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苦手な部下への一言が、なぜこんなに重いのか――マネジャーを縛る「対人苦手意識」の正体
苦手な部下への一言が、なぜこんなに重いのか――マネジャーを縛る「対人苦手意識」の正体

苦手な部下への一言が、なぜこんなに重いのか――マネジャーを縛る「対人苦手意識」の正体

「この件、あの部下に言わないといけない。でも、どう切り出そう」。そう迷ううちにタイミングを逃し、その日も言えずに終わる——。特定の相手との対話になると気が重くなり、つい後回しにしてしまう。人付き合いに苦手意識を持つマネジャーには、覚えがあるのではないだろうか。

部下を支えるリーダーシップが求められる今、対話から逃げられない場面はむしろ増えている。

なぜ、避けたいのに避けられず、避けるほど苦しくなるのか。対人苦手意識の生成過程を研究する東京未来大学こども心理学部の日向野智子准教授に、その仕組みを聞いた。前編では「なぜ避けてしまうのか」を解き明かす。

日向野 智子
東京未来大学こども心理学部 准教授

昭和女子大学大学院生活機構研究科後期博士課程を修了。博士(学術)。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師などを経て、2013年に東京未来大学こども心理学部専任講師に着任。2017年より現職。専門は対人社会心理学。対人関係における苦手意識や対人ストレス、ソーシャルスキルを主なテーマに研究を続けている。

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目次

「対人苦手意識」とは、特定の誰かへの感情である

苦手意識とうまく付き合うには、その実態を正しく知る必要がある。

日向野准教授の研究する「対人苦手意識」は、あの部下、あの相手という「特定の誰か」に向けて生じる、否定的な感情と消極的な態度のことを指す。それは、二つの感情から成り立っている。

一つは「わずらわしさ」。その人自体や、その人と関わることへの苦手意識である。「嫌だなあ」「仕事でなければ関わらなくて済むのに」「鬱陶しい」——そうしたネガティブな感情が、これにあたる。

こうした苦手意識を、性格上の欠陥や甘えと捉える必要はない。たとえば、腐ったものに「うっ」と顔をしかめるように、嫌悪という感情はもともと自分の身を守るために備わった「防衛反応」である。苦手意識にも、同様の役割があると考えられる。

「その人と関わることで、自分の心の平穏が乱される。だからできるだけ関わらないようにして、心の平穏を保ちたい、取り戻したい。苦手意識は、その何かしらのシグナルになっているんです」(日向野准教授)

苦手意識のもう一つは「懸念」。相手にどう思われるか、どう伝えればよいか、という不安である。とりわけその中核にあるのが、自分がどう評価され、非難されるかを過度に気にする「評価への懸念(評価懸念)」だ。

評価懸念は誰に対しても生じうるもの。とりわけ上司に対する評価懸念はイメージしやすいが、意外と見落とされがちなのが「部下」である。

なぜ、指示する側であるはずの上司が、部下からの評価を気にするのか。

かつては、仕事の成果さえ出せば上司としての立場は成り立っていた。だが今日では、部下を支えられているか(サーバント・リーダーシップ)が問われるようになっている。そして、そのリーダーシップが適切か否かを最も間近で感じ取っているのは、部下自身にほかならない。つまり部下は、上司が「上司たる役割」を果たせているかを評価する主体になりうるのだ。だから、コミュニケーションに自信のない上司ほど、部下から頼りないと見られていないかを過剰に気にしてしまう。

苦手意識が強く表れやすい三つのタイプ

さらに、苦手意識の表れ方、強さには個人差がある。苦手意識が強く表れやすいのは、次の三つのタイプだ。

①場に合わせて振る舞いを変えるのが苦手なタイプ

状況に合わせて自分の見せ方を調整する力を「セルフモニタリング」という。日向野准教授が高校生を対象に行った研究によると、状況や相手の期待に合わせて自分の見せ方を調整するのが苦手な男性は、対人苦手意識が強く表れやすい。その場にふさわしい振る舞いをうまく作れず、対話そのものがぎこちなくなりやすい。

②相手の反応に敏感すぎるタイプ

相手の表情やしぐさや、声色のわずかな変化まで鋭く拾ってしまう。観察力がある裏返しで、相手のネガティブな反応を過剰に読み取り、「どう思われたか」を気にしやすい。この性格が評価懸念をいっそう強める。上述した高校生を対象に行った調査では、相手が何を思っているのかを見抜く感受性の高い女性は、対人苦手意識を抱えやすいことも明らかになっている。

③自分の考えを伝えるのが苦手なタイプ

日向野准教授が保育士・幼稚園教諭を対象に行った研究で、保護者へ「言いづらいこと」を伝える場面での対人苦手意識とストレス反応を調べたものがある。この研究では、自分の意図や感情を正確に伝える「記号化」のコミュニケーション・スキルが低い保育士ほど、苦手な保護者への「わずらわしさ」と「懸念」がともに高まることが確認されている。

ちなみに、これら三つのタイプは独立したものではなく、一人がいくつかを併せ持つことも多いという。

「逃げられない」とき、人は中途半端に回避する

プライベートな人間関係なら、距離を取って逃げることができる。それが自然なことだし、合理的な選択だ。

ただ、上司と部下など、日々顔を合わせ、コミュニケーションをとることが前提になっている関係では、その対処は難しい。

距離が取れないと、心は逃げ場を求める。それが「回避・先送り」だ。対話そのものを避け、フィードバックを後回しにする。しかし、あくまで一時的な退避であり完全には逃げられないので、行動は中途半端なものになる。

評価懸念は、この回避・先送りをいっそう後押しする。

「しかも『気にしないでおこう』と思うほど、かえって相手のことが頭に浮かび、どんどん気になってしまうという現象が心理学的にも検証されています(思考抑制の逆説的効果)。そうなると心のエネルギーを吸い取られ、生産的な思考もストップしてしまいます」(日向野准教授)

こうしたことを繰り返すうちに、苦手意識を感じまいと自分を追い込んだり、ストレスを蓄積したりして、うつ傾向に向かう人もいれば、相手に対して攻撃的になり、ハラスメントに近づいてしまう人もいる。

とりわけ中間管理職は、上司から評価される「部下」であると同時に、部下からも見られる「上司」でもある。評価の視線が上からも下からも注がれるぶん、逃げ場がなく、それを一身に抱え込みやすい立場だといえる。

なぜ、避けるほど苦手意識は強まるのか

やっかいなことに、回避・先送りの行動は、相手への苦手意識をより強化してしまう。その背景には、いくつかの心理メカニズムが折り重なっている。

一つは「社会的抑制」だ。人は、誰かに見られている場面では、不慣れで成功の確率が低いことほどうまくできなくなる。苦手な行動を誰かの前でやるというのはパフォーマンスが下がりやすい状況なのだ。日向野准教授は「苦手な相手との対話は、まさにこの状況に重なる」と言う。

「苦手な行動を、苦手な相手に観察されながら遂行しなければいけない。これは『二重苦』なんです」(日向野准教授)

もう一つは「行動的確証」と呼ばれる現象だ。「この人は苦手だ、どうせうまくいかない」と決めてかかると、無意識のうちに態度がぎこちなく、よそよそしくなる。それが伝わり、相手のネガティブな反応を引き出し、結果として「やっぱり苦手だった」との思い込みを裏づけてしまう。こうして苦手意識が強化されていくのだ。

「例えば『相手から良くない評価をされている』と思いながら面談に臨むと、その人が本来持っているコミュニケーション力が発揮しづらくなってしまいます。自分はうまくやれないだろう、相手はこう出るだろう。そうした前もっての思い込みが、そのまま自分の振る舞いに表れてしまうのです。これは、多くの実験で確認されている現象です」(日向野准教授)

この悪循環の裏側では、もう一つの思い込みが働いている。日向野准教授は、多くの人が陥りがちな傾向を指摘する。

「単に意見や進め方が食い違っているだけの状況を、『あの人とは相性が悪い』『あの人は自分を否定する嫌な人だ』という関係性の対立にすり替えやすい。本来は課題をめぐる対立にすぎないものを、人間どうしの対立だと錯覚してしまうのです。この錯覚が、苦手意識をいっそう固定化させてしまいます」(日向野准教授)

マネジャーが躓く「ミスの指摘」

ここまでは、対人苦手意識が生じ、強まっていくメカニズムを見てきた。ここからは、中間管理職がその苦手意識と直面する「場面」に焦点を当てる。

対人苦手意識の傾向が色濃く表れやすいのは、部下のミスの指摘や、ネガティブなフィードバックをする場面だろう。日向野准教授の研究では、「苦手な部下」にミスを指摘するほうが、「付き合いやすい部下」に対してよりも「わずらわしさ」と「懸念」が高まるという結果が出ている。

相手のプライドを傷つけるおそれ。ハラスメントと受け取られるリスク。反発される可能性への不安。それらが、指摘という仕事から生じる負荷をさらに押し上げるのだ。

興味深いのは、「付き合いやすい部下」にも、一定の言いにくさはあるということだ。

「苦手な部下に対しては、最初から『嫌だな』という感情、つまり関わること自体へのわずらわしさを抱いて向き合っています。対して、関係のよい部下の場合は『どのように伝えたら関係を損ねないか』という懸念のほうが先に立つ。同じいいにくさでも負荷のかかり方が異なります」(日向野准教授)

また、職位(役職・地位)によっても負荷の程度は変わる。男性社会人を対象とした調査では、職位が低いほど「どう思われるか」という懸念が強まりやすい傾向が示されている。事実、部長級よりも一般職級や係長級のほうが、この懸念は強い。

さらに、従業員300人以上の企業の管理職を対象にした調査(坂本他,2024)によると、対人的に過敏だったり、自分を優先しがちだったりする管理職ほど、特定の部下に苦手意識を抱きやすい。これは、男女に共通して見られた傾向だ。

男性管理職の場合、対人過敏傾向や自己優先志向は、部下を支える「サーバント・リーダーシップ」の発揮を弱め、その結果、特定の部下への苦手意識を強めることも確認されている。

いずれにせよ、対人面に過敏さを抱える中間管理職が、日々さまざまな部下と関わり、ときに言いにくいことも伝えていく役割を担うことは、相応の心理的な負担を強いるものだと言えるだろう。

iStock / VioletaStoimenova

苦手は、克服しなくてもいい

ここまで見てきたことを整理しよう。特定の誰かへの苦手意識は「わずらわしさ」と「懸念」から成り、その懸念の核には評価懸念がある。職場でこの苦手意識を抱えると、その人は対話を回避し、先送りしようとする。しかも、苦手な相手を前にすればコミュニケーションは空回りしやすく、「どうせうまくいかない」という思い込みがその現実を招いてしまう。こうして、対話を避けるほど苦手意識はいっそう強まっていく。これが、苦手な部下との相対が重く感じられることの正体である。

ただ、日向野准教授は「対人苦手意識は、無理に克服しなくてよい」と説く。

「その苦手意識を仕事に持ち込まず、態度に出さないようにする。それができれば、苦手なものは苦手のままで全く問題ありません」(日向野准教授)

では、対人苦手意識を克服しないまま、どうマネジメントを成り立たせるのか。後編では、その具体的な対処法について紹介する。

【引用文献】

坂本真士・鈴木雄大・佐久浩子・村中昌紀 (2024). 対人過敏傾向・自己優先志向とサーバント・リーダーシップおよび苦手意識との関連:従業員300名以上の会社の管理職を対象にした調査 キャリア・カウンセリング研究,25, 55-65. https://doi.org/10.34512/careercounseling.25.2_55

(構成:堀尾大悟、撮影:こじ小島マサヒロ)

🔹後編はこちら

『無理に腹を割らなくていい――対人関係が苦手なマネジャーの負荷を下げる二つの方法』

「対人苦手意識」とは、特定の誰かへの感情である

苦手意識とうまく付き合うには、その実態を正しく知る必要がある。

日向野准教授の研究する「対人苦手意識」は、あの部下、あの相手という「特定の誰か」に向けて生じる、否定的な感情と消極的な態度のことを指す。それは、二つの感情から成り立っている。

一つは「わずらわしさ」。その人自体や、その人と関わることへの苦手意識である。「嫌だなあ」「仕事でなければ関わらなくて済むのに」「鬱陶しい」——そうしたネガティブな感情が、これにあたる。

こうした苦手意識を、性格上の欠陥や甘えと捉える必要はない。たとえば、腐ったものに「うっ」と顔をしかめるように、嫌悪という感情はもともと自分の身を守るために備わった「防衛反応」である。苦手意識にも、同様の役割があると考えられる。

「その人と関わることで、自分の心の平穏が乱される。だからできるだけ関わらないようにして、心の平穏を保ちたい、取り戻したい。苦手意識は、その何かしらのシグナルになっているんです」(日向野准教授)

苦手意識のもう一つは「懸念」。相手にどう思われるか、どう伝えればよいか、という不安である。とりわけその中核にあるのが、自分がどう評価され、非難されるかを過度に気にする「評価への懸念(評価懸念)」だ。

評価懸念は誰に対しても生じうるもの。とりわけ上司に対する評価懸念はイメージしやすいが、意外と見落とされがちなのが「部下」である。

なぜ、指示する側であるはずの上司が、部下からの評価を気にするのか。

かつては、仕事の成果さえ出せば上司としての立場は成り立っていた。だが今日では、部下を支えられているか(サーバント・リーダーシップ)が問われるようになっている。そして、そのリーダーシップが適切か否かを最も間近で感じ取っているのは、部下自身にほかならない。つまり部下は、上司が「上司たる役割」を果たせているかを評価する主体になりうるのだ。だから、コミュニケーションに自信のない上司ほど、部下から頼りないと見られていないかを過剰に気にしてしまう。

苦手意識が強く表れやすい三つのタイプ

さらに、苦手意識の表れ方、強さには個人差がある。苦手意識が強く表れやすいのは、次の三つのタイプだ。

①場に合わせて振る舞いを変えるのが苦手なタイプ

状況に合わせて自分の見せ方を調整する力を「セルフモニタリング」という。日向野准教授が高校生を対象に行った研究によると、状況や相手の期待に合わせて自分の見せ方を調整するのが苦手な男性は、対人苦手意識が強く表れやすい。その場にふさわしい振る舞いをうまく作れず、対話そのものがぎこちなくなりやすい。

②相手の反応に敏感すぎるタイプ

相手の表情やしぐさや、声色のわずかな変化まで鋭く拾ってしまう。観察力がある裏返しで、相手のネガティブな反応を過剰に読み取り、「どう思われたか」を気にしやすい。この性格が評価懸念をいっそう強める。上述した高校生を対象に行った調査では、相手が何を思っているのかを見抜く感受性の高い女性は、対人苦手意識を抱えやすいことも明らかになっている。

③自分の考えを伝えるのが苦手なタイプ

日向野准教授が保育士・幼稚園教諭を対象に行った研究で、保護者へ「言いづらいこと」を伝える場面での対人苦手意識とストレス反応を調べたものがある。この研究では、自分の意図や感情を正確に伝える「記号化」のコミュニケーション・スキルが低い保育士ほど、苦手な保護者への「わずらわしさ」と「懸念」がともに高まることが確認されている。

ちなみに、これら三つのタイプは独立したものではなく、一人がいくつかを併せ持つことも多いという。

「逃げられない」とき、人は中途半端に回避する

プライベートな人間関係なら、距離を取って逃げることができる。それが自然なことだし、合理的な選択だ。

ただ、上司と部下など、日々顔を合わせ、コミュニケーションをとることが前提になっている関係では、その対処は難しい。

距離が取れないと、心は逃げ場を求める。それが「回避・先送り」だ。対話そのものを避け、フィードバックを後回しにする。しかし、あくまで一時的な退避であり完全には逃げられないので、行動は中途半端なものになる。

評価懸念は、この回避・先送りをいっそう後押しする。

「しかも『気にしないでおこう』と思うほど、かえって相手のことが頭に浮かび、どんどん気になってしまうという現象が心理学的にも検証されています(思考抑制の逆説的効果)。そうなると心のエネルギーを吸い取られ、生産的な思考もストップしてしまいます」(日向野准教授)

こうしたことを繰り返すうちに、苦手意識を感じまいと自分を追い込んだり、ストレスを蓄積したりして、うつ傾向に向かう人もいれば、相手に対して攻撃的になり、ハラスメントに近づいてしまう人もいる。

とりわけ中間管理職は、上司から評価される「部下」であると同時に、部下からも見られる「上司」でもある。評価の視線が上からも下からも注がれるぶん、逃げ場がなく、それを一身に抱え込みやすい立場だといえる。

なぜ、避けるほど苦手意識は強まるのか

やっかいなことに、回避・先送りの行動は、相手への苦手意識をより強化してしまう。その背景には、いくつかの心理メカニズムが折り重なっている。

一つは「社会的抑制」だ。人は、誰かに見られている場面では、不慣れで成功の確率が低いことほどうまくできなくなる。苦手な行動を誰かの前でやるというのはパフォーマンスが下がりやすい状況なのだ。日向野准教授は「苦手な相手との対話は、まさにこの状況に重なる」と言う。

「苦手な行動を、苦手な相手に観察されながら遂行しなければいけない。これは『二重苦』なんです」(日向野准教授)

もう一つは「行動的確証」と呼ばれる現象だ。「この人は苦手だ、どうせうまくいかない」と決めてかかると、無意識のうちに態度がぎこちなく、よそよそしくなる。それが伝わり、相手のネガティブな反応を引き出し、結果として「やっぱり苦手だった」との思い込みを裏づけてしまう。こうして苦手意識が強化されていくのだ。

「例えば『相手から良くない評価をされている』と思いながら面談に臨むと、その人が本来持っているコミュニケーション力が発揮しづらくなってしまいます。自分はうまくやれないだろう、相手はこう出るだろう。そうした前もっての思い込みが、そのまま自分の振る舞いに表れてしまうのです。これは、多くの実験で確認されている現象です」(日向野准教授)

この悪循環の裏側では、もう一つの思い込みが働いている。日向野准教授は、多くの人が陥りがちな傾向を指摘する。

「単に意見や進め方が食い違っているだけの状況を、『あの人とは相性が悪い』『あの人は自分を否定する嫌な人だ』という関係性の対立にすり替えやすい。本来は課題をめぐる対立にすぎないものを、人間どうしの対立だと錯覚してしまうのです。この錯覚が、苦手意識をいっそう固定化させてしまいます」(日向野准教授)

マネジャーが躓く「ミスの指摘」

ここまでは、対人苦手意識が生じ、強まっていくメカニズムを見てきた。ここからは、中間管理職がその苦手意識と直面する「場面」に焦点を当てる。

対人苦手意識の傾向が色濃く表れやすいのは、部下のミスの指摘や、ネガティブなフィードバックをする場面だろう。日向野准教授の研究では、「苦手な部下」にミスを指摘するほうが、「付き合いやすい部下」に対してよりも「わずらわしさ」と「懸念」が高まるという結果が出ている。

相手のプライドを傷つけるおそれ。ハラスメントと受け取られるリスク。反発される可能性への不安。それらが、指摘という仕事から生じる負荷をさらに押し上げるのだ。

興味深いのは、「付き合いやすい部下」にも、一定の言いにくさはあるということだ。

「苦手な部下に対しては、最初から『嫌だな』という感情、つまり関わること自体へのわずらわしさを抱いて向き合っています。対して、関係のよい部下の場合は『どのように伝えたら関係を損ねないか』という懸念のほうが先に立つ。同じいいにくさでも負荷のかかり方が異なります」(日向野准教授)

また、職位(役職・地位)によっても負荷の程度は変わる。男性社会人を対象とした調査では、職位が低いほど「どう思われるか」という懸念が強まりやすい傾向が示されている。事実、部長級よりも一般職級や係長級のほうが、この懸念は強い。

さらに、従業員300人以上の企業の管理職を対象にした調査(坂本他,2024)によると、対人的に過敏だったり、自分を優先しがちだったりする管理職ほど、特定の部下に苦手意識を抱きやすい。これは、男女に共通して見られた傾向だ。

男性管理職の場合、対人過敏傾向や自己優先志向は、部下を支える「サーバント・リーダーシップ」の発揮を弱め、その結果、特定の部下への苦手意識を強めることも確認されている。

いずれにせよ、対人面に過敏さを抱える中間管理職が、日々さまざまな部下と関わり、ときに言いにくいことも伝えていく役割を担うことは、相応の心理的な負担を強いるものだと言えるだろう。

iStock / VioletaStoimenova

苦手は、克服しなくてもいい

ここまで見てきたことを整理しよう。特定の誰かへの苦手意識は「わずらわしさ」と「懸念」から成り、その懸念の核には評価懸念がある。職場でこの苦手意識を抱えると、その人は対話を回避し、先送りしようとする。しかも、苦手な相手を前にすればコミュニケーションは空回りしやすく、「どうせうまくいかない」という思い込みがその現実を招いてしまう。こうして、対話を避けるほど苦手意識はいっそう強まっていく。これが、苦手な部下との相対が重く感じられることの正体である。

ただ、日向野准教授は「対人苦手意識は、無理に克服しなくてよい」と説く。

「その苦手意識を仕事に持ち込まず、態度に出さないようにする。それができれば、苦手なものは苦手のままで全く問題ありません」(日向野准教授)

では、対人苦手意識を克服しないまま、どうマネジメントを成り立たせるのか。後編では、その具体的な対処法について紹介する。

【引用文献】

坂本真士・鈴木雄大・佐久浩子・村中昌紀 (2024). 対人過敏傾向・自己優先志向とサーバント・リーダーシップおよび苦手意識との関連:従業員300名以上の会社の管理職を対象にした調査 キャリア・カウンセリング研究,25, 55-65. https://doi.org/10.34512/careercounseling.25.2_55

(構成:堀尾大悟、撮影:こじ小島マサヒロ)

🔹後編はこちら

『無理に腹を割らなくていい――対人関係が苦手なマネジャーの負荷を下げる二つの方法』

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執筆者
下元陽

「1on1総研」編集長。クリエイターチーム「BLOCKBUSTER」、ミクシィ、朝日新聞社、ユーザベースを経て2025年KAKEAI入社。これからの人間のつながり方に関心があります。

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