
コンセプチュアルスキルとは? 管理職の具体例・高い人の特徴・鍛え方を解説
優秀な現場プレイヤーほど、管理職になった途端に行き詰まる。その背景にあるのが、コンセプチュアルスキルの不足です。
物事の本質を見抜き、全体を俯瞰して判断する「コンセプチュアルスキル」は、1955年にロバート・カッツが提唱した管理職必須の能力です。VUCAと呼ばれる不確実な時代において、経営層はもちろん、すべてのビジネスパーソンに求められるこの能力は、どのように身につければよいのでしょうか。
本記事では、カッツモデルの基本概念から、この能力を支える12の要素、高い人と低い人の違い、そして日々の仕事の中で鍛える方法までを解説します。
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コンセプチュアルスキルとは?
コンセプチュアルスキル(Conceptual Skills)は、日本語では概念化能力とも呼ばれます。物事を包括的に理解し、問題の本質をとらえて抽象化・普遍化する能力のことで、組織においてより上位のマネジャーになるほど求められる能力とされます。
提唱者はロバート・カッツ
コンセプチュアルスキルは、1955年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたロバート・カッツの論文で提唱された概念です。彼は、ハーバード大学やスタンフォード大学などで経営学を教え、企業戦略を専門とするコンサルティング会社の経営者や複数の上場企業の取締役も務めた人物です。
管理職に必要な3つのスキルとカッツモデル

先の論文の中でカッツは、管理職が効果的にマネジメントを行うために必要とされる基本的なスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類しました。
そしてこれらは必ずしも生まれつきのものではなく開発できる能力であること、3つのスキルの重要度はマネジャーの責任のレベルによって異なることを主張しました。
このカッツの主張が図式化されたものが「カッツモデル」として広く知られています。
マネジメントに必要な3つのスキルとは
❶テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、知識や技術が必要とされる特定の活動への理解と熟達を意味します。
その中には、特定分野のツールと技術を利用できる能力・専門分野における分析能力・専門知識も含まれます。
3つのスキルの中でもテクニカルスキルは、最も具体的で目に見えやすいスキルです。
例えば外科医・音楽家・会計士・エンジニアなどが一人前とみなされるには、その職業におけるテクニカルスキルを持っていることが最低条件となるでしょう。
しかし管理職として上位の立場、すなわち個々の現場の仕事よりも部門や事業全体の成果に対する責任が大きくなればなるほどテクニカルスキルの重要性は低くなっていきます。
❷ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、管理職がグループの一員としてうまく役割を果たし、メンバー間のチームワークを向上させる能力のことです。テクニカルスキルが主にモノや技術を扱うのに対し、ヒューマンスキルは主に人との関わりに関係する能力です。
現代の職場は多様性が高まっており、メンバーの価値観や志向は様々です。メンバーそれぞれに力を発揮してもらい、チームにおける協力を促すには、単に合理的な目標を与えたり、正しいやり方を押し付けたりするだけではうまくいきません。
当人が納得できる目標やプロセスをすり合わせ、達成に向けて支援していくようなコーチング力・他者の言い分に耳を傾ける傾聴力・相手の立場や価値観を理解する受容力などがヒューマンスキルとして求められています。
❸コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、会社や事業の全体を俯瞰する能力のことです。組織の様々な機能が相互に依存していることを認識したり、ある部分の変化が他のあらゆる要素にどのような影響を与えるかを理解したりすることも含まれます。
社内の把握だけでなく、業界・地域コミュニティ・社会・政治・国の経済などと自社の事業との関係を描く能力もコンセプチュアルスキルの一種です。
例えば新規事業を立ち上げる時には、社会の動向とその中での自社の立ち位置を客観的に見極め、自社の資産を活かして他社と差別化できる新しいサービスを構想する能力が不可欠ですが、それはまさにコンセプチュアルスキルだと言えるでしょう。
コンセプチュアルスキルが重要な理由
事業に関係する様々なことを全体的に把握し、相互に影響しあう関係を認識することはあらゆる意思決定において重要です。
複雑性と予測不可能性が高いVUCAと呼ばれるビジネス環境においては特に、前例のない挑戦によってイノベーションを起こさなければ企業を存続させていくことが困難です。
そのような状況において、コンセプチュアルスキルはますます重要なものになっています。
管理職・マネジメントにとってのコンセプチュアルスキルとは
例えばマーケティングを担当する役員が全社のマーケティングポリシーを大きく変更しようとする際には、マーケティング部門はもちろん、生産・管理・財務・研究など他部署への影響を考慮することが重要です。
協力を取り付けるために必要なアプローチや他部署が受ける影響まで見えていれば取り組みの成功確率を高められます。
他の例として看護の仕事を考えてみましょう。看護師というと、患者の看護に関するテクニカルスキルや、患者にどう接するかといったヒューマンスキルの重要性に目が向きがちです。
しかし看護師長や看護部長などの管理職になるとコンセプチュアルスキルの重要性が高まります。病院が提供する看護の質を高めるためには、医師との連携・病院組織の改革・看護師の育成などが責任の範疇になります。そのようなことに取り組むためには、病院の経営状態や国の医療制度の動向などにも気を配る必要があります。
看護の仕事を取り巻く様々な要素を俯瞰し、その中で何をすべきかを判断していくためにコンセプチュアルスキルが用いられることになります。
経営者にとってのコンセプチュアルスキルとは
カッツは、経営における管理責任が大きくなるほど、テクニカルスキルと比較してコンセプチュアルスキルの必要性が急速に高まり、特に組織のトップレベルではコンセプチュアルスキルが最も重要なスキルになると述べています。
テクニカルスキルやヒューマンスキルがCEOになくても、それらに優れた能力を持つ部下がいれば補えます。しかしCEOのコンセプチュアルスキルが弱い場合は、組織全体の成功が危うくなる可能性があるというのです。
なぜなら経営陣が掲げる全社目標と方針は、株主や従業員といったステークホルダーやビジネス環境との関係を彼らがどのように捉えているかによって大きく変わるからです。
コンセプチュアルスキルを構成する能力とは
カッツの論文は、コンセプチュアルスキルを細かい要素に分解してはいません。ただ実務の現場では、この能力を支える思考法や姿勢として、次のようなものが挙げられます。分類は論者によって幅があり、10前後から15程度まで諸説あります。ここでは代表的な12を整理しました。
なお、これらのうちロジカルシンキング・クリティカルシンキング・ラテラルシンキングは思考の技術、知的好奇心・探究心・チャレンジ精神は姿勢にあたります。前者は訓練で伸ばしやすく、後者は環境や経験の影響を受けやすい性質のものです。
コンセプチュアルスキルが高い人・低い人の特徴
先に挙げた種々の能力を併せ持つ人、すなわちコンセプチュアルスキルが高い人とは具体的にはどのような人でしょうか。
事業を率いるマネジメントや経営者に向いている
物事の全体を俯瞰して見られる、全体を構成する各要素の関係性を理解する力があるという特徴から社長などのトップマネジメントに向いているでしょう。会社を成長させるためにリソースを投入するべきポイントが適切に判断できるため効果的な投資判断ができます。
また業界や社会の中における自社の立ち位置を的確に捉えられるため、適切な提携先やM&Aの対象を判断したり、ビジネスを行いやすいように業界や政府などに働きかけたりといったことにも長けています。
現場の社員の場合
社長や管理職ではなく現場の仕事をしている人であっても、高いコンセプチュアルスキルを身につけている人は大きな成果を上げられる可能性があります。自分の仕事の本質が見えているため、やるべきこととやらなくても良いことが明確で、生産性の高い働き方ができるからです。
また同僚・取引先・顧客に自分の動きがどのように影響するのかが理解できているので、うまく巻き込んだり、より喜ばれる行動をとったりすることが可能です。
ただしトップマネジメントやマネジャーレベルとは異なり、担当業務をやり遂げるテクニカルスキルやチームプレイができるヒューマンスキルがなければせっかくのコンセプチュアルスキルを活かしきれないでしょう。
実務能力のない“評論家”と見られてしまうことがあります。
十分に発揮できていないときに表れる5つの傾向
ここに挙げるのは、あくまで傾向です。一度当てはまったからといって、コンセプチュアルスキルが低いとは言えません。経験の不足、情報の不足、権限の範囲など、別の理由で同じ行動が起きることもあります。ただし繰り返し表れるなら、全体を捉える視点が働いていない可能性があります。
❶優先順位の理由を説明できない
個々の仕事は速く処理できる。しかし「なぜ今これを優先するのか」を、チームや事業の目標と結びつけて説明できない。締切や依頼された順番だけで判断している状態です。
❷自部門の都合だけで判断する
施策を考える際、他部署の業務や後工程への影響を検討しない。結果として実行段階で反発を受けたり、想定外の調整が発生したりします。組織の各部分がどうつながっているかを捉えることは、カッツが示したコンセプチュアルスキルの中核です。
❸前例のない状況で判断の手がかりを失う
決められた手順がある仕事には対応できる。しかし初めて直面する事態では手が止まる。過去の経験から共通する原則を取り出し、新しい状況に当てはめることができていない状態です。
❹個別の問題を解くだけで、共通する構造を見ない
部下の相談にその場で答えを出すこと自体は、何も問題ありません。緊急のときや、相手に経験がないときには、即答が正解です。問題なのは、同じような相談が繰り返されているのに「なぜこれが起きるのか」「他のメンバーにも起こり得るのか」「仕組みを変える必要はないか」と考えないことです。
❺数字は追えるが、背景を説明できない
売上、生産性、離職率の増減は把握している。しかし「なぜ変化したのか」「他の指標とどう結びついているのか」を説明できない。数字を個別に眺めているだけで、その背後の因果を捉えられていない状態です。
これらは「能力がない人」の特徴ではありません。カッツは、管理責任が大きくなるほど、個別業務を遂行するテクニカルスキルに比べて、組織全体を捉えるコンセプチュアルスキルの重要性が高まると述べています。
プレイヤーとして専門性で成果を出してきた人が管理職になったとき、これまで通用していた判断の型では対応できない場面が増える。これは能力の問題ではなく、見るべき範囲が変わったということです。
コンセプチュアルスキルは測れるのか
コンセプチュアルスキルは、多様な能力やマインドセットの組み合わせで発揮されるため、単一の指標で測ることが困難です。ただし、日々の仕事の場面に置き換えれば、ある程度の傾向はつかめます。
以下は、マネジャー自身の状態を振り返るための質問です。直近3ヶ月の自分の仕事を思い浮かべながら、当てはまるものを数えてみてください。
8個以上あてはまるなら、全体を捉える視点はすでに働いています。4個から7個なら、場面によって発揮できたりできなかったりする状態です。3個以下の場合は、見るべき範囲を広げる余地があります。
ただし、これは能力を判定するものではありません。権限の範囲や情報の届き方によっても、答えは変わります。低く出た項目があれば、それが「自分に足りないもの」なのか「環境がそうさせているもの」なのかを、まず切り分けてみてください。
より体系的に測りたい場合は、外部の診断サービスもあります。ただしコンセプチュアルスキルだけを単独で測る公的な指標は存在せず、いずれも関連するスキルを間接的に評価するものである点は踏まえておいてください。
- PMstyleコンセプチュアルスキル診断(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス)
- 能力自己診断(一般社団法人 日本経営協会)
コンセプチュアルスキルは学習できるのか
カッツは、管理職に必要な3つのスキルは先天的に備わっている場合もあるが、トレーニングによって高められるものだと主張しています。そしてその方法の一つとして挙げているのが、上司によるコーチングです。
部下に責任ある仕事を任せ、助けを求められたときにも、すぐ答えを渡すのではなく、問いを返して考えを促す。1955年の論文が示したこの方法は、現代の職場では1on1として実践できます。
1on1は、コンセプチュアルスキルを鍛える場になり得る
1on1だけが育成の場ではありません。業務レビューでも、プロジェクトの振り返りでも同じことはできます。ただ、具体的な出来事を定期的に振り返り、考え方そのものに働きかけられる点で、1on1は適した機会になります。
ポイントは、答えだけを渡さないことです。目の前の問題を解決したうえで、その問題を一段上から眺める視点も一緒に渡す。カッツも、部下が助けを求めてきた際に、掘り下げる質問や意見を返す方法を示しています。
なお、以下に挙げる問いはカッツ本人が示したものではなく、その考え方を1on1の場面に落とし込んだものです。
その場で答えが返ってこなくても構いません。「考えたことがなかった」という反応があれば、それまで使っていなかった視点に気づいたということです。無理に結論を出させず、次回までの宿題にする方法もあります。
ただし、この問いかけには一定の信頼関係が必要です。関係ができていない状態で「なぜ」「そもそも」と問い続ければ、思考を促す質問ではなく、詰問や能力の値踏みとして受け取られます。正解を試すのではなく、一緒に問題を捉え直したいという意図が伝わっていることが前提です。
🔹あわせて読みたい
「どうしたらいいですか?」には答えない。部下を"問いで育てる"1on1
もう一つの方法は「仕事の交換」
もう一つの有効な方法としてカッツが挙げているのが「仕事の交換」です。今やっているのと同程度の責任レベルの別の仕事に異動させるのです。これにより、相手の立場に立って物事を見る機会を得られます。
これは、日本の伝統的な会社が定期異動によってゼネラリストを育てる方法と似ています。しかし日本企業の場合は、正社員全員に様々な仕事を経験させ、その中で能力を発揮した者を上に引き上げるというやり方でした。一方で欧米の場合は、より有望な若手や中堅社員を選抜してそのような経験をさせ、管理職に必要な能力を養わせようとしています。
最近では日本企業でも、次の経営人材候補を選抜して育成しようとする機運が高まっています。
大企業の若手社員がスタートアップに一定期間出向して経験を積む「越境学習」などが注目されているのも、それがコンセプチュアルスキルを高めるのに効果があると考えられるからでしょう。
また部門を超えたプロジェクトに育成対象の社員をアサインしたり、中堅の若手社員からなる疑似役員会(ジュニアボード)を組織して経営課題を議論したり提案をさせたりする機会を与えるといった方法もあります。
コンセプチュアルスキルを高める方法
所属している組織において育成の対象となるかどうかに関わらず、コンセプチュアルスキルを自ら高めるための方法としてどのようなものがあるのでしょうか。
先述した「コンセプチュアルスキルを構成する能力とは」を参考に、自分に足りない部分を鍛えていくという方法があります。またコンセプチュアルスキルをより深く理解するための研修や、コンセプチュアルスキルを鍛えるための研修を受けてみるのも良いでしょう。
一番効果的なのは、コンセプチュアルスキルを求められるような状況に自ら飛び込んで実地で鍛えていくことでしょう。部門横断の社内プロジェクトに参加してみる・越境学習の機会を提供しているプログラムに申し込んでみる・プロボノとしてNPOの活動を手伝ってみるといったことが、普段の業務を離れて会社や社会を俯瞰できる機会となるでしょう。
「つまり」と「例えば」を往復する
とはいえ、部門横断プロジェクトや越境学習は、自分の意思だけで始められるものではありません。もっと手前に、日々の仕事の中でできることがあります。抽象化と具体化を往復させる習慣です。
具体的な出来事に出会ったら「つまり、何が起きているのか」と抽象化する。抽象的な方針を受け取ったら「例えば、何をすることか」と具体化する。この行き来が、物事の構造を捉える筋力になります。
例えば、部下から「A社への提案が通らなかった」と報告を受けたとします。
つまり(抽象化)
・提案の中身ではなく、相手の意思決定プロセスを読めていなかったのではないか
・同じことが他の商談でも起きていないか
例えば(具体化)
・次回は誰が決裁者かを事前に確認する
・提案前に、相手社内の検討フローを聞く
この往復を、会議でも1on1でも意識してみてください。慣れると、目の前の出来事が単発の事象ではなく、構造の一部として見えるようになります。
なお、コンセプチュアルスキルを学べる講座や研修には、以下のようなものがあります。
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コンセプチュアルスキルとは?
コンセプチュアルスキル(Conceptual Skills)は、日本語では概念化能力とも呼ばれます。物事を包括的に理解し、問題の本質をとらえて抽象化・普遍化する能力のことで、組織においてより上位のマネジャーになるほど求められる能力とされます。
提唱者はロバート・カッツ
コンセプチュアルスキルは、1955年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたロバート・カッツの論文で提唱された概念です。彼は、ハーバード大学やスタンフォード大学などで経営学を教え、企業戦略を専門とするコンサルティング会社の経営者や複数の上場企業の取締役も務めた人物です。
管理職に必要な3つのスキルとカッツモデル

先の論文の中でカッツは、管理職が効果的にマネジメントを行うために必要とされる基本的なスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類しました。
そしてこれらは必ずしも生まれつきのものではなく開発できる能力であること、3つのスキルの重要度はマネジャーの責任のレベルによって異なることを主張しました。
このカッツの主張が図式化されたものが「カッツモデル」として広く知られています。
マネジメントに必要な3つのスキルとは
❶テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、知識や技術が必要とされる特定の活動への理解と熟達を意味します。
その中には、特定分野のツールと技術を利用できる能力・専門分野における分析能力・専門知識も含まれます。
3つのスキルの中でもテクニカルスキルは、最も具体的で目に見えやすいスキルです。
例えば外科医・音楽家・会計士・エンジニアなどが一人前とみなされるには、その職業におけるテクニカルスキルを持っていることが最低条件となるでしょう。
しかし管理職として上位の立場、すなわち個々の現場の仕事よりも部門や事業全体の成果に対する責任が大きくなればなるほどテクニカルスキルの重要性は低くなっていきます。
❷ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、管理職がグループの一員としてうまく役割を果たし、メンバー間のチームワークを向上させる能力のことです。テクニカルスキルが主にモノや技術を扱うのに対し、ヒューマンスキルは主に人との関わりに関係する能力です。
現代の職場は多様性が高まっており、メンバーの価値観や志向は様々です。メンバーそれぞれに力を発揮してもらい、チームにおける協力を促すには、単に合理的な目標を与えたり、正しいやり方を押し付けたりするだけではうまくいきません。
当人が納得できる目標やプロセスをすり合わせ、達成に向けて支援していくようなコーチング力・他者の言い分に耳を傾ける傾聴力・相手の立場や価値観を理解する受容力などがヒューマンスキルとして求められています。
❸コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、会社や事業の全体を俯瞰する能力のことです。組織の様々な機能が相互に依存していることを認識したり、ある部分の変化が他のあらゆる要素にどのような影響を与えるかを理解したりすることも含まれます。
社内の把握だけでなく、業界・地域コミュニティ・社会・政治・国の経済などと自社の事業との関係を描く能力もコンセプチュアルスキルの一種です。
例えば新規事業を立ち上げる時には、社会の動向とその中での自社の立ち位置を客観的に見極め、自社の資産を活かして他社と差別化できる新しいサービスを構想する能力が不可欠ですが、それはまさにコンセプチュアルスキルだと言えるでしょう。
コンセプチュアルスキルが重要な理由
事業に関係する様々なことを全体的に把握し、相互に影響しあう関係を認識することはあらゆる意思決定において重要です。
複雑性と予測不可能性が高いVUCAと呼ばれるビジネス環境においては特に、前例のない挑戦によってイノベーションを起こさなければ企業を存続させていくことが困難です。
そのような状況において、コンセプチュアルスキルはますます重要なものになっています。
管理職・マネジメントにとってのコンセプチュアルスキルとは
例えばマーケティングを担当する役員が全社のマーケティングポリシーを大きく変更しようとする際には、マーケティング部門はもちろん、生産・管理・財務・研究など他部署への影響を考慮することが重要です。
協力を取り付けるために必要なアプローチや他部署が受ける影響まで見えていれば取り組みの成功確率を高められます。
他の例として看護の仕事を考えてみましょう。看護師というと、患者の看護に関するテクニカルスキルや、患者にどう接するかといったヒューマンスキルの重要性に目が向きがちです。
しかし看護師長や看護部長などの管理職になるとコンセプチュアルスキルの重要性が高まります。病院が提供する看護の質を高めるためには、医師との連携・病院組織の改革・看護師の育成などが責任の範疇になります。そのようなことに取り組むためには、病院の経営状態や国の医療制度の動向などにも気を配る必要があります。
看護の仕事を取り巻く様々な要素を俯瞰し、その中で何をすべきかを判断していくためにコンセプチュアルスキルが用いられることになります。
経営者にとってのコンセプチュアルスキルとは
カッツは、経営における管理責任が大きくなるほど、テクニカルスキルと比較してコンセプチュアルスキルの必要性が急速に高まり、特に組織のトップレベルではコンセプチュアルスキルが最も重要なスキルになると述べています。
テクニカルスキルやヒューマンスキルがCEOになくても、それらに優れた能力を持つ部下がいれば補えます。しかしCEOのコンセプチュアルスキルが弱い場合は、組織全体の成功が危うくなる可能性があるというのです。
なぜなら経営陣が掲げる全社目標と方針は、株主や従業員といったステークホルダーやビジネス環境との関係を彼らがどのように捉えているかによって大きく変わるからです。
コンセプチュアルスキルを構成する能力とは
カッツの論文は、コンセプチュアルスキルを細かい要素に分解してはいません。ただ実務の現場では、この能力を支える思考法や姿勢として、次のようなものが挙げられます。分類は論者によって幅があり、10前後から15程度まで諸説あります。ここでは代表的な12を整理しました。
なお、これらのうちロジカルシンキング・クリティカルシンキング・ラテラルシンキングは思考の技術、知的好奇心・探究心・チャレンジ精神は姿勢にあたります。前者は訓練で伸ばしやすく、後者は環境や経験の影響を受けやすい性質のものです。
コンセプチュアルスキルが高い人・低い人の特徴
先に挙げた種々の能力を併せ持つ人、すなわちコンセプチュアルスキルが高い人とは具体的にはどのような人でしょうか。
事業を率いるマネジメントや経営者に向いている
物事の全体を俯瞰して見られる、全体を構成する各要素の関係性を理解する力があるという特徴から社長などのトップマネジメントに向いているでしょう。会社を成長させるためにリソースを投入するべきポイントが適切に判断できるため効果的な投資判断ができます。
また業界や社会の中における自社の立ち位置を的確に捉えられるため、適切な提携先やM&Aの対象を判断したり、ビジネスを行いやすいように業界や政府などに働きかけたりといったことにも長けています。
現場の社員の場合
社長や管理職ではなく現場の仕事をしている人であっても、高いコンセプチュアルスキルを身につけている人は大きな成果を上げられる可能性があります。自分の仕事の本質が見えているため、やるべきこととやらなくても良いことが明確で、生産性の高い働き方ができるからです。
また同僚・取引先・顧客に自分の動きがどのように影響するのかが理解できているので、うまく巻き込んだり、より喜ばれる行動をとったりすることが可能です。
ただしトップマネジメントやマネジャーレベルとは異なり、担当業務をやり遂げるテクニカルスキルやチームプレイができるヒューマンスキルがなければせっかくのコンセプチュアルスキルを活かしきれないでしょう。
実務能力のない“評論家”と見られてしまうことがあります。
十分に発揮できていないときに表れる5つの傾向
ここに挙げるのは、あくまで傾向です。一度当てはまったからといって、コンセプチュアルスキルが低いとは言えません。経験の不足、情報の不足、権限の範囲など、別の理由で同じ行動が起きることもあります。ただし繰り返し表れるなら、全体を捉える視点が働いていない可能性があります。
❶優先順位の理由を説明できない
個々の仕事は速く処理できる。しかし「なぜ今これを優先するのか」を、チームや事業の目標と結びつけて説明できない。締切や依頼された順番だけで判断している状態です。
❷自部門の都合だけで判断する
施策を考える際、他部署の業務や後工程への影響を検討しない。結果として実行段階で反発を受けたり、想定外の調整が発生したりします。組織の各部分がどうつながっているかを捉えることは、カッツが示したコンセプチュアルスキルの中核です。
❸前例のない状況で判断の手がかりを失う
決められた手順がある仕事には対応できる。しかし初めて直面する事態では手が止まる。過去の経験から共通する原則を取り出し、新しい状況に当てはめることができていない状態です。
❹個別の問題を解くだけで、共通する構造を見ない
部下の相談にその場で答えを出すこと自体は、何も問題ありません。緊急のときや、相手に経験がないときには、即答が正解です。問題なのは、同じような相談が繰り返されているのに「なぜこれが起きるのか」「他のメンバーにも起こり得るのか」「仕組みを変える必要はないか」と考えないことです。
❺数字は追えるが、背景を説明できない
売上、生産性、離職率の増減は把握している。しかし「なぜ変化したのか」「他の指標とどう結びついているのか」を説明できない。数字を個別に眺めているだけで、その背後の因果を捉えられていない状態です。
これらは「能力がない人」の特徴ではありません。カッツは、管理責任が大きくなるほど、個別業務を遂行するテクニカルスキルに比べて、組織全体を捉えるコンセプチュアルスキルの重要性が高まると述べています。
プレイヤーとして専門性で成果を出してきた人が管理職になったとき、これまで通用していた判断の型では対応できない場面が増える。これは能力の問題ではなく、見るべき範囲が変わったということです。
コンセプチュアルスキルは測れるのか
コンセプチュアルスキルは、多様な能力やマインドセットの組み合わせで発揮されるため、単一の指標で測ることが困難です。ただし、日々の仕事の場面に置き換えれば、ある程度の傾向はつかめます。
以下は、マネジャー自身の状態を振り返るための質問です。直近3ヶ月の自分の仕事を思い浮かべながら、当てはまるものを数えてみてください。
8個以上あてはまるなら、全体を捉える視点はすでに働いています。4個から7個なら、場面によって発揮できたりできなかったりする状態です。3個以下の場合は、見るべき範囲を広げる余地があります。
ただし、これは能力を判定するものではありません。権限の範囲や情報の届き方によっても、答えは変わります。低く出た項目があれば、それが「自分に足りないもの」なのか「環境がそうさせているもの」なのかを、まず切り分けてみてください。
より体系的に測りたい場合は、外部の診断サービスもあります。ただしコンセプチュアルスキルだけを単独で測る公的な指標は存在せず、いずれも関連するスキルを間接的に評価するものである点は踏まえておいてください。
- PMstyleコンセプチュアルスキル診断(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス)
- 能力自己診断(一般社団法人 日本経営協会)
コンセプチュアルスキルは学習できるのか
カッツは、管理職に必要な3つのスキルは先天的に備わっている場合もあるが、トレーニングによって高められるものだと主張しています。そしてその方法の一つとして挙げているのが、上司によるコーチングです。
部下に責任ある仕事を任せ、助けを求められたときにも、すぐ答えを渡すのではなく、問いを返して考えを促す。1955年の論文が示したこの方法は、現代の職場では1on1として実践できます。
1on1は、コンセプチュアルスキルを鍛える場になり得る
1on1だけが育成の場ではありません。業務レビューでも、プロジェクトの振り返りでも同じことはできます。ただ、具体的な出来事を定期的に振り返り、考え方そのものに働きかけられる点で、1on1は適した機会になります。
ポイントは、答えだけを渡さないことです。目の前の問題を解決したうえで、その問題を一段上から眺める視点も一緒に渡す。カッツも、部下が助けを求めてきた際に、掘り下げる質問や意見を返す方法を示しています。
なお、以下に挙げる問いはカッツ本人が示したものではなく、その考え方を1on1の場面に落とし込んだものです。
その場で答えが返ってこなくても構いません。「考えたことがなかった」という反応があれば、それまで使っていなかった視点に気づいたということです。無理に結論を出させず、次回までの宿題にする方法もあります。
ただし、この問いかけには一定の信頼関係が必要です。関係ができていない状態で「なぜ」「そもそも」と問い続ければ、思考を促す質問ではなく、詰問や能力の値踏みとして受け取られます。正解を試すのではなく、一緒に問題を捉え直したいという意図が伝わっていることが前提です。
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もう一つの方法は「仕事の交換」
もう一つの有効な方法としてカッツが挙げているのが「仕事の交換」です。今やっているのと同程度の責任レベルの別の仕事に異動させるのです。これにより、相手の立場に立って物事を見る機会を得られます。
これは、日本の伝統的な会社が定期異動によってゼネラリストを育てる方法と似ています。しかし日本企業の場合は、正社員全員に様々な仕事を経験させ、その中で能力を発揮した者を上に引き上げるというやり方でした。一方で欧米の場合は、より有望な若手や中堅社員を選抜してそのような経験をさせ、管理職に必要な能力を養わせようとしています。
最近では日本企業でも、次の経営人材候補を選抜して育成しようとする機運が高まっています。
大企業の若手社員がスタートアップに一定期間出向して経験を積む「越境学習」などが注目されているのも、それがコンセプチュアルスキルを高めるのに効果があると考えられるからでしょう。
また部門を超えたプロジェクトに育成対象の社員をアサインしたり、中堅の若手社員からなる疑似役員会(ジュニアボード)を組織して経営課題を議論したり提案をさせたりする機会を与えるといった方法もあります。
コンセプチュアルスキルを高める方法
所属している組織において育成の対象となるかどうかに関わらず、コンセプチュアルスキルを自ら高めるための方法としてどのようなものがあるのでしょうか。
先述した「コンセプチュアルスキルを構成する能力とは」を参考に、自分に足りない部分を鍛えていくという方法があります。またコンセプチュアルスキルをより深く理解するための研修や、コンセプチュアルスキルを鍛えるための研修を受けてみるのも良いでしょう。
一番効果的なのは、コンセプチュアルスキルを求められるような状況に自ら飛び込んで実地で鍛えていくことでしょう。部門横断の社内プロジェクトに参加してみる・越境学習の機会を提供しているプログラムに申し込んでみる・プロボノとしてNPOの活動を手伝ってみるといったことが、普段の業務を離れて会社や社会を俯瞰できる機会となるでしょう。
「つまり」と「例えば」を往復する
とはいえ、部門横断プロジェクトや越境学習は、自分の意思だけで始められるものではありません。もっと手前に、日々の仕事の中でできることがあります。抽象化と具体化を往復させる習慣です。
具体的な出来事に出会ったら「つまり、何が起きているのか」と抽象化する。抽象的な方針を受け取ったら「例えば、何をすることか」と具体化する。この行き来が、物事の構造を捉える筋力になります。
例えば、部下から「A社への提案が通らなかった」と報告を受けたとします。
つまり(抽象化)
・提案の中身ではなく、相手の意思決定プロセスを読めていなかったのではないか
・同じことが他の商談でも起きていないか
例えば(具体化)
・次回は誰が決裁者かを事前に確認する
・提案前に、相手社内の検討フローを聞く
この往復を、会議でも1on1でも意識してみてください。慣れると、目の前の出来事が単発の事象ではなく、構造の一部として見えるようになります。
なお、コンセプチュアルスキルを学べる講座や研修には、以下のようなものがあります。
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