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成果を引き出す!ビジネスコーチングの基本
成果を引き出す!ビジネスコーチングの基本

成果を引き出す!ビジネスコーチングの基本

近年、コーチングは企業の人材育成や組織力向上の手法として注目を集めています。大きく分けると、組織内の個人やチームを対象に業績向上や目標達成を支援するビジネスコーチングと、人生全般を対象にキャリア設計や生活の充実を促すパーソナルコーチングがあります。本記事では、特に企業の管理職・リーダー・人事担当者に向けて、ビジネスコーチングの意義と実践方法を解説します。

目次

1. コーチングとは? ビジネスでの定義と効果

コーチングとは、対話を通じて相手の中にある考えや選択肢、行動の可能性を引き出し、自ら目標達成へと進めるように伴走するコミュニケーション手法です。
ビジネスにおけるコーチングは、上司やリーダーが部下に答えを与えるのではなく、質問や傾聴を通じて自律的な判断・行動を促す点に特徴があります。

語源は英語の “coach”(馬車)で、「目的地まで運ぶ」という意味から転じて、「望む地点まで導く」という比喩として使われるようになりました。

よく比較される「トレーニング」との違いは、レールを引いて答えを教えるのではなく、「答えは相手の中にある」という前提に立つことです。

人は日常的に自問自答をしていますが、思考には一定のクセがあるため、そのパターンは放っておくと固定化されやすくなります。

結果として、同じ考えの枠から抜け出すことが難しく、大胆な発想や新しい行動に踏み出しにくくなります。

そこで有効なのが、第三者との「対話」です。特にコーチングでは、相手の考えを引き出すために「質問」を戦略的に用います。

質問によって、これまで意識していなかった視点や選択肢に気づき、思考の枠を広げられるのです。

これは単なる尋ねかけではなく、相手の内面を探求し、行動を促すために設計された質問である点が特徴です。

日本におけるコーチングの歴史と必要性の高まり

日本でビジネスコーチングが広まり始めたのは1990年代後半です。当初は、相手の話を丁寧に傾聴し、効果的な質問を通じて気づきや行動変容を促す、いわば「コミュニケーション改善」を主目的とするスタイルが中心でした。

しかし、2010年代に入ると、IT化・グローバル化・人材の流動化など、事業環境の変化スピードが加速。

企業はこれまで以上に迅速な意思決定と柔軟な行動を求められるようになり、コーチングへの期待は単なる会話の質向上から「事業の推進・拡大」へとシフトしました。

さらに2020年以降、新型コロナウイルス流行によりリモートワークが急速に拡大。

対面でのやり取りが減り、雑談や偶発的な情報共有の機会が失われたことで、マネジメントやコミュニケーションは一層難しくなりました。

業務進捗の把握やメンバーの心理状態の変化に気づきにくくなり、チームの一体感や帰属意識が低下しやすくなったのです。

こうした背景のもと、上司が部下に指示を与えるだけの「他律的な働き方」では限界が見えてきました。

今多くの会社で求められるのは、自ら考え、行動し、成果を生み出す「自律的な人材」です。

ビジネスコーチングは、第三者との対話によって思考を深め、主体的な行動を促すアプローチとして、現代の働き方においてますます必要性が高まっています。

2. 世界で注目を集めるコーチングの魅力

海外でもコーチングの価値は世界中で高く評価されています。例えば、2019年刊行の書籍『1兆ドルコーチ』(ダイヤモンド社)では、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、グーグル元会長兼CEOのエリック・シュミット、グーグル共同創業者のラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンといったシリコンバレーの著名経営者を陰で支えたビジネスコーチの活動が紹介されています。

日本企業においてもその効果が着実に認められています。ソニーやパナソニック、日立、日清食品、第一生命など、多くの大手企業で1on1定着支援やエグゼクティブコーチング、社内コーチ育成などが導入され、人材育成やイノベーション推進に活用されている実績が公表されています(参照元)。

ビジネスコーチングのメリットと活用例

コーチングは特殊な才能がなくても習得可能で、誰もが実践できる汎用性の高いアプローチです。ビジネスの現場では、個人の成長と組織力の向上を同時に促す手段として、多くの企業で導入が進んでいます。主な効果は次の通りです。

1.自走人材の育成と自己成長の促進 

変化の激しい時代、指示を待つだけではなく、自ら課題を見つけて解決できる人材が求められます。コーチングは、自分の強みや課題に気づき、主体性と責任感を育てます。その過程で自信や自己肯定感も高まります。

💡活用例
管理職が部下からの相談にすぐ答えを出さず、質問で考えを引き出すことで、部下の自主的な提案や改善行動が増える。

2.意思決定の質向上と目標達成の加速 

多くの職場で見られる「会議が長引く」「結論が出ない」といった停滞は、視点や選択肢が十分に引き出されないことが原因です。コーチングは、対話によって多様な意見を引き出し、短期的な判断だけでなく中長期の戦略にも適した意思決定を可能にします。明確な目標設定と行動計画が伴うため、成果に向けた動きもスピードアップします。

💡活用例
新規プロジェクト立ち上げ時にコーチングを活用し、関係者全員が目標と役割を明確にできたことで、初動のスピードと方向性がそろう。

3.健全な対話文化とチームワーク強化

上司と部下の間に「本音が言いづらい空気」があると、情報の遅れや誤解が生じやすくなります。コーチングでは傾聴や承認を通じて心理的安全性を高め、意見やアイデアが出やすい環境をつくります。その結果、連携や信頼関係が強化され、チーム全体のパフォーマンスも向上します。

💡活用例
1on1ミーティングで部下の意見を丁寧に引き出した結果、会議や日常業務でも意見が出やすい雰囲気が広がる。

4.組織活性化とリーダーシップ向上

「上からの指示待ち」「挑戦よりも現状維持を選びがち」といった組織風土は、業績やイノベーションの停滞につながります。コーチングを通じてリーダーがメンバーの力を引き出す関わり方を身につければ、組織全体が自発的に動く文化へと変わっていきます。マネージャーやリーダー自身も、指導力や判断力、マネジメント力を実践の中で磨くことができます。

💡活用例
部門リーダーがコーチング的関わりを習慣化することで、メンバーが主体的に課題解決を進める文化が根付く。

5.離職率低下とウェルネス向上

職場での孤立感や不満は、モチベーションの低下や離職につながります。コーチングは、承認やフィードバックを通じてメンバーのやりがいや安心感を高め、働き続けたいと思える環境づくりに貢献します。

💡活用例
日常的に上司が承認やフィードバックを行うことで、メンバーのやりがいや安心感が高まり、職場定着率が向上する。

効果を確認するには、OKRやKPIの達成度、1on1面談の満足度、360度評価での行動変化、エンゲージメントスコア、離職率の推移などを活用します。こうした数字や評価を使って成果を見える化すれば、経営層にもコーチングの価値を伝えやすくなります。

3. ティーチング/カウンセリング/コンサルとの違い

コーチングは、ティーチングやメンタリング、カウンセリング、コンサルティングと混同されやすいですが、目的・関係性・アプローチがそれぞれ異なります。

コーチング・メンタリング手法比較表

①ティーチング

知識やスキルを「教える」ことを目的とし、指導者と学習者という上下関係が前提。成果物は習得した内容や手順です。

②メンタリング   

経験豊富なメンターが自身のキャリアや価値観を共有しながらメンティの成長を支援します。しばしばロールモデル的存在として見られますが、指導というよりも「伴走と助言」に近い関係です。

③カウンセリング 

悩みや心理的課題を専門家との対話で整理・解決する手法で、傾聴や共感を重視し、自己受容や心理的安定を目指します。主に心理士や臨床心理士が担います。

④コンサルティング 

クライアントの課題を分析し、解決策を提案・提供するアプローチで、専門的知見による情報提供が核となります。

⑤コーチング 

対等な関係を前提に、質問や傾聴を通して相手の内側にある答えや選択肢を引き出し、自ら行動計画を立てられるよう促します。解決策を与えるのではなく、自発性と実行力を高めることが最大の特徴です。

ビジネスコーチングの三つのフェーズ

ビジネスコーチングは、最終的には業績向上や組織目標の達成といった成果に結びつけるために、相手の行動変容を促す取り組みです。

そのプロセスは、大きく次の三つのフェーズに分けられます。

🪜フェーズ1:思考を変える(気づく)
まずは「なぜ変わる必要があるのか」を明確にする段階です。変化の目的や背景を理解し、自分ごととして捉えることから始まります。例えば、次期幹部候補の育成や、マネジメント層に見られるパワハラ的言動の改善などがテーマになる場合もあります。

🪜フェーズ2:行動を変える(実践する)
現状(現在地)と理想の状態(目的地)の間にあるギャップを埋めるために、具体的な行動を起こす段階です。小さな一歩を積み重ね、行動パターンを変えていきます。

🪜フェーズ3:成果につなげる(継続・定着) 
新しい行動を継続し、組織やチームに定着させていくフェーズです。ここまで来ると、成果が数字や行動として現れ、組織文化として根づきやすくなります。

行動変容を促し、成果へとつなげていくには、各フェーズで相手との信頼関係を築き、考えや行動を引き出すためのスキルが欠かせません。

ここからは、ビジネスコーチングの現場で特に重要とされる「三大スキル」と「フィードバック」のポイントを紹介します。

4. コーチングの三大スキル+フィードバック

もし今日から「コーチングをやってみよう」と思ったら、まず身につけたいのが基本的なスキルとして広く認知されている「傾聴」「質問」「承認」と、適切なフィードバックの手法です。これらは特別な資格がなくても、意識すればすぐに始められます。

💡傾聴

相手の話を最後まで遮らずに聞き、要約や感情のラベリング(相手の感情を言葉で表現すること)で「ちゃんと聞いています」というサインを送ることから始めましょう。沈黙が訪れても、あえて待つことで相手の考えが深まります。

💡質問

相手の思考を広げるオープンクエスチョン(答えが「はい/いいえ」で終わらない質問)を中心に使いながら、確認や合意形成の場面ではクローズドクエスチョンも適切に組み合わせます。オープンクエスチョンの例として、「何が一番の課題ですか?」「もし制約がなかったら何をしますか?」といった質問は、相手が自分の言葉で状況を整理し、新たな視点や選択肢を発見するきっかけになります。

一方、クローズドクエスチョンも重要な役割を果たします。「これで進めてよろしいですか?」「AとBではどちらを選びますか?」といった質問は、確認、決断の促進、焦点の明確化に効果的です。

ビジネスコーチングでは、このふたの質問技法を状況に応じて使い分けることが、対話の質を高めます。探求や気づきを促したい時はオープンクエスチョンを、行動への移行や合意形成の場面ではクローズドクエスチョンを選択します。

質問のポイントは、判断や誘導を含まず、純粋な好奇心と相手への敬意を持って行うことです。相手が自ら答えを見つけられるよう、適切なタイミングで適切な質問を投げかけることが、効果的なコーチングの鍵となります。

💡承認

結果だけでなくプロセスを認める「プロセス承認」と、その人の存在自体を認める「存在承認」の2種類があります。「具体的・すぐに・一貫して」行うのが信頼構築のコツです。

‍💡フィードバック

「事実 → 影響 → 提案」の順で伝えるのが基本。例えば「会議の中であなたの提案にうなずいている人が多かった(事実)。その結果、場の雰囲気が前向きになった(影響)。次は数字も添えると説得力が増すと思います(提案)」といった具合です。

助言が早すぎたり、承認の中に評価を混ぜてしまうのはNG。三大スキルとフィードバックを意識するだけで、明日からでもコーチング的な関わりが始められます。

5. やり方・手順(GROWモデル中心)

コーチングを一度もやったことがない人におすすめなのが、シンプルで使いやすいGROWモデルです。

GROWモデルの発祥は、1980年代のイギリス。開発に関わった中心人物は、元プロテニス選手でありコーチングの先駆者とされるジョン・ホイットモア(Sir John Whitmore)と、その仲間たち(アラン・ファイン、グラハム・アレクサンダーなど)です。

もともとはスポーツコーチングの現場で「選手の自主性を引き出す質問の型」として体系化され、その後ビジネス分野にも応用されました。ホイットモアが1992年に出版した『Coaching for Performance』で広く紹介され、世界中の企業研修やマネジメントに取り入れられるようになりました。

GROWモデルなら初めてでも会話の流れがつかみやすく、迷わず進められます。

①Goal(目標):達成したいゴールをはっきりさせます。「営業成績を前年比120%にする」など、具体的で測れる形が望ましいです。
Reality(現状):今の状況や課題を整理します。「成約率が下がっている」「提案数が減っている」など事実ベースで。
Options(選択肢):考えられる行動案をできるだけ多く出します。「提案資料の改善」「訪問件数の増加」など、良し悪しはまだ判断しません。
Will(意思):最初の一歩と期限を決めます。「来週までに訪問件数を10件増やす」など、具体的に。

初めてのセッションなら、30分程度を目安に Goal 5分 → Reality 10分 → Options 10分 → Will 5分 の配分で進めましょう。

事前に「守秘義務」「記録方法」「行動計画(誰が・何を・いつまでに)」を合意しておくと、安心して話せます。

オンラインで行う場合は、静かな場所・ノイズ対策・画面共有メモが効果的です。

一人で試す場合は、5問ジャーナル(目的/現状/選択肢/最初の一歩/期限)を書き出すのも有効。

ただし、自分では気づけない盲点もあるため、信頼できる同僚や友人に一度セッション役をお願いすると、学びが倍増します。

6. 組織導入:1on1運用とエグゼクティブコーチング

会社でコーチングを広めるなら、まずは1on1から始めるのが手軽です。

評価面談とは分けて、「この時間は成績の話ではなく、成長や悩みを聞く時間」と決めておくと、安心して話せます。

記録の付け方や質問の流れも、あらかじめ決めておくと続けやすいです。

上司の側も練習が必要です。傾聴・質問・承認のコツを学び、ロールプレイでやってみると「どう聞けば相手が話しやすくなるか」が体でわかってきます。

社長や役員クラスにはエグゼクティブコーチングが向いています。

経営判断の質を上げたり、部門間の調整を円滑にしたり、視野を広げるのが目的です。社外コーチを入れると、社内では得られない客観的な視点や安心して話せる場が手に入ります。

進め方はシンプルで、まず小さく試す(パイロット)→良ければ全社に広げる→社内でもできるようにする(内製化)の順がおすすめです。

社内で回すようになったら、コーチ役同士が振り返りをする仕組み(スーパービジョン)を作ると質が落ちません。

効果を見るときは、「会議での発言が増えた」「部下からの相談が増えた」といった行動の変化と、「売上」「生産性」といった数字の変化を両方チェック。

これが、コーチングを一時的な取り組みで終わらせないコツです。

7. 受け方・選び方・相場・資格 

外部コーチから本格的なコーチングを受けたいときは、まず目的を明確にしましょう。たとえば「リーダーシップを強化したい」「キャリアの方向性を整理したい」「チームの雰囲気を良くしたい」など、目的によって適したコーチやサービスは変わります。

料金の目安は個人向けなら1回5,000〜30,000円、法人契約なら月50,000〜50万円程度(人数や頻度による)。

契約前には、期間や守秘義務、キャンセル・返金条件、成果の測り方、報告方法などを確認しましょう。

選び方のポイントは次の通りです。

 ✅ 話の進め方が質問中心になっているか
 ✅ 宿題や行動課題が出るか
 ✅ レビューや評価の方法が透明か
 ✅ 経験や事例が明確に提示されているか

コーチングには流派や資格が数多くありますが、国家資格はなく、民間の資格のみとなっています。国際コーチ連盟(ICF)が認定するACC/PCC/MCCは世界的に高く評価され、信頼性のある基準とされています。

8. よくある疑問・誤解の整理 

「コーチングは意味がない」「怪しい」といった声を耳にすることがありますが、その多くはコーチングそのものではなく、やり方や環境の不備が原因です。

外部コーチの場合、目的や成果指標を定めずに契約すると「効果がわからない」と感じやすくなります。内部コーチ(上司や社内人材)が行う場合も、実施頻度が少なすぎる、上司がつい助言してしまう、行動計画が実行されない……といった運用面の課題が起こりやすくなります。

また、まれにコーチングが機能しづらいケースもあります。たとえば、長年のやり方に強い自信を持ち、「自分のやり方を変える必要はない」と考えている人です。こうした場合、コーチからの質問やフィードバックに耳を傾けにくく、行動変容が進みにくくなります。こうした変化を受け入れにくい状態は、現時点でコーチングを受ける準備ができていないことを示しています。

もちろん、多くのビジネスパーソンは「より良くなりたい」「組織を成長させたい」という前提を持っていますが、中には変化を必要と感じていない人もいます。コーチングを効果的に行うためには、本人の変わろうとする意思が欠かせません。ただし、これは固定的な性質ではなく、状況や環境、アプローチ方法によって変化する可能性があります。

おわりに

コーチングは、特別な立場や資格を持った人だけのものではありません。質問や傾聴、承認といった基本的なスキルを意識するだけで、日々の会話は大きく変わります。
特にビジネスの現場では、メンバー一人ひとりが自ら考え、行動できるようになることが組織全体の力を高めます。

外部コーチを活用するのも、社内でコーチング文化を育てるのも、目的は同じです。大切なのは、「何のために行うのか」を明確にし、続けられる形にすること。そして成果や変化を見える化し、組織や個人の成長につなげていくことです。

小さな一歩からでも構いません。次の1on1でいつもより深く耳を傾け、一つ多く質問を投げかけてみる。そんな行動が、コーチング文化を根付かせるための第一歩になります。

1. コーチングとは? ビジネスでの定義と効果

コーチングとは、対話を通じて相手の中にある考えや選択肢、行動の可能性を引き出し、自ら目標達成へと進めるように伴走するコミュニケーション手法です。
ビジネスにおけるコーチングは、上司やリーダーが部下に答えを与えるのではなく、質問や傾聴を通じて自律的な判断・行動を促す点に特徴があります。

語源は英語の “coach”(馬車)で、「目的地まで運ぶ」という意味から転じて、「望む地点まで導く」という比喩として使われるようになりました。

よく比較される「トレーニング」との違いは、レールを引いて答えを教えるのではなく、「答えは相手の中にある」という前提に立つことです。

人は日常的に自問自答をしていますが、思考には一定のクセがあるため、そのパターンは放っておくと固定化されやすくなります。

結果として、同じ考えの枠から抜け出すことが難しく、大胆な発想や新しい行動に踏み出しにくくなります。

そこで有効なのが、第三者との「対話」です。特にコーチングでは、相手の考えを引き出すために「質問」を戦略的に用います。

質問によって、これまで意識していなかった視点や選択肢に気づき、思考の枠を広げられるのです。

これは単なる尋ねかけではなく、相手の内面を探求し、行動を促すために設計された質問である点が特徴です。

日本におけるコーチングの歴史と必要性の高まり

日本でビジネスコーチングが広まり始めたのは1990年代後半です。当初は、相手の話を丁寧に傾聴し、効果的な質問を通じて気づきや行動変容を促す、いわば「コミュニケーション改善」を主目的とするスタイルが中心でした。

しかし、2010年代に入ると、IT化・グローバル化・人材の流動化など、事業環境の変化スピードが加速。

企業はこれまで以上に迅速な意思決定と柔軟な行動を求められるようになり、コーチングへの期待は単なる会話の質向上から「事業の推進・拡大」へとシフトしました。

さらに2020年以降、新型コロナウイルス流行によりリモートワークが急速に拡大。

対面でのやり取りが減り、雑談や偶発的な情報共有の機会が失われたことで、マネジメントやコミュニケーションは一層難しくなりました。

業務進捗の把握やメンバーの心理状態の変化に気づきにくくなり、チームの一体感や帰属意識が低下しやすくなったのです。

こうした背景のもと、上司が部下に指示を与えるだけの「他律的な働き方」では限界が見えてきました。

今多くの会社で求められるのは、自ら考え、行動し、成果を生み出す「自律的な人材」です。

ビジネスコーチングは、第三者との対話によって思考を深め、主体的な行動を促すアプローチとして、現代の働き方においてますます必要性が高まっています。

2. 世界で注目を集めるコーチングの魅力

海外でもコーチングの価値は世界中で高く評価されています。例えば、2019年刊行の書籍『1兆ドルコーチ』(ダイヤモンド社)では、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、グーグル元会長兼CEOのエリック・シュミット、グーグル共同創業者のラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンといったシリコンバレーの著名経営者を陰で支えたビジネスコーチの活動が紹介されています。

日本企業においてもその効果が着実に認められています。ソニーやパナソニック、日立、日清食品、第一生命など、多くの大手企業で1on1定着支援やエグゼクティブコーチング、社内コーチ育成などが導入され、人材育成やイノベーション推進に活用されている実績が公表されています(参照元)。

ビジネスコーチングのメリットと活用例

コーチングは特殊な才能がなくても習得可能で、誰もが実践できる汎用性の高いアプローチです。ビジネスの現場では、個人の成長と組織力の向上を同時に促す手段として、多くの企業で導入が進んでいます。主な効果は次の通りです。

1.自走人材の育成と自己成長の促進 

変化の激しい時代、指示を待つだけではなく、自ら課題を見つけて解決できる人材が求められます。コーチングは、自分の強みや課題に気づき、主体性と責任感を育てます。その過程で自信や自己肯定感も高まります。

💡活用例
管理職が部下からの相談にすぐ答えを出さず、質問で考えを引き出すことで、部下の自主的な提案や改善行動が増える。

2.意思決定の質向上と目標達成の加速 

多くの職場で見られる「会議が長引く」「結論が出ない」といった停滞は、視点や選択肢が十分に引き出されないことが原因です。コーチングは、対話によって多様な意見を引き出し、短期的な判断だけでなく中長期の戦略にも適した意思決定を可能にします。明確な目標設定と行動計画が伴うため、成果に向けた動きもスピードアップします。

💡活用例
新規プロジェクト立ち上げ時にコーチングを活用し、関係者全員が目標と役割を明確にできたことで、初動のスピードと方向性がそろう。

3.健全な対話文化とチームワーク強化

上司と部下の間に「本音が言いづらい空気」があると、情報の遅れや誤解が生じやすくなります。コーチングでは傾聴や承認を通じて心理的安全性を高め、意見やアイデアが出やすい環境をつくります。その結果、連携や信頼関係が強化され、チーム全体のパフォーマンスも向上します。

💡活用例
1on1ミーティングで部下の意見を丁寧に引き出した結果、会議や日常業務でも意見が出やすい雰囲気が広がる。

4.組織活性化とリーダーシップ向上

「上からの指示待ち」「挑戦よりも現状維持を選びがち」といった組織風土は、業績やイノベーションの停滞につながります。コーチングを通じてリーダーがメンバーの力を引き出す関わり方を身につければ、組織全体が自発的に動く文化へと変わっていきます。マネージャーやリーダー自身も、指導力や判断力、マネジメント力を実践の中で磨くことができます。

💡活用例
部門リーダーがコーチング的関わりを習慣化することで、メンバーが主体的に課題解決を進める文化が根付く。

5.離職率低下とウェルネス向上

職場での孤立感や不満は、モチベーションの低下や離職につながります。コーチングは、承認やフィードバックを通じてメンバーのやりがいや安心感を高め、働き続けたいと思える環境づくりに貢献します。

💡活用例
日常的に上司が承認やフィードバックを行うことで、メンバーのやりがいや安心感が高まり、職場定着率が向上する。

効果を確認するには、OKRやKPIの達成度、1on1面談の満足度、360度評価での行動変化、エンゲージメントスコア、離職率の推移などを活用します。こうした数字や評価を使って成果を見える化すれば、経営層にもコーチングの価値を伝えやすくなります。

3. ティーチング/カウンセリング/コンサルとの違い

コーチングは、ティーチングやメンタリング、カウンセリング、コンサルティングと混同されやすいですが、目的・関係性・アプローチがそれぞれ異なります。

コーチング・メンタリング手法比較表
手法 主な目的 関係性 アプローチ 成果物・効果
ティーチング 知識・スキルの習得 上下関係(指導者⇔学習者) 教える・指示する 習得した内容・手順
メンタリング キャリア形成・価値観共有 先輩⇔後輩(経験者⇔経験の浅い者) 経験共有・助言・支援 成長の方向性・視野の拡大
カウンセリング 心理的課題の解消・安定 支援者⇔相談者 傾聴・共感・受容 心の安定・自己受容・問題解決
コンサルティング 課題解決・業務改善 専門家⇔依頼者 診断・処方・提案 改善策・提案書
コーチング 自発的な成長・行動変容 対等 質問と傾聴で「答えを引き出す」 行動計画・実行力の向上

①ティーチング

知識やスキルを「教える」ことを目的とし、指導者と学習者という上下関係が前提。成果物は習得した内容や手順です。

②メンタリング   

経験豊富なメンターが自身のキャリアや価値観を共有しながらメンティの成長を支援します。しばしばロールモデル的存在として見られますが、指導というよりも「伴走と助言」に近い関係です。

③カウンセリング 

悩みや心理的課題を専門家との対話で整理・解決する手法で、傾聴や共感を重視し、自己受容や心理的安定を目指します。主に心理士や臨床心理士が担います。

④コンサルティング 

クライアントの課題を分析し、解決策を提案・提供するアプローチで、専門的知見による情報提供が核となります。

⑤コーチング 

対等な関係を前提に、質問や傾聴を通して相手の内側にある答えや選択肢を引き出し、自ら行動計画を立てられるよう促します。解決策を与えるのではなく、自発性と実行力を高めることが最大の特徴です。

ビジネスコーチングの三つのフェーズ

ビジネスコーチングは、最終的には業績向上や組織目標の達成といった成果に結びつけるために、相手の行動変容を促す取り組みです。

そのプロセスは、大きく次の三つのフェーズに分けられます。

🪜フェーズ1:思考を変える(気づく)
まずは「なぜ変わる必要があるのか」を明確にする段階です。変化の目的や背景を理解し、自分ごととして捉えることから始まります。例えば、次期幹部候補の育成や、マネジメント層に見られるパワハラ的言動の改善などがテーマになる場合もあります。

🪜フェーズ2:行動を変える(実践する)
現状(現在地)と理想の状態(目的地)の間にあるギャップを埋めるために、具体的な行動を起こす段階です。小さな一歩を積み重ね、行動パターンを変えていきます。

🪜フェーズ3:成果につなげる(継続・定着) 
新しい行動を継続し、組織やチームに定着させていくフェーズです。ここまで来ると、成果が数字や行動として現れ、組織文化として根づきやすくなります。

行動変容を促し、成果へとつなげていくには、各フェーズで相手との信頼関係を築き、考えや行動を引き出すためのスキルが欠かせません。

ここからは、ビジネスコーチングの現場で特に重要とされる「三大スキル」と「フィードバック」のポイントを紹介します。

4. コーチングの三大スキル+フィードバック

もし今日から「コーチングをやってみよう」と思ったら、まず身につけたいのが基本的なスキルとして広く認知されている「傾聴」「質問」「承認」と、適切なフィードバックの手法です。これらは特別な資格がなくても、意識すればすぐに始められます。

💡傾聴

相手の話を最後まで遮らずに聞き、要約や感情のラベリング(相手の感情を言葉で表現すること)で「ちゃんと聞いています」というサインを送ることから始めましょう。沈黙が訪れても、あえて待つことで相手の考えが深まります。

💡質問

相手の思考を広げるオープンクエスチョン(答えが「はい/いいえ」で終わらない質問)を中心に使いながら、確認や合意形成の場面ではクローズドクエスチョンも適切に組み合わせます。オープンクエスチョンの例として、「何が一番の課題ですか?」「もし制約がなかったら何をしますか?」といった質問は、相手が自分の言葉で状況を整理し、新たな視点や選択肢を発見するきっかけになります。

一方、クローズドクエスチョンも重要な役割を果たします。「これで進めてよろしいですか?」「AとBではどちらを選びますか?」といった質問は、確認、決断の促進、焦点の明確化に効果的です。

ビジネスコーチングでは、このふたの質問技法を状況に応じて使い分けることが、対話の質を高めます。探求や気づきを促したい時はオープンクエスチョンを、行動への移行や合意形成の場面ではクローズドクエスチョンを選択します。

質問のポイントは、判断や誘導を含まず、純粋な好奇心と相手への敬意を持って行うことです。相手が自ら答えを見つけられるよう、適切なタイミングで適切な質問を投げかけることが、効果的なコーチングの鍵となります。

💡承認

結果だけでなくプロセスを認める「プロセス承認」と、その人の存在自体を認める「存在承認」の2種類があります。「具体的・すぐに・一貫して」行うのが信頼構築のコツです。

‍💡フィードバック

「事実 → 影響 → 提案」の順で伝えるのが基本。例えば「会議の中であなたの提案にうなずいている人が多かった(事実)。その結果、場の雰囲気が前向きになった(影響)。次は数字も添えると説得力が増すと思います(提案)」といった具合です。

助言が早すぎたり、承認の中に評価を混ぜてしまうのはNG。三大スキルとフィードバックを意識するだけで、明日からでもコーチング的な関わりが始められます。

5. やり方・手順(GROWモデル中心)

コーチングを一度もやったことがない人におすすめなのが、シンプルで使いやすいGROWモデルです。

GROWモデルの発祥は、1980年代のイギリス。開発に関わった中心人物は、元プロテニス選手でありコーチングの先駆者とされるジョン・ホイットモア(Sir John Whitmore)と、その仲間たち(アラン・ファイン、グラハム・アレクサンダーなど)です。

もともとはスポーツコーチングの現場で「選手の自主性を引き出す質問の型」として体系化され、その後ビジネス分野にも応用されました。ホイットモアが1992年に出版した『Coaching for Performance』で広く紹介され、世界中の企業研修やマネジメントに取り入れられるようになりました。

GROWモデルなら初めてでも会話の流れがつかみやすく、迷わず進められます。

①Goal(目標):達成したいゴールをはっきりさせます。「営業成績を前年比120%にする」など、具体的で測れる形が望ましいです。
Reality(現状):今の状況や課題を整理します。「成約率が下がっている」「提案数が減っている」など事実ベースで。
Options(選択肢):考えられる行動案をできるだけ多く出します。「提案資料の改善」「訪問件数の増加」など、良し悪しはまだ判断しません。
Will(意思):最初の一歩と期限を決めます。「来週までに訪問件数を10件増やす」など、具体的に。

初めてのセッションなら、30分程度を目安に Goal 5分 → Reality 10分 → Options 10分 → Will 5分 の配分で進めましょう。

事前に「守秘義務」「記録方法」「行動計画(誰が・何を・いつまでに)」を合意しておくと、安心して話せます。

オンラインで行う場合は、静かな場所・ノイズ対策・画面共有メモが効果的です。

一人で試す場合は、5問ジャーナル(目的/現状/選択肢/最初の一歩/期限)を書き出すのも有効。

ただし、自分では気づけない盲点もあるため、信頼できる同僚や友人に一度セッション役をお願いすると、学びが倍増します。

6. 組織導入:1on1運用とエグゼクティブコーチング

会社でコーチングを広めるなら、まずは1on1から始めるのが手軽です。

評価面談とは分けて、「この時間は成績の話ではなく、成長や悩みを聞く時間」と決めておくと、安心して話せます。

記録の付け方や質問の流れも、あらかじめ決めておくと続けやすいです。

上司の側も練習が必要です。傾聴・質問・承認のコツを学び、ロールプレイでやってみると「どう聞けば相手が話しやすくなるか」が体でわかってきます。

社長や役員クラスにはエグゼクティブコーチングが向いています。

経営判断の質を上げたり、部門間の調整を円滑にしたり、視野を広げるのが目的です。社外コーチを入れると、社内では得られない客観的な視点や安心して話せる場が手に入ります。

進め方はシンプルで、まず小さく試す(パイロット)→良ければ全社に広げる→社内でもできるようにする(内製化)の順がおすすめです。

社内で回すようになったら、コーチ役同士が振り返りをする仕組み(スーパービジョン)を作ると質が落ちません。

効果を見るときは、「会議での発言が増えた」「部下からの相談が増えた」といった行動の変化と、「売上」「生産性」といった数字の変化を両方チェック。

これが、コーチングを一時的な取り組みで終わらせないコツです。

7. 受け方・選び方・相場・資格 

外部コーチから本格的なコーチングを受けたいときは、まず目的を明確にしましょう。たとえば「リーダーシップを強化したい」「キャリアの方向性を整理したい」「チームの雰囲気を良くしたい」など、目的によって適したコーチやサービスは変わります。

料金の目安は個人向けなら1回5,000〜30,000円、法人契約なら月50,000〜50万円程度(人数や頻度による)。

契約前には、期間や守秘義務、キャンセル・返金条件、成果の測り方、報告方法などを確認しましょう。

選び方のポイントは次の通りです。

 ✅ 話の進め方が質問中心になっているか
 ✅ 宿題や行動課題が出るか
 ✅ レビューや評価の方法が透明か
 ✅ 経験や事例が明確に提示されているか

コーチングには流派や資格が数多くありますが、国家資格はなく、民間の資格のみとなっています。国際コーチ連盟(ICF)が認定するACC/PCC/MCCは世界的に高く評価され、信頼性のある基準とされています。

8. よくある疑問・誤解の整理 

「コーチングは意味がない」「怪しい」といった声を耳にすることがありますが、その多くはコーチングそのものではなく、やり方や環境の不備が原因です。

外部コーチの場合、目的や成果指標を定めずに契約すると「効果がわからない」と感じやすくなります。内部コーチ(上司や社内人材)が行う場合も、実施頻度が少なすぎる、上司がつい助言してしまう、行動計画が実行されない……といった運用面の課題が起こりやすくなります。

また、まれにコーチングが機能しづらいケースもあります。たとえば、長年のやり方に強い自信を持ち、「自分のやり方を変える必要はない」と考えている人です。こうした場合、コーチからの質問やフィードバックに耳を傾けにくく、行動変容が進みにくくなります。こうした変化を受け入れにくい状態は、現時点でコーチングを受ける準備ができていないことを示しています。

もちろん、多くのビジネスパーソンは「より良くなりたい」「組織を成長させたい」という前提を持っていますが、中には変化を必要と感じていない人もいます。コーチングを効果的に行うためには、本人の変わろうとする意思が欠かせません。ただし、これは固定的な性質ではなく、状況や環境、アプローチ方法によって変化する可能性があります。

おわりに

コーチングは、特別な立場や資格を持った人だけのものではありません。質問や傾聴、承認といった基本的なスキルを意識するだけで、日々の会話は大きく変わります。
特にビジネスの現場では、メンバー一人ひとりが自ら考え、行動できるようになることが組織全体の力を高めます。

外部コーチを活用するのも、社内でコーチング文化を育てるのも、目的は同じです。大切なのは、「何のために行うのか」を明確にし、続けられる形にすること。そして成果や変化を見える化し、組織や個人の成長につなげていくことです。

小さな一歩からでも構いません。次の1on1でいつもより深く耳を傾け、一つ多く質問を投げかけてみる。そんな行動が、コーチング文化を根付かせるための第一歩になります。

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執筆者
1on1総研編集部

1on1のノウハウや組織課題、組織を活性化させるためのキーワードなどを掘り下げる記事を提供します。

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