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「主体性」という言葉が、メンバーを足踏みさせる? マネジャーの「期待」はなぜずれるのか
「主体性」という言葉が、メンバーを足踏みさせる? マネジャーの「期待」はなぜずれるのか

「主体性」という言葉が、メンバーを足踏みさせる? マネジャーの「期待」はなぜずれるのか

「なぜ指示を待つばかりなのか」——そう嘆くマネジャーは少なくない。しかし、メンバーが動かない理由は、意識の低さではなく、実は「組織人として極めて合理的なリスク回避」であるとしたら。

マネジャーが求める「メンバーへの期待」と、メンバーが抱く「マネジャーへの期待」。ここにある決定的なずれを放置したまま精神論を説いても、現場は変わらない。

本記事では、リモートワークやビジネスの難易度上昇といった構造的な要因を踏まえながら、目標設定(MBO)や1on1を「期待値のチューニング」の場へと変えるための具体的な処方箋を提示する。

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目次

「期待」の解釈が全く違う

~ある会社のマネジャーとメンバーの1on1~

 マネジャー:「もっと自分なりに考えて、主体的に動いてほしいんだよね」

 メンバー:「……はい、精一杯やります」

 マネジャー:「期待してるよ」

 メンバー:「ご期待に添えるかはわかりませんが……自分なりに、やってみます」

マネジャーの内心
 💭 (どうして何も聞きに来ないんだろう。正解を待つばかりで相談がない……)

メンバーの内心
 💭 (「自分なりに」動いてハシゴを外されるのが一番怖い。指示を待つのが正解だ……)

上記のように、マネジャーがメンバーに「主体性」や「当事者意識」を求めるものの、期待通りの結果が生まれないことは珍しくない。この停滞の原因は、個人の意識の問題というより、マネジャーとメンバーの間で「期待」の解釈が大きくずれてしまっていることにある。

会社が求める「自律」の論理

期待のずれはなぜ起きるのか。まずはマネジャーの立場から考えてみよう。

マネジャーが組織から求められているのは、管理そのものではなくチームで成果を出すことだ。ジョブ型雇用の浸透や等級制度の厳格化に伴い、「等級に見合う価値を出し、その対価として給料を支払う」という原則を徹底させることが求められている。そのためマネジャーには、メンバー一人ひとりが主体的に動き、チームとして最大の成果を生み出せる状態をつくることが期待されている。

「自分のキャリアは自分で組み立て、高い熱量で仕事に向き合うのは当然だ。それが市場価値を高めることにもなるのだから」——。組織側が掲げるこの主張は、論理としては正論である。しかし、この「正論」を現場のメンバーにそのまま提示しても、必ずしも主体的な行動には結び着くとはかぎらない。メンバーシップ型雇用において「守られ、指示に従うこと」を前提としてきた層にとって、急激な自律の要請は、組織からの突き放しとして響いてしまうこともあるからだ。

マネジャーは、この制度的な論理と現場の戸惑いの間に立ち、”メンバーが自分(マネジャー)の期待に応えられない”理由を解明する必要がある。

メンバーにとっての「会社」は、直属のマネジャーのこと

ここで直視すべきは、メンバーが抱く「会社への期待」の正体だ。彼らが「会社は方向性を示してくれない」と言うとき、その矛先は経営理念や社長ではなく、実は部長や事業部長など「自分の一階層上または二階層上程度の直属のマネジャー」に向いていることがある。つまり、マネジャーやその上司への期待である。

メンバーが求めているのは、抽象的なビジョンではなく、「どの範囲までなら自分で判断してよく、どこからが越権行為になるのか」という具体的な判断基準だ。

メンバー側は、「自分なりに考えて動いた結果、後から『なぜ勝手なことをしたのか』と叱責されること」を最も強く警戒している。彼らにとって、基準が不明確な状態で主体的に動くことは、リスクでしかない。「やって怒られるくらいなら、指示を待つ」という心理的なブレーキが働くのは、組織人としてきわめて合理的な判断ともいえる。

ここには「期待」という言葉の決定的な定義のズレが生じている。マネジャーが「期待している」と言うとき、そこには主に「自律的な成果」への期待が込められている。一方でメンバー側は、その言葉に「もし失敗したときには、マネジャーが責任を取って守ってくれるはず」という保護への期待を含めて捉えがちだ。

「自律しろ(自分で考えろ)」と突き放すマネジャーと、「動くから、安全に動ける範囲を先に示してほしい」と身構えるメンバー。この「自律の要請」と「セーフティネットへの渇望」という食い違いを放置したままでは、メンバーが自ら一歩を踏み出すことは難しい。

「期待」のズレが起きやすくなった理由

ここまで見てきたのは、「期待」という言葉の定義そのものがマネジャーとメンバーで異なるという構造的なずれだ。しかし問題はそれだけではない。近年の環境変化が、このずれを「すり合わせる機会」そのものを奪っている。

第一に、「マネジャーが自然にメンバーの状況を把握できない」環境の変化だ。リモートワークの普及やプロジェクト型組織への移行により、かつての島型デスクのような「座っているだけで人柄や仕事の進捗が見える」状態は失われた。情報の差がスピードや成果に直結する現代において、「メンバーはこう思っていた」「マネジャーはこれでいいと思っていた」という前提のズレを放置することは、組織にとって大きなリスクとなる。

第二に、「ビジネスの難易度上昇」が挙げられる。失敗の代償が大きいために、マネジャー側が「まずはやってみて」と手放しに任せることができなくなっているのだ。自律を求めていながら、実際には失敗を恐れてタスク消化のみを強いる「タスク完結型のラットレース」にメンバーを追い込んでいないだろうか。意思決定の機会を与えられず、単なる作業の積み重ねを求められる環境では、メンバーの中に「やらされ感」が生まれたり、成長実感が得られなかったりすることで、主体性はますます損なわれていく。

さらに、「目標が動く時代」であることも無視できない。優先順位の変更やプロジェクトの消滅など、前提条件が期中に何度も変わる中で、期初に立てた目標との「仕切り直し」が追いついていないのが実情であり、互いの「期待」のすり合わせもできないままになりやすい。

期待値は継続的にチューニングする

こうした「期待」のずれを解決するには、①基準を決める、②対話してすり合わせる、という二つのアプローチが必要になる。それぞれ説明する。

目標設定で“到達基準”を言語化する

ズレを埋める具体的な手段が、目標設定(MBO)の再定義である。多くの仕事において数値目標の設定は行われているが、問題は数値化できない仕事にある。

数字で測れない業務ほど、何をもって「できた」とするのかが曖昧なまま放置されやすい。この曖昧さを解消するには、目標設定を期初の事務手続きで終わらせず、「この仕事で何をどこまで達成するのか」という業務の設計図をマネジャーとメンバーが一緒に描く場に変える必要がある。

具体的には、アウトプットの質に関する以下の基準を双方であらかじめ合意しておくことだ。

  • 「何をもって100点(達成)とするのか」
  • 「80点(許容範囲)と120点(期待以上)の違いは何か」

この「水準と状態」の定義を、マネジャーが一方的に押し付けるのではなく、共同作業で言語化していく。「何をもって100点か」という基準だけでは、メンバーは「言われた範囲」に留まってしまいがちだ。しかし、120点の状態をあらかじめ合意しておけば、メンバーは「ここからは自分の判断で動いていい領域だ」という確信を持つことができる。120点の定義こそが、単なる作業の完遂からメンバーを解放し、主体的に付加価値を模索するための確かなガイドラインとなるのである。

📂 1on1で期待値をすり合わせる

目標の基準をメンバーと言語化したあと、それを1on1でどう運用するかが問われます。下記の資料では、マネジャーが1on1を準備・実施・振り返るための具体的な方法と、メンバーの言葉を引き出す質問テンプレートを紹介しています。

📘 マネジャーのための1on1完全ガイド

1on1を“再設定”と“前提共有”の場にする

目標設定で合意した基準も、環境が変われば見直しを迫られる。そこで重要になるのが、「仕切り直し」の装置としての1on1だ。

1on1を単なるタスクの進捗報告(作業確認)の場にしてはならない。そこで扱うべきは、実務の背後にある以下のテーマである。

「一度決めた目標だから」と固執するのではなく、1on1を通じて目標と互いの期待を絶えず更新し続ける。このチューニングが行われて初めて、メンバーは「今、自分は何に集中すべきか」を正しく判断できるようになり、結果として自律的な行動が引き出されるのである。

📂 メンバー自身が1on1を使いこなすために

期待値のチューニングは、マネジャーだけが担うものではありません。下記の資料では、メンバーが1on1のテーマを自分で決め、対話を主体的に活用するための方法を紹介しています。

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「期待」の解釈が全く違う

~ある会社のマネジャーとメンバーの1on1~

 マネジャー:「もっと自分なりに考えて、主体的に動いてほしいんだよね」

 メンバー:「……はい、精一杯やります」

 マネジャー:「期待してるよ」

 メンバー:「ご期待に添えるかはわかりませんが……自分なりに、やってみます」

マネジャーの内心
 💭 (どうして何も聞きに来ないんだろう。正解を待つばかりで相談がない……)

メンバーの内心
 💭 (「自分なりに」動いてハシゴを外されるのが一番怖い。指示を待つのが正解だ……)

上記のように、マネジャーがメンバーに「主体性」や「当事者意識」を求めるものの、期待通りの結果が生まれないことは珍しくない。この停滞の原因は、個人の意識の問題というより、マネジャーとメンバーの間で「期待」の解釈が大きくずれてしまっていることにある。

会社が求める「自律」の論理

期待のずれはなぜ起きるのか。まずはマネジャーの立場から考えてみよう。

マネジャーが組織から求められているのは、管理そのものではなくチームで成果を出すことだ。ジョブ型雇用の浸透や等級制度の厳格化に伴い、「等級に見合う価値を出し、その対価として給料を支払う」という原則を徹底させることが求められている。そのためマネジャーには、メンバー一人ひとりが主体的に動き、チームとして最大の成果を生み出せる状態をつくることが期待されている。

「自分のキャリアは自分で組み立て、高い熱量で仕事に向き合うのは当然だ。それが市場価値を高めることにもなるのだから」——。組織側が掲げるこの主張は、論理としては正論である。しかし、この「正論」を現場のメンバーにそのまま提示しても、必ずしも主体的な行動には結び着くとはかぎらない。メンバーシップ型雇用において「守られ、指示に従うこと」を前提としてきた層にとって、急激な自律の要請は、組織からの突き放しとして響いてしまうこともあるからだ。

マネジャーは、この制度的な論理と現場の戸惑いの間に立ち、”メンバーが自分(マネジャー)の期待に応えられない”理由を解明する必要がある。

メンバーにとっての「会社」は、直属のマネジャーのこと

ここで直視すべきは、メンバーが抱く「会社への期待」の正体だ。彼らが「会社は方向性を示してくれない」と言うとき、その矛先は経営理念や社長ではなく、実は部長や事業部長など「自分の一階層上または二階層上程度の直属のマネジャー」に向いていることがある。つまり、マネジャーやその上司への期待である。

メンバーが求めているのは、抽象的なビジョンではなく、「どの範囲までなら自分で判断してよく、どこからが越権行為になるのか」という具体的な判断基準だ。

メンバー側は、「自分なりに考えて動いた結果、後から『なぜ勝手なことをしたのか』と叱責されること」を最も強く警戒している。彼らにとって、基準が不明確な状態で主体的に動くことは、リスクでしかない。「やって怒られるくらいなら、指示を待つ」という心理的なブレーキが働くのは、組織人としてきわめて合理的な判断ともいえる。

ここには「期待」という言葉の決定的な定義のズレが生じている。マネジャーが「期待している」と言うとき、そこには主に「自律的な成果」への期待が込められている。一方でメンバー側は、その言葉に「もし失敗したときには、マネジャーが責任を取って守ってくれるはず」という保護への期待を含めて捉えがちだ。

「自律しろ(自分で考えろ)」と突き放すマネジャーと、「動くから、安全に動ける範囲を先に示してほしい」と身構えるメンバー。この「自律の要請」と「セーフティネットへの渇望」という食い違いを放置したままでは、メンバーが自ら一歩を踏み出すことは難しい。

「期待」のズレが起きやすくなった理由

ここまで見てきたのは、「期待」という言葉の定義そのものがマネジャーとメンバーで異なるという構造的なずれだ。しかし問題はそれだけではない。近年の環境変化が、このずれを「すり合わせる機会」そのものを奪っている。

第一に、「マネジャーが自然にメンバーの状況を把握できない」環境の変化だ。リモートワークの普及やプロジェクト型組織への移行により、かつての島型デスクのような「座っているだけで人柄や仕事の進捗が見える」状態は失われた。情報の差がスピードや成果に直結する現代において、「メンバーはこう思っていた」「マネジャーはこれでいいと思っていた」という前提のズレを放置することは、組織にとって大きなリスクとなる。

第二に、「ビジネスの難易度上昇」が挙げられる。失敗の代償が大きいために、マネジャー側が「まずはやってみて」と手放しに任せることができなくなっているのだ。自律を求めていながら、実際には失敗を恐れてタスク消化のみを強いる「タスク完結型のラットレース」にメンバーを追い込んでいないだろうか。意思決定の機会を与えられず、単なる作業の積み重ねを求められる環境では、メンバーの中に「やらされ感」が生まれたり、成長実感が得られなかったりすることで、主体性はますます損なわれていく。

さらに、「目標が動く時代」であることも無視できない。優先順位の変更やプロジェクトの消滅など、前提条件が期中に何度も変わる中で、期初に立てた目標との「仕切り直し」が追いついていないのが実情であり、互いの「期待」のすり合わせもできないままになりやすい。

期待値は継続的にチューニングする

こうした「期待」のずれを解決するには、①基準を決める、②対話してすり合わせる、という二つのアプローチが必要になる。それぞれ説明する。

目標設定で“到達基準”を言語化する

ズレを埋める具体的な手段が、目標設定(MBO)の再定義である。多くの仕事において数値目標の設定は行われているが、問題は数値化できない仕事にある。

数字で測れない業務ほど、何をもって「できた」とするのかが曖昧なまま放置されやすい。この曖昧さを解消するには、目標設定を期初の事務手続きで終わらせず、「この仕事で何をどこまで達成するのか」という業務の設計図をマネジャーとメンバーが一緒に描く場に変える必要がある。

具体的には、アウトプットの質に関する以下の基準を双方であらかじめ合意しておくことだ。

  • 「何をもって100点(達成)とするのか」
  • 「80点(許容範囲)と120点(期待以上)の違いは何か」

この「水準と状態」の定義を、マネジャーが一方的に押し付けるのではなく、共同作業で言語化していく。「何をもって100点か」という基準だけでは、メンバーは「言われた範囲」に留まってしまいがちだ。しかし、120点の状態をあらかじめ合意しておけば、メンバーは「ここからは自分の判断で動いていい領域だ」という確信を持つことができる。120点の定義こそが、単なる作業の完遂からメンバーを解放し、主体的に付加価値を模索するための確かなガイドラインとなるのである。

📂 1on1で期待値をすり合わせる

目標の基準をメンバーと言語化したあと、それを1on1でどう運用するかが問われます。下記の資料では、マネジャーが1on1を準備・実施・振り返るための具体的な方法と、メンバーの言葉を引き出す質問テンプレートを紹介しています。

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目標設定で合意した基準も、環境が変われば見直しを迫られる。そこで重要になるのが、「仕切り直し」の装置としての1on1だ。

1on1を単なるタスクの進捗報告(作業確認)の場にしてはならない。そこで扱うべきは、実務の背後にある以下のテーマである。

「一度決めた目標だから」と固執するのではなく、1on1を通じて目標と互いの期待を絶えず更新し続ける。このチューニングが行われて初めて、メンバーは「今、自分は何に集中すべきか」を正しく判断できるようになり、結果として自律的な行動が引き出されるのである。

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執筆者
相馬留美

2002年にダイヤモンド社に入社し、「週刊ダイヤモンド」編集部で記者となる。その後、フリーランスに転向。雑誌「プレジデントウーマン」や「週刊ダイヤモンド」などの経済メディアでフリーランス記者・編集者として携わる。また、複数の企業・NPOでオウンドメディアの編集長を務める。2024年12月に起業し、執筆活動をするとともに、事業会社のクリエイティブに関わる。空気は読めないけれど、人が好き。

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