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1on1を「スマート」にしてはならない。AI時代に人間が守るべき「一線」とは
1on1を「スマート」にしてはならない。AI時代に人間が守るべき「一線」とは

1on1を「スマート」にしてはならない。AI時代に人間が守るべき「一線」とは

「お互い炎上ギリギリのラインを攻めてたんですね(笑)」

そう言って大きく笑うのは、人事界隈のインフルエンサー・組織開発するマン「こがねん」さん。人事図書館館長・吉田洋介さんが1on1総研で発表した連載記事に対し、こがねんさんがX上で疑問を呈したことをきっかけに、両者が意見を交える対談が実現しました。

前編では、両者の1on1原体験、形骸化のパターン、こがねんさんが覚えた「違和感」の正体に迫りました。

後編でこがねんさんの口から飛び出したのは「1on1はもっと失敗していい」「マネジャーとメンバーは喧嘩した方がいい」という過激な提案。議論は「観察」と「胆力」、そしてAI時代に人間が担うべき領域へと広がっていきます——。

(ファシリテート:下元陽/撮影:小池大介)

目次

AIに「失敗」をデザインしてもらう


——前編では1on1におけるAI活用の是非を議論し、「AIに何を任せたと認識しているか、その自覚が重要」という点で一定の合意が見られました。後編ではAIと人間の共存について、さらに落とし所を探っていきたいと思います。

こがねん 「メンバーを経験学習ができる人材に導くことが1on1の一つのゴールである」といったお話しましたが、経験学習には失敗が欠かせません。1on1を続ける中で「うまくいかないな……」と悩むことがありますよね。その悩みこそ経験学習の出発点であり、私は「遠回りに見える近道」と呼んでいます。

だからこそ、1on1を効率化してうまくやろうとせず、まずは失敗すればいいのに、と思うんです。極論すれば、もっとマネジャーとメンバーは喧嘩した方がいい。異なる意見をガンガンぶつけ合いながら向き合うことに価値があると思いますし、AIが便利だからといって、その最も人間臭いコミュニケーションもスマートにしすぎちゃっていいんですか?  と感じます。

吉田 「失敗」は大事なキーワードですよね。失敗というのは、意志を持って取り組んだことがうまくいかなくて初めて「失敗」になる。1on1を無意味だと思いながら30分座り続けても、それは失敗ですらない。ただ無意味な時間が過ぎただけで、「うちの会社、イケてないよね」という感想が出て終わりです。最初は「意味があるからやれ」と言われて始めたとしても、続けていくうちに「この時間にはどんな意味があるんだろう」と自分で探し始める。その姿勢があって初めて、うまくいかなかった時に「失敗」と呼べるんだと思います。

こがねん 確かにそうかもしれません。今のお話を経験学習に引きつけると、マネジャーもメンバーもまずは「やり続ける」という経験のサイクルに乗ることが大事だと思います。何かしらのサポートの下に続けてみるものの、うまくいかないこともあり、ちゃんと失敗もする。経験、失敗、失敗からの学び——まさに経験学習ですが、その失敗を含むサイクルをデザインするためにAIを使う。これが1on1のような「人間臭い営み」にとって、ちょうど良いAIと人間のコラボかもしれませんね。

——AIは「正解」を迅速に出し、コスパやタイパを高めるためのツールと認識されているので、「失敗」の対極的な存在とも言えますよね。失敗を取り払うために使われるものというか。

こがねん そうですよね。でも、AIを導入すればあらゆることが解決するかといえば、そんなことはなくて、新たな課題は課題は生まれ続けます。なぜ解決しないかといえば、人間が面倒くさいから。その不完全さこそが人間らしくて愛くるしい。AIが広まっても、そういう人間臭さが消えない世界であってほしいんです。

吉田 すごく共感します。僕は1on1を「人間観を豊かにする場」だと思っていて、観察を続けていると、「この人、こんなパターンがあるのか」とか「今日は思った以上に俺の一言がハマった」とか「今日めっちゃ本音を言ってくれたけど、何だったんだろう」とか、相手に対する見方が豊かになっていく。人が人と向き合い、相手に「観察」の眼差しを向ける中で、人の可能性を信じられる瞬間がある。

「人間がAIに代替される」という話がありますが、それは人間を組織の「機能」として捉えた先に生まれる発想だと思います。AIを使いこなして組織の機能としてのパフォーマンスを高めれば、生産性は上がるかもしれない。でも、機能として存在する自分自身は果たして幸せなのか。僕はそうは思いません。

人間という生き物は変数が多くて、それこそが幸せや豊かさを生み出す源泉になっている。1on1はそういうことを感じられる象徴的な場であってほしいと願っています。

「居心地の悪さ」に踏みとどまれ

——相手を観察し、向き合い続けることが人間にしかできない営みであり、その重要性がかつてなく高まっている。この点においてお二人の考えは一致しているように思いますが、そう考えると、「1on1が上手い人」とは、卓越したコミュニケーションスキルを備えた人というより、相手を観察し続けられる胆力を持った人、ということになりそうですね。

こがねん そうかもしれませんね。最近読んだ『対立の炎にとどまる』という本がまさに対話の本質を突いていて、居心地の悪い状態に踏みとどまれるかどうかが大事だと説いています。今日も私が記事にいちゃもんをつけたことで吉田さんに呼び出され、何を言われるんだろうと不安と居心地の悪さを抱えながら、ここまで来ました(笑)。

吉田 いやいや(笑)。

こがねん ただ、意見や立場が異なっても、率直な思いを話し合えば、互いに新たな景色が見えるのではないかと思っていて。

ZOZOで働いていたときのことです。問題児扱いされていた社員の扱いにマネジャーが困り果て、人事の私が代わりに1on1をやることになりました。当然、本人も「なんで人事と1on1しなきゃいけないんですか」と怒っていましたが、「まあまあ、定期的に話しましょう」となだめて始めたんです。すると、最初は全然話してくれなかったのが、続けていくうちに徐々に心を開いてくれるようになりました。「この人、立場は異なるけれども、自分のことを気にかけてるな」と感じてくれたのだと思います。

家族も同じですよ。娘はいま中学生で、まさに親がうっとうしい時期。私が目を向けると「何見てんのよ?」と言われて、「見るのもダメなのか……」とヘコみますが(笑)、そこで距離を置いてしまうと、親子関係における大切な何かが途切れてしまう。だから娘に文句を言われても、彼女の様子を気にかけるようにしています。その積み重ねの中で「親は私のこと気にかけてくれている」と感じてくれたらいいな、と。

対話すること自体も大事ですが、それ以上に大事なのは対話的な関係性を諦めないこと。「この人は何を思っているのかな」と想像し続けること。先ほど胆力という話がありましたが、何に対する胆力かといえば、自分以外の人に興味関心を持ち続けることへの胆力なんだろうなと思います。

「引き出す」より「踏み込む」

——前編でこがねんさんは、1on1の目的として「相手と向き合うこと」、そしてゴールとして「メンバーを経験学習ができる人材に導くこと」とお話しされていました。その両者はどう結びつくのでしょうか。

こがねん 別物といえば別物ですが、あえて結びつけるとしたら、人は他者から関心を向け続けられると、自分自身にも関心を向けざるを得なくなると思うんです。観察されている、気にかけられている。その中で問いかけられると、自分と向き合わざるを得なくなります。

吉田 僕の場合は、関心を向けられているというより、全力で踏み込まれている感じでしたけどね(笑)。

前編でもお話ししましたが、リクルート時代、マネジャーとの1on1で「だってお前、こういう生き方したいって言ってたじゃん!」「これ、お前の人生にとって大事なんでしょ?」と全力で投げつけられるんです。しかも言われることは全部図星だから、「逃げられないな」と。

こがねん マネジャーは吉田さんのことを継続的に観察して、その蓄積から問いを投げてくるわけですよね。「お前、以前こう言ってたよね」みたいな(笑)。

吉田 そうなんです。「吉田さ、前期で目標達成を諦めたときに、"すごくかっこ悪かった"と落ち込んでたじゃん。今期もまた逃げて、同じことを期末に言う姿を私は見たくないんだけど」とか言われるんですよ。「僕もそんな姿を見せたくないです……。見せたくないけど、今から仕事のやり方を変えるのは難しいし、どうしましょう……」みたいな(笑)。ぐうの音も出ないわけですが、今思えばここまでしっかり向き合ってもらって、本当にありがたかったな、と。

昨今、1on1ではメンバーの言葉を引き出すことが何より重要である、という風潮が強まっていますが、僕はむしろもっと踏み込んだ方がいいのではないかと思うんです。

こがねん いいですね〜。

吉田 「お前こう言ってたじゃん! 俺、お前の人生についてすごく真剣に考えて、こうなった方がいいと思ったんだけど、どうかな?」みたいな。

こがねん 超攻撃型のコーチング(笑)。「あなたはどうしたいの?」みたいなソフトな問いかけではなく。

吉田 そうです(笑)。めちゃくちゃメンバーのことを真剣に考えた形跡があって、「俺、お前の将来についてじっくり考えてみて、こうした方が良いと思ったんだけど、どう思う?」と言われたら、メンバーの側も「あざっす!」ってなりますよね。

——「踏み込み」の重要性は理解しつつも、ハラスメント防止とのバランスに悩む管理職もいそうです。特に若い世代への踏み込みに躊躇するミドル層は少なくないと思いますが、その点はどう考えればよいでしょうか。

吉田 私が見聞きする限り、多くのマネジャーはバランスを取る以前にそもそもほとんど踏み込んでいないと感じます。「営業職としてこれだけはやってこい!」といった押し付け的な指示はしている一方、「俺なりにお前の人生を本当に考えて、こう思ってるんだ」という相手のことを考え尽くした上での提案はあまりできていない。メンバーの5年後、10年後の人生を考えて仮説を投げることは、押し付けではないし、パワハラでもありません。マネジャーにそういう関わり方をされて嬉しかったという話は若いビジネスパーソンからも聞きますし、世代を問わずマネジャーがメンバーにやれることだと思います。もちろん「お前のためだぞ」と相手のことを考えているふりをしながら、結局自分の言いたいことを言っているだけの場合は、全くメンバーに響かないと思いますけどね。

人が人に向き合い続ける世界を、いかに取り戻すか

——ここまで「観察」や「胆力」、そして「踏み込み」の重要性について議論してきました。いずれも人間にしかできない営みだと思いますが、AI時代において人間が大切にすべきことについて改めてお二人の総括をお聞かせください。

吉田 今問われているのは「我々は何を目指して生きているのか」だと思います。何を幸せと感じながら生きていくのか。親世代は物質的な豊かさを求めていたし、良い大学に行き良い会社に入り家を持つのが幸せとされる時代もありました。そこから幸せの概念が広がり、物差しが複雑化する中で、「幸せとは何か」を誰もが問い直す時代に入っています。

ただ、幸せのあり方がいかに多様化しても、その根源には「人は一人では生きられず、他者との関わりを求めている」という普遍的な欲求があると思います。

AIが得意なのは、決められた方向への最適化。一方、人間は考えや生き方が絶えず揺らぎます。働き方も揺らぎます。その揺らぎこそが人間らしさであり、揺らぎながら他者と結びつくことに根源的な喜びがある。それを踏まえ、職場は働く人たちが根源的な喜びを感じられる場としてデザインすべきだと思います。AIでタスクを最適化しても、人間的な渇きは満たされない。最適化すればするほど、それまで以上のタスクがやってくるだけですから。

我々は仕事においても、自分が何に喜びを感じるかを突き詰めていく。組織はそれを支える場を作る。その象徴として1on1が位置づけられるといいですよね。人間らしい時間を他者と持ち続ける場として。

こがねん 吉田さんの話を聞きながら思ったのですが、これから自分が好きなものに向かっていく潮流は強まるでしょうね。

これは個人的に発見したことなのですが人に「好きなこと」や「楽しいこと」について、「なぜそれが好きなの?」「なぜそれが楽しいの?」と聞いていくと、最初は「カッコいいから」とか「報酬がいいから」とか「夢中になれるから」など色々と理由を答えるんですけど、「なぜ? なぜ?」と掘り下げると、みな最後に言うのは「なんか好きだから」「なんか楽しいから」となるんです。「なぜ」を深掘りすると、最終的には明確な理由がなくなる。僕はその瞬間を見るのがすごく好きで(笑)。その「なんか好き」「なんか楽しい」という説明できない根源的感覚を、誰もが研ぎ澄ましていく時代になるのだろうと思います。

ただ、それと同時に、嫌いなものへの興味関心を失ったり、嫌いなものに関わらなくても済むようになる流れも強まりそうです。一人でやれることが増え、個人主義が強まると、他の人と一緒に何かを楽しんだり、美しいものを追求したりする機会が減っていく。

好きなものに向き合える自由と引き換えに、他者と向き合う力が衰えていくおそれがある。だからこそ、1on1のような人間臭い場が大事になってくるのではないでしょうか。

——1on1は他者と向き合う貴重な場ですが、時には居心地の悪さに踏みとどまる胆力が求められます。その胆力の向上をAIがサポートすることは可能でしょうか。それとも胆力は、筋トレのごとく人間が経験を通じて磨くしかないのでしょうか。

吉田 筋トレのように自分で鍛えるしかないと思いますよ。胆力を持って相手に向き合うというのは、その関係に責任を持つということとも言えますよね。AIは責任を取ってくれません。自分のことを真剣に考えてくれて、いざという時に責任も取ってくれる。そういう相手でなければ、人は心を開かないと思います。

こがねん 「あなたに興味関心を持っている」「あなたのことを気にかけている」という姿勢を示すことが、異なる人間同士が同じ場所にいる意味であり、価値です。その姿勢を示す出発点が「観察」だからこそ、観察という行為は人間が諦めてはいけないし、その胆力は磨き続けるしかない。

面倒な関わりを避ける、関係性が希薄化する世の中にどんどんなっていますけど、胆力をもって人と人とが関わり合う世界をいかに取り戻すか。私たちが人や組織と向き合う中で、模索し続けていきたいと思っています。

🔹対談前編はこちら


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AIに「失敗」をデザインしてもらう


——前編では1on1におけるAI活用の是非を議論し、「AIに何を任せたと認識しているか、その自覚が重要」という点で一定の合意が見られました。後編ではAIと人間の共存について、さらに落とし所を探っていきたいと思います。

こがねん 「メンバーを経験学習ができる人材に導くことが1on1の一つのゴールである」といったお話しましたが、経験学習には失敗が欠かせません。1on1を続ける中で「うまくいかないな……」と悩むことがありますよね。その悩みこそ経験学習の出発点であり、私は「遠回りに見える近道」と呼んでいます。

だからこそ、1on1を効率化してうまくやろうとせず、まずは失敗すればいいのに、と思うんです。極論すれば、もっとマネジャーとメンバーは喧嘩した方がいい。異なる意見をガンガンぶつけ合いながら向き合うことに価値があると思いますし、AIが便利だからといって、その最も人間臭いコミュニケーションもスマートにしすぎちゃっていいんですか?  と感じます。

吉田 「失敗」は大事なキーワードですよね。失敗というのは、意志を持って取り組んだことがうまくいかなくて初めて「失敗」になる。1on1を無意味だと思いながら30分座り続けても、それは失敗ですらない。ただ無意味な時間が過ぎただけで、「うちの会社、イケてないよね」という感想が出て終わりです。最初は「意味があるからやれ」と言われて始めたとしても、続けていくうちに「この時間にはどんな意味があるんだろう」と自分で探し始める。その姿勢があって初めて、うまくいかなかった時に「失敗」と呼べるんだと思います。

こがねん 確かにそうかもしれません。今のお話を経験学習に引きつけると、マネジャーもメンバーもまずは「やり続ける」という経験のサイクルに乗ることが大事だと思います。何かしらのサポートの下に続けてみるものの、うまくいかないこともあり、ちゃんと失敗もする。経験、失敗、失敗からの学び——まさに経験学習ですが、その失敗を含むサイクルをデザインするためにAIを使う。これが1on1のような「人間臭い営み」にとって、ちょうど良いAIと人間のコラボかもしれませんね。

——AIは「正解」を迅速に出し、コスパやタイパを高めるためのツールと認識されているので、「失敗」の対極的な存在とも言えますよね。失敗を取り払うために使われるものというか。

こがねん そうですよね。でも、AIを導入すればあらゆることが解決するかといえば、そんなことはなくて、新たな課題は課題は生まれ続けます。なぜ解決しないかといえば、人間が面倒くさいから。その不完全さこそが人間らしくて愛くるしい。AIが広まっても、そういう人間臭さが消えない世界であってほしいんです。

吉田 すごく共感します。僕は1on1を「人間観を豊かにする場」だと思っていて、観察を続けていると、「この人、こんなパターンがあるのか」とか「今日は思った以上に俺の一言がハマった」とか「今日めっちゃ本音を言ってくれたけど、何だったんだろう」とか、相手に対する見方が豊かになっていく。人が人と向き合い、相手に「観察」の眼差しを向ける中で、人の可能性を信じられる瞬間がある。

「人間がAIに代替される」という話がありますが、それは人間を組織の「機能」として捉えた先に生まれる発想だと思います。AIを使いこなして組織の機能としてのパフォーマンスを高めれば、生産性は上がるかもしれない。でも、機能として存在する自分自身は果たして幸せなのか。僕はそうは思いません。

人間という生き物は変数が多くて、それこそが幸せや豊かさを生み出す源泉になっている。1on1はそういうことを感じられる象徴的な場であってほしいと願っています。

「居心地の悪さ」に踏みとどまれ

——相手を観察し、向き合い続けることが人間にしかできない営みであり、その重要性がかつてなく高まっている。この点においてお二人の考えは一致しているように思いますが、そう考えると、「1on1が上手い人」とは、卓越したコミュニケーションスキルを備えた人というより、相手を観察し続けられる胆力を持った人、ということになりそうですね。

こがねん そうかもしれませんね。最近読んだ『対立の炎にとどまる』という本がまさに対話の本質を突いていて、居心地の悪い状態に踏みとどまれるかどうかが大事だと説いています。今日も私が記事にいちゃもんをつけたことで吉田さんに呼び出され、何を言われるんだろうと不安と居心地の悪さを抱えながら、ここまで来ました(笑)。

吉田 いやいや(笑)。

こがねん ただ、意見や立場が異なっても、率直な思いを話し合えば、互いに新たな景色が見えるのではないかと思っていて。

ZOZOで働いていたときのことです。問題児扱いされていた社員の扱いにマネジャーが困り果て、人事の私が代わりに1on1をやることになりました。当然、本人も「なんで人事と1on1しなきゃいけないんですか」と怒っていましたが、「まあまあ、定期的に話しましょう」となだめて始めたんです。すると、最初は全然話してくれなかったのが、続けていくうちに徐々に心を開いてくれるようになりました。「この人、立場は異なるけれども、自分のことを気にかけてるな」と感じてくれたのだと思います。

家族も同じですよ。娘はいま中学生で、まさに親がうっとうしい時期。私が目を向けると「何見てんのよ?」と言われて、「見るのもダメなのか……」とヘコみますが(笑)、そこで距離を置いてしまうと、親子関係における大切な何かが途切れてしまう。だから娘に文句を言われても、彼女の様子を気にかけるようにしています。その積み重ねの中で「親は私のこと気にかけてくれている」と感じてくれたらいいな、と。

対話すること自体も大事ですが、それ以上に大事なのは対話的な関係性を諦めないこと。「この人は何を思っているのかな」と想像し続けること。先ほど胆力という話がありましたが、何に対する胆力かといえば、自分以外の人に興味関心を持ち続けることへの胆力なんだろうなと思います。

「引き出す」より「踏み込む」

——前編でこがねんさんは、1on1の目的として「相手と向き合うこと」、そしてゴールとして「メンバーを経験学習ができる人材に導くこと」とお話しされていました。その両者はどう結びつくのでしょうか。

こがねん 別物といえば別物ですが、あえて結びつけるとしたら、人は他者から関心を向け続けられると、自分自身にも関心を向けざるを得なくなると思うんです。観察されている、気にかけられている。その中で問いかけられると、自分と向き合わざるを得なくなります。

吉田 僕の場合は、関心を向けられているというより、全力で踏み込まれている感じでしたけどね(笑)。

前編でもお話ししましたが、リクルート時代、マネジャーとの1on1で「だってお前、こういう生き方したいって言ってたじゃん!」「これ、お前の人生にとって大事なんでしょ?」と全力で投げつけられるんです。しかも言われることは全部図星だから、「逃げられないな」と。

こがねん マネジャーは吉田さんのことを継続的に観察して、その蓄積から問いを投げてくるわけですよね。「お前、以前こう言ってたよね」みたいな(笑)。

吉田 そうなんです。「吉田さ、前期で目標達成を諦めたときに、"すごくかっこ悪かった"と落ち込んでたじゃん。今期もまた逃げて、同じことを期末に言う姿を私は見たくないんだけど」とか言われるんですよ。「僕もそんな姿を見せたくないです……。見せたくないけど、今から仕事のやり方を変えるのは難しいし、どうしましょう……」みたいな(笑)。ぐうの音も出ないわけですが、今思えばここまでしっかり向き合ってもらって、本当にありがたかったな、と。

昨今、1on1ではメンバーの言葉を引き出すことが何より重要である、という風潮が強まっていますが、僕はむしろもっと踏み込んだ方がいいのではないかと思うんです。

こがねん いいですね〜。

吉田 「お前こう言ってたじゃん! 俺、お前の人生についてすごく真剣に考えて、こうなった方がいいと思ったんだけど、どうかな?」みたいな。

こがねん 超攻撃型のコーチング(笑)。「あなたはどうしたいの?」みたいなソフトな問いかけではなく。

吉田 そうです(笑)。めちゃくちゃメンバーのことを真剣に考えた形跡があって、「俺、お前の将来についてじっくり考えてみて、こうした方が良いと思ったんだけど、どう思う?」と言われたら、メンバーの側も「あざっす!」ってなりますよね。

——「踏み込み」の重要性は理解しつつも、ハラスメント防止とのバランスに悩む管理職もいそうです。特に若い世代への踏み込みに躊躇するミドル層は少なくないと思いますが、その点はどう考えればよいでしょうか。

吉田 私が見聞きする限り、多くのマネジャーはバランスを取る以前にそもそもほとんど踏み込んでいないと感じます。「営業職としてこれだけはやってこい!」といった押し付け的な指示はしている一方、「俺なりにお前の人生を本当に考えて、こう思ってるんだ」という相手のことを考え尽くした上での提案はあまりできていない。メンバーの5年後、10年後の人生を考えて仮説を投げることは、押し付けではないし、パワハラでもありません。マネジャーにそういう関わり方をされて嬉しかったという話は若いビジネスパーソンからも聞きますし、世代を問わずマネジャーがメンバーにやれることだと思います。もちろん「お前のためだぞ」と相手のことを考えているふりをしながら、結局自分の言いたいことを言っているだけの場合は、全くメンバーに響かないと思いますけどね。

人が人に向き合い続ける世界を、いかに取り戻すか

——ここまで「観察」や「胆力」、そして「踏み込み」の重要性について議論してきました。いずれも人間にしかできない営みだと思いますが、AI時代において人間が大切にすべきことについて改めてお二人の総括をお聞かせください。

吉田 今問われているのは「我々は何を目指して生きているのか」だと思います。何を幸せと感じながら生きていくのか。親世代は物質的な豊かさを求めていたし、良い大学に行き良い会社に入り家を持つのが幸せとされる時代もありました。そこから幸せの概念が広がり、物差しが複雑化する中で、「幸せとは何か」を誰もが問い直す時代に入っています。

ただ、幸せのあり方がいかに多様化しても、その根源には「人は一人では生きられず、他者との関わりを求めている」という普遍的な欲求があると思います。

AIが得意なのは、決められた方向への最適化。一方、人間は考えや生き方が絶えず揺らぎます。働き方も揺らぎます。その揺らぎこそが人間らしさであり、揺らぎながら他者と結びつくことに根源的な喜びがある。それを踏まえ、職場は働く人たちが根源的な喜びを感じられる場としてデザインすべきだと思います。AIでタスクを最適化しても、人間的な渇きは満たされない。最適化すればするほど、それまで以上のタスクがやってくるだけですから。

我々は仕事においても、自分が何に喜びを感じるかを突き詰めていく。組織はそれを支える場を作る。その象徴として1on1が位置づけられるといいですよね。人間らしい時間を他者と持ち続ける場として。

こがねん 吉田さんの話を聞きながら思ったのですが、これから自分が好きなものに向かっていく潮流は強まるでしょうね。

これは個人的に発見したことなのですが人に「好きなこと」や「楽しいこと」について、「なぜそれが好きなの?」「なぜそれが楽しいの?」と聞いていくと、最初は「カッコいいから」とか「報酬がいいから」とか「夢中になれるから」など色々と理由を答えるんですけど、「なぜ? なぜ?」と掘り下げると、みな最後に言うのは「なんか好きだから」「なんか楽しいから」となるんです。「なぜ」を深掘りすると、最終的には明確な理由がなくなる。僕はその瞬間を見るのがすごく好きで(笑)。その「なんか好き」「なんか楽しい」という説明できない根源的感覚を、誰もが研ぎ澄ましていく時代になるのだろうと思います。

ただ、それと同時に、嫌いなものへの興味関心を失ったり、嫌いなものに関わらなくても済むようになる流れも強まりそうです。一人でやれることが増え、個人主義が強まると、他の人と一緒に何かを楽しんだり、美しいものを追求したりする機会が減っていく。

好きなものに向き合える自由と引き換えに、他者と向き合う力が衰えていくおそれがある。だからこそ、1on1のような人間臭い場が大事になってくるのではないでしょうか。

——1on1は他者と向き合う貴重な場ですが、時には居心地の悪さに踏みとどまる胆力が求められます。その胆力の向上をAIがサポートすることは可能でしょうか。それとも胆力は、筋トレのごとく人間が経験を通じて磨くしかないのでしょうか。

吉田 筋トレのように自分で鍛えるしかないと思いますよ。胆力を持って相手に向き合うというのは、その関係に責任を持つということとも言えますよね。AIは責任を取ってくれません。自分のことを真剣に考えてくれて、いざという時に責任も取ってくれる。そういう相手でなければ、人は心を開かないと思います。

こがねん 「あなたに興味関心を持っている」「あなたのことを気にかけている」という姿勢を示すことが、異なる人間同士が同じ場所にいる意味であり、価値です。その姿勢を示す出発点が「観察」だからこそ、観察という行為は人間が諦めてはいけないし、その胆力は磨き続けるしかない。

面倒な関わりを避ける、関係性が希薄化する世の中にどんどんなっていますけど、胆力をもって人と人とが関わり合う世界をいかに取り戻すか。私たちが人や組織と向き合う中で、模索し続けていきたいと思っています。

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執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

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