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「お前、いいやつだな」と言えない職場で。産業医・大室正志氏が説く、マネジャーが頼るべき「主語」
「お前、いいやつだな」と言えない職場で。産業医・大室正志氏が説く、マネジャーが頼るべき「主語」

「お前、いいやつだな」と言えない職場で。産業医・大室正志氏が説く、マネジャーが頼るべき「主語」

職場から「いいやつ」が見えにくくなっている──。気配りをする人、頼まれごとを引き受ける人、場をなごませる人。組織の潤滑油のような存在が、以前より割に合わない立ち位置になっているのではないか。

ハラスメントへの警戒、リモートワークの定着、個人主義の浸透。他人との摩擦を避けられる環境が整うほど、人のために動くこと自体が損に感じられる。組織は人の関わりで成り立っているはずなのに、その関わりが痩せていく。

現代に漂うこの感覚を、複数の企業で産業医を務める大室正志氏はどう捉えているのだろうか。

大室正志

1978年、山梨県生まれ。大室産業医事務所代表。産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経て現職。メンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、生活習慣病対策など企業における健康リスク軽減にも従事する。現在、日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医を担当。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。

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目次

“ウザさ”が排除された職場で起きていること

──他人との摩擦を避ける人が増え、職場から「いいやつ」が減った。そう言われることがあります。

大室 減ったのは「いいやつ」そのものではなく、「いいやつ的な振る舞いができる場面」のほうではないでしょうか。これは、日本社会の成り立ちと関係しています。

日本は、世界で一番「一人で生きられるインフラ」が発達した国と言えます。コンビニ、牛丼屋、一人用カウンターのラーメン店。誰とも口をきかずに用事が済む場所が、ここまでそろった国はそうはありません。

もともと組織や村社会における人間関係の粘着性の高かったぶん、会社や家を一歩出れば、誰とも関わらず一人で完結できるインフラが発達したのでしょう。

その一方で、職場のなかの濃い関わりは、平成中期以降、どんどん排除されていきました。ハラスメント警戒、心理的安全性、働き方改革。コロナ禍でリモートワークが普及して以降、さらにドライになっています。

──過剰な付き合いや過干渉が減ったことを、息苦しさから解放されたと感じている人も少なくないと思います。ただ、その結果、職場から人の気配のようなものまで薄れた、と。

大室 そうです。飲み会への参加の強要などがなくなったことは社会の前進です。ただ、その流れで、同僚に気軽に声をかけ、様子を気にかけ合うといった、あっていいものまで影を潜めるようになってしまった。

ウザさと寂しさは裏表で、ウザさを捨てた反作用として、寂しさが残ります。職場のなかでも一人、会社の外に出ても一人で完結してしまう。社内でも社外でも個で過ごす時間が増え、二重の孤独みたいな状態が広がっている。こうなると、わざわざ人に気を配ったり、面倒なことを引き受けたりする場面自体が減っていく。職場から、いいやつが消えたように見えるとしたら、そのためでしょう。

そもそも「いいやつ」という言葉自体が、今はかなり危うい。「お前、いいやつだな」という言い方には、人格を評価する軸が入っているでしょう。

ハラスメント研修では「人格に触れるな」と徹底されていますが、これは悪い評価に限った話ではありません。

「いいやつ」という肯定も、裏を返せば人格評価です。「彼がいいやつなら、自分は悪いやつなんですか」と切り返すこともできてしまう。褒めるつもりの言葉が、ハラスメントの構造に片足を突っ込んでいるんです。

部下に少し低い評価を伝えただけで、社内ホットラインに通報されることもある時代です。ハラスメント認定まではされなくても、通報されたという経験自体がトラウマになって、どう部下とかかわればいいのかと悩むマネジメント層も少なくありません。

スキルが横並びになった先で効くもの

──近年はAIの普及が、働き方を大きく変えています。それに伴い、求められる人のあり方も、変わっていきそうです。

大室 時代はむしろ、「人柄が再評価される」側に向かっているんじゃないでしょうか。

AIの普及によって、基本的な業務はどんどん均されていく。みんなが一定の水準に達すると、スキルだけでは差がつかなくなる。

カラオケが普及し、みんなの歌がそこそこうまく聴こえる世界では、もう単純な歌のうまさだけじゃ、さほど差がつきませんよね。同じことが、ビジネスでも起きると思います。誰もが平均点を取れるようになったとき、最後にものを言うのは人柄なんです。

──具体的には、どんなところで差が出るのでしょう。

大室 たとえば作業の速さなら、ポストAI時代にはExcelの鬼と平均的な人で、それほど大きな差は生まれません。それなら、“ツーカー”で動ける人と協働した方が、能率が上がる。いちいち、「ちょっと待って、説明し直すから」となる相手だと、その都度、時間を食いますからね。

──それは、効率の面での話ですよね。

大室 もっと直接的に、感情に効いてくる部分もあります。AIが書いたメールが日常になればなるほど、相手が直接書いた手書きのメッセージがありがたくなる。銀座のクラブのママがご贔屓の客に手書きの手紙を送るのは、人間が時間を割いたラグジュアリーな行為だからです。人柄や感情を乗せたやり取りは、効率化が進むほど、稀少になっていきます。

──昔から「愛嬌がある人が一番強い」などと言われますが、人間力やチャームが重視される潮流は、気さくなコミュニケーションが得意でない人にとっては、しんどいかもしれません。

大室 そう思うかもしれませんが、コミュニケーションが苦手な人でも、諦めなくていいんです。たしかに、天性のチャームと呼ばれるような才を持っている人はいます。趣味を広げて感性を磨くなど、時間をかけて人としての魅力を広げるアプローチも王道です。

ただ、それとは別に、後天的に愛嬌を身につけるルートはあります。ロジカル一辺倒の人ほど、チャームを生まれ持った性格だと思って、手をつけられずにいますが、「性格」の問題だと思うから動けないだけで、「これは仕事だ」と割り切ってしまえばいい。

家庭と仕事をうまく両立している仕事人間のお父さんって、家族の誕生日会の段取りもしっかり“仕事フォルダ”に入れているんですよ。

感情のフォルダに置いてしまうから、家族を後回しにして大変なことになるわけで、現代においてチャームが仕事の評価を左右する「採点科目」の一つだと理解すれば、仕事人間は頑張ってその役割を全うしようとします。しかも、完璧な人になろうとする必要はありません。

役職者ならむしろ、弱みをうまく見せるほうが、立派なセルフプロデュースになります。

マネジャーは「主語」を会社に、メンバーは自分を「咲く場所」に置けばいい

──マネジャーにとって、チャームの獲得は、部下とのやり取りを円滑にすることに寄与すると思います。ただ、気さくなコミュニケーションが取れる関係になっても、ときには業務の成果だけでなく、仕事への姿勢や振る舞いにまで踏み込んで指摘すべき局面も訪れます。人格に触れにくい時代に、どう伝えればいいのでしょうか。

大室 鍵は、その指摘を「何を主語にして伝えるか」です。「俺はこう思う」と一人称で伝えると、上司個人の好き嫌いに聞こえて、部下は身構え、人格と人格がぶつかってしまう。だから踏み込みづらくなるし、言われたほうも反発するんです。何を主語に置くかで、同じ内容でも届き方がまるで変わります。

試しに、頭の中で主語を意識しながら他人の話を聞いてみてください。「この人さっきから“I”しかない」というケースが結構あります。上司が「俺は、俺は」と喋り続けて、自分の独演会のようになっていることもある。フィードバックは本来は部下のために行うものなのに、相手が置き去りになってしまっているわけです。

──二人称の「あなた」を増やせばいい、ということですか。

大室 二人称の聞き方は、案外むずかしいんです。「●●さんは、どう思っていますか」というカウンセラー的な会話は、看護師や臨床心理士のように訓練した人なら得意ですが、多くのビジネスパーソンには馴染みが薄い。

私が一番汎用性が高いと思うのは、三人称を増やすやり方です。「うちの会社はこういう価値観だから、今ここがずれているよね」と、会社を主語にして話すこと。壁に向かってスカッシュを打つように、部下と同じ方向を見ながら会話するのです。

主語が三人称だと、同じ指摘でも、受け取り方が変わります。「俺は」だと、上司の好き嫌いに聞こえますが、「うちの会社は」と言えば、合わせる対象がはっきりするし、人同士の正面対立も避けられる。

──それを実践するためには、会社の価値観の言語化が必要ですね。

大室 そうです。たとえばサイバーエージェントは「素直でいい人」を採用基準に掲げています。そこまで価値観がはっきりしていれば、「うちはこういう会社だから」と主語にできるし、社内で「彼は素直でいいやつか」と人格に踏み込んでも問題になりません。

──会社の価値観がしっかりと言語化されていない場合は、どうすればいいですか。

大室 まずは自分の上司や経営層に「うちはどういう価値観の会社ですか」と聞いてみる。そうすると、意外と答えがバラバラだったりするんですよ。それを集めて、自分のチームで仮置きすればいい。「うちはこういうことを大事にするよね」と何度か口に出して、合意を取りにいく。それが長期的に、自分を楽にします。

──逆に、メンバー側の立場に立つと、その会社の価値観に自分がどうしても合わない、と感じるケースもありそうです。

大室 そのときは、合う場所に移ればいいんです。「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、「咲く場所に置きなさい」というほうが、今の時代に合っています。自分のコミュニケーションのパターンが生きる場所に、自分を置けばいい。

MBTIのような、自分のタイプを測るツールが流行っているのも、自分の輪郭を知って、合う場所を選ぶためですよね。自分自身を大きく変える必要はなくて、向いていないと思ったら移ればいい。それが許される時代です。

──合わなければ移ればいい、と割り切るのが当たり前になる。だとすると、職場はこのままドライになり続けるようにも思えます。

大室 たしかにその側面はあります。ただ、一つ希望があるとすれば、その流動性そのものです。今は転職もしやすく、いつでも辞めて次に移ればいいという前提が生まれている。誰かに強いられるのではなく、自分で自分に合う場所を選ぶこと。その感覚が、人との関わり方も変えていくと思います。

たとえばキャンプも、ジムも、サウナも、昔はただの苦役でした。野宿だし、重いものを持たされ、暑いところに入らされる。それが今は、自分から進んで選ぶレジャーになっている。同じようなことが、人間関係にも起きるはずです。

そこに自分の意思が通っていれば、ウェットなコミュニケーションも、学園祭の実行委員みたいに「同じ釜の飯を食う仲間感」と捉えられる。「いいやつ」が組織から消えるのではなく、いいやつ的な振る舞いをあえて選び取る人が、これから少しずつ増えていくのではないでしょうか。

(構成:樫本倫子、撮影:黒羽政士)

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“ウザさ”が排除された職場で起きていること

──他人との摩擦を避ける人が増え、職場から「いいやつ」が減った。そう言われることがあります。

大室 減ったのは「いいやつ」そのものではなく、「いいやつ的な振る舞いができる場面」のほうではないでしょうか。これは、日本社会の成り立ちと関係しています。

日本は、世界で一番「一人で生きられるインフラ」が発達した国と言えます。コンビニ、牛丼屋、一人用カウンターのラーメン店。誰とも口をきかずに用事が済む場所が、ここまでそろった国はそうはありません。

もともと組織や村社会における人間関係の粘着性の高かったぶん、会社や家を一歩出れば、誰とも関わらず一人で完結できるインフラが発達したのでしょう。

その一方で、職場のなかの濃い関わりは、平成中期以降、どんどん排除されていきました。ハラスメント警戒、心理的安全性、働き方改革。コロナ禍でリモートワークが普及して以降、さらにドライになっています。

──過剰な付き合いや過干渉が減ったことを、息苦しさから解放されたと感じている人も少なくないと思います。ただ、その結果、職場から人の気配のようなものまで薄れた、と。

大室 そうです。飲み会への参加の強要などがなくなったことは社会の前進です。ただ、その流れで、同僚に気軽に声をかけ、様子を気にかけ合うといった、あっていいものまで影を潜めるようになってしまった。

ウザさと寂しさは裏表で、ウザさを捨てた反作用として、寂しさが残ります。職場のなかでも一人、会社の外に出ても一人で完結してしまう。社内でも社外でも個で過ごす時間が増え、二重の孤独みたいな状態が広がっている。こうなると、わざわざ人に気を配ったり、面倒なことを引き受けたりする場面自体が減っていく。職場から、いいやつが消えたように見えるとしたら、そのためでしょう。

そもそも「いいやつ」という言葉自体が、今はかなり危うい。「お前、いいやつだな」という言い方には、人格を評価する軸が入っているでしょう。

ハラスメント研修では「人格に触れるな」と徹底されていますが、これは悪い評価に限った話ではありません。

「いいやつ」という肯定も、裏を返せば人格評価です。「彼がいいやつなら、自分は悪いやつなんですか」と切り返すこともできてしまう。褒めるつもりの言葉が、ハラスメントの構造に片足を突っ込んでいるんです。

部下に少し低い評価を伝えただけで、社内ホットラインに通報されることもある時代です。ハラスメント認定まではされなくても、通報されたという経験自体がトラウマになって、どう部下とかかわればいいのかと悩むマネジメント層も少なくありません。

スキルが横並びになった先で効くもの

──近年はAIの普及が、働き方を大きく変えています。それに伴い、求められる人のあり方も、変わっていきそうです。

大室 時代はむしろ、「人柄が再評価される」側に向かっているんじゃないでしょうか。

AIの普及によって、基本的な業務はどんどん均されていく。みんなが一定の水準に達すると、スキルだけでは差がつかなくなる。

カラオケが普及し、みんなの歌がそこそこうまく聴こえる世界では、もう単純な歌のうまさだけじゃ、さほど差がつきませんよね。同じことが、ビジネスでも起きると思います。誰もが平均点を取れるようになったとき、最後にものを言うのは人柄なんです。

──具体的には、どんなところで差が出るのでしょう。

大室 たとえば作業の速さなら、ポストAI時代にはExcelの鬼と平均的な人で、それほど大きな差は生まれません。それなら、“ツーカー”で動ける人と協働した方が、能率が上がる。いちいち、「ちょっと待って、説明し直すから」となる相手だと、その都度、時間を食いますからね。

──それは、効率の面での話ですよね。

大室 もっと直接的に、感情に効いてくる部分もあります。AIが書いたメールが日常になればなるほど、相手が直接書いた手書きのメッセージがありがたくなる。銀座のクラブのママがご贔屓の客に手書きの手紙を送るのは、人間が時間を割いたラグジュアリーな行為だからです。人柄や感情を乗せたやり取りは、効率化が進むほど、稀少になっていきます。

──昔から「愛嬌がある人が一番強い」などと言われますが、人間力やチャームが重視される潮流は、気さくなコミュニケーションが得意でない人にとっては、しんどいかもしれません。

大室 そう思うかもしれませんが、コミュニケーションが苦手な人でも、諦めなくていいんです。たしかに、天性のチャームと呼ばれるような才を持っている人はいます。趣味を広げて感性を磨くなど、時間をかけて人としての魅力を広げるアプローチも王道です。

ただ、それとは別に、後天的に愛嬌を身につけるルートはあります。ロジカル一辺倒の人ほど、チャームを生まれ持った性格だと思って、手をつけられずにいますが、「性格」の問題だと思うから動けないだけで、「これは仕事だ」と割り切ってしまえばいい。

家庭と仕事をうまく両立している仕事人間のお父さんって、家族の誕生日会の段取りもしっかり“仕事フォルダ”に入れているんですよ。

感情のフォルダに置いてしまうから、家族を後回しにして大変なことになるわけで、現代においてチャームが仕事の評価を左右する「採点科目」の一つだと理解すれば、仕事人間は頑張ってその役割を全うしようとします。しかも、完璧な人になろうとする必要はありません。

役職者ならむしろ、弱みをうまく見せるほうが、立派なセルフプロデュースになります。

マネジャーは「主語」を会社に、メンバーは自分を「咲く場所」に置けばいい

──マネジャーにとって、チャームの獲得は、部下とのやり取りを円滑にすることに寄与すると思います。ただ、気さくなコミュニケーションが取れる関係になっても、ときには業務の成果だけでなく、仕事への姿勢や振る舞いにまで踏み込んで指摘すべき局面も訪れます。人格に触れにくい時代に、どう伝えればいいのでしょうか。

大室 鍵は、その指摘を「何を主語にして伝えるか」です。「俺はこう思う」と一人称で伝えると、上司個人の好き嫌いに聞こえて、部下は身構え、人格と人格がぶつかってしまう。だから踏み込みづらくなるし、言われたほうも反発するんです。何を主語に置くかで、同じ内容でも届き方がまるで変わります。

試しに、頭の中で主語を意識しながら他人の話を聞いてみてください。「この人さっきから“I”しかない」というケースが結構あります。上司が「俺は、俺は」と喋り続けて、自分の独演会のようになっていることもある。フィードバックは本来は部下のために行うものなのに、相手が置き去りになってしまっているわけです。

──二人称の「あなた」を増やせばいい、ということですか。

大室 二人称の聞き方は、案外むずかしいんです。「●●さんは、どう思っていますか」というカウンセラー的な会話は、看護師や臨床心理士のように訓練した人なら得意ですが、多くのビジネスパーソンには馴染みが薄い。

私が一番汎用性が高いと思うのは、三人称を増やすやり方です。「うちの会社はこういう価値観だから、今ここがずれているよね」と、会社を主語にして話すこと。壁に向かってスカッシュを打つように、部下と同じ方向を見ながら会話するのです。

主語が三人称だと、同じ指摘でも、受け取り方が変わります。「俺は」だと、上司の好き嫌いに聞こえますが、「うちの会社は」と言えば、合わせる対象がはっきりするし、人同士の正面対立も避けられる。

──それを実践するためには、会社の価値観の言語化が必要ですね。

大室 そうです。たとえばサイバーエージェントは「素直でいい人」を採用基準に掲げています。そこまで価値観がはっきりしていれば、「うちはこういう会社だから」と主語にできるし、社内で「彼は素直でいいやつか」と人格に踏み込んでも問題になりません。

──会社の価値観がしっかりと言語化されていない場合は、どうすればいいですか。

大室 まずは自分の上司や経営層に「うちはどういう価値観の会社ですか」と聞いてみる。そうすると、意外と答えがバラバラだったりするんですよ。それを集めて、自分のチームで仮置きすればいい。「うちはこういうことを大事にするよね」と何度か口に出して、合意を取りにいく。それが長期的に、自分を楽にします。

──逆に、メンバー側の立場に立つと、その会社の価値観に自分がどうしても合わない、と感じるケースもありそうです。

大室 そのときは、合う場所に移ればいいんです。「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、「咲く場所に置きなさい」というほうが、今の時代に合っています。自分のコミュニケーションのパターンが生きる場所に、自分を置けばいい。

MBTIのような、自分のタイプを測るツールが流行っているのも、自分の輪郭を知って、合う場所を選ぶためですよね。自分自身を大きく変える必要はなくて、向いていないと思ったら移ればいい。それが許される時代です。

──合わなければ移ればいい、と割り切るのが当たり前になる。だとすると、職場はこのままドライになり続けるようにも思えます。

大室 たしかにその側面はあります。ただ、一つ希望があるとすれば、その流動性そのものです。今は転職もしやすく、いつでも辞めて次に移ればいいという前提が生まれている。誰かに強いられるのではなく、自分で自分に合う場所を選ぶこと。その感覚が、人との関わり方も変えていくと思います。

たとえばキャンプも、ジムも、サウナも、昔はただの苦役でした。野宿だし、重いものを持たされ、暑いところに入らされる。それが今は、自分から進んで選ぶレジャーになっている。同じようなことが、人間関係にも起きるはずです。

そこに自分の意思が通っていれば、ウェットなコミュニケーションも、学園祭の実行委員みたいに「同じ釜の飯を食う仲間感」と捉えられる。「いいやつ」が組織から消えるのではなく、いいやつ的な振る舞いをあえて選び取る人が、これから少しずつ増えていくのではないでしょうか。

(構成:樫本倫子、撮影:黒羽政士)

📂 踏み込みづらさの正体を見極める

相手の人格に触れずに踏み込んだ指摘を届けるには、率直に言い合える関係が前提になります。その関係がどこでつまずくのかを見極めたいマネジャーもいるはずです。下記の資料では、率直な対話を阻む「静かな壁」の3つの原因を整理し、心理的安全性の段階に応じた1on1の設計と運用を解説しています。

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執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

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