
【議論】内向型で「人に関心がない」。それでもマネジャーは務まるのか
人を率いて前に立つよりも、一人で物事を深く突き詰めるほうが性に合う。そんな気質を持つマネジャーが、自分の持ち味を生かしてチームを動かすには、どうすればよいのか。
内向型リーダーシップ開発を専門とする株式会社HINOE代表の矢本洋介氏と、チームワークとリーダーシップを研究する早稲田大学商学部准教授の村瀬俊朗氏が、議論を交わした。
前編で示されたのは、内向的な性質そのものは、マネジメントの妨げにならないということだった。性質とスキルは別物であり、必要な技術を磨けば、内向型のままマネジャーは務まると二人は言う。
後編では、その実践に踏み込む。自分の気質とどう向き合い、チームにどう関わり、管理職同士の場でどう立ち回るか。議論は、より具体的な場面へと移っていく。
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「メタ認知」を通じて自己認識を変えるマネジャーたち
ーー前編の最後に「部下からの信頼を生むのは、単なる会話の量ではなく、寄り添いの積み重ねである」といったお話がありました。ただ、思いを内に秘めがちな内向型にとっては、寄り添う気持ちを相手に届けることが難しかもしれません。どのように伝えればよいのでしょうか。
矢本 大事なのは、伝わる「場」を選ぶことだと思います。大勢の前では脳の覚醒度が高まり、内向型は刺激の量に消耗して持ち味が発揮されづらいこともありますが、一対一や少人数のパーソナルな空間なら、無理なく関心を伝え、自己開示もできる。
1on1は、まさにうってつけの場です。話をじっくり聞ける内向型のマネジャーとの1on1は、部下にとっても有意義な時間になるはずですから、そこは自信を持ってほしいですね。

株式会社HINOE代表
ブリティッシュコロンビア大学(心理学)卒業、立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース修了。三井物産人材開発、ジョンソン・エンド・ジョンソン、NECにて人材開発・組織開発・タレントマネジメントに従事し、次世代経営人材やグローバルリーダーの育成に携わる。2024年に株式会社HINOEを創業。自身も内向的な気質を持つ実践者として、日本人リーダーが自分らしさを失わずに信頼され、影響力を発揮するための支援を行う。京都女子大学講師。
ーーとはいえ、内向型のマネジャーの中には、1on1に苦手意識を持っている人もいます。
村瀬 それは、内向か外向かではなく、不安傾向の強さ(=評価や失敗への不安など負の状況に対する敏感な傾向)の現れだと思います。
人は物事を、自分の性格を土台にして受け取ります。不安傾向の強い人は、部下の提案を聞いても、まず危うさのほうが先に目に入る。新しいことをやりたいという部下に「いや、うまくいかないと思う」と否定から入り、極端に安全策を取って、やってみれば通ったかもしれない芽を摘んでしまう。
部下からすれば、自分ごと否定された気持ちになり、1on1はレールから外れていないかを点検される時間になる。これでは部下もげんなりしますし、マネジャー自身も面白くないでしょう。
ただ、懸念を抱くこと自体が悪いのではありません。問題は返し方です。「ここだけが不安だから、もう一度考えてくれる?」という言い方なら、拒絶にはなりません。むしろ「練り直して、また持ってきてほしい」という、次の提案への誘いとして相手に届きます。
重要なのは、自分の気質や傾向と、それに基づく行動が相手にどう映るかを「メタ認知」できているかどうかです。つい取ってしまう負の行動を自覚しているだけで、その衝動は抑制できます。
もっとも、メタ認知した結果、「自分は人が苦手だから、避けよう」という結論を出すのは望ましくありません。それでは何が苦手なのかを分析しないまま終わってしまいます。
「なぜ自分は人が苦手なのか。本当は何が怖いのか」といったことを言葉にして分解すれば、「怖いのはこの一点だけで、あとは案外できている」などと気づき、漠然とした不安が、対策が打てる課題へと変わっていくのです。

早稲田大学 商学部 准教授
1997年に高校卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaにて産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はチームワークとリーダーシップ。
ーー矢本さんは、内向型マネジャーの研修も手がけています。いまのような自己認識を、どう促しているのでしょうか。
矢本 大きく二つあります。一つは、マネジャー本人による自己分析です。内向性が悪く出るのはどんなときで、良い方向に出るのはどんなときか。まずそれを本人に洗い出してもらい、良い方向に出るものは、自分のリーダーシップの源泉として受け入れるよう促します。
もう一つは、仕事を一人で背負い込まないよう助言することです。責任感の強い人ほど、何もかも抱え込んで、声に出せないまま潰れていってしまいます。そうなる前に、「この領域では、あなたにリーダーシップを発揮してほしい」と、シェアド・リーダーシップの考え方を元に、メンバーに役割を渡していく。
チームの長だからといって、すべてを自分で担う必要はありませんし、自身が全ての領域でメンバーより秀でている必要もありません。そう捉え直すだけで心理的な負担は下がりますし、任されたメンバーの主体性も伸びていきます。
ーーーーとはいえ、「任せなさい」と言われて、素直に任せられる人ばかりではない気もします。
矢本 自分でやってしまうマネジャーは、そのほうが「気にかけるべき変数」が少なく、不確実性が回避できるので、任せることに抵抗が生まれます。人に任せれば、期待通りにいかないことも起きますし、思った通りに動かない部下には確認や、時に要求もしなければならない。
そこにはリスクやコンフリクトが生じる場合もあります。その衝突を避けたいという深層心理が「自分でやる」という気持ちを強化し、結果として余計に自分の首を絞めてしまうのです。
それを防ぐためには、仕事を渡したうえで、逸脱があればちゃんと話すこと、そして、その建設的な衝突を恐れないことが重要です。実際、衝突はそれほど恐れるほどのものではありません。

村瀬 矢本さんの話に付け加えると、不安傾向の強い人ほど「周囲に任せたら、自分にリーダーシップがないと思われるのではないか」と恐れる傾向があります。とりわけハイ・パフォーマーで自信の持てない人は、部下のやることが物足りなく見えることもあって、任せながら育てることができず、コントロールに走ってしまいます。
けれども、部下に任せても、リーダーとしての権威は失われません。重要な意思決定は自分で担い、苦手は苦手と認めて、周囲にうまく補ってもらう。その姿勢と行動は、むしろリーダーシップの発揮と言えます。
ーー意識の変化を促すよう助言を受けて、実際に変わったマネジャーの事例はありますか。
矢本 私のお客様に、技術系メーカーに勤める、「ザ・エンジニア」というべき方がいました。職人気質で、コーディングの腕はピカイチ。でも、部下とはなるべく関わりたくないし、1on1なんて時間の無駄。そんな時間があれば手を動かしたい、という方でした。それでも、役職が上がり、マネジメントを担わざるを得なくなったのです。
正直に申し上げると、その方の人への関心そのものには、大きな変化は見られませんでした。認知的な好みとは、それほど強いものです。
ただし、関わり方を工夫することで部下の成長を促すことはできます。その成長がチームの士気と生産性向上に繋がり、結果的にチームの成果に結びつく。マネジメントとは人を介して成果を生み出す仕組みなのだと、本人の利にも繋がるように丁寧にお伝えしました。すると、キャラクターや気質が突然変わる訳ではないですが、マネジャーとしての意識や責任を捉え直してくれたことが印象に残っています。
たとえば1on1なら、目的をどこに置き、そのために何を聞くか、時間をどう使うか。適度に雑談を設け、メンバーの話す時間をなるべく多くする。そんなふうに設計から見直していくうちに、その方にとって1on1は、少しずつ苦ではなくなっていきました。

私がこの方との一連の関わりで貫いたのは、ご本人の内向的な気質を否定しない、ということです。むしろ、その気質をこの方ならではの影響力に変えた、自分らしいマネジメントスタイルを言語化してもらいました。
すると、組織からの期待に応えるだけでなく、「自分はマネジャー向きではない、技術の専門職だ」という思い込みそのものが、少しずつほどけていきました。
村瀬 その変化は、二つの側面から説明できるように思います。一つは、頭での理解、認識の面です。私たちは「上司とはこう振る舞うものだ」という暗黙の台本を、書籍や先輩の姿などから作り上げ、それに沿って行動しています。
「自分は向いていない」という思い込みも、多くはその台本に照らした判断です。だから「この役割には、こういうことも期待されているんですよ」と台本の中身を書き換えてあげると、「ああ、これを求められていたのか」と認識が変わります。
もう一つは、感情の面です。「自分はできる」という感覚は、必ずしも能力の高まりとともに生まれるわけではありません。それを生むのは、多くの場合、信頼する人からの「あなたならできる」という説得です。
「あの人が言うのなら、やってみようか」。そんな気持ちに後押しされて難しい仕事に挑むうちに、実際に力がつき、「自分にもできる」と思えるようになっていくのです。
矢本 信頼できる相手からの「あなたならできる」という言葉は、自己効力感を育みますよね。
マネジャーにとって、最も身近な信頼相手はチームのメンバーです。実際、部下からの「できますよ」は、ことのほか嬉しいものです。
それこそ「(チームをRPGのパーティーに喩えた場合)私は皆が期待する前線の “戦士” ではなく、後方支援が得意な “魔法使い” だけど、いいかな」「勿論です、フロントは僕たちに任せてください」みたいなポジティブなやり取りが上司と部下の間で生まれたら、内向型のマネジャーの中にも「自分らしい色でやっていける」という自信が芽生え、チームも活性化していきますよ。

その意味で、気質に合ったマネジメントスタイルの習得やリーダーシップの開発は、チームビルディングとセットで進めるのが望ましいと考えてます。

目指すは議長! 内向型の会議サバイバル術
ーーここまでは、内向型のマネジャーが部下とどう関わるかを伺ってきました。最後に、目線を変えて、他部門の部課長など同格以上の相手との向き合い方も考えたいと思います。
矢本 それも大事なテーマです。部課長会のような場には、その場をハイジャックしてしまう “強い” 役職者も集まります。内向型のマネジャーは、その勢いに割って入れず、自分の番を待ってしまいますが、待つうちに議題は移り、結局何も言えないまま終わってしまうこともあるかもしれません。
しかも、これは本人だけの問題では済みません。マネジャーは、チームの代表としてその場にいるからです。現場の要望を他部門の管理職に届けることを期待されているのに、「ごめん、今日も話せなかった」とチームに持ち帰ることになれば、部下の目には「うちのマネジャーは弱い」「決めてくれない」と映ります。
内向型の控えめな面が悪く出ると、その影響は本人にとどまらず、チーム全体に及んでしまうのです。
村瀬 ただ、そこで外向型を「演じる」という発想を持ち出すと、かえって苦しくなります。
部課長会での発言力を支えるのは、日常的なコミュニケーションの積み重ねです。まず大事なのが、上司である部長との関係です。部長が何を考え、いま何を優先しているのかをつかむ。自分の課の動きを丁寧に説明し、部のなかでの位置づけを認識してもらう。それができていれば、他の課長と話すときにも、部長の持つ情報を踏まえて議論ができます。
これがあるのとないのとでは、説得力がまるで違います。

もう一つは、その他の課長たちと、日頃から話せる間柄になっておくことです。仕事の話に加えて、相談や雑談を重ねておく。データを見ても、そうした関係がある人は、会議でも相手の考えを踏まえた議論ができています。
こうした日頃の下地を整えたうえで、会議の前にはしっかり準備をして、本質的な問題を語れるか。内向型は、そこで勝負したほうがいい。
矢本 その事前準備にも関連して、私がオススメしたい立ち回りがあります。それは、議長のポジションを取ることです。自身が発言者に回るのではなく、場を回す人になる。雄弁である必要はありません。むしろ、問いを投げかけ、議論のバランスを取り、参加者の共通項を見つけて引き出していく。
こうした議長・ファシリテーターの仕事は、論点の整理も、進行の組み立ても、事前の準備がものを言います。内向型が得意とするリスクに備える力が、そのまま生きるのです。
しかも議長は会議の進行を握りますから、多くを語らなくても、自然とビジビリティが高まる。そのような役割に、自ら手を挙げていくのです。

村瀬 それはいいやり方ですね! アメリカでも「パーティーに参加するより、ホスト側に回りなさい」とよく言われます。自分で場を開いてしまえば、みんなのほうから来てくれる。一参加者として懸命に自己紹介して回るより、ずっといい。エネルギーは使いますが、戦略として理にかなっています。
矢本 私自身、立食パーティーが大の苦手で、初対面の人の輪になかなか飛び込めず、かといって孤立していると思われるのも嫌なので、とりあえず料理の列に並びます(笑)。
不確実で刺激の多い環境は、内向型としてどうしても分が悪い。だからこそ、雄弁さを競う外向の土俵ではなく、ホスト側に回ることや、少人数の空間をうまく使う。脳の覚醒度が上がりすぎないように、刺激とうまく付き合い、回復も怠らない。それが、内向型なりの戦い方だと思います。
人が集まる場に立てば、内向型はどうしてもエネルギーを消耗しますから、一人の時間や一人になれる場所を、あらかじめ確保しておく。そうすれば、無理なく戦い続けられます。かく言う私も、この後、こっそりとした場所に籠って本でも読もうかと思っています(笑)。
村瀬 私は逆に、人と話すことで元気になる外向型なので、今日もエネルギーをもらいました(笑)。内向型は、自分の内側でエネルギーを生み出せるから、無理に人と交わる必要がないだけのこと。その気質の良さを生かしながら、必要な技術を磨いて、自分なりのマネジメントスタイルやリーダーシップを育んでいただきたいですね。

(撮影:小池大介)
🔹前編記事
・『外向型を演じ続ける必要はない。内向型マネジャーが「静かな影響力」を持つ方法』
🔹合わせて読みたい
・『コミュニケーションが苦手なマネジャーが知っておきたい思考のクセ』
・『耳の痛いことを伝える六つのポイントとは? コミュニケーションが苦手なマネジャーの実践的会話術』
「メタ認知」を通じて自己認識を変えるマネジャーたち
ーー前編の最後に「部下からの信頼を生むのは、単なる会話の量ではなく、寄り添いの積み重ねである」といったお話がありました。ただ、思いを内に秘めがちな内向型にとっては、寄り添う気持ちを相手に届けることが難しかもしれません。どのように伝えればよいのでしょうか。
矢本 大事なのは、伝わる「場」を選ぶことだと思います。大勢の前では脳の覚醒度が高まり、内向型は刺激の量に消耗して持ち味が発揮されづらいこともありますが、一対一や少人数のパーソナルな空間なら、無理なく関心を伝え、自己開示もできる。
1on1は、まさにうってつけの場です。話をじっくり聞ける内向型のマネジャーとの1on1は、部下にとっても有意義な時間になるはずですから、そこは自信を持ってほしいですね。

株式会社HINOE代表
ブリティッシュコロンビア大学(心理学)卒業、立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース修了。三井物産人材開発、ジョンソン・エンド・ジョンソン、NECにて人材開発・組織開発・タレントマネジメントに従事し、次世代経営人材やグローバルリーダーの育成に携わる。2024年に株式会社HINOEを創業。自身も内向的な気質を持つ実践者として、日本人リーダーが自分らしさを失わずに信頼され、影響力を発揮するための支援を行う。京都女子大学講師。
ーーとはいえ、内向型のマネジャーの中には、1on1に苦手意識を持っている人もいます。
村瀬 それは、内向か外向かではなく、不安傾向の強さ(=評価や失敗への不安など負の状況に対する敏感な傾向)の現れだと思います。
人は物事を、自分の性格を土台にして受け取ります。不安傾向の強い人は、部下の提案を聞いても、まず危うさのほうが先に目に入る。新しいことをやりたいという部下に「いや、うまくいかないと思う」と否定から入り、極端に安全策を取って、やってみれば通ったかもしれない芽を摘んでしまう。
部下からすれば、自分ごと否定された気持ちになり、1on1はレールから外れていないかを点検される時間になる。これでは部下もげんなりしますし、マネジャー自身も面白くないでしょう。
ただ、懸念を抱くこと自体が悪いのではありません。問題は返し方です。「ここだけが不安だから、もう一度考えてくれる?」という言い方なら、拒絶にはなりません。むしろ「練り直して、また持ってきてほしい」という、次の提案への誘いとして相手に届きます。
重要なのは、自分の気質や傾向と、それに基づく行動が相手にどう映るかを「メタ認知」できているかどうかです。つい取ってしまう負の行動を自覚しているだけで、その衝動は抑制できます。
もっとも、メタ認知した結果、「自分は人が苦手だから、避けよう」という結論を出すのは望ましくありません。それでは何が苦手なのかを分析しないまま終わってしまいます。
「なぜ自分は人が苦手なのか。本当は何が怖いのか」といったことを言葉にして分解すれば、「怖いのはこの一点だけで、あとは案外できている」などと気づき、漠然とした不安が、対策が打てる課題へと変わっていくのです。

早稲田大学 商学部 准教授
1997年に高校卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaにて産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はチームワークとリーダーシップ。
ーー矢本さんは、内向型マネジャーの研修も手がけています。いまのような自己認識を、どう促しているのでしょうか。
矢本 大きく二つあります。一つは、マネジャー本人による自己分析です。内向性が悪く出るのはどんなときで、良い方向に出るのはどんなときか。まずそれを本人に洗い出してもらい、良い方向に出るものは、自分のリーダーシップの源泉として受け入れるよう促します。
もう一つは、仕事を一人で背負い込まないよう助言することです。責任感の強い人ほど、何もかも抱え込んで、声に出せないまま潰れていってしまいます。そうなる前に、「この領域では、あなたにリーダーシップを発揮してほしい」と、シェアド・リーダーシップの考え方を元に、メンバーに役割を渡していく。
チームの長だからといって、すべてを自分で担う必要はありませんし、自身が全ての領域でメンバーより秀でている必要もありません。そう捉え直すだけで心理的な負担は下がりますし、任されたメンバーの主体性も伸びていきます。
ーーーーとはいえ、「任せなさい」と言われて、素直に任せられる人ばかりではない気もします。
矢本 自分でやってしまうマネジャーは、そのほうが「気にかけるべき変数」が少なく、不確実性が回避できるので、任せることに抵抗が生まれます。人に任せれば、期待通りにいかないことも起きますし、思った通りに動かない部下には確認や、時に要求もしなければならない。
そこにはリスクやコンフリクトが生じる場合もあります。その衝突を避けたいという深層心理が「自分でやる」という気持ちを強化し、結果として余計に自分の首を絞めてしまうのです。
それを防ぐためには、仕事を渡したうえで、逸脱があればちゃんと話すこと、そして、その建設的な衝突を恐れないことが重要です。実際、衝突はそれほど恐れるほどのものではありません。

村瀬 矢本さんの話に付け加えると、不安傾向の強い人ほど「周囲に任せたら、自分にリーダーシップがないと思われるのではないか」と恐れる傾向があります。とりわけハイ・パフォーマーで自信の持てない人は、部下のやることが物足りなく見えることもあって、任せながら育てることができず、コントロールに走ってしまいます。
けれども、部下に任せても、リーダーとしての権威は失われません。重要な意思決定は自分で担い、苦手は苦手と認めて、周囲にうまく補ってもらう。その姿勢と行動は、むしろリーダーシップの発揮と言えます。
ーー意識の変化を促すよう助言を受けて、実際に変わったマネジャーの事例はありますか。
矢本 私のお客様に、技術系メーカーに勤める、「ザ・エンジニア」というべき方がいました。職人気質で、コーディングの腕はピカイチ。でも、部下とはなるべく関わりたくないし、1on1なんて時間の無駄。そんな時間があれば手を動かしたい、という方でした。それでも、役職が上がり、マネジメントを担わざるを得なくなったのです。
正直に申し上げると、その方の人への関心そのものには、大きな変化は見られませんでした。認知的な好みとは、それほど強いものです。
ただし、関わり方を工夫することで部下の成長を促すことはできます。その成長がチームの士気と生産性向上に繋がり、結果的にチームの成果に結びつく。マネジメントとは人を介して成果を生み出す仕組みなのだと、本人の利にも繋がるように丁寧にお伝えしました。すると、キャラクターや気質が突然変わる訳ではないですが、マネジャーとしての意識や責任を捉え直してくれたことが印象に残っています。
たとえば1on1なら、目的をどこに置き、そのために何を聞くか、時間をどう使うか。適度に雑談を設け、メンバーの話す時間をなるべく多くする。そんなふうに設計から見直していくうちに、その方にとって1on1は、少しずつ苦ではなくなっていきました。

私がこの方との一連の関わりで貫いたのは、ご本人の内向的な気質を否定しない、ということです。むしろ、その気質をこの方ならではの影響力に変えた、自分らしいマネジメントスタイルを言語化してもらいました。
すると、組織からの期待に応えるだけでなく、「自分はマネジャー向きではない、技術の専門職だ」という思い込みそのものが、少しずつほどけていきました。
村瀬 その変化は、二つの側面から説明できるように思います。一つは、頭での理解、認識の面です。私たちは「上司とはこう振る舞うものだ」という暗黙の台本を、書籍や先輩の姿などから作り上げ、それに沿って行動しています。
「自分は向いていない」という思い込みも、多くはその台本に照らした判断です。だから「この役割には、こういうことも期待されているんですよ」と台本の中身を書き換えてあげると、「ああ、これを求められていたのか」と認識が変わります。
もう一つは、感情の面です。「自分はできる」という感覚は、必ずしも能力の高まりとともに生まれるわけではありません。それを生むのは、多くの場合、信頼する人からの「あなたならできる」という説得です。
「あの人が言うのなら、やってみようか」。そんな気持ちに後押しされて難しい仕事に挑むうちに、実際に力がつき、「自分にもできる」と思えるようになっていくのです。
矢本 信頼できる相手からの「あなたならできる」という言葉は、自己効力感を育みますよね。
マネジャーにとって、最も身近な信頼相手はチームのメンバーです。実際、部下からの「できますよ」は、ことのほか嬉しいものです。
それこそ「(チームをRPGのパーティーに喩えた場合)私は皆が期待する前線の “戦士” ではなく、後方支援が得意な “魔法使い” だけど、いいかな」「勿論です、フロントは僕たちに任せてください」みたいなポジティブなやり取りが上司と部下の間で生まれたら、内向型のマネジャーの中にも「自分らしい色でやっていける」という自信が芽生え、チームも活性化していきますよ。

その意味で、気質に合ったマネジメントスタイルの習得やリーダーシップの開発は、チームビルディングとセットで進めるのが望ましいと考えてます。

目指すは議長! 内向型の会議サバイバル術
ーーここまでは、内向型のマネジャーが部下とどう関わるかを伺ってきました。最後に、目線を変えて、他部門の部課長など同格以上の相手との向き合い方も考えたいと思います。
矢本 それも大事なテーマです。部課長会のような場には、その場をハイジャックしてしまう “強い” 役職者も集まります。内向型のマネジャーは、その勢いに割って入れず、自分の番を待ってしまいますが、待つうちに議題は移り、結局何も言えないまま終わってしまうこともあるかもしれません。
しかも、これは本人だけの問題では済みません。マネジャーは、チームの代表としてその場にいるからです。現場の要望を他部門の管理職に届けることを期待されているのに、「ごめん、今日も話せなかった」とチームに持ち帰ることになれば、部下の目には「うちのマネジャーは弱い」「決めてくれない」と映ります。
内向型の控えめな面が悪く出ると、その影響は本人にとどまらず、チーム全体に及んでしまうのです。
村瀬 ただ、そこで外向型を「演じる」という発想を持ち出すと、かえって苦しくなります。
部課長会での発言力を支えるのは、日常的なコミュニケーションの積み重ねです。まず大事なのが、上司である部長との関係です。部長が何を考え、いま何を優先しているのかをつかむ。自分の課の動きを丁寧に説明し、部のなかでの位置づけを認識してもらう。それができていれば、他の課長と話すときにも、部長の持つ情報を踏まえて議論ができます。
これがあるのとないのとでは、説得力がまるで違います。

もう一つは、その他の課長たちと、日頃から話せる間柄になっておくことです。仕事の話に加えて、相談や雑談を重ねておく。データを見ても、そうした関係がある人は、会議でも相手の考えを踏まえた議論ができています。
こうした日頃の下地を整えたうえで、会議の前にはしっかり準備をして、本質的な問題を語れるか。内向型は、そこで勝負したほうがいい。
矢本 その事前準備にも関連して、私がオススメしたい立ち回りがあります。それは、議長のポジションを取ることです。自身が発言者に回るのではなく、場を回す人になる。雄弁である必要はありません。むしろ、問いを投げかけ、議論のバランスを取り、参加者の共通項を見つけて引き出していく。
こうした議長・ファシリテーターの仕事は、論点の整理も、進行の組み立ても、事前の準備がものを言います。内向型が得意とするリスクに備える力が、そのまま生きるのです。
しかも議長は会議の進行を握りますから、多くを語らなくても、自然とビジビリティが高まる。そのような役割に、自ら手を挙げていくのです。

村瀬 それはいいやり方ですね! アメリカでも「パーティーに参加するより、ホスト側に回りなさい」とよく言われます。自分で場を開いてしまえば、みんなのほうから来てくれる。一参加者として懸命に自己紹介して回るより、ずっといい。エネルギーは使いますが、戦略として理にかなっています。
矢本 私自身、立食パーティーが大の苦手で、初対面の人の輪になかなか飛び込めず、かといって孤立していると思われるのも嫌なので、とりあえず料理の列に並びます(笑)。
不確実で刺激の多い環境は、内向型としてどうしても分が悪い。だからこそ、雄弁さを競う外向の土俵ではなく、ホスト側に回ることや、少人数の空間をうまく使う。脳の覚醒度が上がりすぎないように、刺激とうまく付き合い、回復も怠らない。それが、内向型なりの戦い方だと思います。
人が集まる場に立てば、内向型はどうしてもエネルギーを消耗しますから、一人の時間や一人になれる場所を、あらかじめ確保しておく。そうすれば、無理なく戦い続けられます。かく言う私も、この後、こっそりとした場所に籠って本でも読もうかと思っています(笑)。
村瀬 私は逆に、人と話すことで元気になる外向型なので、今日もエネルギーをもらいました(笑)。内向型は、自分の内側でエネルギーを生み出せるから、無理に人と交わる必要がないだけのこと。その気質の良さを生かしながら、必要な技術を磨いて、自分なりのマネジメントスタイルやリーダーシップを育んでいただきたいですね。

(撮影:小池大介)
🔹前編記事
・『外向型を演じ続ける必要はない。内向型マネジャーが「静かな影響力」を持つ方法』
🔹合わせて読みたい
・『コミュニケーションが苦手なマネジャーが知っておきたい思考のクセ』
・『耳の痛いことを伝える六つのポイントとは? コミュニケーションが苦手なマネジャーの実践的会話術』







