やりたいことが見つからない……自分のキャリアを探すために上司を巻き込む方法

やりたいことが明確でない若手社員にとって、キャリア面談は気まずく、時にプレッシャーにもなる。しかし、そのモヤモヤこそがキャリアを描く出発点だ。本稿では、キャリアに悩む若手社員に向けて、上司との対話を活用して自分の軸を見つけ、「なりたいキャリア」を見つける方法を紹介する。

キャリア面談が投げかける問いに、どう向き合うか

「次は何がしたいのか?」「どんなキャリアを歩んでいきたいのか?」——。キャリア面談で上司からこう問われ、戸惑った経験のある人は少なくないだろう。

たまたま配属された部署で懸命に働く日々。しかし、それだけでは不十分なのか?という疑問が頭をよぎるのも無理はない。上司世代であれば、「将来は社長になりたい」「できるだけ早く出世したい」といった野心を語ることもあったかもしれない。だが、今の若手社員でそうした話をする人は、むしろ稀である。

近年、海外では「静かな退職(Quiet Quitting)」という概念が注目を集めている。これは、職場で任された仕事を最低限に抑え、必要以上には働かないという姿勢を指す。日本における「モーレツ社員」の対極ともいえる考え方で、「仕事は人生のすべてではない」という価値観が若者の間に浸透しつつある。

しかし、こうした価値観を持つ若手社員は、「向上心がない」「あいつはまだ自分探し中だ」と揶揄されることもある。働くことが人生のすべてではないとしても、では自分はどう生きていきたいのか。その答えを持たないまま、「次は何がしたいのか?」と問われても、言葉に詰まるのは当然だ。

だからこそ、「次は何がしたいのか?」という問いを、キャリアの選択ではなく、生き方の選択という観点から見直してみる必要がある

「どんなふうに生きていたいか」から考えてみる

「やりたい仕事」「なりたいキャリア」を考えるとき、多くの人は会社の中にある具体的な職種や働き方を思い浮かべがちである。しかし、ここではいったん全ての制約を手放し、もう一段高い視点に立ってみてほしい。

3年後、5年後、10年後、20年後……。あなたは、どんな人になっていたいだろうか。肩書きでも、会社でも、職種でもない。「どんなふうに生きていたいか」を、自由に思いつくまま書き出してみよう。

  • 郊外で大型犬を飼って、リモートワークで仕事しながら家族とのんびり過ごしていたい
  • 将来は地元に貢献できる仕事をしていたい
  • 好奇心を満たすために、常に最新のテクノロジーに触れ続けていたい
  • どんな仕事でもいいけれど、まわりに迷惑をかけずに、誠実に働きたい

たとえば上記のように、望む姿を率直に書いてみてほしい。規模の大小は関係ない。頭に浮かんだものを、どんどん書き出してみよう。

書き出しシート:未来の自分に出会うワーク

以下のシートに、直感のまま記入してみよう。

未来の自分に出会うワーク

書き出した内容を、改めて眺めてみてほしい。そこには、あなたがこれからどんな経験を積み、どんな価値を生み出していきたいのか——。人生をどう築きたいのか、ぼんやりとした輪郭が浮かんでくるのではないだろうか。

「次は何がしたいの?」という問いは、いきなり正解を求められる面接試験ではない。今見えた「遠い未来」へ向かう、最初の一歩を問われているにすぎないのだ。あまりに壮大なゴールを掲げようとする必要はない。

自分のキャリアを考えるとき、まずはこのマインドセット、すなわち「答えを出す前に、自分の望みを丁寧に拾い上げる姿勢」こそが何より重要である。

上司との対話を助ける「穴埋めテンプレート」

ここまでに棚卸しした自身の思いや価値観を、キャリア面談の場で上司に伝えることができれば理想的である。しかし、こうした内容を率直に話すのが難しい上司もいるだろう。時には「その考え方はどうかな」と否定され、心が折れてしまうこともある。

そこで紹介したいのが、“自分の価値観を伝えやすくする工夫”としての「穴埋めテンプレート」である。このテンプレートを使えば、自分の価値観と具体的なキャリアの希望を上司に伝えやすくなり、より建設的な対話が可能になる。

【穴埋めテンプレート】

私の心が動くのは【①】です。

なぜなら、【②】だからです。

ですので、今やりたいことは【③】だと自分では考えています。

仕事で言えば、【④】が③を満たせると思いますが、○○さんはどう思いますか。

これからのキャリアについて相談させてください。

①:自分が喜怒哀楽を強く感じる場面・事柄
②:その感情の背景にある、自分の価値観や考え方
③:その価値観を活かせるような「やりたいこと」
④:③を、会社内の業務に翻訳した場合の具体的な職種や役割

【テンプレートの活用例】

私の心が動くのは【①物事がスムーズに動いているとき】です。  

なぜなら、【②計画がうまくいくことに心地よさを感じる】からです。  

ですので、今やりたいことは【③進行を管理するような仕事】だと自分では考えています。  

仕事で言えば、【④プロジェクトマネジメント】が③を満たせると思いますが、○○さんはどう思いますか。  

これからのキャリアについて相談させてください。

このように整理して話せば、上司は単に「やりたい仕事」を聞くのではなく、その人の価値観や背景を踏まえて選択肢を提案することができるようになる。たとえば、「プロジェクトマネジメントに興味があるんですね。それならまず、部内で動いているWebマーケティング案件の進行を手伝ってみませんか?」といった、視野を広げるような提案が上司から引き出せる可能性もある。

上司とのコミュニケーションは“答え”を出すことではなく、“考えの材料を共有すること”が出発点になるのだ。

気づきを行動につなげる三つのアプローチ

キャリアのイメージが少しでも浮かんできたなら、次は行動につなげていこう。ここでは、無理なく始められる三つの方法を紹介する。

① 逆算思考で動く

目標が見えたら、そこに至るために必要なステップを逆算してみよう。メジャーリーガー・大谷翔平選手が高校時代に描いた「マンダラチャート」のように、中央に目標を置き、それを支える周辺要素を書き出すことで、具体的な行動が見えてくる。

② できている部分から強化する

今の仕事の中に“やりたいことの一部”が含まれているなら、その部分を意識的に強化してみよう。例えば、人と関わるのが好きなら、社内で人を支援するような役割を積極的に担ってみる。それが、キャリアの方向性を後押ししてくれる。

③ 自分タグを持つ

「人事 × IT」や「営業 × デザイン」など、自分の経験とスキルを掛け合わせてタグ化することで、自分らしいポジションが見えてくる。タグは名刺ではなく、思考の軸。自分のキャリアを人に説明する時の“ラベル”としても役立つ。

また、すべての行動の源泉となるのが「内発的動機づけ」だ。他人から言われたからではなく、自分自身の中にある「やってみたい」「知りたい」という気持ちこそが、持続的な行動を生む原動力になる。

他人のキャリア観に、自分のヒントがある

もし、穴埋めテンプレートを作ってみて「自分の価値観がうまく言葉にできない」「やりたいことがわからない」と感じたなら、少し視点を変えてみよう。他人のキャリアに目を向けることが、自分の手がかりになることもある。

たとえば、映画やドラマで、主人公の職業に強く惹かれた経験はないだろうか。登場人物のストーリーに感情移入し、その生き方や働き方に影響を受けたことがある人も多いはずだ。そのキャラクターの「働きがい」や「価値観」に触れることは、自分自身のキャリア観を見つける大きなヒントになる。

また、実際に身の回りにいる人に目を向けるのもよい。たとえば、「なぜこの仕事を選んだのだろう?」と思うような働き方をしている人や、自分とは違う価値観でキャリアを築いてきた人に、ぜひ話を聞いてみてほしい。

その人が「何が好きで」「なぜそう思い」「それがどのように今のキャリアにつながっているのか」をたどると、キャリアとは決して一本道ではなく、多様な価値観の集積であることが実感できるはずだ。

たとえば、ある人は「水道管の整備」に携わる仕事を選んだ。彼にとって、水道工事は単なるインフラ整備ではなく、地域の人々の生活を支える重要な役割を果たす仕事だった。特に、工事が完了し、水道から水が出る瞬間には、言葉にできない達成感とやりがいを感じるという。また、地域の方々から「ありがとう」と感謝の言葉を直接もらうことが、日々のモチベーションとなっている。

こうした意外な視点に出会うことで、「キャリアの動機づけには、そんな観点もあるのか」と自分の考えが広がっていくこともある。

キャリアは“正解を探す”ものではない。むしろ、他者の生き方や価値観に触れながら、“選択肢を増やす”ことが、キャリアを考える第一歩となる。たくさんの職業、たくさんの価値観と出会おう。そうすることで、自分なりの「道」が少しずつ見えてくるはずだ。

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