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「パフェ行きません?」飲み会なし時代に“仲良くなる”最適解
「パフェ行きません?」飲み会なし時代に“仲良くなる”最適解

「パフェ行きません?」飲み会なし時代に“仲良くなる”最適解

職場における飲み会の意義が問い直される中、仕事仲間との関係づくりをどう進めればよいか模索している人も少なくないだろう。

深夜まで続く飲み会を、週1回のペースで繰り返していたのは、「デイリーポータルZ」ウェブマスターの林雄司さんだ。「デイリーポータルZ」は、日常の疑問や素朴な好奇心を記事にする老舗Webメディアで、企画の実験性の高さなどから多くのファンを獲得している。林さんは本メディアの編集長として、複数のライターと企画をつくり、記事を世に送り出す役割を担ってきた。

5年前の断酒をきっかけに、林さんは「飲み会がなくても人と仲良くなる方法」を、真剣に考えるようになった。

編集の仕事では、企画を出し、試し、形にしていく過程で、編集者と書き手の距離の近さが仕事のスピードや質に直結する。雑談の中からアイデアが生まれ、ちょっとした勢いで「それ、やってみよう」と話が進むことも少なくない。だからこそ、飲み会が成立しなくなった今、「関係性をどうつくるか」は切実なテーマだった。

「このあと、パフェ食べませんか?」

そんな一言から見えてきたのは、飲み会に代わる“場”の条件と、マネジャーが人を誘うときに必要な「理由」の設計だった。林さんの実体験をもとに、飲み会なし時代の現実的なチームビルディングをひもとく。

目次

“飲んで仲良くなる”という幻想

林さんが断酒した直接のきっかけは健康問題だった。コロナ禍で家飲みが増え、顔や手のむくみが気になり、肝臓の数値も悪化した。そこで思い切って酒をやめた。

それまで林さんは、編集部で日常的に顔を合わせて仕事をしているライターたちと、仕事終わりに自然な流れで食事に行くことが多かった。「ちょっとご飯行きますか」と声をかけ、流れで長時間一緒に過ごす。お酒が入ることで場がほぐれ、原稿についての言いにくい話も、角が立たずに伝えられる。そんな実感があったからだ。

ただ、その関係性に、少しずつ違和感を覚えるようになった。デイリーポータルZの立ち上げ期とは違い、ライターとの年齢差が開いてきたからである。雇用形態は業務委託であっても、同じ場所で、同じ目線でコンテンツをつくる仲間だと思ってきた。一方で、「もしかすると、誘われて断りづらいだけなのではないか」「この関係性のまま飲みに誘い続けていいのだろうか」という迷いも芽生えていった。

その迷いが確信に変わったのは人と会えるようになってからのことだ。すでに断酒していた林さんは、以前のように流れで飲みに行くつもりはなく、相手の都合を尊重しようと「このあと、予定ありますか?」と聞くようになった。

ところが、その一言に、相手が身構えるようになったのだ。林さん自身はお酒をやめていたが、相手にとっては「林さんに誘われる=長い飲み会になる」という、過去の記憶がまだ残っていたのだろう。

飲んで仲良くなり、仕事が進む——。かつて信じていたその成功体験は、誘われる側の反応によって、「夢だったのかもしれない」と思うようになった。

「パフェ食べませんか?」

林さんは、声のかけ方を変えた。

「このあとパフェ食べませんか?」

すると、多くの人が「いいですよ!」と喜んで来てくれることに気づいた。林さんはその理由を、「1時間くらいで終わることが最初から想像できるから」だと話す。

「以前は僕が『時間ありますか?』と誘うと、「ああ、今日一日これで終わったな』みたいな雰囲気になることが多かったんです。その後、お酒をやめましたが、仲良くなることをやめるわけにはいきません。だから、いろいろ試しました」

今は、誘うこと自体がハラスメントと受け取られかねない時代でもある。だからこそ必要になったのが、「来てもらう理由」を明確にすることだった。ただの雑談ではなく、「これなら行きたい」「楽しそう」と思ってもらえる“理由”を用意する。その設計が、飲み会に代わるコミュニケーションの前提になっていった。

林さんが本気で採点した「仲良くなるための場の代替案」星取表

断酒後、林さんは人を誘う場所をいくつも試してきた。そこで、これまで実際に足を運んできた"誘い先"を、☆5を最高評価として採点してもらった。

☆1:居酒屋

かつて「飲み会」の定番だった居酒屋は、断酒後、一気に評価を落とした。飲めない状態で飲み会に参加すると、何を言っているかわからないまま「うんうん」と相づちを打つ時間が続き、飲んでいたころよりも疲れてしまうことに気づいたという。

加えて、居酒屋はノンアルコール飲料に力を入れていない店も多く、飲めない側がどこか肩身の狭い思いをすることもある。「この環境でコミュニケーションを取る意味はない」と感じるようになった。

☆3:ステーキハウス

林さんが通ったのはアウトバック・ステーキハウス 渋谷店

「ステーキ行きませんか」という一言は、それ自体が強いフックになる。お酒がなくても成立するのも大きな利点だ。

「ビールのCMでおいしそうに見えるのって、実はつまみのほうじゃないですか?」と林さん。肉そのものの満足感が、場の価値を担保してくれる。同じ理由でウナギもおすすめだという。

☆4:特別感のあるファミレス

シズラー桜新町店。会話に重要なのは「サラダバー」

「特別感」があれば、必ずしも高級店である必要はない。林さんのおすすめはシズラーだ。食べ放題の「プレミアムサラダバー」があり、日常の食事とは違う体験をつくりやすい。もう一つのポイントは、「サラダを取りに行く」という動作が自然な間を生むこと。「会話が途切れても、気まずくならないんです」(林さん)

同様の理由で名前が挙がったのが、ロイヤルホスト桜新町店。ロイヤルホールディングス(ロイヤルホストの運営会社)の東京本部併設で、内装に高級感があり、非常に特別な空間になっている。また、駅から離れていて「わざわざ行く理由」があるのも、人を誘いやすくする要素だ。

☆4:空いているフードコート

開放感のあるフードコートは、それだけで楽しいが、「空いている」ことが重要だという。人が少ないと声が通り、会話に集中できるからだ。

林さんのお気に入りは、商業施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」四階のフードコート。「渋谷なのに空いている場所、というだけで誘いやすいんです」(林さん)

☆5:フルーツパーラー

林さんは渋谷西村フルーツパーラー 道玄坂店に良く出没するらしい

目にも鮮やかなパフェが並ぶフルーツパーラーは、男女問わず高評価。「パフェ行きませんか?」という誘い文句自体が、楽しさを想起させる。「『日本橋の千疋屋に行かない?』と誘われたら最高に特別感がありますよね」(林さん)

平日の昼は空いていて静かで声が通るのが、林さん一押しの理由だ。値段は2,000〜3,000円と、飲み会に比べればむしろ安いが、非日常感があり「特別な時間」になる。食べ比べをすれば、会話も弾む。さらに季節限定メニューもあり、季節ごとに“誘う理由”がつくりやすいため、何度でも行けるのも良いという。

☆5:展望台

展望台も、評価は最高ランクだ。外の景色を眺めながら、横並びで話せるため、正面で向き合う会話よりも心理的な“圧”が少ない。林さんは渋谷スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY」の年間パスを購入し、「展望台でも行きますか」とライターを誘うようになったそうだ。

展望フロアから都下の景色を見ながら、「あのビルに芸能人が住んでるらしいよ」など、仕事には関係のない話もすれば、「あの建物、記事になるんじゃない?」などネタ探しのような話もするという。同じ景色を共有する体験そのものが、関係性を深めてくれる。展望台と同様の理由で、水族館なども◎。

「仲良くなる場」はどうつくる?

林さんが「仲良くなるための場」の代替案として挙げた場所には、いくつかの共通点がある。

一つは「特別感があること」。もう一つは、「会話が成立する静かな場所」であることだ。重要なのは、ちゃんと話ができるという点だ。

飲み会では、互いに何を話しているか分からない状態でも、同じ時間を過ごすことで「仲良くなった」という実感が生まれていた。だが今、林さんは「話をすることそのものが、関係をつくる」と捉えている。だからこそ、それを実現できる場こそが、飲み会の代替になると考えているのだ。

さらに林さんは、「一緒に何かをする」要素が加わると、チームはより仲良くなると言う。

「一番仲良くなるのは、一緒に記事を書いたり、撮影をしたりしているときですね」

被写体とカメラマンという共同作業は、思いのほか距離を縮める。もちろん、一般企業で記事を書く機会は多くないだろう。だが、「何かを一緒につくる」という構造は応用できる。

たとえば、短い資料や企画メモを一緒に仕上げる、会議の最後に今日の話を三行でまとめてみる、ホワイトボードで一緒にアイデア出しをしてまとめてみる。いずれも完成度は問わず、同じものを前にして手を動かすこと自体が目的だ。

重要なのは、成果物の出来栄えではない。「今日はこれを一緒につくる」という枠があることで、ただ話すよりも場が安定し、自然と距離が縮まる。だからこそ、マネジャー側が「何をする場なのか」をあらかじめ設計しておくことがポイントになる。

シズラーの帰りに立ち寄った長谷川町子美術館。ライターと一緒に写真を撮るだけでも”共同作業”だ

それでも「会う」理由

林さんによれば、一人で企画を考えていると、発想は次第に“ちゃんとしたもの”になっていくという。無難で筋が通り、誰からも否定されにくい。逆に、少しバカバカしかったり、尖っていたりするアイデアは、自分の中でブレーキをかけてしまいがちになる。

一方、誰かと顔を合わせて話していると状況は変わる。雑談の中で思いついたアイデアを口に出し、それに対して相手がどう反応するかを、その場で確かめられるからだ。林さんは、ライターがふと口にしたアイデアに対して「それいいですね。じゃあ、明日書いて送ってください」と即座に背中を押すことがある。そうしたやり取りは、画面越しのやり取りよりも、対面のほうが圧倒的に起こりやすいという。

対面での雑談には、相手の反応や場の空気を見ながら、企画を論理で詰める前に「面白がられたかどうか」を肌感覚で判断できる強みがある。

実際、デイリーポータルZには、そうした場から生まれた企画が少なくない。あるとき編集部での雑談の中で、編集部の一人が「石は接着剤でくっつけられる」と口にした。そこから「じゃあ、石をくっつけて石だるまにできるのではないか」という話に発展し、実際に記事になった。

もしこれが、チャット上でのテキストのやり取りだけだったらどうだろう。「石をくっつけたら石だるまになる」と書き込む前に、「くだらないと思われないか」「説明が足りないのではないか」と考えて、ためらってしまったかもしれない。

最後に林さんは、組織の中でマネジャーという立場を担うことの難しさにも触れた。会社で部下を持つようになった頃から、「自分が場をつくらないと、仕事は回らないのだ」と実感するようになったという。

その感覚は、デイリーポータルZでライターと仕事をする際も共通している。雇用関係があるわけではないが、林さんは相手が前向きに動ける空気をつくることを意識している。「僕はライターに書いてもらうので、ライターに企画をなげかけた時に『あ、いいっすね』と言ってもらえることを考えてる感じですね」

この話は、編集長とライターという関係に限ったものではなく、一般企業のマネジャーが部下と向き合う場面にもそのまま置き換えられる。たとえ“場づくりを狙っている”姿勢が部下に伝わったとしても、「悪意はなさそうだな」「頑張って場をつくろうとしているな」と受け取ってもらえればいい。

飲み会の代替案とは、派手なイベントではない。相手が来やすい理由を用意し、短時間で、ちゃんと話せる場をつくる。そして、ときどき一緒に何かをする。それを積み重ねることが、飲み会が減っている時代の、現実的なチームビルディングなのかもしれない。

ちなみに林さんが次にやってみたいのは、「屋根のない観光バスにみんなと乗ってレインボーブリッジを渡ること」。冬の寒さと強風の中で体験する「最高につらい時間」は、きっと忘れられない共通体験になるはずだ。

“飲んで仲良くなる”という幻想

林さんが断酒した直接のきっかけは健康問題だった。コロナ禍で家飲みが増え、顔や手のむくみが気になり、肝臓の数値も悪化した。そこで思い切って酒をやめた。

それまで林さんは、編集部で日常的に顔を合わせて仕事をしているライターたちと、仕事終わりに自然な流れで食事に行くことが多かった。「ちょっとご飯行きますか」と声をかけ、流れで長時間一緒に過ごす。お酒が入ることで場がほぐれ、原稿についての言いにくい話も、角が立たずに伝えられる。そんな実感があったからだ。

ただ、その関係性に、少しずつ違和感を覚えるようになった。デイリーポータルZの立ち上げ期とは違い、ライターとの年齢差が開いてきたからである。雇用形態は業務委託であっても、同じ場所で、同じ目線でコンテンツをつくる仲間だと思ってきた。一方で、「もしかすると、誘われて断りづらいだけなのではないか」「この関係性のまま飲みに誘い続けていいのだろうか」という迷いも芽生えていった。

その迷いが確信に変わったのは人と会えるようになってからのことだ。すでに断酒していた林さんは、以前のように流れで飲みに行くつもりはなく、相手の都合を尊重しようと「このあと、予定ありますか?」と聞くようになった。

ところが、その一言に、相手が身構えるようになったのだ。林さん自身はお酒をやめていたが、相手にとっては「林さんに誘われる=長い飲み会になる」という、過去の記憶がまだ残っていたのだろう。

飲んで仲良くなり、仕事が進む——。かつて信じていたその成功体験は、誘われる側の反応によって、「夢だったのかもしれない」と思うようになった。

「パフェ食べませんか?」

林さんは、声のかけ方を変えた。

「このあとパフェ食べませんか?」

すると、多くの人が「いいですよ!」と喜んで来てくれることに気づいた。林さんはその理由を、「1時間くらいで終わることが最初から想像できるから」だと話す。

「以前は僕が『時間ありますか?』と誘うと、「ああ、今日一日これで終わったな』みたいな雰囲気になることが多かったんです。その後、お酒をやめましたが、仲良くなることをやめるわけにはいきません。だから、いろいろ試しました」

今は、誘うこと自体がハラスメントと受け取られかねない時代でもある。だからこそ必要になったのが、「来てもらう理由」を明確にすることだった。ただの雑談ではなく、「これなら行きたい」「楽しそう」と思ってもらえる“理由”を用意する。その設計が、飲み会に代わるコミュニケーションの前提になっていった。

林さんが本気で採点した「仲良くなるための場の代替案」星取表

断酒後、林さんは人を誘う場所をいくつも試してきた。そこで、これまで実際に足を運んできた"誘い先"を、☆5を最高評価として採点してもらった。

☆1:居酒屋

かつて「飲み会」の定番だった居酒屋は、断酒後、一気に評価を落とした。飲めない状態で飲み会に参加すると、何を言っているかわからないまま「うんうん」と相づちを打つ時間が続き、飲んでいたころよりも疲れてしまうことに気づいたという。

加えて、居酒屋はノンアルコール飲料に力を入れていない店も多く、飲めない側がどこか肩身の狭い思いをすることもある。「この環境でコミュニケーションを取る意味はない」と感じるようになった。

☆3:ステーキハウス

林さんが通ったのはアウトバック・ステーキハウス 渋谷店

「ステーキ行きませんか」という一言は、それ自体が強いフックになる。お酒がなくても成立するのも大きな利点だ。

「ビールのCMでおいしそうに見えるのって、実はつまみのほうじゃないですか?」と林さん。肉そのものの満足感が、場の価値を担保してくれる。同じ理由でウナギもおすすめだという。

☆4:特別感のあるファミレス

シズラー桜新町店。会話に重要なのは「サラダバー」

「特別感」があれば、必ずしも高級店である必要はない。林さんのおすすめはシズラーだ。食べ放題の「プレミアムサラダバー」があり、日常の食事とは違う体験をつくりやすい。もう一つのポイントは、「サラダを取りに行く」という動作が自然な間を生むこと。「会話が途切れても、気まずくならないんです」(林さん)

同様の理由で名前が挙がったのが、ロイヤルホスト桜新町店。ロイヤルホールディングス(ロイヤルホストの運営会社)の東京本部併設で、内装に高級感があり、非常に特別な空間になっている。また、駅から離れていて「わざわざ行く理由」があるのも、人を誘いやすくする要素だ。

☆4:空いているフードコート

開放感のあるフードコートは、それだけで楽しいが、「空いている」ことが重要だという。人が少ないと声が通り、会話に集中できるからだ。

林さんのお気に入りは、商業施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」四階のフードコート。「渋谷なのに空いている場所、というだけで誘いやすいんです」(林さん)

☆5:フルーツパーラー

林さんは渋谷西村フルーツパーラー 道玄坂店に良く出没するらしい

目にも鮮やかなパフェが並ぶフルーツパーラーは、男女問わず高評価。「パフェ行きませんか?」という誘い文句自体が、楽しさを想起させる。「『日本橋の千疋屋に行かない?』と誘われたら最高に特別感がありますよね」(林さん)

平日の昼は空いていて静かで声が通るのが、林さん一押しの理由だ。値段は2,000〜3,000円と、飲み会に比べればむしろ安いが、非日常感があり「特別な時間」になる。食べ比べをすれば、会話も弾む。さらに季節限定メニューもあり、季節ごとに“誘う理由”がつくりやすいため、何度でも行けるのも良いという。

☆5:展望台

展望台も、評価は最高ランクだ。外の景色を眺めながら、横並びで話せるため、正面で向き合う会話よりも心理的な“圧”が少ない。林さんは渋谷スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY」の年間パスを購入し、「展望台でも行きますか」とライターを誘うようになったそうだ。

展望フロアから都下の景色を見ながら、「あのビルに芸能人が住んでるらしいよ」など、仕事には関係のない話もすれば、「あの建物、記事になるんじゃない?」などネタ探しのような話もするという。同じ景色を共有する体験そのものが、関係性を深めてくれる。展望台と同様の理由で、水族館なども◎。

「仲良くなる場」はどうつくる?

林さんが「仲良くなるための場」の代替案として挙げた場所には、いくつかの共通点がある。

一つは「特別感があること」。もう一つは、「会話が成立する静かな場所」であることだ。重要なのは、ちゃんと話ができるという点だ。

飲み会では、互いに何を話しているか分からない状態でも、同じ時間を過ごすことで「仲良くなった」という実感が生まれていた。だが今、林さんは「話をすることそのものが、関係をつくる」と捉えている。だからこそ、それを実現できる場こそが、飲み会の代替になると考えているのだ。

さらに林さんは、「一緒に何かをする」要素が加わると、チームはより仲良くなると言う。

「一番仲良くなるのは、一緒に記事を書いたり、撮影をしたりしているときですね」

被写体とカメラマンという共同作業は、思いのほか距離を縮める。もちろん、一般企業で記事を書く機会は多くないだろう。だが、「何かを一緒につくる」という構造は応用できる。

たとえば、短い資料や企画メモを一緒に仕上げる、会議の最後に今日の話を三行でまとめてみる、ホワイトボードで一緒にアイデア出しをしてまとめてみる。いずれも完成度は問わず、同じものを前にして手を動かすこと自体が目的だ。

重要なのは、成果物の出来栄えではない。「今日はこれを一緒につくる」という枠があることで、ただ話すよりも場が安定し、自然と距離が縮まる。だからこそ、マネジャー側が「何をする場なのか」をあらかじめ設計しておくことがポイントになる。

シズラーの帰りに立ち寄った長谷川町子美術館。ライターと一緒に写真を撮るだけでも”共同作業”だ

それでも「会う」理由

林さんによれば、一人で企画を考えていると、発想は次第に“ちゃんとしたもの”になっていくという。無難で筋が通り、誰からも否定されにくい。逆に、少しバカバカしかったり、尖っていたりするアイデアは、自分の中でブレーキをかけてしまいがちになる。

一方、誰かと顔を合わせて話していると状況は変わる。雑談の中で思いついたアイデアを口に出し、それに対して相手がどう反応するかを、その場で確かめられるからだ。林さんは、ライターがふと口にしたアイデアに対して「それいいですね。じゃあ、明日書いて送ってください」と即座に背中を押すことがある。そうしたやり取りは、画面越しのやり取りよりも、対面のほうが圧倒的に起こりやすいという。

対面での雑談には、相手の反応や場の空気を見ながら、企画を論理で詰める前に「面白がられたかどうか」を肌感覚で判断できる強みがある。

実際、デイリーポータルZには、そうした場から生まれた企画が少なくない。あるとき編集部での雑談の中で、編集部の一人が「石は接着剤でくっつけられる」と口にした。そこから「じゃあ、石をくっつけて石だるまにできるのではないか」という話に発展し、実際に記事になった。

もしこれが、チャット上でのテキストのやり取りだけだったらどうだろう。「石をくっつけたら石だるまになる」と書き込む前に、「くだらないと思われないか」「説明が足りないのではないか」と考えて、ためらってしまったかもしれない。

最後に林さんは、組織の中でマネジャーという立場を担うことの難しさにも触れた。会社で部下を持つようになった頃から、「自分が場をつくらないと、仕事は回らないのだ」と実感するようになったという。

その感覚は、デイリーポータルZでライターと仕事をする際も共通している。雇用関係があるわけではないが、林さんは相手が前向きに動ける空気をつくることを意識している。「僕はライターに書いてもらうので、ライターに企画をなげかけた時に『あ、いいっすね』と言ってもらえることを考えてる感じですね」

この話は、編集長とライターという関係に限ったものではなく、一般企業のマネジャーが部下と向き合う場面にもそのまま置き換えられる。たとえ“場づくりを狙っている”姿勢が部下に伝わったとしても、「悪意はなさそうだな」「頑張って場をつくろうとしているな」と受け取ってもらえればいい。

飲み会の代替案とは、派手なイベントではない。相手が来やすい理由を用意し、短時間で、ちゃんと話せる場をつくる。そして、ときどき一緒に何かをする。それを積み重ねることが、飲み会が減っている時代の、現実的なチームビルディングなのかもしれない。

ちなみに林さんが次にやってみたいのは、「屋根のない観光バスにみんなと乗ってレインボーブリッジを渡ること」。冬の寒さと強風の中で体験する「最高につらい時間」は、きっと忘れられない共通体験になるはずだ。

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執筆者
相馬留美

2002年にダイヤモンド社に入社し、「週刊ダイヤモンド」編集部で記者となる。その後、フリーランスに転向。雑誌「プレジデントウーマン」や「週刊ダイヤモンド」などの経済メディアでフリーランス記者・編集者として携わる。また、複数の企業・NPOでオウンドメディアの編集長を務める。2024年12月に起業し、執筆活動をするとともに、事業会社のクリエイティブに関わる。空気は読めないけれど、人が好き。

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