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【罰ゲーム化する管理職】八つの構造要因と抜け出すための方法
【罰ゲーム化する管理職】八つの構造要因と抜け出すための方法

【罰ゲーム化する管理職】八つの構造要因と抜け出すための方法

「管理職の罰ゲーム化」という言葉が広く使われるようになっています。責任と負担だけが積み上がり、それに見合う見返りが感じられない——そんな状況が、多くの職場で管理職を追い詰めています。しかしこの問題は、個人の意欲や資質の問題ではなく、構造的な要因によって生み出されています。

本記事では、管理職の罰ゲーム化を引き起こす八つの構造的要因を整理したうえで、女性管理職への影響、罰ゲームに陥りやすい人・陥りにくい人の違い、そして人事・経営層が取り組むべき具体的な処方箋まで幅広く解説します。

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目次

管理職が「罰ゲーム」と呼ばれるようになった背景

約77%。日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が2023年4月に管理職1,072名・一般社員1,116名を対象に実施した調査で、「管理職になりたくない」と回答した一般社員の割合です。同社が2018年に行った同様の調査では72.8%だったことから、この5年でさらに約4ポイント上昇したことになります

出典:JMAM「管理職の実態に関するアンケート調査」2023年

管理職への昇進を望まない理由について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが約5,000人を対象に実施した調査(2023年12月)では、男女共に「ストレスが増えるため」(女性非管理職55.1%、男性非管理職54.3%)、「責任が増えるため」(女性49.1%、男性43.5%)の回答割合が高く、管理職に就くことへの心理的負担感が広く共有されていることが示されています。「管理職=出世コース」という前提が当たり前だった時代は、もはや過去のものとなりつつあります。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「女性管理職の育成・登用に関する調査概要」

こうした現象には、バブル崩壊後から続く構造的な背景があります。『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル、2024年)の著者でパーソル総合研究所の小林祐児氏は、この問題がここ数年で起きたのではなくバブル崩壊後のロングトレンドであると指摘しています(参照元)。

この「罰ゲーム」という言葉の本質は、単なる「コスト超過」ではなく、「見返りの喪失」にあります。かつて管理職への昇進は、権限の拡大や報酬の上昇、社会的地位の向上といった明確なリターンを伴っていました。しかし現在は、責任と負担だけが積み上がり、それに見合う見返りが感じられなくなっています。ゆえに「罰ゲーム」という言葉がこれほど多くの人の胸に刺さったのではないでしょうか。

加えて、今日のミドルマネジャーは、上層部からの業績プレッシャーと部下からの感情ケア要求に挟まれる「挟み撃ち構造」の中に置かれています。

PwCコンサルティングの加藤守和氏は、「現在のミドル層はメンバー時代に心のケアを受けていないにもかかわらず、管理職になった途端に多様な配慮を求められている」という構造的な問題を指摘しています。また、同氏を含む鼎談の中でKAKEAI代表の皆川恵美は、ある製造業の部長職が語った「我々は、やられたけれども、やってはいけない世代だ」という言葉を紹介し、この問題の根深さを浮き彫りにしました。

出典:1on1総研「メンバーの『パフォーマンスマネジメント』と『感情ケア』は両立可能なのか」

管理職に問題が集中する構造的要因

管理職の罰ゲーム化は、個人の資質の問題ではありません。その背景には、複数の構造的要因が絡み合っています。

①組織フラット化による管轄範囲の拡大
バブル崩壊以降、人件費抑制を目的に管理職ポストが削減され、1人の管理職が担う部下の数と役割数が増加。ファーストラインマネジャーに負荷が集中する構造が広がっています。

②プレイングマネージャー化
短期業績志向の強まりと人手不足により、管理職自身が現場の稼ぎ手を兼務する状況が常態化。部下を育てる余力が奪われ、さらに部下が育たないという悪循環に陥っています。

③経営からの期待圧力
「現場が大事」「管理職が要」というメッセージを経営側は発し続け、現場管理職には経営判断の材料提供から現場カイゼンまで要求されやすくなっています。管理職の負荷をさらに押し上げる要因の一つとして指摘されています。

④年上部下への対応難度の上昇
年功序列廃止と組織フラット化により「部下のほうが年上」という状況が増加。年上部下へのネガティブフィードバックを避けるあまり、若手への業務集中や管理職自身の抱え込みが生じやすくなるという指摘があります。

⑤雇用形態の多様化による管轄の複雑化
非正規・派遣・副業・フリーランスなど多様な雇用形態のメンバーを束ねることで、仕事の切り分けや配慮事項が飛躍的に増加しています。

⑥働き方改革による仕事の巻き取り
非管理職の残業規制が進む一方、管理職は対象外のまま。早く帰る部下の仕事を管理職が引き受ける構造が定着し、その姿を見た部下がさらに「管理職になりたくない」と感じる悪循環が生まれています。

⑦ハラスメント対策による萎縮と感情労働の増大
「NG行動を教える」研修が広がった結果、ハラスメント予備軍でない管理職まで部下とのコミュニケーションを過剰に恐れるように。また「感情ケアもマネジャーの仕事」という考えが過剰に広まった結果、感情労働に苦しみながら部下に仕事を任せきれず「結局、俺がやるしかない」と引き取ってしまう悪循環も生まれています。

⑧賃金と責任のアンバランス
非管理職と管理職の賃金ギャップは長期的に縮小しており、責任と業務量だけが増え、見返りとしての報酬・権限が追いつかない構造が罰ゲーム感を強めています。

これら八つの要因は相互に絡み合いながらマネジャーを追い詰めています。

女性管理職に罰ゲームがより深刻に現れる理由

管理職の罰ゲーム問題は、女性管理職にとってさらに深刻な形で現れます。

パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」(2024年)では、「管理職になりたい」と回答した女性は12.3%にとどまり、男性(20.4%)と約8ポイントの開きがあります(出典)。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが約5,000人を対象に実施した調査(2023年12月)でも、課長相当以上への昇進を目指すと回答した女性非管理職は15.5%で、男性非管理職(24.8%)を大きく下回りました。さらに同調査では、2018年から2023年にかけて男性非管理職の昇進意向も6.3ポイント低下しており、罰ゲーム化の影響は男性にも広がっています(出典)。

マイナビキャリアリサーチラボの調査では、管理職になりたくない理由の男女差が最も大きかったのは「仕事と育児の両立が難しくなる」(13.0ポイント差)でした(出典)。

ロールモデルの不足など、女性固有の障壁も重なっています。これらの問題に対処するには、女性個人の意欲に頼るだけでなく、組織としての支援体制やキャリアパスの設計から見直す必要があります。

罰ゲームに陥る人・陥らない人の分岐点

同じ会社、同じ職場環境でも、罰ゲームに陥る管理職と陥らない管理職がいます。この差はどこから来るのでしょうか。

「メンタルが強いから」「うまく割り切れるから」——そう語られることが多いですが、個人の強さだけで説明できるわけではありません。労働心理学の多くの研究では、仕事の負荷の大きさだけでなく、それに見合う裁量、支援、報酬、成長機会といった職場環境の条件が、消耗やバーンアウトを左右する重要な分岐点の一つだと示されています。厚生労働省の関連資料でも、職場環境の改善や相談しやすい体制づくりの重要性が繰り返し示されています。

出典:「厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

消耗しやすい管理職

バーンアウト研究の基本的な枠組みとして広く用いられてきたマスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI)は、バーンアウトを「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」という三つの症状で捉えます。

同志社大学教授の久保真人氏(組織心理学)はこの枠組みを用いた研究をまとめており、対人関係のなかで多くの情緒的資源を求められる職務や、感情労働を伴う仕事においてバーンアウトのリスクが高まりやすいことを論じています。

出典:久保真人「バーンアウト──ヒューマンサービス職のストレス」『日本労働研究雑誌』2007年

管理職の仕事は、上司・部下・経営の複数方向から感情的な要求がかかり続けるという点で、感情労働の要素を多く含みます。こうした状況が長期化すると、情緒的消耗感が蓄積されやすくなります。

「チームで成果を出す」への発想転換

では、陥らない管理職は具体的に何が違うのか。多くの組織の管理職と関わってきたKAKEAI代表の皆川恵美は1on1総研で実施した鼎談で、次のように述べています。

「自分なりのゴールに辿りついたきっかけは共通しています。それは、個人のキャパシティを超えたときに意識の変化が生じ、マネジメントと真剣に向き合うようになったということです。多くのマネジャーが自分のキャパを超えたときに『個人ではなくチームで成果を出すしかない』と腹を括っています」

これはPwCコンサルティングの加藤守和氏が同鼎談で引用する「一皮むけた経験」に関する研究知見とも一致しています。加藤氏は「自分だけではできなくなったときが、マネジャーが一皮むける転機になりやすい」と指摘しています。

逆に言えば、この転換が起きないまま一人で抱え込み続ける管理職が、罰ゲームに陥りやすいとも言えるかもしれません。

罰ゲームを「構造の問題」として捉え直す

ここで重要なのは、「陥らない人の特徴」を個人の資質論として語ってしまうことの危険性です。

パーソル総研の小林氏は、管理職の罰ゲーム化を個人のスキル不足だけで説明する発想を批判します。管理職が忙しくなると人事はそれを「マネジメントスキル不足」と捉えて管理職研修に寄りがちですが、小林氏は問題の背景には管理職の負荷を膨張させる構造的要因があると指摘します(出典)。

罰ゲームに陥るかどうかは、個人の強さだけの問題ではなく、組織が管理職に対してどのような環境を用意しているかの問題でもあります。この視点を持てるかどうかが、人事・経営層にとっての最初の分岐点でもあります。

人事が「管理職は罰ゲーム」問題に向き合うためのポイント

管理職の罰ゲーム化は、個人の資質や現場の努力だけで説明できる問題ではありません。問うべきなのは「誰が弱いのか」ではなく、「どのような組織・制度設計が管理職を消耗させているのか」という問いです。

リクルートマネジメントソリューションズが人事担当者・管理職層各150名を対象に実施した調査(2025年)では、人事・管理職ともに7割以上が管理職に関する課題感を持ち、最大の共通課題として「管理職候補の不足」が挙げられています。

出典:リクルートMS「マネジメントに対する人事・管理職層の意識調査(2025)

また、Gallup の『State of the Global Workplace 2025』によれば、2024年は世界全体の従業員エンゲージメントが低下し、その主因は管理職のエンゲージメント低下でした。Gallup は、管理職のエンゲージメントが生産性低下の反転や従業員ウェルビーイングの改善の鍵だとし、管理職への研修、コーチング、継続的な育成を重要な対策として位置づけています(出典)。

こうした状況に対し、パーソル総研の小林氏は人事が陥りがちな落とし穴が二つあることを指摘します。

一つ目は「研修偏重」です。

管理職が忙しくなると「マネジメントスキルが足りないから大変なのだ」と捉え、研修の刷新・拡充へと向かいがちです。パーソル総研の小林氏はこれを「筋トレ発想」と呼び、問題の本質を見誤るリスクを指摘しています。

問題の背景にあるのは個人の能力不足だけではなく、負荷を膨張させる構造的要因です。必要なのは研修の拡充だけではなく、役割分担、横のつながり、メンバー側の関わり方、キャリア設計まで含めた総合的な見直しです。

二つ目は「エンゲージメントサーベイの誤読」です。

管理職のスコアが高くても、それをそのまま「管理職は元気」と読むのは危険です。管理職はすでに「選ばれた側」にあり、社内で回答者が特定されやすいことから、匿名調査でも高めに答えやすい傾向があります。実態として疲弊していても、それがサーベイ結果に表れにくい構造があるわけです。

人事が本当に見るべきなのは、管理職本人のスコアではなく、管理職手前の層とのギャップです。管理職が精力的に働いているほど、その姿を見た下の世代が「あのようにはなれない・なりたくない」と感じる。

この二重性を見逃すと、問題は水面下で進行し続けます。管理職候補層にどのような負担感・忌避感が広がっているかを把握することが、実態を正しく診断する第一歩です。

「罰ゲーム」への四つの処方箋

前述の小林氏は、罰ゲーム化への対処として、フォロワーシップ、ワーク・シェアリング、ネットワーク、キャリアという四つのアプローチを示しています。

フォロワーシップは、コミュニケーションを上司だけの責任にせず、メンバー側にも期待値調整や協働のリテラシーを広げる考え方です。管理職だけを鍛えても、受け取る側の部下が育っていなければ組織は変わらないという発想です。

ワーク・シェアリングは、管理職の役割や労働時間を把握したうえで権限や承認プロセスを見直し、業務を分担・効率化していく考え方です。

ネットワークは、管理職同士の横の連携や経営層との縦のつながり、社外ネットワークを強化し孤立を防ぐ発想です。管理職が一人で抱え込まず、組織の内外に相談・協力できる関係性を持てるかどうかが、消耗を防ぐ上で重要な要素になります。

キャリアは、全員を一律に幹部候補として扱うのではなく、早い段階での選抜と、それ以外の管理職に対する専門性形成の支援を組み合わせる視点です。幹部候補の選抜は20代後半~30代前半までに行う必要があり、それ以外の管理職については広いジョブローテーションを前提にするのではなく、一定の専門領域でポータブルスキルを蓄積できるようにすることが重要だとされています。

リクルートマネジメントソリューションズの昇進・昇格調査(2024年)でも、複線型キャリアパスの目的として「スペシャリスト育成とエンゲージメント向上」が2位に挙がっており、こうした制度整備への実務的な需要が示されています。

ただし、「負担を軽くする」ことだけに偏ることにはリスクもあります。次世代の強いリーダーが育たないおそれがあるためです。

人事に求められるのは単なる負担軽減策ではなく、管理職という役割そのものを持続可能で魅力あるものとして再設計する視点です。

管理職が「罰ゲーム」から脱する方法

罰ゲームと言われる構造の中でも、管理職として前向きに働いている人は少なくありません。JMAMの調査(2023年)では、現役管理職の56.4%が「今の仕事が面白い」「管理職を続けたい」と感じるポジティブ管理職であることが示されています。

またリクルートマネジメントソリューションズの研究では、管理職になりたくなかった人の半数以上が就任後にポジティブに転じており、その鍵として「部下が生き生きと仕事をしているときに自分のやりがいを感じる」という意識の転換が挙げられています。

プレイヤーとして個人の成果を追う仕事とは異なる、誰かの成長や活躍を通じて成果を出すという管理職固有の面白さに気づいたとき、意識が変わるようです。

人に向き合うこの仕事は、AI時代においてむしろ重要性を増しています。

PwCコンサルティングの加藤守和氏は、仕事を「トランザクション業務(処理業務)」「リレーショナル業務(人との関係性構築)」「エキスパート業務(専門性の発揮)」の三つに分類した上で、生成AIが得意なのはトランザクション業務であり、部下とのリレーション構築こそ管理職が力を入れるべき領域だと述べています(出典)。AIが処理業務を代替していくことで、管理職がこの領域に集中しやすくなる可能性があります。

だとすれば、管理職自身もその仕事の価値を自分のものとして受け取れるかどうかが問われます。

KAKEAI代表の皆川恵美は、仕事にコミットしているマネジャーは自社や自分の役割が好きで、その価値を語り自信を持って取り組む姿勢が周囲も自分自身も鼓舞し、罰ゲーム状態に陥ることを防いでくれると述べています(出典)。

罰ゲーム化の解消は組織・人事の課題です。しかし構造が改善されていく過程においても、管理職自身が自分の関与に意味を見出せるかどうかは、日々の消耗度を大きく左右します。「組織の整備」と「個人の意味の発見」。この両輪が揃ったとき、管理職は初めて「罰ゲーム」から抜け出すことができます。

管理職が「罰ゲーム」と呼ばれるようになった背景

約77%。日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が2023年4月に管理職1,072名・一般社員1,116名を対象に実施した調査で、「管理職になりたくない」と回答した一般社員の割合です。同社が2018年に行った同様の調査では72.8%だったことから、この5年でさらに約4ポイント上昇したことになります

出典:JMAM「管理職の実態に関するアンケート調査」2023年

管理職への昇進を望まない理由について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが約5,000人を対象に実施した調査(2023年12月)では、男女共に「ストレスが増えるため」(女性非管理職55.1%、男性非管理職54.3%)、「責任が増えるため」(女性49.1%、男性43.5%)の回答割合が高く、管理職に就くことへの心理的負担感が広く共有されていることが示されています。「管理職=出世コース」という前提が当たり前だった時代は、もはや過去のものとなりつつあります。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「女性管理職の育成・登用に関する調査概要」

こうした現象には、バブル崩壊後から続く構造的な背景があります。『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル、2024年)の著者でパーソル総合研究所の小林祐児氏は、この問題がここ数年で起きたのではなくバブル崩壊後のロングトレンドであると指摘しています(参照元)。

この「罰ゲーム」という言葉の本質は、単なる「コスト超過」ではなく、「見返りの喪失」にあります。かつて管理職への昇進は、権限の拡大や報酬の上昇、社会的地位の向上といった明確なリターンを伴っていました。しかし現在は、責任と負担だけが積み上がり、それに見合う見返りが感じられなくなっています。ゆえに「罰ゲーム」という言葉がこれほど多くの人の胸に刺さったのではないでしょうか。

加えて、今日のミドルマネジャーは、上層部からの業績プレッシャーと部下からの感情ケア要求に挟まれる「挟み撃ち構造」の中に置かれています。

PwCコンサルティングの加藤守和氏は、「現在のミドル層はメンバー時代に心のケアを受けていないにもかかわらず、管理職になった途端に多様な配慮を求められている」という構造的な問題を指摘しています。また、同氏を含む鼎談の中でKAKEAI代表の皆川恵美は、ある製造業の部長職が語った「我々は、やられたけれども、やってはいけない世代だ」という言葉を紹介し、この問題の根深さを浮き彫りにしました。

出典:1on1総研「メンバーの『パフォーマンスマネジメント』と『感情ケア』は両立可能なのか」

管理職に問題が集中する構造的要因

管理職の罰ゲーム化は、個人の資質の問題ではありません。その背景には、複数の構造的要因が絡み合っています。

①組織フラット化による管轄範囲の拡大
バブル崩壊以降、人件費抑制を目的に管理職ポストが削減され、1人の管理職が担う部下の数と役割数が増加。ファーストラインマネジャーに負荷が集中する構造が広がっています。

②プレイングマネージャー化
短期業績志向の強まりと人手不足により、管理職自身が現場の稼ぎ手を兼務する状況が常態化。部下を育てる余力が奪われ、さらに部下が育たないという悪循環に陥っています。

③経営からの期待圧力
「現場が大事」「管理職が要」というメッセージを経営側は発し続け、現場管理職には経営判断の材料提供から現場カイゼンまで要求されやすくなっています。管理職の負荷をさらに押し上げる要因の一つとして指摘されています。

④年上部下への対応難度の上昇
年功序列廃止と組織フラット化により「部下のほうが年上」という状況が増加。年上部下へのネガティブフィードバックを避けるあまり、若手への業務集中や管理職自身の抱え込みが生じやすくなるという指摘があります。

⑤雇用形態の多様化による管轄の複雑化
非正規・派遣・副業・フリーランスなど多様な雇用形態のメンバーを束ねることで、仕事の切り分けや配慮事項が飛躍的に増加しています。

⑥働き方改革による仕事の巻き取り
非管理職の残業規制が進む一方、管理職は対象外のまま。早く帰る部下の仕事を管理職が引き受ける構造が定着し、その姿を見た部下がさらに「管理職になりたくない」と感じる悪循環が生まれています。

⑦ハラスメント対策による萎縮と感情労働の増大
「NG行動を教える」研修が広がった結果、ハラスメント予備軍でない管理職まで部下とのコミュニケーションを過剰に恐れるように。また「感情ケアもマネジャーの仕事」という考えが過剰に広まった結果、感情労働に苦しみながら部下に仕事を任せきれず「結局、俺がやるしかない」と引き取ってしまう悪循環も生まれています。

⑧賃金と責任のアンバランス
非管理職と管理職の賃金ギャップは長期的に縮小しており、責任と業務量だけが増え、見返りとしての報酬・権限が追いつかない構造が罰ゲーム感を強めています。

これら八つの要因は相互に絡み合いながらマネジャーを追い詰めています。

女性管理職に罰ゲームがより深刻に現れる理由

管理職の罰ゲーム問題は、女性管理職にとってさらに深刻な形で現れます。

パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」(2024年)では、「管理職になりたい」と回答した女性は12.3%にとどまり、男性(20.4%)と約8ポイントの開きがあります(出典)。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが約5,000人を対象に実施した調査(2023年12月)でも、課長相当以上への昇進を目指すと回答した女性非管理職は15.5%で、男性非管理職(24.8%)を大きく下回りました。さらに同調査では、2018年から2023年にかけて男性非管理職の昇進意向も6.3ポイント低下しており、罰ゲーム化の影響は男性にも広がっています(出典)。

マイナビキャリアリサーチラボの調査では、管理職になりたくない理由の男女差が最も大きかったのは「仕事と育児の両立が難しくなる」(13.0ポイント差)でした(出典)。

ロールモデルの不足など、女性固有の障壁も重なっています。これらの問題に対処するには、女性個人の意欲に頼るだけでなく、組織としての支援体制やキャリアパスの設計から見直す必要があります。

罰ゲームに陥る人・陥らない人の分岐点

同じ会社、同じ職場環境でも、罰ゲームに陥る管理職と陥らない管理職がいます。この差はどこから来るのでしょうか。

「メンタルが強いから」「うまく割り切れるから」——そう語られることが多いですが、個人の強さだけで説明できるわけではありません。労働心理学の多くの研究では、仕事の負荷の大きさだけでなく、それに見合う裁量、支援、報酬、成長機会といった職場環境の条件が、消耗やバーンアウトを左右する重要な分岐点の一つだと示されています。厚生労働省の関連資料でも、職場環境の改善や相談しやすい体制づくりの重要性が繰り返し示されています。

出典:「厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

消耗しやすい管理職

バーンアウト研究の基本的な枠組みとして広く用いられてきたマスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI)は、バーンアウトを「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」という三つの症状で捉えます。

同志社大学教授の久保真人氏(組織心理学)はこの枠組みを用いた研究をまとめており、対人関係のなかで多くの情緒的資源を求められる職務や、感情労働を伴う仕事においてバーンアウトのリスクが高まりやすいことを論じています。

出典:久保真人「バーンアウト──ヒューマンサービス職のストレス」『日本労働研究雑誌』2007年

管理職の仕事は、上司・部下・経営の複数方向から感情的な要求がかかり続けるという点で、感情労働の要素を多く含みます。こうした状況が長期化すると、情緒的消耗感が蓄積されやすくなります。

「チームで成果を出す」への発想転換

では、陥らない管理職は具体的に何が違うのか。多くの組織の管理職と関わってきたKAKEAI代表の皆川恵美は1on1総研で実施した鼎談で、次のように述べています。

「自分なりのゴールに辿りついたきっかけは共通しています。それは、個人のキャパシティを超えたときに意識の変化が生じ、マネジメントと真剣に向き合うようになったということです。多くのマネジャーが自分のキャパを超えたときに『個人ではなくチームで成果を出すしかない』と腹を括っています」

これはPwCコンサルティングの加藤守和氏が同鼎談で引用する「一皮むけた経験」に関する研究知見とも一致しています。加藤氏は「自分だけではできなくなったときが、マネジャーが一皮むける転機になりやすい」と指摘しています。

逆に言えば、この転換が起きないまま一人で抱え込み続ける管理職が、罰ゲームに陥りやすいとも言えるかもしれません。

罰ゲームを「構造の問題」として捉え直す

ここで重要なのは、「陥らない人の特徴」を個人の資質論として語ってしまうことの危険性です。

パーソル総研の小林氏は、管理職の罰ゲーム化を個人のスキル不足だけで説明する発想を批判します。管理職が忙しくなると人事はそれを「マネジメントスキル不足」と捉えて管理職研修に寄りがちですが、小林氏は問題の背景には管理職の負荷を膨張させる構造的要因があると指摘します(出典)。

罰ゲームに陥るかどうかは、個人の強さだけの問題ではなく、組織が管理職に対してどのような環境を用意しているかの問題でもあります。この視点を持てるかどうかが、人事・経営層にとっての最初の分岐点でもあります。

人事が「管理職は罰ゲーム」問題に向き合うためのポイント

管理職の罰ゲーム化は、個人の資質や現場の努力だけで説明できる問題ではありません。問うべきなのは「誰が弱いのか」ではなく、「どのような組織・制度設計が管理職を消耗させているのか」という問いです。

リクルートマネジメントソリューションズが人事担当者・管理職層各150名を対象に実施した調査(2025年)では、人事・管理職ともに7割以上が管理職に関する課題感を持ち、最大の共通課題として「管理職候補の不足」が挙げられています。

出典:リクルートMS「マネジメントに対する人事・管理職層の意識調査(2025)

また、Gallup の『State of the Global Workplace 2025』によれば、2024年は世界全体の従業員エンゲージメントが低下し、その主因は管理職のエンゲージメント低下でした。Gallup は、管理職のエンゲージメントが生産性低下の反転や従業員ウェルビーイングの改善の鍵だとし、管理職への研修、コーチング、継続的な育成を重要な対策として位置づけています(出典)。

こうした状況に対し、パーソル総研の小林氏は人事が陥りがちな落とし穴が二つあることを指摘します。

一つ目は「研修偏重」です。

管理職が忙しくなると「マネジメントスキルが足りないから大変なのだ」と捉え、研修の刷新・拡充へと向かいがちです。パーソル総研の小林氏はこれを「筋トレ発想」と呼び、問題の本質を見誤るリスクを指摘しています。

問題の背景にあるのは個人の能力不足だけではなく、負荷を膨張させる構造的要因です。必要なのは研修の拡充だけではなく、役割分担、横のつながり、メンバー側の関わり方、キャリア設計まで含めた総合的な見直しです。

二つ目は「エンゲージメントサーベイの誤読」です。

管理職のスコアが高くても、それをそのまま「管理職は元気」と読むのは危険です。管理職はすでに「選ばれた側」にあり、社内で回答者が特定されやすいことから、匿名調査でも高めに答えやすい傾向があります。実態として疲弊していても、それがサーベイ結果に表れにくい構造があるわけです。

人事が本当に見るべきなのは、管理職本人のスコアではなく、管理職手前の層とのギャップです。管理職が精力的に働いているほど、その姿を見た下の世代が「あのようにはなれない・なりたくない」と感じる。

この二重性を見逃すと、問題は水面下で進行し続けます。管理職候補層にどのような負担感・忌避感が広がっているかを把握することが、実態を正しく診断する第一歩です。

「罰ゲーム」への四つの処方箋

前述の小林氏は、罰ゲーム化への対処として、フォロワーシップ、ワーク・シェアリング、ネットワーク、キャリアという四つのアプローチを示しています。

フォロワーシップは、コミュニケーションを上司だけの責任にせず、メンバー側にも期待値調整や協働のリテラシーを広げる考え方です。管理職だけを鍛えても、受け取る側の部下が育っていなければ組織は変わらないという発想です。

ワーク・シェアリングは、管理職の役割や労働時間を把握したうえで権限や承認プロセスを見直し、業務を分担・効率化していく考え方です。

ネットワークは、管理職同士の横の連携や経営層との縦のつながり、社外ネットワークを強化し孤立を防ぐ発想です。管理職が一人で抱え込まず、組織の内外に相談・協力できる関係性を持てるかどうかが、消耗を防ぐ上で重要な要素になります。

キャリアは、全員を一律に幹部候補として扱うのではなく、早い段階での選抜と、それ以外の管理職に対する専門性形成の支援を組み合わせる視点です。幹部候補の選抜は20代後半~30代前半までに行う必要があり、それ以外の管理職については広いジョブローテーションを前提にするのではなく、一定の専門領域でポータブルスキルを蓄積できるようにすることが重要だとされています。

リクルートマネジメントソリューションズの昇進・昇格調査(2024年)でも、複線型キャリアパスの目的として「スペシャリスト育成とエンゲージメント向上」が2位に挙がっており、こうした制度整備への実務的な需要が示されています。

ただし、「負担を軽くする」ことだけに偏ることにはリスクもあります。次世代の強いリーダーが育たないおそれがあるためです。

人事に求められるのは単なる負担軽減策ではなく、管理職という役割そのものを持続可能で魅力あるものとして再設計する視点です。

管理職が「罰ゲーム」から脱する方法

罰ゲームと言われる構造の中でも、管理職として前向きに働いている人は少なくありません。JMAMの調査(2023年)では、現役管理職の56.4%が「今の仕事が面白い」「管理職を続けたい」と感じるポジティブ管理職であることが示されています。

またリクルートマネジメントソリューションズの研究では、管理職になりたくなかった人の半数以上が就任後にポジティブに転じており、その鍵として「部下が生き生きと仕事をしているときに自分のやりがいを感じる」という意識の転換が挙げられています。

プレイヤーとして個人の成果を追う仕事とは異なる、誰かの成長や活躍を通じて成果を出すという管理職固有の面白さに気づいたとき、意識が変わるようです。

人に向き合うこの仕事は、AI時代においてむしろ重要性を増しています。

PwCコンサルティングの加藤守和氏は、仕事を「トランザクション業務(処理業務)」「リレーショナル業務(人との関係性構築)」「エキスパート業務(専門性の発揮)」の三つに分類した上で、生成AIが得意なのはトランザクション業務であり、部下とのリレーション構築こそ管理職が力を入れるべき領域だと述べています(出典)。AIが処理業務を代替していくことで、管理職がこの領域に集中しやすくなる可能性があります。

だとすれば、管理職自身もその仕事の価値を自分のものとして受け取れるかどうかが問われます。

KAKEAI代表の皆川恵美は、仕事にコミットしているマネジャーは自社や自分の役割が好きで、その価値を語り自信を持って取り組む姿勢が周囲も自分自身も鼓舞し、罰ゲーム状態に陥ることを防いでくれると述べています(出典)。

罰ゲーム化の解消は組織・人事の課題です。しかし構造が改善されていく過程においても、管理職自身が自分の関与に意味を見出せるかどうかは、日々の消耗度を大きく左右します。「組織の整備」と「個人の意味の発見」。この両輪が揃ったとき、管理職は初めて「罰ゲーム」から抜け出すことができます。

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執筆者
1on1総研編集部

1on1のノウハウや組織課題、組織を活性化させるためのキーワードなどを掘り下げる記事を提供します。

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