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“上司の面談スキルが低すぎる問題” 根本的解決のための1on1七カ条
1on1は、部下の成長支援や信頼関係の構築を目的に、上司と部下が定期的に対話を重ねる取り組みである。しかし、「1on1を行う上司のスキルやノウハウが足りない」という課題感を持っている企業も多いようだ。
では、そもそも“1on1のスキル・ノウハウ”とはいったいどんなものなのか。今回は、株式会社KAKEAI(カケアイ)代表取締役社長の皆川恵美へのインタビューを通じて、上司の面談スキルを上げる方法を解説する。
上司に求める「面談スキル」って何?
KAKEAIは2025年8月、「1on1ミーティング実態調査2025 —実施企業の現状から見える、課題・効果・改善のポイント—」を発表した。1カ月に1回以上1on1を実施している企業の人事担当者300人を対象に、所属先の1on1の実態や効果を尋ねた調査である。
本調査の特徴は、回答者が属する組織の1on1実施頻度が比較的高い点にある。そうした企業において、1on1に関する全社的な課題として最も多く認識されていたのが「上司の面談スキル・ノウハウの不足」。組織として積極的に1on1を行っているにもかかわらず、そこに人の力が追いついていない、というわけだ(下図参照)。

そもそも「面談スキル」「面談ノウハウ」とはいったいどんな技術を指しているのだろうか。この問いに答えるにあたり、皆川はまずスキルとノウハウの関係から説明を始めた。
「運転免許証は“運転ができるスキル”、つまり知識と技術を持っていることを示すものです。免許を取得すれば、どんな道でも、どんな車でも運転できる。その再現性が“スキル”の本質です。そして、スキルはノウハウの蓄積によって身につくものです。だからこそ、まずはノウハウをしっかり学ぶことが大切なのです」

1on1のノウハウ七カ条
1on1のスキルを身に着けるために、まずはノウハウから習得しよう。皆川は、1on1のノウハウは七つあると話す。一つずつ解説しよう。
①:場を作る
話す前の段階として、「話しましょう」という場を作る。態度、表情、言葉、声のトーン——これらすべてで相手の話を受け入れる気持ちをしっかり示すことが、1on1を行ううえでの大前提だ。
②:しっかりと聞く
メンバーが話したいことがあるとき、まずはしっかりと聞くことが大切だ。この「しっかりと聞く」には二つの意味がある。
一つは、話を遮らないこと。相手が話している内容に、「なぜそんなことができないの」と反射的に反応しないことだ。もう一つは、相手の状況、発言意図、話している背景まで深く聞くこと。「それってこういうことだったんじゃない?」と上司が話を進めてしまってはいけない。自ら言語化することが自己認識につながるからこそ、「何でこうなったの?」と本人に尋ねることが大切である。
③:上司のかかわり方を決める
部下の話にしっかり耳を傾けたら、その話題にどう対応するかを決める。
☑️ 一旦この場は話を聞くだけにする
☑️ 何らかのアドバイスをする
☑️ 一緒に考える
☑️ 部下に考えさせる
以上のように選択肢は様々あり、聞いた内容によって適切な対応は変わる。何を選ぶかもまたノウハウである。
④:対話のゴールを仮置き合意する
対応の方向性を決めた上で、部下からの相談に関するゴール設定をする。ただ聞くだけで終わることもあれば、「目標を今月末までに達成する」と具体的に決めることもあっていい。「じゃあ、こういうことをゴールにしようか」と上司と部下で合意する。ここで決めるゴールはあくまで仮置きであり、このあとの対話を経て精度を上げていく。
⑤:ファシリテーションする
二人で決めたゴールを念頭に置きつつ、「じゃあ次はどうしようか」と一緒に考えたり、「あなたの案のこのあたりはいいよね」と承認をするなど、部下との会話をファシリテーションする。
⑥:フィードバックする
1on1の中で部下が言葉にした考えは、最初から整理されているとは限らない。曖昧なままだったり、思い込みが混じっていたりすることも多い。そこで上司は問いかけを通じて、部下の考えを掘り下げていく。例えば、「できないと言ってるけど、本当はなんとかなるんじゃない?」「そのやり方で目的は達成できるかな?」といった問いが、言語化の精度を高めることにつながる。
⑦:ネクストアクションの期限と内容を確定させる
⑤⑥の対話を通じて部下の考えが精度高く言語化されたら、最終的にどうするかを決める。「いつまでに」「何をするか」を明確にするなど④で決めた方向性を具体的なネクストアクションに落とし込み、上司と部下で合意する。これが1on1のゴールとなる。
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この七つのノウハウを理解し、誰に対しても実行できることが、すなわち「1on1スキルのある人」となる。一つひとつは難しいことではないが、すべてを1回の1on1の中で首尾よく行うためには、相応の経験が必要である。
1on1の難しさは、上司がファシリテーターと意見を言う側の両方を担う点にある。七つのノウハウのうち、①③④⑤⑦はファシリテーション力が必要な場面、②⑤⑥は意見を話すことが必要になる場面だ。⑤が重複するのは、対話を進行させながら、議論の中身についても意見を言う必要があるためである。
この構造を理解し、ファシリテーションと意見を言う場面を意識的に切り分けるだけで、部下は話しやすくなるだろう。
1on1スキルはどう磨けばいいのか
「上司の面談スキルが足りない」と部下が感じるとき、実は部下側が十分に話せていないことが多い。話しきれない状態で上司に決めつけられると、「そういうことじゃないんだけどな」というモヤモヤが増幅してしまう。また、1on1の目的が「上司が聞きたい情報を部下から聞き出す場づくり」にすり替わってしまうことも、部下の不満につながりやすい。
上司が1on1の時間を自分の聞きたいことだけ聞く時間にしてしまう背景には、日々の多忙さに加え、1on1のスキルがどんなノウハウで成り立っているのかというベースが理解できていないことも影響している。たとえば「傾聴」「承認」などのスキルを単発で学んでも、スキルのベースである七つのノウハウが理解できていないと、そのスキルを1on1で活用することが難しいのだ。
1on1スキルを身につけたいマネジャーは、自分が“部下役”として、対話が得意な人・そうでない人に1on1をしてもらうといい。実際に体験してみることで、上司として「避けたほうがいい振る舞い」を発見できるからだ。
多くのマネジャーは「褒めるのが苦手」といった弱みには気づいている。一方で、「話が上手」のように強みだと思っている行動が、1on1では裏目に出てしまうことには気づきにくい。
対話の上手な人と1on1をすると、自分の話を急がず丁寧に聞いてくれる姿勢を体感できるだろう。反対に、あまり得意でない人の場合、相手の武勇伝を聞いているうちに時間が終わってしまう──そんな経験をするかもしれない。自分を部下の立場に置くことで、弱みの確認だけでなく、強みが悪い形で発揮されていないかも自省できる。
さらに重要なのは、「私の1on1で、変えたほうがいいところはありますか?」と部下に率直に聞くことだ。上司なりにスタイルがあっても、相手に合わなければ目的には近づかない。1on1の内容が伝わっていないと感じたら、ためらわずフィードバックを求めるとよい。相手に合わせて変えていく姿勢を見せることでこそ、部下から「上司のスキルのある上司」として受け止められる。
「1on1のスキルは、自分のキャラクターや価値観に合わせて、フィットするものを取り入れながら学んでいくもの」だと皆川は言う。「話すこと」は無意識で行っている行動のため、アンラーニングはたやすくない。自分に合った技を少しずつ身につけ、部下を動かす確率を上げていくことが正攻法である。
📘あわせて読みたい
🔹 『課長の時間を取り戻せ。1on1が変えるマネジメント構造』
🔹 『1on1が組織を変える。エンゲージメント向上の成功事例』
🔹 『デキる上司は、感情を聴き、言葉を待ち、問いで背中を押す──。150万回の1on1データが示す、信頼と成長を生み出す技術』
上司に求める「面談スキル」って何?
KAKEAIは2025年8月、「1on1ミーティング実態調査2025 —実施企業の現状から見える、課題・効果・改善のポイント—」を発表した。1カ月に1回以上1on1を実施している企業の人事担当者300人を対象に、所属先の1on1の実態や効果を尋ねた調査である。
本調査の特徴は、回答者が属する組織の1on1実施頻度が比較的高い点にある。そうした企業において、1on1に関する全社的な課題として最も多く認識されていたのが「上司の面談スキル・ノウハウの不足」。組織として積極的に1on1を行っているにもかかわらず、そこに人の力が追いついていない、というわけだ(下図参照)。

そもそも「面談スキル」「面談ノウハウ」とはいったいどんな技術を指しているのだろうか。この問いに答えるにあたり、皆川はまずスキルとノウハウの関係から説明を始めた。
「運転免許証は“運転ができるスキル”、つまり知識と技術を持っていることを示すものです。免許を取得すれば、どんな道でも、どんな車でも運転できる。その再現性が“スキル”の本質です。そして、スキルはノウハウの蓄積によって身につくものです。だからこそ、まずはノウハウをしっかり学ぶことが大切なのです」

1on1のノウハウ七カ条
1on1のスキルを身に着けるために、まずはノウハウから習得しよう。皆川は、1on1のノウハウは七つあると話す。一つずつ解説しよう。
①:場を作る
話す前の段階として、「話しましょう」という場を作る。態度、表情、言葉、声のトーン——これらすべてで相手の話を受け入れる気持ちをしっかり示すことが、1on1を行ううえでの大前提だ。
②:しっかりと聞く
メンバーが話したいことがあるとき、まずはしっかりと聞くことが大切だ。この「しっかりと聞く」には二つの意味がある。
一つは、話を遮らないこと。相手が話している内容に、「なぜそんなことができないの」と反射的に反応しないことだ。もう一つは、相手の状況、発言意図、話している背景まで深く聞くこと。「それってこういうことだったんじゃない?」と上司が話を進めてしまってはいけない。自ら言語化することが自己認識につながるからこそ、「何でこうなったの?」と本人に尋ねることが大切である。
③:上司のかかわり方を決める
部下の話にしっかり耳を傾けたら、その話題にどう対応するかを決める。
☑️ 一旦この場は話を聞くだけにする
☑️ 何らかのアドバイスをする
☑️ 一緒に考える
☑️ 部下に考えさせる
以上のように選択肢は様々あり、聞いた内容によって適切な対応は変わる。何を選ぶかもまたノウハウである。
④:対話のゴールを仮置き合意する
対応の方向性を決めた上で、部下からの相談に関するゴール設定をする。ただ聞くだけで終わることもあれば、「目標を今月末までに達成する」と具体的に決めることもあっていい。「じゃあ、こういうことをゴールにしようか」と上司と部下で合意する。ここで決めるゴールはあくまで仮置きであり、このあとの対話を経て精度を上げていく。
⑤:ファシリテーションする
二人で決めたゴールを念頭に置きつつ、「じゃあ次はどうしようか」と一緒に考えたり、「あなたの案のこのあたりはいいよね」と承認をするなど、部下との会話をファシリテーションする。
⑥:フィードバックする
1on1の中で部下が言葉にした考えは、最初から整理されているとは限らない。曖昧なままだったり、思い込みが混じっていたりすることも多い。そこで上司は問いかけを通じて、部下の考えを掘り下げていく。例えば、「できないと言ってるけど、本当はなんとかなるんじゃない?」「そのやり方で目的は達成できるかな?」といった問いが、言語化の精度を高めることにつながる。
⑦:ネクストアクションの期限と内容を確定させる
⑤⑥の対話を通じて部下の考えが精度高く言語化されたら、最終的にどうするかを決める。「いつまでに」「何をするか」を明確にするなど④で決めた方向性を具体的なネクストアクションに落とし込み、上司と部下で合意する。これが1on1のゴールとなる。
.webp)
この七つのノウハウを理解し、誰に対しても実行できることが、すなわち「1on1スキルのある人」となる。一つひとつは難しいことではないが、すべてを1回の1on1の中で首尾よく行うためには、相応の経験が必要である。
1on1の難しさは、上司がファシリテーターと意見を言う側の両方を担う点にある。七つのノウハウのうち、①③④⑤⑦はファシリテーション力が必要な場面、②⑤⑥は意見を話すことが必要になる場面だ。⑤が重複するのは、対話を進行させながら、議論の中身についても意見を言う必要があるためである。
この構造を理解し、ファシリテーションと意見を言う場面を意識的に切り分けるだけで、部下は話しやすくなるだろう。
1on1スキルはどう磨けばいいのか
「上司の面談スキルが足りない」と部下が感じるとき、実は部下側が十分に話せていないことが多い。話しきれない状態で上司に決めつけられると、「そういうことじゃないんだけどな」というモヤモヤが増幅してしまう。また、1on1の目的が「上司が聞きたい情報を部下から聞き出す場づくり」にすり替わってしまうことも、部下の不満につながりやすい。
上司が1on1の時間を自分の聞きたいことだけ聞く時間にしてしまう背景には、日々の多忙さに加え、1on1のスキルがどんなノウハウで成り立っているのかというベースが理解できていないことも影響している。たとえば「傾聴」「承認」などのスキルを単発で学んでも、スキルのベースである七つのノウハウが理解できていないと、そのスキルを1on1で活用することが難しいのだ。
1on1スキルを身につけたいマネジャーは、自分が“部下役”として、対話が得意な人・そうでない人に1on1をしてもらうといい。実際に体験してみることで、上司として「避けたほうがいい振る舞い」を発見できるからだ。
多くのマネジャーは「褒めるのが苦手」といった弱みには気づいている。一方で、「話が上手」のように強みだと思っている行動が、1on1では裏目に出てしまうことには気づきにくい。
対話の上手な人と1on1をすると、自分の話を急がず丁寧に聞いてくれる姿勢を体感できるだろう。反対に、あまり得意でない人の場合、相手の武勇伝を聞いているうちに時間が終わってしまう──そんな経験をするかもしれない。自分を部下の立場に置くことで、弱みの確認だけでなく、強みが悪い形で発揮されていないかも自省できる。
さらに重要なのは、「私の1on1で、変えたほうがいいところはありますか?」と部下に率直に聞くことだ。上司なりにスタイルがあっても、相手に合わなければ目的には近づかない。1on1の内容が伝わっていないと感じたら、ためらわずフィードバックを求めるとよい。相手に合わせて変えていく姿勢を見せることでこそ、部下から「上司のスキルのある上司」として受け止められる。
「1on1のスキルは、自分のキャラクターや価値観に合わせて、フィットするものを取り入れながら学んでいくもの」だと皆川は言う。「話すこと」は無意識で行っている行動のため、アンラーニングはたやすくない。自分に合った技を少しずつ身につけ、部下を動かす確率を上げていくことが正攻法である。
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