ホーム
組織を動かす
なぜ「正論」に人は心を閉ざすのか。反対派を味方に変える「伝え方」の極意
なぜ「正論」に人は心を閉ざすのか。反対派を味方に変える「伝え方」の極意

なぜ「正論」に人は心を閉ざすのか。反対派を味方に変える「伝え方」の極意

息子が通う小学校のPTA会長を3年間務めた政治学者・岡田憲治氏。民主主義の研究者による「フィールドワーク」は、机上の世界と現実の差を痛感する経験となった。その様子は著書『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版)で赤裸々に綴られている。

徹底した前例主義、強力な人間関係の磁場——「魔界」とも評されるPTAで、組織改革を唱える岡田氏の「正論」はPTAメンバーから猛反発を受けた。挫折を経た岡田氏は「その場の理(ルール)」への理解を深め、PTAメンバーや学校関係者らと、時に情熱的に、時にアクロバティックに対話を重ねていく。

今回、当時の経験をユーモアを交えながら振り返る岡田氏に合意形成の本質を尋ねた。その答えは、シンプルながら、現代のビジネスリーダーには不可欠と言えるものだった——。

✒️シリーズ「ディープ・コンセンサス

多様な価値観を持つメンバーが集まる現代の組織では、表面的な妥協ではなく本質的な合意を築く力が、ミドルマネジャーやビジネスリーダーに求められています。本シリーズでは、ビジネス、政治、地域社会の現場で対話を重ね、「深い合意」を実現してきた実践者たちの知見を紹介します。

目次

「本音なんて言えない!」ママたちの本心

――PTA会長として組織改革に取り組まれた際、最初はうまくいかなかったそうですね。

岡田 まさに挫折と失敗の連続でした。例えば、会長就任当時の役員会。メンバーのママたちが延々とお喋りを続け、数時間経っても何も決まらないのを呆然と眺めていました。

そこであるとき提案したんです。「議題、報告事項、その他項目に分けて話しませんか? イシューを整理しないと話がまとまらないですよね」と。ママたちはポカーンですよ。

大学の教授会では当たり前のことが、PTAでは全く通じない。「アジェンダセッティング(議題設定)」なんて言葉を使った日には、完全に心を閉ざされてしまいました。

――必要な整理にも思えますが、敬遠されてしまった。どこに問題があったのでしょうか。

岡田 世の中には環境に依存する合理というものが存在します。いわば特定のエリアにおける暗黙のルール。私はそれを「生活の理(ことわり)」と呼んでいます。

PTAは「ことわり」で動いている。外から見たら不合理かもしれないが、徹底した前例主義の中でママたちは献身的に活動している。人間関係が崩れないように細心の注意を払いながら。そこに「大学教授」が乗り込んできて、日常生活では耳にしない言葉で「正論」を吐く。ママたちはこれまでの苦労や努力が否定されたように感じてしまう。これですよ。

象徴的な例がPTAメンバーのLINEです。画面上ではママたちが和気藹々のやり取りを繰り広げている。和を乱すことは誰も言わない。なのに、私との会話で人間関係の愚痴をこぼすママもいます。彼女らがそれなりに「本音」で話してくれていると思い込んでいた私は、一部のママに正論を浴びせました。「嫌なら嫌だと言えば良いじゃないか! 子供じゃないんだから!」と。「本音を言うなんて無理だから!」と真っ向から反論されました。

妻に話したら、呆れてましたよ。「LINEのやり取りは、人間関係でハレーションを起こさないための努力なの。社会で立場が確立されたオヤジは、その辺をわかってないんだよな〜」って(笑)。

――社会的な「強者」である岡田さんには気づきにくい機微があった、と。

岡田 現実として、年齢、性別、職業など私の属性は社会的に認知を受けやすく、意見も通りやすい。だから正論も口にできる。そこを見過ごし、異なる属性のママたちに自分の価値観を押し付け、失敗を繰り返しました。

それを理解してからは、自らの属性の強みをママたちのために使うようにしました。例えば教育委員会との交渉。PTAのママが連絡してもけんもほろろなのに、私が電話で大学教授を名乗ると、「上席に変わります」と話が進む。「やっぱり、オカケン(岡田さんの愛称)は使えるわ〜」とママたちは大喜びです(笑)。

ただ、こういうときほど気を引き締めなくてはなりません。「俺はただ単に属性で得をしているだけ。間違っても、自分が立派な人間などと誤解してはならない」。自分自身に100万回そう言い聞かせています。

――岡田さんの「正論」は慣例的に行われてきたPTA活動の非合理を突くものですが、活動を続ける中で、自分の正しさを突き通すより、ママたちの「ことわり」を尊重する方が望ましいと考えを変化させています。そのきっかけは?

岡田 色々ありますが、一つはベルマークです。PTA会費は余っているのに、平日昼間にたくさんのママが集まって、シールを張って、1日の利益がたった3500円。極めて生産性が低く、「マジで何やってんの?」と思いました。

ところが、仲の良いママ友はこう言うんです。「あの集まりは、ママ同士で旦那とその実家の悪口を言ってすごく気分がすっきりする場。あれがなくなると、世の中のバランスが崩れますから」。なるほど、そういう機能があったのかと目から鱗が落ちました。

一部のデキる人たちは「改革」をポジティブに捉えがちですが、その実、必ずしも歓迎されるわけではありません。現実にはストレスを感じる人の方が大半です。先進的な組織で働いてきた人はそのことを見過ごしやすい。

実際、「PTAなんてレベルが低い」と1年で辞めていく人もいます。階級、職業、属性、個々人の歴史——その違いを乗り越え、合意形成することは本当に難しい。でも、世の中で多くの人から力を引き出している人は、みんなその壁を乗り越えているんです。

📝 Memo ベルマーク活動

1960年開始の学校支援制度。商品や資源回収で集めたマークを協賛会社別・点数別に仕分けして財団へ送り、1点=1円として学校の「ベルマーク預金」になる。協賛会社は年度で増減(近年は約45社)、対象カテゴリは食品・飲料・学用品・日用品・インク/紙パック等と多岐にわたる。

決定に敗れた側への配慮が一体感を生む

――難しい合意形成を成功させるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

岡田 これは政治学者としての意見ですが、合意形成で最も大事なことは「決定に敗れた人たち」の負のエネルギーを建設的な方向へとコンバートさせることです。

40人のクラスで文化祭の出し物を決める場面を想像してください。28人が「焼きそば屋」、12人が「ダンスイベント」をやりたいと手を挙げたとします。

多数決で「焼きそば屋」に決まりますが、このとき「ダンス」を選んだ12人の気持ちはどうなるでしょうか。「自分たちの意見が無視された」と感じれば、その不満は不信に変わっていく。不信は非協力につながり、最終的に全体のパフォーマンスが下がる。多数決で「勝った」はずの28人も、12人の非協力的な態度に悩まされることになるかもしれません。

――では、少数派の12人をどう扱うべきなのでしょうか。

岡田 「来年は、まずダンス企画を検討しましょう」「ダンス派のみなさんに広報動画を作っていただけませんか」。こうした選択肢を一緒に考えるんです。すると12人も「私たちの声も無意味ではなかった」「組織の中での役割がある」と感じられるようになる。これが真の合意形成です。

合意形成を「妥協」と理解するのは根本的な誤解。いつもそうできる保証はありませんが、その本質は「新しい選択肢の創造」です。

――多数決は民主的な意思決定の方法と考えられていますが、合意形成の方法としては最適ではないわけですね。

岡田 それはそうでしょう。28対12という数字は、合意が形成できたことを示しているわけではありません。ただ単に、「数の大小に基づき合意したことにする」という慣例に過ぎないわけです。

また、「民主主義って多数決のことですよね」と聞かれることがありますが、それも誤解です。デモクラシーの本質は、「1人でも多くの人間の持っている力をどうしたら引き出せるか」ということについて知恵を絞ることです。

勉強ができる人もいれば、人との折衝が上手な人もいる。大半の人が挫折する砂を噛むような虚しい仕事を奥歯を噛み締めることなく黙々と続けられる人もいる。そういう一人ひとりの異なる力を最大限に引き出すために合意を作っていくことが、デモクラシーの目指すところです。

個性の異なる人たちを包含し、一人称複数代名詞である「我々」という名の共同性をどう醸成するか。リーダーにはそのような想像力や包容力が必要です。

――「決定事項にメンバーが腹落ちしていない」ということは企業でも起き得ます。その状況で組織のリーダーに求められることは何でしょうか。

岡田  言葉選びが決定的に重要です。少数派を見捨てず、自分たちも同じ組織の仲間である、という意識をいかに持ってもらうか。

「この決定がうまくいくとしたら、それは夢を描いてくれた人たち(多数派)だけでなく、その方向に進むことへのリスクを指摘してくれた人(少数派)たちのおかげでもあります。また、全ての決定はテンポラリー(一時的)なもの。条件が変われば見直します」

こうした言葉を届けることができれば、反対派の人たちも納得します。「今回は残念だったけれど、自分たちの議論は無駄じゃなかった」と。

だからこそ、リーダーにはパラフレーズする能力が強く求められます。相手の心が開く、ポジティブな言い換え。「その悩みは私も共有しているよ」という、少数派の孤独を癒すニュアンスを込めることが望ましい。

リーダーは、そういうワードチョイスを四六時中考えた方が良いでしょう。それができると、相手から引き出せるパワーやエネルギーがまったく変わってきます。

‍(構成:下元陽、編集協力:樫本倫子、撮影:南 阿沙美)

🔹インタビュー後編では、いま世の中で疎んじられる「しがらみ」について、岡田先生にその価値を聞きました。こちらも併せてご覧ください。

『私たちはなぜ「しがらみ」を必要とするのか。「名もなき人間関係」の意外な価値』(12/4木 公開予定)

🔹シリーズ「ディープ・コンセンサス」の過去記事はこちら

「本音なんて言えない!」ママたちの本心

――PTA会長として組織改革に取り組まれた際、最初はうまくいかなかったそうですね。

岡田 まさに挫折と失敗の連続でした。例えば、会長就任当時の役員会。メンバーのママたちが延々とお喋りを続け、数時間経っても何も決まらないのを呆然と眺めていました。

そこであるとき提案したんです。「議題、報告事項、その他項目に分けて話しませんか? イシューを整理しないと話がまとまらないですよね」と。ママたちはポカーンですよ。

大学の教授会では当たり前のことが、PTAでは全く通じない。「アジェンダセッティング(議題設定)」なんて言葉を使った日には、完全に心を閉ざされてしまいました。

――必要な整理にも思えますが、敬遠されてしまった。どこに問題があったのでしょうか。

岡田 世の中には環境に依存する合理というものが存在します。いわば特定のエリアにおける暗黙のルール。私はそれを「生活の理(ことわり)」と呼んでいます。

PTAは「ことわり」で動いている。外から見たら不合理かもしれないが、徹底した前例主義の中でママたちは献身的に活動している。人間関係が崩れないように細心の注意を払いながら。そこに「大学教授」が乗り込んできて、日常生活では耳にしない言葉で「正論」を吐く。ママたちはこれまでの苦労や努力が否定されたように感じてしまう。これですよ。

象徴的な例がPTAメンバーのLINEです。画面上ではママたちが和気藹々のやり取りを繰り広げている。和を乱すことは誰も言わない。なのに、私との会話で人間関係の愚痴をこぼすママもいます。彼女らがそれなりに「本音」で話してくれていると思い込んでいた私は、一部のママに正論を浴びせました。「嫌なら嫌だと言えば良いじゃないか! 子供じゃないんだから!」と。「本音を言うなんて無理だから!」と真っ向から反論されました。

妻に話したら、呆れてましたよ。「LINEのやり取りは、人間関係でハレーションを起こさないための努力なの。社会で立場が確立されたオヤジは、その辺をわかってないんだよな〜」って(笑)。

――社会的な「強者」である岡田さんには気づきにくい機微があった、と。

岡田 現実として、年齢、性別、職業など私の属性は社会的に認知を受けやすく、意見も通りやすい。だから正論も口にできる。そこを見過ごし、異なる属性のママたちに自分の価値観を押し付け、失敗を繰り返しました。

それを理解してからは、自らの属性の強みをママたちのために使うようにしました。例えば教育委員会との交渉。PTAのママが連絡してもけんもほろろなのに、私が電話で大学教授を名乗ると、「上席に変わります」と話が進む。「やっぱり、オカケン(岡田さんの愛称)は使えるわ〜」とママたちは大喜びです(笑)。

ただ、こういうときほど気を引き締めなくてはなりません。「俺はただ単に属性で得をしているだけ。間違っても、自分が立派な人間などと誤解してはならない」。自分自身に100万回そう言い聞かせています。

――岡田さんの「正論」は慣例的に行われてきたPTA活動の非合理を突くものですが、活動を続ける中で、自分の正しさを突き通すより、ママたちの「ことわり」を尊重する方が望ましいと考えを変化させています。そのきっかけは?

岡田 色々ありますが、一つはベルマークです。PTA会費は余っているのに、平日昼間にたくさんのママが集まって、シールを張って、1日の利益がたった3500円。極めて生産性が低く、「マジで何やってんの?」と思いました。

ところが、仲の良いママ友はこう言うんです。「あの集まりは、ママ同士で旦那とその実家の悪口を言ってすごく気分がすっきりする場。あれがなくなると、世の中のバランスが崩れますから」。なるほど、そういう機能があったのかと目から鱗が落ちました。

一部のデキる人たちは「改革」をポジティブに捉えがちですが、その実、必ずしも歓迎されるわけではありません。現実にはストレスを感じる人の方が大半です。先進的な組織で働いてきた人はそのことを見過ごしやすい。

実際、「PTAなんてレベルが低い」と1年で辞めていく人もいます。階級、職業、属性、個々人の歴史——その違いを乗り越え、合意形成することは本当に難しい。でも、世の中で多くの人から力を引き出している人は、みんなその壁を乗り越えているんです。

📝 Memo ベルマーク活動

1960年開始の学校支援制度。商品や資源回収で集めたマークを協賛会社別・点数別に仕分けして財団へ送り、1点=1円として学校の「ベルマーク預金」になる。協賛会社は年度で増減(近年は約45社)、対象カテゴリは食品・飲料・学用品・日用品・インク/紙パック等と多岐にわたる。

決定に敗れた側への配慮が一体感を生む

――難しい合意形成を成功させるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

岡田 これは政治学者としての意見ですが、合意形成で最も大事なことは「決定に敗れた人たち」の負のエネルギーを建設的な方向へとコンバートさせることです。

40人のクラスで文化祭の出し物を決める場面を想像してください。28人が「焼きそば屋」、12人が「ダンスイベント」をやりたいと手を挙げたとします。

多数決で「焼きそば屋」に決まりますが、このとき「ダンス」を選んだ12人の気持ちはどうなるでしょうか。「自分たちの意見が無視された」と感じれば、その不満は不信に変わっていく。不信は非協力につながり、最終的に全体のパフォーマンスが下がる。多数決で「勝った」はずの28人も、12人の非協力的な態度に悩まされることになるかもしれません。

――では、少数派の12人をどう扱うべきなのでしょうか。

岡田 「来年は、まずダンス企画を検討しましょう」「ダンス派のみなさんに広報動画を作っていただけませんか」。こうした選択肢を一緒に考えるんです。すると12人も「私たちの声も無意味ではなかった」「組織の中での役割がある」と感じられるようになる。これが真の合意形成です。

合意形成を「妥協」と理解するのは根本的な誤解。いつもそうできる保証はありませんが、その本質は「新しい選択肢の創造」です。

――多数決は民主的な意思決定の方法と考えられていますが、合意形成の方法としては最適ではないわけですね。

岡田 それはそうでしょう。28対12という数字は、合意が形成できたことを示しているわけではありません。ただ単に、「数の大小に基づき合意したことにする」という慣例に過ぎないわけです。

また、「民主主義って多数決のことですよね」と聞かれることがありますが、それも誤解です。デモクラシーの本質は、「1人でも多くの人間の持っている力をどうしたら引き出せるか」ということについて知恵を絞ることです。

勉強ができる人もいれば、人との折衝が上手な人もいる。大半の人が挫折する砂を噛むような虚しい仕事を奥歯を噛み締めることなく黙々と続けられる人もいる。そういう一人ひとりの異なる力を最大限に引き出すために合意を作っていくことが、デモクラシーの目指すところです。

個性の異なる人たちを包含し、一人称複数代名詞である「我々」という名の共同性をどう醸成するか。リーダーにはそのような想像力や包容力が必要です。

――「決定事項にメンバーが腹落ちしていない」ということは企業でも起き得ます。その状況で組織のリーダーに求められることは何でしょうか。

岡田  言葉選びが決定的に重要です。少数派を見捨てず、自分たちも同じ組織の仲間である、という意識をいかに持ってもらうか。

「この決定がうまくいくとしたら、それは夢を描いてくれた人たち(多数派)だけでなく、その方向に進むことへのリスクを指摘してくれた人(少数派)たちのおかげでもあります。また、全ての決定はテンポラリー(一時的)なもの。条件が変われば見直します」

こうした言葉を届けることができれば、反対派の人たちも納得します。「今回は残念だったけれど、自分たちの議論は無駄じゃなかった」と。

だからこそ、リーダーにはパラフレーズする能力が強く求められます。相手の心が開く、ポジティブな言い換え。「その悩みは私も共有しているよ」という、少数派の孤独を癒すニュアンスを込めることが望ましい。

リーダーは、そういうワードチョイスを四六時中考えた方が良いでしょう。それができると、相手から引き出せるパワーやエネルギーがまったく変わってきます。

‍(構成:下元陽、編集協力:樫本倫子、撮影:南 阿沙美)

🔹インタビュー後編では、いま世の中で疎んじられる「しがらみ」について、岡田先生にその価値を聞きました。こちらも併せてご覧ください。

『私たちはなぜ「しがらみ」を必要とするのか。「名もなき人間関係」の意外な価値』(12/4木 公開予定)

🔹シリーズ「ディープ・コンセンサス」の過去記事はこちら

Kakeai資料3点セットダウンロード バナーKakeai資料3点セットダウンロード バナー
執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

記事一覧
LINE アイコンX アイコンfacebool アイコン

関連記事