エンゲージメントサーベイは無駄ではない!実施目的や効果的な運用方法を成功事例付きで解説
「エンゲージメントサーベイは無駄だ、意味がない」ーーそうした声が社内から上がったことはありませんか。
エンゲージメントサーベイでは、「従業員の自発的な組織への貢献意欲」を数値化し、従業員と対話をしながら組織改善に取り組みます。しかしせっかくサーベイを実施しても、その目的や効果が従業員に伝わらないと、無駄な取り組みだと誤解されてしまいます。
本記事では、エンゲージメントサーベイの定義や目的から、導入方法、実施後の人事施策までを事例付きで解説します。エンゲージメントサーベイを効果的に運用するためのヒントが多くありますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.エンゲージメントサーベイとは?
エンゲージメントサーベイは、従業員が自社のビジョンや価値観に共感して自発的に貢献したいと思う意欲に関する調査のことで、サーベイ結果を組織改善に生かします。ここで測定している従業員エンゲージメントとは、組織と従業員の一体感や、従業員の貢献意識を中核とした概念で、離職率や生産性・収益性などの業績指標と密接に関連していることが、ギャラップ社などの調査で示されています。
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図1
本調査結果のサマリーを図化
https://www.gallup.com/q12-employee-engagement-survey/
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いまエンゲージメントサーベイが注目される理由
エンゲージメントサーベイは、人材の流動化と人的資本経営の普及を背景に注目されるようになりました。また、2017年のギャラップ社の調査において、日本が他国に比べて「やる気のない従業員」が多いと示されたことも、大きな影響を与えました。2025年時点でも日本の従業員エンゲージメント率は世界的に低水準にあり、仕事にやりがいを感じている従業員はわずか7%に留まっているとの報告もあります。
人材の流動化が進んだ現代、人材の定着率や離職率と関連している従業員エンゲージメントは多くの企業にとって重要なKPIです。そのため優秀な人材を確保し定着させる方法の一つとして、エンゲージメントサーベイの実施とエンゲージメント向上への取り組みが注目されています。
人的資本経営においてもエンゲージメントは重要な指標です。人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO30414では、従業員エンゲージメントを組織風土の指標例に挙げており、非財務情報として活用できます。また、2022年に公表された「人材版伊藤レポート2.0」でも、人的資本経営の重要施策の一つに従業員エンゲージメントの向上が挙げられています。
従業員満足度との違い
従業員満足度は「自社の制度や待遇、人間関係にどれだけ満たされているか」という環境面への評価です。対して、ワーク・エンゲージメントは「仕事に対して活力を感じ、没頭できているか」という能動的な心理状態を指します。
この違いが重要なのは、ワーク・エンゲージメントについては縦断研究により業績を予測することが科学的に確認されているからです。ただし、その影響力は一般に言われているほど劇的ではなく、限定的(small/weak)です。さらに、エンゲージメントが一方的に業績を高めるのではなく、業績の成功体験がエンゲージメントを高めるという逆方向の関係も確認されています。つまり、両者は双方向に影響し合うサイクルとして捉えるのが実態に即しています。
2.エンゲージメントサーベイの目的
企業がエンゲージメントサーベイを実施する主な目的は、組織課題を抽出・可視化すること、現場の声を人事施策に反映させること、人事施策の効果検証を行なうことの三点です。それぞれについて解説します。
課題を可視化するため
エンゲージメントサーベイの結果から、従業員が企業や組織へ求める期待と現状とのギャップを把握できます。従業員がどこに不満を持ち、何を期待しているのかを把握することで企業が抱える人事課題が浮き彫りになり、解決の優先順位をつけられるようになります。
現場の声を人事施策に反映させるため
エンゲージメントサーベイの結果を活用し、現場の声を人事施策の導入・改善に反映することができます。例えばコミュニケーション不足が課題であれば1on1を導入する、従業員のモチベーションが低いならば評価制度やキャリアパスを見直すといった施策が考えられます。
人事施策の効果検証を行うため
定期的にエンゲージメントサーベイを行うと、組織の変化を数字で捉えられるようになります。新しく人事施策を導入した際も、導入前後のサーベイ結果を数値で比較することで、施策の効果検証ができます。
3.エンゲージメントサーベイのメリット
エンゲージメントサーベイは組織と従業員の対話を促し、離職率の低下、採用活動の活性化、業務品質の向上、人事トラブルの防止といった、社内外への効果が期待できます。以下ではこの四つのメリットについて解説します。
離職率の低下
エンゲージメントサーベイでは、従業員の本音を知り、離職の予兆を把握できます。特に多かった不満を解消したり、上司―部下間で1on1を実施したりすれば、退職の予防効果が期待できるでしょう。また、企業が従業員の意見に耳を傾ける姿勢を見せること自体が、従業員の信頼感や愛着を高めます。結果的に、施策と対応力の両面から従業員の定着率向上や離職率低下に取り組めます。
生産性・顧客満足度の向上
エンゲージメントが高い組織では、従業員が自社に貢献しようと意欲的に業務に取り組みます。従業員が組織のためにできることを常に考えていれば、自然と協力し合う風土や新しいアイデアが生まれやすくなり、生産性が高まります。
また自社や自社が提供するサービス・商品への愛着が湧くことで、従業員が「顧客にも良さを伝えたい」と考えるようになれば、顧客対応やサービス品質の向上につながります。その結果、顧客満足度の向上も期待できます。
人事トラブルの防止
エンゲージメントサーベイは、現場で起こっている人事トラブルの早期発見に繋がる可能性があります。個別に回答を求めることで、従業員は周囲に相談しづらい人間関係の悩みや、ハラスメント事案を伝えやすくなるからです。ただし、こうしたセンシティブな情報を得るためには、エンゲージメントサーベイでは匿名性と守秘義務が守られることを周知することが不可欠です。
リファラル採用の促進と採用活動の活性化
エンゲージメントを高めることは、採用活動の活性化にもつながります。社員が意欲的に働ける環境作りは、求職者にとって大きな魅力です。また、社員の貢献意識からリファラル採用の促進も期待でき、全体として人材を集めやすくなる効果が期待できます。
リファラル採用とは、自社の従業員の紹介によって人材を採用する手法です。自社をよく知る従業員が紹介するため、ミスマッチのリスクが低く採用コストの削減もできます。エンゲージメントを高めれば、従業員が自社を知人に勧めたいと考え、企業が求める人材を紹介してくれるかもしれません。
4.エンゲージメントサーベイが「無駄」だと思われるパターンと対処
エンゲージメントサーベイには多くのメリットがありますが、社内からは「無駄」「意味がない」と思われてしまうことがあります。その結果、回答の質が下がって従業員の本音が掴めず、エンゲージメントサーベイが形骸化する恐れがあります。
以下では、エンゲージメントサーベイが無駄だと思われてしまう四つの理由と対処法を解説します。
1.実施の目的が不明確
エンゲージメントサーベイの目的やメリットが伝わらないと、従業員はサーベイの重要性を理解しないまま回答してしまい、回答率や回答の質が低下する恐れがあります。サーベイの実施前には、目的と意義、実施方法などを明確に伝え、従業員の理解と協力を得ましょう。
2.分析結果のフィードバックがない、改善に生かされていない
エンゲージメントサーベイに回答しても組織から何の反応も無ければ、従業員は「回答しても意味がない」と感じてしまいます。サーベイ実施後は速やかに結果のフィードバックを行い、アクションプランを共有しましょう。全社的な課題に対しては人事施策の改善や導入を行い、部門の課題は1on1や関係者全員での対話の機会を設定して解決を促します。
3.正確な回答が得られない
エンゲージメントサーベイを実施する際、所要時間が長い、設問が複雑で回答しづらい、実施頻度が高いといった要因があると、正確な回答が得られない可能性があります。目的に沿って従業員の負担のない方法を選びましょう。
例えばパルスサーベイなら、質問項目が少なく(5〜10問程度)、週次・月次など高頻度で従業員の心身の状態を把握できます。反対にセンサスは多面的に従業員の声を把握できますが、項目数が多いため(30〜50問程度)、年1回などの低頻度での実施が望まれます。
4.個人の特定を恐れて回答が無難になる
自分の回答が上司にも共有され評価に影響するかもしれない、という不安があると、従業員は本音を隠して無難な回答をしてしまう可能性があります。エンゲージメントサーベイを周知する際は、データの取り扱い方法や、匿名性と守秘義務について丁寧に説明しましょう。従業員が安心して回答できる環境を作れば、本音の回答を得やすくなり、実態に沿った施策を検討できるでしょう。
5.エンゲージメントサーベイ導入の6ステップ
実際にエンゲージメントサーベイを導入する際の六つのステップについて解説します。
<図の挿入>
左から右へ、Step1からStep6までのフロー図を入れてください。
🪜Step 1. 目的の明確化
人事課題や経営目標をもとに、エンゲージメントサーベイの実施目的を明確にします。事前に仮説を立て、サーベイでどのような情報を収集するかを決定します。
🪜Step 2.実施方法の決定
目的や組織状況に合わせてエンゲージメントサーベイの対象者や実施期間、使用ツールを決めます。サーベイツールは自社で作成するほか、Googleフォームなどの無料サービスや、有料のエンゲージメントサーベイツールを活用できます。繁忙期や人事異動の時期を避け、従業員にとって負担のない実施方法を検討しましょう。
🪜Step 3. 従業員への周知と実施
従業員に対し、サーベイの目的や実施方法について説明します。特に目的、従業員にとっての意義、匿名性については丁寧に説明しましょう。匿名性の説明では、具体的な運用方針を明示することが信頼形成の要です。例えば「個人を特定しない」「回答数が一定未満(例:4~5名未満)の部署は結果を非表示にする」「どの単位で集計・報告するかを事前に開示する」といった点を伝えましょう。こうした説明によりサーベイの意義を理解してもらい、従業員が安心して回答できる環境を整えることで、質の高い回答を得ることができます。実施期間中はリマインドを送り、回収率を高めましょう。
🪜Step 4. 結果の集計・分析と課題の特定
サーベイ終了後は速やかに集計・分析を行い、どのような組織課題や従業員の悩み・不満があるかを洗い出します。分析結果や抽出した課題は、従業員にもフィードバックします。
サーベイ結果は以下の三点から分析すると課題が見えやすくなります。
⚫︎時系列での比較
→組織風土の変化が見え、人事施策の効果検証ができる
⚫︎セグメント(部署や階層、雇用形態など)での比較
→属性に特有の課題を発見できる
⚫︎KPIなど他の指標との紐付け
→エンゲージメントと業績指標の関連を把握し、課題の優先順位をつけられる
🪜Step 5. 結果のフィードバックと施策の決定・実行
従業員へのフィードバックは、全社への周知と、部門ごとのフィードバックの2軸で行なうと良いでしょう。全社的な施策は優先順位をつけ、経営や人事が主導してアクションプランを作成します。部門ごとの課題は、1on1やチームミーティングを通じて改善策を検討します。いずれも現場の従業員と対話をしながら進めることで、従業員の当事者意識を高められます。
なお、1on1は週1回の頻度で行うと効果的です。週1回、有意義な対話を受けた従業員はエンゲージメントが顕著に高いというデータがあります(出典:Gallup)。サーベイで見えた課題をもとに1on1で小さな改善アクションを決め、翌週に振り返る——このサイクルを回すことで、サーベイを形骸化させず、継続的な改善につなげられるでしょう。
🪜Step 6. 効果検証
エンゲージメントサーベイは、継続的に実施してPDCAを回すことが重要です。数カ月〜1年の期間をおいて再測定し、人事施策の効果を検証します。施策の効果が出ない場合は施策の切り口を変え、新たな課題が出てきたときには新しい施策を検討します。
6.エンゲージメントサーベイの質問項目
エンゲージメントサーベイの質問内容に決まりはありません。一般的には、企業、上司、仕事、環境の4領域をベースに、目的や従業員の属性に合わせて調整します。例えば企業理念の浸透度合いや、上司からの承認・支援の有無、仕事に対する認識、職場の人間関係やリソースに関する内容などが考えられます。
質問項目はシンプルな文章で、「当てはまる程度」などを5〜10段階で評価する形式にすると回答しやすくなります。また自由に文章を書ける質問項目を設定すると、具体的な悩みや不満が発見できることもあります。
代表的なエンゲージメントサーベイの質問票は、「Q12」や「eNPS」などです。「Q12」は従業員の生産性向上に向けて、マネジャーが満たせるニーズを12個提示したもので、ギャラップ社が開発しました。「eNPS」は、「Employee Net Promoter Score」の略称で、「自社ではたらくことをどの程度親しい人に勧めたいか」というシンプルな質問に対し、0~10点で評価します。
7.エンゲージメントを高めるコツ
エンゲージメントを高めるために意識したい三つのポイントをご紹介します。
従業員の価値観やキャリアビジョンを知る
従業員が企業や労働に求めることは、個々人の価値観や置かれている状況によって異なります。一人ひとりが意欲的に能力を発揮できる環境を作るためには、組織と従業員の相互理解が必要です。
まずはエンゲージメントサーベイの結果をもとに、なぜこのような結果になったのか、今後どのような改善が必要なのかを話し合いましょう。1on1や個別のヒアリングを実施すれば個々人の価値観やキャリアビジョンを知ることができ、部下の不満解消やモチベーションアップ、キャリア形成支援をしやすくなります。
企業理念の共有、浸透
従業員を理解することと同じぐらい、従業員に企業のビジョンや価値観を伝え、共感してもらうことも大切です。エンゲージメントの向上には、従業員が組織の価値観を理解し共感することが欠かせません。経営陣が積極的にビジョンや価値観を発信し、マネジャーが日々の関わりや1on1の中で組織の価値観をメンバーへ伝えていくことが求められます。
心理的安全性の醸成
社内コミュニケーションが活発で相談しやすい風土があり、裁量を持って仕事ができると、従業員は失敗を恐れず挑戦できるようになるでしょう。心理的安全性の高い組織であれば、従業員は積極的にアイデアや意見を表明し、主体的に仕事に取り組めます。その結果が成功体験になれば、従業員の組織への信頼感や貢献意欲が高まることが期待できます。
9. エンゲージメントサーベイの成功事例2選
エンゲージメントサーベイから組織を改善し、生産性の向上や離職率の低下に繋がった事例をご紹介します。
🖊️ 株式会社小松製作所の事例
建設機械で国内シェア1位の株式会社小松製作所は、エンゲージメントサーベイの成功企業として注目されています。同社は2021年に国内・海外グループ会社約7万人を対象としたグローバル・エンゲージメント・サーベイを開始しました。ポイントは、サーベイ結果をもとに各国・各部門でアクションプランを策定し、改善を継続している点です。
研修等を通じて全社員に同社の価値観やビジョンをまとめた「コマツウェイ」を浸透させる一方、従業員の声を反映したキャリア開発支援の充実にも取り組んでいます。
その結果、「持続可能なエンゲージメント」スコアはグローバルで79→81、日本で69→71へと向上しています(2021→2025年度)。
参考:https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/89?utm_content=ja_sustainability_people
🖊️ 株式会社福井の事例
株式会社福井は、離職率の高さを解決するためエンゲージメントサーベイと1on1を導入し、社員の定着率向上に取り組みました。
エンゲージメントサーベイの結果、オフィス環境や働き方の柔軟性に関する課題が見出され、一つずつ対応していきました。1on1においては、社長が全社員と行う形から、直属の上司が実施する形式に変え、社内規定にも含めました。
その結果、サーベイ結果の共有や1on1の実施者になることで管理職に当事者意識が芽生え、社長との間に一体感が生まれ、組織の一体感が高まりました。また失敗に対して寛容になり、定着率も向上。さらに副産物として、定着率の高さを求職者にアピールすることで志望者が増え、特に新卒採用で効果を発揮しています。
参考:https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04550.pdf
まとめ
エンゲージメントサーベイは企業と従業員の対話を促し、従業員の本音に基づいた人事施策や労働環境づくりに活用できる重要な取り組みです。サーベイ結果をもとに部門ミーティングや1on1で話し合うことで、組織や上司と従業員の間に対話が生まれ、相互理解と当事者意識の醸成を促せます。
従業員に対して目的と意義を伝え、結果のフィードバックを迅速に行うと同時に人事施策に反映し、従業員から「無駄」と思われないサーベイを実施していきましょう。
1.エンゲージメントサーベイとは?
エンゲージメントサーベイは、従業員が自社のビジョンや価値観に共感して自発的に貢献したいと思う意欲に関する調査のことで、サーベイ結果を組織改善に生かします。ここで測定している従業員エンゲージメントとは、組織と従業員の一体感や、従業員の貢献意識を中核とした概念で、離職率や生産性・収益性などの業績指標と密接に関連していることが、ギャラップ社などの調査で示されています。
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図1
本調査結果のサマリーを図化
https://www.gallup.com/q12-employee-engagement-survey/
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いまエンゲージメントサーベイが注目される理由
エンゲージメントサーベイは、人材の流動化と人的資本経営の普及を背景に注目されるようになりました。また、2017年のギャラップ社の調査において、日本が他国に比べて「やる気のない従業員」が多いと示されたことも、大きな影響を与えました。2025年時点でも日本の従業員エンゲージメント率は世界的に低水準にあり、仕事にやりがいを感じている従業員はわずか7%に留まっているとの報告もあります。
人材の流動化が進んだ現代、人材の定着率や離職率と関連している従業員エンゲージメントは多くの企業にとって重要なKPIです。そのため優秀な人材を確保し定着させる方法の一つとして、エンゲージメントサーベイの実施とエンゲージメント向上への取り組みが注目されています。
人的資本経営においてもエンゲージメントは重要な指標です。人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO30414では、従業員エンゲージメントを組織風土の指標例に挙げており、非財務情報として活用できます。また、2022年に公表された「人材版伊藤レポート2.0」でも、人的資本経営の重要施策の一つに従業員エンゲージメントの向上が挙げられています。
従業員満足度との違い
従業員満足度は「自社の制度や待遇、人間関係にどれだけ満たされているか」という環境面への評価です。対して、ワーク・エンゲージメントは「仕事に対して活力を感じ、没頭できているか」という能動的な心理状態を指します。
この違いが重要なのは、ワーク・エンゲージメントについては縦断研究により業績を予測することが科学的に確認されているからです。ただし、その影響力は一般に言われているほど劇的ではなく、限定的(small/weak)です。さらに、エンゲージメントが一方的に業績を高めるのではなく、業績の成功体験がエンゲージメントを高めるという逆方向の関係も確認されています。つまり、両者は双方向に影響し合うサイクルとして捉えるのが実態に即しています。
2.エンゲージメントサーベイの目的
企業がエンゲージメントサーベイを実施する主な目的は、組織課題を抽出・可視化すること、現場の声を人事施策に反映させること、人事施策の効果検証を行なうことの三点です。それぞれについて解説します。
課題を可視化するため
エンゲージメントサーベイの結果から、従業員が企業や組織へ求める期待と現状とのギャップを把握できます。従業員がどこに不満を持ち、何を期待しているのかを把握することで企業が抱える人事課題が浮き彫りになり、解決の優先順位をつけられるようになります。
現場の声を人事施策に反映させるため
エンゲージメントサーベイの結果を活用し、現場の声を人事施策の導入・改善に反映することができます。例えばコミュニケーション不足が課題であれば1on1を導入する、従業員のモチベーションが低いならば評価制度やキャリアパスを見直すといった施策が考えられます。
人事施策の効果検証を行うため
定期的にエンゲージメントサーベイを行うと、組織の変化を数字で捉えられるようになります。新しく人事施策を導入した際も、導入前後のサーベイ結果を数値で比較することで、施策の効果検証ができます。
3.エンゲージメントサーベイのメリット
エンゲージメントサーベイは組織と従業員の対話を促し、離職率の低下、採用活動の活性化、業務品質の向上、人事トラブルの防止といった、社内外への効果が期待できます。以下ではこの四つのメリットについて解説します。
離職率の低下
エンゲージメントサーベイでは、従業員の本音を知り、離職の予兆を把握できます。特に多かった不満を解消したり、上司―部下間で1on1を実施したりすれば、退職の予防効果が期待できるでしょう。また、企業が従業員の意見に耳を傾ける姿勢を見せること自体が、従業員の信頼感や愛着を高めます。結果的に、施策と対応力の両面から従業員の定着率向上や離職率低下に取り組めます。
生産性・顧客満足度の向上
エンゲージメントが高い組織では、従業員が自社に貢献しようと意欲的に業務に取り組みます。従業員が組織のためにできることを常に考えていれば、自然と協力し合う風土や新しいアイデアが生まれやすくなり、生産性が高まります。
また自社や自社が提供するサービス・商品への愛着が湧くことで、従業員が「顧客にも良さを伝えたい」と考えるようになれば、顧客対応やサービス品質の向上につながります。その結果、顧客満足度の向上も期待できます。
人事トラブルの防止
エンゲージメントサーベイは、現場で起こっている人事トラブルの早期発見に繋がる可能性があります。個別に回答を求めることで、従業員は周囲に相談しづらい人間関係の悩みや、ハラスメント事案を伝えやすくなるからです。ただし、こうしたセンシティブな情報を得るためには、エンゲージメントサーベイでは匿名性と守秘義務が守られることを周知することが不可欠です。
リファラル採用の促進と採用活動の活性化
エンゲージメントを高めることは、採用活動の活性化にもつながります。社員が意欲的に働ける環境作りは、求職者にとって大きな魅力です。また、社員の貢献意識からリファラル採用の促進も期待でき、全体として人材を集めやすくなる効果が期待できます。
リファラル採用とは、自社の従業員の紹介によって人材を採用する手法です。自社をよく知る従業員が紹介するため、ミスマッチのリスクが低く採用コストの削減もできます。エンゲージメントを高めれば、従業員が自社を知人に勧めたいと考え、企業が求める人材を紹介してくれるかもしれません。
4.エンゲージメントサーベイが「無駄」だと思われるパターンと対処
エンゲージメントサーベイには多くのメリットがありますが、社内からは「無駄」「意味がない」と思われてしまうことがあります。その結果、回答の質が下がって従業員の本音が掴めず、エンゲージメントサーベイが形骸化する恐れがあります。
以下では、エンゲージメントサーベイが無駄だと思われてしまう四つの理由と対処法を解説します。
1.実施の目的が不明確
エンゲージメントサーベイの目的やメリットが伝わらないと、従業員はサーベイの重要性を理解しないまま回答してしまい、回答率や回答の質が低下する恐れがあります。サーベイの実施前には、目的と意義、実施方法などを明確に伝え、従業員の理解と協力を得ましょう。
2.分析結果のフィードバックがない、改善に生かされていない
エンゲージメントサーベイに回答しても組織から何の反応も無ければ、従業員は「回答しても意味がない」と感じてしまいます。サーベイ実施後は速やかに結果のフィードバックを行い、アクションプランを共有しましょう。全社的な課題に対しては人事施策の改善や導入を行い、部門の課題は1on1や関係者全員での対話の機会を設定して解決を促します。
3.正確な回答が得られない
エンゲージメントサーベイを実施する際、所要時間が長い、設問が複雑で回答しづらい、実施頻度が高いといった要因があると、正確な回答が得られない可能性があります。目的に沿って従業員の負担のない方法を選びましょう。
例えばパルスサーベイなら、質問項目が少なく(5〜10問程度)、週次・月次など高頻度で従業員の心身の状態を把握できます。反対にセンサスは多面的に従業員の声を把握できますが、項目数が多いため(30〜50問程度)、年1回などの低頻度での実施が望まれます。
4.個人の特定を恐れて回答が無難になる
自分の回答が上司にも共有され評価に影響するかもしれない、という不安があると、従業員は本音を隠して無難な回答をしてしまう可能性があります。エンゲージメントサーベイを周知する際は、データの取り扱い方法や、匿名性と守秘義務について丁寧に説明しましょう。従業員が安心して回答できる環境を作れば、本音の回答を得やすくなり、実態に沿った施策を検討できるでしょう。
5.エンゲージメントサーベイ導入の6ステップ
実際にエンゲージメントサーベイを導入する際の六つのステップについて解説します。
<図の挿入>
左から右へ、Step1からStep6までのフロー図を入れてください。
🪜Step 1. 目的の明確化
人事課題や経営目標をもとに、エンゲージメントサーベイの実施目的を明確にします。事前に仮説を立て、サーベイでどのような情報を収集するかを決定します。
🪜Step 2.実施方法の決定
目的や組織状況に合わせてエンゲージメントサーベイの対象者や実施期間、使用ツールを決めます。サーベイツールは自社で作成するほか、Googleフォームなどの無料サービスや、有料のエンゲージメントサーベイツールを活用できます。繁忙期や人事異動の時期を避け、従業員にとって負担のない実施方法を検討しましょう。
🪜Step 3. 従業員への周知と実施
従業員に対し、サーベイの目的や実施方法について説明します。特に目的、従業員にとっての意義、匿名性については丁寧に説明しましょう。匿名性の説明では、具体的な運用方針を明示することが信頼形成の要です。例えば「個人を特定しない」「回答数が一定未満(例:4~5名未満)の部署は結果を非表示にする」「どの単位で集計・報告するかを事前に開示する」といった点を伝えましょう。こうした説明によりサーベイの意義を理解してもらい、従業員が安心して回答できる環境を整えることで、質の高い回答を得ることができます。実施期間中はリマインドを送り、回収率を高めましょう。
🪜Step 4. 結果の集計・分析と課題の特定
サーベイ終了後は速やかに集計・分析を行い、どのような組織課題や従業員の悩み・不満があるかを洗い出します。分析結果や抽出した課題は、従業員にもフィードバックします。
サーベイ結果は以下の三点から分析すると課題が見えやすくなります。
⚫︎時系列での比較
→組織風土の変化が見え、人事施策の効果検証ができる
⚫︎セグメント(部署や階層、雇用形態など)での比較
→属性に特有の課題を発見できる
⚫︎KPIなど他の指標との紐付け
→エンゲージメントと業績指標の関連を把握し、課題の優先順位をつけられる
🪜Step 5. 結果のフィードバックと施策の決定・実行
従業員へのフィードバックは、全社への周知と、部門ごとのフィードバックの2軸で行なうと良いでしょう。全社的な施策は優先順位をつけ、経営や人事が主導してアクションプランを作成します。部門ごとの課題は、1on1やチームミーティングを通じて改善策を検討します。いずれも現場の従業員と対話をしながら進めることで、従業員の当事者意識を高められます。
なお、1on1は週1回の頻度で行うと効果的です。週1回、有意義な対話を受けた従業員はエンゲージメントが顕著に高いというデータがあります(出典:Gallup)。サーベイで見えた課題をもとに1on1で小さな改善アクションを決め、翌週に振り返る——このサイクルを回すことで、サーベイを形骸化させず、継続的な改善につなげられるでしょう。
🪜Step 6. 効果検証
エンゲージメントサーベイは、継続的に実施してPDCAを回すことが重要です。数カ月〜1年の期間をおいて再測定し、人事施策の効果を検証します。施策の効果が出ない場合は施策の切り口を変え、新たな課題が出てきたときには新しい施策を検討します。
6.エンゲージメントサーベイの質問項目
エンゲージメントサーベイの質問内容に決まりはありません。一般的には、企業、上司、仕事、環境の4領域をベースに、目的や従業員の属性に合わせて調整します。例えば企業理念の浸透度合いや、上司からの承認・支援の有無、仕事に対する認識、職場の人間関係やリソースに関する内容などが考えられます。
質問項目はシンプルな文章で、「当てはまる程度」などを5〜10段階で評価する形式にすると回答しやすくなります。また自由に文章を書ける質問項目を設定すると、具体的な悩みや不満が発見できることもあります。
代表的なエンゲージメントサーベイの質問票は、「Q12」や「eNPS」などです。「Q12」は従業員の生産性向上に向けて、マネジャーが満たせるニーズを12個提示したもので、ギャラップ社が開発しました。「eNPS」は、「Employee Net Promoter Score」の略称で、「自社ではたらくことをどの程度親しい人に勧めたいか」というシンプルな質問に対し、0~10点で評価します。
7.エンゲージメントを高めるコツ
エンゲージメントを高めるために意識したい三つのポイントをご紹介します。
従業員の価値観やキャリアビジョンを知る
従業員が企業や労働に求めることは、個々人の価値観や置かれている状況によって異なります。一人ひとりが意欲的に能力を発揮できる環境を作るためには、組織と従業員の相互理解が必要です。
まずはエンゲージメントサーベイの結果をもとに、なぜこのような結果になったのか、今後どのような改善が必要なのかを話し合いましょう。1on1や個別のヒアリングを実施すれば個々人の価値観やキャリアビジョンを知ることができ、部下の不満解消やモチベーションアップ、キャリア形成支援をしやすくなります。
企業理念の共有、浸透
従業員を理解することと同じぐらい、従業員に企業のビジョンや価値観を伝え、共感してもらうことも大切です。エンゲージメントの向上には、従業員が組織の価値観を理解し共感することが欠かせません。経営陣が積極的にビジョンや価値観を発信し、マネジャーが日々の関わりや1on1の中で組織の価値観をメンバーへ伝えていくことが求められます。
心理的安全性の醸成
社内コミュニケーションが活発で相談しやすい風土があり、裁量を持って仕事ができると、従業員は失敗を恐れず挑戦できるようになるでしょう。心理的安全性の高い組織であれば、従業員は積極的にアイデアや意見を表明し、主体的に仕事に取り組めます。その結果が成功体験になれば、従業員の組織への信頼感や貢献意欲が高まることが期待できます。
9. エンゲージメントサーベイの成功事例2選
エンゲージメントサーベイから組織を改善し、生産性の向上や離職率の低下に繋がった事例をご紹介します。
🖊️ 株式会社小松製作所の事例
建設機械で国内シェア1位の株式会社小松製作所は、エンゲージメントサーベイの成功企業として注目されています。同社は2021年に国内・海外グループ会社約7万人を対象としたグローバル・エンゲージメント・サーベイを開始しました。ポイントは、サーベイ結果をもとに各国・各部門でアクションプランを策定し、改善を継続している点です。
研修等を通じて全社員に同社の価値観やビジョンをまとめた「コマツウェイ」を浸透させる一方、従業員の声を反映したキャリア開発支援の充実にも取り組んでいます。
その結果、「持続可能なエンゲージメント」スコアはグローバルで79→81、日本で69→71へと向上しています(2021→2025年度)。
参考:https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/89?utm_content=ja_sustainability_people
🖊️ 株式会社福井の事例
株式会社福井は、離職率の高さを解決するためエンゲージメントサーベイと1on1を導入し、社員の定着率向上に取り組みました。
エンゲージメントサーベイの結果、オフィス環境や働き方の柔軟性に関する課題が見出され、一つずつ対応していきました。1on1においては、社長が全社員と行う形から、直属の上司が実施する形式に変え、社内規定にも含めました。
その結果、サーベイ結果の共有や1on1の実施者になることで管理職に当事者意識が芽生え、社長との間に一体感が生まれ、組織の一体感が高まりました。また失敗に対して寛容になり、定着率も向上。さらに副産物として、定着率の高さを求職者にアピールすることで志望者が増え、特に新卒採用で効果を発揮しています。
参考:https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04550.pdf
まとめ
エンゲージメントサーベイは企業と従業員の対話を促し、従業員の本音に基づいた人事施策や労働環境づくりに活用できる重要な取り組みです。サーベイ結果をもとに部門ミーティングや1on1で話し合うことで、組織や上司と従業員の間に対話が生まれ、相互理解と当事者意識の醸成を促せます。
従業員に対して目的と意義を伝え、結果のフィードバックを迅速に行うと同時に人事施策に反映し、従業員から「無駄」と思われないサーベイを実施していきましょう。



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