ホーム
チームへの働きかけ
なぜミドルマネジャーに「自己認識」が必要なのか? 自律する組織のつくり方
なぜミドルマネジャーに「自己認識」が必要なのか? 自律する組織のつくり方

なぜミドルマネジャーに「自己認識」が必要なのか? 自律する組織のつくり方

プレイヤー業務をこなしながら、評価や育成、部門間の調整も担う。ミドルマネジャーの役割は膨らみ続けるが、その一方で、かつての「管理・指示・命令」型のマネジメントでは、組織は動かなくなっている。自ら考え、動く自律的な組織をつくるには、マネジャーはどうすればいいのか。

PwCコンサルティングでリーダーシップ育成に携わる石川圭悟氏と、企業の人材育成や組織づくりに携わるKUDEN WORLD取締役の柳下聖也氏が、「自己認識」をキーワードに、これからのマネジメントを問い直した。

PwCコンサルティング石川圭悟氏(左)とKUDEN WORLD柳下聖也氏

を見る

を閉じる

目次

自分を知るだけではない、「自己認識」とは何か

──石川さんは、現代のミドルマネジャーに必要な力として「自己認識力」を挙げています。なぜそれがいま大事なのでしょうか。

石川 最近、さまざまな業界の経営者と話すなかで、多様なメンバーを束ね、自律的な組織を作ることがミドルマネジャーへの期待としてよく挙がります。多くのマネジャーがその方法を模索していますが、私はその鍵となるのが「自己認識」だと思っています。

私なりの定義は、「自分の価値観、信念、感情、思考の癖、強み、弱み、そして自分の言動が他者に与える影響を、自分自身で捉えて適切に扱える状態」。ポイントは、自分の言動が他者にどう作用しているかまで含めて自己理解を進めることです。

例えば、マネジャーがメンバーに「この資料は直したほうがいい」と伝えるとき、「品質が低いと、後で自分が責められる」と自分の根底にある恐れを起点にしていることもあれば、「プロとして譲れないクオリティーがある」と価値観・信念を起点にしていることもあると思います。

いずれにせよ、その根底にある思いは往々にして透けて見えてしまい、メンバーの受け止め方に影響を及ぼします。それが、その後のメンバーの行動やパフォーマンスにも影響を与えます。

だからこそ、従来の管理型・指示型のマネジメントが効かなくなっている今、マネジャーは自身の言動の影響を正しく理解し、相手の特性に合わせて関わり方を変えていくことが強く求められています。

2014年慶応義塾大学卒。同年PwCコンサルティング合同会社に入社。人材育成を主要なコンサルティング領域とし、リーダー人材育成や働き方改革やそれらに付随するチェンジマネジメントの実行支援に従事。社内では、リーダーシップ開発のソリューションをリードしている。

柳下 マネジャーになるというのは、自分が成果を出すことから、他者を通じて成果を出すことへの転換ですよね。そのとき、マネジャーが動かせる最大の変数は、自分自身です。自分がどう関わるのか、どういう状態で相手に向き合うのか。そこを効果的にアジャストしていくには、まず自分の現在地を捉えなければ、どこを変えればいいのかもわからない。自己認識とは、そうして自分自身を調整していくための出発点なんだと受け止めました。

石川 おっしゃる通りですね。極論すれば、マネジャーがチームで成果を出せるかどうかは、背負っているミッションを「やらされ仕事」として受け止めるか、「自分ごと」として引き受けられるかにかかっていると思います。

これは人間を海に浮かぶ氷山にたとえるとわかりやすいかもしれません。水面から上に見えているのは、思考や感情、行動といった外に表れる部分です。その下には、価値観や信念、根源的な欲求や恐れがある。本来、行動はこの深層に支えられて生まれるものですが、やらされ仕事だと、この深層が働かず、行動が根っこと切り離されたまま、表面的にこなすだけになってしまう。だからこそ、置き去りになった深層を、意識的に掘り起こす必要があります。

自分はこの会社で何をやりたいのか。何をやりたくないのか。それはどんな価値観に基づくのか。そこを言語化して初めて行動が深層と結びつき、自分がやりたいことと、組織が求めていることがうまくマッチする形が見えてくる。

自分の深層に向き合えているマネジャーは、部下の深層にも向き合い、引き出そうとします。その関わり方が自律的な組織のベースを育み、チームの成果創出にも近づいていくと考えます。

柳下 今の氷山モデルの話は、私たちも近い考え方を持っています。成果を生むのは行動ですが、その行動を支えている土台がある。私たちはそれを「スタンス」と呼んでいます。

多くの会社では、マネジャーの行動を変えるために研修をしたり、学習機会を提供して知識やスキルの習得を促したりしています。もちろん、それらが必要な場面もあります。ただ、コーチングの現場では、知識もスキルもあるのに成果につながらない方に出会うことがあります。そういうケースを見ていくと、土台となるスタンスが崩れていることが少なくありません。

一時的に発破をかけて行動を促し、成果を出してもらうことはできますが、それは長続きしません。持続させるためには、まずこの土台を整える必要があります。

慶應義塾大学法学部を卒業後、経営コンサルティングファームにジョイン。企業のコストの最適化、エンゲージメントの高い組織作りをコンサルティング、コーチングの手法を用いて支援。およそ4年間で15のプロジェクトに携わった後、自身の知見を広げるためITコンサルの道へ。大手企業様2社のシステム導入をサポート。現在は、KUDEN WORLD社にて、主に企業支援を担当。

石川 結局、根底が最も大切な部分ですからね。実際、こんな事例もあります。

ある企業で、複数の部門の部長に集ってもらい、自己認識を深めていただく取り組みを行いました。すると、全社的な組織課題に対して、各部長が「自分の部はこれを引き受け、こういうチャレンジをしたい」と、自分ごと化して言語化するようになったんです。互いの考えを共有したところ、複数の部が「目指していることが近い」と気づき、部門を越えたプロジェクトも自然に生まれていきました。

日本の組織はサイロ化が進みがちで、横のつながりは、本部長など上位職が働きかけなければ生まれにくいもの。ですが、この企業では、部長たち自身の意思からそれが始まりました。自己認識を深めたことが、指示を待たない自律的な動きを生んだわけです。

自己認識力を高める「振り返り」を阻む三つの壁

──では、自己認識はどうすれば深められるのでしょうか。

石川 一つの起点になるのは、自分の言動を日々振り返る(リフレクション)ことです。ある場面で、なぜ自分はあの発言をしたのか。なぜあの行動を取ったのか。なぜあの意思決定をしたのか。そこから、自分を動かしていた考えや価値観まで掘り下げていく。そうした内省を重ねないと、なかなか自己認識にはたどり着けません。

柳下 とはいえ、一人で取り組むことの難しさはありますよね。コーチをつければ、その予定をすっぽかす人はまずいませんが、自分一人だと「今週は忙しいからいいや」と簡単に手放してしまう。ダイエットや筋トレと一緒です。

また、振り返りと成果のつながりが見えにくいこともハードルです。ミドルマネジャーが部下との関わり方を変えても、その効果が成果として表れるのは3カ月後かもしれないし、半年後、場合によっては1年後かもしれない。それゆえに、振り返りの効果は実感しにくいところがあると思います。

さらに言えば、「自己認識」と言いながらも、自分一人では自らを認識しにくい側面があります。他者からどう見えているのかというフィードバックがなければ、どうしてもこれまでの思考の枠組みにとらわれてしまうものです。

石川 加えて、時間の問題もありますよね。忙しいなかで、スケジューラーを見返しながら一人で振り返るには、かなり意識的に時間を確保する必要があります。

私自身は毎朝7時半から15分、前日を振り返る時間をカレンダーで押さえていて、3年ほど続けています。会議が重なれば時間をずらしてでもやる。それくらい意識しておかないと、なかなか続きません。

柳下 石川さんは、どこまで掘り下げられたら「今日は振り返れた」という感覚になるんですか。

石川 まず、私は網羅的には振り返らず、テーマを一つだけ決めています。

たとえばオンライン会議の記録を早送りで見返し、自分の発言に引っかかる場面を見つけます。引っかかった理由を想像し、「これは相手に忖度した発言で、本意ではなかったな」と気づいたら、なぜ忖度したのかを考える。自分の見られ方を気にしていたのか、相手を苛立たせることを恐れたのか。そこまで掘って、では次はどうするかを決める。ここまでやって、ようやく一つ終わったという感覚になります。

──振り返り方にも良し悪しがあるのでしょうか。

石川 よくある失敗は、振り返る対象が自分からどんどん離れていくパターンです。働きかけた相手がどうなったか、成果物がどうなったか、メンバーがどうなったか。本当は自分に矢印を向けてほしいのですが、そこに慣れていないと、外に向いてしまいがちです。

柳下 質の高い問いを立てることも重要ですよね。「今日の朝は何を食べましたか」という問いが導くのは、記憶の検索であって、思考とは言えません。一方で、「なぜあの場面で、あの判断をしたのか」のように、答えるのに時間がかかり、自分の意思決定の基準や、無意識の前提に触れるものほど、良い問いと言えます。

そうした問いを自分ひとりで立て続けるのは相当難しい。汎用的なAIに任せることもできますが、それらのモデルは統計的に、最も一般的でありふれた答えに収束する性質を持っています。結果として、誰にとっても当たり障りのない、没個性的な問いを生成する傾向にある。個別の文脈を踏まえた、その人にしか刺さらない問いを立てるには、まだ限界があるということです。

──習慣にすることも、良い問いを立てることも簡単ではない。しかも、場合によっては効果が見えるのが1年後になるという話もありました。それでは、続ける動機を保つのは難しくないでしょうか。

柳下 確かに、部下との関わり方を変えたことがチームの成果として見えてくるまでには、相応の時間がかかります。一方、個人の行動の場合は、短い期間で変化を実感できることもあります。

ハーバード・ビジネス・スクールなどの研究者らが、インドのコールセンターで研修生を対象に行った実験がその一例です。

研修生の一部に、毎日の終わりの15分を使って、その日に学んだことを振り返ってもらったところ、振り返りをしなかったグループより、最終テストの成績が平均22.8%高くなりました。振り返りをしなかったグループは、その分、毎日15分長く研修を受けていたにもかかわらず、です。

こうした事例からも、チームの変化と個人の変化は分けて捉えた方が良いと考えます。

仕組みではなく、文化にする

──改めて、振り返りを継続させるには、何が必要なのでしょうか。

石川 個人の振り返りについて言えば、伴走者をつけることだと思います。エグゼクティブがコーチをつけるのは、スキルの習得のためではなく、自分の胆力や自己認識力を鍛えるためです。他者との対話を通じて、自分が中長期で向き合うべき問いが定まると、それが振り返りの「軸」になり、内省しやすくなります。ただ、この軸を自分一人で見定めるのは簡単ではないからこそ、伴走者の力を借りる意味があります。

他方、組織に振り返りを根付かせるためには、上級管理職の助けが必要だと考えます。部長以上の上位職がミドルマネジャーに振り返りが持つ意味を自らの言葉で伝えている組織では、マネジャーは内省を続けます。逆に、上位職がそうした期待を一切伝えない組織では全く続かない。その傾向はデータでも見て取れます。

柳下 まったく同じ実感です。

石川 したがって、内省の習慣を組織に根づかせる場合、まずは部門単位で始めるのが現実的だと思います。人事が主導すると、全社一律の制度として仕組み化しないと動かせず、着手そのものが重くなってしまいます。それよりも、部門のリーダーが自ら手を挙げ、自組織のミドルマネジャーらに機会を与え、体験してもらうほうが早い。

柳下 なるほど。私たちは少しアプローチが違って、お客様を支援する際は、必ず経営層から下ろしてくださいとお伝えしています。人事や部門が旗を振ると、研修の施策の一つと受け取られてしまうおそれがあるからです。これは単なる研修ではなく、仕事への向き合い方を根本から変える取り組みである──それくらいの強いメッセージがなければ現場が動かないこともあります。

経営層がそう打ち出したうえで、まずは営業部門から始めてみる。そうしたスモールスタートは構いません。実際、そのように動いた企業は、その後も組織的な振り返りが続いています。

──組織に施策を根付かせる場合、現場の自発性を尊重するか、ある程度強制的に始めるか、どちらが良いのか悩む企業もありそうです。

石川 私たちの場合、線引きはこうしています。ミドルマネジャーの方々に日々の内省をお願いし、取り組んでいるかどうかはログで確認しますが、中身までは管理しません。私的な内容も含まれるためです。つまり、組織側がやるのは施策の意味づけと、機会を用意するところまで。その後は現場に委ねるしかないと思います。柳下さんはどうお考えですか?

柳下 個人的には、新しいことを始めるとき、まずは外発的な動機があったほうが動きやすいと思います。実際にやってみて、成長や効果を実感できると、それが内発的な動機に変わっていく。この流れがいちばん自然なオンボーディングだと考えます。

もう一つ、振り返りが何にも生かされないと続きません。以前、500社以上の企業にヒアリングしたところ、日報を続けていた会社は2%ほどでした。やめた理由を聞くと、皆さん「形骸化したから」とおっしゃいます。書いてもマネジャーが読んでいないし、何に生かされているのかもわからない。それでは、続ける意味を感じられません。

逆に、自分の振り返りから得た気づきが誰かの失敗を防いだり、チームの学びとして生かされたりするなど、周囲にも役立っていると実感できれば、続ける動機も変わってくるはずです。

石川 実際、組織に内省を根づかせるには、相応の工夫と時間が必要ですよね。私たちの支援が終わったあとも、自律的に内省を続けている組織がありますが、そこも一朝一夕にそうなったわけではありません。上から下へ粘り強く伝え続けるなかで、ミドルマネジャーだけでなく、メンバークラスの人たちにも価値観や考え方が浸透していきました。

大事なのは、最初に取り組んで終わりにしないことです。たとえば1年おきに働きかけるなど、定期的にメッセージを送り続ける。そうすると「内省しなきゃ」と思い出す機会になる。時間をかけて地道に浸透させ、途切れさせないことが重要だと感じています。

柳下 結局、内省を文化にしていくことが大事なんですよね。そこまで浸透した組織では、面白い変化が起きています。目標を立て、行動し、振り返って次に生かす。この一連の営みを、マネジャーが管理しなくても、メンバー自身が回し始める。大きな方向さえ示せば、あとはメンバーが自走していくんです。

一人ひとりの自己認識が、こうして組織全体の自律につながっていく。その土台をどうつくるかが、これからのマネジメントには問われていると思います。

‍

自分を知るだけではない、「自己認識」とは何か

──石川さんは、現代のミドルマネジャーに必要な力として「自己認識力」を挙げています。なぜそれがいま大事なのでしょうか。

石川 最近、さまざまな業界の経営者と話すなかで、多様なメンバーを束ね、自律的な組織を作ることがミドルマネジャーへの期待としてよく挙がります。多くのマネジャーがその方法を模索していますが、私はその鍵となるのが「自己認識」だと思っています。

私なりの定義は、「自分の価値観、信念、感情、思考の癖、強み、弱み、そして自分の言動が他者に与える影響を、自分自身で捉えて適切に扱える状態」。ポイントは、自分の言動が他者にどう作用しているかまで含めて自己理解を進めることです。

例えば、マネジャーがメンバーに「この資料は直したほうがいい」と伝えるとき、「品質が低いと、後で自分が責められる」と自分の根底にある恐れを起点にしていることもあれば、「プロとして譲れないクオリティーがある」と価値観・信念を起点にしていることもあると思います。

いずれにせよ、その根底にある思いは往々にして透けて見えてしまい、メンバーの受け止め方に影響を及ぼします。それが、その後のメンバーの行動やパフォーマンスにも影響を与えます。

だからこそ、従来の管理型・指示型のマネジメントが効かなくなっている今、マネジャーは自身の言動の影響を正しく理解し、相手の特性に合わせて関わり方を変えていくことが強く求められています。

2014年慶応義塾大学卒。同年PwCコンサルティング合同会社に入社。人材育成を主要なコンサルティング領域とし、リーダー人材育成や働き方改革やそれらに付随するチェンジマネジメントの実行支援に従事。社内では、リーダーシップ開発のソリューションをリードしている。

柳下 マネジャーになるというのは、自分が成果を出すことから、他者を通じて成果を出すことへの転換ですよね。そのとき、マネジャーが動かせる最大の変数は、自分自身です。自分がどう関わるのか、どういう状態で相手に向き合うのか。そこを効果的にアジャストしていくには、まず自分の現在地を捉えなければ、どこを変えればいいのかもわからない。自己認識とは、そうして自分自身を調整していくための出発点なんだと受け止めました。

石川 おっしゃる通りですね。極論すれば、マネジャーがチームで成果を出せるかどうかは、背負っているミッションを「やらされ仕事」として受け止めるか、「自分ごと」として引き受けられるかにかかっていると思います。

これは人間を海に浮かぶ氷山にたとえるとわかりやすいかもしれません。水面から上に見えているのは、思考や感情、行動といった外に表れる部分です。その下には、価値観や信念、根源的な欲求や恐れがある。本来、行動はこの深層に支えられて生まれるものですが、やらされ仕事だと、この深層が働かず、行動が根っこと切り離されたまま、表面的にこなすだけになってしまう。だからこそ、置き去りになった深層を、意識的に掘り起こす必要があります。

自分はこの会社で何をやりたいのか。何をやりたくないのか。それはどんな価値観に基づくのか。そこを言語化して初めて行動が深層と結びつき、自分がやりたいことと、組織が求めていることがうまくマッチする形が見えてくる。

自分の深層に向き合えているマネジャーは、部下の深層にも向き合い、引き出そうとします。その関わり方が自律的な組織のベースを育み、チームの成果創出にも近づいていくと考えます。

柳下 今の氷山モデルの話は、私たちも近い考え方を持っています。成果を生むのは行動ですが、その行動を支えている土台がある。私たちはそれを「スタンス」と呼んでいます。

多くの会社では、マネジャーの行動を変えるために研修をしたり、学習機会を提供して知識やスキルの習得を促したりしています。もちろん、それらが必要な場面もあります。ただ、コーチングの現場では、知識もスキルもあるのに成果につながらない方に出会うことがあります。そういうケースを見ていくと、土台となるスタンスが崩れていることが少なくありません。

一時的に発破をかけて行動を促し、成果を出してもらうことはできますが、それは長続きしません。持続させるためには、まずこの土台を整える必要があります。

慶應義塾大学法学部を卒業後、経営コンサルティングファームにジョイン。企業のコストの最適化、エンゲージメントの高い組織作りをコンサルティング、コーチングの手法を用いて支援。およそ4年間で15のプロジェクトに携わった後、自身の知見を広げるためITコンサルの道へ。大手企業様2社のシステム導入をサポート。現在は、KUDEN WORLD社にて、主に企業支援を担当。

石川 結局、根底が最も大切な部分ですからね。実際、こんな事例もあります。

ある企業で、複数の部門の部長に集ってもらい、自己認識を深めていただく取り組みを行いました。すると、全社的な組織課題に対して、各部長が「自分の部はこれを引き受け、こういうチャレンジをしたい」と、自分ごと化して言語化するようになったんです。互いの考えを共有したところ、複数の部が「目指していることが近い」と気づき、部門を越えたプロジェクトも自然に生まれていきました。

日本の組織はサイロ化が進みがちで、横のつながりは、本部長など上位職が働きかけなければ生まれにくいもの。ですが、この企業では、部長たち自身の意思からそれが始まりました。自己認識を深めたことが、指示を待たない自律的な動きを生んだわけです。

自己認識力を高める「振り返り」を阻む三つの壁

──では、自己認識はどうすれば深められるのでしょうか。

石川 一つの起点になるのは、自分の言動を日々振り返る(リフレクション)ことです。ある場面で、なぜ自分はあの発言をしたのか。なぜあの行動を取ったのか。なぜあの意思決定をしたのか。そこから、自分を動かしていた考えや価値観まで掘り下げていく。そうした内省を重ねないと、なかなか自己認識にはたどり着けません。

柳下 とはいえ、一人で取り組むことの難しさはありますよね。コーチをつければ、その予定をすっぽかす人はまずいませんが、自分一人だと「今週は忙しいからいいや」と簡単に手放してしまう。ダイエットや筋トレと一緒です。

また、振り返りと成果のつながりが見えにくいこともハードルです。ミドルマネジャーが部下との関わり方を変えても、その効果が成果として表れるのは3カ月後かもしれないし、半年後、場合によっては1年後かもしれない。それゆえに、振り返りの効果は実感しにくいところがあると思います。

さらに言えば、「自己認識」と言いながらも、自分一人では自らを認識しにくい側面があります。他者からどう見えているのかというフィードバックがなければ、どうしてもこれまでの思考の枠組みにとらわれてしまうものです。

石川 加えて、時間の問題もありますよね。忙しいなかで、スケジューラーを見返しながら一人で振り返るには、かなり意識的に時間を確保する必要があります。

私自身は毎朝7時半から15分、前日を振り返る時間をカレンダーで押さえていて、3年ほど続けています。会議が重なれば時間をずらしてでもやる。それくらい意識しておかないと、なかなか続きません。

柳下 石川さんは、どこまで掘り下げられたら「今日は振り返れた」という感覚になるんですか。

石川 まず、私は網羅的には振り返らず、テーマを一つだけ決めています。

たとえばオンライン会議の記録を早送りで見返し、自分の発言に引っかかる場面を見つけます。引っかかった理由を想像し、「これは相手に忖度した発言で、本意ではなかったな」と気づいたら、なぜ忖度したのかを考える。自分の見られ方を気にしていたのか、相手を苛立たせることを恐れたのか。そこまで掘って、では次はどうするかを決める。ここまでやって、ようやく一つ終わったという感覚になります。

──振り返り方にも良し悪しがあるのでしょうか。

石川 よくある失敗は、振り返る対象が自分からどんどん離れていくパターンです。働きかけた相手がどうなったか、成果物がどうなったか、メンバーがどうなったか。本当は自分に矢印を向けてほしいのですが、そこに慣れていないと、外に向いてしまいがちです。

柳下 質の高い問いを立てることも重要ですよね。「今日の朝は何を食べましたか」という問いが導くのは、記憶の検索であって、思考とは言えません。一方で、「なぜあの場面で、あの判断をしたのか」のように、答えるのに時間がかかり、自分の意思決定の基準や、無意識の前提に触れるものほど、良い問いと言えます。

そうした問いを自分ひとりで立て続けるのは相当難しい。汎用的なAIに任せることもできますが、それらのモデルは統計的に、最も一般的でありふれた答えに収束する性質を持っています。結果として、誰にとっても当たり障りのない、没個性的な問いを生成する傾向にある。個別の文脈を踏まえた、その人にしか刺さらない問いを立てるには、まだ限界があるということです。

──習慣にすることも、良い問いを立てることも簡単ではない。しかも、場合によっては効果が見えるのが1年後になるという話もありました。それでは、続ける動機を保つのは難しくないでしょうか。

柳下 確かに、部下との関わり方を変えたことがチームの成果として見えてくるまでには、相応の時間がかかります。一方、個人の行動の場合は、短い期間で変化を実感できることもあります。

ハーバード・ビジネス・スクールなどの研究者らが、インドのコールセンターで研修生を対象に行った実験がその一例です。

研修生の一部に、毎日の終わりの15分を使って、その日に学んだことを振り返ってもらったところ、振り返りをしなかったグループより、最終テストの成績が平均22.8%高くなりました。振り返りをしなかったグループは、その分、毎日15分長く研修を受けていたにもかかわらず、です。

こうした事例からも、チームの変化と個人の変化は分けて捉えた方が良いと考えます。

仕組みではなく、文化にする

──改めて、振り返りを継続させるには、何が必要なのでしょうか。

石川 個人の振り返りについて言えば、伴走者をつけることだと思います。エグゼクティブがコーチをつけるのは、スキルの習得のためではなく、自分の胆力や自己認識力を鍛えるためです。他者との対話を通じて、自分が中長期で向き合うべき問いが定まると、それが振り返りの「軸」になり、内省しやすくなります。ただ、この軸を自分一人で見定めるのは簡単ではないからこそ、伴走者の力を借りる意味があります。

他方、組織に振り返りを根付かせるためには、上級管理職の助けが必要だと考えます。部長以上の上位職がミドルマネジャーに振り返りが持つ意味を自らの言葉で伝えている組織では、マネジャーは内省を続けます。逆に、上位職がそうした期待を一切伝えない組織では全く続かない。その傾向はデータでも見て取れます。

柳下 まったく同じ実感です。

石川 したがって、内省の習慣を組織に根づかせる場合、まずは部門単位で始めるのが現実的だと思います。人事が主導すると、全社一律の制度として仕組み化しないと動かせず、着手そのものが重くなってしまいます。それよりも、部門のリーダーが自ら手を挙げ、自組織のミドルマネジャーらに機会を与え、体験してもらうほうが早い。

柳下 なるほど。私たちは少しアプローチが違って、お客様を支援する際は、必ず経営層から下ろしてくださいとお伝えしています。人事や部門が旗を振ると、研修の施策の一つと受け取られてしまうおそれがあるからです。これは単なる研修ではなく、仕事への向き合い方を根本から変える取り組みである──それくらいの強いメッセージがなければ現場が動かないこともあります。

経営層がそう打ち出したうえで、まずは営業部門から始めてみる。そうしたスモールスタートは構いません。実際、そのように動いた企業は、その後も組織的な振り返りが続いています。

──組織に施策を根付かせる場合、現場の自発性を尊重するか、ある程度強制的に始めるか、どちらが良いのか悩む企業もありそうです。

石川 私たちの場合、線引きはこうしています。ミドルマネジャーの方々に日々の内省をお願いし、取り組んでいるかどうかはログで確認しますが、中身までは管理しません。私的な内容も含まれるためです。つまり、組織側がやるのは施策の意味づけと、機会を用意するところまで。その後は現場に委ねるしかないと思います。柳下さんはどうお考えですか?

柳下 個人的には、新しいことを始めるとき、まずは外発的な動機があったほうが動きやすいと思います。実際にやってみて、成長や効果を実感できると、それが内発的な動機に変わっていく。この流れがいちばん自然なオンボーディングだと考えます。

もう一つ、振り返りが何にも生かされないと続きません。以前、500社以上の企業にヒアリングしたところ、日報を続けていた会社は2%ほどでした。やめた理由を聞くと、皆さん「形骸化したから」とおっしゃいます。書いてもマネジャーが読んでいないし、何に生かされているのかもわからない。それでは、続ける意味を感じられません。

逆に、自分の振り返りから得た気づきが誰かの失敗を防いだり、チームの学びとして生かされたりするなど、周囲にも役立っていると実感できれば、続ける動機も変わってくるはずです。

石川 実際、組織に内省を根づかせるには、相応の工夫と時間が必要ですよね。私たちの支援が終わったあとも、自律的に内省を続けている組織がありますが、そこも一朝一夕にそうなったわけではありません。上から下へ粘り強く伝え続けるなかで、ミドルマネジャーだけでなく、メンバークラスの人たちにも価値観や考え方が浸透していきました。

大事なのは、最初に取り組んで終わりにしないことです。たとえば1年おきに働きかけるなど、定期的にメッセージを送り続ける。そうすると「内省しなきゃ」と思い出す機会になる。時間をかけて地道に浸透させ、途切れさせないことが重要だと感じています。

柳下 結局、内省を文化にしていくことが大事なんですよね。そこまで浸透した組織では、面白い変化が起きています。目標を立て、行動し、振り返って次に生かす。この一連の営みを、マネジャーが管理しなくても、メンバー自身が回し始める。大きな方向さえ示せば、あとはメンバーが自走していくんです。

一人ひとりの自己認識が、こうして組織全体の自律につながっていく。その土台をどうつくるかが、これからのマネジメントには問われていると思います。

‍

Kakeai資料3点セットダウンロード バナー
執筆者
下元陽

「Manager総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

記事一覧
LINE アイコンX アイコンfacebool アイコン

関連記事