月10万件以上の電話対応。中古車ガリバーのコンタクトセンターが1on1をやる理由

月10万件以上の電話対応。中古車ガリバーのコンタクトセンターが1on1をやる理由

株式会社IDOM コンタクトセンター ユニットリーダー 原卓也さん

社名
株式会社IDOM
業界
商社
従業員規模
3001~5000人
タイプ
ご利用ユーザーの声
導入目的
マネジメント力・リーダーシップ強化
エンゲージメント向上
組織風土・コミュニケーション改善

中古車買取・販売「ガリバー」を全国に約460店舗展開する株式会社IDOM。その幕張コンタクトセンターは、約200人体制で日々5000件近くの電話対応をしています。中核となるのはWebからの問い合わせ客を店舗へ案内する営業部隊で、1人で1日50件を超える電話対応を行っています。

1分単位で生産性向上を追求し、高い成果を上げる一方、上司と部下のコミュニケーションはスキル指導に偏り、メンバーの悩みや成長実感の欠如に気づけず、離職リスクも高まっていました。

そんな中、2023年に全社方針としてES(従業員満足度)向上とマネジメント力の強化が打ち出され、幕張コンタクトセンターでも1on1を本格化。8月には「Kakeai」を導入し、対話データを活用して改善を重ね、エンゲージメントスコアの向上を実現しています。

持ち場を離れることが困難なコンタクトセンターにおいて、いかにして1on1を実践しているのか。同センターのユニットリーダー原卓也さんにお話を聞きました。

課題
  • スキル指導に偏ったコミュニケーション
  • 部下の個性や力を引き出せない組織的なマネジメントスキル不足
  • メンバー層の成長実感ややりがいの欠如
成果
  • メンバーからの相談、意見、提案の増加
  • 終業後の自主的な話し合い増加
  • 組織のエンゲージメントスコア向上

Q. コンタクトセンターの業務内容と組織構成を教えてください。

主にガリバー店舗へのご案内を担う営業チーム

当社の幕張コンタクトセンターは約200人体制で、インフォメーションからアフターサービスまで幅広くお客様対応を行なっています。センター内には複数のチームがありますが、最大規模は全体の7割を占める「アポ取得チーム」です。このチームは、年間約60万件のWeb問い合わせに対して、営業スタッフを割り振って商談を進め、お客様のニーズに合わせて全国の店舗にご案内をする部隊です。

幕張コンタクトセンターの「アポ取得チーム」

アポ取得チームは、1日50~60人のお客様と電話で話す営業スタッフ、そのスタッフ10〜20人を束ねて指導するスーパーバイザー(SV)、そしてSVを統括するユニットリーダーで構成されています。

私たちは「超生産性チーム」で、1分単位で稼働時間を管理しています。営業スタッフは電話対応のため、休憩時間以外はずっと稼働している状態です。1日の電話対応数はチーム全体で5000〜6000件に及びます。

Q. どのような組織課題を抱えていたのでしょうか。

成長実感とやりがいの喪失に伴う離職リスクの増加

私がSVだった当時、退職面談が発生するたびに、「やりたいことが見つかった」と説明を受けましたが、それはあくまで表面的なもので、本質的な理由は成長実感とやりがいの喪失ではないかと私は考えています。

それらが失われる背景には二つの問題があります。一つは、生産性を追求するあまり、SVと営業スタッフのコミュニケーションがスキル指導に完全に偏っていたこと。SVは営業スタッフの通話記録を確認し「こう伝えた方がいい」といった指導をします。一方で、部下の悩みやキャリアビジョンは十分に聞けていませんでした。

二つ目は、コンタクトセンター特有の孤独感です。店舗営業と違い、電話営業はお客様から「ありがとう」と言われることはあまりありません。そのため、貢献の実感を得られていないスタッフもいます。そのような気持ちを抱えていながら相談する機会を逃し悩みが拡大していく、といった負のスパイラルが発生していました。

Q. 組織課題に向き合うために1on1に着目した理由は?

6年間の試行錯誤と、全社方針による本格推進

1on1との出会いは6年前です。私がユニットリーダーになった時に会社から勧められました。正直「意味ない」と思いました。私は普段から部下と飲みに行き、休日にも遊んでいたため、コミュニケーションは十分だと思っていたからです。

それでも始めてみましたが、結果は芳しくありませんでした。部下から全く相談されないのです。当時の部下の多くは私と同世代。年の近い上司に弱みを見せることを嫌った者も少なからずいました。ただ、うまくいかない理由は他にもありました。

当時の私を含むリーダーやSVは実力主義の中で這い上がってきた者ばかり。目標達成を最優先と考え、メンバーが悩みを話しても「そのレベルで何を言ってるんだ」と正してしまう。そのようなコミュニケーションを続ける中で、私は部下から「仕事の相談はしちゃいけない人」と位置付けられていました。

転機は2年前です。全社方針で1on1が本格的に推進され、会社から学習ツールや書籍が提供され、部下主導のコミュニケーションの大切さを理解しました。Kakeaiを知ったのもその時です。コンタクトセンターでも導入したいと会社に申し入れました。

Q. Kakeai導入後、どのような運用体制で1on1を実施していますか?

3層構造の1on1体制

現在は次の三つのラインで1on1を行っています。

 ・営業スタッフ × SV
 ・SV × ユニットリーダー
 ・営業スタッフ × ユニットリーダー

Kakeaiの大きな特徴は、1on1の日程やトークテーマをメンバー側が決められること。以前は私やSVから声をかけて1on1を行っていましたが、メンバー側から申し込むのが理想と考えました。

私の場合、2カ月に一度は私主導で全スタッフと約60分の1on1を行い、それとは別に「いつでもOK」という枠をカレンダーに設定して、メンバーに予定を入れてもらっています。そのようなメンバー主導の1on1が毎月10件くらい。場所は執務フロアにあるMTGスペースを使っています。

1on1で利用することの多いMTGスペース。ユニットリーダーやSVがラップトップのPCを持ち込み1on1を行う

Q. Kakeaiでは、1on1終了後にメンバーが満足度を入力することで、上司の対話スキルの強み・弱みが可視化されます。データから見えてきたことはありますか?

マネジャー陣の対話スキルの偏り

データを分析した結果、私を含むマネジャー陣の課題が見えてきました。

一つは「報告したい」という項目が極端に選ばれていないこと。理由は単純です。私たちは1on1で悩みを聞いてその場で解決するものの、「次回までにこうしておこうね」という約束をしていなかった。「宿題」がないから、メンバーも報告することがない。継続性のない「その場限りの1on1」になっていたのです。

二つ目は「話を聞いてほしい」も少ないこと。メンバーが自分の悩みを整理しようと「うーん」と考えていると、多くのSVは待てずに「だからこうじゃない?」「こうした方がいいよ」と答えを与えてしまう。

これは私たちの組織文化が原因です。先にも申し上げた通り、ユニットリーダーもSVも、実力主義で成果を上げてきた営業出身者ばかり。日頃からスキル指導ばかりしているので、「聞く」より「教える」モードになってしまう。相手が自分で答えを見つけるまで待つべきなのに、経験豊富なSVほどそれを我慢できていなかったのです。

現在は各SVのデータを個別に分析し、具体的な改善指導をしています。「人間関係」の項目が低いSVには共感と承認から始めるよう指導し、待てないSVには「スタッフがしゃべるまで黙って待ちましょう」と直接伝えています(笑)。データという客観的事実があるからこそ、みんな素直に受け入れてくれます。

Kakeaiのマネジャー専用画面。1on1での対応における得意・不得意が可視化される。囲みのコメントや紫色の楕円などは、結果に対し原さんが加えた考察。原さんは「報告したい」という項目がブランク、つまり部下からその項目が選ばれていない。これは部下が原さんとの1on1で「報告を聞いてほしい」と思っていない結果と考えられる。また、「人間関係」というテーマにおいて「話をきいてほしい」という対応に赤丸が表示されており、その対応が不得意であることもうかがえる。原さんのチームではマネジャーごとにこうした得意・不得意を分析し、1on1の改善に取り組んでいる。

Q.Kakeai導入後、原さんやSVの皆さんに変化はありましたか?

ビジョンと現在業務の接続による意味づけの変化

最も大きな変化は、SVがメンバーの成長を本気で支援するようになったことです。1on1を重ねてメンバーの強みや弱みを深く理解できるようになると、自然と「この子のために頑張ろう」という気持ちが生まれてくる。これが本当に嬉しい変化でした。

以前は業務指導だけだったSVが、メンバーのビジョンを聞いて「そのためにこの視点で頑張ろう」と、日々の架電業務を将来への道筋として意味づけるようになりました。メンバーの目標を記憶し、評価面談を待たずに「ここ伸びているね!」と日常的に承認するようにもなっています。

指導スタイルも変わりました。感情的になることもあったSVたちが、今は「どうしてそう考えたか」をまず聞く。Kakeaiのデータで自身の対話スキルを改善した結果、メンバーから意見をもらえるSVが増えてきました。

Q. 組織全体で変化は生まれていますか?

相談が増え、声が大きくなり、意見が出るようになった

最も顕著な変化は、メンバーから相談が来るようになったことです。驚くことに、その3、4割が恋愛相談などです。Kakeaiのトークテーマの選択項目に「プライベート」があることで、「こういうことも話していいんだ」と気づいてくれたのかもしれません。仕事の相談も、スキルだけでなく将来のビジョンや成長に関することが増えています。

組織全体の雰囲気も変わりました。朝の挨拶の声が明らかに大きくなりましたし、終業後に自主的に残って「明日のために今日どうするか」と話し合うメンバーも増えています。以前は私が戦術を作っていましたが、今はメンバーから意見がどんどん出てきて、それを整理する役割に変わりました。

数値面の変化もあります。部署のエンゲージメントスコアは2023年2月時点で52.9ptでしたが、2024年7月には68.5ptへと向上し、会社としても社外のES Awardを受賞しました。SVたちがちゃんと1on1に向き合ったからこその結果だと感じています。

直近2年間における幕張コンタクトセンターのエンゲージメントスコアの変化。1on1を本格化させた2023年後半から数値が高まり、1年後には10ポイント以上向上。組織内で大規模な人員の入れ替えがあり、2025年には一時的に数値は下がったが、それでも2年前より高い数値を記録している。

Q. 素晴らしい変化ですね。他方、1分単位で生産性向上を目指すチームにおいて、1on1の時間を捻出するのは簡単ではなさそうですが。

「稼働量の低下」から「業績向上に向けた投資」へと発想を転換

以前は営業スタッフを現場から剥がすことで「業績面で迷惑をかけるかも」と思っていましたが、考え方を180度変えました。1on1に投資した方が結果的に業績は上がる。30分や1時間は「安いもの」です。

実際、コンタクトセンターではメンバーの精神状態が成果に直結します。声色やテンションだけでアポ獲得の成否が変わるのです。だからこそ、早めに悩みを解消することが生産性向上に直結する。

この考えに基づき、月100時間近く1on1に費やしていた時もありますが、全く苦ではありませんでした。

Q. Kakeaiにどのような機能があれば、1on1の質がさらに良くなると思いますか?

部下側の「1on1の受け方」も可視化できる仕組み

私はKakeaiというサービスに「1on1はマネジャーとメンバーの両方でつくるもの」というメッセージが込められていると感じます。

Kakeaiでは上司の対話スキルが可視化されます。上司はそれを基に自身の対応を改善できます。部下側も専用ページで過去に話し合ったテーマ、上司に期待する対応、送った感想などを確認し、自身の1on1の過ごし方を振り返ることができます。

これに加えて、上司が部下の「1on1を受ける姿勢」に対しフィードバックを送れる仕組みがあれば素晴らしいと思います。私自身、前任のリーダーと1on1をする際は、振り返りと改善を繰り返しながら、しっかり事前準備をして1on1に臨んでいました。

部下側も上司からのフィードバックを基に1on1を改善していけば、対話の質はさらに向上すると思います。

Q. 対話文化の定着を通じて、今後どのような組織を実現したいですか?

メンバーが主体的に成長機会を求める文化へ

メンバーが1on1を「成長や壁を突破するための機会」と捉え、自ら積極的に活用する——そんな組織を目指しています。

今は上司との定期的な1on1が中心ですが、将来は「この悩みは上司に」「この技術はあの先輩に」「この案件は他部署の○○さんに」と、メンバーが必要な対話を自分から求めていく組織にしたいと考えています。

現在の1on1では、上司との信頼関係が深まり、対話を通じて自己理解も進み、結果として組織への貢献意欲も高まっています。この好循環を、上司-部下という縦のラインだけでなく、部署を超えて広げていく。全員が主体的に成長機会を求める組織になれると信じています。


※上記事例に記載された内容は、2025年08月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。

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