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休日のチャット、本当に必要? 「つながらない権利」の重要性と三つのアクション
休日のチャット、本当に必要? 「つながらない権利」の重要性と三つのアクション

休日のチャット、本当に必要? 「つながらない権利」の重要性と三つのアクション

モバイルデバイスの普及やリモートワーク環境の整備により、私たちは夜や休日でも仕事の連絡ができるようになりました。この状態を疑問視し、提唱されるようになったのが「つながらない権利」です。近々、日本においても法律として規定される可能性が高まってきました。

今なぜ「つながらない権利」への注目度が高まっているのか、その背景と、組織として行うべき対応について考えてみましょう。

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目次

7割が経験する時間外連絡—その実態と法整備の動き

2025年12月にマイナビが行った調査によると、上司・部下のいる正社員の70.0%が「社内の人から勤務時間外に業務連絡がくることがある」と回答しています。また、「社内の人に勤務時間外に連絡をすることがある」も69.6%に達しています。

連合が2023年に行った調査では、雇用者のうち44.2%が、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答しており、社内外問わず時間外の連絡が発生している状況が見て取れます。

この状態を問題視し、いち早く動いたのがフランスです。2016年に成立した改正労働法に、「つながらない権利」の規定が盛り込まれました。その後、ヨーロッパの他の国々でも検討や対応が進んでいます。

日本で法制化に向けた議論が本格化したのは、厚労省が2024年に開催した「労働基準関係法制研究会」においてです。

この研究会の報告内容を元に「つながらない権利」の規定も含む労働基準法の改正案がまとめられ、当初は2026年通常国会に法案が提出される予定でした。2025年10月に第1次高市内閣が発足した影響で先送りになりましたが、今後1〜2年の間に国会で審議され、成立すると見込まれます。そうなると、企業には時間外の連絡に関するルールを明確化することなどが求められていくでしょう。

つながり続けることの弊害と心理的ディタッチメントの重要性

先のマイナビの調査では、正社員の64.3%が「勤務時間外の業務連絡を拒否したい」と回答していますが、「問題は先延ばしにせずすぐに終わらせるべき」、「ある程度仕方ない」と許容する声もあります。

いつでもどこにいても連絡が取れることで、問題が早く解決する、柔軟な働き方が可能になるといった利点があるのは確かです。しかし、だからこそ「つながらない時間」を意識して確保しなければ、私たちは常に仕事モードをオフにすることができません。

完全なオフ状態、つまり、仕事をしていないだけでなく、頭の中からも仕事関連の課題や悩みを追い払えている状態のことを、学術的な用語で「心理的ディタッチメント」と言います。

欧米では様々な研究論文で、心理的ディタッチメントが仕事の忙しさや職場の人間関係に起因するストレス症状の発症を抑えたり、緩和する効果があることが示唆されています。

勤務時間外でも仕事の連絡がくる状態、あるいは「連絡があるかもしれない」と身構えている状態は心理的ディタッチメントの低下につながるため、働く人のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。それは個人の問題にとどまらず、職場全体の生産性にも響いてくるでしょう。

あなたはどのタイプ? 時間外連絡への反応タイプ別ストレスの大きさ

勤務時間外に連絡があっても、「いま対応する必要はない」と割り切り、気にせず放っておける人もいます。近畿大学の本岡寛子教授らが行った研究では、20〜60代の男女93人中35名(37.6%)はそのタイプでした。

残りの人たちは、「対応しないと仕事が遅れる、迷惑がかかる」「対応しないと自分の評価が下がる」などと気にし、返信を急ぐ傾向にあるタイプ(11名 11.8%)と、仕事の遅延や自分の評価を気にしながらも返信を急がない傾向にある「葛藤型」(47名 50.5%)に分類されています。

この三つのタイプ別に仕事や職場に起因するストレスを比較すると、「葛藤型」の人たちが最も高く、「返信を急ぐ必要はない」と割り切れるほど低い傾向にあるという結果が出ています。

返信の必要性を感じ、急いで返信するタイプの人たちは、「必要ない」と割り切っているタイプと比べるとストレスを感じやすい可能性があります。しかし、素早く対応することで心理的ディタッチメントを得やすい、問題を早期に解決できたとポジティブに捉えられるような人たちも含まれている可能性があります。

そう考えると、「葛藤型」の人たちがもっともストレスを感じているというのも納得です。この人たちは、「返信しないとマズイ……」という気持ちと裏腹に、例えば育児や介護、他の事情などで行動できない状態にある可能性があります。

国も企業も、これまでに様々なワークライフバランス施策を推進し、建前上は「勤務時間中はしっかり働いて成果を出し、プライベートな時間は育児や介護など仕事以外のことに専念してね」と表明してきました。しかし実際には、勤務時間外の連絡に対応できないことに葛藤し、ストレスを感じている人がいる。このような状態を是正するためにも「つながらない権利」の保障が必要なのです。

『つながらない権利』を守る三つのアクション

組織として、「つながらない権利」の保障のためにどんなことができるのか、ここでは三つの具体策を示します。

「つながらない権利」を守るためのルールをつくる

本当の緊急時や、顧客との契約で定められた対応など、業務時間外であっても仕事のやり取りをせざるを得ない場合はあるでしょう。しかし、その判断が人によってずれていると、不必要な連絡が増えたり、社員のストレスが高まったりする可能性があります。

現状、どんなことが業務時間外にやりとりされているのかを洗い出し、「これは時間外でも連絡が必要」、「業務時間内にやればよい」といった仕分けをし、全員で目線を合わせる必要があります。その上で、必要不可欠な場合以外は業務時間外の連絡はしないというルールを明確にしましょう。

「特に対応を求めているわけではないけれど、休日に思いついたアイデアを忘れないうちにチャットで共有しておきたい」といった人もいるでしょう。そういう人のために、休み明けに送信されるようタイマー機能を使う、時間外はチャットの通知がオフになるようにするなど、連絡ツールを上手に使う方法も周知するとよいでしょう。

つながらなくても良い仕組みをつくる

緊急性はなく無視して良い連絡であっても、「連絡が入った」という状況が発生するだけで心理的ディタッチメントを害される人がいます。そのため、本当に必要なとき、必要な人以外はつながらなくても良い仕組みをいかにつくるかが重要です。

例えば、電話の1次受け代行サービスやチャットボットを導入することで、社員が時間外対応するまでもなく問題が解決することがあります。

個人の電話やメールなどに直接連絡が入る可能性がある場合は、スマホの電源を切っておき、留守電で緊急連絡先を伝えたり、自動返信メールで時間外の対応窓口を案内するといった工夫ができます。

社内外の理解の促進

ルールや仕組みを形骸化させないためには、会社として社内外にきちんと通達し、「つながらない権利を保障する」という態度を明確にすることが重要です。

いずれ「つながらない権利」が法制化されれば、社会的なコンセンサスを得やすくなるはずです。それまでの間、特に取引先や顧客に対しては、単なるコストダウンのためでなく、社員の心身の健康を守るために必要だと考えていることや、業務が滞らないようにどんな仕組みを整えているかをきちんと説明することで、理解を得やすくなるでしょう。

新社会人が職場に加わるこの時期こそ、「つながらない権利」について意識的に取り組みたいタイミングです。なぜなら、最初の職場で経験する働き方や文化は、その人のキャリア観や仕事との向き合い方の「基準」となるからです。

時間外の連絡が当たり前の環境にいち早く適応してしまった新入社員が、後になって「おかしい」と気づくのは容易ではありません。新しい仲間を迎えるこの機会に、自分たちの職場のあり方を改めて問い直す視点を持ってほしいと思います。

7割が経験する時間外連絡—その実態と法整備の動き

2025年12月にマイナビが行った調査によると、上司・部下のいる正社員の70.0%が「社内の人から勤務時間外に業務連絡がくることがある」と回答しています。また、「社内の人に勤務時間外に連絡をすることがある」も69.6%に達しています。

連合が2023年に行った調査では、雇用者のうち44.2%が、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答しており、社内外問わず時間外の連絡が発生している状況が見て取れます。

この状態を問題視し、いち早く動いたのがフランスです。2016年に成立した改正労働法に、「つながらない権利」の規定が盛り込まれました。その後、ヨーロッパの他の国々でも検討や対応が進んでいます。

日本で法制化に向けた議論が本格化したのは、厚労省が2024年に開催した「労働基準関係法制研究会」においてです。

この研究会の報告内容を元に「つながらない権利」の規定も含む労働基準法の改正案がまとめられ、当初は2026年通常国会に法案が提出される予定でした。2025年10月に第1次高市内閣が発足した影響で先送りになりましたが、今後1〜2年の間に国会で審議され、成立すると見込まれます。そうなると、企業には時間外の連絡に関するルールを明確化することなどが求められていくでしょう。

つながり続けることの弊害と心理的ディタッチメントの重要性

先のマイナビの調査では、正社員の64.3%が「勤務時間外の業務連絡を拒否したい」と回答していますが、「問題は先延ばしにせずすぐに終わらせるべき」、「ある程度仕方ない」と許容する声もあります。

いつでもどこにいても連絡が取れることで、問題が早く解決する、柔軟な働き方が可能になるといった利点があるのは確かです。しかし、だからこそ「つながらない時間」を意識して確保しなければ、私たちは常に仕事モードをオフにすることができません。

完全なオフ状態、つまり、仕事をしていないだけでなく、頭の中からも仕事関連の課題や悩みを追い払えている状態のことを、学術的な用語で「心理的ディタッチメント」と言います。

欧米では様々な研究論文で、心理的ディタッチメントが仕事の忙しさや職場の人間関係に起因するストレス症状の発症を抑えたり、緩和する効果があることが示唆されています。

勤務時間外でも仕事の連絡がくる状態、あるいは「連絡があるかもしれない」と身構えている状態は心理的ディタッチメントの低下につながるため、働く人のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。それは個人の問題にとどまらず、職場全体の生産性にも響いてくるでしょう。

あなたはどのタイプ? 時間外連絡への反応タイプ別ストレスの大きさ

勤務時間外に連絡があっても、「いま対応する必要はない」と割り切り、気にせず放っておける人もいます。近畿大学の本岡寛子教授らが行った研究では、20〜60代の男女93人中35名(37.6%)はそのタイプでした。

残りの人たちは、「対応しないと仕事が遅れる、迷惑がかかる」「対応しないと自分の評価が下がる」などと気にし、返信を急ぐ傾向にあるタイプ(11名 11.8%)と、仕事の遅延や自分の評価を気にしながらも返信を急がない傾向にある「葛藤型」(47名 50.5%)に分類されています。

この三つのタイプ別に仕事や職場に起因するストレスを比較すると、「葛藤型」の人たちが最も高く、「返信を急ぐ必要はない」と割り切れるほど低い傾向にあるという結果が出ています。

返信の必要性を感じ、急いで返信するタイプの人たちは、「必要ない」と割り切っているタイプと比べるとストレスを感じやすい可能性があります。しかし、素早く対応することで心理的ディタッチメントを得やすい、問題を早期に解決できたとポジティブに捉えられるような人たちも含まれている可能性があります。

そう考えると、「葛藤型」の人たちがもっともストレスを感じているというのも納得です。この人たちは、「返信しないとマズイ……」という気持ちと裏腹に、例えば育児や介護、他の事情などで行動できない状態にある可能性があります。

国も企業も、これまでに様々なワークライフバランス施策を推進し、建前上は「勤務時間中はしっかり働いて成果を出し、プライベートな時間は育児や介護など仕事以外のことに専念してね」と表明してきました。しかし実際には、勤務時間外の連絡に対応できないことに葛藤し、ストレスを感じている人がいる。このような状態を是正するためにも「つながらない権利」の保障が必要なのです。

『つながらない権利』を守る三つのアクション

組織として、「つながらない権利」の保障のためにどんなことができるのか、ここでは三つの具体策を示します。

「つながらない権利」を守るためのルールをつくる

本当の緊急時や、顧客との契約で定められた対応など、業務時間外であっても仕事のやり取りをせざるを得ない場合はあるでしょう。しかし、その判断が人によってずれていると、不必要な連絡が増えたり、社員のストレスが高まったりする可能性があります。

現状、どんなことが業務時間外にやりとりされているのかを洗い出し、「これは時間外でも連絡が必要」、「業務時間内にやればよい」といった仕分けをし、全員で目線を合わせる必要があります。その上で、必要不可欠な場合以外は業務時間外の連絡はしないというルールを明確にしましょう。

「特に対応を求めているわけではないけれど、休日に思いついたアイデアを忘れないうちにチャットで共有しておきたい」といった人もいるでしょう。そういう人のために、休み明けに送信されるようタイマー機能を使う、時間外はチャットの通知がオフになるようにするなど、連絡ツールを上手に使う方法も周知するとよいでしょう。

つながらなくても良い仕組みをつくる

緊急性はなく無視して良い連絡であっても、「連絡が入った」という状況が発生するだけで心理的ディタッチメントを害される人がいます。そのため、本当に必要なとき、必要な人以外はつながらなくても良い仕組みをいかにつくるかが重要です。

例えば、電話の1次受け代行サービスやチャットボットを導入することで、社員が時間外対応するまでもなく問題が解決することがあります。

個人の電話やメールなどに直接連絡が入る可能性がある場合は、スマホの電源を切っておき、留守電で緊急連絡先を伝えたり、自動返信メールで時間外の対応窓口を案内するといった工夫ができます。

社内外の理解の促進

ルールや仕組みを形骸化させないためには、会社として社内外にきちんと通達し、「つながらない権利を保障する」という態度を明確にすることが重要です。

いずれ「つながらない権利」が法制化されれば、社会的なコンセンサスを得やすくなるはずです。それまでの間、特に取引先や顧客に対しては、単なるコストダウンのためでなく、社員の心身の健康を守るために必要だと考えていることや、業務が滞らないようにどんな仕組みを整えているかをきちんと説明することで、理解を得やすくなるでしょう。

新社会人が職場に加わるこの時期こそ、「つながらない権利」について意識的に取り組みたいタイミングです。なぜなら、最初の職場で経験する働き方や文化は、その人のキャリア観や仕事との向き合い方の「基準」となるからです。

時間外の連絡が当たり前の環境にいち早く適応してしまった新入社員が、後になって「おかしい」と気づくのは容易ではありません。新しい仲間を迎えるこの機会に、自分たちの職場のあり方を改めて問い直す視点を持ってほしいと思います。

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執筆者
やつづか えり

1999年一橋大学社会学部卒業。2009年デジタルハリウッド大学院修了。コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、フリーランスに。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。各種ウェブメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。2020年に東京から長野県佐久穂町に移住。町の活性化を目指した情報発信、地域創生戦略策定、ゼロカーボン戦略の策定などにも関わる。

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