなんだけど。
森田 ああ、めっちゃわかる。いるよね、そういう人。
清田 面倒な事務仕事とか人間関係の調整とか「シャドーワーク」と呼ばれるものを積極的に担って、少しずつ周囲に「貸し」をつくり、いつの間にか権力を握っているタイプの人。トップダウンとは全く異なる、下から周りを押さえるタイプの権力者。
こういう人の行動って、心から「いい人だな」とは感じないけれど、面倒なことを率先して引き受けてくれるから「いい人」という評価を得やすいんだよね。

さとう まあ、信頼を得るための一番の近道とも言えますよね。みんなが面倒くさがることを言われる前にやるのは。
清田 しかも、周囲がひたすらおまかせモードになることで、深く踏み込まれる機会も生まれないから「いい人」像をキープしやすい。こういう「表層的ないいこと」を戦略的にやっている人に怖さを感じるんだよね……。
森田 そう考えると、やっぱり「いい人」って、自分のためではなく、心から他者のために行動できる人のことを言うんだろうね。
清田 この10年くらいの言葉でいうと「利他的」ってことだよね。
森田 そうそう。
清田 政治学者の中島岳志さんの『思いがけず利他』(ミシマ社)という本でも、将来の自利を期待した利他的行為と偶発的に発生した状況で行うそれは別物で、利他の本質は後者にある、といったことを指摘してたと思う。その整理からしても、表面的な利他と魂が込められた利他は全く違うよね。
森田 本当にそう思う。個人的には「魂」とか「志」がない人が偉くなることに、すごく抵抗があるんですよ。確固たる志があって面倒なことも引き受けるなら心から「いい人だな」と思えるけど、ただ権力を得たいだけで利他的なことをされても、空虚に感じるだけ。
下元 私も森田さんと同じ意見で、「いい人仕草」が得意な人ばかりが得をしている状況を目の当たりにすると複雑な気持ちになります。ただ一方で、今は誰もが「表層的ないい人」になりやすい時代なのかもしれないとも思います。例えば、SNSでは自分のビジュアルを加工して発信できるし、会話も、最適な言葉が浮かぶまで待ってから返信できる。つまり、自分が一番良く見える瞬間だけを選んで相手に見せられる環境が整っていますよね。
清田 見せ方が上手い人、増えてるよね。
下元 手軽に外面を良く見せられる時代だし、そういう振る舞いが当たり前になる中で、「インスタントいいヤツ」が増えてるんじゃないかという問題意識があって。本当の「いい人」ってずっと感じが良いというか、「サステナブルいい人」じゃないですか。

清田 でも「インスタントいいヤツ」と「サステナブルいいヤツ」が横並びでいた場合、その違いを見抜ける目を持ってる人って、きっと多くないよね。結果として、サステナブルな人より、インスタントな人が成功してるケースもありそう。
下元 “ハック”の時代でもありますしね。
清田 確かに「ハック系いいやつ」が台頭しやすくなっているかも。……というか、私やさとうさんの振る舞いは、「いいやつハック」をかましてたってこと!?
さとう 私の「挨拶」も、ある意味ハックかもしれないね。私、「会社のために」みたいな魂を持って振る舞っていたわけじゃないし。
森田 まあでも、魂の持ち方っていろいろあると思うよ。
さとう そうだね。私自身、会社や世の中をこうしたいといった思いは正直ないけれど、「周りの人が困らないようにしたい」という魂はあって、面倒なことを引き受けたりしているからなあ。
下元 そういう周囲を鼓舞する「いい人」について、先日、NewsPicks パブリッシング創刊編集長の井上慎平さんと「1on1総研」の企画で話す機会がありまして。
森田 ビジネス書の『弱さ考』を書いた人ですよね。
下元 そうです。その『弱さ考』では、「いい人」の特徴を「触媒的能力」という言葉で表しています。端的にいえば、「自分が何をしたか」ではなく「周りに何をさせたか」を測る能力のこと。例えば、ご機嫌な人が1人いることで周囲が生き生きと働き、チーム全体のパフォーマンスが上がる——そういう影響力を指す言葉ですね。

清田 確かに、チームに1人いると全体のコミュニケーションが円滑になる人、いるよね。私の好きなサッカーの世界でもそういう選手がいて、数字に現れにくい貢献を評価するための指標もどんどん生まれている。実際、そういう選手がいなくなると、途端に連携がチグハグになったりするし、会社組織でも似たようなことがあるんだろうね。
下元 そういう触媒的能力を発揮している人が組織でも高く評価されて欲しいと思うものの、メンバークラスの場合、基本的にはアウトカムベースで評価されるでしょうから、“触媒的貢献”は業績評価に還元されないかもしれません。自分の影響で周りのパフォーマンスが高まっても、残念ながら周りが評価されるだけなのかも。
清田 なるほど……。
下元 ただ井上さんは、触媒的能力を金銭的評価に結びつけすぎると、社内政治が横行したり「いい人仕草」をする人が増えて、しがらみの強い組織になるのでは、と懸念していました。だから、自分が「いい人」であることはあくまで自分自身の満足として受け止め、業績評価はアウトカムベースで行うしかないのでは、という結論になって。「いい人なのに評価されない」と嘆く人が本当にいい人なのか、みたいな“沼”にもハマりそうですし。
森田 確かに。周りが「あの人、いい人なのに出世しないの残念だな」と思ってるのと、本人がそう思ってるのは全然違う話ですよね。魂の籠った「いい人」は「オレ、“いい人”なのに出世しないな」なんて、そもそも思わないだろうし。
下元 結局「いい人」って、自分の「いい人性」に無自覚な人が多そうですしね。そこが魅力だったりもするし。
森田 そうそう。
清田 なるほどな。いろいろ話し合って、「いい人」像の片鱗が少し見えてきた気がするね。ただ、今回は中年男性4人の会話だったから、その属性ならではの景色だったかもしれない。「いい人」のあり方にジェンダー差があるのかも気になるし、そこを掘り下げると新たな発見がありそうだね。
🔹あわせて聴きたい
🍑桃山商事のPodcast
清田隆之さん(文筆業)、森田さん(会社員)、ワッコさん(会社員)、さとうさん(会社員)の4人による、NEOな座談Podcast。聴取はこちらから。






