
なぜ組織は変われないのか。日本企業をむしばむ閉塞感の正体
「ティール組織」や自律分散型など、新しい組織論は数多く語られてきた。にもかかわらず、日本企業の現場から閉塞感が消えないのはなぜなのか。ティール組織・自己組織化など組織戦略に詳しい株式会社令三社 代表取締役の山田裕嗣氏と、人事図書館館長の吉田洋介氏が、日本企業に根づく「組織の息苦しさ」の正体を掘り下げる。

ピラミッド型組織は悪なのか?
吉田 本日の対談では「既存のトップダウン型組織」ではない組織形態がどの程度実現可能性を秘めているのかを話せたらと思っています。
「ティール組織」(リーダーシップの指示に依存せず、従業員が自律的に意思決定を行い、組織の目的達成のために働く組織モデル)をはじめ、海外では新しい組織の形が存在しているという認識は広まってきましたが、日本企業で実現することには懐疑的な思いを持っている人も多いのではないかと思います。
「トップダウンが世界最古であり、最強の組織形態である」という向きもありますが、「本当にそうなのか?」という観点から、山田さんと議論を進めていけたらと思います。
山田 わかりました。
吉田 今の日本において「自社の組織づくりはとても良い」と実感している人は非常に少ないのではないかと感じます。2018、19年頃に「ティール組織」が流行した際、多くの人が「この閉塞感から抜け出せるかもしれない」と希望を抱きました。しかし、メンバー主体で組織変革を目指しても、変われる組織はほとんどありませんでした。
その後も組織づくりに関する多様な言説が登場する中で、経営者も人事も現場も指針に悩み、結局ピラミッド型組織に帰結してしまう。新たな選択肢を有効に使えないことへの閉塞感。どうしたら日本企業が多様な組織づくりの選択肢を持てるのか。このような問題意識を持っています。

山田 一つ確認させてください。実際、ピラミッド型組織も、トップダウンの指揮系統も、組織のありようとしては悪くないものですよね。吉田さんもそうお考えだと思いますが、それでも閉塞感が存在している。この二つの関係をどう捉えているのでしょうか。
吉田 僕、じつはピラミッド大好きなんですよ(笑)。ただ、至高の形だとも思っていません。ピラミッドはトップが乱暴に「俺の言うことを聞け」と号令すればうまく回るほど、単純な仕組みではないと考えます。
軍隊は最たる例ですが、権限移譲が明確だからこそ、軍人は自律的に動けます。他方、メンバーの権限が曖昧で、社長の言うことを全員で走り回って何とかするという組織は「ピラミッド」とは言えません。ただ、実際はこういう状態の組織が多い。この”ピラミッドにすらなっていない組織”が、大きな苦しみを生みやすいと感じます。
今やSNSなどを通じて、多様な生き方や幸せの形が見える時代です。農村で暮らす幸せ、海外を飛び回る幸せ、都心でエリートとして働く幸せ——そういったものを目にしたとき、「なぜ私はこの社長の言うことを聞いて生きていかなくてはいけないのか」と自身の選択に対する問い直しが入ります。こうした形で募る不満が、閉塞感につながっているように見えます。
山田 なるほど。ただ、閉塞感のないピラミッドも存在しますよね。寒天のトップメーカーである伊那食品工業が好例です。「年輪経営」(毎年の成長度合いは同じでなくても、前年より大きくなることを目指す)を掲げ、従業員が幸せであることを経営の最優先事項としています。「理念を貫くためなら事業は寒天でなくても構わない」くらいの姿勢を貫く、非常に綺麗な家族的ピラミッドの会社です。

同社の事例でこんな話がありました。ある研究者の方が配偶者の転勤により、引っ越さなくてはならなくなりました。しかし、その方は会社を辞めたくないと思い、転居先の近くの店舗の店員になりたいと異動希望を出したそうです。「他の会社で研究者を続ける」以上に「伊那食品工業を辞めたくない」という気持ちが強かったわけです。
社員がこうした幸せな働き方を実現しているピラミッド型組織がある一方で、経営層が力の使い方を過っている「ピラミッドもどき」のような組織も数多く存在する。吉田さんはそのような問題提起をしているわけですよね。
吉田 おっしゃる通りです。この話は組織の適応性と一貫性の2軸で整理できると考えます。
適応性とは、外部環境に自社が合わせられているか。たとえば初任給が上昇傾向にある中、自社だけ据え置けば応募者は減ります。
一貫性とは、対外的に語っていることが組織の中でも実践されているか。この両方がバランスよく維持されていれば、社員は幸せになりやすいし、パフォーマンスも発揮しやすい。
ところが実際には、社長が外向けに「お客様のために最後まで頑張ろう」と語っておきながら、社内では「いいから売ってこい」と言ったりする。こうした本音と建前のギャップに直面すると、「人間も組織も裏表があるものなんだ」と社員に諦めに近い気持ちが芽生えてしまい、やがて閉塞感につながっていくのだと思います。

初めからユニークな組織はない
山田 なぜ組織の一貫性が崩れやすいのか。私も2018年頃から多くの会社を見てきて感じていることがあります。
『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー著)が日本で発売された2018年以降、組織形態の多様性が認識され、その事例を多くの人が知りたがるようになりました。事例を知らなければ具体的な組織の変革方法が思い浮かばないからです。当時国内で注目を集めていたのは、300人規模の組織で上司が流動的な体制を構築したネットプロテクションズや、給料が全員一律のソニックガーデンなどです。
ただ、先進的な企業を単に真似しただけでは会社は良くなりません。大事なのは組織の「形」ではなく、自社をどの方向に進めるか。選択肢が増えるほど、「うちは結局どうするの?」という問いが重くなります。
ここで必要になるのが「一貫性」です。組織の一貫性には「縦」と「横」があります。縦の一貫性とは、連綿と続く歴史や一つの時間軸の中で、自社の物語が続いているか。横の一貫性とは、組織が目指すことと現実がつながっているか。この二つが揃って初めて組織は良い状態になる。
今の時代、外部環境に適応することは不可欠ですが、「崩してはいけない一貫性は何か」を見極めた上で、変化の方向性や理想の組織像を追求することが重要です。
しかし、自社に対する解像度が低いとその核心に触れることはできません。その結果、「ピラミッドだからダメだ」「トップダウンが悪い」とわかりやすいところに閉塞感の原因を求めてしまい、本質的な組織変革が進められない。そんなケースが多いように思います。
吉田 まさにそうですね。それこそ「ピラミッドがダメ派」と「ピラミッドが良い派」で殴り合うのは、カレー屋がいいかラーメン屋がいいかで争っているようなもの。そもそも自分たちにとって何が最適なのかという問いから始めなければ前に進めません。

山田 その問いに向き合うには、どんな形態を目指すかではなく、その組織がどうやってつくられたかを見ることが必要です。「どうすればグーグルになれますか」ではなく、「グーグルはあの組織をどうやってつくったのか」。彼らが組織をつくった過程やその術にこそ目を向けるべきです。私は国内の先進的な組織を100社以上取材していますが、一貫して焦点を当ててきたのは、「どういうことを考えて、その組織をつくる意思決定をしたのか」です。
吉田 令三社のサイトで公開されている取材記事を読むと、先端的な組織になろうとしてなった例が、ほぼ存在しないことに気付かされます。
山田 おっしゃる通りで、どの企業も事業として最適な形を追求した結果、気づいたら独自の組織になっています。私がこれまで出会った経営者の中で、「人と違うことをしたかった」という人は一人もいません。試行錯誤の末に失敗したものはなくなり、うまくいったものだけ残る。組織のユニークネスとは、事業最適、環境最適、組織最適などを積み重ねる中で見えてくるものだと思います。
狂気じみた選択は積み重ねから生まれる
吉田 そういうユニークな組織は、トップのこだわり方が、ある意味常軌を逸してるんですよね。たとえばパタゴニアは、綿を取引していた企業の労働環境が悪いと知ったとき、取引を辞めるだけではなく、自社の綿花農場をつくることにしました。短期的に売り上げが下がっても、自社の理念を優先したからこそ、「パタゴニアは関わる人たちの幸せを真に願っている会社である」ということを社員が信じられた。こうした積み重ねがある会社の組織が、独自の形に進化していくのでしょう。
山田 まさに。多くの会社をインタビューしてきて感じるのは、組織の物語は積み重なって初めて意味が生まれる、ということです。仮にパタゴニアがずっと売り上げ至上主義だったとして、それにもかかわらず「関わる人を大事にしている」と突然言い出しても、誰もついてこれません。そうではなく、働いている人たちが「この会社は関わる人を大事にしている」と思っていて、象徴的な意思決定によってその認識がさらに強まっていく。この積み重ねが大事です。
以前翻訳した『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』という本でも触れられていますが、創業者が意思決定をする際、なぜこの会社を始めたのかという創業の理由を指針とすることが重要であり、それに基づく決断が短期的には経済非合理なものであっても、一貫した姿勢を貫くことで将来的に望ましい結果が返ってきくる。私自身、これまでいろいろな会社を見てきましたが、それは一つの真理だなと感じます。
吉田 「ソース」とは、自ら率先して物事を進めようとする火種のような人だと認識していますが、そうした人たちにも葛藤はありますよね。
パタゴニアでいえば、取引先の労働環境の問題に“気づかないふり”をすれば、安い綿花を仕入れてリーズナブルな価格で製品を届けられますし、流通も止まらない。経営者の頭にそうした発想がよぎらないはずがない。多くの社員を抱え、顧客からの期待もあり、取引先からも売上への影響を指摘されるとなれば、葛藤が生まれて当然です。それでも理念に基づいて意思決定を積み上げてきた会社はすごい。「やはり売上が欲しい」「さすがにこれはないだろう」と一般論に流れれば、一貫性は崩れますから。

山田 ただ、会社を潰さないためには、「売上がこれだけ下がったら、さすがに今は売上を取ろう」という現実的な判断が必要な局面もありますよね。
吉田 そう思います。
山田 葛藤はまさにそういう場面で生まれるのだと思います。『ティール組織』には、フランスの自動車部品メーカーFIVI(ファビー)の事例が紹介されています。湾岸戦争の影響で自動車業界の受注が激減した時期に、同社の経営者が「25%のレイオフをしないと会社が倒産する」と滔々とスピーチしたところ、社員から「給料を25%減らして、みんな残ろう」と提案された、という話です。
この話し合いが成立したのは、「危機のときはみんなで乗り越える。それがこの会社のやり方だ」という認識が社員に共有されていたからです。だからこそ、一つのスピーチで方向性が固まった。
この事例を私なりに整理すると、「経営者と同じ判断を、組織全体でできるか」という点に非常に意味があると考えています。「社長が言ったから」ではなく、「我が社の文化からすると、次の打ち手はこれである」と、誰もが違和感なく考えられる状態です。そのためには組織の中で物語が共有され、社員が「あの局面で、経営はこのような判断を下した」という過去の経験を知っていることが必要です。
たとえ意思決定が変わっても、軸がぶれていなければ、社員は納得できます。過去に人員整理をした会社が、今回は「給料を下げてみんな残ろう」と判断した場合、「前回は人を切ったのに、今回は違うのか」と疑問を持たれるかもしれません。しかし、「前回はお客様の期待に応えるために人を減らす方が合理的だった。今回は品質を落とさないために人を残す方がいい」と説明できれば、根底で大事にしていることは変わっていないとわかる。その違いを社員が理解できているかどうかが大事で、それができている企業は強いと感じます。

吉田 「物語」が組織全体に浸透し、全社員が「うちの会社ならこう判断する」と理解できるまでには、やはり相当な積み重ねと時間が必要ですよね。
もう一つ加えると、ときには軸から一時的に外れてみることも大事だと思っています。たとえば売上至上主義に舵を切った結果、クレームが増えて後処理に追われ、「何のための方針転換だったのか」となる。そうやって失敗して初めて気づくこともあります。軸は保ちつつ、たまにブレながらやっていくのがリアルな姿ではないでしょうか。
山田 まさにそうですね。やってみないと何が外れているかわからない。その経験から培われる適応力やレジリエンスこそ、良い組織に向かうには必要なものです。逆に保守的すぎて前例踏襲ばかりでは、組織は活性化しない。一貫性を保ちながら、変化を恐れずに試行錯誤を重ねていく。その積み重ねが、独自の組織をつくっていくのだと思います。
(構成:相馬留美、下元陽/撮影:村中隆誓)
🔹対談2本目『13万人の巨大企業はなぜ変われたのか——ハイアールに学ぶ組織変革の実践』は2/27(金)に公開します。
ピラミッド型組織は悪なのか?
吉田 本日の対談では「既存のトップダウン型組織」ではない組織形態がどの程度実現可能性を秘めているのかを話せたらと思っています。
「ティール組織」(リーダーシップの指示に依存せず、従業員が自律的に意思決定を行い、組織の目的達成のために働く組織モデル)をはじめ、海外では新しい組織の形が存在しているという認識は広まってきましたが、日本企業で実現することには懐疑的な思いを持っている人も多いのではないかと思います。
「トップダウンが世界最古であり、最強の組織形態である」という向きもありますが、「本当にそうなのか?」という観点から、山田さんと議論を進めていけたらと思います。
山田 わかりました。
吉田 今の日本において「自社の組織づくりはとても良い」と実感している人は非常に少ないのではないかと感じます。2018、19年頃に「ティール組織」が流行した際、多くの人が「この閉塞感から抜け出せるかもしれない」と希望を抱きました。しかし、メンバー主体で組織変革を目指しても、変われる組織はほとんどありませんでした。
その後も組織づくりに関する多様な言説が登場する中で、経営者も人事も現場も指針に悩み、結局ピラミッド型組織に帰結してしまう。新たな選択肢を有効に使えないことへの閉塞感。どうしたら日本企業が多様な組織づくりの選択肢を持てるのか。このような問題意識を持っています。

山田 一つ確認させてください。実際、ピラミッド型組織も、トップダウンの指揮系統も、組織のありようとしては悪くないものですよね。吉田さんもそうお考えだと思いますが、それでも閉塞感が存在している。この二つの関係をどう捉えているのでしょうか。
吉田 僕、じつはピラミッド大好きなんですよ(笑)。ただ、至高の形だとも思っていません。ピラミッドはトップが乱暴に「俺の言うことを聞け」と号令すればうまく回るほど、単純な仕組みではないと考えます。
軍隊は最たる例ですが、権限移譲が明確だからこそ、軍人は自律的に動けます。他方、メンバーの権限が曖昧で、社長の言うことを全員で走り回って何とかするという組織は「ピラミッド」とは言えません。ただ、実際はこういう状態の組織が多い。この”ピラミッドにすらなっていない組織”が、大きな苦しみを生みやすいと感じます。
今やSNSなどを通じて、多様な生き方や幸せの形が見える時代です。農村で暮らす幸せ、海外を飛び回る幸せ、都心でエリートとして働く幸せ——そういったものを目にしたとき、「なぜ私はこの社長の言うことを聞いて生きていかなくてはいけないのか」と自身の選択に対する問い直しが入ります。こうした形で募る不満が、閉塞感につながっているように見えます。
山田 なるほど。ただ、閉塞感のないピラミッドも存在しますよね。寒天のトップメーカーである伊那食品工業が好例です。「年輪経営」(毎年の成長度合いは同じでなくても、前年より大きくなることを目指す)を掲げ、従業員が幸せであることを経営の最優先事項としています。「理念を貫くためなら事業は寒天でなくても構わない」くらいの姿勢を貫く、非常に綺麗な家族的ピラミッドの会社です。

同社の事例でこんな話がありました。ある研究者の方が配偶者の転勤により、引っ越さなくてはならなくなりました。しかし、その方は会社を辞めたくないと思い、転居先の近くの店舗の店員になりたいと異動希望を出したそうです。「他の会社で研究者を続ける」以上に「伊那食品工業を辞めたくない」という気持ちが強かったわけです。
社員がこうした幸せな働き方を実現しているピラミッド型組織がある一方で、経営層が力の使い方を過っている「ピラミッドもどき」のような組織も数多く存在する。吉田さんはそのような問題提起をしているわけですよね。
吉田 おっしゃる通りです。この話は組織の適応性と一貫性の2軸で整理できると考えます。
適応性とは、外部環境に自社が合わせられているか。たとえば初任給が上昇傾向にある中、自社だけ据え置けば応募者は減ります。
一貫性とは、対外的に語っていることが組織の中でも実践されているか。この両方がバランスよく維持されていれば、社員は幸せになりやすいし、パフォーマンスも発揮しやすい。
ところが実際には、社長が外向けに「お客様のために最後まで頑張ろう」と語っておきながら、社内では「いいから売ってこい」と言ったりする。こうした本音と建前のギャップに直面すると、「人間も組織も裏表があるものなんだ」と社員に諦めに近い気持ちが芽生えてしまい、やがて閉塞感につながっていくのだと思います。

初めからユニークな組織はない
山田 なぜ組織の一貫性が崩れやすいのか。私も2018年頃から多くの会社を見てきて感じていることがあります。
『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー著)が日本で発売された2018年以降、組織形態の多様性が認識され、その事例を多くの人が知りたがるようになりました。事例を知らなければ具体的な組織の変革方法が思い浮かばないからです。当時国内で注目を集めていたのは、300人規模の組織で上司が流動的な体制を構築したネットプロテクションズや、給料が全員一律のソニックガーデンなどです。
ただ、先進的な企業を単に真似しただけでは会社は良くなりません。大事なのは組織の「形」ではなく、自社をどの方向に進めるか。選択肢が増えるほど、「うちは結局どうするの?」という問いが重くなります。
ここで必要になるのが「一貫性」です。組織の一貫性には「縦」と「横」があります。縦の一貫性とは、連綿と続く歴史や一つの時間軸の中で、自社の物語が続いているか。横の一貫性とは、組織が目指すことと現実がつながっているか。この二つが揃って初めて組織は良い状態になる。
今の時代、外部環境に適応することは不可欠ですが、「崩してはいけない一貫性は何か」を見極めた上で、変化の方向性や理想の組織像を追求することが重要です。
しかし、自社に対する解像度が低いとその核心に触れることはできません。その結果、「ピラミッドだからダメだ」「トップダウンが悪い」とわかりやすいところに閉塞感の原因を求めてしまい、本質的な組織変革が進められない。そんなケースが多いように思います。
吉田 まさにそうですね。それこそ「ピラミッドがダメ派」と「ピラミッドが良い派」で殴り合うのは、カレー屋がいいかラーメン屋がいいかで争っているようなもの。そもそも自分たちにとって何が最適なのかという問いから始めなければ前に進めません。

山田 その問いに向き合うには、どんな形態を目指すかではなく、その組織がどうやってつくられたかを見ることが必要です。「どうすればグーグルになれますか」ではなく、「グーグルはあの組織をどうやってつくったのか」。彼らが組織をつくった過程やその術にこそ目を向けるべきです。私は国内の先進的な組織を100社以上取材していますが、一貫して焦点を当ててきたのは、「どういうことを考えて、その組織をつくる意思決定をしたのか」です。
吉田 令三社のサイトで公開されている取材記事を読むと、先端的な組織になろうとしてなった例が、ほぼ存在しないことに気付かされます。
山田 おっしゃる通りで、どの企業も事業として最適な形を追求した結果、気づいたら独自の組織になっています。私がこれまで出会った経営者の中で、「人と違うことをしたかった」という人は一人もいません。試行錯誤の末に失敗したものはなくなり、うまくいったものだけ残る。組織のユニークネスとは、事業最適、環境最適、組織最適などを積み重ねる中で見えてくるものだと思います。
狂気じみた選択は積み重ねから生まれる
吉田 そういうユニークな組織は、トップのこだわり方が、ある意味常軌を逸してるんですよね。たとえばパタゴニアは、綿を取引していた企業の労働環境が悪いと知ったとき、取引を辞めるだけではなく、自社の綿花農場をつくることにしました。短期的に売り上げが下がっても、自社の理念を優先したからこそ、「パタゴニアは関わる人たちの幸せを真に願っている会社である」ということを社員が信じられた。こうした積み重ねがある会社の組織が、独自の形に進化していくのでしょう。
山田 まさに。多くの会社をインタビューしてきて感じるのは、組織の物語は積み重なって初めて意味が生まれる、ということです。仮にパタゴニアがずっと売り上げ至上主義だったとして、それにもかかわらず「関わる人を大事にしている」と突然言い出しても、誰もついてこれません。そうではなく、働いている人たちが「この会社は関わる人を大事にしている」と思っていて、象徴的な意思決定によってその認識がさらに強まっていく。この積み重ねが大事です。
以前翻訳した『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』という本でも触れられていますが、創業者が意思決定をする際、なぜこの会社を始めたのかという創業の理由を指針とすることが重要であり、それに基づく決断が短期的には経済非合理なものであっても、一貫した姿勢を貫くことで将来的に望ましい結果が返ってきくる。私自身、これまでいろいろな会社を見てきましたが、それは一つの真理だなと感じます。
吉田 「ソース」とは、自ら率先して物事を進めようとする火種のような人だと認識していますが、そうした人たちにも葛藤はありますよね。
パタゴニアでいえば、取引先の労働環境の問題に“気づかないふり”をすれば、安い綿花を仕入れてリーズナブルな価格で製品を届けられますし、流通も止まらない。経営者の頭にそうした発想がよぎらないはずがない。多くの社員を抱え、顧客からの期待もあり、取引先からも売上への影響を指摘されるとなれば、葛藤が生まれて当然です。それでも理念に基づいて意思決定を積み上げてきた会社はすごい。「やはり売上が欲しい」「さすがにこれはないだろう」と一般論に流れれば、一貫性は崩れますから。

山田 ただ、会社を潰さないためには、「売上がこれだけ下がったら、さすがに今は売上を取ろう」という現実的な判断が必要な局面もありますよね。
吉田 そう思います。
山田 葛藤はまさにそういう場面で生まれるのだと思います。『ティール組織』には、フランスの自動車部品メーカーFIVI(ファビー)の事例が紹介されています。湾岸戦争の影響で自動車業界の受注が激減した時期に、同社の経営者が「25%のレイオフをしないと会社が倒産する」と滔々とスピーチしたところ、社員から「給料を25%減らして、みんな残ろう」と提案された、という話です。
この話し合いが成立したのは、「危機のときはみんなで乗り越える。それがこの会社のやり方だ」という認識が社員に共有されていたからです。だからこそ、一つのスピーチで方向性が固まった。
この事例を私なりに整理すると、「経営者と同じ判断を、組織全体でできるか」という点に非常に意味があると考えています。「社長が言ったから」ではなく、「我が社の文化からすると、次の打ち手はこれである」と、誰もが違和感なく考えられる状態です。そのためには組織の中で物語が共有され、社員が「あの局面で、経営はこのような判断を下した」という過去の経験を知っていることが必要です。
たとえ意思決定が変わっても、軸がぶれていなければ、社員は納得できます。過去に人員整理をした会社が、今回は「給料を下げてみんな残ろう」と判断した場合、「前回は人を切ったのに、今回は違うのか」と疑問を持たれるかもしれません。しかし、「前回はお客様の期待に応えるために人を減らす方が合理的だった。今回は品質を落とさないために人を残す方がいい」と説明できれば、根底で大事にしていることは変わっていないとわかる。その違いを社員が理解できているかどうかが大事で、それができている企業は強いと感じます。

吉田 「物語」が組織全体に浸透し、全社員が「うちの会社ならこう判断する」と理解できるまでには、やはり相当な積み重ねと時間が必要ですよね。
もう一つ加えると、ときには軸から一時的に外れてみることも大事だと思っています。たとえば売上至上主義に舵を切った結果、クレームが増えて後処理に追われ、「何のための方針転換だったのか」となる。そうやって失敗して初めて気づくこともあります。軸は保ちつつ、たまにブレながらやっていくのがリアルな姿ではないでしょうか。
山田 まさにそうですね。やってみないと何が外れているかわからない。その経験から培われる適応力やレジリエンスこそ、良い組織に向かうには必要なものです。逆に保守的すぎて前例踏襲ばかりでは、組織は活性化しない。一貫性を保ちながら、変化を恐れずに試行錯誤を重ねていく。その積み重ねが、独自の組織をつくっていくのだと思います。
(構成:相馬留美、下元陽/撮影:村中隆誓)
🔹対談2本目『13万人の巨大企業はなぜ変われたのか——ハイアールに学ぶ組織変革の実践』は2/27(金)に公開します。







