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1on1総研
面倒見の良い店長の前で、次々に部下が倒れていく。崩壊を食い止めたのは、たった30分の対話だった
面倒見の良い店長の前で、次々に部下が倒れていく。崩壊を食い止めたのは、たった30分の対話だった

面倒見の良い店長の前で、次々に部下が倒れていく。崩壊を食い止めたのは、たった30分の対話だった

2018年、名古屋。会社が初めて関西の外に構えた拠点で、体調を崩した部下が一人、また一人と離脱していく。崩れゆくチームを前に、店長は呆然としていた。自分はちゃんと部下を見てきたはずなのに、なぜ——。

不動産仲介を中核とする株式会社ウィルの取締役、神野正和さんが8年前に経験した出来事だ。社内の誰よりも熱い思いで1on1に取り組む神野さんの原点は、ここにある。

1対1の対話は、崩れかけたチームをどう変えたのか。当時の状況をありのままに振り返ってもらった。

ABOUT THE SERIES

DISCOVERING 1on1

なぜ、あの人は1on1に情熱を注ぐのか。思いの奥には、対話の大切さに気づいた原点がある──。本シリーズでは、1on1に深く向き合ってきたキーパーソンに、その始まりの物語を聞く。さまざまな原体験に触れる中で、私たちも自らが対話を行う理由を見つけていく。

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目次

「人を見ている」という自信が崩れた日

ウィルは兵庫県宝塚市に本社を置く不動産会社です。不動産の売買を入り口に、リフォームから買取、保険まで、住まいに関するサービスをワンストップで提供しています。

僕が1on1と出会ったのは2018年。その年、名古屋に赴任しました。ウィルが関西の外へ本格的に拠点を構えるのは初めてで、僕はその現場を任されました。

名古屋のメンバーは、若手の営業職たち。みんなやる気に満ちていました。けれども、現実は厳しかった。

会社の知名度がなく、売上が立たない。何が悪く、どこを変えればいいのか、その手がかりもつかめない状態でした。

会社の表彰式があっても、壇上に上がるのは関西のメンバーばかり。名古屋のメンバーだって、努力の量では負けていないのに、それが結果には表れない日々。本社は遠く、自分たちがどれほど苦戦しているのかも伝わっていない。

そんな状態が続くと、メンバーは「経営層は分かってくれない」と思うようになります。下手をすれば、本社を敵のように感じ始めるかもしれません。

そうなることは避けたくて、僕は日常的にメンバーを食事に連れ出し、励ましていました。大丈夫、やっていることは間違ってない、と。とにかく下を向かせないように必死でした。

でも、事態は好転しませんでした。

一人のメンバーが心身の調子を崩し、そのフォローをしているうちに、今度は別の一人が崩れる。そちらに対応していると、また次が出てくる。本当にモグラたたきのようでした。

そのとき初めて、自分のやり方そのものを疑いました。

僕はもともと面倒見がいい方です。部下とはよく話すし、一人ひとりの状態もちゃんと理解しているつもりでした。でも実際は、かなりどんぶり勘定だったのだと思います。

関西にいた頃は本社も近く、周りにはほかのマネジャーもいて、僕が何かを見落としても、誰かが拾ってくれました。名古屋ではその支えがなくなり、自分のマネジメントの粗さを思い知らされました。

これまでのやり方には、もう限界が来ている。そう悟って、マネジメントや対話に関する本を片っ端から読みました。その中で出会ったのが、1on1です。

対話をすれば何でも解決する、と思ったわけではありません。でも、現状を変えるきっかけになるかもしれない。そう思って、メンバーに声をかけました。

‍
すべては「誰が言うか」にかかっている

1on1で意識したのは、部下の状態を見ることです。

「体調、どう?」
「業務量、多くない?」
「仕事に参ってない?」
「生活の中で、何か心配なことはない?」

そんなことを、一人ずつ聞いていく。ただ、それだけのことです。

ところが、聞いてみると次々に出てきます。忙しさの中で言い出せず、飲み込んでいたこと。生活のことで抱えていた悩み。同じ机で毎日顔を合わせていながら、知らなかったことが山ほどありました。

続けるうちに、「ちょっと聞いてください」と声をかけられることが増え、僕の言葉もちゃんと届くようにもなりました。この信頼関係がすべての土台だと思っています。

当時の名古屋のメンバーは、努力の量ならほかの営業所に負けていないと自負していました。僕も「君たちのやり方は間違ってない」と勇気づけましたが、その言葉が響くかどうかは、僕への信頼にかかっています。要は「誰が言うか」。これに尽きる。

部下が「辞めたい」と言い出したときも同じです。その段になって急に相手を理解しようとしても、もう遅い。そこまでに信頼をつくり、言葉が届く状態になっていなければ、「時間切れ」なんです。

幸い、名古屋では離職者を出さずに済みました。1on1を重ねながら、少しずつ部下のことを理解し、信頼を積み上げていくうちに、チームも持ち直していきました。対話を通じて、この苦しい一年を、何とか乗り越えたんです。

「1on1、なんでやらへんの?」

2019年になると、名古屋でも店舗が増え、僕の部下だったメンバーがマネジャーを務めるようになりました。僕は1on1の文化を大切にしたくて、自分が培ってきたやり方を彼らに伝えました。

ところが、これがなかなか続かない。しっかりやる人間がいる一方で、優先順位が上がらないマネジャーもいました。

「なんでやらへんの?」
「どういう考えで見送ってるの?」

僕は彼らに口酸っぱく言いました。それでも、「普段しゃべっているから大丈夫です」「この前、部下とご飯に行きましたから」などと返ってくる。

もちろん、気持ちは分かります。みんな忙しいので、急ぎではないコミュニケーションを後回しにしたくなる。ただ、1on1の実施頻度が低いペアほど、業務トラブルが目立つようになっていました。

ある意味、当然だと思います。上司が普段から話を聞いていなければ、部下が問題を抱えても、表面化するまで気づけない。問題が起きた後にイチから原因を探ることになり、対応は後手に回る。

1on1ですべての問題を防げるわけではありませんが、事前に回避できたことは、たくさんあるはずです。日頃から話してきた上で、それでもトラブルに直面したのなら、上長としても納得できます。

僕がいま、営業部門のすべてのマネジャーに1on1を徹底するよう伝えているのは、こうした経験があるからです。

‍

「やらない人間がバレる仕組み」を導入

2022年、ウィルは東京に進出し、僕も異動しました。名古屋では、社員の一人が1on1クラウド「Kakeai」を導入し、ツールを使った1on1が広がっていました。話を聞いて「それ、いいな」と思い、東京でもKakeaiを取り入れました。

さらに、名古屋や東京で1on1を経験した者が関西へ異動し、ツールを使った1on1は流通営業部門全体の取り組みになっていきます。

現在は主に、メンバーとチームマネジャー(店長)、チームマネジャーとグループマネジャー、グループマネジャーと僕、という三つのラインで、週1回・30分を基本としています。

僕自身もかなりの頻度でやっています。Kakeaiの記録を見ると、今年2月から6月下旬までの約5カ月で140回。毎月30回近くですから、結構な数ですよね(笑)。

この頻度と時間は、最初から決めていたわけではありません。

2週間に1回にしたり、15分にしたり、60分にしたり。いろいろ試した結果、週1回・30分が一番しっくりきました。

大事なのは、長く話すことより、間を空けないことだと思っています。

部下から突然、「ちょっといいですか?」と言われることがありますよね。わざわざ部下から切り出してくる頃には、結構重たい話になっている。

だから、そこまで溜めないことが重要です。

月1回や2週間に1回では拾いきれない変化を、毎週話すことで拾っていく。そのペースを崩さないために、マネジャー陣には「30分以上しゃべらないでほしい」とも伝えています。

30分で終わらなければ、「時間切れ、また来週」でいい。一度にすべてを解決しようと長い時間話し、その反動で翌週を飛ばしてしまっては元も子もないですから。

こうしたルールも、ただ伝えるだけでは浸透しません。毎週カレンダーに予定を入れることを徹底する。管理者はマネジャーが実際に1on1をやっているかどうかを確認する。やっていなければ理由を聞く。そこまでやって、ようやく習慣になります。

Kakeaiの良い点は、その手間を減らしてくれるところです。誰がいつ1on1をやったかが可視化されるから、本人が「やっています」と言えばそれ以上確かめようがなかった状態から、実施状況がデータで残るようになりました。だから僕は冗談交じりに、「1on1をやらん奴がバレる仕組み」と言っています(笑)。

もっとも、今ではやらない人が目立つほどに、部門全体に1on1が浸透しています。

マネジャーに不可欠な三つの役割

なぜ、そこまで1on1を徹底するのか。それは、マネジャーの仕事の土台を作るからです。

ウィルでは、マネジャーの役割を「ウィル文化の伝承・継承」「育成」「数字」の三つだと伝えています。この三つは並列です。営業職だからといって、数字だけ上げればいいわけではありません。

僕が統括する流通営業部門は、中途入社がいない、新卒社員を育てながら作ってきた組織です。だから、メンバーを育て、会社が大切にしてきた考え方を次の世代へ渡すことも、マネジャーの重要な仕事です。

育成というと、仕事のやり方を教えることを思い浮かべるかもしれません。ただ、「ここが間違っているから、こう直そう」といった指導は、それほど難しくないんです。難しいのは、本人の考え方や価値観そのものに踏み込まなければならないとき。

本人は正しいと思っている。でも、マネジャーから見ると、その考え方のままでは次の壁を越えられない。そういう場面で、部下をあるべき方向にどう導くか。ここでマネジャーの力量が問われます。

僕が意識しているのは、伝えることを一つに絞ること。

マネジャーから見れば、部下に言いたいことはいくらでもあります。でも、全部言ったら相手の頭の中で渋滞が起きてしまう。だから厳しい話をする局面では、言うべきことを徹底的に絞り込み、部下と向き合います。

もう一つは、基準を先に共有することです。

「ここまでは自分の裁量で決めていい」
「このラインは絶対に越えてはならない」

事前にそれを伝えておけば、部下側もなぜ注意されているのかが分かります。

部下自身が「これは自分が悪かった」と理解していれば、「そら、そうやろ」と笑って済ませます。目的は怒ることではなく、組織の基準や期待を分かってもらうことですから。

最近、マネジャーたちには「動機を握り合うことが大事だぞ」という話もよくします。

部下がウィルで働く動機を育ててほしい、ということです。

目標と動機はつながっています。何のために頑張るのか。何を目指しているのか。何があるとこの人は前に進めるのか。そこを知らないまま目標だけ渡しても、なかなか自分ごとになりません。

大事なのは、マネジャーが「この部下はこういうタイプだ」と決めつけるのではなく、本人の状態や動機をつかみながら、どう育てるかを考え続けることです。

1on1も、そのための時間だと思っています。テーマは、目標でも、中長期的な課題でも、スキルアップでもいい。その部下を育てる上で、今何を話す必要があるのかを考えることが重要です。

目指すは「機嫌のいい会社」

2018年の名古屋時代は、僕自身が一人ひとりのメンバーを直接見ていました。今は立場が変わり、僕が主に話すのは各営業所のチームマネジャーや、彼らを束ねるグループマネジャーたちです。

組織が大きくなれば、一人で全員を見ることはできません。それでも、全員が直下のメンバーと定期的に1on1をするようになったことで、上がってくる相談は以前より具体的になりました。

「この部下はこのような考えを持っているが、どう育成すればよいだろうか」。1on1でそうした相談が寄せられ、僕が答える。直接会うことはなくても、マネジャーを通じてその先のメンバーの育成に関わっているような感覚があります。

会社ですから、うまくいかないことも、厳しいことを言わなければならない場面もあります。それでも、ぶつかったところから前に進んでいける。そんな相互理解と信頼関係が当たり前にある「機嫌のいい会社」でありたいと常々思っています。1on1は、その土台をつくるもの。この先もウィルの大切な文化として、1対1の対話を続けていきます。

取材協力者募集

あなたの1on1の原点を、聞かせてください

1on1を大切にしている人には、そう考えるようになった原点があるはずです。連載「DISCOVERING 1on1」では、その原点となった出来事を語ってくださる方を募集しています。上司との対話に背中を押された経験や、部下との1on1で考えが変わった瞬間など、原点は人それぞれです。ご自身のお話はもちろん、身近に「この人の話をぜひ聞いてほしい」と思う方がいらっしゃれば、ご紹介も歓迎いたします。

応募・紹介フォームへ→

「人を見ている」という自信が崩れた日

ウィルは兵庫県宝塚市に本社を置く不動産会社です。不動産の売買を入り口に、リフォームから買取、保険まで、住まいに関するサービスをワンストップで提供しています。

僕が1on1と出会ったのは2018年。その年、名古屋に赴任しました。ウィルが関西の外へ本格的に拠点を構えるのは初めてで、僕はその現場を任されました。

名古屋のメンバーは、若手の営業職たち。みんなやる気に満ちていました。けれども、現実は厳しかった。

会社の知名度がなく、売上が立たない。何が悪く、どこを変えればいいのか、その手がかりもつかめない状態でした。

会社の表彰式があっても、壇上に上がるのは関西のメンバーばかり。名古屋のメンバーだって、努力の量では負けていないのに、それが結果には表れない日々。本社は遠く、自分たちがどれほど苦戦しているのかも伝わっていない。

そんな状態が続くと、メンバーは「経営層は分かってくれない」と思うようになります。下手をすれば、本社を敵のように感じ始めるかもしれません。

そうなることは避けたくて、僕は日常的にメンバーを食事に連れ出し、励ましていました。大丈夫、やっていることは間違ってない、と。とにかく下を向かせないように必死でした。

でも、事態は好転しませんでした。

一人のメンバーが心身の調子を崩し、そのフォローをしているうちに、今度は別の一人が崩れる。そちらに対応していると、また次が出てくる。本当にモグラたたきのようでした。

そのとき初めて、自分のやり方そのものを疑いました。

僕はもともと面倒見がいい方です。部下とはよく話すし、一人ひとりの状態もちゃんと理解しているつもりでした。でも実際は、かなりどんぶり勘定だったのだと思います。

関西にいた頃は本社も近く、周りにはほかのマネジャーもいて、僕が何かを見落としても、誰かが拾ってくれました。名古屋ではその支えがなくなり、自分のマネジメントの粗さを思い知らされました。

これまでのやり方には、もう限界が来ている。そう悟って、マネジメントや対話に関する本を片っ端から読みました。その中で出会ったのが、1on1です。

対話をすれば何でも解決する、と思ったわけではありません。でも、現状を変えるきっかけになるかもしれない。そう思って、メンバーに声をかけました。

‍
すべては「誰が言うか」にかかっている

1on1で意識したのは、部下の状態を見ることです。

「体調、どう?」
「業務量、多くない?」
「仕事に参ってない?」
「生活の中で、何か心配なことはない?」

そんなことを、一人ずつ聞いていく。ただ、それだけのことです。

ところが、聞いてみると次々に出てきます。忙しさの中で言い出せず、飲み込んでいたこと。生活のことで抱えていた悩み。同じ机で毎日顔を合わせていながら、知らなかったことが山ほどありました。

続けるうちに、「ちょっと聞いてください」と声をかけられることが増え、僕の言葉もちゃんと届くようにもなりました。この信頼関係がすべての土台だと思っています。

当時の名古屋のメンバーは、努力の量ならほかの営業所に負けていないと自負していました。僕も「君たちのやり方は間違ってない」と勇気づけましたが、その言葉が響くかどうかは、僕への信頼にかかっています。要は「誰が言うか」。これに尽きる。

部下が「辞めたい」と言い出したときも同じです。その段になって急に相手を理解しようとしても、もう遅い。そこまでに信頼をつくり、言葉が届く状態になっていなければ、「時間切れ」なんです。

幸い、名古屋では離職者を出さずに済みました。1on1を重ねながら、少しずつ部下のことを理解し、信頼を積み上げていくうちに、チームも持ち直していきました。対話を通じて、この苦しい一年を、何とか乗り越えたんです。

「1on1、なんでやらへんの?」

2019年になると、名古屋でも店舗が増え、僕の部下だったメンバーがマネジャーを務めるようになりました。僕は1on1の文化を大切にしたくて、自分が培ってきたやり方を彼らに伝えました。

ところが、これがなかなか続かない。しっかりやる人間がいる一方で、優先順位が上がらないマネジャーもいました。

「なんでやらへんの?」
「どういう考えで見送ってるの?」

僕は彼らに口酸っぱく言いました。それでも、「普段しゃべっているから大丈夫です」「この前、部下とご飯に行きましたから」などと返ってくる。

もちろん、気持ちは分かります。みんな忙しいので、急ぎではないコミュニケーションを後回しにしたくなる。ただ、1on1の実施頻度が低いペアほど、業務トラブルが目立つようになっていました。

ある意味、当然だと思います。上司が普段から話を聞いていなければ、部下が問題を抱えても、表面化するまで気づけない。問題が起きた後にイチから原因を探ることになり、対応は後手に回る。

1on1ですべての問題を防げるわけではありませんが、事前に回避できたことは、たくさんあるはずです。日頃から話してきた上で、それでもトラブルに直面したのなら、上長としても納得できます。

僕がいま、営業部門のすべてのマネジャーに1on1を徹底するよう伝えているのは、こうした経験があるからです。

‍

「やらない人間がバレる仕組み」を導入

2022年、ウィルは東京に進出し、僕も異動しました。名古屋では、社員の一人が1on1クラウド「Kakeai」を導入し、ツールを使った1on1が広がっていました。話を聞いて「それ、いいな」と思い、東京でもKakeaiを取り入れました。

さらに、名古屋や東京で1on1を経験した者が関西へ異動し、ツールを使った1on1は流通営業部門全体の取り組みになっていきます。

現在は主に、メンバーとチームマネジャー(店長)、チームマネジャーとグループマネジャー、グループマネジャーと僕、という三つのラインで、週1回・30分を基本としています。

僕自身もかなりの頻度でやっています。Kakeaiの記録を見ると、今年2月から6月下旬までの約5カ月で140回。毎月30回近くですから、結構な数ですよね(笑)。

この頻度と時間は、最初から決めていたわけではありません。

2週間に1回にしたり、15分にしたり、60分にしたり。いろいろ試した結果、週1回・30分が一番しっくりきました。

大事なのは、長く話すことより、間を空けないことだと思っています。

部下から突然、「ちょっといいですか?」と言われることがありますよね。わざわざ部下から切り出してくる頃には、結構重たい話になっている。

だから、そこまで溜めないことが重要です。

月1回や2週間に1回では拾いきれない変化を、毎週話すことで拾っていく。そのペースを崩さないために、マネジャー陣には「30分以上しゃべらないでほしい」とも伝えています。

30分で終わらなければ、「時間切れ、また来週」でいい。一度にすべてを解決しようと長い時間話し、その反動で翌週を飛ばしてしまっては元も子もないですから。

こうしたルールも、ただ伝えるだけでは浸透しません。毎週カレンダーに予定を入れることを徹底する。管理者はマネジャーが実際に1on1をやっているかどうかを確認する。やっていなければ理由を聞く。そこまでやって、ようやく習慣になります。

Kakeaiの良い点は、その手間を減らしてくれるところです。誰がいつ1on1をやったかが可視化されるから、本人が「やっています」と言えばそれ以上確かめようがなかった状態から、実施状況がデータで残るようになりました。だから僕は冗談交じりに、「1on1をやらん奴がバレる仕組み」と言っています(笑)。

もっとも、今ではやらない人が目立つほどに、部門全体に1on1が浸透しています。

マネジャーに不可欠な三つの役割

なぜ、そこまで1on1を徹底するのか。それは、マネジャーの仕事の土台を作るからです。

ウィルでは、マネジャーの役割を「ウィル文化の伝承・継承」「育成」「数字」の三つだと伝えています。この三つは並列です。営業職だからといって、数字だけ上げればいいわけではありません。

僕が統括する流通営業部門は、中途入社がいない、新卒社員を育てながら作ってきた組織です。だから、メンバーを育て、会社が大切にしてきた考え方を次の世代へ渡すことも、マネジャーの重要な仕事です。

育成というと、仕事のやり方を教えることを思い浮かべるかもしれません。ただ、「ここが間違っているから、こう直そう」といった指導は、それほど難しくないんです。難しいのは、本人の考え方や価値観そのものに踏み込まなければならないとき。

本人は正しいと思っている。でも、マネジャーから見ると、その考え方のままでは次の壁を越えられない。そういう場面で、部下をあるべき方向にどう導くか。ここでマネジャーの力量が問われます。

僕が意識しているのは、伝えることを一つに絞ること。

マネジャーから見れば、部下に言いたいことはいくらでもあります。でも、全部言ったら相手の頭の中で渋滞が起きてしまう。だから厳しい話をする局面では、言うべきことを徹底的に絞り込み、部下と向き合います。

もう一つは、基準を先に共有することです。

「ここまでは自分の裁量で決めていい」
「このラインは絶対に越えてはならない」

事前にそれを伝えておけば、部下側もなぜ注意されているのかが分かります。

部下自身が「これは自分が悪かった」と理解していれば、「そら、そうやろ」と笑って済ませます。目的は怒ることではなく、組織の基準や期待を分かってもらうことですから。

最近、マネジャーたちには「動機を握り合うことが大事だぞ」という話もよくします。

部下がウィルで働く動機を育ててほしい、ということです。

目標と動機はつながっています。何のために頑張るのか。何を目指しているのか。何があるとこの人は前に進めるのか。そこを知らないまま目標だけ渡しても、なかなか自分ごとになりません。

大事なのは、マネジャーが「この部下はこういうタイプだ」と決めつけるのではなく、本人の状態や動機をつかみながら、どう育てるかを考え続けることです。

1on1も、そのための時間だと思っています。テーマは、目標でも、中長期的な課題でも、スキルアップでもいい。その部下を育てる上で、今何を話す必要があるのかを考えることが重要です。

目指すは「機嫌のいい会社」

2018年の名古屋時代は、僕自身が一人ひとりのメンバーを直接見ていました。今は立場が変わり、僕が主に話すのは各営業所のチームマネジャーや、彼らを束ねるグループマネジャーたちです。

組織が大きくなれば、一人で全員を見ることはできません。それでも、全員が直下のメンバーと定期的に1on1をするようになったことで、上がってくる相談は以前より具体的になりました。

「この部下はこのような考えを持っているが、どう育成すればよいだろうか」。1on1でそうした相談が寄せられ、僕が答える。直接会うことはなくても、マネジャーを通じてその先のメンバーの育成に関わっているような感覚があります。

会社ですから、うまくいかないことも、厳しいことを言わなければならない場面もあります。それでも、ぶつかったところから前に進んでいける。そんな相互理解と信頼関係が当たり前にある「機嫌のいい会社」でありたいと常々思っています。1on1は、その土台をつくるもの。この先もウィルの大切な文化として、1対1の対話を続けていきます。

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あなたの1on1の原点を、聞かせてください

1on1を大切にしている人には、そう考えるようになった原点があるはずです。連載「DISCOVERING 1on1」では、その原点となった出来事を語ってくださる方を募集しています。上司との対話に背中を押された経験や、部下との1on1で考えが変わった瞬間など、原点は人それぞれです。ご自身のお話はもちろん、身近に「この人の話をぜひ聞いてほしい」と思う方がいらっしゃれば、ご紹介も歓迎いたします。

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執筆者
下元陽

「Manager総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

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