
出張続きの営業組織で、1on1だけは譲らない理由
良い上司に恵まれた人は、その経験を、部下へと受け渡していく。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の九州サプライヤー営業部を率いる島岡真澄さんも、その一人だ。
外勤のメンバーが多く、全員が顔をそろえるのは週に一度。自身も客先訪問で不在にしがちだが、部下との1on1は毎月欠かさない。
出張の多い組織で、チーム内のコミュニケーションを、どう成り立たせているのか。その工夫を島岡さんに聞いた。
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「会えない組織」で、接点をどうつくるか
——SMFLは大手総合リース会社です。九州サプライヤー営業部は、どのような事業を展開しているのでしょうか。
島岡 リース営業には、モノを使う側にアプローチする「ユーザー営業」と、モノを売る側にアプローチする「サプライヤー営業」があります。私たちは後者の「サプライヤー営業」です。
たとえば、メーカーが数百万円する機械を販売するとします。買い手が一括払いではなく分割払いを希望される場合、私たちがリースという形でファイナンス機能を提供し、買い手と契約を結びます。私たちは、この仕組みを通じて、サプライヤーの販売機会の拡大を支援しています。
営業エリアは九州全域と沖縄で、世界トップクラスのメーカーや、地元の老舗商社などが取引先となります。
——組織体制を教えてください。
島岡 18人の営業組織で、全員が福岡の営業所を拠点にしています。内勤と外勤に分かれ、内勤の5人は九州全域に電話で営業をかけます。外勤は各県に1人ずつ担当者がおり、範囲の広い福岡のみ複数人で受け持っています。
福岡県内は日帰りで訪問できますが、福岡以外の営業担当は火曜から木曜にかけて担当エリアに出張します。基本、日中に一人で客先を回り、夜はホテルで食事をとり、翌朝また次の街へ向かう。彼らの中には単身赴任も多く、物理的にも心理的にも孤独を感じやすい点が課題です。

——島岡さん自身は、普段どのような働き方をしていますか。
島岡 私は全体を統括しながら、内勤部隊と九州全域および沖縄の営業チームを管掌しています。部下の商談に同行することも多く、外出や出張の機会が少なくありません。
——外回りが中心で、メンバーが一堂に会する時間は限られます。チーム内のコミュニケーションは、どう成り立たせているのでしょうか。
島岡 まず、毎週月曜日は全員が営業所に集まる日と決め、会議や勉強会はこの日に集約しています。
次に、私自身が日課にしているのが、いわゆる「Management by Walking Around」です。その日に話す相手を一人決め、自らそのメンバーの席へ出向き、合計1分ほど言葉を交わします。朝に少し、午後にまた少し、と何度かに分けてです。たった1分でも、相手を変えながら毎日続けていくと、メンバーの中に「気にかけてもらえている」という感覚が積み重なっていきます。
こうした日常的な会話とは別に、月1回の定期的な1on1を設けています。私だけでなく、その下の副部長、さらに各チームのリーダーも、それぞれの担当メンバーと1on1を行っています。ですからメンバーは、立場の違う上司と月に3回、一対一で話す機会があります。
——1on1のスケジュール調整はどう進めているのでしょうか。
島岡 出張組は福岡に戻ってくる月曜か金曜、内勤組は火・水・木と振り分け、私から予定を入れています。たとえばメンバーAさんには「この日のこの30分」と決め、Outlookで会議室を押さえて予定を送り、承諾してもらいます。予定が合わなければ、別の時間や別の日で調整する。1on1の対象者は16人いるので、これを16回やります。

予定の押さえ方には、いくつかやり方があります。自分の空いている時間帯をまとめて確保し、そこへ各自に入れてもらうこともできる。ただ、私はあえて、一人ずつ送るようにしています。そのほうが、メンバーは「自分のために、時間をつくってくれた」と、より強く感じてくれるからです。社内の研修で「1on1をうまく進めるコツは?」と聞かれたときも、いつもそうお伝えしています。
—— 多忙な日々の中で、1on1の優先度が下がることはありませんか。
島岡 ありません。よく「営業同行中に部下と話すのなら、1on1は不要ではないか」と言う人がいますが、両者は異なる仕事です。たとえ同行中に会話をしたとしても、1on1の時間は別に設けます。
—— なぜ、そこまで1on1の優先度を高く位置付け、忙しい中でも実行に移せているのでしょうか。
島岡 強いて言えば、自分自身が、上司にそうしてもらってきたからです。当社の役員や前職の上司も、必ず1on1の時間を取ってくれました。それがありがたかったし、良い体験として残っています。だから、自分もやる。それだけです。
また、当社では、管理職にとって部下育成は重要な役割の一つとされています。育成のために1on1をやるのは、自然なことです。
「記録し、見せる」信頼高める対話の工夫
——島岡さんは、1on1をどのような話をする場として位置付けていますか。
島岡 「目の前の業務」以外の話をする場です。翌日のアポ、資料の直し、足りない数字。そうした話は、ここでは一切しません。部下を詰める時間になってしまいますから。進捗の確認は、週1回・1時間半の業務ミーティングで別途実施しています。
1on1では、悩みごとやキャリアの相談が多いです。「出世したい」「東京に戻りたい」という話が出たら、そのために今年はどんな評価がいるか、私はどんなサポートができるか、を一緒に考える。すると部下からも「だったら、こういう仕事をやらせてください」と返ってきます。

——対話の質を高めるために、工夫していることはありますか。
島岡 私は15年以上前から1on1に取り組んでいますが、その間続けているのが、部下一人につき一冊、専用のノートを用意し、その日に話したことを書き留め、最後に「こう書いたよ」と本人に見せること。それだけで、部下は「ちゃんと見てくれている」と感じ、積極的に話してくれるようになります。
1on1の中で決めたことも、その場で残します。たとえば「親の介護で週に1回休みたい」と言われたら、「許可する」と書いて本人に見せます。するとメンバーも堂々と休めますし、そのぶん仕事で返そうと奮起してくれます。「今期はA評価を取る」といった宣言も書き残しておけば、年末の評価で「あのとき、こう言っていたね」と振り返れます。
このやり方自体は、前職の人事部長が大学ノートでやっていたのを真似たものです。いまでこそ記録する場所をデジタルノートに移しましたが、1on1のスタイルは当時から変わりません。

——現在、1on1支援ツール「Kakeai」を導入しています。ツールを取り入れることの価値をどう考えますか。
島岡 「Kakeai」の良さは、いま話した「記録を見せる」が、最初から仕組みになっているところです。話した内容が自動で残り、上司と部下が同じ画面を見られる。私が手作業でやってきたことが、そのまま形になっている感覚です。部下からも「見える化されていて良い」と言われます。
アイスブレイクの「サイコロトーク」も使っています。どんなに親しい間柄でも、いきなり一対一で向き合えば身構えます。だからまずは、雑談で場を温める。先日も「好きな本は?」というお題から、「その本はいつ読んだんですか?」「実は、あのプロジェクトのときに」と話が広がっていきました。こうした雑談が、そのまま仕事の話の入り口になるのが理想ですね。
——島岡さんにとって、良い1on1とは、どのようなものでしょうか。
島岡 終わったあとに、相手の顔つきが変わっていることがあるじゃないですか。言いたいことを言い終えて、「ああ、すっきりした」って(笑)。そういう表情が引き出せれば、良かったなと思います。

——1on1を積み重ねることで、どのような効果が生まれるとお考えですか。
島岡 最も大きな効果は、こちらの方針を、現場が素直に受け止めてくれるようになることです。たとえば苦しい局面で「ここまでやろう」と発破をかけても、関係の薄い上司の言葉では、現場は動きません。逆に、「この上司は自分をちゃんと見てくれている」と部下が感じていれば、同じ言葉でも受け止め方が変わり、力を貸してくれます。
だからこそ、今年4月にこの部署へ着任が決まったときも、その直前に全員と1on1をしました。「次の部長はどんな人間か」と身構えられる前に、一度しっかり話して、味方になってもらうためです。
何かを動かすより先に、関係を耕しておく。1on1は、そのための重要な営みだと思います。
(撮影:東野正吾)
「会えない組織」で、接点をどうつくるか
——SMFLは大手総合リース会社です。九州サプライヤー営業部は、どのような事業を展開しているのでしょうか。
島岡 リース営業には、モノを使う側にアプローチする「ユーザー営業」と、モノを売る側にアプローチする「サプライヤー営業」があります。私たちは後者の「サプライヤー営業」です。
たとえば、メーカーが数百万円する機械を販売するとします。買い手が一括払いではなく分割払いを希望される場合、私たちがリースという形でファイナンス機能を提供し、買い手と契約を結びます。私たちは、この仕組みを通じて、サプライヤーの販売機会の拡大を支援しています。
営業エリアは九州全域と沖縄で、世界トップクラスのメーカーや、地元の老舗商社などが取引先となります。
——組織体制を教えてください。
島岡 18人の営業組織で、全員が福岡の営業所を拠点にしています。内勤と外勤に分かれ、内勤の5人は九州全域に電話で営業をかけます。外勤は各県に1人ずつ担当者がおり、範囲の広い福岡のみ複数人で受け持っています。
福岡県内は日帰りで訪問できますが、福岡以外の営業担当は火曜から木曜にかけて担当エリアに出張します。基本、日中に一人で客先を回り、夜はホテルで食事をとり、翌朝また次の街へ向かう。彼らの中には単身赴任も多く、物理的にも心理的にも孤独を感じやすい点が課題です。

——島岡さん自身は、普段どのような働き方をしていますか。
島岡 私は全体を統括しながら、内勤部隊と九州全域および沖縄の営業チームを管掌しています。部下の商談に同行することも多く、外出や出張の機会が少なくありません。
——外回りが中心で、メンバーが一堂に会する時間は限られます。チーム内のコミュニケーションは、どう成り立たせているのでしょうか。
島岡 まず、毎週月曜日は全員が営業所に集まる日と決め、会議や勉強会はこの日に集約しています。
次に、私自身が日課にしているのが、いわゆる「Management by Walking Around」です。その日に話す相手を一人決め、自らそのメンバーの席へ出向き、合計1分ほど言葉を交わします。朝に少し、午後にまた少し、と何度かに分けてです。たった1分でも、相手を変えながら毎日続けていくと、メンバーの中に「気にかけてもらえている」という感覚が積み重なっていきます。
こうした日常的な会話とは別に、月1回の定期的な1on1を設けています。私だけでなく、その下の副部長、さらに各チームのリーダーも、それぞれの担当メンバーと1on1を行っています。ですからメンバーは、立場の違う上司と月に3回、一対一で話す機会があります。
——1on1のスケジュール調整はどう進めているのでしょうか。
島岡 出張組は福岡に戻ってくる月曜か金曜、内勤組は火・水・木と振り分け、私から予定を入れています。たとえばメンバーAさんには「この日のこの30分」と決め、Outlookで会議室を押さえて予定を送り、承諾してもらいます。予定が合わなければ、別の時間や別の日で調整する。1on1の対象者は16人いるので、これを16回やります。

予定の押さえ方には、いくつかやり方があります。自分の空いている時間帯をまとめて確保し、そこへ各自に入れてもらうこともできる。ただ、私はあえて、一人ずつ送るようにしています。そのほうが、メンバーは「自分のために、時間をつくってくれた」と、より強く感じてくれるからです。社内の研修で「1on1をうまく進めるコツは?」と聞かれたときも、いつもそうお伝えしています。
—— 多忙な日々の中で、1on1の優先度が下がることはありませんか。
島岡 ありません。よく「営業同行中に部下と話すのなら、1on1は不要ではないか」と言う人がいますが、両者は異なる仕事です。たとえ同行中に会話をしたとしても、1on1の時間は別に設けます。
—— なぜ、そこまで1on1の優先度を高く位置付け、忙しい中でも実行に移せているのでしょうか。
島岡 強いて言えば、自分自身が、上司にそうしてもらってきたからです。当社の役員や前職の上司も、必ず1on1の時間を取ってくれました。それがありがたかったし、良い体験として残っています。だから、自分もやる。それだけです。
また、当社では、管理職にとって部下育成は重要な役割の一つとされています。育成のために1on1をやるのは、自然なことです。
「記録し、見せる」信頼高める対話の工夫
——島岡さんは、1on1をどのような話をする場として位置付けていますか。
島岡 「目の前の業務」以外の話をする場です。翌日のアポ、資料の直し、足りない数字。そうした話は、ここでは一切しません。部下を詰める時間になってしまいますから。進捗の確認は、週1回・1時間半の業務ミーティングで別途実施しています。
1on1では、悩みごとやキャリアの相談が多いです。「出世したい」「東京に戻りたい」という話が出たら、そのために今年はどんな評価がいるか、私はどんなサポートができるか、を一緒に考える。すると部下からも「だったら、こういう仕事をやらせてください」と返ってきます。

——対話の質を高めるために、工夫していることはありますか。
島岡 私は15年以上前から1on1に取り組んでいますが、その間続けているのが、部下一人につき一冊、専用のノートを用意し、その日に話したことを書き留め、最後に「こう書いたよ」と本人に見せること。それだけで、部下は「ちゃんと見てくれている」と感じ、積極的に話してくれるようになります。
1on1の中で決めたことも、その場で残します。たとえば「親の介護で週に1回休みたい」と言われたら、「許可する」と書いて本人に見せます。するとメンバーも堂々と休めますし、そのぶん仕事で返そうと奮起してくれます。「今期はA評価を取る」といった宣言も書き残しておけば、年末の評価で「あのとき、こう言っていたね」と振り返れます。
このやり方自体は、前職の人事部長が大学ノートでやっていたのを真似たものです。いまでこそ記録する場所をデジタルノートに移しましたが、1on1のスタイルは当時から変わりません。

——現在、1on1支援ツール「Kakeai」を導入しています。ツールを取り入れることの価値をどう考えますか。
島岡 「Kakeai」の良さは、いま話した「記録を見せる」が、最初から仕組みになっているところです。話した内容が自動で残り、上司と部下が同じ画面を見られる。私が手作業でやってきたことが、そのまま形になっている感覚です。部下からも「見える化されていて良い」と言われます。
アイスブレイクの「サイコロトーク」も使っています。どんなに親しい間柄でも、いきなり一対一で向き合えば身構えます。だからまずは、雑談で場を温める。先日も「好きな本は?」というお題から、「その本はいつ読んだんですか?」「実は、あのプロジェクトのときに」と話が広がっていきました。こうした雑談が、そのまま仕事の話の入り口になるのが理想ですね。
——島岡さんにとって、良い1on1とは、どのようなものでしょうか。
島岡 終わったあとに、相手の顔つきが変わっていることがあるじゃないですか。言いたいことを言い終えて、「ああ、すっきりした」って(笑)。そういう表情が引き出せれば、良かったなと思います。

——1on1を積み重ねることで、どのような効果が生まれるとお考えですか。
島岡 最も大きな効果は、こちらの方針を、現場が素直に受け止めてくれるようになることです。たとえば苦しい局面で「ここまでやろう」と発破をかけても、関係の薄い上司の言葉では、現場は動きません。逆に、「この上司は自分をちゃんと見てくれている」と部下が感じていれば、同じ言葉でも受け止め方が変わり、力を貸してくれます。
だからこそ、今年4月にこの部署へ着任が決まったときも、その直前に全員と1on1をしました。「次の部長はどんな人間か」と身構えられる前に、一度しっかり話して、味方になってもらうためです。
何かを動かすより先に、関係を耕しておく。1on1は、そのための重要な営みだと思います。
(撮影:東野正吾)







