
共働きが当たり前の今も女性のキャリアが途切れるのはなぜ? データで見る「令和の性別役割分業」
1986年の男女雇用機会均等法の施行から40年。今では共働き世帯が一般的となり、男性の育児休業取得率も上昇。夫婦が協力して仕事と子育てに向き合うスタイルがすっかり浸透しつつあるように見えます。
しかし職場では、「時短勤務も終わり、これからはもっと仕事にエネルギーを注いでくれるだろう」と頼りにしていた女性社員が突然離職してしまうという事態も起きています。
背景には、40年経ってもなくならない男女の性別役割分業意識、時代の変化による新たな「両立の壁」という二つの要因があります。これらについて各種調査データをもとに確認し、今後求められる人材マネジメントについて考えていきます。

を見る
を閉じる
共働き世帯の増加の内実
この40年の間に女性の社会進出が目覚ましく進み、15〜64歳の女性の就業率は、1985年の53.0%から2025年時点で75.3%まで上昇しました。しかし同時に、年齢が上がるごとに非正規社員の割合が増える、「L字カーブ」と呼ばれる傾向が顕著です。

上のグラフを見ると、女性の正規雇用比率は25〜29歳の62.8%がピークで、その後一貫して低下しています。女性が子育てや介護など家庭の役割を担うために働き方を変えたり、正社員としてキャリアアップしていくことをあきらめたりする状況があることがうかがえます。
令和版の性別役割分業意識
近年は男性の育児休業取得率が上昇するなど、子育てに積極的に関わる男性が増えています。しかし、男性には「L字カーブ」の傾向は見られません。子育てのためにパートタイムの仕事に移る男性はもちろん、同じ職場で時短勤務を選択する男性も非常に少数派です。
これを「当たり前のこと」として受け止める方も多いでしょう。しかし、それで良いのでしょうか?
30代以降、男女の正社員雇用比率の差が開いていく理由のひとつに、根強く残る性別役割分業意識があります。
現代では「女性は家庭のことに専念すべき」と声高に言う人は少なくなりました。その代わり「男性は仕事メイン+家事育児の補助、女性は家事育児メイン+できる範囲で仕事」という新たな役割分担が定着しつつあります。
夫がメインの稼ぎ手であるという固定観念がなくならない背景には、男女の賃金格差が存在します。
2025年の一般労働者全体で比較すると、男性の給与水準を100とした場合の女性の給与水準は76.6です。正社員・正職員の所定内給与額で比較しても、男性100に対し女性は78.7となっています。
賃金格差の大きな要因は、男性の方が役職の高い者が多いことや勤続年数が長いことにあります。しかし下図の通り、正社員同士、同じ勤続年数で比較しても男女差があり、勤続年数が長くなるほどその差が拡大しています。長く働き続けても差が縮まらないことを踏まえると、女性は男性に比べて昇進や昇給につながるような経験や機会を与えられていない可能性があるのです。

こうした状況は、「夫は仕事メイン、妻は家事育児メイン」という選択を経済的に合理的だと考える夫婦を増やすことになります。結果として企業側も、より仕事に注力できる男性に期待をかけやすくなり、職場における男女差がさらに生じるという負の循環が起きています。この循環を断ち切らない限り、職場と家庭における真の男女平等は実現しません。
小学校入学後の「新たな両立の壁」
産休・育休や時短勤務、子の看護等休暇などの両立支援策が充実してきた結果、かつては当然のこととされていた「寿退社」や出産を機に離職する人は大幅に減りました。
しかし、これらの支援策のほとんどは小学校入学前の子を持つ親が対象です。それゆえに、子どもの小学校入学以降に子育てと仕事の両立に悩む親が増えています。
学童保育の閉所時間までにお迎えに行かなければいけないのに時短勤務の制度が使えないといった「小1の壁」、低学年優先の学童保育に預けられなくなる「小4の壁」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。それ以外にも、中学受験への対応や、不登校の子のケアなど40年前には想定されていなかった新たな「両立の壁」があるのです。
例えば首都圏における中学受験率は2014年頃から上昇傾向にあり、2024年、2025年、2026年春はいずれも18%を超えていました。2026年春は18.06%に達しました(ONETES株式会社(旧首都圏中学模試センター)の推計値)。
かつては教育熱心な一部の家庭の問題に過ぎず、なるべく偏差値の高い学校に合格できれば成功、そのために合格実績の豊富な塾に通わせれば良いといった考え方が主流だったかもしれません。しかし今は、子どもに中学受験をさせたい理由として、「子どもに合う環境を選ぶため」、「AI時代ほど地頭や思考力が必要」、「学習意欲の高い環境を選びたい」、「将来の選択肢を広げたい」といったものが上位に上がっており、学校選びや子どもの受験勉強のサポートや心身のケアにかかる親の手間も大きくなっています。

また、近年では不登校の状態にある子どもが増え続けており、2024年度の小・中学校の不登校児童生徒数は過去最多の約35万4千人でした。
サイボウズ ソーシャルデザインラボの調査によると、過去または現在、小中学生の子どもが不登校や行き渋りの状態にある(あった)保護者500人中、24.8%がその影響で働き方を変えていました(離職5.8%、転職8.0%、時短・職種変更7.8%、休職3.2%)。

「新たな壁」を見過ごすことのリスク、現場のマネジャーがすべきこと
受験も不登校も小学校に入ってからの問題で、今のところ、そのための両立支援策は未整備です。そのような状況で子育ての責任が母親の方に偏っているとすれば、仕事をセーブするしかない、と考える女性が多いのも当然の成り行きだと言えます。
人手不足の中、経験を積んだ優秀な女性社員が離職してしまうのは、企業にとっても大きな損失です。人的投資を無駄にしないためにも、残された同僚たちが疲弊しないためにも、小学生以降の子を育てる保護者の困難に寄り添い、一時的に勤務時間が減ったり休暇取得が増えたとしても長く働き続けてもらうようサポートすることが必要です。
一方で、近年は、子育てをパートナー任せにしない男性も見られるようになっています。
『ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方』(時事通信出版局)の著者である多賀太教授(関西大学)は、サラリーマン向けのビジネス誌では2000年前後から、子どもの中学受験に関する記事や特集が増えていることを指摘しています。そして、実際に子どもの中学受験の学校選択から受験勉強、通塾時の送り迎えなどまで、積極的に支援する父親たちへの面接調査を行っています。
先のサイボウズ ソーシャルデザインラボの調査でも、子どもが不登校や行き渋りの状態にある(あった)影響で働き方を変えた保護者は、男性で22.8%、女性で26.8%であり、決して女性だけが負担を負っているわけではありませんでした。
また、これから社会に出ていく若い世代では、男女の役割分担に対する意識も変化しています。NHK放送文化研究所の「中学生・高校生の生活と意識調査2022」によれば、調査対象の中学生、高校生それぞれの約7割が、将来、結婚して子どもが生まれたときの子育ての分担について「父親も母親も同じくらいする」を希望しています。
今後は徐々に、男性が「両立の壁」に直面するケースも増えていくでしょう。子どもの年齢や事情によって異なる親のニーズに寄り添うことは、女性だけでなく男性の離職やパフォーマンス低下を防ぐという意味でも重要なのです。
男女雇用機会均等法以降、両立支援は年々充実してきていますが、現実に追いついていない状況です。現場のマネジャーには、法制度や企業の支援策ができるのを待つのではなく、メンバーそれぞれの家庭の事情や困りごとに耳を傾け、柔軟な働き方を工夫したり、チームでサポートし合う体制づくりを進めていくことが期待されます。
共働き世帯の増加の内実
この40年の間に女性の社会進出が目覚ましく進み、15〜64歳の女性の就業率は、1985年の53.0%から2025年時点で75.3%まで上昇しました。しかし同時に、年齢が上がるごとに非正規社員の割合が増える、「L字カーブ」と呼ばれる傾向が顕著です。

上のグラフを見ると、女性の正規雇用比率は25〜29歳の62.8%がピークで、その後一貫して低下しています。女性が子育てや介護など家庭の役割を担うために働き方を変えたり、正社員としてキャリアアップしていくことをあきらめたりする状況があることがうかがえます。
令和版の性別役割分業意識
近年は男性の育児休業取得率が上昇するなど、子育てに積極的に関わる男性が増えています。しかし、男性には「L字カーブ」の傾向は見られません。子育てのためにパートタイムの仕事に移る男性はもちろん、同じ職場で時短勤務を選択する男性も非常に少数派です。
これを「当たり前のこと」として受け止める方も多いでしょう。しかし、それで良いのでしょうか?
30代以降、男女の正社員雇用比率の差が開いていく理由のひとつに、根強く残る性別役割分業意識があります。
現代では「女性は家庭のことに専念すべき」と声高に言う人は少なくなりました。その代わり「男性は仕事メイン+家事育児の補助、女性は家事育児メイン+できる範囲で仕事」という新たな役割分担が定着しつつあります。
夫がメインの稼ぎ手であるという固定観念がなくならない背景には、男女の賃金格差が存在します。
2025年の一般労働者全体で比較すると、男性の給与水準を100とした場合の女性の給与水準は76.6です。正社員・正職員の所定内給与額で比較しても、男性100に対し女性は78.7となっています。
賃金格差の大きな要因は、男性の方が役職の高い者が多いことや勤続年数が長いことにあります。しかし下図の通り、正社員同士、同じ勤続年数で比較しても男女差があり、勤続年数が長くなるほどその差が拡大しています。長く働き続けても差が縮まらないことを踏まえると、女性は男性に比べて昇進や昇給につながるような経験や機会を与えられていない可能性があるのです。

こうした状況は、「夫は仕事メイン、妻は家事育児メイン」という選択を経済的に合理的だと考える夫婦を増やすことになります。結果として企業側も、より仕事に注力できる男性に期待をかけやすくなり、職場における男女差がさらに生じるという負の循環が起きています。この循環を断ち切らない限り、職場と家庭における真の男女平等は実現しません。
小学校入学後の「新たな両立の壁」
産休・育休や時短勤務、子の看護等休暇などの両立支援策が充実してきた結果、かつては当然のこととされていた「寿退社」や出産を機に離職する人は大幅に減りました。
しかし、これらの支援策のほとんどは小学校入学前の子を持つ親が対象です。それゆえに、子どもの小学校入学以降に子育てと仕事の両立に悩む親が増えています。
学童保育の閉所時間までにお迎えに行かなければいけないのに時短勤務の制度が使えないといった「小1の壁」、低学年優先の学童保育に預けられなくなる「小4の壁」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。それ以外にも、中学受験への対応や、不登校の子のケアなど40年前には想定されていなかった新たな「両立の壁」があるのです。
例えば首都圏における中学受験率は2014年頃から上昇傾向にあり、2024年、2025年、2026年春はいずれも18%を超えていました。2026年春は18.06%に達しました(ONETES株式会社(旧首都圏中学模試センター)の推計値)。
かつては教育熱心な一部の家庭の問題に過ぎず、なるべく偏差値の高い学校に合格できれば成功、そのために合格実績の豊富な塾に通わせれば良いといった考え方が主流だったかもしれません。しかし今は、子どもに中学受験をさせたい理由として、「子どもに合う環境を選ぶため」、「AI時代ほど地頭や思考力が必要」、「学習意欲の高い環境を選びたい」、「将来の選択肢を広げたい」といったものが上位に上がっており、学校選びや子どもの受験勉強のサポートや心身のケアにかかる親の手間も大きくなっています。

また、近年では不登校の状態にある子どもが増え続けており、2024年度の小・中学校の不登校児童生徒数は過去最多の約35万4千人でした。
サイボウズ ソーシャルデザインラボの調査によると、過去または現在、小中学生の子どもが不登校や行き渋りの状態にある(あった)保護者500人中、24.8%がその影響で働き方を変えていました(離職5.8%、転職8.0%、時短・職種変更7.8%、休職3.2%)。

「新たな壁」を見過ごすことのリスク、現場のマネジャーがすべきこと
受験も不登校も小学校に入ってからの問題で、今のところ、そのための両立支援策は未整備です。そのような状況で子育ての責任が母親の方に偏っているとすれば、仕事をセーブするしかない、と考える女性が多いのも当然の成り行きだと言えます。
人手不足の中、経験を積んだ優秀な女性社員が離職してしまうのは、企業にとっても大きな損失です。人的投資を無駄にしないためにも、残された同僚たちが疲弊しないためにも、小学生以降の子を育てる保護者の困難に寄り添い、一時的に勤務時間が減ったり休暇取得が増えたとしても長く働き続けてもらうようサポートすることが必要です。
一方で、近年は、子育てをパートナー任せにしない男性も見られるようになっています。
『ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方』(時事通信出版局)の著者である多賀太教授(関西大学)は、サラリーマン向けのビジネス誌では2000年前後から、子どもの中学受験に関する記事や特集が増えていることを指摘しています。そして、実際に子どもの中学受験の学校選択から受験勉強、通塾時の送り迎えなどまで、積極的に支援する父親たちへの面接調査を行っています。
先のサイボウズ ソーシャルデザインラボの調査でも、子どもが不登校や行き渋りの状態にある(あった)影響で働き方を変えた保護者は、男性で22.8%、女性で26.8%であり、決して女性だけが負担を負っているわけではありませんでした。
また、これから社会に出ていく若い世代では、男女の役割分担に対する意識も変化しています。NHK放送文化研究所の「中学生・高校生の生活と意識調査2022」によれば、調査対象の中学生、高校生それぞれの約7割が、将来、結婚して子どもが生まれたときの子育ての分担について「父親も母親も同じくらいする」を希望しています。
今後は徐々に、男性が「両立の壁」に直面するケースも増えていくでしょう。子どもの年齢や事情によって異なる親のニーズに寄り添うことは、女性だけでなく男性の離職やパフォーマンス低下を防ぐという意味でも重要なのです。
男女雇用機会均等法以降、両立支援は年々充実してきていますが、現実に追いついていない状況です。現場のマネジャーには、法制度や企業の支援策ができるのを待つのではなく、メンバーそれぞれの家庭の事情や困りごとに耳を傾け、柔軟な働き方を工夫したり、チームでサポートし合う体制づくりを進めていくことが期待されます。








.webp)