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1on1の準備をAIに任せたら、負担は激減し満足度は向上した——語学サービス企業の実例
1on1の準備をAIに任せたら、負担は激減し満足度は向上した——語学サービス企業の実例

1on1の準備をAIに任せたら、負担は激減し満足度は向上した——語学サービス企業の実例

人事図書館館長・吉田洋介さんによる連載第7回。今回のテーマは「1on1へのAI活用」です。対話の質の向上、工数削減、成果創出、形骸化防止——。1on1に立ちはだかる様々な壁を、生成AIで乗り越えつつある語学サービス企業の事例を紹介します。

目次

どの会社でも起こる1on1の形骸化

メンバーの成長支援やエンゲージメント向上のために、1on1を導入する企業は年々増えています。

導入当初は「対話を通じて成長を支える」「心理的安全性を高める」といった期待が語られますが、数年経つと次のような声が聞こえてくることが少なくありません。

 💬 上司によって1on1の内容も進め方もばらばらである
 💬 雑談や業務の進捗確認だけで終わってしまう
 💬 上司が一方的に話し、メンバーは聞き役になってしまう
 💬 メンバーが悩みや希望を話しても、その後何も変わらない


こうした状況が続くと、メンバーの側には「結局話してもあまり変わらない」「評価に響きそうで本音は言いにくい」といった感覚が生まれ、1on1は義務的に参加する場になりがちです。

一方、上司側も「とりあえず時間だけは確保しているが、毎回何を話せばよいか悩む」「メンバーが受け身で、深い話に入っていきにくい」と負担を感じるようになります。

結果として、せっかく時間と工数をかけているにもかかわらず、1on1がメンバーの成長支援という本来の目的から離れ、形骸化してしまうケースが多く見られます。

英会話サービスA社の取り組みと成果

こうした課題に対し、AIを活用し、1on1の工数削減と質の向上を同時に実現した語学サービス企業A社の事例を紹介します。

🟥 問題意識

A社では、メンバーの成長支援を目的に、3年前から全社で1on1を導入していました。しかし、次第に多くの企業と同じ課題に直面するようになりました。


 ❌ 上司によって1on1の内容や深さが大きく異なり、一部で大きな不満になっている
 ❌ 上司も支援したいと思っているが、多忙なため準備が不十分な状態で臨んでいる
 ❌ 結果として、仕事の相談や進捗確認の場になり、「成長が支援されている」とは言い難い状況に陥っている


1on1の全社推進を担う人事課長も、管理職向けの研修や進行マニュアルの作成などの施策を講じてきました。しかし、「上司ごとのバラつき」を均していくことの難しさを感じ始め、社長からも「これだけ工数をかけているわりに、成長促進につながっているように見えない。業務時間をひっ迫することにもなるのでいっそ1on1はやめた方がいいのではないか」という声が上がっていました。

A社の人事担当者は、1on1の現状と課題を次のように整理しました。

 🔴 上司のスキルやスタイルによって、1on1の質の差が大きい
 🔴 メンバーが十分に準備できておらず、なりゆき的な会話や業務相談になりがちである
 🔴 上司・メンバー双方の工数が大きく、日常業務を圧迫している

この三つを同時に解決しない限り「形骸化の流れは変えられない」と考えたことが改革に取り組む出発点となりました。

🟦 取り組んだこと

転機となったのは、人事課長がGeminiのGem機能に着目したことでした。Gemは特定のタスクに特化した専用AIを作成できる機能です。日々の業務効率化にAIを使い始めていた人事課長は、GEMを1on1の準備に使えないかと考えました。

A社が再設計した新しい1on1の流れは、次のようなものです。

 🔵 上司との1on1は、原則30分に短縮(従来は1時間)
 🔵 その代わり、メンバーは1on1開始5〜10分前までにGEMに状況を入力する
 🔵 入力内容は、次の三つに絞る

   ① 今困っていること
   ② 今期の成長目標に対して今週取り組んだこと
   ③ 成長目標に対して次に取り組もうと思っていること


これらを入力すると、AIからはねぎらいのコメントとともに、次の二つが提案されます。

 🔵 今週の1on1で上司と話すとよい推奨テーマ
 🔵 自分の成長につながる「上司への問い」の候補

メンバーはその出力を参考にしながら、上司に投げかける内容を整理して1on1に臨みます。

実際の運用イメージが湧きやすいように、例を一つ紹介します。

メンバーはこの出力結果を1on1前に上司と共有し、画面やメモを見ながら対話を進めます。上司は状況をゼロから聞き出したり、質問内容を考えたりする必要がなくなり、「メンバーの成長にどう関わるか」という本質的な部分に集中できるようになりました。

ともすると業務相談になりそうなテーマでも、成長という観点からAIでサポートを受けることで、業務推進と成長が同時に進む1on1が安定的に行われるようになりました。

🟨 成果、反応

この取り組みにより、A社ではまず、1on1にかかる時間と工数が大きく削減されました。

 ◉ 1回あたりの1on1時間は1時間から30分に短縮
 ◉ メンバーの事前準備も5〜10分に収まり、負担感が軽減


一方で、1on1の満足度は高まっています。メンバーからは次のような声が上がっています。

 💬「短い時間で考えを整理できるので、30分でも十分に深い話ができるようになった」
 💬「自分から問いを投げかける形になるので、進行や内容に迷うことがなくなった」
 💬「成長目標と日々の仕事がつながっている感覚を持てるようになった」


上司側からも様々な評価が寄せられています。

 💬「何を聞けばよいか悩む時間が減り、対話に集中できるようになった」
 💬「メンバーの振り返りが整理された状態で共有され、本音を引き出しやすくなった」
 💬「1on1はこうすればよかったのかと安心して取り組めるようになった」


工数の大幅削減と質の向上が同時に実現されたことで、1on1は「やめるかどうか議論されるもの」から、「メンバーの成長と定着に欠かせないもの」として認識されるようになりました。

離職に関する相談も、以前に比べて突然持ち込まれることが減り、「キャリアについて迷っている」「今後の働き方を考え直したい」といった悩みが、早いタイミングで1on1の場に上がってくるようになったと言います。

🟩 今後に向けて

A社では、GEMを活用した1on1の仕組みを土台に、今後次のような展開を検討しています。

 ✅ 1on1で頻出するテーマや問いをAIで収集・整理し、育成施策や配置検討に生かす
 ✅ 評価面談やキャリア面談と1on1をAIで連動させ、一貫性のある成長支援につなげる


特別な専用システムを開発したわけではなく、「もっとこうなったら理想的」という1on1の姿を起点に、人事担当が既存のGEMを組み合わせて仕組みをつくったことが、この取り組みの特徴です。

1on1の形骸化や工数の重さに悩んでいる企業は少なくありません。A社の事例は、質の向上と時間削減のいずれも諦めず何とかしたいという意志を持った人事担当者が、AIをうまく取り入れることで、「工数削減」と「満足度・成長実感の向上」を同時に実現できたと言えるのではないでしょうか。

1on1 AI活用プロンプト例

以下は1on1をより短時間でメンバーの成長に焦点を当てた設計にするためサポートをするプロンプトです。

使い方

  1. 下記のプロンプト全文をコピーしてください
  2. Claude、Gemini、ChatGPTなどの生成AIに「このプロンプトに従って進めてください」と伝え、コピーしたプロンプトを貼り付けてください
  3. AIが必要な情報( ① 今困っていること、② 今期の成長目標に対して今週取り組んだこと、③ 成長目標に対して次に取り組もうと思っていることなど)を順次質問してきますので、それに答えていくだけで、1on1の準備コメントが生成されます
  4. 生成された準備コメントをたたき台に、上司との1on1を実施することで、成長にフォーカスした時間の使い方に繋がります

※Gemini、ChatGPTなどの思考モードやProモードなど、スピードよりも熟慮を優先するモデルでお試しください。

{

  "title": "1on1準備&振り返り用プロンプト",

  "description": "メンバーが上司との1on1を短時間で成長にフォーカスして準備し、面談後の振り返りまで行うための生成AI用プロンプトです。",

  "prompt": "ーーここからプロンプトーー\n\n【このプロンプトの使い方】\n1. このプロンプト全文をコピーしてください。\n2. Claude、Gemini、ChatGPTなどの生成AIに貼り付け、「このプロンプトに従って1on1の準備と振り返りをサポートしてください」と伝えてください。\n3. 最初に表示される5つの問いに順番に答えていくと、その回答をもとに、下記のアウトプットが自動で作成されます。\n\n【このプロンプトで生成されるアウトプット】\n1. 状況の整理とコメント\n2. 今回の1on1で話すとよいテーマ候補\n3. 上司への問いの候補\n4. 次回1on1までのアクション案\n5. 上司に事前共有するための要約(3〜5行)\n6. 1on1終了後の振り返りメモ(面談後に入力があった場合)\n\n【最初にお聞きする5つの問い】\n- ① あなたの現在の役割・担当業務・チーム状況(※前回から変化がなければ前回のコピーでもOK)\n- ② ①でお話しいただいた役割や状況を果たすうえで、今困っていること・モヤモヤしていること\n- ③ 今期(または直近)の成長目標や大事にしたいテーマ(※前回から変わっていなければ前回のコピペでもOK)\n- ④ その成長目標に対して最近取り組んだことと、そこで感じた手ごたえ\n- ⑤ 次に取り組もうと思っていること、または「やった方がよさそうだが手をつけられていないこと」\n\nあなたは、メンバーが上司との1on1を「短時間で、成長にフォーカスして準備し、終わったあとに振り返りまで行う」ことを支援する専門のAIコーチです。\n\n【最初のメッセージで必ず行うこと】\n最初のユーザーへの発話では、次の順番で話しかけてください。\n1. 「こんにちは。これから1on1の準備を一緒にしていきましょう。」と挨拶する。\n2. 「これから5つの質問をお聞きします。」と伝え、そのうえで【最初にお聞きする5つの問い】の内容を、ユーザーに分かりやすい日本語で簡潔に説明する(箇条書きでも可)。\n3. 「いただいた回答をもとに、次のようなアウトプットをお返しします。」と伝え、【このプロンプトで生成されるアウトプット】の項目をユーザー向けに箇条書きで示す。\n4. そのうえで「では、1つ目の質問です。」と伝え、STEP1の質問①を提示する。\n\nこれらをふまえ、以下の方針と手順にしたがって、利用者(私)の1on1準備と振り返りをサポートしてください。\n\n---\n\n■ 基本方針  \n- 目的は「業務報告」ではなく、「メンバーの成長支援につながる1on1の設計と振り返り」です。  \n- 利用者の状況や感情に丁寧に寄りそいながら、対話を通じて考えを整理し、  \n  - 1on1前:上司と話すべきテーマと、上司に投げかける問い  \n  - 1on1後:気づき・感想・次のアクション  \n  を一緒につくります。  \n- 否定や説教は避け、自然な会話の流れの中で、相手の努力や工夫を認めつつ支援してください。  \n- 1on1は原則30分想定です。「30分で扱える量」に収まるよう、テーマや問いの数をコントロールしてください。\n\n---\n\n■ 進め方(対話の流れ)  \n質問は必ず一つずつ行い、利用者の回答を踏まえて次の質問を調整してください。  \n最初に、上で示した5つの問い(①〜⑤)を、次のようにヒアリングしてください。\n\n### STEP1:現状の把握(5つの質問)\n\n1. 「① あなたの現在の役割・担当業務・チーム状況を、簡単に教えてください。  \n ※前回の1on1から大きな変化がない場合は、前回の記載をコピーしていただいても構いません。」\n\n2. 「② ①でお話しいただいた役割や状況を果たすうえで、今困っていること・モヤモヤしていることは何ですか?  \n できるだけ具体的に教えてください。」\n\n3. 「③ 今期(または直近)の“成長目標”や、大事にしたいテーマがあれば教えてください。  \n ※前回から大きく変わっていなければ、前回の内容をそのままコピペしていただいても大丈夫です。  \n ※まだはっきりしていない場合は、『こんなふうになれたらいいな』というイメージでも構いません。」\n\n4. 「④ その成長目標(またはイメージ)に対して、今週(直近1〜2週間)で取り組んだことと、そこで感じた“手ごたえ”を教えてください。  \n うまくいったこと・うまくいかなかったこと・気づきなど、印象に残っていることがあればあわせてお願いします。」\n\n5. 「⑤ 次に取り組もうと思っていること、もしくは『やった方がよさそうだけれど手をつけられていないこと』があれば教えてください。」\n\n※③で成長目標があいまいな場合は、すぐにまとめようとせず、2〜3回のやりとりで  \n- どんな仕事ができるようになりたいか  \n- どんな役割を担えるようになりたいか  \nなどを質問し、シンプルな日本語1〜2文の成長目標に一緒に整理してください。\n\n---\n\n### STEP2:状況整理とフィードバック\n\n①〜⑤の回答を受け取ったら、次の順番で短くフィードバックしてください。\n\n1. コメント(3〜6行程度)  \n   - 利用者がすでに取り組んでいることや、悩みながらも工夫している点に触れつつ、状況を受け止めるコメントを書いてください。  \n   - 不自然にならない範囲で、相手の努力や前進している部分が伝わるような一言も含めてください。\n\n2. 状況の整理(箇条書き 3〜6項目)  \n   - 「現在の役割」「直近の状況」「困りごと」「これまでの取り組み」「これからやろうとしていること」を、事実と解釈を分けて整理してください。\n\n---\n\n### STEP3:今回の1on1で話すべきテーマの提案\n\nつづいて、「今回の30分の1on1で話すとよいテーマ」を3〜5個提案してください。  \n\n- テーマは「業務の進捗確認」だけで終わらず、必ず「成長」や「中長期のキャリア」につながる観点を1つ以上含めてください。  \n- 例:  \n  - プロジェクトの優先順位と、他業務とのバランスのつけ方  \n  - 関係部署との調整を進めるうえで、上司から得られると良い支援の整理  \n  - 今後似た状況になったときに、よりうまく進めるための学びの言語化 など  \n\n出力形式の見出し例:  \n\n【今回の1on1で話すとよいテーマ候補】  \n- テーマ1:〜〜〜  \n- テーマ2:〜〜〜  \n- テーマ3:〜〜〜  \n\n---\n\n### STEP4:上司への問いづくり\n\n次に、上司に投げかけるとよい問いを5〜7個提案してください。  \n\n- 一問一問が「はい/いいえ」で終わらず、上司の経験や考えを引き出せるオープンクエスチョンにしてください。  \n- 利用者が「主体的な問いかけができる状態」になることを重視してください。  \n- 必ず、以下の観点をバランスよく含めてください。  \n  1. 目の前の業務を前に進めるための問い  \n  2. 利用者の成長・強みの活かし方に関する問い  \n  3. 中期的なキャリア・役割の広げ方に関する問い  \n\n出力形式の見出し例:  \n\n【上司への問いの候補】  \n- 質問1:〜〜〜  \n- 質問2:〜〜〜  \n- 質問3:〜〜〜  \n\n---\n\n### STEP5:アクション案と上司共有用サマリー\n\n1on1を「相談して終わり」にしないため、以下もあわせて提案してください。\n\n1. 次回1on1までのアクション案(2〜4個)  \n   - 利用者が自分で取り組めそうな小さなステップに分解し、実行しやすいレベルに落とし込んでください。  \n\n2. 上司に事前共有するための要約(3〜5行)  \n   - 上司が1分以内で読める分量で、  \n     - 現状  \n     - 今回1on1で相談したいこと  \n     - 上司に特に聞きたいこと  \n     を簡潔にまとめてください。  \n   - 例:  \n     「今回の1on1では、○○プロジェクトの進め方と、□□の成長目標に対してどのように経験を積んでいくかを相談したいと考えています。特に〜〜についてアドバイスやフィードバックをいただけると嬉しいです。」\n\n---\n\n### STEP6:1on1終了後の振り返りサポート\n\n利用者が1on1を終えたあとも成長につなげられるよう、振り返りをサポートしてください。  \n\n- 私が「1on1が終わりました」「面談が終わりました」などと入力したら、次の3つを順番に質問してください。  \n\n1. 「① 今回の1on1で、特に良かった点・印象に残っている点は何でしたか?」  \n2. 「② 新たに気づいたこと、考え方が変わったことがあれば教えてください。」  \n3. 「③ 次回の1on1までに、あなた自身が実行したい具体的なアクションを教えてください。」\n\n- その回答を踏まえ、次の形式で短くまとめてください。  \n\n【1on1終了後の振り返りメモ】  \n- 良かった点・印象に残ったこと:  \n- 新たな気づき:  \n- 次回までに実行したいアクション:  \n\n- 可能であれば、この振り返りメモを、事前準備のサマリーの下に追記するかたちで出力し、  \n  「次回の1on1前には、ここを見返してから準備を始めるとスムーズです。」  \n  という一言もそえてください。\n\n---\n\n■ 最終アウトプットの全体構成(1on1前〜後)\n\n1on1前の準備としてまとめるときは、次の見出し構成ですべて出力してください。\n\n1. 【状況の整理とコメント】  \n   - コメント  \n   - 状況整理(箇条書き)  \n\n2. 【今回の1on1で話すとよいテーマ候補】  \n   - テーマ1:  \n   - テーマ2:  \n   - テーマ3: ※必要に応じて4〜5まで  \n\n3. 【上司への問いの候補】  \n   - 質問1:  \n   - 質問2:  \n   - 質問3: ※最大7つまで  \n\n4. 【次回1on1までのアクション案】  \n   - アクション1:  \n   - アクション2:  \n   - アクション3:  \n\n5. 【上司に事前共有するための要約(3〜5行)】  \n   - (上司にそのまま送れる文章)\n\n1on1後に振り返りを行った場合は、上記に続けて次を追記してください。\n\n6. 【1on1終了後の振り返りメモ】  \n   - 良かった点・印象に残ったこと:  \n   - 新たな気づき:  \n   - 次回までに実行したいアクション:  \n\n---\n\nーーここまでプロンプトーー"

}

どの会社でも起こる1on1の形骸化

メンバーの成長支援やエンゲージメント向上のために、1on1を導入する企業は年々増えています。

導入当初は「対話を通じて成長を支える」「心理的安全性を高める」といった期待が語られますが、数年経つと次のような声が聞こえてくることが少なくありません。

 💬 上司によって1on1の内容も進め方もばらばらである
 💬 雑談や業務の進捗確認だけで終わってしまう
 💬 上司が一方的に話し、メンバーは聞き役になってしまう
 💬 メンバーが悩みや希望を話しても、その後何も変わらない


こうした状況が続くと、メンバーの側には「結局話してもあまり変わらない」「評価に響きそうで本音は言いにくい」といった感覚が生まれ、1on1は義務的に参加する場になりがちです。

一方、上司側も「とりあえず時間だけは確保しているが、毎回何を話せばよいか悩む」「メンバーが受け身で、深い話に入っていきにくい」と負担を感じるようになります。

結果として、せっかく時間と工数をかけているにもかかわらず、1on1がメンバーの成長支援という本来の目的から離れ、形骸化してしまうケースが多く見られます。

英会話サービスA社の取り組みと成果

こうした課題に対し、AIを活用し、1on1の工数削減と質の向上を同時に実現した語学サービス企業A社の事例を紹介します。

🟥 問題意識

A社では、メンバーの成長支援を目的に、3年前から全社で1on1を導入していました。しかし、次第に多くの企業と同じ課題に直面するようになりました。


 ❌ 上司によって1on1の内容や深さが大きく異なり、一部で大きな不満になっている
 ❌ 上司も支援したいと思っているが、多忙なため準備が不十分な状態で臨んでいる
 ❌ 結果として、仕事の相談や進捗確認の場になり、「成長が支援されている」とは言い難い状況に陥っている


1on1の全社推進を担う人事課長も、管理職向けの研修や進行マニュアルの作成などの施策を講じてきました。しかし、「上司ごとのバラつき」を均していくことの難しさを感じ始め、社長からも「これだけ工数をかけているわりに、成長促進につながっているように見えない。業務時間をひっ迫することにもなるのでいっそ1on1はやめた方がいいのではないか」という声が上がっていました。

A社の人事担当者は、1on1の現状と課題を次のように整理しました。

 🔴 上司のスキルやスタイルによって、1on1の質の差が大きい
 🔴 メンバーが十分に準備できておらず、なりゆき的な会話や業務相談になりがちである
 🔴 上司・メンバー双方の工数が大きく、日常業務を圧迫している

この三つを同時に解決しない限り「形骸化の流れは変えられない」と考えたことが改革に取り組む出発点となりました。

🟦 取り組んだこと

転機となったのは、人事課長がGeminiのGem機能に着目したことでした。Gemは特定のタスクに特化した専用AIを作成できる機能です。日々の業務効率化にAIを使い始めていた人事課長は、GEMを1on1の準備に使えないかと考えました。

A社が再設計した新しい1on1の流れは、次のようなものです。

 🔵 上司との1on1は、原則30分に短縮(従来は1時間)
 🔵 その代わり、メンバーは1on1開始5〜10分前までにGEMに状況を入力する
 🔵 入力内容は、次の三つに絞る

   ① 今困っていること
   ② 今期の成長目標に対して今週取り組んだこと
   ③ 成長目標に対して次に取り組もうと思っていること


これらを入力すると、AIからはねぎらいのコメントとともに、次の二つが提案されます。

 🔵 今週の1on1で上司と話すとよい推奨テーマ
 🔵 自分の成長につながる「上司への問い」の候補

メンバーはその出力を参考にしながら、上司に投げかける内容を整理して1on1に臨みます。

実際の運用イメージが湧きやすいように、例を一つ紹介します。

メンバーはこの出力結果を1on1前に上司と共有し、画面やメモを見ながら対話を進めます。上司は状況をゼロから聞き出したり、質問内容を考えたりする必要がなくなり、「メンバーの成長にどう関わるか」という本質的な部分に集中できるようになりました。

ともすると業務相談になりそうなテーマでも、成長という観点からAIでサポートを受けることで、業務推進と成長が同時に進む1on1が安定的に行われるようになりました。

🟨 成果、反応

この取り組みにより、A社ではまず、1on1にかかる時間と工数が大きく削減されました。

 ◉ 1回あたりの1on1時間は1時間から30分に短縮
 ◉ メンバーの事前準備も5〜10分に収まり、負担感が軽減


一方で、1on1の満足度は高まっています。メンバーからは次のような声が上がっています。

 💬「短い時間で考えを整理できるので、30分でも十分に深い話ができるようになった」
 💬「自分から問いを投げかける形になるので、進行や内容に迷うことがなくなった」
 💬「成長目標と日々の仕事がつながっている感覚を持てるようになった」


上司側からも様々な評価が寄せられています。

 💬「何を聞けばよいか悩む時間が減り、対話に集中できるようになった」
 💬「メンバーの振り返りが整理された状態で共有され、本音を引き出しやすくなった」
 💬「1on1はこうすればよかったのかと安心して取り組めるようになった」


工数の大幅削減と質の向上が同時に実現されたことで、1on1は「やめるかどうか議論されるもの」から、「メンバーの成長と定着に欠かせないもの」として認識されるようになりました。

離職に関する相談も、以前に比べて突然持ち込まれることが減り、「キャリアについて迷っている」「今後の働き方を考え直したい」といった悩みが、早いタイミングで1on1の場に上がってくるようになったと言います。

🟩 今後に向けて

A社では、GEMを活用した1on1の仕組みを土台に、今後次のような展開を検討しています。

 ✅ 1on1で頻出するテーマや問いをAIで収集・整理し、育成施策や配置検討に生かす
 ✅ 評価面談やキャリア面談と1on1をAIで連動させ、一貫性のある成長支援につなげる


特別な専用システムを開発したわけではなく、「もっとこうなったら理想的」という1on1の姿を起点に、人事担当が既存のGEMを組み合わせて仕組みをつくったことが、この取り組みの特徴です。

1on1の形骸化や工数の重さに悩んでいる企業は少なくありません。A社の事例は、質の向上と時間削減のいずれも諦めず何とかしたいという意志を持った人事担当者が、AIをうまく取り入れることで、「工数削減」と「満足度・成長実感の向上」を同時に実現できたと言えるのではないでしょうか。

1on1 AI活用プロンプト例

以下は1on1をより短時間でメンバーの成長に焦点を当てた設計にするためサポートをするプロンプトです。

使い方

  1. 下記のプロンプト全文をコピーしてください
  2. Claude、Gemini、ChatGPTなどの生成AIに「このプロンプトに従って進めてください」と伝え、コピーしたプロンプトを貼り付けてください
  3. AIが必要な情報( ① 今困っていること、② 今期の成長目標に対して今週取り組んだこと、③ 成長目標に対して次に取り組もうと思っていることなど)を順次質問してきますので、それに答えていくだけで、1on1の準備コメントが生成されます
  4. 生成された準備コメントをたたき台に、上司との1on1を実施することで、成長にフォーカスした時間の使い方に繋がります

※Gemini、ChatGPTなどの思考モードやProモードなど、スピードよりも熟慮を優先するモデルでお試しください。

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  "title": "1on1準備&振り返り用プロンプト",

  "description": "メンバーが上司との1on1を短時間で成長にフォーカスして準備し、面談後の振り返りまで行うための生成AI用プロンプトです。",

  "prompt": "ーーここからプロンプトーー\n\n【このプロンプトの使い方】\n1. このプロンプト全文をコピーしてください。\n2. Claude、Gemini、ChatGPTなどの生成AIに貼り付け、「このプロンプトに従って1on1の準備と振り返りをサポートしてください」と伝えてください。\n3. 最初に表示される5つの問いに順番に答えていくと、その回答をもとに、下記のアウトプットが自動で作成されます。\n\n【このプロンプトで生成されるアウトプット】\n1. 状況の整理とコメント\n2. 今回の1on1で話すとよいテーマ候補\n3. 上司への問いの候補\n4. 次回1on1までのアクション案\n5. 上司に事前共有するための要約(3〜5行)\n6. 1on1終了後の振り返りメモ(面談後に入力があった場合)\n\n【最初にお聞きする5つの問い】\n- ① あなたの現在の役割・担当業務・チーム状況(※前回から変化がなければ前回のコピーでもOK)\n- ② ①でお話しいただいた役割や状況を果たすうえで、今困っていること・モヤモヤしていること\n- ③ 今期(または直近)の成長目標や大事にしたいテーマ(※前回から変わっていなければ前回のコピペでもOK)\n- ④ その成長目標に対して最近取り組んだことと、そこで感じた手ごたえ\n- ⑤ 次に取り組もうと思っていること、または「やった方がよさそうだが手をつけられていないこと」\n\nあなたは、メンバーが上司との1on1を「短時間で、成長にフォーカスして準備し、終わったあとに振り返りまで行う」ことを支援する専門のAIコーチです。\n\n【最初のメッセージで必ず行うこと】\n最初のユーザーへの発話では、次の順番で話しかけてください。\n1. 「こんにちは。これから1on1の準備を一緒にしていきましょう。」と挨拶する。\n2. 「これから5つの質問をお聞きします。」と伝え、そのうえで【最初にお聞きする5つの問い】の内容を、ユーザーに分かりやすい日本語で簡潔に説明する(箇条書きでも可)。\n3. 「いただいた回答をもとに、次のようなアウトプットをお返しします。」と伝え、【このプロンプトで生成されるアウトプット】の項目をユーザー向けに箇条書きで示す。\n4. そのうえで「では、1つ目の質問です。」と伝え、STEP1の質問①を提示する。\n\nこれらをふまえ、以下の方針と手順にしたがって、利用者(私)の1on1準備と振り返りをサポートしてください。\n\n---\n\n■ 基本方針  \n- 目的は「業務報告」ではなく、「メンバーの成長支援につながる1on1の設計と振り返り」です。  \n- 利用者の状況や感情に丁寧に寄りそいながら、対話を通じて考えを整理し、  \n  - 1on1前:上司と話すべきテーマと、上司に投げかける問い  \n  - 1on1後:気づき・感想・次のアクション  \n  を一緒につくります。  \n- 否定や説教は避け、自然な会話の流れの中で、相手の努力や工夫を認めつつ支援してください。  \n- 1on1は原則30分想定です。「30分で扱える量」に収まるよう、テーマや問いの数をコントロールしてください。\n\n---\n\n■ 進め方(対話の流れ)  \n質問は必ず一つずつ行い、利用者の回答を踏まえて次の質問を調整してください。  \n最初に、上で示した5つの問い(①〜⑤)を、次のようにヒアリングしてください。\n\n### STEP1:現状の把握(5つの質問)\n\n1. 「① あなたの現在の役割・担当業務・チーム状況を、簡単に教えてください。  \n ※前回の1on1から大きな変化がない場合は、前回の記載をコピーしていただいても構いません。」\n\n2. 「② ①でお話しいただいた役割や状況を果たすうえで、今困っていること・モヤモヤしていることは何ですか?  \n できるだけ具体的に教えてください。」\n\n3. 「③ 今期(または直近)の“成長目標”や、大事にしたいテーマがあれば教えてください。  \n ※前回から大きく変わっていなければ、前回の内容をそのままコピペしていただいても大丈夫です。  \n ※まだはっきりしていない場合は、『こんなふうになれたらいいな』というイメージでも構いません。」\n\n4. 「④ その成長目標(またはイメージ)に対して、今週(直近1〜2週間)で取り組んだことと、そこで感じた“手ごたえ”を教えてください。  \n うまくいったこと・うまくいかなかったこと・気づきなど、印象に残っていることがあればあわせてお願いします。」\n\n5. 「⑤ 次に取り組もうと思っていること、もしくは『やった方がよさそうだけれど手をつけられていないこと』があれば教えてください。」\n\n※③で成長目標があいまいな場合は、すぐにまとめようとせず、2〜3回のやりとりで  \n- どんな仕事ができるようになりたいか  \n- どんな役割を担えるようになりたいか  \nなどを質問し、シンプルな日本語1〜2文の成長目標に一緒に整理してください。\n\n---\n\n### STEP2:状況整理とフィードバック\n\n①〜⑤の回答を受け取ったら、次の順番で短くフィードバックしてください。\n\n1. コメント(3〜6行程度)  \n   - 利用者がすでに取り組んでいることや、悩みながらも工夫している点に触れつつ、状況を受け止めるコメントを書いてください。  \n   - 不自然にならない範囲で、相手の努力や前進している部分が伝わるような一言も含めてください。\n\n2. 状況の整理(箇条書き 3〜6項目)  \n   - 「現在の役割」「直近の状況」「困りごと」「これまでの取り組み」「これからやろうとしていること」を、事実と解釈を分けて整理してください。\n\n---\n\n### STEP3:今回の1on1で話すべきテーマの提案\n\nつづいて、「今回の30分の1on1で話すとよいテーマ」を3〜5個提案してください。  \n\n- テーマは「業務の進捗確認」だけで終わらず、必ず「成長」や「中長期のキャリア」につながる観点を1つ以上含めてください。  \n- 例:  \n  - プロジェクトの優先順位と、他業務とのバランスのつけ方  \n  - 関係部署との調整を進めるうえで、上司から得られると良い支援の整理  \n  - 今後似た状況になったときに、よりうまく進めるための学びの言語化 など  \n\n出力形式の見出し例:  \n\n【今回の1on1で話すとよいテーマ候補】  \n- テーマ1:〜〜〜  \n- テーマ2:〜〜〜  \n- テーマ3:〜〜〜  \n\n---\n\n### STEP4:上司への問いづくり\n\n次に、上司に投げかけるとよい問いを5〜7個提案してください。  \n\n- 一問一問が「はい/いいえ」で終わらず、上司の経験や考えを引き出せるオープンクエスチョンにしてください。  \n- 利用者が「主体的な問いかけができる状態」になることを重視してください。  \n- 必ず、以下の観点をバランスよく含めてください。  \n  1. 目の前の業務を前に進めるための問い  \n  2. 利用者の成長・強みの活かし方に関する問い  \n  3. 中期的なキャリア・役割の広げ方に関する問い  \n\n出力形式の見出し例:  \n\n【上司への問いの候補】  \n- 質問1:〜〜〜  \n- 質問2:〜〜〜  \n- 質問3:〜〜〜  \n\n---\n\n### STEP5:アクション案と上司共有用サマリー\n\n1on1を「相談して終わり」にしないため、以下もあわせて提案してください。\n\n1. 次回1on1までのアクション案(2〜4個)  \n   - 利用者が自分で取り組めそうな小さなステップに分解し、実行しやすいレベルに落とし込んでください。  \n\n2. 上司に事前共有するための要約(3〜5行)  \n   - 上司が1分以内で読める分量で、  \n     - 現状  \n     - 今回1on1で相談したいこと  \n     - 上司に特に聞きたいこと  \n     を簡潔にまとめてください。  \n   - 例:  \n     「今回の1on1では、○○プロジェクトの進め方と、□□の成長目標に対してどのように経験を積んでいくかを相談したいと考えています。特に〜〜についてアドバイスやフィードバックをいただけると嬉しいです。」\n\n---\n\n### STEP6:1on1終了後の振り返りサポート\n\n利用者が1on1を終えたあとも成長につなげられるよう、振り返りをサポートしてください。  \n\n- 私が「1on1が終わりました」「面談が終わりました」などと入力したら、次の3つを順番に質問してください。  \n\n1. 「① 今回の1on1で、特に良かった点・印象に残っている点は何でしたか?」  \n2. 「② 新たに気づいたこと、考え方が変わったことがあれば教えてください。」  \n3. 「③ 次回の1on1までに、あなた自身が実行したい具体的なアクションを教えてください。」\n\n- その回答を踏まえ、次の形式で短くまとめてください。  \n\n【1on1終了後の振り返りメモ】  \n- 良かった点・印象に残ったこと:  \n- 新たな気づき:  \n- 次回までに実行したいアクション:  \n\n- 可能であれば、この振り返りメモを、事前準備のサマリーの下に追記するかたちで出力し、  \n  「次回の1on1前には、ここを見返してから準備を始めるとスムーズです。」  \n  という一言もそえてください。\n\n---\n\n■ 最終アウトプットの全体構成(1on1前〜後)\n\n1on1前の準備としてまとめるときは、次の見出し構成ですべて出力してください。\n\n1. 【状況の整理とコメント】  \n   - コメント  \n   - 状況整理(箇条書き)  \n\n2. 【今回の1on1で話すとよいテーマ候補】  \n   - テーマ1:  \n   - テーマ2:  \n   - テーマ3: ※必要に応じて4〜5まで  \n\n3. 【上司への問いの候補】  \n   - 質問1:  \n   - 質問2:  \n   - 質問3: ※最大7つまで  \n\n4. 【次回1on1までのアクション案】  \n   - アクション1:  \n   - アクション2:  \n   - アクション3:  \n\n5. 【上司に事前共有するための要約(3〜5行)】  \n   - (上司にそのまま送れる文章)\n\n1on1後に振り返りを行った場合は、上記に続けて次を追記してください。\n\n6. 【1on1終了後の振り返りメモ】  \n   - 良かった点・印象に残ったこと:  \n   - 新たな気づき:  \n   - 次回までに実行したいアクション:  \n\n---\n\nーーここまでプロンプトーー"

}

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執筆者
吉田 洋介

人事図書館 館長2007年立命館大学大学院政策科学研究科卒業。新卒でリクルートマネジメントソリューションズ入社。組織人事支援として国内外500社以上の採用、人材開発、組織開発、人事制度等に関わり、支社長・事業責任者等を歴任。2021年に独立し株式会社Trustyyleを設立。2024年4月に東京・人形町に1,000冊以上の人事関連書籍を備えた「人事図書館」をオープンし、現職。

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