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心理的安全性とは? 低い職場の特徴と高め方をわかりやすく解説
心理的安全性とは? 低い職場の特徴と高め方をわかりやすく解説

心理的安全性とは? 低い職場の特徴と高め方をわかりやすく解説

「部下が会議でほとんど発言しない」「問題が大きくなってから報告される」「新しい提案がなかなか出てこない」──こうした状況の背景には、チームの心理的安全性が関係しているかもしれません。

心理的安全性とは、質問や異論を述べたり、失敗を報告したり、助けを求めたりしても、拒絶されたり不利益を受けたりしないとチームのメンバーが共有している状態です。

ただし、これは「誰にでも優しくすること」でも「厳しい意見を言わないこと」でもありません。むしろ、その逆です。心理的安全性は率直に意見を交わしながら、高い目標を追い続けるための土台です。

また、発言のしやすさだけの話ではありません。発言した後に、その意見がどう扱われるかまで含めて考える必要があります。

本記事では、そこを軸に据えて解説します。

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目次

心理的安全性とは、対人関係のリスクを取っても安全だという共有された認識

心理的安全性とは、「このチームでは、対人関係上のリスクを取っても安全だ」とチームのメンバーが共有している状態を指します。

この定義を示したのが、ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・C・エドモンドソンです。1999年の論文で、オフィス家具メーカー1社の51チームを対象に、チームの心理的安全性と学習行動、パフォーマンスの関係を検討しました。

ここでいう「対人関係上のリスク」とは、発言によって周囲からの評価や人間関係が損なわれる可能性を指します。

行動 発言する際に感じやすい不安
分からないことを質問する無知だと思われないか
ミスや問題を報告する無能だと思われないか
上司や多数派に異論を述べる否定的、反抗的だと思われないか
助けを求める能力が低いと思われないか
新しいアイデアを提案する的外れだと笑われないか

心理的安全性の高いチームでも、こうした不安がゼロになるわけではありません。それでも、必要な発言や行動を取れる状態が保たれています。

なお、心理的安全性は個人の性格ではありません。チームのメンバーが共有する認識です。同じ人でも、あるチームでは率直に話し、別のチームでは口をつぐむことがあります。

心理的安全性と信頼は、似ているが同じではない

心理的安全性と信頼は密接に関係していますが、同じものではありません。

信頼は一般に、特定の相手について「約束を守ってくれる」「自分を裏切らない」と考えることです。個人と個人の関係を指す場合が多い。

一方の心理的安全性は、このチームで質問や異論、失敗の報告をしたときにどう扱われるかという、チーム全体の認識を指します。

上司個人を信頼していても、会議で発言した内容が同僚から嘲笑されたり、評価上の不利益につながったりするなら、チームの心理的安全性が高いとはいえません。

Googleの研究が、心理的安全性を広めた

心理的安全性がビジネスの世界で広く知られる契機の一つが、Googleの社内研究「Project Aristotle」です。

Googleはエンジニアリング部門と営業部門の複数チームを対象に分析を行い、効果的なチームに関係する五つの要素を特定しました。そのなかで、心理的安全性が最も重要な要素として示されています。

五つの要素は次のとおりです。

  1. 心理的安全性
  2. 相互信頼(約束した仕事を期限内に遂行する信頼性)
  3. 構造と明確さ
  4. 仕事の意味
  5. 仕事のインパクト

2番目の「相互信頼」は、原語では Dependability です。一般的な対人的な信頼というより、メンバーが質の高い仕事を期限どおりに仕上げるかどうかを指します。心理的安全性とは別の要素として扱われています。

ただし、これはGoogle社内で行われた研究です。あらゆる組織に同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません。

それでも、この研究が果たした役割は小さくありません。チームの成果をメンバー個人の能力や経歴だけで説明するのではなく、メンバー間の関係やチームの運営方法から捉える視点を広めたからです。

心理的安全性が低い職場に表れる八つの特徴

心理的安全性が低い職場には、共通して表れる特徴があります。ここでは八つの特徴を挙げます。

❶ 会議で発言する人がいつも同じ

上司や一部のベテランだけが話し、他のメンバーがほとんど発言しない状態です。

発言しない理由は、意見がないからとは限りません。「上司がすでに結論を決めている」「反対すると面倒な人だと思われる」「完成度の低い案を出すと評価が下がる」と感じている可能性があります。

会議で異論が出ないことを「全員が納得している」と捉えるのは危険です。沈黙は同意ではありません。

❷ 分からなくても質問しない

質問をすると「そんなことも知らないのか」「前にも説明した」と返される職場では、メンバーは理解が浅いまま仕事を進めます。その結果、認識のずれや手戻りが増えます。

この問題の厄介なところは、新人や異動者だけの話ではないことです。経験を積んだベテラン社員が、「今さら聞けない」と感じる場合もあります。

❸ 悪い知らせほど報告が遅れる

小さなミスや顧客からの苦情、進捗の遅れが、深刻になってから報告される状態です。

報告した人を強く叱責したり、「なぜできなかったのか」と個人の責任だけを追及したりすると、メンバーは「問題を早く伝えるより、隠すほうが安全だ」と学習してしまいます。

❹ 上司に反対する意見が出ない

過去に反対意見を述べて、上司に不機嫌になられたり、話を遮られたりした経験がある場合、メンバーは上司の様子から発言してよいかを判断するようになります。

こうしたチームでは、上司が自分の考えを長く説明した後で「何か意見はありますか」と尋ねても、反対は出ません。すでに結論が決まっているサインとして、メンバーが受け取るからです。

「反対意見も歓迎する」と言葉で伝えるだけでは、メンバーの見方は変わりません。上司が実際に異論を受け止める場面を見て、初めてのメンバーの意識は更新されます。

❺ 助けを求めるのが遅い

メンバーが仕事を一人で抱え込み、限界になってから相談する状態です。

背景にあるのは、メンバー自身が持つ「自分で解決するのが当たり前」「忙しい人に相談すると迷惑になる」「助けを求めると能力不足と思われる」という認識です。

このとき困るのは、メンバー本人だけではありません。上司やチームは問題が起きていることに気づけず、対処が遅れます。結果として、業務の遅延や品質低下につながります。

❻ 新しい提案より前例が優先される

改善案を出しても、上司が「以前も試したがうまくいかなかった」「いまの方法で問題は起きていない」「余計な仕事を増やさないでほしい」と返す状態です。

提案が採用されないこと自体は、どの職場でも起こることです。ただし、前例だけを理由に退け続ければ、メンバーは提案そのものをやめます。

❼ 失敗した人を探して終わる

問題が起きたとき、上司が「誰がやったのか」「誰の責任か」だけを追及し、業務プロセスや情報共有の仕組みまで振り返らない状態です。

担当者の責任を明確にすること自体は、上司の仕事です。ただし、そこで終われば、同じ問題が別の担当者のもとで再び起こります。

再発を防ぐには、なぜその判断が起きたのか、どの仕組みが問題を止められなかったのかまで、上司とチームが確認する必要があります。

❽ 発言しても何も変わらない

メンバーが意見を言うこと自体は許されていても、上司がその意見をどう扱ったのか説明しない状態です。

提案しても返事がなく、問題を報告しても上司から何の反応もない。これが続けば、メンバーは「言っても無駄だ」と判断し、発言をやめます。

厄介なのは、上司の側からは何も起きていないように見えることです。メンバーが黙っているだけなので、上司は「特に不満はなさそうだ」と受け取ります。

心理的安全性は、発言のしやすさだけの話ではありません。メンバーの発言を上司が受け止め、検討し、その結果を本人に返す。そこまで含めて考える必要があります。

📂 メンバーが本音を話せる組織をつくる

本音が言えない職場は、意図せず積み重なった「静かな壁」によって生まれます。その壁をどう取り除くか。1on1を通じて心理的安全性を段階的に高める設計・運用のポイントを、実例とともに紹介した資料です。

📘 心理的安全性を高める組織づくりと1on1の実践

心理的安全性が高い職場と低い職場の違い

同じ場面でも、心理的安全性の高低によって職場の反応は変わります。八つの場面で比較しました。

場面 心理的安全性が低い職場 心理的安全性が高い職場
会議上司や一部の人だけが話す立場にかかわらず意見が出る
質問知らないことを隠す不明点を早い段階で確認する
ミス隠す、報告が遅れる小さいうちに共有する
異論空気を読んで控える理由とともに率直に伝える
援助要請一人で抱え込む必要なときに助けを求める
提案完成してからでないと出さない未完成の案も検討できる
上司の反応否定、叱責、犯人探しから入るまず事実を確認し、対応を考える
振り返り個人の反省で終わる仕組みやプロセスも改善する

ただし、右側に当てはまるからといって、心理的安全性が高いとは限りません。

会議で意見が出ていても、話しているのが特定の人だけということがあります。誰が話しているか、どんな内容が共有されているか、そして発言した後に何が起きているか。

そこまで見てください。

心理的安全性と「ぬるま湯組織」は、別の軸の話

心理的安全性が高い職場は、「厳しいことを言わない職場」や「居心地のよいぬるま湯」と混同されがちです。

しかし、心理的安全性と仕事の基準は別の軸です。

心理的安全性と仕事の基準の4象限 快適ゾーン 居心地はよいが、 改善や挑戦が起こりにくい 学習ゾーン 率直に議論しながら、 高い成果を目指す 無気力ゾーン 発言も挑戦も少なく、 無関心が広がる 不安ゾーン 失敗や叱責への不安が強く、 疲弊しやすい 心理的安全性 高い 低い 低い 高い 仕事の基準 出所:Amy C. Edmondson, The Fearless Organization(2018)をもとに1on1総研作成

心理的安全性が高く、仕事の基準も高い状態では、メンバーは問題や失敗を隠さず、改善に必要な意見を出せます。高い目標に挑戦するからこそ、質問や助けを求めることが必要になるわけです。

反対に、仕事の基準が曖昧で、未達成や低品質を放置している状態は、心理的に安全ではありません。

心理的安全性を高めるメリット|期待できる五つの効果

❶ 問題を早期に発見できる

メンバーが小さな異常や顧客の反応、進捗の遅れを伝えられれば、問題が深刻になる前に対処できます。

重要なのは、問題が少なく見えることではありません。必要な情報が隠れず、意思決定者まで届いていることです。

❷ チームの学習が進む

分からないことを質問し、失敗を共有し、フィードバックを得る。こうした行動は、チームが学ぶために欠かせません。

エドモンドソンの1999年研究でも、チームの心理的安全性と学習行動の関連が示されています。

❸ 異なる知識や視点を活用できる

メンバーが異論を述べられない状態では、経験や専門性が異なる人を集めても、その違いを生かせません。

❹ 意思決定に必要な情報が集まりやすくなる

反対意見や懸念が共有されれば、意思決定の前提や見落としを検証できます。

心理的安全性は、全員の意見を採用するためのものではありません。判断に必要な情報を出し切り、より質の高い結論を出すための条件です。

❺ 挑戦と改善を続けやすくなる

新しい取り組みは、計画どおりに進まないことがあります。失敗したときに学びを共有できるチームでは、試行錯誤を次の行動へつなげられます。

ただし、すべての失敗を無条件に称賛することとは違います。 防げた失敗と、未知の領域を検証する過程で起きた失敗は、区別する必要があります。

心理的安全性を測定する方法

「職場の雰囲気はよいですか」と聞くだけでは足りません。質問、異論、失敗報告、援助要請といった、対人関係上のリスクを伴う行動を取れるかを確認します。

エドモンドソンが用いた7項目

エドモンドソンは1999年の研究で、チームの心理的安全性を測定する七つの項目を使用しました。

以下は、原論文の英語項目をそのまま転載したものではなく、内容を理解するために日本語で要約したものです。実際の調査や研究に用いる場合は、原論文を確認し、尺度の翻訳や使用方法を専門家と検討してください。

なお、ここでいうリスクとは、質問や異論、失敗の報告といった対人関係上のリスクを指します。

No. 質問項目 逆転
1このチームでミスをすると、後々まで責められることがある
2このチームのメンバーは、問題や難しい課題を口に出すことができる
3このチームでは、人と違うことを理由に拒絶されることがある
4このチームでは、リスクを取っても安全だ
5このチームのメンバーには、助けを求めにくい
6このチームには、私の努力を意図的に妨げるような行動を取る人はいない
7このチームでは、私ならではのスキルや才能が尊重され、活かされている

出典:Edmondson, A. C. (1999) "Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams," Administrative Science Quarterly, 44(2), pp.350-383, Appendix

1・3・5は逆転項目です。この三つに強く同意するほど、そのチームの心理的安全性は低いことを示します。他の四つは、同意するほど高いことを示します。原論文では、各項目について7段階で回答を求めています。

測定するときの五つの注意点

❶ 個人の診断に使わない

心理的安全性は個人の性格や能力ではなく、チームのメンバーが共有する認識です。複数の回答をチーム単位で集約し、チームの状態を捉えます。

‍❷ 匿名性を確保する

上司が個人の回答を特定できる状態では、本音を回答しにくくなります。少人数のチームでは、自由記述から個人が推測されないよう配慮します。

❸ 人事評価に直接使わない

スコアを管理職や個人の評価に直結させると、回答を高く見せる圧力が生まれます。

❹ 点数だけで判断しない

平均点ではなく、設問ごとの違いや回答のばらつきを見ます。上司と一部のメンバーだけが高く評価し、他のメンバーが低く評価している可能性もあります。

❺ 測定後に対話する

調査をしても結果が共有されず、何も変わらなければ、かえって組織への不信を強めます。

日常業務から確認できる指標

アンケートと合わせて、次の行動も確認してください。

  • 問題が発生してから報告されるまでの時間
  • 会議で発言するメンバーの偏り
  • 上司と異なる意見が出た回数
  • 援助要請や相談が行われる時期
  • 振り返りで決まった改善策の実施率
  • 提案に対して回答が返されるまでの時間

数字が多ければよいとは限りません。変化を継続して観察し、職場で起きている事実と合わせて判断します。

📂 上司と部下の関係性を16段階で可視化する

心理的安全性を捉える際には、上司と部下の関係性を別の角度から可視化することも役立ちます。270万回を超える1on1データと500社以上の調査から、警戒から信頼までの関係性を16段階で捉えるモデルを示した資料です。

📘 1on1関係性サーベイ・16段階

心理的安全性を高める七つの方法

心理的安全性は、研修で知識を伝えたり、「何でも話してください」と呼びかけたりするだけでは高まりません。

メンバーは、上司や組織が日常的にどう反応するかを見て、発言してよいかを判断します。ここでは発言の前・発言する場・発言した後という流れで整理します。

❶ 仕事を「学習が必要な課題」と捉える

管理職がすべての答えを知っているように振る舞うと、メンバーは上司の考えに従うことを優先します。事前に正解が分からない仕事では、こう伝えましょう。

 💬 「今回は過去の方法がそのまま通用するとは限りません」
 💬 「私たちが見落としている点があるかもしれません」
 💬 「早めに問題を共有しながら進めたいです」

仕事を「決められた正解を実行する課題」ではなく「情報を共有しながら学ぶ課題」と位置づける。それだけで、質問や異論の必要性が明確になります。

❷ 管理職が自分の不完全さを認める

「この領域については、私より皆さんのほうが詳しい」と伝えます。

これは謙遜の話ではありません。専門性が細分化した組織では、上司が部下より詳しくない領域が実際に存在するからです。

キユーピーの基礎研究部門である未来創造研究所の所長は、この構造を「専門性の逆転現象」と呼んでいます。

一つの専門領域の中に複数の分野があり、リーダーがある分野の専門家でも、別の分野ではメンバーのほうが圧倒的に詳しい。その結果、リーダーは「どうリードすればいいのか」と悩み、メンバーは「なぜリーダーは自分の技術を理解してくれないのか」とフラストレーションを感じる。

不完全さを認めるのは、この構造を前提にしたうえで、メンバーの情報が必要だと明示するためです。

ただし、「私は分からないので皆さんで決めてください」は責任の放棄です。意見を集めたうえで、決めるべき人が判断します。

📘参考記事:基礎研究になぜ対話が欠かせないのか。キユーピーが「相互理解」を追求する真意

❸ 答えやすい具体的な問いを投げる

「何か意見はありますか」という問いには、何を答えればよいか分かりません。しかも、発言しなくても会議は進みます。

観点を絞って尋ねてください。

 💬「この計画が失敗するとしたら、どこが原因になりそうですか」
 💬「顧客の立場から見て、分かりにくい点はありますか」
 💬「現場で実行するとき、最も負担になる部分はどこですか」
 💬「私たちがまだ確認できていない事実は何ですか」
 💬「いま判断することに不安がある人はいますか」

賛成か反対かではなく、懸念、事実、代替案を尋ねる。それだけで発言のハードルが下がります。

❹ 立場に左右されない発言の仕組みをつくる

自由に発言を求めるだけでは、役職や経験、性格による発言量の差はなくなりません。会議では次の工夫ができます。

  • 上司が自分の意見を最後に述べる
  • 会議前に全員が意見を書いて提出する
  • 一人ずつ順番に懸念を確認する
  • 発言だけでなくチャットや付箋も使う
  • 反対意見を担当する役割を置く
  • 少人数で話した後、全体へ共有す

発言を強制するのではなく、複数の参加方法を用意することが大切です。

❺ 悪い知らせへの「第一声」を変える

心理的安全性を左右するのは、管理職が何を呼びかけたかではありません。問題が報告されたときにどう反応したかです。

部下から失敗や遅れを報告された際、最初に「どうしてこんなことになったのか」「誰が担当していたのか」と責めれば、次から報告は遅れます。

まずはこう応じてください。

 💬「早めに知らせてくれてありがとうございます」
 💬「いま分かっている事実を整理しましょう」
 💬「影響を抑えるために、最初に何をするべきでしょうか」

これは責任を問わないという意味ではありません。対応と再発防止を進めたうえで、必要な責任を明確にします。

❻ 意見がどう扱われたかを返す

メンバーからの提案をすべて採用することはできません。しかし、採用しない場合でも説明します。

  • 今回は費用と納期の理由から採用しない
  • 指摘されたリスクは次回の計画に反映する
  • 判断に必要な情報が足りないので、追加で検討する

メンバーとしては、意見が採用されなかったことより、何の反応も返ってこないことのほうが、「言っても意味がない」という学習につながります。

部下が発言する。上司が検討する。上司が判断する。その結果を上司が本人に伝える。ここまでやって、ようやく一往復です。

❼ 高い基準と心理的安全性を両立させる

心理的安全性を高めるために、目標や品質基準を曖昧にしてはいけません。次の二つを同時に伝えます。

 💬「分からないことや問題は、早い段階で率直に共有してください」
 💬「顧客に約束した品質や期限には責任を持って取り組んでください」

人への敬意と、仕事への厳しさは分けて考えます。 意見や成果物には厳しいフィードバックを行いながら、人格や存在を否定しない。それが両立の条件です。

組織として心理的安全性を高める

心理的安全性を管理職個人のコミュニケーション能力だけに任せると、チームごとの差が大きくなります。それを防ぐためには、発言や問題報告が適切に扱われる仕組みを、組織として整える必要があります。

管理職の評価に「情報を引き出す行動」を入れる

管理職の評価は、売上や納期といった成果指標が中心になりがちです。そこに、次のような行動を加えます。

  • 悪い情報を早く把握できているか
  • メンバーの異論を受け止めているか
  • 問題を仕組みの改善につなげているか
  • 発言の少ないメンバーにも参加機会をつくっているか

ただし、チームの心理的安全性スコアをそのまま管理職の評価点にするのは避けてください。回答を操作したり、部下に高い点数を求めたりする弊害が生じかねません。

問題を報告できる複数の経路を用意する

上司自身が問題の原因になっている場合、部下は直属の上司に相談できません。人事、コンプライアンス窓口、上位管理職、匿名の通報先など、上司を通さずに届く経路を用意しておきます。

とくにハラスメントや法令違反は、対話で解決できる問題ではありません。相談窓口による調査や、被害者の保護といった正式な手続きが必要です。心理的安全性を高める取り組みは、こうした制度の代わりにはなりません。

失敗を学習につなげる

組織である以上、ミスやトラブルは起こります。重要なのは、起きた後に何を検討するかです。

  1. 何が起きたか
  2. その時点でどのような情報があったか
  3. なぜその判断が合理的に見えたか
  4. どの仕組みが問題を防げなかったか
  5. 次回から何を変えるか

担当者の責任だけでなく、業務量、手順、権限、情報共有、評価制度といった構造も確認します。

業務量と権限を見直す

発言しやすい雰囲気があっても、慢性的に仕事量が多く、相談する時間も対応する余力もなければ、問題は共有されません。

改善案を出しても決定権がなく、何も変えられない状態でも、発言は減っていきます。

📂 組織への1on1導入を考えている方へ

心理的安全性を組織に根付かせるには、個人の努力だけでなく仕組みが必要です。目的の明確化からルールの策定、継続的なモニタリングまで、1on1を形骸化させない導入の進め方を解説した資料です。

📘 0から始める!1on1導入ガイドライン

1on1で心理的安全性を育て直す

心理的安全性は、宣言や研修で生まれるものではありません。「発言しても大丈夫だった」という経験を、メンバーが何度も積み重ねて初めて形になります。

だからこそ、継続的に対話の場を持つ1on1が有効です。週次や、隔週、月1等で必ず訪れる時間があれば、経験を積み重ねる機会が構造として担保されます。

ただし、1on1を実施するだけで、自動的に心理的安全性が高まるわけではありません。 進め方を誤れば、かえって「言わないほうが安全だ」という学習を強めます。

チームの段階によって、1on1の焦点は変わる

もっとも多い失敗が、チームの状態を無視して深い問いを投げることです。

心理的安全性がまだ低いチームで「最近、言いにくかったことはありますか」と聞いても、答えは返ってきません。その問いに正直に答えること自体が、リスクの高い行動だからです。

必要なのは、いまチームがどの段階にいるかを見極めることです。

❶ 心理的安全性が低い段階

目的は、人間関係の安心感をつくることです。この時期のメンバーは緊張が強く、フィードバックへの恐れを抱えています。

雑談や日常会話から始め、「この時間は話しても大丈夫だ」と感じてもらう。業務の話が出てこなくても構いません。話を聞いてもらえたという経験そのものが、この段階の成果です。

❷ 心理的安全性が中程度の段階

1on1が習慣として定着すると、業務の相談が増えてきます。タスクの優先順位、進め方の迷い、判断に困っていること。ここで上司がやるべきは、アドバイスと承認を明確に伝えることです。「見ているよ」と示すことで、「この時間で仕事が前に進む」という実感が生まれます。

❸ 心理的安全性が高い段階

信頼関係ができたチームでは、キャリアや中長期の挑戦といった話題が自然に出てきます。ここまで来て初めて、「私の判断で、仕事を進めにくくしていることはありますか」といった問いが機能します。

段階を飛ばすことはできません。いまチームがどこにいるかを見極めることが、問いを選ぶより先です。

📂 上司と部下の関係性を段階的に可視化する

いまチームがどの段階にいるのか。それを客観的に把握するには、サーベイの活用が有効です。270万回を超える1on1データから導き出した16段階のモデルで、上司と部下の関係性がどこにあるかを確認できます。

📘 1on1関係性サーベイ・16段階

上司が変えられる四つのふるまい

段階を見極めたうえで、実際の1on1をどう進めるか。ここでは四つ挙げます。

❶ 上司から先に自分の話をする

いきなり「最近どう?」と聞かれても、部下は何を話していいか分かりません。上司が先に自分の状況や迷いを話すことで、話す範囲の見本が示されます。

❷ 沈黙を待つ

部下が考え込んでいるときに、上司が答えを出してしまう。これが最も多い失敗です。しかも、この失敗は指導経験が豊富な上司ほど起こしやすい。

実例があります。中古車買取・販売「ガリバー」を展開するIDOMの幕張コンタクトセンターでは、対話データを分析した結果、経験豊富なスーパーバイザーほど沈黙を待てていないことが分かりました。

メンバーが悩みを整理しようと考え込んでいると、待てずに「だからこうじゃない?」と答えを与えてしまう。原因は、日頃の業務にありました。スキル指導が中心の現場では、「聞く」より「教える」モードが染みついてしまうのです。

ユニットリーダーの原卓也さんは、1on1を始めた当初、部下から「仕事の相談はしちゃいけない人」と位置付けられていたと振り返ります。メンバーが悩みを話しても「そのレベルで何を言ってるんだ」と正してしまっていた。改善の指示は明快でした。「スタッフがしゃべるまで黙って待ちましょう」。こうした取り組みを進めた期間に、部署のエンゲージメントスコアは2023年2月の52.9ptから、2024年7月には68.5ptへ向上しています。

🔹 参考記事:月10万件以上の電話対応。中古車ガリバーのコンタクトセンターが1on1をやる理由

❸ 感情に触れる

「それで、どうするの」ではなく「そのとき、どう感じた?」と聞く。事実の確認だけで終わると、言葉になっていない違和感は出てきません。

❹ 次回につなげて終わる

「また聞かせてね」「話してくれてありがとう」。この一言があるかどうかで、次回の話しやすさが変わります。

📂 1on1の進め方を実践的に学ぶ

安心感をつくる始め方から、対話の質を高める問いかけ、次回につながる終わり方まで。準備から振り返りまでの具体的な進め方と、メンバーの言葉を引き出す質問テンプレートを収録した資料です。

📘 マネジャーのための1on1完全ガイド

話した内容を、どこまで共有するか

見落とされやすいのが、1on1で話された内容の扱いです。

上司が部下から聞いた話を、そのまま上位者に報告する。悪意はなくとも、それが伝わればメンバーは話す内容を選ぶようになります。

だからといって、情報を止めれば済むわけでもありません。組織として1on1を推進する立場なら、現場で何が起きているかを把握したくなります。その欲求をどう扱うか。ここに一つの答えを出した組織があります。

キユーピーの基礎研究組織「未来創造研究所」では、所長が各メンバーの1on1の内容について、あえて報告を受けない運用にしています。

所長の糀本明浩さんは、その理由をこう説明しています。詳細が所長に伝わるとなれば、メンバーは忖度するかもしれない。1on1では変な力学が働かないようにしたい。心理的安全性の確保が最優先だ、と。

心理的安全性を高める施策の多くは、「もっと話してほしい」と働きかけるものです。しかしこの組織が選んだのは逆でした。情報が自分に集まらない仕組みを、意図的につくるという判断です。

何を共有し、何を共有しないか。1on1を始める前に、組織として決めておく必要があります。

🔹 参考記事:「基礎研究×1on1」の化学反応。キユーピーに学ぶ対話の力

1on1を評価の情報収集に使わない

同じ理由で、1on1で得た情報を人事評価に直接使うことは避けてください。

部下が「ここで話したことが評価に響く」と考えれば、話す内容は選別されます。悩みや失敗は出てこなくなり、うまくいっている話だけが残ります。

1on1は、評価のための場ではありません。 評価面談とは目的も進め方も分けて設計してください。

マネジャー自身にも心理的安全性が必要

1on1では、部下の重たい本音に直面することがあります。答えの出ない悩み、自分の対応への不満、組織への不信。

そのとき上司が「一人で解決しなければ」と抱え込めば、1on1は苦痛な時間になります。心理的安全性を提供する側にも、心理的安全性が必要です。

「こんなテーマで悩んだ」「どう声をかければいいか分からなかった」。マネジャー同士がそう話せる場を用意することが、結果として現場の1on1の質を支えます。

心理的安全性の取り組みで起こりやすい六つの失敗

❶「何でも言って」と呼びかけるだけ

「何でも言ってほしい」と伝えること自体は、悪いことではありません。問題は、そこで終わることです。

実際に異論や悪い報告が出たときに、マネジャーが不機嫌な顔をしたり、その場で反論したりすれば、メンバーは呼びかけのほうを疑います。言葉と反応が食い違えば、信じられるのは反応のほうです。

変えるべき順序は逆です。まず異論が出たときの自分の反応を変え、それが伝わってから呼びかける。順序を守らなければ、呼びかけは白々しく響きます。

❷ 発言を強制する

全員に発言や自己開示を求めると、新たな不安を生みます。その場で考えをまとめるのが苦手な人もいれば、大勢の前で話すこと自体に負担を感じる人もいます。

こうした人たちは、意見がないわけではありません。口頭で、その場で、という条件が合わないだけです。

そこで、マネジャーは意見を出す経路を口頭以外にも用意しましょう。会議前に書いて提出する、チャットで送る、匿名アンケートで集める、個別に聞く。手段が増えれば、発言を強制しなくても意見は集まります。

❸ すべての失敗を称賛する

失敗を責めない姿勢は大切です。ただし、すべての失敗を同じように扱う必要はありません。

同じミスが繰り返された場合や、決められた手順をメンバーが意図的に無視した場合まで、マネジャーが「挑戦したからよい」と評価すれば、基準が失われます。

防げた失敗と、未知の領域を試した結果の失敗を分けましょう。前者はマネジャーとメンバーで原因を確認し、再発を防ぎます。後者は何が分かったかを言語化し、次の行動につなげましょう。

❹ 研修だけで終わる

心理的安全性を学ぶ研修は、共通言語をつくるうえで有効です。ただし、研修だけでは職場の行動は変わりません。

メンバーが発言をためらうのは、知識が足りないからではありません。会議の進め方、評価のされ方、報告したときの反応。こうした仕組みが、発言してよい範囲を決めているからです。

マネジャーは研修を実施したら、会議の進め方や問題報告の流れも見直しましょう。学んだ内容を実行できる環境を用意しなければ、研修は知識で終わります。

❺ アンケートの点数だけを追う

スコアの向上を目標にすると、「高い点数をつけてほしい」という圧力が生まれます。

点数ではなく、問題が早く共有されるようになったか、異論が意思決定に反映されたか、改善策が実行されたかを確認しましょう。

❻ 関係性が良くなっただけで満足する

これが最も見落とされやすい失敗です。

1on1の実施率が上がり、「話しやすくなった」という声が増えても、挑戦や成果に直結する変化が十分に伴わないこともあります。対話の中身が進捗共有で止まっていれば、関係性は良くなっても、そこから先には進みません。

心理的安全性は挑戦を支える重要な条件ですが、それだけで挑戦が生まれるわけではありません。目標の意味づけ、裁量、資源、評価の仕組みなども必要です。

🔹 参考記事:実施率100%の先へ。新規事業開発組織が取り組む「成果につながる1on1」(大日本印刷)

心理的安全性を高めるための30日間の初期実践

30日は、心理的安全性を完成させる期間ではありません。現在の状態を把握し、改善のサイクルを回し始めるための期間です。

まずは一つのチームから始めましょう。制度を大きく変える必要はありません。

第1週:現状を把握する

マネジャーは自分のチームを観察します。会議で発言しているのは誰か。問題が起きてから報告が届くまでに何日かかっているか。メンバーはどのタイミングで助けを求めてくるか。

簡易アンケートを実施する場合、マネジャーはメンバーに最初にこう伝えてください。結果は評価に使わない、改善のために使う、と。この説明がなければ、メンバーは無難な回答を選びます。

第2週:会議の進め方を一つ変える

現状を把握したら、次は場の設計です。マネジャーは次のうち一つだけを選んで試してみましょう。

 ・自分の意見を最後に述べる
 ・会議前にメンバー全員から懸念を書いて出してもらう
 ・会議中に一人ずつ順番に意見を確認する

注意点は複数を同時に始めないことです。何が効いたのか分からなくなるためです。

第3週:悪い知らせへの反応を変える

第2週で会議の進め方を変えたら、第3週はマネジャー自身の反応を変えます。

メンバーが問題やミスを報告してきたとき、マネジャーが最初に発する言葉を「早めに知らせてくれてありがとう」に固定してください。「なぜこうなった」から入るのをやめる、ということです。

責任を問わないという意味ではありません。順序を変えるだけです。まず事実を確認し、対応を決める。原因の検証と責任の所在は、そのあとで扱います。

第3週の7日間、マネジャーは報告を受けるたびに、自分が最初に何と言ったかを書き留め、「ありがとう」と言えた回数と、つい「なぜ」から入った回数を数えてみてください。そうすることで、意図と実際のずれが分かります。

第4週:変化をチームで確認する

第4週は、マネジャーがチーム全員を集めて振り返りの場を持ちます。三週間で何が変わったかを、メンバーに聞いてください。

 ・以前より話しやすくなったこと
 ・まだ言いにくいこと
 ・続けたい行動
 ・やめたい行動
 ・次の30日で試すこと

この場でメンバーから意見が出てくるかどうかが、そのまま三週間の成果です。 沈黙が続くなら、第1週に戻って観察からやり直します。

心理的安全性は、一度の施策で完成するものではありません。マネジャーが日々どう反応するか。その積み重ねが、チームの状態をつくります。

心理的安全性に関するよくある質問

Q::心理的安全性が高いと、対立はなくなりますか?

なくなりません。むしろ、立場や考えの違いを率直に表明できるため、意見の対立は表面化しやすくなります。

重要なのは、対立を人間関係の攻撃にせず、仕事上の課題として扱うことです。

Q:誰の意見も否定してはいけないのでしょうか?

意見への反対や批判は可能です。ただし、発言した人の人格や能力を否定するのではなく、根拠や前提、実現可能性について議論します。

意見を採用しない場合も、その理由を説明することが重要です。

Q:個人の努力で心理的安全性を高められますか?

一人でできることもあります。同僚の質問を歓迎する、発言を遮らない、困っている人に声をかける。こうした行動は、立場に関係なく始められます。

ただし、心理的安全性はチームで共有される認識です。一人だけが変わっても、チーム全体の状態は簡単には変わりません。

とくに影響が大きいのは、評価や意思決定の権限を持つマネジャーの反応です。メンバーが「言っても大丈夫か」を判断するとき、最も見ているのはマネジャーだからです。

Q:リモートワークでも心理的安全性を高められますか?

高められます。ただし、対面より工夫が要ります。

オンライン会議では発言のタイミングが重なりやすく、表情や反応も伝わりにくくなります。話し出すのをためらう人は、対面のとき以上に黙ります。だからこそ、マネジャーは意見を出す経路を増やしましょう。

チャットや事前アンケートを併用する。会議中に発言者を順番に確認する。会議後にも意見を受け付ける。口頭でその場、という条件を外すことが有効です。

Q:心理的安全性が高まるまでどのくらいかかりますか?

一律の期間はありません。チームの状態によって大きく変わります。

とくに時間がかかるのは、過去に発言して不利益を受けた経験があるチームです。メンバーは「今回も同じかもしれない」と考えているので、マネジャーが一度態度を変えただけでは信じません。

必要なのは回数です。発言を歓迎し、実際に受け止め、対応を返す。この一往復を繰り返すうちに、メンバーの見方は少しずつ変わります。

Q:心理的安全性の構築は、ハラスメント対策と同じですか?

異なります。心理的安全性は、仕事上の質問、異論、失敗報告などを行えるチームの状態です。

ハラスメントや差別、法令違反には、相談窓口、調査、被害者保護、懲戒などの正式な対応が必要です。「心理的安全性を高める」という言葉だけで済ませてはいけません。

まとめ

心理的安全性とは、質問、異論、失敗の報告、援助要請といった対人関係上のリスクを伴う行動を取っても、安全だとチームのメンバーが共有している状態です。

単に居心地がよいことでも、厳しい意見を避けることでもありません。高い目標や品質基準を維持しながら、必要な情報や懸念を率直に共有できることが要点です。

低い職場では、会議で発言する人が偏る、悪い知らせの報告が遅れる、助けを求められない、上司への異論が出ないといった兆候が表れます。

改善するには、「何でも話してほしい」と呼びかけるだけでは足りません。

  1. 仕事を学習が必要な課題として捉える
  2. 管理職が自分の不完全さを認める
  3. 答えやすい具体的な問いを投げる
  4. 立場に左右されない発言機会を設ける
  5. 悪い知らせへの第一声を変える
  6. 意見がどう扱われたかを返す
  7. 高い基準と心理的安全性を両立させる

こうした行動を、日常の会議や業務、1on1、問題が起きたときの対応に組み込んでください。

心理的安全性は、特別なイベントでつくるものではありません。メンバーが発言するたびに、組織がどう応答するか。その積み重ねが、心理的安全性そのものです。

心理的安全性とは、対人関係のリスクを取っても安全だという共有された認識

心理的安全性とは、「このチームでは、対人関係上のリスクを取っても安全だ」とチームのメンバーが共有している状態を指します。

この定義を示したのが、ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・C・エドモンドソンです。1999年の論文で、オフィス家具メーカー1社の51チームを対象に、チームの心理的安全性と学習行動、パフォーマンスの関係を検討しました。

ここでいう「対人関係上のリスク」とは、発言によって周囲からの評価や人間関係が損なわれる可能性を指します。

行動 発言する際に感じやすい不安
分からないことを質問する無知だと思われないか
ミスや問題を報告する無能だと思われないか
上司や多数派に異論を述べる否定的、反抗的だと思われないか
助けを求める能力が低いと思われないか
新しいアイデアを提案する的外れだと笑われないか

心理的安全性の高いチームでも、こうした不安がゼロになるわけではありません。それでも、必要な発言や行動を取れる状態が保たれています。

なお、心理的安全性は個人の性格ではありません。チームのメンバーが共有する認識です。同じ人でも、あるチームでは率直に話し、別のチームでは口をつぐむことがあります。

心理的安全性と信頼は、似ているが同じではない

心理的安全性と信頼は密接に関係していますが、同じものではありません。

信頼は一般に、特定の相手について「約束を守ってくれる」「自分を裏切らない」と考えることです。個人と個人の関係を指す場合が多い。

一方の心理的安全性は、このチームで質問や異論、失敗の報告をしたときにどう扱われるかという、チーム全体の認識を指します。

上司個人を信頼していても、会議で発言した内容が同僚から嘲笑されたり、評価上の不利益につながったりするなら、チームの心理的安全性が高いとはいえません。

Googleの研究が、心理的安全性を広めた

心理的安全性がビジネスの世界で広く知られる契機の一つが、Googleの社内研究「Project Aristotle」です。

Googleはエンジニアリング部門と営業部門の複数チームを対象に分析を行い、効果的なチームに関係する五つの要素を特定しました。そのなかで、心理的安全性が最も重要な要素として示されています。

五つの要素は次のとおりです。

  1. 心理的安全性
  2. 相互信頼(約束した仕事を期限内に遂行する信頼性)
  3. 構造と明確さ
  4. 仕事の意味
  5. 仕事のインパクト

2番目の「相互信頼」は、原語では Dependability です。一般的な対人的な信頼というより、メンバーが質の高い仕事を期限どおりに仕上げるかどうかを指します。心理的安全性とは別の要素として扱われています。

ただし、これはGoogle社内で行われた研究です。あらゆる組織に同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません。

それでも、この研究が果たした役割は小さくありません。チームの成果をメンバー個人の能力や経歴だけで説明するのではなく、メンバー間の関係やチームの運営方法から捉える視点を広めたからです。

心理的安全性が低い職場に表れる八つの特徴

心理的安全性が低い職場には、共通して表れる特徴があります。ここでは八つの特徴を挙げます。

❶ 会議で発言する人がいつも同じ

上司や一部のベテランだけが話し、他のメンバーがほとんど発言しない状態です。

発言しない理由は、意見がないからとは限りません。「上司がすでに結論を決めている」「反対すると面倒な人だと思われる」「完成度の低い案を出すと評価が下がる」と感じている可能性があります。

会議で異論が出ないことを「全員が納得している」と捉えるのは危険です。沈黙は同意ではありません。

❷ 分からなくても質問しない

質問をすると「そんなことも知らないのか」「前にも説明した」と返される職場では、メンバーは理解が浅いまま仕事を進めます。その結果、認識のずれや手戻りが増えます。

この問題の厄介なところは、新人や異動者だけの話ではないことです。経験を積んだベテラン社員が、「今さら聞けない」と感じる場合もあります。

❸ 悪い知らせほど報告が遅れる

小さなミスや顧客からの苦情、進捗の遅れが、深刻になってから報告される状態です。

報告した人を強く叱責したり、「なぜできなかったのか」と個人の責任だけを追及したりすると、メンバーは「問題を早く伝えるより、隠すほうが安全だ」と学習してしまいます。

❹ 上司に反対する意見が出ない

過去に反対意見を述べて、上司に不機嫌になられたり、話を遮られたりした経験がある場合、メンバーは上司の様子から発言してよいかを判断するようになります。

こうしたチームでは、上司が自分の考えを長く説明した後で「何か意見はありますか」と尋ねても、反対は出ません。すでに結論が決まっているサインとして、メンバーが受け取るからです。

「反対意見も歓迎する」と言葉で伝えるだけでは、メンバーの見方は変わりません。上司が実際に異論を受け止める場面を見て、初めてのメンバーの意識は更新されます。

❺ 助けを求めるのが遅い

メンバーが仕事を一人で抱え込み、限界になってから相談する状態です。

背景にあるのは、メンバー自身が持つ「自分で解決するのが当たり前」「忙しい人に相談すると迷惑になる」「助けを求めると能力不足と思われる」という認識です。

このとき困るのは、メンバー本人だけではありません。上司やチームは問題が起きていることに気づけず、対処が遅れます。結果として、業務の遅延や品質低下につながります。

❻ 新しい提案より前例が優先される

改善案を出しても、上司が「以前も試したがうまくいかなかった」「いまの方法で問題は起きていない」「余計な仕事を増やさないでほしい」と返す状態です。

提案が採用されないこと自体は、どの職場でも起こることです。ただし、前例だけを理由に退け続ければ、メンバーは提案そのものをやめます。

❼ 失敗した人を探して終わる

問題が起きたとき、上司が「誰がやったのか」「誰の責任か」だけを追及し、業務プロセスや情報共有の仕組みまで振り返らない状態です。

担当者の責任を明確にすること自体は、上司の仕事です。ただし、そこで終われば、同じ問題が別の担当者のもとで再び起こります。

再発を防ぐには、なぜその判断が起きたのか、どの仕組みが問題を止められなかったのかまで、上司とチームが確認する必要があります。

❽ 発言しても何も変わらない

メンバーが意見を言うこと自体は許されていても、上司がその意見をどう扱ったのか説明しない状態です。

提案しても返事がなく、問題を報告しても上司から何の反応もない。これが続けば、メンバーは「言っても無駄だ」と判断し、発言をやめます。

厄介なのは、上司の側からは何も起きていないように見えることです。メンバーが黙っているだけなので、上司は「特に不満はなさそうだ」と受け取ります。

心理的安全性は、発言のしやすさだけの話ではありません。メンバーの発言を上司が受け止め、検討し、その結果を本人に返す。そこまで含めて考える必要があります。

📂 メンバーが本音を話せる組織をつくる

本音が言えない職場は、意図せず積み重なった「静かな壁」によって生まれます。その壁をどう取り除くか。1on1を通じて心理的安全性を段階的に高める設計・運用のポイントを、実例とともに紹介した資料です。

📘 心理的安全性を高める組織づくりと1on1の実践

心理的安全性が高い職場と低い職場の違い

同じ場面でも、心理的安全性の高低によって職場の反応は変わります。八つの場面で比較しました。

場面 心理的安全性が低い職場 心理的安全性が高い職場
会議上司や一部の人だけが話す立場にかかわらず意見が出る
質問知らないことを隠す不明点を早い段階で確認する
ミス隠す、報告が遅れる小さいうちに共有する
異論空気を読んで控える理由とともに率直に伝える
援助要請一人で抱え込む必要なときに助けを求める
提案完成してからでないと出さない未完成の案も検討できる
上司の反応否定、叱責、犯人探しから入るまず事実を確認し、対応を考える
振り返り個人の反省で終わる仕組みやプロセスも改善する

ただし、右側に当てはまるからといって、心理的安全性が高いとは限りません。

会議で意見が出ていても、話しているのが特定の人だけということがあります。誰が話しているか、どんな内容が共有されているか、そして発言した後に何が起きているか。

そこまで見てください。

心理的安全性と「ぬるま湯組織」は、別の軸の話

心理的安全性が高い職場は、「厳しいことを言わない職場」や「居心地のよいぬるま湯」と混同されがちです。

しかし、心理的安全性と仕事の基準は別の軸です。

心理的安全性と仕事の基準の4象限 快適ゾーン 居心地はよいが、 改善や挑戦が起こりにくい 学習ゾーン 率直に議論しながら、 高い成果を目指す 無気力ゾーン 発言も挑戦も少なく、 無関心が広がる 不安ゾーン 失敗や叱責への不安が強く、 疲弊しやすい 心理的安全性 高い 低い 低い 高い 仕事の基準 出所:Amy C. Edmondson, The Fearless Organization(2018)をもとに1on1総研作成

心理的安全性が高く、仕事の基準も高い状態では、メンバーは問題や失敗を隠さず、改善に必要な意見を出せます。高い目標に挑戦するからこそ、質問や助けを求めることが必要になるわけです。

反対に、仕事の基準が曖昧で、未達成や低品質を放置している状態は、心理的に安全ではありません。

心理的安全性を高めるメリット|期待できる五つの効果

❶ 問題を早期に発見できる

メンバーが小さな異常や顧客の反応、進捗の遅れを伝えられれば、問題が深刻になる前に対処できます。

重要なのは、問題が少なく見えることではありません。必要な情報が隠れず、意思決定者まで届いていることです。

❷ チームの学習が進む

分からないことを質問し、失敗を共有し、フィードバックを得る。こうした行動は、チームが学ぶために欠かせません。

エドモンドソンの1999年研究でも、チームの心理的安全性と学習行動の関連が示されています。

❸ 異なる知識や視点を活用できる

メンバーが異論を述べられない状態では、経験や専門性が異なる人を集めても、その違いを生かせません。

❹ 意思決定に必要な情報が集まりやすくなる

反対意見や懸念が共有されれば、意思決定の前提や見落としを検証できます。

心理的安全性は、全員の意見を採用するためのものではありません。判断に必要な情報を出し切り、より質の高い結論を出すための条件です。

❺ 挑戦と改善を続けやすくなる

新しい取り組みは、計画どおりに進まないことがあります。失敗したときに学びを共有できるチームでは、試行錯誤を次の行動へつなげられます。

ただし、すべての失敗を無条件に称賛することとは違います。 防げた失敗と、未知の領域を検証する過程で起きた失敗は、区別する必要があります。

心理的安全性を測定する方法

「職場の雰囲気はよいですか」と聞くだけでは足りません。質問、異論、失敗報告、援助要請といった、対人関係上のリスクを伴う行動を取れるかを確認します。

エドモンドソンが用いた7項目

エドモンドソンは1999年の研究で、チームの心理的安全性を測定する七つの項目を使用しました。

以下は、原論文の英語項目をそのまま転載したものではなく、内容を理解するために日本語で要約したものです。実際の調査や研究に用いる場合は、原論文を確認し、尺度の翻訳や使用方法を専門家と検討してください。

なお、ここでいうリスクとは、質問や異論、失敗の報告といった対人関係上のリスクを指します。

No. 質問項目 逆転
1このチームでミスをすると、後々まで責められることがある
2このチームのメンバーは、問題や難しい課題を口に出すことができる
3このチームでは、人と違うことを理由に拒絶されることがある
4このチームでは、リスクを取っても安全だ
5このチームのメンバーには、助けを求めにくい
6このチームには、私の努力を意図的に妨げるような行動を取る人はいない
7このチームでは、私ならではのスキルや才能が尊重され、活かされている

出典:Edmondson, A. C. (1999) "Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams," Administrative Science Quarterly, 44(2), pp.350-383, Appendix

1・3・5は逆転項目です。この三つに強く同意するほど、そのチームの心理的安全性は低いことを示します。他の四つは、同意するほど高いことを示します。原論文では、各項目について7段階で回答を求めています。

測定するときの五つの注意点

❶ 個人の診断に使わない

心理的安全性は個人の性格や能力ではなく、チームのメンバーが共有する認識です。複数の回答をチーム単位で集約し、チームの状態を捉えます。

‍❷ 匿名性を確保する

上司が個人の回答を特定できる状態では、本音を回答しにくくなります。少人数のチームでは、自由記述から個人が推測されないよう配慮します。

❸ 人事評価に直接使わない

スコアを管理職や個人の評価に直結させると、回答を高く見せる圧力が生まれます。

❹ 点数だけで判断しない

平均点ではなく、設問ごとの違いや回答のばらつきを見ます。上司と一部のメンバーだけが高く評価し、他のメンバーが低く評価している可能性もあります。

❺ 測定後に対話する

調査をしても結果が共有されず、何も変わらなければ、かえって組織への不信を強めます。

日常業務から確認できる指標

アンケートと合わせて、次の行動も確認してください。

  • 問題が発生してから報告されるまでの時間
  • 会議で発言するメンバーの偏り
  • 上司と異なる意見が出た回数
  • 援助要請や相談が行われる時期
  • 振り返りで決まった改善策の実施率
  • 提案に対して回答が返されるまでの時間

数字が多ければよいとは限りません。変化を継続して観察し、職場で起きている事実と合わせて判断します。

📂 上司と部下の関係性を16段階で可視化する

心理的安全性を捉える際には、上司と部下の関係性を別の角度から可視化することも役立ちます。270万回を超える1on1データと500社以上の調査から、警戒から信頼までの関係性を16段階で捉えるモデルを示した資料です。

📘 1on1関係性サーベイ・16段階

心理的安全性を高める七つの方法

心理的安全性は、研修で知識を伝えたり、「何でも話してください」と呼びかけたりするだけでは高まりません。

メンバーは、上司や組織が日常的にどう反応するかを見て、発言してよいかを判断します。ここでは発言の前・発言する場・発言した後という流れで整理します。

❶ 仕事を「学習が必要な課題」と捉える

管理職がすべての答えを知っているように振る舞うと、メンバーは上司の考えに従うことを優先します。事前に正解が分からない仕事では、こう伝えましょう。

 💬 「今回は過去の方法がそのまま通用するとは限りません」
 💬 「私たちが見落としている点があるかもしれません」
 💬 「早めに問題を共有しながら進めたいです」

仕事を「決められた正解を実行する課題」ではなく「情報を共有しながら学ぶ課題」と位置づける。それだけで、質問や異論の必要性が明確になります。

❷ 管理職が自分の不完全さを認める

「この領域については、私より皆さんのほうが詳しい」と伝えます。

これは謙遜の話ではありません。専門性が細分化した組織では、上司が部下より詳しくない領域が実際に存在するからです。

キユーピーの基礎研究部門である未来創造研究所の所長は、この構造を「専門性の逆転現象」と呼んでいます。

一つの専門領域の中に複数の分野があり、リーダーがある分野の専門家でも、別の分野ではメンバーのほうが圧倒的に詳しい。その結果、リーダーは「どうリードすればいいのか」と悩み、メンバーは「なぜリーダーは自分の技術を理解してくれないのか」とフラストレーションを感じる。

不完全さを認めるのは、この構造を前提にしたうえで、メンバーの情報が必要だと明示するためです。

ただし、「私は分からないので皆さんで決めてください」は責任の放棄です。意見を集めたうえで、決めるべき人が判断します。

📘参考記事:基礎研究になぜ対話が欠かせないのか。キユーピーが「相互理解」を追求する真意

❸ 答えやすい具体的な問いを投げる

「何か意見はありますか」という問いには、何を答えればよいか分かりません。しかも、発言しなくても会議は進みます。

観点を絞って尋ねてください。

 💬「この計画が失敗するとしたら、どこが原因になりそうですか」
 💬「顧客の立場から見て、分かりにくい点はありますか」
 💬「現場で実行するとき、最も負担になる部分はどこですか」
 💬「私たちがまだ確認できていない事実は何ですか」
 💬「いま判断することに不安がある人はいますか」

賛成か反対かではなく、懸念、事実、代替案を尋ねる。それだけで発言のハードルが下がります。

❹ 立場に左右されない発言の仕組みをつくる

自由に発言を求めるだけでは、役職や経験、性格による発言量の差はなくなりません。会議では次の工夫ができます。

  • 上司が自分の意見を最後に述べる
  • 会議前に全員が意見を書いて提出する
  • 一人ずつ順番に懸念を確認する
  • 発言だけでなくチャットや付箋も使う
  • 反対意見を担当する役割を置く
  • 少人数で話した後、全体へ共有す

発言を強制するのではなく、複数の参加方法を用意することが大切です。

❺ 悪い知らせへの「第一声」を変える

心理的安全性を左右するのは、管理職が何を呼びかけたかではありません。問題が報告されたときにどう反応したかです。

部下から失敗や遅れを報告された際、最初に「どうしてこんなことになったのか」「誰が担当していたのか」と責めれば、次から報告は遅れます。

まずはこう応じてください。

 💬「早めに知らせてくれてありがとうございます」
 💬「いま分かっている事実を整理しましょう」
 💬「影響を抑えるために、最初に何をするべきでしょうか」

これは責任を問わないという意味ではありません。対応と再発防止を進めたうえで、必要な責任を明確にします。

❻ 意見がどう扱われたかを返す

メンバーからの提案をすべて採用することはできません。しかし、採用しない場合でも説明します。

  • 今回は費用と納期の理由から採用しない
  • 指摘されたリスクは次回の計画に反映する
  • 判断に必要な情報が足りないので、追加で検討する

メンバーとしては、意見が採用されなかったことより、何の反応も返ってこないことのほうが、「言っても意味がない」という学習につながります。

部下が発言する。上司が検討する。上司が判断する。その結果を上司が本人に伝える。ここまでやって、ようやく一往復です。

❼ 高い基準と心理的安全性を両立させる

心理的安全性を高めるために、目標や品質基準を曖昧にしてはいけません。次の二つを同時に伝えます。

 💬「分からないことや問題は、早い段階で率直に共有してください」
 💬「顧客に約束した品質や期限には責任を持って取り組んでください」

人への敬意と、仕事への厳しさは分けて考えます。 意見や成果物には厳しいフィードバックを行いながら、人格や存在を否定しない。それが両立の条件です。

組織として心理的安全性を高める

心理的安全性を管理職個人のコミュニケーション能力だけに任せると、チームごとの差が大きくなります。それを防ぐためには、発言や問題報告が適切に扱われる仕組みを、組織として整える必要があります。

管理職の評価に「情報を引き出す行動」を入れる

管理職の評価は、売上や納期といった成果指標が中心になりがちです。そこに、次のような行動を加えます。

  • 悪い情報を早く把握できているか
  • メンバーの異論を受け止めているか
  • 問題を仕組みの改善につなげているか
  • 発言の少ないメンバーにも参加機会をつくっているか

ただし、チームの心理的安全性スコアをそのまま管理職の評価点にするのは避けてください。回答を操作したり、部下に高い点数を求めたりする弊害が生じかねません。

問題を報告できる複数の経路を用意する

上司自身が問題の原因になっている場合、部下は直属の上司に相談できません。人事、コンプライアンス窓口、上位管理職、匿名の通報先など、上司を通さずに届く経路を用意しておきます。

とくにハラスメントや法令違反は、対話で解決できる問題ではありません。相談窓口による調査や、被害者の保護といった正式な手続きが必要です。心理的安全性を高める取り組みは、こうした制度の代わりにはなりません。

失敗を学習につなげる

組織である以上、ミスやトラブルは起こります。重要なのは、起きた後に何を検討するかです。

  1. 何が起きたか
  2. その時点でどのような情報があったか
  3. なぜその判断が合理的に見えたか
  4. どの仕組みが問題を防げなかったか
  5. 次回から何を変えるか

担当者の責任だけでなく、業務量、手順、権限、情報共有、評価制度といった構造も確認します。

業務量と権限を見直す

発言しやすい雰囲気があっても、慢性的に仕事量が多く、相談する時間も対応する余力もなければ、問題は共有されません。

改善案を出しても決定権がなく、何も変えられない状態でも、発言は減っていきます。

📂 組織への1on1導入を考えている方へ

心理的安全性を組織に根付かせるには、個人の努力だけでなく仕組みが必要です。目的の明確化からルールの策定、継続的なモニタリングまで、1on1を形骸化させない導入の進め方を解説した資料です。

📘 0から始める!1on1導入ガイドライン

1on1で心理的安全性を育て直す

心理的安全性は、宣言や研修で生まれるものではありません。「発言しても大丈夫だった」という経験を、メンバーが何度も積み重ねて初めて形になります。

だからこそ、継続的に対話の場を持つ1on1が有効です。週次や、隔週、月1等で必ず訪れる時間があれば、経験を積み重ねる機会が構造として担保されます。

ただし、1on1を実施するだけで、自動的に心理的安全性が高まるわけではありません。 進め方を誤れば、かえって「言わないほうが安全だ」という学習を強めます。

チームの段階によって、1on1の焦点は変わる

もっとも多い失敗が、チームの状態を無視して深い問いを投げることです。

心理的安全性がまだ低いチームで「最近、言いにくかったことはありますか」と聞いても、答えは返ってきません。その問いに正直に答えること自体が、リスクの高い行動だからです。

必要なのは、いまチームがどの段階にいるかを見極めることです。

❶ 心理的安全性が低い段階

目的は、人間関係の安心感をつくることです。この時期のメンバーは緊張が強く、フィードバックへの恐れを抱えています。

雑談や日常会話から始め、「この時間は話しても大丈夫だ」と感じてもらう。業務の話が出てこなくても構いません。話を聞いてもらえたという経験そのものが、この段階の成果です。

❷ 心理的安全性が中程度の段階

1on1が習慣として定着すると、業務の相談が増えてきます。タスクの優先順位、進め方の迷い、判断に困っていること。ここで上司がやるべきは、アドバイスと承認を明確に伝えることです。「見ているよ」と示すことで、「この時間で仕事が前に進む」という実感が生まれます。

❸ 心理的安全性が高い段階

信頼関係ができたチームでは、キャリアや中長期の挑戦といった話題が自然に出てきます。ここまで来て初めて、「私の判断で、仕事を進めにくくしていることはありますか」といった問いが機能します。

段階を飛ばすことはできません。いまチームがどこにいるかを見極めることが、問いを選ぶより先です。

📂 上司と部下の関係性を段階的に可視化する

いまチームがどの段階にいるのか。それを客観的に把握するには、サーベイの活用が有効です。270万回を超える1on1データから導き出した16段階のモデルで、上司と部下の関係性がどこにあるかを確認できます。

📘 1on1関係性サーベイ・16段階

上司が変えられる四つのふるまい

段階を見極めたうえで、実際の1on1をどう進めるか。ここでは四つ挙げます。

❶ 上司から先に自分の話をする

いきなり「最近どう?」と聞かれても、部下は何を話していいか分かりません。上司が先に自分の状況や迷いを話すことで、話す範囲の見本が示されます。

❷ 沈黙を待つ

部下が考え込んでいるときに、上司が答えを出してしまう。これが最も多い失敗です。しかも、この失敗は指導経験が豊富な上司ほど起こしやすい。

実例があります。中古車買取・販売「ガリバー」を展開するIDOMの幕張コンタクトセンターでは、対話データを分析した結果、経験豊富なスーパーバイザーほど沈黙を待てていないことが分かりました。

メンバーが悩みを整理しようと考え込んでいると、待てずに「だからこうじゃない?」と答えを与えてしまう。原因は、日頃の業務にありました。スキル指導が中心の現場では、「聞く」より「教える」モードが染みついてしまうのです。

ユニットリーダーの原卓也さんは、1on1を始めた当初、部下から「仕事の相談はしちゃいけない人」と位置付けられていたと振り返ります。メンバーが悩みを話しても「そのレベルで何を言ってるんだ」と正してしまっていた。改善の指示は明快でした。「スタッフがしゃべるまで黙って待ちましょう」。こうした取り組みを進めた期間に、部署のエンゲージメントスコアは2023年2月の52.9ptから、2024年7月には68.5ptへ向上しています。

🔹 参考記事:月10万件以上の電話対応。中古車ガリバーのコンタクトセンターが1on1をやる理由

❸ 感情に触れる

「それで、どうするの」ではなく「そのとき、どう感じた?」と聞く。事実の確認だけで終わると、言葉になっていない違和感は出てきません。

❹ 次回につなげて終わる

「また聞かせてね」「話してくれてありがとう」。この一言があるかどうかで、次回の話しやすさが変わります。

📂 1on1の進め方を実践的に学ぶ

安心感をつくる始め方から、対話の質を高める問いかけ、次回につながる終わり方まで。準備から振り返りまでの具体的な進め方と、メンバーの言葉を引き出す質問テンプレートを収録した資料です。

📘 マネジャーのための1on1完全ガイド

話した内容を、どこまで共有するか

見落とされやすいのが、1on1で話された内容の扱いです。

上司が部下から聞いた話を、そのまま上位者に報告する。悪意はなくとも、それが伝わればメンバーは話す内容を選ぶようになります。

だからといって、情報を止めれば済むわけでもありません。組織として1on1を推進する立場なら、現場で何が起きているかを把握したくなります。その欲求をどう扱うか。ここに一つの答えを出した組織があります。

キユーピーの基礎研究組織「未来創造研究所」では、所長が各メンバーの1on1の内容について、あえて報告を受けない運用にしています。

所長の糀本明浩さんは、その理由をこう説明しています。詳細が所長に伝わるとなれば、メンバーは忖度するかもしれない。1on1では変な力学が働かないようにしたい。心理的安全性の確保が最優先だ、と。

心理的安全性を高める施策の多くは、「もっと話してほしい」と働きかけるものです。しかしこの組織が選んだのは逆でした。情報が自分に集まらない仕組みを、意図的につくるという判断です。

何を共有し、何を共有しないか。1on1を始める前に、組織として決めておく必要があります。

🔹 参考記事:「基礎研究×1on1」の化学反応。キユーピーに学ぶ対話の力

1on1を評価の情報収集に使わない

同じ理由で、1on1で得た情報を人事評価に直接使うことは避けてください。

部下が「ここで話したことが評価に響く」と考えれば、話す内容は選別されます。悩みや失敗は出てこなくなり、うまくいっている話だけが残ります。

1on1は、評価のための場ではありません。 評価面談とは目的も進め方も分けて設計してください。

マネジャー自身にも心理的安全性が必要

1on1では、部下の重たい本音に直面することがあります。答えの出ない悩み、自分の対応への不満、組織への不信。

そのとき上司が「一人で解決しなければ」と抱え込めば、1on1は苦痛な時間になります。心理的安全性を提供する側にも、心理的安全性が必要です。

「こんなテーマで悩んだ」「どう声をかければいいか分からなかった」。マネジャー同士がそう話せる場を用意することが、結果として現場の1on1の質を支えます。

心理的安全性の取り組みで起こりやすい六つの失敗

❶「何でも言って」と呼びかけるだけ

「何でも言ってほしい」と伝えること自体は、悪いことではありません。問題は、そこで終わることです。

実際に異論や悪い報告が出たときに、マネジャーが不機嫌な顔をしたり、その場で反論したりすれば、メンバーは呼びかけのほうを疑います。言葉と反応が食い違えば、信じられるのは反応のほうです。

変えるべき順序は逆です。まず異論が出たときの自分の反応を変え、それが伝わってから呼びかける。順序を守らなければ、呼びかけは白々しく響きます。

❷ 発言を強制する

全員に発言や自己開示を求めると、新たな不安を生みます。その場で考えをまとめるのが苦手な人もいれば、大勢の前で話すこと自体に負担を感じる人もいます。

こうした人たちは、意見がないわけではありません。口頭で、その場で、という条件が合わないだけです。

そこで、マネジャーは意見を出す経路を口頭以外にも用意しましょう。会議前に書いて提出する、チャットで送る、匿名アンケートで集める、個別に聞く。手段が増えれば、発言を強制しなくても意見は集まります。

❸ すべての失敗を称賛する

失敗を責めない姿勢は大切です。ただし、すべての失敗を同じように扱う必要はありません。

同じミスが繰り返された場合や、決められた手順をメンバーが意図的に無視した場合まで、マネジャーが「挑戦したからよい」と評価すれば、基準が失われます。

防げた失敗と、未知の領域を試した結果の失敗を分けましょう。前者はマネジャーとメンバーで原因を確認し、再発を防ぎます。後者は何が分かったかを言語化し、次の行動につなげましょう。

❹ 研修だけで終わる

心理的安全性を学ぶ研修は、共通言語をつくるうえで有効です。ただし、研修だけでは職場の行動は変わりません。

メンバーが発言をためらうのは、知識が足りないからではありません。会議の進め方、評価のされ方、報告したときの反応。こうした仕組みが、発言してよい範囲を決めているからです。

マネジャーは研修を実施したら、会議の進め方や問題報告の流れも見直しましょう。学んだ内容を実行できる環境を用意しなければ、研修は知識で終わります。

❺ アンケートの点数だけを追う

スコアの向上を目標にすると、「高い点数をつけてほしい」という圧力が生まれます。

点数ではなく、問題が早く共有されるようになったか、異論が意思決定に反映されたか、改善策が実行されたかを確認しましょう。

❻ 関係性が良くなっただけで満足する

これが最も見落とされやすい失敗です。

1on1の実施率が上がり、「話しやすくなった」という声が増えても、挑戦や成果に直結する変化が十分に伴わないこともあります。対話の中身が進捗共有で止まっていれば、関係性は良くなっても、そこから先には進みません。

心理的安全性は挑戦を支える重要な条件ですが、それだけで挑戦が生まれるわけではありません。目標の意味づけ、裁量、資源、評価の仕組みなども必要です。

🔹 参考記事:実施率100%の先へ。新規事業開発組織が取り組む「成果につながる1on1」(大日本印刷)

心理的安全性を高めるための30日間の初期実践

30日は、心理的安全性を完成させる期間ではありません。現在の状態を把握し、改善のサイクルを回し始めるための期間です。

まずは一つのチームから始めましょう。制度を大きく変える必要はありません。

第1週:現状を把握する

マネジャーは自分のチームを観察します。会議で発言しているのは誰か。問題が起きてから報告が届くまでに何日かかっているか。メンバーはどのタイミングで助けを求めてくるか。

簡易アンケートを実施する場合、マネジャーはメンバーに最初にこう伝えてください。結果は評価に使わない、改善のために使う、と。この説明がなければ、メンバーは無難な回答を選びます。

第2週:会議の進め方を一つ変える

現状を把握したら、次は場の設計です。マネジャーは次のうち一つだけを選んで試してみましょう。

 ・自分の意見を最後に述べる
 ・会議前にメンバー全員から懸念を書いて出してもらう
 ・会議中に一人ずつ順番に意見を確認する

注意点は複数を同時に始めないことです。何が効いたのか分からなくなるためです。

第3週:悪い知らせへの反応を変える

第2週で会議の進め方を変えたら、第3週はマネジャー自身の反応を変えます。

メンバーが問題やミスを報告してきたとき、マネジャーが最初に発する言葉を「早めに知らせてくれてありがとう」に固定してください。「なぜこうなった」から入るのをやめる、ということです。

責任を問わないという意味ではありません。順序を変えるだけです。まず事実を確認し、対応を決める。原因の検証と責任の所在は、そのあとで扱います。

第3週の7日間、マネジャーは報告を受けるたびに、自分が最初に何と言ったかを書き留め、「ありがとう」と言えた回数と、つい「なぜ」から入った回数を数えてみてください。そうすることで、意図と実際のずれが分かります。

第4週:変化をチームで確認する

第4週は、マネジャーがチーム全員を集めて振り返りの場を持ちます。三週間で何が変わったかを、メンバーに聞いてください。

 ・以前より話しやすくなったこと
 ・まだ言いにくいこと
 ・続けたい行動
 ・やめたい行動
 ・次の30日で試すこと

この場でメンバーから意見が出てくるかどうかが、そのまま三週間の成果です。 沈黙が続くなら、第1週に戻って観察からやり直します。

心理的安全性は、一度の施策で完成するものではありません。マネジャーが日々どう反応するか。その積み重ねが、チームの状態をつくります。

心理的安全性に関するよくある質問

Q::心理的安全性が高いと、対立はなくなりますか?

なくなりません。むしろ、立場や考えの違いを率直に表明できるため、意見の対立は表面化しやすくなります。

重要なのは、対立を人間関係の攻撃にせず、仕事上の課題として扱うことです。

Q:誰の意見も否定してはいけないのでしょうか?

意見への反対や批判は可能です。ただし、発言した人の人格や能力を否定するのではなく、根拠や前提、実現可能性について議論します。

意見を採用しない場合も、その理由を説明することが重要です。

Q:個人の努力で心理的安全性を高められますか?

一人でできることもあります。同僚の質問を歓迎する、発言を遮らない、困っている人に声をかける。こうした行動は、立場に関係なく始められます。

ただし、心理的安全性はチームで共有される認識です。一人だけが変わっても、チーム全体の状態は簡単には変わりません。

とくに影響が大きいのは、評価や意思決定の権限を持つマネジャーの反応です。メンバーが「言っても大丈夫か」を判断するとき、最も見ているのはマネジャーだからです。

Q:リモートワークでも心理的安全性を高められますか?

高められます。ただし、対面より工夫が要ります。

オンライン会議では発言のタイミングが重なりやすく、表情や反応も伝わりにくくなります。話し出すのをためらう人は、対面のとき以上に黙ります。だからこそ、マネジャーは意見を出す経路を増やしましょう。

チャットや事前アンケートを併用する。会議中に発言者を順番に確認する。会議後にも意見を受け付ける。口頭でその場、という条件を外すことが有効です。

Q:心理的安全性が高まるまでどのくらいかかりますか?

一律の期間はありません。チームの状態によって大きく変わります。

とくに時間がかかるのは、過去に発言して不利益を受けた経験があるチームです。メンバーは「今回も同じかもしれない」と考えているので、マネジャーが一度態度を変えただけでは信じません。

必要なのは回数です。発言を歓迎し、実際に受け止め、対応を返す。この一往復を繰り返すうちに、メンバーの見方は少しずつ変わります。

Q:心理的安全性の構築は、ハラスメント対策と同じですか?

異なります。心理的安全性は、仕事上の質問、異論、失敗報告などを行えるチームの状態です。

ハラスメントや差別、法令違反には、相談窓口、調査、被害者保護、懲戒などの正式な対応が必要です。「心理的安全性を高める」という言葉だけで済ませてはいけません。

まとめ

心理的安全性とは、質問、異論、失敗の報告、援助要請といった対人関係上のリスクを伴う行動を取っても、安全だとチームのメンバーが共有している状態です。

単に居心地がよいことでも、厳しい意見を避けることでもありません。高い目標や品質基準を維持しながら、必要な情報や懸念を率直に共有できることが要点です。

低い職場では、会議で発言する人が偏る、悪い知らせの報告が遅れる、助けを求められない、上司への異論が出ないといった兆候が表れます。

改善するには、「何でも話してほしい」と呼びかけるだけでは足りません。

  1. 仕事を学習が必要な課題として捉える
  2. 管理職が自分の不完全さを認める
  3. 答えやすい具体的な問いを投げる
  4. 立場に左右されない発言機会を設ける
  5. 悪い知らせへの第一声を変える
  6. 意見がどう扱われたかを返す
  7. 高い基準と心理的安全性を両立させる

こうした行動を、日常の会議や業務、1on1、問題が起きたときの対応に組み込んでください。

心理的安全性は、特別なイベントでつくるものではありません。メンバーが発言するたびに、組織がどう応答するか。その積み重ねが、心理的安全性そのものです。

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執筆者
1on1総研編集部

1on1のノウハウや組織課題、組織を活性化させるためのキーワードなどを掘り下げる記事を提供します。

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