1on1の価値は「話した後」に表れる。働きがいと成果をつなぐ対話の条件

1on1の価値は「話した後」に表れる。働きがいと成果をつなぐ対話の条件

上司と部下の対話は、部下の働きがいや仕事の成果に、どのように結びつくのか──。立命館大学ビジネススクール教授の樋口知比呂氏、PwCコンサルティングの加藤守和氏、KAKEAI代表取締役社長の皆川恵美の3者に、これからの上司の役割、形だけの対話から抜け出す方法、生成AI時代の対話のあり方などを議論していただきました。

本鼎談は、樋口氏と皆川のプレゼンからスタート。樋口氏は、働く人の意欲がどのような条件で高まるのかを、産業・組織心理学の研究をもとに解説。皆川は、約1万人を対象にした1on1の実態調査から、成果につながる1on1とそうでない1on1の違いを報告しました。

本稿では、この二つの発表の内容をダイジェストで紹介します。

樋口知比呂(立命館大学ビジネススクール教授)、加藤守和(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター)、皆川恵美(KAKEAI代表取締役社長)のプロフィール
目次

働く意欲を支える三つの実感

「産業・組織心理学で考えるワーク・エンゲイジメントと対話」と題した樋口氏の発表は、「働く人の意欲を高めるには何が必要か」を問うものだった。

樋口氏が研究するワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の三つがそろった状態を指す。日本語では「働きがい」と訳されることが多い。

樋口氏はまず、「ワーク・エンゲイジメント」と「職務満足度」を区別する必要があると指摘した。

職務満足度は、仕事内容や待遇、職場の人間関係などに対する満足を指す。ここで樋口氏が強調したのは、給与などの待遇を改善して不満を減らすことと、仕事への活力や熱意を引き出すことは同じではない、という点だ。

これに対してワーク・エンゲイジメントが高まると、欠勤や離職が減るだけでなく、「自分の仕事ではないけれど、あえて拾いに行く」(樋口氏)など与えられた職務を超えて組織に貢献する行動(組織市民行動)などが生まれるという。

では、ワーク・エンゲイジメントは何によって高まるのか。過去の様々な研究を統合すると、その要因は「主体性」「一体感」「成長感」という三つの実感にまとめられると樋口氏は説明する。

主体性とは、仕事を自分で決めて進めているという実感のことだ。上司に「やれ」と言われて取り組むのと、自分から「やります」と申し出るのとでは、同じ仕事でも本人の意欲が全く違う。

「目標も含めて、自分で決めていく。そうした行動が主体性を育てます。主体性があれば、先の見えない状況でも指示を待たず、自分で解決しようとします。リーダーは過度に監視したり指示したりするのではなく、メンバーに裁量を与える。それが主体性を高めるための要諦です」(樋口氏)

続いての「一体感」は、職場の仲間や上司に受け入れられ、同じ目標に向かっているという実感のこと。三つ目の「成長感」は、自分の能力が高まり、仕事で貢献できているという実感だ。

成長感は、大きな成果を上げたときだけでなく、「昨日の自分より、今日の自分のほうが少し前に進んでいる」という小さな変化からも得られるという。

仕事の意味をとらえ直す

三つの実感のうち「主体性」を社員が自ら高める方法として、樋口氏は「ジョブ・クラフティング」を紹介した。ジョブ・クラフティングとは、社員が自ら工夫し、自分の仕事のやり方や意味づけを作り変えていくことを指す。そのやり方として、「業務の手順を変える」「周囲との関わり方を変える」「仕事の目的や意義をとらえ直す」の三つがある。

樋口氏が最も重視するのは、仕事の目的や意義をとらえ直す「認知的クラフティング」だ。自分の仕事が持つ目的や社会的な価値をとらえ直すことで、仕事のやりがいや楽しさが高まることが研究で明らかになっているという。

この話を受けて、ファシリテーターの加藤氏はコロナ禍の職場を振り返った。職場から対話が失われたこの時期、必要最低限の仕事だけをこなせばいいと考える「静かな退職」が、少なからぬ企業で起きた。メンバーがこの状態から抜け出すには、対話の回数を増やすだけでは足りないと加藤氏は指摘する。

「自らの仕事がお客様や組織にとってどんな意味を持つのかを、社員本人が実感できなければ、働きがいにはつながりません。上司が対話の質を高めるだけでなく、その精度も高めることで、本人がジョブ・クラフティングに取り組めるようにしていく。それが、静かな退職が広がった状況を押し戻していくための、大きなヒントになるのではないでしょうか」(加藤氏)

高い目標を課すなら、支援も欠かせない

では、上司や会社は、部下の働きがいを高めるために何ができるのか。樋口氏がその理論的な根拠として紹介したのが、「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resourcesモデル)」である。

このモデルでは、仕事で社員にかかる負担を「仕事の要求度」、社員の仕事を支えるものを「仕事の資源」と呼ぶ。

仕事の要求度とは、仕事のプレッシャーや精神的な負担のことだ。仕事の資源には、裁量、上司からのフィードバックやコーチング、周囲の支援、公正な評価、キャリアを伸ばす機会などが含まれる。

樋口氏がこのモデルで強調したのは、仕事の要求度と仕事の資源の関係だ。仕事の資源を与えないまま仕事の要求度だけを高めると、社員が燃え尽きるリスクが高まる。一方、裁量や上司の支援などの資源は、仕事の要求度による悪影響を和らげ、ワーク・エンゲイジメントを支える。

昨今、ミドルマネジャーから部下への負荷のかけ方に悩む声がよく聞かれるが、樋口氏の説明から得られる示唆は、部下に高い目標への挑戦を求める場合、それに取り組むための裁量や支援も同時に用意する必要があるということだ。

上司と部下の定期的な対話も、この「仕事の資源」の一つだという。その理由は、働きがいを支える主体性、一体感、成長感という三つの実感の生まれ方にある。主体性は本人の内面から生まれるが、一体感と成長感は、上司や同僚との関わりのなかで生まれる。そのため、上司との対話の質が、部下の一体感と成長感を左右することになる。

ただし、ここでいう対話とは、世間話をすることではない。部下を一人の人間として気遣い、その存在や仕事での貢献を認めることだと樋口氏は念を押す。

話した内容が、次の行動に移されているか

対話が部下の働きがいを支える資源だとすれば、いま企業で行われている1on1は、その役割を果たせているのか。

続いて発表した皆川は、KAKEAIが2026年春に、上司と1on1を行っている約1万人のビジネスパーソンを対象に実施した「1on1実態調査」から、結果の一部を報告した。

皆川がまず取り上げたのは、ここ数年で企業の1on1に起きている変化だ。2024年頃から、1on1を定期的に実施するだけでなく、自分たちの組織にとって対話にどんな意味があるのかを問い直す企業が増えている。対話に時間を使う以上、それを仕事の成果にどう結びつけるかが問われるようになった。

今回の実態調査は、この問いに答えようとするものだ。KAKEAIは、1on1のどの要素が業務成果や成長の実感と結びついているのかを見極めるため、1on1を三つの面から分析した。

一つ目は「形式」。1on1の実施頻度や所用時間などのことだ。二つ目は、1on1の「実質」。例えば、実施理由、上司への期待、話した内容がその後の行動に移されているか、といったことが該当する。三つ目は、1on1が業務の成果や本人の成長につながっているかという「結果」だ。

調査を分析した結果、「1on1が業務の成果や成長につながっている」という実感と最も強く関係していたのは「実質」に含まれる「行動接続」、すなわち1on1がその後の行動や思考につながっているかどうかである。

行動接続の有無が生み出す差は大きい。1on1が「毎回」または「ほぼ毎回」行動につながっていると答えた人では、その61.3%が「1on1が業務の成果につながっている」と答えた。一方、1on1が「ほとんど」または「まったく」その後の行動につながっていないと答えた人では、成果を実感している割合は7.0%にとどまり、前者と比べると約8.8倍の開きがあった。

皆川は、行動につながらない1on1を「1on1で終わる1on1」、行動につながる1on1を「マネジメント発揮としての1on1」と整理する。

この二つの1on1の違いは、部下の対話への臨み方にも表れている。上司との対話が「1on1で終わる1on1」になっている人は、「会社や上司に言われたから」「周りもやっているから」といった受け身の理由で1on1に臨む傾向がある。

一方、「マネジメント発揮としての1on1」と呼べる対話をできている人は、「仕事を前に進めたい」「成長したい」といった希望を持ち、上司にどう対応してほしいかもはっきりさせたうえで1on1に臨んでいる場合が多い。

1on1はこれまで、上司と部下が話す機会を確保し、相互理解や信頼構築のための場として機能してきた。その必要性は今も変わらない。ただ、対話の主目的は「安心・安全のため」から「成果をつくるため」へと変わりつつあると皆川は補足する。

1on1の最後に、次の行動を決める

では、1on1の後に行動を生み出すためには、何を意識すればよいのか。皆川は四つのポイントを挙げた。

一つ目は、メンバーが上司にどう対応してほしいかを決めたうえで1on1に臨むことだ。たとえば、「アドバイスがほしい」「一緒に考えてほしい」「話を聞いてほしい」といったことを、事前に上司に伝える仕組みがあると良い。

二つ目は、上司と部下の関係性を整えることである。KAKEAIの調査では、「上司を信頼できず、本音が言えない」といった、関係性の困りごとを抱える人が全体の約3割いた。こうした人では、「1on1が業務の成果につながっている」と答えた割合が、関係性の困りごとがない人の半分以下にとどまる。

「約束が守られなかったり、組織の事情で方針が急に変わったのに上司から理由の説明がなかったりすると、部下は上司を信頼しにくくなります。ただ、たとえ関係がこじれていても、上司が部下への期待をはっきり伝えたり、〈あなたのこういうところを良いと思っている〉などと本心を伝えたりすることで、関係は整えていけます」(皆川)

上司と部下の当人同士で関係を整えることが難しい場合は、第三者に間に入ってもらうのが望ましいという。

三つ目は、1on1の最後に、次の行動を決めることである。本稿で何度も触れた「行動接続」だ。

「忙しいマネジャーの皆さんから〈1on1で何を変えればいいか〉とよく聞かれますが、その際、〈終わり方にこだわってください〉と答えています。たとえば30分の1on1なら、最初の20分程度はメンバーに自由に話してもらい、終了5分~10分前に、〈今日の話を踏まえて、次はどう動こうか〉と投げかけ、次の行動を一緒に決めると良いと思います」(皆川)

四つ目は、上司がメンバーの小さな変化に気づき、それを伝えること。メンバーは「自分が変わることで仕事が前に進む」という実感を得ることで、主体性が刺激され、仕事に打ち込む意欲が生まれていくという。

二つの発表から見えてきたのは、部下が働きがいを持てるよう仕事の資源を整え、1on1での対話を次の一歩へとつなげていくことの大切さだ。

では、対話の担い手である上司には、これから何が求められるのか。鼎談では、「これからの上司の役割とは何か」という問いを深めていく。

(取材・構成:下元陽、撮影:小島マサヒロ)

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下元陽
執筆者
下元陽

「Manager総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

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