実施率100%の先へ。新規事業開発組織が取り組む「成果につながる1on1」

大日本印刷株式会社 ABセンター 価値創造プログラム推進本部 室長 佐藤英吾さん

事業の種を育て、軌道に乗ればセンターから独立する。抜けた穴には、次の種を蒔く人材が社内外から集まる。大日本印刷(以下、DNP)の新規事業開発部門「ABセンター」は、人が常に入れ替わる、流動性が高い組織です。
センター内に共存するR&D部門と事業開発部門。新規事業の知見を持つ中途社員と、DNPの文化で育ってきたプロパー社員。多様なメンバーが集う組織で、早期に関係を築き、挑戦を支える土台をどうつくるか。そこで同センターが注力しているのが1on1です。
2021年に全社で1on1を開始し、2023年1月にはKakeaiを導入。ABセンターでは月1回の1on1実施率が当初から90%に達し、現在はほぼ100%を維持しています。推進担当の佐藤英吾さんに、1on1が定着するまでの工夫と次の展望をうかがいました。
- 人材の多様性や流動性の高い組織における早期の関係構築
- 対話文化の定着による相互理解の促進
- 1on1実施率ほぼ100%を達成
- エンゲージメントサーベイで「関係性」に関する各種指標のスコアが向上
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INTERVIEW
Q:ABセンターはどのような組織ですか?
ICT領域の新規事業を創出し、育て、送り出す組織
ABセンターは2014年に設立された、ICT領域の新規事業開発部門です。
組織の特徴は、R&D機能と事業開発機能の両方を持っていることです。ABセンターで新たな事業を生み出し、育て、一定規模に拡大したら事業部として独立させます。その際は事業のオーナーやメンバーも一緒に独立し、新たな事業を創出するために社内外から人が入ってきます。そのため、人材の流動性が非常に高い組織です。また、新規事業開発の知見を求めて中途採用も進めており、DNP全体で見ても中途入社組の比率が高い部門です。
事業が独立していく分、常に新しい種を生み出し続ける必要があります。そのための仕組みとして、2024年度から「OneABスタジオ」という事業開発プログラムを立ち上げました。ABセンターの全社員を対象に年間500以上のアイデアを募り、審査を通過した発案者がプロジェクトオーナーとなってチームを組成し、本業と並行しながら検証を進めます。年間数件の事業創出を目指しています。

Q:1on1に取り組み始めたきっかけを教えてください。
人事制度改定を機に、まずは実施率100%を目指した
2021年に全社で1on1が始まり、2023年1月にはKakeaiが導入されました。このタイミングで1on1を本格始動させています。
ABセンターは多様なメンバーが混在する組織です。正確性を重視し、長い時間軸で考えるR&D部門と、不確実性が高くともアイデアを前に進める事業開発部門。この両者が相互理解を深めないまま議論すると、話が噛み合わず、摩擦が起きやすい。そのため早期に関係性を築くことが不可欠でした。
そこで、まずは月1回の1on1を実施率100%で行うことを目指しました。1対1で話せば必ずポジティブな結果が生まれる。そんな確信があったので、最初は自由に話してもらうことから始め、関係性の質を高めることに注力しました。
Q:ABセンターでは導入当初から1on1の実施率が90%を記録していたとうかがいました。その高さの要因をどう捉えていますか?
トップメッセージと丁寧な導入設計
要因はいくつかあります。まずは弊社社長の北島が年頭指針や期初方針などで「対話が大事である」と繰り返し発信していたことです。大事なことは何度も伝えてこそ届くもの。社員が「また言っているよ」と思うくらい言い続けることで、認識が広がっていきました。
そうした土壌があった上で、導入時に1on1の目的や意義を事務局からしっかり説明しました。「制度だからやる」ではなく、「対話を促進する取り組みとして1on1を行う」というアプローチで現場の理解を得ました。

対話が生まれやすい環境づくりにも取り組んでいます。DNP全体ではリモートワークを認めており、出社日数の定めはありません。しかしABセンターでは独自に「週の過半以上は出社する」という方針を打ち出しました。仕事のスピード感の高まり、セレンディピティ的なアイデアの創出、相互理解の深まり──リアルな対話から生まれるそうした価値を、センター長が丁寧に説明したことも大きかったと思います。
私自身、休憩室で総務部長と立ち話をしたのがきっかけで事業アイデアが生まれました。社内の事業化審査を通過し、現在事業立ち上げに向けて推進中です。「会社に来て、対話するといいことあるよ」と、自分の体験として言えます。
Q:1on1推進者から見てKakeaiはどういう存在ですか。
「100%実施」を目指す上で、必要な機能が揃っている
Kakeaiは、実施率100%という目標を達成するために必要な機能が揃っていると感じます。TeamsやOutlookと連携したスケジュール設定、事前のテーマ選択、対話内容の文字起こしといった準備から実施までの支援がフルスペックで整っていて、かゆいところに手が届く存在です。
HR系のツールは、導入してみると使いにくかったり、マニュアルを読んで覚えるのが大変だったり、かえって負担が増えてしまうこともあると聞きます。Kakeaiは非常に直感的で使いやすく、現場の負担感を低く抑えられました。それが高い実施率につながった要因の一つだと思います。
Q:Kakeaiで特に役立っているものは?
実施状況の可視化と、満足度データの活用
推進担当として最も重宝しているのは、実施状況と満足度のデータです。
まず実施状況について。Kakeaiでは部門ごとの1on1実施率が把握できます。未実施者には月の中間と最終週にリマインドメールを送り、上長にも翌月初めにフィードバックしています。
また、実施率は全体に公開しています。1on1をやっていない人が少数派になることで、「自分もやらなきゃ」という意識が自然に生まれる。これを続けたことで、実施率が90%からほぼ100%へと向上しました。
次に満足度。Kakeaiではマネジャーごとの1on1満足度が確認でき、他社との比較も可能です。非財務領域の施策は取り組みの意義を問われやすいものですが、満足度データがあれば「これだけ効果が出ている」と示せるので、経営層への報告において重宝しています。
また、満足度の高いマネジャーに1on1における工夫を発信してもらう取り組みも始めました。事務局が一方的に「こうしなさい」と言うより、うまくいっている人から学ぶ方が現場に響きます。

Q:1on1を本格導入してから組織に変化はありましたか?
関係性指標が着実に向上。一方で「対話の質」が二極化
月1回取っているエンゲージメントサーベイで、関係性を表す指標が向上しました。2022年度と2025年度を比較すると、「上司との関係」「職務上の支援」は上昇。「仕事仲間との関係」「成果に対する承認」も改善しています。
一方で、課題も見えてきました。関係性指標はベンチマークを上回っていますが、「やりがい」「挑戦する風土」といった事業成果に直結する指標はベンチマークを下回っています。

Kakeaiでは1on1の前にメンバーがテーマを選択する仕組みになっており、どのテーマが選ばれているかを集計できます。これを分析すると、1on1の中身に二極化が起きていました。
挑戦や成果につながる踏み込んだ対話ができている人がいる一方で、「進捗共有で終わってしまう」「普段の会話と変わらない」という人も一定数います。関係性は良くなったけれども、その先に進めていない層がいる。ここに手を打つ必要があると考えています。
Q:その課題に対して、どのような対策を打っていますか。
メッセージの転換と、外部の声を借りた発信
まず、メッセージを転換しました。これまでは「業務の話だけでなく、プライベートの話もしてください」と発信してきましたが、今は「成果につながる対話、一歩踏み込んだ真剣な対話をしてください」と伝えています。
この変化に対し、現場には戸惑いもあると思います。納得感を高めるために、2025年11月にKAKEAIの皆川恵美社長とワークショップを実施し、新たな方向性に絡めたメッセージを発信していただきました。参加者の7、8割が「満足した」と回答しており、理解は一定程度得られたと感じています。
ただ、ワークショップ直後は熱が高くても、時間とともに冷めていくものです。社長の北島が対話の重要性を繰り返し発信しているように、新たな方針も定期的に伝え続けることが大切だと考えています。
Q:今後の展望を聞かせてください。
関係性の質を、成果へとつなげていく
新規事業は「1000のアイデアから三つの事業が生まれれば良い」という世界。だからこそ、失敗しても打席に立ち続ける挑戦を賞賛することが不可欠です。その風土をどう強化していくか。
私たちはこれまで、MIT組織学習センター共同創始者ダニエル・キム氏の「成功循環モデル」を参考にしてきました。関係性の質が高まれば、思考の質、行動の質、結果の質へと循環し、挑戦を支える土台が作られていくだろう、と。
実際、1on1を通じて関係性の質は高まりました。今はその先にある、思考や行動、そして成果へとつなげていくフェーズだと考えています。
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ただ、上司部下によって、関係性の段階にばらつきがあります。信頼の土台が構築できているペアもいれば、発展途上のペアもいます。後者に「成果につながる対話をしてほしい」と言っても、期待する効果は得られません。
そこで今後は、KAKEAIの「1on1関係性サーベイ*」を活用していく予定です。それぞれのペアの関係の現状を可視化し、その段階に応じたテーマや対話の仕方を選べるようにしていく方針です。
現場にも変化の兆しがあります。上司以外との1on1、いわゆる「斜めの1on1」を自主的に実施し、効果を感じている人が出てきました。ワークショップをきっかけに「自分たちで何ができるか考えたい」という声も上がっています。
トップダウンで始まった1on1が、現場発で進化していく。この流れを大事にしていきたいと思っています。
※上記事例に記載された内容は、2026年2月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。






