【プロパー上司の新常識】中途部下のキャリア開発「虎の巻」

【プロパー上司の新常識】中途部下のキャリア開発「虎の巻」

【プロパー上司の新常識】中途部下のキャリア開発「虎の巻」

一つの会社に長く勤めてきたマネジャーが、中途入社の部下のキャリア支援を任されることもある。しかし、キャリア観や価値観のギャップに戸惑い、「どう接すればいいか分からない」と悩む上司も少なくない。この記事では、プロパー社員である上司が中途社員のキャリア開発に向き合う際に感じがちな“身構え”の正体を明らかにし、効果的なキャリア面談を行うための心構えとアプローチを解説する。

「身構え感」の正体——価値観と暗黙知の違い

新卒から同じ会社でキャリアを築いてきたマネジャーが、中途入社の部下とキャリア開発面談を行う際、「どう聞けばいいのか分からない」と戸惑うことがある。その背景には、プロパー社員と中途社員が育ってきた「組織文化」と「キャリア文脈」の違いがある。

特に業歴の長い企業では、暗黙の了解や“共通言語”が組織の中に根を張っている。これらはプロパー社員が新卒時代から自然に身につけるものであり、「どんな案件が重要とされるか」「誰に相談すべきか」といった行動指針として現れる。

こうした環境下で働いてきたプロパー上司にはキャリアの“地図”が描けないという困惑もある。プロパー同士であれば、「この部署にいたなら次はあそこ」といった想像が働くが、転職歴を持つ中途社員の経歴は読み解きづらい。その結果として、「どうキャリアを支援すればよいのか」という不安が生まれるのだ。

「どう向き合えばいいか分からない」——プロパー上司が抱える三つの葛藤

中途部下のキャリア開発にあたって、プロパー上司が抱えがちな悩みがある。以下は、その代表的なものだ。

①経験の違いによる理解不足
一つの会社でキャリアを築いてきたプロパー上司は、転職を前提としたキャリア設計に触れる機会が少ない。転職を重ねてきた部下の経歴は、自分の経験では読み解きにくく、「この人は何を目指しているのか」「どんな強みがあるのか」といったイメージを描けない。結果として、個別のキャリア支援よりも「会社に慣れてもらうこと」を優先してしまいがちになる。

②「転職」への警戒感
プロパー上司にとって、キャリアの話は「転職の相談」と同義に感じられることがある。部下が将来について語ることを「辞める意思表示」と受け取り、面談そのものを避けたくなる。また、長年同じ組織で培ってきた価値観があるため、中途部下が持ち込む異なる働き方や考え方に戸惑い、受け入れることに抵抗感を覚えてしまう。

③面談スキルへの不安
異なる価値観を持つ中途部下との対話では、「どんな質問をすればいいのか」「どう本音を引き出せばいいのか」が分からず、面談の進め方に悩む。社内の同質的なコミュニケーションに慣れているため、多様な背景を持つ相手との対話技術に自信が持てず、結果として表面的な面談に終始してしまう。

これらの背景にあるのは、経験や文化の非対称性である。しかし、この“すれ違い”を放置することは、部下の成長を阻害し、結果的に離職リスクを高める可能性すらある。

ヒアリングはキャリア開発の第一歩

中途部下とのキャリア面談を成功させるための最初のステップは、相手のキャリアの全体像を過去から順にたどることである。「なぜこの会社に来たのか」だけでは材料としては不十分だ。

中途社員は転職時にキャリアの棚卸しを済ませているため、過去の経歴を語ること自体に心理的な抵抗は少ない。それよりも「上司に理解されないまま評価されること」の方が、ストレスになり得る。

そこで面談の際には、以下のような観点から、丁寧にヒアリングしていくことを勧める。

最初の就職活動とその選択理由
学生時代に何を考え、どんな軸で就職先を選んだのかを知ることで、意思決定の特徴や価値観の根っこに触れやすくなる。親や学校の影響、世代的な背景など、選択の背後にある文脈を理解することがポイントだ。

転職のきっかけや背景
転職活動では、多くの人が自己分析やキャリアの棚卸しを行っている。つまり、本人なりの「キャリアの軸」がある程度言語化されているケースが多い。それを上司が十分に理解しないまま評価や配置を行うと、早期離職やモチベーション低下の原因になりかねない。「なぜ転職を決断したのか」「当時何を思っていたのか」を丁寧に聞き出すことで、「分かってもらえた」という信頼関係の土台を築くことができる。

1社目・2社目での業務内容、得たスキル、やりがい
これまでどんな仕事を経験し、どんな専門性を培ってきたのかを具体的に掘り下げる。履歴書に書かれた職歴や資格だけでは見えない、その人なりの仕事観や価値観を理解するためには、「何にやりがいを感じていたか」「どんな場面で成長を実感したか」「何を学び取ったか」といった内面的な部分まで聞くことが重要だ。これにより、将来活かせる力や志向が見えてくる。

自分なりに考えるキャリアの軸
現時点で本人がどのようなキャリアを描いているかを聞くことで、今後の成長支援や配置検討のヒントになる。完璧な言語化ができていなくても構わない。むしろ「それってこういうこと?」と上司が言い換えながら対話を進めることで、本人自身の気づきを促すこともできる。

このプロセスによって、その人が培ってきた専門性や価値観を把握しやすくなり、「このスキルなら社内のこの部署でも活かせるのでは」といった対話が成立するのである。

面談を“情報収集”で終わらせないために

これらの情報を引き出すうえで重要なのが「傾聴」の姿勢である。まずは、話しやすい雰囲気づくりが前提だ。たとえば面談時間に余裕を持つ、周囲に聞こえない個室で話すなどの配慮は、思いのほか大きな効果がある。

加えて、具体的なエピソードを引き出すためにはオープンクエスチョン(「どうしてそう思ったの?」「どんな経験だった?」など)を意識して投げかけよう。また、相手の言葉や選択を否定せず、「そういう考え方もあるよね」と受け止める姿勢を見せることで、安心して本音を語りやすくなる。

※傾聴の具体例については、以下の記事も参考になる。

面談を単なる“情報収集”で終わらせてはもったいない。得られた情報をもとに、本人の成長や活躍の可能性を広げるアクションに結びつけることが大切だ。

たとえば以下のような具体策がある。

  • 「このスキルなら社内のこの部署でも活かせそう」と思えたら、該当部署の業務について本人に紹介する
  • 関心がある職種の社員との情報交換の場をセッティングする
  • 将来的に目指したいポジションがあるなら、必要なスキルを一緒に棚卸しし、セミナーや資格取得などの機会を提案する
  • 社内にあるスキルアップ支援制度や研修制度を紹介する
  • 一定期間ごとに目標に対するフィードバックを行う仕組みを整える

キャリア面談を「聞いて終わり」ではなく、「聞いたことを起点に、できることから動いていく」ことで、部下との信頼関係は深まり、組織全体のエンゲージメント向上にもつながるだろう。

「キャリアの正解」を手放す——押しつけとバイアスの罠

マネジャーが自分の経験から「この会社で成功するにはこの道しかない」と考えてしまうことは珍しくない。特定の職種が主流の組織で育った場合、自部署のキャリアモデルが“王道”として刷り込まれているからだ。

たとえば営業一筋で昇進してきたマネジャーが、『うちではトップ営業を目指すのが王道だ』と自分の成功パターンを押し付けてしまうと、企画や管理業務に関心のある部下にとってはモチベーション低下につながる。

エドガー・シャインのキャリア理論では、組織と個人のキャリア観が一致しないと、仕事への満足感や組織への忠誠心が損なわれ、結果として離職につながるとされている。自分が知らない領域への橋渡しこそ、マネジャーとしての真価が問われる場面である。

最後に強調したいのは、中途社員のキャリア開発に真摯に向き合うことは、マネジャー本人の成長だけでなく、組織の多様性と柔軟性を高める点で大きな意義があるということだ。

部下の過去の経験を理解し、現在の挑戦を支援することが、結果として強固な信頼関係と高い業績の両方をもたらすのである。「今はまだ成果が出ていなくても、このチャレンジには意味がある」と言える関係性を築くこと。それが、プロパー上司にできる、もっとも実践的なキャリア開発支援である。

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