優秀すぎる部下はなぜ扱いにくいのか? 「怖さ」の理由と育て方を徹底解説
自分より詳しく判断も速いうえに、会議では上司の案にもはっきり異を唱える。そんな部下を前にして、頼もしさより先に居心地の悪さを覚えたことはないだろうか。
手がかからないからと任せきりにするのも、扱いづらいからと距離を置くのも、優秀な部下の伸びしろを削る対応になりうる。優秀すぎる部下に上司がしてしまいがちなことと、その力を伸ばすために次に渡すべき仕事を考える。
優秀な部下とは? なぜ放っておいてはいけないのか?
そもそも「優秀な部下」とは、どんな人を指すのか。
会社や職種によって答えは変わるが、共通して挙げられるのは、期待される成果を安定して出せること、細かな指示がなくても自分で仕事を組み立てられること、問題が起きれば自ら情報を集めて対処すること、新しい仕事を覚えるのが速いこと、そして必要だと思えば上司にも意見を言えることだろう。
つまり、上司の手をあまり必要とせずに仕事を前へ進められる人である。ここに落とし穴がある。手がかからないぶん、上司からすると「この人は放っておいても大丈夫」と思いやすいのだ。
しかし、細かな指示がいらないことと、マネジメントがいらないことは別である。むしろ、日常業務を難なくこなせるようになった人ほど、次に何を任せれば成長できるのか、どこまで裁量を広げるのか、その能力をどこで生かすのかという、別のマネジメントが必要になる。
現行の仕事をこなせるようになったことは、育成の終わりではない。マネジャーの役割が、やり方を教えることから、次の機会を設計することへ変わるタイミングなのである。
📂 手のかからない部下は、上司に何を求めているか
手のかからない部下ほど、上司に何を求めているのかは見えにくくなります。1万人を対象にした調査では、上司との面談に「アドバイスがほしい」「一緒に考えてほしい」といった期待を持って臨んでいる人の39.3%が仕事の成果を実感していた一方、期待を持たずに臨んでいる人では8.4%にとどまりました。下記の資料では、面談の前に、部下がどう関わってほしいと思っているかを確かめる方法を、具体的な声のかけ方とともに紹介しています。
なぜ「優秀すぎる部下が怖い」と感じるのか
部下が優秀であるほど、上司が不安を感じることがある。その感情自体を、過度に否定する必要はない。
自分より詳しい。自分より判断が速い。会議では自分とは違う意見をはっきり述べる。そうした部下を前に、自分は上司として何を提供できるのだろうと戸惑うのは、不自然なことではないだろう。
問題は、その不安をどう扱うかだ。不安が、部下を競争相手として見る目に変わると危うい。ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、上司が有能な部下を自分の地位を脅かす相手とみなしたとき、その成長を妨げる「トップダウン・サボタージュ」が起こりやすくなると指摘されている。
たとえば、重要な会議に部下を出席させず、裁量を狭めてしまう。あるいは、部下の提案を内容ではなく「最近、生意気になってきた」と人物評価に置き換えてしまう。上司の不安が、部下の能力を抑える方向に働き始めた状態である。
「反抗的」に見える部下は、本当に反抗しているのか
優秀な部下ほど、上司の判断に異論を唱えることも少なくないだろう。
しかし、上司と違う意見を言うことと、上司に反抗することは同じではない。
組織行動研究では、社員が上位者に対して業務上の提案や懸念、問題点を自発的に伝える行動をエンプロイ・ボイス(employee voice)と呼ぶ。
組織行動論の研究者エリザベス・モリソン(Elizabeth Morrison)による研究レビューでは、社員がエンプロイ・ボイスを口にしなくなると、組織は問題や改善につながる可能性のある情報を失うと指摘されている。
もちろん、部下側の言い方や態度に問題があるならフィードバックが必要だ。だが、上司の意見に賛成しないという事実だけで「扱いにくい部下」と決めつけてしまえば、せっかくの有益な異論まで消えてしまう。
優秀な部下と向き合うときは、自分が不快なのは態度なのか、それとも自分と異なる意見を言われたことなのか、まずはそこを分けて考えたい。
そのうえで、「私は別の方法の方がいいと思います」と言われたら、まずなぜそう考えたのかを聞く。内容を検討し、採用しないのであれば理由を説明する。上司が異論を歓迎しないと伝われば、部下は次から意見を言わなくなるかもしれない。それは上司にとっては楽でも、チームからは重要な情報が一つ消えた状態である。
優秀な部下の力を削いでしまう上司の行動
上司の意図せぬ行動が、優秀な部下の能力発揮を妨げてしまうこともある。特に注意したいのが、次のような行動である。
① できるから、仕事を集め続ける
一番ありがちなのがこれだ。「あの人なら早いから」「あの人なら任せられるから」と、優秀な部下に仕事が次々に集まっていく。
しかし、仕事量を増やすことと、成長機会を増やすことは同じではない。10分でできる仕事を10個任せるより、これまでとは違う視点や判断を必要とする一つの仕事を任せた方が、部下本人にとっては新しい経験になる。
見るべきは、どれだけ仕事を渡したかではなく、どんな経験を渡しているかである。
② 手がかからないから、放置する
困ったら自分で解決する。締め切りも守る。成果も出す。すると1on1でも「特に問題なさそうだから今日は短めで」となりがちだ。
しかし、問題がないことと、次の課題がないことは違う。
優秀な部下との1on1では、今何に困っているかだけでなく、今の仕事でもう簡単すぎる部分はあるか、次に経験したい仕事は何か、いまの役割でまだ任されていない判断は何か。そうした問いが必要になる。
🔹参考記事
「どうしたらいいですか?」には答えない。部下を”問いで育てる”1on1
③ 上司の安心のために、細かく管理する
能力の高い部下に不安を感じると、上司が細部まで確認したくなることがある。だが、方法や手順を細かく指定し続ければ、本人が判断する余地は狭まる。
働き方に関する259の研究、約22万人分のデータを統合した分析がある。そこでは、仕事の内容や進め方をどう設計するかが、働く人の満足度や意欲、成果と幅広く関係していることが示された。なかでも「仕事上の判断をどこまで自分で行えるか」は、満足度との関連が比較的強かった。
任せ方は、本人の意欲だけの問題ではない。上司が設計できる要素でもある。何でも自由にすればよいという意味ではない。ゴールと制約は明確にしたうえで、方法を考える余地を渡す。優秀な部下には、この切り分けが特に重要になる。
④ 成果だけを見て、次の成長機会をつくらない
成果を出し続けている人ほど「このままで十分」と見られがちだ。しかし本人からすれば、同じことを繰り返しているだけかもしれない。
高い成果を完成とみなすのではなく、その人が次に何を経験すれば仕事の幅が広がるのかを考えることが必要だ。
次に渡すべき「やや難しい仕事」とは何か
優秀な部下を伸ばすには、本人の実力より少し高い難易度の仕事を渡し続ける必要がある。高すぎれば達成できずに心が折れ、低すぎれば同じことの繰り返しになる。上司が見極めるべきは、その”ちょっと高め”の水準である。
難易度を上げるといっても、仕事の量を増やすことではない。普段とは異なる視点が求められる仕事を渡すだけで、仕事の難しさは大きく変わる。たとえば、営業のエースであるAさんに、次のような仕事を任せてみる。
「普段値引き販売している製品の値引き幅を減らして、売上目標を達成してほしい」
営業の目線でいえば、値引きは短期的な売上につながる合理的な手段だが、ブランドの観点では製品の付加価値を下げる施策でもある。この仕事をやり遂げるには、営業だけでなくマーケティングの視点が要る。経営の視野を360度とすれば、営業だけを見ている視野は20度ほどかもしれない。その視野をどう広げるかが、優秀な部下の次の成長を左右する。
あわせて、判断の一部を任せることも勧めたい。最終判断は上司が持ちつつ、「値引きの総額が売上目標額の5%以内に収まるなら、その幅で自分で決めていい」と範囲を区切って任せる。ゴールと制約を示したうえで方法を考える余地を渡せば、Aさんは自分で判断して結果を出す経験を積める。
どんな仕事を渡すかは、アサインの前に1on1で本人と話して決めるとよい。任せたあとも仕事ぶりを見ながら、気になる点があれば理由を尋ね、答えを示すのではなく本人に考えさせる。
優秀な部下に必要なのは、手を離すことではなく、渡す仕事と任せる範囲を設計し続けることだ。その設計がうまくいっているかどうかは、任せた仕事が本人の次の行動につながっているかに表れる。
📂 任せた仕事を、部下の次の行動につなげる
任せた仕事を部下の成長につなげるには、任せたあとに、本人が何を考え、次にどう動くかを確かめる対話が欠かせません。1万人を対象にした調査では、上司との面談で話したことがその後の行動につながっていると答えた人の61.3%が、仕事の成果を実感していました。つながっていないと答えた人では7.0%です。下記の資料では、上司と部下の対話を次の行動につなげるために、対話の前・最中・直後・日常にできることを、具体例とともに紹介しています。