ホーム
組織を動かす
「良かれと思って」が自律を潰す——いま問われる上司と部下の「大人の関係」とは
「良かれと思って」が自律を潰す——いま問われる上司と部下の「大人の関係」とは

「良かれと思って」が自律を潰す——いま問われる上司と部下の「大人の関係」とは

組織を変えたいと思ったとき、制度や仕組みに目が向きがちだ。しかし、自律的な組織の本質は「人と人との関係の持ち方」にある。上司が部下を導く「親子関係」ではなく、互いを尊重し合う「大人の関係」をどう築くか。世界の先進的な組織運営を研究する令三社代表取締役・山田裕嗣氏と、人事の学び場「人事図書館」を主宰する吉田洋介氏が語り合った。

要約を開く

要約を閉じる

目次

人間関係は言葉一つで変わる

山田 いま知り合いの書籍『Moose Heads on the Table』を翻訳して日本で出版しようとしています。その共著者のうちの一人、Lisa Gill(リサ・ギル)さんはグローバルでのティール組織のムーブメントにおける中心的な存在です。

リサさんが所属するTuff Leadership(タフ・リーダーシップ)という会社には、一つの信念があります。働く者同士が「大人の関係」として関わることで初めて、一人ひとりがセルフマネジメントできる組織になる。逆に「親子関係」に陥ると、自律は生まれない、と。

吉田 「親子関係」というのは言い得て妙ですね。

山田 ピラミッド型組織なら、上司が部下を教えるという上下構造に合意があるから、ある種健全です。しかし自律的な組織を目指すなら、先輩Aさんは「Bさんは本当に教えてほしいと思っているだろうか」と考え、意思を確認したうえで関わる。小さな差に思えるかもしれませんが、その実、大きな違いです。

ティール組織は組織形態や意思決定のユニークさで注目を集めましたが、その本質は「人と人との関係の持ち方」にあります。「親子」ではなく「大人同士」の関係を築くことが核心です。ただ、それを実現することは非常に難しい。子どもができないとき、親はつい手を出してしまいますから。それを良かれと思ってやるから余計に厄介です。

だからこそリサさんは、「お互いを一人の大人として尊重する関係から始めよう」と言っているのです。制度や仕組みからではなく、人との関係の持ち方から始める。私自身も、この考え方がもっと日本企業に広がってほしいなと思っています。

吉田 とても共感します。私が運営している「人事図書館」もまさに大人同士のコミュニティです。そういう関係を築こうとすると、使う言葉も変わってきます。たとえば「できる/できない」で捉えると、「あなたはできない人、私はできる人」という上下関係や親子関係が生まれやすい。一方、「得意/不得意」で捉えると、「あなたはこれが得意でこれが不得意、私はこれが得意でこれが不得意」となって、どちらが優れているという比較のニュアンスは入りません。人間関係は言葉一つで変わりますよね。

山田 おっしゃるとおりですね。人には能力の優劣があり、フラットではありません。それを前提に「僕はこの仕事は吉田さんより得意だから、よければ教えますよ」とオファーする。受けるかどうかは吉田さんが決める。これが大人の関係です。

正直、面倒ですよ。「吉田、これできてないから早くやれ」「すみません、すぐやります」と指示する方がよほど簡単で効率もいい。でも今や組織における人間関係は多様化しています。その面倒さを互いに引き受けないと、事は前に進みません。助けてほしければ「助けて」と自分から言う。シビアですが、こういう姿勢は非常に大事だと思います。


組織への不満も同じです。「ピラミッドだからダメだ」「オーナー企業だからダメだ」と外に原因を求めがちですが、それでは何も変わらない。「自分を大人として扱ってほしい」と周りに伝えて初めて、状況を変える出発点に立てると考えます。

吉田 今のお話を聞いて、組織における関わり方が「指示・指導」から「合意」や「引き受ける」へと変わり始めているのが印象的でした。大人の関係を築くには、対話を通じて相手を理解することが欠かせない。「新卒だから一律でこう接すればいい」ではなく、「あなたはどうしてほしいの」と尋ねる。そういう関わり方が必要になってきますね。

山田 そうですね。相手の言うことに深く耳を傾けることになりますし、伝えるときの姿勢も変わります。仮に相手が部下であっても、親のような振る舞いをせず、対等な大人同士として向き合う。「僕らの関係が対等で大人の関係になることを望んでいて、その上であなたに対してこういうことを提供したいと思うんだけど、あなたはどう思う?」とオファーするような伝え方になると思います。

このような関係の築き方は、一人ひとりの心がけから始められる非常に重要なことだと思っています。組織の話をすると全体論になりがちですが、全体と同じくらい、個々の関係の結び方も大事ではないでしょうか。

吉田 組織開発には「チェンジエージェント」という考え方があります。組織変革の担い手となる人のことですが、その立場に立つと、まず問われるのは「自分が望んでいる組織のあり方を、自分自身が体現できているかどうか」です。これは、変化の源はどこにあるのかを考えるソース原理の考え方にも通じるものだと思います。

山田 たしかに。人事制度でも、「制度が社員を子ども扱いする」ことが起きます。それが適している時代や組織もあるかもしれませんが、真に自律的に一人ひとりが自分で考えて動けるような組織を作ろうと思ったら、「あなた(=一人ひとりの社員)が選ぶんです」という前提で制度を作ることが必要です。それは子ども扱いする制度とスタートの根底が違いますし、そういう姿勢から始めるのが大事な一歩目だと思います。

吉田 そうすると、組織を変えていきたいという思いを持っている人にとって大事なのは、まず自社の組織や事業にとって本当に必要なことを考え抜くこと。そこに近づくための手段として世の中にどんなものがあるかを探ること。そして進め方が見えてきたら、周りに求めるのではなく、自分自身が目指す姿を体現していく——最初の一歩はそこから始まるのかもしれませんね。

(構成:相馬留美、下元陽/撮影:村中隆誓)


🔹関連記事

 対談1本目:『なぜ組織は変われないのか。日本企業をむしばむ閉塞感の正体』

 対談2本目:『13万人の巨大企業はなぜ変われたのか——ハイアールに学ぶ組織変革の実践』

人間関係は言葉一つで変わる

山田 いま知り合いの書籍『Moose Heads on the Table』を翻訳して日本で出版しようとしています。その共著者のうちの一人、Lisa Gill(リサ・ギル)さんはグローバルでのティール組織のムーブメントにおける中心的な存在です。

リサさんが所属するTuff Leadership(タフ・リーダーシップ)という会社には、一つの信念があります。働く者同士が「大人の関係」として関わることで初めて、一人ひとりがセルフマネジメントできる組織になる。逆に「親子関係」に陥ると、自律は生まれない、と。

吉田 「親子関係」というのは言い得て妙ですね。

山田 ピラミッド型組織なら、上司が部下を教えるという上下構造に合意があるから、ある種健全です。しかし自律的な組織を目指すなら、先輩Aさんは「Bさんは本当に教えてほしいと思っているだろうか」と考え、意思を確認したうえで関わる。小さな差に思えるかもしれませんが、その実、大きな違いです。

ティール組織は組織形態や意思決定のユニークさで注目を集めましたが、その本質は「人と人との関係の持ち方」にあります。「親子」ではなく「大人同士」の関係を築くことが核心です。ただ、それを実現することは非常に難しい。子どもができないとき、親はつい手を出してしまいますから。それを良かれと思ってやるから余計に厄介です。

だからこそリサさんは、「お互いを一人の大人として尊重する関係から始めよう」と言っているのです。制度や仕組みからではなく、人との関係の持ち方から始める。私自身も、この考え方がもっと日本企業に広がってほしいなと思っています。

吉田 とても共感します。私が運営している「人事図書館」もまさに大人同士のコミュニティです。そういう関係を築こうとすると、使う言葉も変わってきます。たとえば「できる/できない」で捉えると、「あなたはできない人、私はできる人」という上下関係や親子関係が生まれやすい。一方、「得意/不得意」で捉えると、「あなたはこれが得意でこれが不得意、私はこれが得意でこれが不得意」となって、どちらが優れているという比較のニュアンスは入りません。人間関係は言葉一つで変わりますよね。

山田 おっしゃるとおりですね。人には能力の優劣があり、フラットではありません。それを前提に「僕はこの仕事は吉田さんより得意だから、よければ教えますよ」とオファーする。受けるかどうかは吉田さんが決める。これが大人の関係です。

正直、面倒ですよ。「吉田、これできてないから早くやれ」「すみません、すぐやります」と指示する方がよほど簡単で効率もいい。でも今や組織における人間関係は多様化しています。その面倒さを互いに引き受けないと、事は前に進みません。助けてほしければ「助けて」と自分から言う。シビアですが、こういう姿勢は非常に大事だと思います。


組織への不満も同じです。「ピラミッドだからダメだ」「オーナー企業だからダメだ」と外に原因を求めがちですが、それでは何も変わらない。「自分を大人として扱ってほしい」と周りに伝えて初めて、状況を変える出発点に立てると考えます。

吉田 今のお話を聞いて、組織における関わり方が「指示・指導」から「合意」や「引き受ける」へと変わり始めているのが印象的でした。大人の関係を築くには、対話を通じて相手を理解することが欠かせない。「新卒だから一律でこう接すればいい」ではなく、「あなたはどうしてほしいの」と尋ねる。そういう関わり方が必要になってきますね。

山田 そうですね。相手の言うことに深く耳を傾けることになりますし、伝えるときの姿勢も変わります。仮に相手が部下であっても、親のような振る舞いをせず、対等な大人同士として向き合う。「僕らの関係が対等で大人の関係になることを望んでいて、その上であなたに対してこういうことを提供したいと思うんだけど、あなたはどう思う?」とオファーするような伝え方になると思います。

このような関係の築き方は、一人ひとりの心がけから始められる非常に重要なことだと思っています。組織の話をすると全体論になりがちですが、全体と同じくらい、個々の関係の結び方も大事ではないでしょうか。

吉田 組織開発には「チェンジエージェント」という考え方があります。組織変革の担い手となる人のことですが、その立場に立つと、まず問われるのは「自分が望んでいる組織のあり方を、自分自身が体現できているかどうか」です。これは、変化の源はどこにあるのかを考えるソース原理の考え方にも通じるものだと思います。

山田 たしかに。人事制度でも、「制度が社員を子ども扱いする」ことが起きます。それが適している時代や組織もあるかもしれませんが、真に自律的に一人ひとりが自分で考えて動けるような組織を作ろうと思ったら、「あなた(=一人ひとりの社員)が選ぶんです」という前提で制度を作ることが必要です。それは子ども扱いする制度とスタートの根底が違いますし、そういう姿勢から始めるのが大事な一歩目だと思います。

吉田 そうすると、組織を変えていきたいという思いを持っている人にとって大事なのは、まず自社の組織や事業にとって本当に必要なことを考え抜くこと。そこに近づくための手段として世の中にどんなものがあるかを探ること。そして進め方が見えてきたら、周りに求めるのではなく、自分自身が目指す姿を体現していく——最初の一歩はそこから始まるのかもしれませんね。

(構成:相馬留美、下元陽/撮影:村中隆誓)


🔹関連記事

 対談1本目:『なぜ組織は変われないのか。日本企業をむしばむ閉塞感の正体』

 対談2本目:『13万人の巨大企業はなぜ変われたのか——ハイアールに学ぶ組織変革の実践』

Kakeai資料3点セットダウンロード バナーKakeai資料3点セットダウンロード バナー
執筆者
相馬留美

2002年にダイヤモンド社に入社し、「週刊ダイヤモンド」編集部で記者となる。その後、フリーランスに転向。雑誌「プレジデントウーマン」や「週刊ダイヤモンド」などの経済メディアでフリーランス記者・編集者として携わる。また、複数の企業・NPOでオウンドメディアの編集長を務める。2024年12月に起業し、執筆活動をするとともに、事業会社のクリエイティブに関わる。空気は読めないけれど、人が好き。

記事一覧
LINE アイコンX アイコンfacebool アイコン

関連記事