
耳の痛いことを伝える六つのポイントとは? コミュニケーションが苦手なマネジャーの実践的会話術
対人場面に苦手意識を持つマネジャーが、メンバーと必要なコミュニケーションを重ねる方法を模索する企画。自分も相手も尊重しながら率直に思いを伝え合う「アサーティブネス」にそのヒントを得るべく、長年この領域の研究を続ける近畿大学の堀田美保教授に話を聞いた。
前編では、コミュニケーションが苦手なマネジャーが躓きやすいポイントを整理し、それをほぐすアサーティブネスの基本的な考え方を紹介した。
後編で扱うのは、より具体的な実践方法だ。頭の中のモヤモヤをそのまま口に出す「実況中継」、耳の痛いことを伝える六つのポイント、相手が変わらなくても対話を動かす向き合い方。明日から試せるテクニックを、堀田教授の解説とともに紹介する。
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「言いづらい」を口に出す「実況中継」のすすめ
コミュニケーションのポイントを理解しても、いざ相手を前にすると、思うように言葉が出てこないこともあるだろう。ここで堀田教授が勧めるのが「実況中継」というシンプルな技法である。
「『これを言ったら傷つけるかも』『申し訳ない』といったモヤモヤが頭の中にあると、結局『やめておこう』となりがちですが、そのモヤモヤをそのまま言葉にする。これが『実況中継』です」
具体的には、こう切り出す。
なぜこの「実況中継」が有効なのか。
「言葉という形にすると、自分自身でその感情を認められるようになります。その瞬間に、次の言葉が出てくるようになるのです。漠然と抱えていた不安が言語化されることで気持ちが開放され、本当に伝えたいことに意識を向けられるようになります」(堀田教授)
注意点は一つ、相手を攻撃しないことだ。攻撃的な言葉を使うことは、アサーティブネスの基本姿勢である「誠実」に反する。それ以外なら、頭の中のモヤモヤは外に出してよい。閉じ込めていた不安を言葉にすることで、こんがらがっていた思考が整理され、自分自身も楽になるという。
耳の痛いことを伝えるための「六つのポイント」
「実況中継」で「言いづらい」状況は乗り越えたとして、その先に待っているのが「本題をどう伝えるか」という難題だ。
例えば、会議で発言するよう何度求めても黙り込んでしまう部下に注意を促す場面、あるいは提出物のチェック漏れが続く部下に改善を求めなければならない場面。マネジャーには部下の態度や行動について、耳の痛い話をしなければならないことがある。
その際、堀田教授は次の六つのポイントを意識することを勧める。
①肯定的に始めて、肯定的に終わる
部下を呼び出し「ちょっと話があるんだけど……」と切り出した瞬間、相手は身構えてしまうかもしれない。そこで、会話の最初は感謝や褒める言葉から入る。コツは部下の最近の動きから具体的な行動を拾うこと。そうすることで部下は「上司はきちんと見てくれている」と感じ、その後の話にも耳を傾ける余裕が生まれる。
会話の最後も肯定の言葉で締めくくれば、「注意を受ける(注意をする)時間」から「共に前に進むための時間」に変わっていく。
②「事実」と「解釈」を分けて伝える
会議でなかなか発言しない部下に対し、つい「やる気ないの?」と切り出したくなるが、これはあくまで上司の「解釈」だ。しかも相手を責めるニュアンスを含むため、相手は反発するか閉じこもるかのどちらかになるだろう。
代わりに、相手が同意できる具体的な「事実」から始めよう。起きた出来事をそのまま描写しているだけなので、相手も否定のしようがない。事実から入ることで、対話に共通の土台ができる。
③感情の伝え方は「私」を主語に置く
事実を共有したら、その事実に対して自分がどう感じているかを伝える。ここでのポイントは、「私」を主語にすることだ。「あなたはダメだ」ではなく「私は心配している」。言葉の矢印を相手ではなく自分に向けることで、相手は「人格を否定された」と感じずに済む。
④相手への要望は「行動レベル」で示す
行動改善の要望を出す場合、「もっと積極的にやってほしい」「主体的に動いてほしい」では、部下は何をすればよいのか悩んでしまう。「何が、どうなったら望ましいか」を行動ベースで伝えよう。相手が「何をすればよいか」を明確にイメージできるレベルまで具体化することがポイントだ。
加えて、要望を伝えた後は、相手の言い分にも耳を傾けたい。「今日どうしたの?」「何かあった?」と問いかけ、「実は資料を読み込めていなくて……」と返ってきたら、「そうだったんだ」と一度受け止める。そのうえで伝え直せば、対話は相手を責める場ではなく、課題解決の場になるだろう。
⑤自分の非も率直に認める
耳の痛いことを伝える場では、「相手の問題」ばかりにフォーカスしがちだ。しかし、対等な対話の構造をつくるためには、自分の側の不十分さも認める姿勢が欠かせない。
これは、自分を卑下することとは違う。自分にも改善できる点があったと認めることで、部下は「責められている」のではなく「一緒に改善してくれるんだ」と受け取れるようになる。
⑥1回の会話で押し切らない
「どうなんだ」「これからどうするんだ」とその場で結論を迫られると、相手は防衛的になり、反射的に言い訳を探すか、黙り込むかのどちらかになりやすい。
その場で答えを求めるのではなく、相手にも考える時間を与えることで、対話を次につなげよう。堀田教授はこれを「対話を重ねていくイメージ」と呼ぶ。1回の会話で完璧に解決しようとしないというスタンスを持つことで、対話のハードルは大きく下がる。
「こんなにステップを踏まなければならないのか、と思った方もいらっしゃるかもしれません。でも、すべて完璧にしなくていいんです。まずは1個、これを取り入れてみよう、という感じで始めてもらって問題ありません」(堀田教授)
「相手が変わらなくても」アサーティブネスは効く
「アサーティブネスの重要性や、具体的な対話のステップについては理解した。でも、こちらがアサーティブにふるまっても、相手がそうでなかったら意味がないのでは?」
ここまで読んで、そんな疑問を抱いた読者もいるかもしれない。それに対する堀田教授の回答は明快だ。
「実は、相手がそうでないときにこそ、力を発揮するツールがアサーティブネスなのです」(堀田教授)
他者に対するネガティブな気持ちは、無意識に態度や言葉に表れ、攻撃として伝わってしまい、関係はこじれていく。逆に、「なぜこの人はこういう発言をしたのだろう」「いっぱいいっぱいなのかもしれない」と相手の状況に思いを馳せれば、攻撃性は和らいでいく。
建設的な対話に必要なのは、相手を観察し、リスペクトできるところを探す姿勢だ。
「相手の経験や強み、これまで頑張ってきた何かを、こちらから探していく姿勢が、関係を動かす起点になります」(堀田教授)
ただし、相手の変化を粘り強く待ち続ける間に、自分のほうが先に消耗してしまっては元も子もない。堀田教授は「自分が消耗しないためのコツ」として次の四つを挙げる。
これら四つに共通するのは、1回の会話で完結させず、対話を継続していく姿勢だ。アサーティブネスのゴールは二つある。目の前の問題解決と、相手と話せる関係になること。「優先順位は、むしろ後者にある」と堀田教授は言う。
「話せる関係になれば、いくらでも一緒に問題解決に向かえます。会話を終えたときに、始める前よりも相手が『この人ならもう少し話してもいいかな』と感じていたら、その会話は成功と捉えて良いと思います」(堀田教授)
1on1で直面する三つのケースとその対処法
1on1を運用している組織は、対話を継続しやすい環境にある。
「マネジャー自ら部下に声をかけなければならない環境だと、『今日でなくていいか』『来週でいいか』と先延ばしになるかもしれません。その1ステップを省けるのは定期的な1on1の大きなメリットです。事前に決まっているからこそ、改まった対話の準備もできます」(堀田教授)
とはいえ、1on1でも気をつけたいことはある。以下に1on1で発生しがちな三つのシチュエーションと、アサーティブネスの観点を交えた処方箋を紹介する。
相手に向き合う前に、まず「自分に向き合う」
堀田教授の話から見えてきたのは、アサーティブネスが完璧を求めるスキルではないということだ。むしろ「言いづらい」を口に出していい、自分の不安を開示していい、1回の会話で解決しようと思わなくていい。この指針は、コミュニケーションが苦手なマネジャーにとって、自分を追い詰めずに対話を続けるための心強い味方になりうる。
「まずは一つ、これを取り入れてみよう、と思えることから始めてください」と堀田教授はアドバイスする。職場でいきなり実践するのが難しければ、家族に改めて感謝を伝える、店員に「ありがとうございます」と一言添えるなど、身近なハードルの低いところから試してみてもいいだろう。
「もともとコミュニケーションが得意でない人が、いきなりうまくなることはありません。私自身も、スタッフに大事な話を伝える前にはいまだに必ず一人でリハーサルを行います。コミュニケーションとは『相手に向き合う』イメージがありますが、その前にやるべきは、まず『自分に向き合うこと』です」(堀田教授)
(構成:堀尾大悟)
🔹前編では、対人場面での心理的負荷が高く、会話の機会を最小化しがちなタイプの管理職の方に向けて、アサーティブネスな会話をするときのポイントを整理しています。
「言いづらい」を口に出す「実況中継」のすすめ
コミュニケーションのポイントを理解しても、いざ相手を前にすると、思うように言葉が出てこないこともあるだろう。ここで堀田教授が勧めるのが「実況中継」というシンプルな技法である。
「『これを言ったら傷つけるかも』『申し訳ない』といったモヤモヤが頭の中にあると、結局『やめておこう』となりがちですが、そのモヤモヤをそのまま言葉にする。これが『実況中継』です」
具体的には、こう切り出す。
なぜこの「実況中継」が有効なのか。
「言葉という形にすると、自分自身でその感情を認められるようになります。その瞬間に、次の言葉が出てくるようになるのです。漠然と抱えていた不安が言語化されることで気持ちが開放され、本当に伝えたいことに意識を向けられるようになります」(堀田教授)
注意点は一つ、相手を攻撃しないことだ。攻撃的な言葉を使うことは、アサーティブネスの基本姿勢である「誠実」に反する。それ以外なら、頭の中のモヤモヤは外に出してよい。閉じ込めていた不安を言葉にすることで、こんがらがっていた思考が整理され、自分自身も楽になるという。
耳の痛いことを伝えるための「六つのポイント」
「実況中継」で「言いづらい」状況は乗り越えたとして、その先に待っているのが「本題をどう伝えるか」という難題だ。
例えば、会議で発言するよう何度求めても黙り込んでしまう部下に注意を促す場面、あるいは提出物のチェック漏れが続く部下に改善を求めなければならない場面。マネジャーには部下の態度や行動について、耳の痛い話をしなければならないことがある。
その際、堀田教授は次の六つのポイントを意識することを勧める。
①肯定的に始めて、肯定的に終わる
部下を呼び出し「ちょっと話があるんだけど……」と切り出した瞬間、相手は身構えてしまうかもしれない。そこで、会話の最初は感謝や褒める言葉から入る。コツは部下の最近の動きから具体的な行動を拾うこと。そうすることで部下は「上司はきちんと見てくれている」と感じ、その後の話にも耳を傾ける余裕が生まれる。
会話の最後も肯定の言葉で締めくくれば、「注意を受ける(注意をする)時間」から「共に前に進むための時間」に変わっていく。
②「事実」と「解釈」を分けて伝える
会議でなかなか発言しない部下に対し、つい「やる気ないの?」と切り出したくなるが、これはあくまで上司の「解釈」だ。しかも相手を責めるニュアンスを含むため、相手は反発するか閉じこもるかのどちらかになるだろう。
代わりに、相手が同意できる具体的な「事実」から始めよう。起きた出来事をそのまま描写しているだけなので、相手も否定のしようがない。事実から入ることで、対話に共通の土台ができる。
③感情の伝え方は「私」を主語に置く
事実を共有したら、その事実に対して自分がどう感じているかを伝える。ここでのポイントは、「私」を主語にすることだ。「あなたはダメだ」ではなく「私は心配している」。言葉の矢印を相手ではなく自分に向けることで、相手は「人格を否定された」と感じずに済む。
④相手への要望は「行動レベル」で示す
行動改善の要望を出す場合、「もっと積極的にやってほしい」「主体的に動いてほしい」では、部下は何をすればよいのか悩んでしまう。「何が、どうなったら望ましいか」を行動ベースで伝えよう。相手が「何をすればよいか」を明確にイメージできるレベルまで具体化することがポイントだ。
加えて、要望を伝えた後は、相手の言い分にも耳を傾けたい。「今日どうしたの?」「何かあった?」と問いかけ、「実は資料を読み込めていなくて……」と返ってきたら、「そうだったんだ」と一度受け止める。そのうえで伝え直せば、対話は相手を責める場ではなく、課題解決の場になるだろう。
⑤自分の非も率直に認める
耳の痛いことを伝える場では、「相手の問題」ばかりにフォーカスしがちだ。しかし、対等な対話の構造をつくるためには、自分の側の不十分さも認める姿勢が欠かせない。
これは、自分を卑下することとは違う。自分にも改善できる点があったと認めることで、部下は「責められている」のではなく「一緒に改善してくれるんだ」と受け取れるようになる。
⑥1回の会話で押し切らない
「どうなんだ」「これからどうするんだ」とその場で結論を迫られると、相手は防衛的になり、反射的に言い訳を探すか、黙り込むかのどちらかになりやすい。
その場で答えを求めるのではなく、相手にも考える時間を与えることで、対話を次につなげよう。堀田教授はこれを「対話を重ねていくイメージ」と呼ぶ。1回の会話で完璧に解決しようとしないというスタンスを持つことで、対話のハードルは大きく下がる。
「こんなにステップを踏まなければならないのか、と思った方もいらっしゃるかもしれません。でも、すべて完璧にしなくていいんです。まずは1個、これを取り入れてみよう、という感じで始めてもらって問題ありません」(堀田教授)
「相手が変わらなくても」アサーティブネスは効く
「アサーティブネスの重要性や、具体的な対話のステップについては理解した。でも、こちらがアサーティブにふるまっても、相手がそうでなかったら意味がないのでは?」
ここまで読んで、そんな疑問を抱いた読者もいるかもしれない。それに対する堀田教授の回答は明快だ。
「実は、相手がそうでないときにこそ、力を発揮するツールがアサーティブネスなのです」(堀田教授)
他者に対するネガティブな気持ちは、無意識に態度や言葉に表れ、攻撃として伝わってしまい、関係はこじれていく。逆に、「なぜこの人はこういう発言をしたのだろう」「いっぱいいっぱいなのかもしれない」と相手の状況に思いを馳せれば、攻撃性は和らいでいく。
建設的な対話に必要なのは、相手を観察し、リスペクトできるところを探す姿勢だ。
「相手の経験や強み、これまで頑張ってきた何かを、こちらから探していく姿勢が、関係を動かす起点になります」(堀田教授)
ただし、相手の変化を粘り強く待ち続ける間に、自分のほうが先に消耗してしまっては元も子もない。堀田教授は「自分が消耗しないためのコツ」として次の四つを挙げる。
これら四つに共通するのは、1回の会話で完結させず、対話を継続していく姿勢だ。アサーティブネスのゴールは二つある。目の前の問題解決と、相手と話せる関係になること。「優先順位は、むしろ後者にある」と堀田教授は言う。
「話せる関係になれば、いくらでも一緒に問題解決に向かえます。会話を終えたときに、始める前よりも相手が『この人ならもう少し話してもいいかな』と感じていたら、その会話は成功と捉えて良いと思います」(堀田教授)
1on1で直面する三つのケースとその対処法
1on1を運用している組織は、対話を継続しやすい環境にある。
「マネジャー自ら部下に声をかけなければならない環境だと、『今日でなくていいか』『来週でいいか』と先延ばしになるかもしれません。その1ステップを省けるのは定期的な1on1の大きなメリットです。事前に決まっているからこそ、改まった対話の準備もできます」(堀田教授)
とはいえ、1on1でも気をつけたいことはある。以下に1on1で発生しがちな三つのシチュエーションと、アサーティブネスの観点を交えた処方箋を紹介する。
相手に向き合う前に、まず「自分に向き合う」
堀田教授の話から見えてきたのは、アサーティブネスが完璧を求めるスキルではないということだ。むしろ「言いづらい」を口に出していい、自分の不安を開示していい、1回の会話で解決しようと思わなくていい。この指針は、コミュニケーションが苦手なマネジャーにとって、自分を追い詰めずに対話を続けるための心強い味方になりうる。
「まずは一つ、これを取り入れてみよう、と思えることから始めてください」と堀田教授はアドバイスする。職場でいきなり実践するのが難しければ、家族に改めて感謝を伝える、店員に「ありがとうございます」と一言添えるなど、身近なハードルの低いところから試してみてもいいだろう。
「もともとコミュニケーションが得意でない人が、いきなりうまくなることはありません。私自身も、スタッフに大事な話を伝える前にはいまだに必ず一人でリハーサルを行います。コミュニケーションとは『相手に向き合う』イメージがありますが、その前にやるべきは、まず『自分に向き合うこと』です」(堀田教授)
(構成:堀尾大悟)
🔹前編では、対人場面での心理的負荷が高く、会話の機会を最小化しがちなタイプの管理職の方に向けて、アサーティブネスな会話をするときのポイントを整理しています。







