
優秀すぎる部下はなぜ扱いにくいのか? 「怖さ」の理由と育て方を徹底解説
業務で教えることが少なく、手のかからない優秀な部下。多くのマネジャーは、そうした部下が自発的に成長していくことを期待しているかもしれない。しかし実際には、エース級社員ほど、マネジャーが与える課題によって成長速度が変わる。
また、頼もしさとは別の感情を抱くマネジャーもいる。自分より詳しい。判断が速い。指示に納得しないことがある。優秀だけど、扱いづらい。そのような戸惑いは、決して珍しいものではない。
本稿では、優秀すぎる部下を前にしたときに上司が陥りやすい落とし穴を整理しながら、部下の力を削がずに伸ばすマネジメントの方法を考える。
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優秀な部下とは?「手がかからない人」ほど放置しない
そもそも「優秀な部下」とは、どんな人を指すのか。
会社や職種によって答えは変わるが、共通して挙げられるのは、期待される成果を安定して出せること、細かな指示がなくても自分で仕事を組み立てられること、問題が起きれば自ら情報を集めて対処すること、新しい仕事を覚えるのが速いこと、そして必要だと思えば上司にも意見を言えることだろう。
つまり、上司の手をあまり必要とせずに仕事を前へ進められる人である。ここに落とし穴がある。手がかからないぶん、上司からすると「この人は放っておいても大丈夫」と思いやすいのだ。
しかし、細かな指示がいらないことと、マネジメントがいらないことは別である。むしろ、日常業務を難なくこなせるようになった人ほど、次に何を任せれば成長できるのか、どこまで裁量を広げるのか、その能力をどこで生かすのかという、別のマネジメントが必要になる。
現行の仕事をこなせるようになったことは、育成の終わりではない。マネジャーの役割が、やり方を教えることから、次の機会を設計することへ変わるタイミングなのである。
なぜ「優秀すぎる部下が怖い」と感じるのか
部下が優秀であるほど、上司が不安を感じることがある。その感情自体を、過度に否定する必要はない。
自分より詳しい。自分より判断が速い。会議では自分とは違う意見をはっきり述べる。そうした部下を前に、自分は上司として何を提供できるのだろうと戸惑うのは、不自然なことではないだろう。
問題は、その不安をどう扱うかだ。
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のハシム・ザマン(Hashim Zaman)とカリム・ラカーニ(Karim R. Lakhani)による研究では、管理職が有能な部下を将来自分の地位を脅かす競争相手と捉え、その成長を妨げる「トップダウン・サボタージュ」が起こりうることが示されている。
たとえば、重要な会議にはまだ出さない。その案件は自分が判断する。勝手なことをしないでほしい。そうして必要以上に裁量を狭めてしまう。あるいは、部下の提案を内容ではなく「最近、生意気になってきた」と人物評価に置き換えてしまう。
ここまでいくと、上司自身の不安が、部下の能力を抑える方向に働き始める。
「反抗的」に見える部下は、本当に反抗しているのか
優秀な部下ほど、上司の判断に異論を唱える場面もあるだろう。
しかし、上司と違う意見を言うことと、上司に反抗することは同じではない。
組織行動研究では、社員が上位者に対して業務上の提案や懸念、問題点を自発的に伝える行動をエンプロイ・ボイス(employee voice)と呼ぶ。組織行動論の研究者エリザベス・モリソン(Elizabeth Morrison)による研究レビューでは、社員がエンプロイ・ボイスを口にしなくなると、組織は問題や改善につながる可能性のある情報を失うと指摘されている。
もちろん、部下側の言い方や態度に問題があるならフィードバックが必要だ。だが、上司の意見に賛成しないという事実だけで「扱いにくい部下」と決めつけてしまえば、せっかくの有益な異論まで消えてしまう。
優秀な部下と向き合うときは、自分が不快なのは態度なのか、それとも自分と違う意見を言われたことなのか。まずそこを分けて考えたい。
優秀な部下の力を削いでしまう上司の行動
優秀な部下の能力を生かせるかどうかは、本人だけでなく、上司の関わり方にも左右される。特に注意したいのが、次のような行動である。
❶ できるから、仕事を集め続ける
一番ありがちなのがこれだ。「あの人なら早いから」「あの人なら任せられるから」と、優秀な部下に仕事が次々に集まっていく。
しかし、仕事量を増やすことと、成長機会を増やすことは同じではない。10分でできる仕事を10個任せるより、これまでとは違う視点や判断を必要とする一つの仕事を任せた方が、部下本人にとっては新しい経験になる。
見るべきは、どれだけ仕事を渡したかではなく、どんな経験を渡しているかである。
❷ 手がかからないから、放置する
困ったら自分で解決する。締め切りも守る。成果も出す。すると1on1でも「特に問題なさそうだから今日は短めで」となりがちだ。
しかし、問題がないことと、次の課題がないことは違う。
優秀な部下との1on1では、今何に困っているかだけでなく、今の仕事でもう簡単すぎる部分はあるか、次に経験したい仕事は何か、いまの役割でまだ任されていない判断は何か。そうした問いが必要になる。
🔹参考記事
「どうしたらいいですか?」には答えない。部下を"問いで育てる"1on1
❸ 上司の安心のために、細かく管理する
能力の高い部下に不安を感じると、上司が細部まで確認したくなることがある。だが、一定の能力を持つ人にまで方法や手順を細かく指定し続ければ、本人が判断する余地は狭まる。
働き方に関する259の研究、約22万人分のデータを統合した分析がある。そこでは、仕事の内容や進め方をどう設計するかが、働く人の満足度や意欲、成果と幅広く関係していることが示された。なかでも「仕事上の判断をどこまで自分で行えるか」は、満足度との関連が比較的強かった。
任せ方は、本人の意欲だけの問題ではない。上司が設計できる要素でもある。
何でも自由にすればよいという意味ではない。ゴールと制約は明確にしたうえで、方法を考える余地を渡す。優秀な部下には、この切り分けが特に重要になる。
❹ 異論を「反抗」とみなす
「私は別の方法の方がいいと思います」と言われたとき、「言うことを聞かない」と片づけない。まず、なぜそう考えたのかを聞く。内容を検討したうえで、採用しないなら理由を説明する。
上司が異論を歓迎しないことが伝われば、部下は次から意見を言わなくなるかもしれない。それは上司にとっては楽でも、チームからは重要な情報が一つ消えた状態である。
❺ 成果だけを見て、次の成長機会をつくらない
成果を出し続けている人ほど「このままで十分」と見られがちだ。しかし本人からすれば、同じことを繰り返しているだけかもしれない。
高い成果を完成とみなすのではなく、その人が次に何を経験すれば仕事の幅が広がるのかを考える。ここから、優秀な部下の育成が始まる。
エース級社員の「さらなる努力」には工夫がいる
仕事ができる社員があなたの部下になったとき、「仕事を任せることができてラッキーだ」と思うかもしれない。では、その部下が同期の中で一番の出世頭の、いわゆる「エース級社員」だったらどうだろうか。
エース級社員は、マネジャーが細かく指示しなくても、ある程度自発的に学んで伸びていくことはできるだろう。しかし、マネジャーからの適切なフィードバックの欠如は、社員の成長機会を損なうことになる。
SPI適性検査を開発した大沢武志氏の『心理学的経営』では、フィードバックの効果は目標への進捗速度で異なり、進捗が極めて早い人、中程度に遅い人、極めて遅い人に分けたとき、進捗が早すぎる優秀な人にはフィードバックだけではさらなる努力を引き出せないという趣旨の解説がある。つまり、優秀な人こそ仕事の与え方に工夫が必要なのである。
ここでは、フィードバックする前提として、本人の実力に合わせた適切な業務をアサインし続けることが大切である。エース級社員にとっての「適切」とは、"ちょっと高め"くらいの難易度だ。高すぎて達成できないと心が折れてしまうため、適度に挑戦的でありながら達成可能な業務を上司が見極めて、与え続けるのが育成のコツである。
そのなかで、今回はエース級社員がつまずきがちな点と、将来マネジャーになるために育成しておきたいポイントを紹介する。
視野を広げる"やや難しい"仕事をアサイン
エース級社員にはいわゆる"優等生"が多い。有名大学を卒業し、自らの希望する会社に入り、リーダーシップもあり、チームにも貢献し続けている――そういう人が意外な落とし穴にはまりやすい。優秀な人は、「(自分ほど)できない人」への配慮が欠けてしまうことがあるのだ。
周囲の人間が均質であれば、多様な視点が不足しやすい。エース級社員も、この課題をクリアしなければマネジャー職に就いたときに苦労するだろう。あなたが上司なら、成長するための機会として、やや難易度の高い仕事や多様な視点が求められる仕事に優秀な部下を積極的にアサインしよう。
どのように仕事を振ると良いのか。例えば、営業のエース社員であるAさんにこんな仕事を与えてみる。
「普段値引き販売している製品の値引き幅を減らして、売上目標を達成してほしい」
営業目線でいえば、値引きは短期的な売上貢献につながる点で合理的だが、ブランディング観点では製品の付加価値が下がる施策だ。つまり、営業だけでなく、マーケティングの視点も必要になってくる。
このように、同じ売上目標を追う仕事であっても、普段とは異なる概念が入ってくるだけで仕事の難易度は大きく増す。経営の視野を360度とした場合、営業だけを切り取れば20度くらいの視野といえるかもしれない。その限定的な視野をいかに広げるか。これがエース級社員の成長を加速させる要因になる。
なお、適切な課題の選定には、業務アサイン前の1on1ミーティングを活用すると良い。マネジャーとAさんが率直に対話をすることで、最適な成長課題を見出すことができるだろう。
業務アサイン後、部下の仕事ぶりを上司が注意深く観察することも重要だ。気になるところがあれば、上司から部下にその理由を尋ね、スモールフィードバックを回すようにする。
エース級社員はもともと飲みこみの早いタイプなので、上司が問題を特定せずとも、とにかく自分で考えさせ、決めたことをやらせるというサイクルを回していけば、そのサイクル自体が彼らの更なる成長を促すだろう。
さらに言うと、上司の権限を少し委譲することも推奨したい。Aさんの例だと、値引きを一切しないほうがいいケースもあれば、大口の新規顧客獲得のために値引きが戦略的には正しいときもあるだろう。そこで、最終判断は上司が持ちつつも、「値引きの総額が売上目標額の5%以内に収まるのであれば、その幅で自分で決めていいよ」と部分的な権限移譲を行ってみるのだ。
これにより、Aさんは視野を広げ、自ら判断して結果を出せるようになり、自律性とモチベーションがさらに高まるだろう。
力強い成長につながるフィードバック・サイクル
ここまで述べてきた部下が成果を出すためのサイクルは、マネジャーが効果的に部下にフィードバックできるフレームワークとして、汎用的に使えるものだ。Aさんの例を、フィードバック・サイクルに当てはめてみよう。

Aさんの場合は、これにフェーズ0として、「やや難易度の高い仕事(ここでは、視点が多様でないとできない仕事)にアサインする」が加わったと考えるとよい。
こうした視点の異なる仕事をすると、反対意見を言う人とぶつかったり、圧力をかけられたりすることも出てくるだろう。営業の仕事をしていて、非常に難しい取引先からの受注が取れそうなときに、法務部の担当者から「そんな契約はできません」とストップがかかるということも、マネジャーになればたまに出くわすものだ。
しかし、こうした経験が初めての場合は、反発する気持ちから「法務は営業のことがわかっていない!」と自部門としての目線で考えがちになる。
こういうときに、上司は「この案件のステークホルダーには営業部だけでなく法務部もいるんだよ。つまり、成約するために法務部の担当者の力を借りることは、あなたの仕事の一部でもある。そう考えたとき、あなたはどんなやり方で進めるのかな?」と部下に伝えてみよう。
「あれをやれ」と具体的な答えを出すのではなく、本人に解決策を考えさせるのがポイントだ。適切な仕事、適切なフィードバックが、エース級社員をさらに力強く成長させるだろう。
🔹 参考記事
フィードバックとは? 本来の意味と、部下に届く伝え方を解説
マネジャーは「教える」から「応援する」へ
ここまでエース級社員を成長させるアプローチについて伝えてきたが、エース級社員を手をかけて育てることに葛藤のあるマネジャーもいるだろう。エース級社員を育てるマネジャーの近年の悩みの一つに、「育成した部下の離職」があるためだ。いくら育てても数年で辞めてしまい、「もう部下には何も教えたくない」なんて気持ちになっているマネジャーもいるかもしれない。
部下を育てるためにマネジャーが過度のストレスを溜め込むのはナンセンスだ。この葛藤から逃れるために、まずはマネジャー自身が「教える」という立場から一歩引くとよいだろう。
「教えなければいけない」「成長させなければいけない」と考えると、マネジャー自身が追い詰められてしまう。とはいえ、一番近くにいる上司がフィードバックしてあげなければ、その部下は成長機会を逃すことになってしまう。ここはひとつ、「応援する」という立場を取り、部下と適切な距離を置いてみよう。「上司」ではなく、「会社の代表として接している人」「部下の応援団」くらいに自分を位置付けてみて、伝えるべきことを伝えよう。

また、部下を会社に引き留めるためにマネジャーができる効果的な方法として、マネジャー自身の視野を広げたり視座を高めたりするのに貢献してくれている顧客や社外パートナーと部下をつなぐことが挙げられる。こうした出会いを通じて部下が「貴重な経験をさせてもらっている」と実感できるようになれば、「この会社にいれば成長できる」という思いを強め、定着につながるだろう。
優秀な社員の育成は、企業の持続的成長のための重要な投資である。本稿で紹介したフィードバック・サイクルと権限委譲の手法は、エース級社員の成長を加速させるだけでなく、将来のリーダーシップ育成にも寄与する。他方、フィードバック・サイクルを回すことは、マネジャー自身の成長にもつながる。エース級社員をマネジメントするという「やや難易度の高い仕事」が、あなたを育てるはずだから。
優秀な部下とは?「手がかからない人」ほど放置しない
そもそも「優秀な部下」とは、どんな人を指すのか。
会社や職種によって答えは変わるが、共通して挙げられるのは、期待される成果を安定して出せること、細かな指示がなくても自分で仕事を組み立てられること、問題が起きれば自ら情報を集めて対処すること、新しい仕事を覚えるのが速いこと、そして必要だと思えば上司にも意見を言えることだろう。
つまり、上司の手をあまり必要とせずに仕事を前へ進められる人である。ここに落とし穴がある。手がかからないぶん、上司からすると「この人は放っておいても大丈夫」と思いやすいのだ。
しかし、細かな指示がいらないことと、マネジメントがいらないことは別である。むしろ、日常業務を難なくこなせるようになった人ほど、次に何を任せれば成長できるのか、どこまで裁量を広げるのか、その能力をどこで生かすのかという、別のマネジメントが必要になる。
現行の仕事をこなせるようになったことは、育成の終わりではない。マネジャーの役割が、やり方を教えることから、次の機会を設計することへ変わるタイミングなのである。
なぜ「優秀すぎる部下が怖い」と感じるのか
部下が優秀であるほど、上司が不安を感じることがある。その感情自体を、過度に否定する必要はない。
自分より詳しい。自分より判断が速い。会議では自分とは違う意見をはっきり述べる。そうした部下を前に、自分は上司として何を提供できるのだろうと戸惑うのは、不自然なことではないだろう。
問題は、その不安をどう扱うかだ。
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のハシム・ザマン(Hashim Zaman)とカリム・ラカーニ(Karim R. Lakhani)による研究では、管理職が有能な部下を将来自分の地位を脅かす競争相手と捉え、その成長を妨げる「トップダウン・サボタージュ」が起こりうることが示されている。
たとえば、重要な会議にはまだ出さない。その案件は自分が判断する。勝手なことをしないでほしい。そうして必要以上に裁量を狭めてしまう。あるいは、部下の提案を内容ではなく「最近、生意気になってきた」と人物評価に置き換えてしまう。
ここまでいくと、上司自身の不安が、部下の能力を抑える方向に働き始める。
「反抗的」に見える部下は、本当に反抗しているのか
優秀な部下ほど、上司の判断に異論を唱える場面もあるだろう。
しかし、上司と違う意見を言うことと、上司に反抗することは同じではない。
組織行動研究では、社員が上位者に対して業務上の提案や懸念、問題点を自発的に伝える行動をエンプロイ・ボイス(employee voice)と呼ぶ。組織行動論の研究者エリザベス・モリソン(Elizabeth Morrison)による研究レビューでは、社員がエンプロイ・ボイスを口にしなくなると、組織は問題や改善につながる可能性のある情報を失うと指摘されている。
もちろん、部下側の言い方や態度に問題があるならフィードバックが必要だ。だが、上司の意見に賛成しないという事実だけで「扱いにくい部下」と決めつけてしまえば、せっかくの有益な異論まで消えてしまう。
優秀な部下と向き合うときは、自分が不快なのは態度なのか、それとも自分と違う意見を言われたことなのか。まずそこを分けて考えたい。
優秀な部下の力を削いでしまう上司の行動
優秀な部下の能力を生かせるかどうかは、本人だけでなく、上司の関わり方にも左右される。特に注意したいのが、次のような行動である。
❶ できるから、仕事を集め続ける
一番ありがちなのがこれだ。「あの人なら早いから」「あの人なら任せられるから」と、優秀な部下に仕事が次々に集まっていく。
しかし、仕事量を増やすことと、成長機会を増やすことは同じではない。10分でできる仕事を10個任せるより、これまでとは違う視点や判断を必要とする一つの仕事を任せた方が、部下本人にとっては新しい経験になる。
見るべきは、どれだけ仕事を渡したかではなく、どんな経験を渡しているかである。
❷ 手がかからないから、放置する
困ったら自分で解決する。締め切りも守る。成果も出す。すると1on1でも「特に問題なさそうだから今日は短めで」となりがちだ。
しかし、問題がないことと、次の課題がないことは違う。
優秀な部下との1on1では、今何に困っているかだけでなく、今の仕事でもう簡単すぎる部分はあるか、次に経験したい仕事は何か、いまの役割でまだ任されていない判断は何か。そうした問いが必要になる。
🔹参考記事
「どうしたらいいですか?」には答えない。部下を"問いで育てる"1on1
❸ 上司の安心のために、細かく管理する
能力の高い部下に不安を感じると、上司が細部まで確認したくなることがある。だが、一定の能力を持つ人にまで方法や手順を細かく指定し続ければ、本人が判断する余地は狭まる。
働き方に関する259の研究、約22万人分のデータを統合した分析がある。そこでは、仕事の内容や進め方をどう設計するかが、働く人の満足度や意欲、成果と幅広く関係していることが示された。なかでも「仕事上の判断をどこまで自分で行えるか」は、満足度との関連が比較的強かった。
任せ方は、本人の意欲だけの問題ではない。上司が設計できる要素でもある。
何でも自由にすればよいという意味ではない。ゴールと制約は明確にしたうえで、方法を考える余地を渡す。優秀な部下には、この切り分けが特に重要になる。
❹ 異論を「反抗」とみなす
「私は別の方法の方がいいと思います」と言われたとき、「言うことを聞かない」と片づけない。まず、なぜそう考えたのかを聞く。内容を検討したうえで、採用しないなら理由を説明する。
上司が異論を歓迎しないことが伝われば、部下は次から意見を言わなくなるかもしれない。それは上司にとっては楽でも、チームからは重要な情報が一つ消えた状態である。
❺ 成果だけを見て、次の成長機会をつくらない
成果を出し続けている人ほど「このままで十分」と見られがちだ。しかし本人からすれば、同じことを繰り返しているだけかもしれない。
高い成果を完成とみなすのではなく、その人が次に何を経験すれば仕事の幅が広がるのかを考える。ここから、優秀な部下の育成が始まる。
エース級社員の「さらなる努力」には工夫がいる
仕事ができる社員があなたの部下になったとき、「仕事を任せることができてラッキーだ」と思うかもしれない。では、その部下が同期の中で一番の出世頭の、いわゆる「エース級社員」だったらどうだろうか。
エース級社員は、マネジャーが細かく指示しなくても、ある程度自発的に学んで伸びていくことはできるだろう。しかし、マネジャーからの適切なフィードバックの欠如は、社員の成長機会を損なうことになる。
SPI適性検査を開発した大沢武志氏の『心理学的経営』では、フィードバックの効果は目標への進捗速度で異なり、進捗が極めて早い人、中程度に遅い人、極めて遅い人に分けたとき、進捗が早すぎる優秀な人にはフィードバックだけではさらなる努力を引き出せないという趣旨の解説がある。つまり、優秀な人こそ仕事の与え方に工夫が必要なのである。
ここでは、フィードバックする前提として、本人の実力に合わせた適切な業務をアサインし続けることが大切である。エース級社員にとっての「適切」とは、"ちょっと高め"くらいの難易度だ。高すぎて達成できないと心が折れてしまうため、適度に挑戦的でありながら達成可能な業務を上司が見極めて、与え続けるのが育成のコツである。
そのなかで、今回はエース級社員がつまずきがちな点と、将来マネジャーになるために育成しておきたいポイントを紹介する。
視野を広げる"やや難しい"仕事をアサイン
エース級社員にはいわゆる"優等生"が多い。有名大学を卒業し、自らの希望する会社に入り、リーダーシップもあり、チームにも貢献し続けている――そういう人が意外な落とし穴にはまりやすい。優秀な人は、「(自分ほど)できない人」への配慮が欠けてしまうことがあるのだ。
周囲の人間が均質であれば、多様な視点が不足しやすい。エース級社員も、この課題をクリアしなければマネジャー職に就いたときに苦労するだろう。あなたが上司なら、成長するための機会として、やや難易度の高い仕事や多様な視点が求められる仕事に優秀な部下を積極的にアサインしよう。
どのように仕事を振ると良いのか。例えば、営業のエース社員であるAさんにこんな仕事を与えてみる。
「普段値引き販売している製品の値引き幅を減らして、売上目標を達成してほしい」
営業目線でいえば、値引きは短期的な売上貢献につながる点で合理的だが、ブランディング観点では製品の付加価値が下がる施策だ。つまり、営業だけでなく、マーケティングの視点も必要になってくる。
このように、同じ売上目標を追う仕事であっても、普段とは異なる概念が入ってくるだけで仕事の難易度は大きく増す。経営の視野を360度とした場合、営業だけを切り取れば20度くらいの視野といえるかもしれない。その限定的な視野をいかに広げるか。これがエース級社員の成長を加速させる要因になる。
なお、適切な課題の選定には、業務アサイン前の1on1ミーティングを活用すると良い。マネジャーとAさんが率直に対話をすることで、最適な成長課題を見出すことができるだろう。
業務アサイン後、部下の仕事ぶりを上司が注意深く観察することも重要だ。気になるところがあれば、上司から部下にその理由を尋ね、スモールフィードバックを回すようにする。
エース級社員はもともと飲みこみの早いタイプなので、上司が問題を特定せずとも、とにかく自分で考えさせ、決めたことをやらせるというサイクルを回していけば、そのサイクル自体が彼らの更なる成長を促すだろう。
さらに言うと、上司の権限を少し委譲することも推奨したい。Aさんの例だと、値引きを一切しないほうがいいケースもあれば、大口の新規顧客獲得のために値引きが戦略的には正しいときもあるだろう。そこで、最終判断は上司が持ちつつも、「値引きの総額が売上目標額の5%以内に収まるのであれば、その幅で自分で決めていいよ」と部分的な権限移譲を行ってみるのだ。
これにより、Aさんは視野を広げ、自ら判断して結果を出せるようになり、自律性とモチベーションがさらに高まるだろう。
力強い成長につながるフィードバック・サイクル
ここまで述べてきた部下が成果を出すためのサイクルは、マネジャーが効果的に部下にフィードバックできるフレームワークとして、汎用的に使えるものだ。Aさんの例を、フィードバック・サイクルに当てはめてみよう。

Aさんの場合は、これにフェーズ0として、「やや難易度の高い仕事(ここでは、視点が多様でないとできない仕事)にアサインする」が加わったと考えるとよい。
こうした視点の異なる仕事をすると、反対意見を言う人とぶつかったり、圧力をかけられたりすることも出てくるだろう。営業の仕事をしていて、非常に難しい取引先からの受注が取れそうなときに、法務部の担当者から「そんな契約はできません」とストップがかかるということも、マネジャーになればたまに出くわすものだ。
しかし、こうした経験が初めての場合は、反発する気持ちから「法務は営業のことがわかっていない!」と自部門としての目線で考えがちになる。
こういうときに、上司は「この案件のステークホルダーには営業部だけでなく法務部もいるんだよ。つまり、成約するために法務部の担当者の力を借りることは、あなたの仕事の一部でもある。そう考えたとき、あなたはどんなやり方で進めるのかな?」と部下に伝えてみよう。
「あれをやれ」と具体的な答えを出すのではなく、本人に解決策を考えさせるのがポイントだ。適切な仕事、適切なフィードバックが、エース級社員をさらに力強く成長させるだろう。
🔹 参考記事
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マネジャーは「教える」から「応援する」へ
ここまでエース級社員を成長させるアプローチについて伝えてきたが、エース級社員を手をかけて育てることに葛藤のあるマネジャーもいるだろう。エース級社員を育てるマネジャーの近年の悩みの一つに、「育成した部下の離職」があるためだ。いくら育てても数年で辞めてしまい、「もう部下には何も教えたくない」なんて気持ちになっているマネジャーもいるかもしれない。
部下を育てるためにマネジャーが過度のストレスを溜め込むのはナンセンスだ。この葛藤から逃れるために、まずはマネジャー自身が「教える」という立場から一歩引くとよいだろう。
「教えなければいけない」「成長させなければいけない」と考えると、マネジャー自身が追い詰められてしまう。とはいえ、一番近くにいる上司がフィードバックしてあげなければ、その部下は成長機会を逃すことになってしまう。ここはひとつ、「応援する」という立場を取り、部下と適切な距離を置いてみよう。「上司」ではなく、「会社の代表として接している人」「部下の応援団」くらいに自分を位置付けてみて、伝えるべきことを伝えよう。

また、部下を会社に引き留めるためにマネジャーができる効果的な方法として、マネジャー自身の視野を広げたり視座を高めたりするのに貢献してくれている顧客や社外パートナーと部下をつなぐことが挙げられる。こうした出会いを通じて部下が「貴重な経験をさせてもらっている」と実感できるようになれば、「この会社にいれば成長できる」という思いを強め、定着につながるだろう。
優秀な社員の育成は、企業の持続的成長のための重要な投資である。本稿で紹介したフィードバック・サイクルと権限委譲の手法は、エース級社員の成長を加速させるだけでなく、将来のリーダーシップ育成にも寄与する。他方、フィードバック・サイクルを回すことは、マネジャー自身の成長にもつながる。エース級社員をマネジメントするという「やや難易度の高い仕事」が、あなたを育てるはずだから。






