.webp)
「扱いづらい」降格社員が戦力に変わる。マネジャーが絶対にやるべき二つのこと
「降格」と聞くと、多くの人がネガティブな人事を思い浮かべるのではないでしょうか。ですが現場では、むしろ“もう一度、ここからやり直したい”という本人の意思によって役職を降りるケースが増えています。
理由は語られず、異動先のチームには緊張が生まれる。受け入れるマネジャーは、何をどこまで想像し、どう動けばいいのか——。
この記事では、大企業の人事施策に詳しいアンド・リスペクトの岡本光敬氏に話を聞き、現場で実際に起きている“円満降格”のマネジメントの方法をご紹介します。
降格人事は“本人希望”が増えている
降格とは、役職者がメンバークラスに戻ることを指しますが、いくつかパターンがあります。
役職者が役職から“降りる”ケースには、以下の四つが想定されます。
☑️ 成果不足によるポジション変更
☑️ 本人からの申し出によるもの
☑️ 役職定年(一定年齢で管理職から退く制度)など、年齢要因
☑️ 懲戒に近い性質の降格
このうち、近年特に増えているのが2の「本人からの申し出」です。マネジャーに昇進したものの、さまざまな事情から「このまま続けるのは難しい」と判断して役職を降りてしまう。
以前であれば、こうしたケースは退職につながることも多かったでしょう。しかし、採用市場が激化するなか、企業側は新たな人材の採用が難しくなっています。そのため、ポジションを変更してでも既存社員に残ってもらう“円満降格”という選択が生まれています。
本稿ではこのケースを中心に、降格社員を受け入れる現場マネジャーの動き方を考えていきます。
降格社員のサポートは“情報”がカギ
降格社員を受け入れることが決まったとき、現場マネジャーはどのように動けば、スムーズな受け入れを実現できるのでしょうか。
降格人事の場合、その社員の降格理由が周囲に明かされないことがほとんどです。そのため、理由に関する憶測が生まれやすく、異動先のチームにも緊張感が生まれることがあります。大企業の場合は別部署への異動になることが多いものの、通常のローテーションとは異なり、受け入れ側に同様のケースを経験した人がおらず、「どう扱えばよいのか分からない」という状況になりがちです。
こうした場面で多いのが、背景を知らないマネジャーが“自分目線”で降格社員の気持ちを想像し、ズレた配慮をしてしまうことだと岡本氏は言います。
本来であれば、まずは異動前の部署の責任者と異動先の責任者が連携し、背景の説明を受けた異動先の責任者が現場マネジャーに必要な情報を知らせるのが望ましい進め方ですが、それが行われず、降格社員が新天地で適切なサポートを受けられないケースも少なくありません。
.webp)
そこで、降格社員を受け入れる職場のマネジャーがやらなくてはいけないことが二つあります。
①背景情報を必ず確認する
まず必要なのは、降格の背景を把握することです。自分の上司に、「前の職場の上司に、降格の背景を確認してほしい」と依頼することは必須でしょう。
☑️ ハラスメント事案
☑️ 家庭の事情(育児・介護など)
☑️ 業務負荷
など、降格の理由によって支援の仕方も、降格社員とチームメンバーとの付き合い方も大きく違ってきます。
「(降格人事は)個別ケースがかなり多いので、マネジャーはしっかりと把握しておくべきです」(岡本さん)
②本人との対話の場を必ず設ける
もう一つ欠かせないのが、降格した社員と対話する機会を設けることです。降格の理由を知っているかどうかにかかわらず、まずは「新しい職場でどのように働きたいか」「どんな思いを持っているか」を丁寧に確認するところから始めましょう。
その時に大切なのは、“受け入れ準備”だと岡本さんは説きます。
「降格社員を受け入れる前に、『この人にはこの仕事を任せよう。それは本人のキャリアにとっても、会社にとっても意味がある』と言える役割を準備しておくこと。どんな活躍を期待するかを事前に整理しておけば、着任後の対話も未来志向で進められます」
異動前後の1on1がチームに安心感をもたらす
対話のタイミングは、異動前の面談や着任直後の1on1が良いでしょう。
質問すべきポイントは、①今どんな思いを持っているのか、②将来どうありたいと考えているのか、の二つです。降格の理由がデリケートな場合、本人が話したくないと考えていることもあります。そのとき役立つのが、事前に整えていた「準備」です。
まず、マネジャーは自分のスタンスを提示しましょう。
「あなたと良い関係を築いていきたいから、必要な情報は知っておきたいと思っています。ただ、すぐに言いづらいことがあれば、ご自身のタイミングで話してください」
こう伝えることで、降格してきた本人は、上司の姿勢を理解したうえで、話せる範囲の情報を安心して共有できます。そして、新しい場所でどのように仕事をしていくかを、双方ですり合わせることができるでしょう。
この1on1は、本人のためだけでなく、チームのためでもあります。中途採用や通常の異動であれば、基本的にはチームはポジティブな雰囲気になりやすい。しかし、前情報なく「降格社員が異動してくる」という状況は、ネガティブな緊張感が生まれがちです。ですが、この空気は、マネジャーの一言で大きく緩和されます。
たとえば、事前に1on1で対話できていれば、初めてチームに紹介するときに次のように言うことができます。
「○○さんにはこうした仕事をお願いする予定です。みなさんもよろしくお願いします」
こうした紹介は、チームに安心感を与え、良いスタートを切る助けになるでしょう。もし最初の紹介時点で本人との対話ができていない場合は、「○○さんの役割については、今度改めて話します」と明確に伝えておくことが大切です。
マネジャーがしっかりと話を進めていると周囲に示すことが、チームの不安を軽減します。
早めに役割を定めることが再活躍のポイント
異動後の立ち上がりは1on1の頻度を多く持つことが重要です。場合によっては毎日でも構いません。対話することの目的は、仲良くなることではなく、早めに降格社員の役割を明確にすることにあります。
最も避けたいリスクは、降格社員が早期に退職してしまうことです。スタートの段階でチームメンバーと目線が合わなければ、周囲の無用な遠慮やチーム内の暗黙の線引き、あるいは上司の価値観に基づく的外れな励ましによって成果が出せず、結果として辞めざるを得なくなることもあるでしょう。
逆に初動でしっかり対話ができれば、降格人事がチームや会社にとってプラスに転じることもあります。岡本さんは、二つの事例を紹介してくれました。
一つ目は、研究開発部門から知財管理部門へ異動したAさんのケースです。一見全く異なる業務に見えますが、技術的な知見や社内人脈が知財管理に生かせることがわかりました。マネジャーとともに成果を上げる道筋を探した結果、再び役職に就いたそうです。
もう一つは家庭の事情で降格・異動したBさんのケースです。Bさんは家族の時間を大事にしつつ、チームのメンバー同士をつなぐことで力を発揮しました。やりがいを持って業務に取り組んだ結果、チーム全体のパフォーマンスが向上し、本人・チーム・会社の三者にとって良い結果となりました。
マネジャー経験を持つメンバーは、受け入れる側にとって「扱いづらい」と感じられることもあるでしょう。しかし、見方を変えれば、マネジャーの視点を理解している心強い味方にもなりうる存在です。その力をどう引き出すかは、受け入れるマネジャーの対話力にかかっています。
「『新しい部署でもう一度頑張ろう』という気持ちで異動してきている人もいます。辞めることもできたのに残ったのは、そこで頑張りたいと思った理由があるからです。野球でいう“トライアウト”(再評価のための選抜テスト)のように、再び活躍する可能性は大いにあります」(岡本さん)
降格人事は“本人希望”が増えている
降格とは、役職者がメンバークラスに戻ることを指しますが、いくつかパターンがあります。
役職者が役職から“降りる”ケースには、以下の四つが想定されます。
☑️ 成果不足によるポジション変更
☑️ 本人からの申し出によるもの
☑️ 役職定年(一定年齢で管理職から退く制度)など、年齢要因
☑️ 懲戒に近い性質の降格
このうち、近年特に増えているのが2の「本人からの申し出」です。マネジャーに昇進したものの、さまざまな事情から「このまま続けるのは難しい」と判断して役職を降りてしまう。
以前であれば、こうしたケースは退職につながることも多かったでしょう。しかし、採用市場が激化するなか、企業側は新たな人材の採用が難しくなっています。そのため、ポジションを変更してでも既存社員に残ってもらう“円満降格”という選択が生まれています。
本稿ではこのケースを中心に、降格社員を受け入れる現場マネジャーの動き方を考えていきます。
降格社員のサポートは“情報”がカギ
降格社員を受け入れることが決まったとき、現場マネジャーはどのように動けば、スムーズな受け入れを実現できるのでしょうか。
降格人事の場合、その社員の降格理由が周囲に明かされないことがほとんどです。そのため、理由に関する憶測が生まれやすく、異動先のチームにも緊張感が生まれることがあります。大企業の場合は別部署への異動になることが多いものの、通常のローテーションとは異なり、受け入れ側に同様のケースを経験した人がおらず、「どう扱えばよいのか分からない」という状況になりがちです。
こうした場面で多いのが、背景を知らないマネジャーが“自分目線”で降格社員の気持ちを想像し、ズレた配慮をしてしまうことだと岡本氏は言います。
本来であれば、まずは異動前の部署の責任者と異動先の責任者が連携し、背景の説明を受けた異動先の責任者が現場マネジャーに必要な情報を知らせるのが望ましい進め方ですが、それが行われず、降格社員が新天地で適切なサポートを受けられないケースも少なくありません。
.webp)
そこで、降格社員を受け入れる職場のマネジャーがやらなくてはいけないことが二つあります。
①背景情報を必ず確認する
まず必要なのは、降格の背景を把握することです。自分の上司に、「前の職場の上司に、降格の背景を確認してほしい」と依頼することは必須でしょう。
☑️ ハラスメント事案
☑️ 家庭の事情(育児・介護など)
☑️ 業務負荷
など、降格の理由によって支援の仕方も、降格社員とチームメンバーとの付き合い方も大きく違ってきます。
「(降格人事は)個別ケースがかなり多いので、マネジャーはしっかりと把握しておくべきです」(岡本さん)
②本人との対話の場を必ず設ける
もう一つ欠かせないのが、降格した社員と対話する機会を設けることです。降格の理由を知っているかどうかにかかわらず、まずは「新しい職場でどのように働きたいか」「どんな思いを持っているか」を丁寧に確認するところから始めましょう。
その時に大切なのは、“受け入れ準備”だと岡本さんは説きます。
「降格社員を受け入れる前に、『この人にはこの仕事を任せよう。それは本人のキャリアにとっても、会社にとっても意味がある』と言える役割を準備しておくこと。どんな活躍を期待するかを事前に整理しておけば、着任後の対話も未来志向で進められます」
異動前後の1on1がチームに安心感をもたらす
対話のタイミングは、異動前の面談や着任直後の1on1が良いでしょう。
質問すべきポイントは、①今どんな思いを持っているのか、②将来どうありたいと考えているのか、の二つです。降格の理由がデリケートな場合、本人が話したくないと考えていることもあります。そのとき役立つのが、事前に整えていた「準備」です。
まず、マネジャーは自分のスタンスを提示しましょう。
「あなたと良い関係を築いていきたいから、必要な情報は知っておきたいと思っています。ただ、すぐに言いづらいことがあれば、ご自身のタイミングで話してください」
こう伝えることで、降格してきた本人は、上司の姿勢を理解したうえで、話せる範囲の情報を安心して共有できます。そして、新しい場所でどのように仕事をしていくかを、双方ですり合わせることができるでしょう。
この1on1は、本人のためだけでなく、チームのためでもあります。中途採用や通常の異動であれば、基本的にはチームはポジティブな雰囲気になりやすい。しかし、前情報なく「降格社員が異動してくる」という状況は、ネガティブな緊張感が生まれがちです。ですが、この空気は、マネジャーの一言で大きく緩和されます。
たとえば、事前に1on1で対話できていれば、初めてチームに紹介するときに次のように言うことができます。
「○○さんにはこうした仕事をお願いする予定です。みなさんもよろしくお願いします」
こうした紹介は、チームに安心感を与え、良いスタートを切る助けになるでしょう。もし最初の紹介時点で本人との対話ができていない場合は、「○○さんの役割については、今度改めて話します」と明確に伝えておくことが大切です。
マネジャーがしっかりと話を進めていると周囲に示すことが、チームの不安を軽減します。
早めに役割を定めることが再活躍のポイント
異動後の立ち上がりは1on1の頻度を多く持つことが重要です。場合によっては毎日でも構いません。対話することの目的は、仲良くなることではなく、早めに降格社員の役割を明確にすることにあります。
最も避けたいリスクは、降格社員が早期に退職してしまうことです。スタートの段階でチームメンバーと目線が合わなければ、周囲の無用な遠慮やチーム内の暗黙の線引き、あるいは上司の価値観に基づく的外れな励ましによって成果が出せず、結果として辞めざるを得なくなることもあるでしょう。
逆に初動でしっかり対話ができれば、降格人事がチームや会社にとってプラスに転じることもあります。岡本さんは、二つの事例を紹介してくれました。
一つ目は、研究開発部門から知財管理部門へ異動したAさんのケースです。一見全く異なる業務に見えますが、技術的な知見や社内人脈が知財管理に生かせることがわかりました。マネジャーとともに成果を上げる道筋を探した結果、再び役職に就いたそうです。
もう一つは家庭の事情で降格・異動したBさんのケースです。Bさんは家族の時間を大事にしつつ、チームのメンバー同士をつなぐことで力を発揮しました。やりがいを持って業務に取り組んだ結果、チーム全体のパフォーマンスが向上し、本人・チーム・会社の三者にとって良い結果となりました。
マネジャー経験を持つメンバーは、受け入れる側にとって「扱いづらい」と感じられることもあるでしょう。しかし、見方を変えれば、マネジャーの視点を理解している心強い味方にもなりうる存在です。その力をどう引き出すかは、受け入れるマネジャーの対話力にかかっています。
「『新しい部署でもう一度頑張ろう』という気持ちで異動してきている人もいます。辞めることもできたのに残ったのは、そこで頑張りたいと思った理由があるからです。野球でいう“トライアウト”(再評価のための選抜テスト)のように、再び活躍する可能性は大いにあります」(岡本さん)






