「1on1の満足度が高いのはヤバい」。二郎系ラーメン店の社長が語る意外な理由

「1on1の満足度が高いのはヤバい」——。

大学3年次に二郎系ラーメン店「限界を超えろ」を創業し、現在全国5店舗を展開する株式会社夜明けの深川智行代表はこう語る。2026年に海外進出、2028年に47都道府県での出店を見据える同社は、昨年から組織的な1on1を開始した。

なぜ、1on1に対する部下の満足度が高いことを危険視するのか。組織力の強化や人材育成の要として導入した1on1が浮き彫りにした思わぬ“落とし穴”とは。 深川氏に1on1の意義と課題を聞いた。

経営危機から見えた「対話」の価値

——深川さんが1on1に注目するようになった背景を教えてください。

深川 きっかけは2023年の経営危機です。ラーメン事業の利益を全てIT事業につぎ込んだ結果、両方とも行き詰まり、共同創業者も去って社員はゼロ。インターンへの給与が払えるかという極限状態まで追い込まれました。

振り返ると、創業当初の成功で完全に天狗になっていました。実際は周りのメンバーに支えられていただけなのに、自分の実力だと勘違いしていた。彼らが独立していくにつれ経営が悪化し、一人になった瞬間にうまくいかなくなりました。

組織はメンバー間の有機的な対話があって初めて機能します。人がいるだけでは「集団」にはなりません。経営危機後、唯一残された津田沼の店舗から再起を図るにあたって、対話を通じて組織の力を強化すべく、2024年に1on1を取り入れました。

ただ、実際に始めてみると、思わぬ落とし穴が見えてきました。

深川さんのプロフィール画像
1999年兵庫県出身。株式会社夢を語れ​との出会いを契機に起業を志し、2021年に二郎系ラーメン店「夢を語れ 千葉」を開店。新規事業進出と撤退を経て、2024年に二郎系ラーメン店「限界を超えろ」をオープン。千葉、青森、新潟に店舗を展開し、2026年には海外1号店オープンを目指す。

——何が起きたのでしょうか?

深川 私自身のコミュニケーションが業務のフィードバックに偏ってしまったのです。

成長意欲が高いタイプには効果を発揮しますが、全員がそのようなタイプではありません。一部のメンバーは、「社長に詰められる時間」と感じていたかもしれません。それでは1on1の時間が有意義ではなくなります。

改善方法を模索していたところ、1on1支援ツール「Kakeai(カケアイ)」に出会いました。「1on1は上司ではなく部下のための時間」。そういう思想で設計されているため、1on1のスタイルを変えられると思ったのです。

——ツールを導入して変化は生まれましたか?

深川 変化は大きく二つあります。一つは1on1が文化として社内に定着したことです。

当社は全国に五つの店舗を構え、エリアの統括マネジャーと店長(メンバー)による「縦の1on1」を毎週行っています。

また、直属のマネジャーには直接聞けないけど、別のエリアのマネジャーに聞いてほしい話がある。そのようなニーズに応え、店舗を超えた「斜めの1on1」も隔週で行っています。

Kakeai導入後、部下が事前に話したいテーマを選び、15時から17時の「中休み」に1on1を行うことが日常的な光景となりました。

もう一つの変化は、1on1を部下にとって有意義な時間にしようという意識がマネジャー層に広がったことです。

Kakeaiでは部下が上司の1on1に対する満足度を入力し、それが点数化されます。そのため、マネジャー陣がメンバーの反応を強く意識するようになりました。

Kakeai導入から半年経ちましたが、マネジャー陣の満足度は高い水準を維持しています。

——素晴らしいですね。

深川 普通はそう思いますよね。でも、私はこの結果をヤバいと思いました。多くのマネジャーが部下の受け止め方を気にするあまり、いわゆる「御用聞き」になってしまっていると思ったからです。

1on1の本質は、部下の未来を作ることだと考えます。部下の不満を解消するだけでなく、時には厳しいアドバイスを送り、成長に必要な痛みを与えることも必要です。

しかし、一部のマネジャーは部下の反応を過剰に意識してしまい、核心に踏み込めていない。部下のご機嫌を取れているけれど、本質的な支援はできていないケースが散見されるのです。

相手の成長を本気で願い、そのために何ができるかを考え続ける姿勢がなければ、1on1はあまり意味のない時間になってしまいます。

——そのような事態が起きていることを、深川さんはどのようにして把握しているのでしょうか?

深川 私がメンバークラスの社員と1on1をする際、直属の上司との1on1の内容を細かくヒアリングしています。また、マネジャーが集まる週次ミーティングで、部下の状況や1on1での指導内容を報告してもらっています。さらに、私自身が定期的に現場に赴き、メンバークラスの仕事ぶりを直接確認しています。

現場を観察すると、マネジャーが「フォローできている」と報告してきたメンバーが躓いている場面に遭遇することがあります。報告内容と現実のギャップを分析し、原因が環境的な要因にあるのか、マネジャーのスキル不足によるものなのかなどを見極め、必要なアドバイスを送っています。

このような形で「御用聞き対策」を打っていますが、これは社員数が15人という規模だから可能なことです。

​​当社は2026年に海外進出、2028年までに47都道府県への出店を目指しています。それに伴い社員が30人、50人と増えていけば、私が全員の働きぶりを直接観察することは困難になります。

——組織拡大を控える中、1on1の質の担保にどのような対策が必要と考えますか?

深川 二つの対策を考えています。一つは経営層が個々の1on1をモニタリングできる仕組みを取り入れることです。

ミドルマネジャーは経営層とメンバーの板挟みとなり、双方の意見を調和させることが本来の役割です。しかし、現状では一部のマネジャーが部下の満足度を気にするあまり、会社の方針に沿った指導ができていません。今後は部下のニーズに偏ることを防ぐため、経営層のニーズも見える化する必要があると考えています。

もう一つは、人材育成への貢献度を明確な成果指標に設定することです。私たちは「人が育てば店舗が増え、売上も上がる」という信念を持っており、将来的に「どれだけ部下の成長に貢献できたか」をKPIに設定する予定です。

現在1on1を行っているのは正社員のみですが、今後は店長とアルバイトの1on1も必要だと考えています。

実際、店長と話す機会の多いアルバイトは従業員満足度が高い傾向にあります。当社では社員のほとんどがアルバイトからの登用なので、早い段階から1on1を通じた育成を行うことで、より効果的な人材育成が可能になります。

そうした環境を整えた上で、アルバイトをインターンに、インターンを社員に導いた数や、一般社員を副店長、店長、マネジャーへと引き上げられた人間を高く評価する。

このように評価軸を変えることで、マネジャーが単なる「御用聞き」から脱却し、真の意味で部下の成長に責任を持つようになると考えます。


——飲食業界では1on1を導入する企業がまだ少ない状況と思われます。改めてこの業界で1on1を取り入れることの意義をどのように考えますか?

深川 飲食業界は非正規雇用の従業員が多く、人材の定着と成長が課題となっています。週15分でも定期的に対話する機会を持つことで、従業員のエンゲージメントは大きく変わると思います。

ただ、1on1はあくまで手段であり、何のために実施するのかという目的を明確にすることが重要です。私たちは「メンバー一人ひとりの成長が組織全体の成長につながる」という信念で取り組んでいます。

多忙な店舗運営の中で貴重な時間を使うからこそ、その機会を最大限有効活用したいと考えています。

(撮影:小島マサヒロ)

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