
「30分じゃ足りない」と思わせる上司の対話はどこが違うのか
営業企画の現場では、顧客の課題を整理し、提案へとつなげる力が求められる。顧客と向き合う中で生まれる悩みや迷いは個々人の中に蓄積されやすいが、その思考をどう整理し、チームの力へと変えていくのか。こうした営業企画の現場において、上司と部下の1on1はどんな役割を担うことができるのだろうか。
シリーズ「となりの1on1」に今回登場するのは、大日本印刷(以下、 DNP)情報イノベーション事業部 第2CXセンター 第5本部 第3部 第2課で課長を務める大津郁美さん。着任から半年、メンバーとの月1回30分の1on1を通じて、問いと共感を軸にした対話を重ねている。
「“課長”と呼ばなくていい」。そう語る大津さんと、部下である田中裕子さん、森本裕希さんへの取材から、「また話したい」と思える1on1の実践を追った。(撮影:小島マサヒロ)

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まずは知ることから始めた1on1
大津さんが所属する情報イノベーション事業部第2CXセンターは、営業企画を担う部署である。クライアントは大手生命保険会社。同社グループ傘下の企業・部署ごとに担当者が付き、パンフレット制作やプロモーション、ブランディングを含めたマーケティング業務、生活者に向けた各種通知物の発送など、BPO業務を一気通貫で支援している。
彼女が現職に配属されたのは半年前。1on1は社内制度としてすでに存在していた。「まずは皆さんのことを知りたかった」ため、業務内容ばかりではなく、プライベートのことも含めて話すことにした。
サイコロトーク(出た目でテーマが決まる「Kakeai」の仕組み)で「今まで行った場所で一番良かったところは?」と表示されたときは、それだけで盛り上がって1on1が終わったこともある。「相手のことを知るだけでなく、自分のことも知ってもらう場にしたかったのだ」と大津さんは話す。

部下との関係を第一に考え、大津さんはメンバーごとに対話内容を変えることを心がけている。
例えば、部下の一人である森本裕希さんは、事業部内のローテーションで今春に異動が予定されている。そのタイミングも意識しながら、今後のキャリアを見据えて、「仕事楽しい?」といったことから話をしてきた。人によっては、「今、忙しそうですね」といった近況の確認から始まる。その後、業務上の難題、将来のキャリアの話題に及ぶこともある。
実施は原則対面で、月1回30分。延長は基本的にしない。特別に意識しているわけではないが、実施率は常に100%だという。
大津さんとメンバーは席が近く、業務中の会話は日常的に交わしている。ただ、周囲に人がいる中では話しにくいこともある。だからこそ、1on1を「あえて二人きりになる時間」として意識的に設けている。「Kakeai」を必ず起動し、そこから1on1をスタートする。ただし、メモは取らず、文字起こしも見ない。1on1は「個人として向き合う時間」にしたい、というのが大津さんのスタンスだ。
着任当初、彼女はメンバーにこう伝えたという。
「“課長”って付けなくていいよ、と最初に言いました。メンバーの田中さんは営業としては私より先輩ですし、森本さんも入社2年目だからといって私が上というわけではない。対等に話せる関係でいたいと思っています」
呼称を「大津さん」に統一したのも、上下関係を強調しないためだ。もちろん役割上の責任はあるが、1on1の場ではできる限り鎧を外す。その姿勢が、場の空気をつくっている。それが結果として業務の円滑化やエスカレーションのしやすさにつながっているのかもしれない。だが、本人にとっての出発点はあくまで相互理解だ。
1on1が終わったら、部下から1on1の感想をもらうことも、楽しみの一つ。
「一日の中で働いている時間は長いですよね。その時間はハッピーな方がいいと思っています。お互いのことを知って、楽しく働ける状態をつくれたらいいな、というのが基本にあります」
はみ出た負荷に気づく
大津さんが1on1で見ているのは、仕事の出来不出来ではない。部下が「どこに相談したらいいかわからない」と思うようなトラブルに直面したとき、1on1ですっと助け舟を出すのだ。
この部署には大津さんより業務歴が長く、年次も上の部下・田中裕子さんがいる。田中さんは、「大津さんに相談すれば、どんなときでも『こういう解決策はどうか』『この人を紹介します』という、具体的で行動につながるような現実的な答えが返ってくると話す。

なぜそこまで伴走するのか。「みんないつも元気いっぱいなわけじゃないですよね。私もそうです。トラブルがあったら辛い。だから、まずは“メンバーは今、辛いかもしれない”と思いながら話をしています」(大津さん)
田中さんが1on1の場で漏らす「行き詰まり」は、特に注意深く聴く。すでに業務を一生懸命やった上で、それでもはみ出てしまった負荷があると感じているからだ。
「裕子さんは人としても営業としても大先輩。ご自身でできることはもう全部やっています。そこからはみ出た部分が負担になっているなら、取り除ければいいな、と」
そこには、田中さんへの明確なリスペクトがある。過度に介入しない。だが、放置もしない。そのバランスが、信頼の土台をつくっている。
年下上司と年上部下の関係がここまで育った背景には、1on1の積み重ねがある。異動当初の大津さんは、それまで隣の部署で働いていた田中さんに対して、かえって気を遣っていたという。
しかし、最初の1on1で、田中さんのほうからこう尋ねられた。
「私と話しにくくない?」
その一言で、互いに気を遣っていたことがわかった。この1on1を通じて、緊張はほどけ、関係が一歩前に進んだ。
今では1on1で話されるのは、業務の話だけではない。社外活動の誘いやプライベートの人間関係、「最近眠れてますか?」といった体調への気遣いまで。上司部下の関係性は薄れ、対話は友人のような親密さを帯びている。

部下から話すことで対話が変わる
メンバーの森本さんは、新卒でこの部署に配属され、今年は2年目。管理職との会話は緊張するものだと考えていたが、入社直後から1on1があったことで、そのハードルは自然と下がっていった。
「最初は30分って長いなと思っていたんです。でも回を重ねるごとに、30分じゃ物足りないと思うようになりました。自分からテーマを持っていかないことも多いのですが、その場で話題を振っていただける。自分の考えが整理される感覚があります」(森本さん)

事業部内ローテーションの時期を控えていた森本さんに対し、大津さんは残りの時間を意識しながら接していた。しかし、ある1on1で森本さんに「僕は3月を終わりだと思わずに仕事しているので、そこにそれほど気を遣わなくていいです」と言われた。上司の思い込みを、部下が言葉で修正した瞬間だった。
「あの一言で、関わり方が大きく変わりました」(大津さん)
「また話したい」と思えたら、それでいい
大津さんが考える「良い1on1」とは、どのようなものか。
「私は今課長で、1on1を“する側”ですけど、される側も含めて考えると、“また話したい”って思える時間を過ごせるといいなと思っています」
月1回、30分。時間はきっちり区切る。物足りなさが残るくらいがちょうどいい。事業部では「1on1は部下のための時間」と説明されることが多いというが、管理職になってみて、その捉え方は少し違うと感じた。
「実際にやってみると、自分にもプラスになっています。お互いのための時間でいいんじゃないかな、と」

上司が“やってあげる”時間ではない。部下が“評価される”時間でもない。仕事の時間は長い。だからこそ、その時間を少しでも気持ちよく過ごせる関係でいたい。そのために、月に一度、きちんと向き合う。
「本業の成果のために」という側面はある。だがそれ以上に、「一緒に働くなら、楽しい方がいい」という感覚が、結果的にチームの成果につながっていくと考えている。
実践!となりの1on1
取材の途中、大津さんと森本さんに普段通りの1on1をやってもらった。異動が近い森本さんとの間で交わされる対話には、大津さんの1on1の特徴がよく表れていた。その様子を一部抜粋して紹介する。
1on1本編
【業務の振り返り】
大津 何の話をしようか?
森本 先日、新人研修の一環でお客さま先を訪問し、ワークショップのファシリテーションに挑戦した話をしてもいいですか。
大津 ああ、いいね! その話をしようか。
森本 その節は同行いただきありがとうございました。私以外の研修も無事に終わったと聞きました。実はこのあと研修成果についての発表会が社内であるんですよ。報告書を提出できている人があまりおらず、その発表者に私が選ばれたみたいで……。
大津 おお〜、すごい! やったじゃん!
森本 ドキドキです(笑)。

大津 振り返ると、ワークショップのお客さんは前向きな人が多かったよね。一生懸命取り組んでくれてさ。
森本 そうですよね。あんなに親身にやってくれると、こっちもやりがいがありますよね。うちの会社でも3月に別のお客さま向けのワークショップをやるじゃないですか。その良い予行演習になったなと。
【業務の振り返りから発展】
大津 それこそ(田中)裕子さんのお客さま向けにもワークショップをやったらいいんじゃないかって話をしてたところなの。
森本 あ、そうなんですね。ただ、この前のワークショップと同じように「ウェブの課題抽出」をテーマにすると、出てくるアウトプットも一緒になっちゃいそうですよね。そこは考えた方がいいかもしれません。
大津 確かに、ワークショップのテーマとしてはそれほどフィットしなかったかもしれない。
森本 実際、お客さまから「課題抽出よりアイデア発想にフォーカスした方が良かったのでは」というフィードバックをいただきました。
大津 アイデアを出し合ってるときがお客さまも一番楽しそうだったよね。
森本 ざっくばらんに本音で話してくださいましたしね。私たちとしてもお客さまの内情が知れて勉強になりましたし、「アイデア発想」をうまく活用することがワークショップの肝になるなと。
大津 そうだね。次のワークショップではその視点を生かしましょう。
【未来の話へ】
大津 そういえばさっき、「(現在の部署での仕事に)終わりが見えてきた」って言ってたけど、異動が近づいてきた感じはある?
森本 近づいてきましたね、来月面談もありますし。あと2カ月か、と考えちゃいます。でもその一方で、お客さまに来期の提案をするメンバーにも入れていただいているので、そこにはしっかり向き合いたいなと思っていまして。

大津 異動後もその提案は森本くんがやり続けることになったりしてね(笑)。以前届いた、4月以降の職務に関するアンケートがあったでしょ。あれを提出したとき、何か心境の変化はあった?
森本 特にありません。改めて、DNPはチャレンジングなことができる会社でいいなとしみじみ思いましたね。今もお客さまからいろんなご相談をいただいていますが、それを一緒に考えていくのがすごく楽しくて。
大津 「新しいことをしたい」って相談をたくさんいただいてるしね。
森本 そうです。お客さんの困りごとに対して、うちの会社が幅広く支援できたら嬉しいなと思います。

この1on1の特徴は大きく三つある。
一つ目は、テーマ設定の起点が部下側にあることだ。大津さんは最初のテーマを部下に委ねつつ、そこから出てきた話を拾い、別の視点や関連する話題へと広げていく。それが会話を深めていく。
二つ目は、評価や助言よりも先に"共感"が置かれている点だ。発表者に選ばれたと聞けば「やったじゃん!」、ワークショップの手応えには「アイデアを出し合ってるときがお客さまも一番楽しそうだったよね」。まず部下の実感に寄り添うことで、「ここでは評価されない」という安心感が生まれる。森本さんが「次のワークショップでは課題抽出よりアイデア発想にフォーカスすべきだ」と自分の考えを率直に言えるのも、その土台があるからだ。
三つ目は、業務の報告や相談にとどまらず、本人の考えや気持ちが自然と出てくることだ。ワークショップで何を感じ、次はどう変えたいか。ローテーションを前にして、今の仕事によって得られた経験をどう捉えているか。こうした話は、日常の進捗共有ではなかなか出てこない。
森本さんは「普段は共有する場がない話を上司に知っておいてもらえると、スッキリする」とこれまでの1on1を振り返る。業務の表面だけでなく、その裏にある思考や感情に触れ合えること。それが日々のやり取りだけでは生まれない信頼をつくっていることがうかがえる。
部下が話し、上司は問いで深める。評価より先に共感がある。そして、業務の表面には出てこない思いも受け止める。この三つが揃うことで、結論を急がない30分が成り立っている。その積み重ねが、メンバー一人ひとりの発想を広げ、提案の質を底上げしているのだろう。
営業企画という仕事では、顧客の真の課題を発掘、整理し、提案へとつなげていく場面が多い。問いと共感を重ねる30分は、そのための思考を整える時間にもなっている。「また話したい」と思える関係は、そうした積み重ねの中で育まれているのかもしれない。

※内容は2026年3月取材時点のものになります
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大津さんが所属する情報イノベーション事業部第2CXセンターは、営業企画を担う部署である。クライアントは大手生命保険会社。同社グループ傘下の企業・部署ごとに担当者が付き、パンフレット制作やプロモーション、ブランディングを含めたマーケティング業務、生活者に向けた各種通知物の発送など、BPO業務を一気通貫で支援している。
彼女が現職に配属されたのは半年前。1on1は社内制度としてすでに存在していた。「まずは皆さんのことを知りたかった」ため、業務内容ばかりではなく、プライベートのことも含めて話すことにした。
サイコロトーク(出た目でテーマが決まる「Kakeai」の仕組み)で「今まで行った場所で一番良かったところは?」と表示されたときは、それだけで盛り上がって1on1が終わったこともある。「相手のことを知るだけでなく、自分のことも知ってもらう場にしたかったのだ」と大津さんは話す。

部下との関係を第一に考え、大津さんはメンバーごとに対話内容を変えることを心がけている。
例えば、部下の一人である森本裕希さんは、事業部内のローテーションで今春に異動が予定されている。そのタイミングも意識しながら、今後のキャリアを見据えて、「仕事楽しい?」といったことから話をしてきた。人によっては、「今、忙しそうですね」といった近況の確認から始まる。その後、業務上の難題、将来のキャリアの話題に及ぶこともある。
実施は原則対面で、月1回30分。延長は基本的にしない。特別に意識しているわけではないが、実施率は常に100%だという。
大津さんとメンバーは席が近く、業務中の会話は日常的に交わしている。ただ、周囲に人がいる中では話しにくいこともある。だからこそ、1on1を「あえて二人きりになる時間」として意識的に設けている。「Kakeai」を必ず起動し、そこから1on1をスタートする。ただし、メモは取らず、文字起こしも見ない。1on1は「個人として向き合う時間」にしたい、というのが大津さんのスタンスだ。
着任当初、彼女はメンバーにこう伝えたという。
「“課長”って付けなくていいよ、と最初に言いました。メンバーの田中さんは営業としては私より先輩ですし、森本さんも入社2年目だからといって私が上というわけではない。対等に話せる関係でいたいと思っています」
呼称を「大津さん」に統一したのも、上下関係を強調しないためだ。もちろん役割上の責任はあるが、1on1の場ではできる限り鎧を外す。その姿勢が、場の空気をつくっている。それが結果として業務の円滑化やエスカレーションのしやすさにつながっているのかもしれない。だが、本人にとっての出発点はあくまで相互理解だ。
1on1が終わったら、部下から1on1の感想をもらうことも、楽しみの一つ。
「一日の中で働いている時間は長いですよね。その時間はハッピーな方がいいと思っています。お互いのことを知って、楽しく働ける状態をつくれたらいいな、というのが基本にあります」
はみ出た負荷に気づく
大津さんが1on1で見ているのは、仕事の出来不出来ではない。部下が「どこに相談したらいいかわからない」と思うようなトラブルに直面したとき、1on1ですっと助け舟を出すのだ。
この部署には大津さんより業務歴が長く、年次も上の部下・田中裕子さんがいる。田中さんは、「大津さんに相談すれば、どんなときでも『こういう解決策はどうか』『この人を紹介します』という、具体的で行動につながるような現実的な答えが返ってくると話す。

なぜそこまで伴走するのか。「みんないつも元気いっぱいなわけじゃないですよね。私もそうです。トラブルがあったら辛い。だから、まずは“メンバーは今、辛いかもしれない”と思いながら話をしています」(大津さん)
田中さんが1on1の場で漏らす「行き詰まり」は、特に注意深く聴く。すでに業務を一生懸命やった上で、それでもはみ出てしまった負荷があると感じているからだ。
「裕子さんは人としても営業としても大先輩。ご自身でできることはもう全部やっています。そこからはみ出た部分が負担になっているなら、取り除ければいいな、と」
そこには、田中さんへの明確なリスペクトがある。過度に介入しない。だが、放置もしない。そのバランスが、信頼の土台をつくっている。
年下上司と年上部下の関係がここまで育った背景には、1on1の積み重ねがある。異動当初の大津さんは、それまで隣の部署で働いていた田中さんに対して、かえって気を遣っていたという。
しかし、最初の1on1で、田中さんのほうからこう尋ねられた。
「私と話しにくくない?」
その一言で、互いに気を遣っていたことがわかった。この1on1を通じて、緊張はほどけ、関係が一歩前に進んだ。
今では1on1で話されるのは、業務の話だけではない。社外活動の誘いやプライベートの人間関係、「最近眠れてますか?」といった体調への気遣いまで。上司部下の関係性は薄れ、対話は友人のような親密さを帯びている。

部下から話すことで対話が変わる
メンバーの森本さんは、新卒でこの部署に配属され、今年は2年目。管理職との会話は緊張するものだと考えていたが、入社直後から1on1があったことで、そのハードルは自然と下がっていった。
「最初は30分って長いなと思っていたんです。でも回を重ねるごとに、30分じゃ物足りないと思うようになりました。自分からテーマを持っていかないことも多いのですが、その場で話題を振っていただける。自分の考えが整理される感覚があります」(森本さん)

事業部内ローテーションの時期を控えていた森本さんに対し、大津さんは残りの時間を意識しながら接していた。しかし、ある1on1で森本さんに「僕は3月を終わりだと思わずに仕事しているので、そこにそれほど気を遣わなくていいです」と言われた。上司の思い込みを、部下が言葉で修正した瞬間だった。
「あの一言で、関わり方が大きく変わりました」(大津さん)
「また話したい」と思えたら、それでいい
大津さんが考える「良い1on1」とは、どのようなものか。
「私は今課長で、1on1を“する側”ですけど、される側も含めて考えると、“また話したい”って思える時間を過ごせるといいなと思っています」
月1回、30分。時間はきっちり区切る。物足りなさが残るくらいがちょうどいい。事業部では「1on1は部下のための時間」と説明されることが多いというが、管理職になってみて、その捉え方は少し違うと感じた。
「実際にやってみると、自分にもプラスになっています。お互いのための時間でいいんじゃないかな、と」

上司が“やってあげる”時間ではない。部下が“評価される”時間でもない。仕事の時間は長い。だからこそ、その時間を少しでも気持ちよく過ごせる関係でいたい。そのために、月に一度、きちんと向き合う。
「本業の成果のために」という側面はある。だがそれ以上に、「一緒に働くなら、楽しい方がいい」という感覚が、結果的にチームの成果につながっていくと考えている。
実践!となりの1on1
取材の途中、大津さんと森本さんに普段通りの1on1をやってもらった。異動が近い森本さんとの間で交わされる対話には、大津さんの1on1の特徴がよく表れていた。その様子を一部抜粋して紹介する。
1on1本編
【業務の振り返り】
大津 何の話をしようか?
森本 先日、新人研修の一環でお客さま先を訪問し、ワークショップのファシリテーションに挑戦した話をしてもいいですか。
大津 ああ、いいね! その話をしようか。
森本 その節は同行いただきありがとうございました。私以外の研修も無事に終わったと聞きました。実はこのあと研修成果についての発表会が社内であるんですよ。報告書を提出できている人があまりおらず、その発表者に私が選ばれたみたいで……。
大津 おお〜、すごい! やったじゃん!
森本 ドキドキです(笑)。

大津 振り返ると、ワークショップのお客さんは前向きな人が多かったよね。一生懸命取り組んでくれてさ。
森本 そうですよね。あんなに親身にやってくれると、こっちもやりがいがありますよね。うちの会社でも3月に別のお客さま向けのワークショップをやるじゃないですか。その良い予行演習になったなと。
【業務の振り返りから発展】
大津 それこそ(田中)裕子さんのお客さま向けにもワークショップをやったらいいんじゃないかって話をしてたところなの。
森本 あ、そうなんですね。ただ、この前のワークショップと同じように「ウェブの課題抽出」をテーマにすると、出てくるアウトプットも一緒になっちゃいそうですよね。そこは考えた方がいいかもしれません。
大津 確かに、ワークショップのテーマとしてはそれほどフィットしなかったかもしれない。
森本 実際、お客さまから「課題抽出よりアイデア発想にフォーカスした方が良かったのでは」というフィードバックをいただきました。
大津 アイデアを出し合ってるときがお客さまも一番楽しそうだったよね。
森本 ざっくばらんに本音で話してくださいましたしね。私たちとしてもお客さまの内情が知れて勉強になりましたし、「アイデア発想」をうまく活用することがワークショップの肝になるなと。
大津 そうだね。次のワークショップではその視点を生かしましょう。
【未来の話へ】
大津 そういえばさっき、「(現在の部署での仕事に)終わりが見えてきた」って言ってたけど、異動が近づいてきた感じはある?
森本 近づいてきましたね、来月面談もありますし。あと2カ月か、と考えちゃいます。でもその一方で、お客さまに来期の提案をするメンバーにも入れていただいているので、そこにはしっかり向き合いたいなと思っていまして。

大津 異動後もその提案は森本くんがやり続けることになったりしてね(笑)。以前届いた、4月以降の職務に関するアンケートがあったでしょ。あれを提出したとき、何か心境の変化はあった?
森本 特にありません。改めて、DNPはチャレンジングなことができる会社でいいなとしみじみ思いましたね。今もお客さまからいろんなご相談をいただいていますが、それを一緒に考えていくのがすごく楽しくて。
大津 「新しいことをしたい」って相談をたくさんいただいてるしね。
森本 そうです。お客さんの困りごとに対して、うちの会社が幅広く支援できたら嬉しいなと思います。

この1on1の特徴は大きく三つある。
一つ目は、テーマ設定の起点が部下側にあることだ。大津さんは最初のテーマを部下に委ねつつ、そこから出てきた話を拾い、別の視点や関連する話題へと広げていく。それが会話を深めていく。
二つ目は、評価や助言よりも先に"共感"が置かれている点だ。発表者に選ばれたと聞けば「やったじゃん!」、ワークショップの手応えには「アイデアを出し合ってるときがお客さまも一番楽しそうだったよね」。まず部下の実感に寄り添うことで、「ここでは評価されない」という安心感が生まれる。森本さんが「次のワークショップでは課題抽出よりアイデア発想にフォーカスすべきだ」と自分の考えを率直に言えるのも、その土台があるからだ。
三つ目は、業務の報告や相談にとどまらず、本人の考えや気持ちが自然と出てくることだ。ワークショップで何を感じ、次はどう変えたいか。ローテーションを前にして、今の仕事によって得られた経験をどう捉えているか。こうした話は、日常の進捗共有ではなかなか出てこない。
森本さんは「普段は共有する場がない話を上司に知っておいてもらえると、スッキリする」とこれまでの1on1を振り返る。業務の表面だけでなく、その裏にある思考や感情に触れ合えること。それが日々のやり取りだけでは生まれない信頼をつくっていることがうかがえる。
部下が話し、上司は問いで深める。評価より先に共感がある。そして、業務の表面には出てこない思いも受け止める。この三つが揃うことで、結論を急がない30分が成り立っている。その積み重ねが、メンバー一人ひとりの発想を広げ、提案の質を底上げしているのだろう。
営業企画という仕事では、顧客の真の課題を発掘、整理し、提案へとつなげていく場面が多い。問いと共感を重ねる30分は、そのための思考を整える時間にもなっている。「また話したい」と思える関係は、そうした積み重ねの中で育まれているのかもしれない。

※内容は2026年3月取材時点のものになります
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