
なぜ日本の1on1は、やるだけになるのか。置き去りにされた「本来の目的」
国内企業に広く普及した1on1ですが、現場からは「形だけになっている」「何を話せばいいかわからない」という声も聞こえてきます。
もともと米国で始まった1on1は、日本という異なる土壌でどのように育ち、変化してきたのか。
外資系企業で約30年にわたり人事・経営に携わり、日本でもいち早く1on1を導入した経験を持つFunleash CEOの志水静香氏と、KAKEAI代表取締役社長の皆川恵美が語り合いました。ファシリテーターを務めるのは、組織人事領域のコンサルティングを手がけるPwCコンサルティングの土橋隼人氏です。
前編では、国内企業で1on1がどう運用されているのかを確認したうえで、米国企業がそもそも何のために1on1を始めたのかをたどります。日米の「目的」の違いが、議論のなかで輪郭を現していきます。

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導入は広がるも、消えない「やらされ感」
土橋 この数年、 国内企業への1on1の導入が進んだ一方で、対話が形式的なものにとどまっているという声も耳にします。特定の目的を持って米国で始まった1on1が、国内で元々の文脈から切り離されて形を変えて広がる中で、本来の目的が置き去りにされているのではないか。そんな問題意識もあるのですが、多くの組織の1on1を支援している皆川さんは、国内企業の状況をどう捉えていますか。

皆川 日本で1on1が広まったきっかけは、コロナ禍のリモートワーク下で、コミュニケーションの場をつくる必要に迫られたことだと認識しています。そこからビジネス環境が大きく変わる中で、従来より目的意識を強めて1on1に取り組もうという流れが強まっています。
例えば、1on1をエンゲージメントサーベイと組み合わせ、メンバーのやりがい向上や組織の風通しの改善を狙う。最近ではキャリア自律や、パフォーマンスマネジメント、つまり業績や成果の向上に直接つなげようという企業も増えています。組織としてあるべき姿を目指す手段として、1on1を位置づける企業が多くなってきた、という変化です。
他方で、現場の多忙さゆえに時間が取れない、キャリア自律を求められてもそれに資する対話ができないなど、環境の変化や目的の多様化に応じて、さまざまな課題の声も耳にする機会が増えています。
土橋 個人的にはメンバーのケアを目的に運用している企業が多いと思っていたのですが、実際はそうでもない、と。そこは少し意外ですね。
皆川 ご指摘のとおり、離職を減らしたい、新入社員や若手をケアしたい、拠点が分散しているためつながりを保ちたい、といったケア起点の導入は確かにありますが、狙いはかなり多様化しています。
また、組織に導入されるルートもさまざまです。主流は今なお人事発ですが、この数年は事業部起点で始まるケースも増えています。エンゲージメントスコアを伸ばしたい、リーダー層を育成したい、ヒヤリハット系の問題を解消したい、といった自部門固有の課題を解くために事業部が自ら動くケースです。

志水 導入の起点が事業部か人事かによって、目的も変わってくるかもしれませんね。あくまで個人的な印象ですが、1on1が機能していないケースは、人事主導で一斉に導入している場合が多いように思います。「やってください」という号令で、やらされ感のまま実施すると、形骸化に陥りやすい。これは自分の経験としてもありますし、よく聞く話です。
「人が競争力の源泉」──米国で1on1が取り入れられた理由
土橋 志水さんは国内でも、かなり早い時期に1on1を導入されています。そもそも米国では、どのような背景から1on1が広がり、どんな目的で運用されていたのでしょうか。
志水 まず当時の時代環境を振り返ると、マクロな視点では、2000年前後にマーケットの大きな転換が進みつつありました。ビッグ・テックが台頭し始め、それまで比較的安定していた大企業が、先行きの見えにくい、複雑な環境の中で強烈な危機感を持ち始めました。テクノロジーが急速に進化し、グローバル化も進んだ。そして何より、工場で手を動かす働き方から、イノベーションを生み出すナレッジワーカーへと、価値を生む働き手の中心が移りました。
そうした時代の変化の中で、2012年頃からシリコンバレーの大手テック企業を中心に1on1の導入が広がり始めました。当時、私たちは1on1の導入に際して、まず何のためにやるのか、その目的を明確にするためにリサーチから始めました。実際に先行して1on1を導入していた企業へ、米国本社のメンバーとインタビューに行ったのです。各社が1on1の導入に踏み切った理由として最も大きかったのは、「人が競争力の源泉である」という認識です。一人のエンジニアのアイデアから何百億円、何千億円規模の事業が生まれる世界が、すでに実現していました。だからこそ、人の可能性を引き出し、人にきちんと投資する。そのために1対1の対話を行う。実際、米国西海岸では人材の争奪戦が繰り広げられていたので、離職を防ぐという狙いもあったかもしれませんが、それはあくまで1on1の狙いの一側面という認識です。

もう一つ、私が各社に話を聞く中で感じたのは「求心力」の醸成の必要性です。エンジニアには、自分の関心や興味を突き詰めていく、個性的な人が多い。その人たちに会社のビジョンに共感してもらい、組織が目指す方向に向かって一緒に歩んでもらう。そのための手段としても、1on1が機能していたのです。その1on1の在り方に共感して、私たちも2013年頃に自社への導入を決めました。国内では2014年に導入しているので、かなり早い時期だったと思います。

土橋 1on1の目的として、コンディションの把握などもありながら、競争力の向上などビジネスの前進が明確に語られるところに特徴を感じます。これは国内企業が1on1の目的を語るときには、あまり出てこない視点のように思いますが、皆川さんはどう感じますか。
皆川 直近1、2年で日本の大手企業様が目指しているのは、まさに志水さんがおっしゃったような1on1の在り方なのだろうと思います。
最近はあまり聞かなくなりましたが、1on1では足元の業務の話を一切NGとする企業様もいらっしゃいます。せっかく1対1で話す場を設けるなら、先ほど志水さんがおっしゃったような話題、例えばメンバーのやりたいことと会社の方針を重ね合わせたら何ができるか、それを続けるとメンバーにどんな力がつくのか──そういったことを考える場にしていこう、と。

志水 なるほど。ただ、多くの企業がその狙い通りに1on1ができているかというと、私はやや懐疑的です。パフォーマンスマネジメントの一環として1on1を取り入れている会社は多いのですが、それは私が見てきた「マーケットで勝つための1on1」とは、目的の置き方が少し違うように感じています。
MBO(目標管理)に基づくパフォーマンスマネジメントとは、本来、会社の計画や戦略がまずあり、それが現場、そして個人の目標に落とし込まれたうえで行われるものです。ところが実際には、組織の全体戦略と現場の目標が整合していないなど、分断が見られるように思います。
土橋 私も近い感想を持っています。仮に1on1が足元の業務に踏み込むようになってきているとして、その「業務の話」が、実際には日々のToDoや進捗の管理にとどまっているケースもあるのではないでしょうか。ひと口に「業務の話」といっても、日々のタスクをさばくための対話と、メンバーの力を伸ばして成果につなげる対話とでは、少し毛色が違います。前者を重ねることが、そのまま後者、つまりパフォーマンスの向上につながるとは限りません。国内企業が後者を実践するには、いまの対話の延長線上ではなく、現状からもう一つ上の段階にジャンプすることが必要なのかもしれません。
(構成:加藤智朗、撮影:小島マサヒロ)
導入は広がるも、消えない「やらされ感」
土橋 この数年、 国内企業への1on1の導入が進んだ一方で、対話が形式的なものにとどまっているという声も耳にします。特定の目的を持って米国で始まった1on1が、国内で元々の文脈から切り離されて形を変えて広がる中で、本来の目的が置き去りにされているのではないか。そんな問題意識もあるのですが、多くの組織の1on1を支援している皆川さんは、国内企業の状況をどう捉えていますか。

皆川 日本で1on1が広まったきっかけは、コロナ禍のリモートワーク下で、コミュニケーションの場をつくる必要に迫られたことだと認識しています。そこからビジネス環境が大きく変わる中で、従来より目的意識を強めて1on1に取り組もうという流れが強まっています。
例えば、1on1をエンゲージメントサーベイと組み合わせ、メンバーのやりがい向上や組織の風通しの改善を狙う。最近ではキャリア自律や、パフォーマンスマネジメント、つまり業績や成果の向上に直接つなげようという企業も増えています。組織としてあるべき姿を目指す手段として、1on1を位置づける企業が多くなってきた、という変化です。
他方で、現場の多忙さゆえに時間が取れない、キャリア自律を求められてもそれに資する対話ができないなど、環境の変化や目的の多様化に応じて、さまざまな課題の声も耳にする機会が増えています。
土橋 個人的にはメンバーのケアを目的に運用している企業が多いと思っていたのですが、実際はそうでもない、と。そこは少し意外ですね。
皆川 ご指摘のとおり、離職を減らしたい、新入社員や若手をケアしたい、拠点が分散しているためつながりを保ちたい、といったケア起点の導入は確かにありますが、狙いはかなり多様化しています。
また、組織に導入されるルートもさまざまです。主流は今なお人事発ですが、この数年は事業部起点で始まるケースも増えています。エンゲージメントスコアを伸ばしたい、リーダー層を育成したい、ヒヤリハット系の問題を解消したい、といった自部門固有の課題を解くために事業部が自ら動くケースです。

志水 導入の起点が事業部か人事かによって、目的も変わってくるかもしれませんね。あくまで個人的な印象ですが、1on1が機能していないケースは、人事主導で一斉に導入している場合が多いように思います。「やってください」という号令で、やらされ感のまま実施すると、形骸化に陥りやすい。これは自分の経験としてもありますし、よく聞く話です。
「人が競争力の源泉」──米国で1on1が取り入れられた理由
土橋 志水さんは国内でも、かなり早い時期に1on1を導入されています。そもそも米国では、どのような背景から1on1が広がり、どんな目的で運用されていたのでしょうか。
志水 まず当時の時代環境を振り返ると、マクロな視点では、2000年前後にマーケットの大きな転換が進みつつありました。ビッグ・テックが台頭し始め、それまで比較的安定していた大企業が、先行きの見えにくい、複雑な環境の中で強烈な危機感を持ち始めました。テクノロジーが急速に進化し、グローバル化も進んだ。そして何より、工場で手を動かす働き方から、イノベーションを生み出すナレッジワーカーへと、価値を生む働き手の中心が移りました。
そうした時代の変化の中で、2012年頃からシリコンバレーの大手テック企業を中心に1on1の導入が広がり始めました。当時、私たちは1on1の導入に際して、まず何のためにやるのか、その目的を明確にするためにリサーチから始めました。実際に先行して1on1を導入していた企業へ、米国本社のメンバーとインタビューに行ったのです。各社が1on1の導入に踏み切った理由として最も大きかったのは、「人が競争力の源泉である」という認識です。一人のエンジニアのアイデアから何百億円、何千億円規模の事業が生まれる世界が、すでに実現していました。だからこそ、人の可能性を引き出し、人にきちんと投資する。そのために1対1の対話を行う。実際、米国西海岸では人材の争奪戦が繰り広げられていたので、離職を防ぐという狙いもあったかもしれませんが、それはあくまで1on1の狙いの一側面という認識です。

もう一つ、私が各社に話を聞く中で感じたのは「求心力」の醸成の必要性です。エンジニアには、自分の関心や興味を突き詰めていく、個性的な人が多い。その人たちに会社のビジョンに共感してもらい、組織が目指す方向に向かって一緒に歩んでもらう。そのための手段としても、1on1が機能していたのです。その1on1の在り方に共感して、私たちも2013年頃に自社への導入を決めました。国内では2014年に導入しているので、かなり早い時期だったと思います。

土橋 1on1の目的として、コンディションの把握などもありながら、競争力の向上などビジネスの前進が明確に語られるところに特徴を感じます。これは国内企業が1on1の目的を語るときには、あまり出てこない視点のように思いますが、皆川さんはどう感じますか。
皆川 直近1、2年で日本の大手企業様が目指しているのは、まさに志水さんがおっしゃったような1on1の在り方なのだろうと思います。
最近はあまり聞かなくなりましたが、1on1では足元の業務の話を一切NGとする企業様もいらっしゃいます。せっかく1対1で話す場を設けるなら、先ほど志水さんがおっしゃったような話題、例えばメンバーのやりたいことと会社の方針を重ね合わせたら何ができるか、それを続けるとメンバーにどんな力がつくのか──そういったことを考える場にしていこう、と。

志水 なるほど。ただ、多くの企業がその狙い通りに1on1ができているかというと、私はやや懐疑的です。パフォーマンスマネジメントの一環として1on1を取り入れている会社は多いのですが、それは私が見てきた「マーケットで勝つための1on1」とは、目的の置き方が少し違うように感じています。
MBO(目標管理)に基づくパフォーマンスマネジメントとは、本来、会社の計画や戦略がまずあり、それが現場、そして個人の目標に落とし込まれたうえで行われるものです。ところが実際には、組織の全体戦略と現場の目標が整合していないなど、分断が見られるように思います。
土橋 私も近い感想を持っています。仮に1on1が足元の業務に踏み込むようになってきているとして、その「業務の話」が、実際には日々のToDoや進捗の管理にとどまっているケースもあるのではないでしょうか。ひと口に「業務の話」といっても、日々のタスクをさばくための対話と、メンバーの力を伸ばして成果につなげる対話とでは、少し毛色が違います。前者を重ねることが、そのまま後者、つまりパフォーマンスの向上につながるとは限りません。国内企業が後者を実践するには、いまの対話の延長線上ではなく、現状からもう一つ上の段階にジャンプすることが必要なのかもしれません。
(構成:加藤智朗、撮影:小島マサヒロ)








