目次
はじめに
「会社で1on1を始めることになったが、正直どうやって進めたらいいかわからない」
「忙しい日常業務に追われ、気がつけば1on1がただの報告会になってしまっている」
「部署やマネジャーごとにやり方が違い、何が正解かわからない」
……こうした悩みを抱えている管理職の方は多いのではないでしょうか。
経営環境や働き方が急速に変化する中、従来の画一的な管理や指示だけでは、社員一人ひとりのやる気や力を引き出すことが難しくなっています。社員がもっと活躍し、チームで成果を出すためには、何かを変える必要があります。
このような変化に対応するためには近道はなく、メンバーとの丁寧な対話が不可欠です。その機会として「1on1ミーティング」が求められています。
しかし、実際には「形だけの導入」や「手応えが感じられない」といった声も少なくありません。
このガイドでは、マネジャーの皆さんが今日からすぐに使えるよう、1on1の取り組み方を詳しく解説します。メンバーもマネジャーも小さな進化や手応えを感じられるヒントが詰まっていますので、ぜひ取り組んでみてください。
なぜ今1on1が必要なのか?
📍 雇用環境の変化
少子高齢化により労働人口が減少しています。一人ひとりの生産性向上が不可欠となり、多様な価値観やキャリアを尊重した個別マネジメントが必要です。また、転職が一般化し、企業に長く留まることが前提でなくなりました。
📍 事業環境の変化
市場や顧客ニーズが急速に変化し、従来の計画型経営では対応できなくなっています。複雑化した組織の課題に現場レベルで迅速に対応する必要があり、従業員が適切な情報をもとに自律的に行動できる環境が求められています。
📍 働き方の変化
多様なワークスタイルや雇用形態の増加でコミュニケーションが取りづらくなり、従業員のロイヤルティも低下しています。企業と従業員の関係を強化するため、マネジャーとメンバーのコミュニケーションの質向上が重要です。
「一律・管理」「指示命令」から、従業員の 「個別の状態」に合わせ、「支援」するスタイルへの変化に対応するため、多くの企業が 「1on1ミーティング」 を導入・強化し、マネジャーとメンバーの対話を通じて、個別に支援し、成長を促す取り組みを進めています。
1on1に取り組む前にマネジャーがやるべき2つのこと
1)マネジャー自身の言葉で「1on1をする目的」を明確に伝える
1on1を効果的なものにするためには、メンバーにその目的や意義を理解してもらうことが重要です。そのためには、マネジャー自身が「なぜ1on1を行いたいのか」を自分の言葉で明確に伝える必要があります。
組織が決めた目的や一般的な意義だけでは、メンバーにとって十分ではありません。「自分が1on1を行いたい理由」を伝えることで、メンバーは単なる組織の指示としてではなく、「自分自身の成長や活躍を心から願うマネジャーからの具体的なメッセージ」として受け取ります。
また、マネジャーが自分の言葉で目的を伝えることにより、メンバーに納得感や安心感を与えることができます。メンバーが納得した上で1on1に臨むことで、前向きな取り組みにつながります。
実際のマネジャーが語る「1on1をする目的」の具体例
実際の現場では、次のような具体的な理由をマネジャー自身の言葉で伝えています。
📌 個別対応の充実化
「これまでは忙しさを理由に個々のメンバーをちゃんと見る余裕がありませんでした。でも、チーム全体の力を上げるためには一人ひとりときちんと向き合う必要があると思い、1on1をやりたいと思いました。」
📌 信頼関係の構築
「過去にメンバーの退職を察知できずに後悔した経験があります。そのため、普段なかなか言いづらい本音や悩みを早めに話してもらえる関係づくりをしたいと思い、1on1を導入することにしました。」
📌 人材育成 / 成長支援
「自分自身が若手だった頃に、マネジャーから定期的なフィードバックをもらい成長できました。その経験から、今度は自分がメンバーの成長を支える役割を果たしたいと考えています。」
📌 パフォーマンスの把握と正当な評価
「評価面談だけではメンバーの本当の努力や成果が見えにくいため、普段の努力をもっと正確に理解して、正当に評価したり支援したりできるようにしたいと思い、1on1を始めます。」
このような具体的な言葉で目的を伝えることで、メンバーに安心感や動機付けを与えられ、1on1の定着化や成果の向上につながります。
2)頻度・時間・進め方を事前に明確化する
1on1を始めるにあたり、メンバーに頻度や時間、進め方を具体的に伝えることが大切です。これにより、メンバーは安心して準備ができるようになります。
頻度の目安は、基本的には「2週間に1回~月に1回」です。時間は「30分~60分程度」が基準となります。メンバーの状況に応じて、成長支援が必要なメンバーや経験が浅いメンバーには、「週に1回、30分程度」と頻度を高めに設定し、経験が豊富で自律的に仕事を進められるメンバーには、「月に1回、45分程度」と頻度を低めに調整することもあります。
また、進め方としては、「毎回、最初にテーマを確認して話し合い、最後に次回までの行動やテーマを決める」というシンプルで分かりやすい流れを伝えることで、メンバーの事前準備がしやすくなります。
こうした事前の丁寧な説明が、メンバーの心理的安全性を高め、1on1の効果的な実施につながります。

1on1の「事前準備」のポイント
1on1の成功は事前の準備でほぼ決まると言っても過言ではありません。ここでは、効果的な1on1を実施するための準備のポイントを詳しくご紹介します。
1)定期的な日程設定で「習慣化」する
1on1を有効な時間にするためには、とにかく「習慣化」することが最重要ポイントです。習慣化とは、毎回日時を調整するのではなく、事前に決まったタイミングで繰り返し予定を組み込んでおくことを意味します。
具体的には、カレンダー上で毎週・隔週・毎月など一定の周期で繰り返し予定として設定しましょう。こうすることで、マネジャー・メンバー双方が「このタイミングで1on1がある」と意識でき、1on1を日常業務の一部として位置付けやすくなります。スケジュールを予め押さえておくことで、急な仕事などに流されにくく、安定的な実施につながります。
2)メンバーが話したいテーマと期待する対応を事前に把握する
1on1の効果を最大化するためには、メンバーが話したい「テーマ」とマネジャーに期待する「対応」を、マネジャー自身が事前に明確に把握しておくことが大切です。
メンバーが選ぶ「テーマ」の例
メンバーが1on1で話したいテーマには、以下のようなものがあります。
✅ 業務の進捗や進め方に関する相談
✅ 職場の人間関係に関する悩み
✅ 自分の心身の状態(メンタルや体調)の共有
✅ キャリアの希望や将来の方向性についての話し合い
✅ 身につけたいスキルや能力向上の方法についての相談
✅ プライベートな話題(家庭や趣味など)の共有
✅ 会社や部署の方針、組織への要望や意見の共有
メンバーがマネジャーに期待する「対応」の例
メンバーがマネジャーに対して期待する対応の具体例としては、次のようなものがあります。
✅ 具体的なアドバイスが欲しい
✅ 解決策を一緒に考えてほしい
✅ とにかく話を聞いてほしい(共感してほしい)
✅ マネジャーの意見や考えを聞きたい
✅ 状況や進捗を報告したい
これらを事前にメンバーと確認しておくことで、マネジャーも準備ができ、質の高い対話を実現できます。結果として、メンバーも満足感や納得感を得られる時間になります。
3)マネジャー側もテーマを提案できるように準備する
1on1では基本的にメンバーが話すテーマを決めるのが理想ですが、毎回メンバーがテーマを持ってくるとは限りません。そうした場合に備え、マネジャー側でも話しやすいテーマを提案できるよう事前に準備をしておくことが大切です。
具体的な方法として、マネジャーは日常業務やコミュニケーションの中で気付いたメンバーの課題や変化をメモしておきます。メンバーがまだ自覚していない潜在的な課題を共有すると、対話がより深まり、メンバー自身の気づきや成長にもつながります。
普段からメンバーの業務状況や関心ごと、最近の様子をよく観察し、テーマとしていくつかストックしておきましょう。こうした準備ができていることで、1on1の対話をスムーズに始められ、メンバーの信頼感や安心感を高めることができます。
1on1の「始め方・対話中・終わり方」のコツ
1on1を成功させるためには、実際の実施方法が非常に重要です。ここでは、実際に1on1を実施する際の「始め方」「対話中の進め方」「終わり方」それぞれのポイントを具体的にご紹介します。
1on1の始め方:安心して話せる空気づくりがカギ
1on1では、最初から本題に入るのではなく、まずはメンバーが話しやすい雰囲気づくりを意識しましょう。「最近どう?」「この前の仕事はどんな感じだった?」など、身近な話題や業務に関する話題から自然に会話を始めるのがポイントです。
また、最初にメンバーが話したいテーマやマネジャーに期待する対応を再度確認し、メンバーが安心して対話をスタートできるように工夫しましょう。こうした配慮があることでメンバーの緊張が解け、1on1がより実りあるものになります。
1on1対話中:深い対話を生み出すポイント
1on1では、マネジャーは聞き役に徹し、メンバーが安心して話せる環境をつくることが重要です。そのためには、適切な相槌やリアクションを取ることが欠かせません。
また、メンバーがじっくり考えられるよう、沈黙を恐れず、あえて待つ時間を設けることも大切です。「なぜそう思ったんですか?」「もう少し詳しく教えてください」など、メンバー自身が自分の考えを整理し深められるような質問を投げかけましょう。
さらに、対話中の内容や気づきは毎回必ずメモに残しておきます。これにより次回以降の1on1でも継続的に深い話ができるだけでなく、前回の話をしっかり覚えているという姿勢がメンバーとの信頼関係を深め、安心して話せる環境づくりにつながります。
1on1での話す量の目安
1on1での理想的な話す割合は、「メンバー8:マネジャー2」です。マネジャーが話しすぎないようにするための具体的な工夫として、以下のようなマネジャーの声があります。
💬「自分が話しすぎないようにするために、メンバーの話をメモすることに徹しています。メモに集中することで、自分の発言を自然に控えることができます。」
💬「メンバーの話を深掘りするため、『もう少し詳しく教えてくれる?』『それは具体的に言うとどんなことかな?』など、メンバー自身が自分の考えを具体化できる質問を事前に用意して使っています。」
💬「自分がついアドバイスしたくなった時には、『今、自分が話すべき?』と自問して、『あなたならどうしたい?』とメンバーに問い返すよう心掛けています。」
こうした具体的な工夫で、対話がより質の高いものになります。
1on1の終わり方:次につながるアクション設定を忘れずに
1on1の終わりには、必ず次回の実施日を確認・設定します。また、話した内容を振り返り、「次回までに具体的に何をするのか」を明確に決め、お互いが認識を一致させることが重要です。
さらに、「次回はどんな話をしたいですか?」とメンバーに問いかけ、次回のテーマを予め確認することで、対話の継続性が高まります。これにより、1on1が形骸化せず、日常の行動やメンバーの成長に着実につながることになります。

1on1の質を高めるための「振り返り」の方法
1on1を効果的に続けていくためには、振り返りが非常に重要です。ただ実施するだけではなく、メンバーにとって本当に意味のある時間となっているかを確認し、定期的な見直しを行う必要があります。ここでは、効果的な振り返りの具体的な方法を詳しく解説します。
1)メンバーの1on1への要望を定期的に確認する
まず最初に行うべきことは、メンバーが1on1に対して持っている希望や要望を定期的に聞くことです。メンバーが話したいことを十分にカバーできているかを確認することで、1on1がメンバーにとって価値ある時間になるように調整できます。
例えば、「最近の1on1で話したいことはカバーできていますか?」「他に話したいことや、1on1に期待していることはありませんか?」などの質問をすることで、メンバーから自然な形で希望や要望を引き出すことができます。
2) マネジャー自身が定期的に1on1を振り返り、改善する
メンバーからのフィードバックに加えて、マネジャー自身が自分の1on1の進め方を定期的に振り返り、改善点を見つけることも大切です。具体的には以下のような観点で振り返りましょう。
✅ 「1on1が本当にメンバーのための時間になっているか」
✅ 「メンバーとの関係性は以前よりも深まっているか」
✅ 「日常の行動やメンバーのパフォーマンスに良い変化が生まれているか」
✅ 「メンバーの成長をサポートできているか」
毎回のテーマがメンバーにとって意味があり、行動や意識の変化につながるよう、メンバーの期待により応えられるような改善を継続的に行うことが必要です。
3)継続的に扱うテーマを整理する
1on1で話した内容は毎回記録を残し、定期的にその記録を見直してテーマを整理することが重要です。その際、「そのとき話したい短期的なテーマ」と「今後も継続的に話した方がよい中長期的なテーマ」を区別して整理しましょう。
中長期的なテーマには、キャリアや成長、また時間をかけてじっくり解決を目指した方が良い課題などが該当します。こうしてテーマを整理しておくことで、次回以降の1on1の質を高め、メンバーにとってさらに役立つ対話が可能になります。
4) メンバーが求める1on1とは? 実際の声を紹介
最後に、メンバーが実際にどのような1on1を望んでいるのか、生の声をご紹介します。
✅ 「日頃感じている”なんとなくのモヤモヤ”を整理してスッキリできる場」
✅ 「業務とは別に、普段話せないことも共有して、上司との関係や繋がりを深める場」
✅ 「今進んでいる方向性が合っているかどうか、上司と定期的に確認する場」
✅ 「自分のアイデアや考えを遠慮なく話して、上司に壁打ち相手になってもらう場」
✅ 「自分では気づいていない仕事やキャリアについての着眼点をもらい、自分を進化させる場」
このように、メンバーは1on1に対して多様なニーズを持っています。こうした声を踏まえて、ぜひ振り返りを行い、1on1をさらに意味ある時間へと進化させていきましょう。

1on1でメンバーから本音や気づきを引き出す効果的な質問テンプレート
1on1を実施しているマネジャーからは、「メンバーにどう話を投げかければいいのか迷ってしまう」「いつも同じような質問ばかりになってしまい、会話が深まらない」という声をよく聞きます。
そこで、メンバーとの対話を深めるための具体的な質問例を、「話したいことを引き出す質問」「心理的安全性を高める質問」「具体的な行動を促す質問」「問題を自然に探る質問」「気づきや内省を促す質問」「キャリアや成長を意識する質問」の6つに分類し、紹介します。
1)話したいことを引き出す質問
まずはメンバーが今話したいことを自然に引き出しましょう。メンバー自身が話題を提供しやすくなる質問です。
🙋「何か気になってることとか、話したいことある?」
🙋「今日、特に相談したいことあるかな?」
🙋「今、一番気にかけてることって何だろう?」
このようにオープンな問いかけをすると、メンバー自身がテーマを選びやすくなります。
2)心理的安全性を高める質問
本音を話してもらうには、メンバーが安心して話せる空気づくりが欠かせません。そのためには以下のような質問が有効です。
🙋「最近感じた不安や心配なことがあれば教えてください」
🙋「普段職場で言いにくいことはありませんか?」
🙋「何か本音で話しておきたいことはありますか?」
これらの質問を通じて、メンバーが心理的な壁を感じず本音を伝えられる環境を作ります。
3)具体的な行動を引き出す質問
1on1の成果を実践に移すために、以下のような質問を通じてメンバー自身に具体的な行動計画を立ててもらいましょう。
🙋「次にどんなアクションを取ろうと考えていますか?」
🙋「具体的に何を変えると、目標に近づけると思いますか?」
🙋「その行動をいつまでにやりますか?」
メンバーが自分自身でアクションを決めることで、実際の行動につながりやすくなります。
4)問題を自然に探る質問
メンバーが自覚していない問題や課題を自然に引き出すには、以下のような質問が効果的です。
🙋「何か引っかかってることとかある?」
🙋「最近の仕事で『難しいな……』と感じてることある?」
🙋「これだけは解決したい、ってことあるかな?」
メンバー自身が課題を言語化することで、より具体的な問題解決の糸口を見つけやすくなります。
5)気づきや内省を促す質問
メンバー自身の気づきや内省を引き出す質問を使うことで、自発的な成長を促進できます。
🙋「最近やってみて『うまくいった!』って思ったことある?」
🙋「逆に『ああすればよかったな』と感じたことはあった?」
🙋「次やるときは、何を変えてみようと思う?」
これらの質問を活用すると、メンバーが自身の行動を振り返り、次に向けての改善点を明確にできます。
6)キャリアや成長を意識する質問
メンバーの長期的な成長やキャリア形成を支援するためには、将来を意識した質問が役立ちます。
🙋「最近、『こんなことできたらいいな』とか考えることある?」
🙋「今の仕事で、『ちょっと自分、成長したかも!』って思えた瞬間あった?」
🙋「今の仕事が少しでも自分の将来につながりそうだなって感じられる部分ある?」
🙋「例えば半年後とか1年後、こんなことできるようになりたいってイメージ、何かある?」
こうした質問により、メンバーが自身のキャリアやスキルの成長について意識し、積極的な取り組みにつなげることができます。
これらの具体的な質問テンプレートを活用し、メンバーとの1on1をより充実した、意味のある時間にしていきましょう。
1on1の質を高めるために身につけたいコミュニケーションスキル
1on1を実施するにあたり、「特別なコミュニケーションスキルがないと難しい」と感じているマネジャーも多いのではないでしょうか。たしかにスキルはあれば役立ちますが、必須ではありません。まずはメンバーと丁寧に向き合うことが大切です。
しかし、1on1の質をさらに向上させ、メンバーの成長支援や関係構築をより効果的に進めたいと考えているマネジャーのために、ここでは具体的に活用できるコミュニケーションスキルをご紹介します。
① ティーチング(Teaching):具体的な知識やスキルを伝える
ティーチングは、具体的な方法や手順、知識やスキルを教えることに重点を置くコミュニケーション手法です。メンバーが業務のやり方を具体的に理解し、実行できるようにすることを目的とします。
1on1での具体的な活かし方の例
✅ 「こうするともっと効率的にできるよ」と実践的なアドバイスを行う。
✅ メンバーに挑戦したい業務がある場合、「まずはこのステップを試してみて」と具体的な行動を導く。
② コーチング(Coaching):質問を活用しメンバーの考えを引き出す
コーチングは指示を与えるのではなく、質問を通してメンバー自身が自らの考えや答えを見つけられるよう支援する手法です。自発的な気づきや行動を促すことを狙いとします。
1on1での具体的な活かし方の例
✅ 「どうしたらうまくいくと思う?」と質問し、解決策をメンバー自身に考えさせる。
✅ マネジャーがすぐに答えを与えるのではなく、「あなたはどう思う?」と促し、本人の価値観や意欲を引き出す。
③ アサーティブ・コミュニケーション(Assertive Communication):互いを尊重した対話
アサーティブ・コミュニケーションは、相手を尊重しつつ、自分の意見も率直に伝えるコミュニケーションスキルです。攻撃的でも受け身でもなく、バランスの取れた自己表現をします。
1on1での具体的な活かし方の例
✅ メンバーの意見を否定せず、「あなたの考えも大切だけど、私はこう思う」と伝える。
✅ 「そのアイデアはいいね。でも別の視点も考えてみてほしい」と、多角的な視点を促す。
④ フィードバック(Feedback):具体的な評価を伝える
フィードバックは相手の行動や成果に対し、具体的で建設的な評価やアドバイスを行うスキルです。メンバーに自分の強みや改善点を明確に理解してもらい、成長を促します。
1on1での具体的な活かし方の例
✅ 「この部分はすごく良かったね」と良い点を具体的に褒める。
✅ 改善点がある場合は「次はこうするとさらに良くなるよ」と具体的に伝えることで、成長を促す。
⑤ フィードフォワード(Feedforward):未来に向けたアドバイスを伝える
フィードフォワードは過去の失敗や問題点を責めるのではなく、「未来に向けた前向きなアドバイス」を伝えるコミュニケーション手法です。メンバーが次回以降に改善できる具体的な行動を示します。
1on1での具体的な活かし方の例
✅ 「次回はこうしたらもっと良くなるね」と未来志向の言葉で対話を進める。
✅ 「前回よりも成長しているね」と、メンバーのポジティブな変化や成長を認め、自信を持たせる。
これらのスキルを意識して活用することで、1on1がより充実した時間となり、メンバーの成長や組織全体の成果向上にもつながります。マネジャー自身がコミュニケーションスキルを適切に使い分け、メンバー一人ひとりに寄り添った対話を実現しましょう。
実際に1on1を実施したマネジャー・メンバーの生の声
1on1を導入するにあたって、「本当に効果があるのか?」「どんな変化があるのか?」という不安や疑問を抱く方も多いでしょう。そこで、ここでは実際に1on1を行っている現場のマネジャーとメンバーの生の声を紹介します。
💬メンバーの声
「気軽に話せる場ができて、本音が言いやすくなった」
「1on1を始めてから、マネジャーと気軽に話せるようになりました。これまでは仕事の悩みやちょっとした本音を言う機会がなく、モヤモヤしたままでしたが、1on1があることで『困ったらすぐ相談できる』という安心感が持てました。」
「マネジャーとの距離が縮まり、相談がしやすくなった」
「1on1のおかげで、自分の考え方や価値観を普段から話せるようになりました。マネジャーも自分の考えを伝えてくれるので、距離が近づいた感じがします。普段の業務でも以前より相談がしやすくなり、業務上のコミュニケーションも改善しました。」
「仕事の目標や課題が明確になり、やる気が高まった」
「以前は自分が何を目指しているのか曖昧なままで仕事をしていましたが、1on1で目標や課題を具体的に話すようになり、自分のやるべきことが明確になりました。業務のプロセス面でもフィードバックを得られるようになり、自分自身の成長実感が高まっています。」
「自分の強みや関心を知ってもらえて、仕事が楽しくなった」
「1on1でマネジャーが自分のやりたいことや得意なことを積極的に聞いてくれるようになり、『自分を見てもらえている』という実感が強くなりました。そのおかげで以前より仕事が楽しく、やりがいを感じるようになりました。」
💬マネジャーの声
「メンバーの本音が聞けるようになり、業務が円滑に進むようになった」
「1on1を導入してから、メンバーがそれまで言いづらかったような本音や本当の課題を自然に話してくれるようになりました。小さな問題でも早めに気づけるようになり、チーム全体としても業務がスムーズに回るようになっています。」
「メンバー一人ひとりの理解が深まり、信頼関係が強化された」
「定期的に1on1を行うことで、メンバー一人ひとりの考えや価値観、キャリアに対する希望がよく理解できるようになりました。それにより個別の支援ができるようになり、メンバーとの信頼関係もぐっと深まりました。」
「細かな課題を早期にキャッチアップでき、成果が安定した」
「1on1のおかげで細かな課題や問題を早期にキャッチアップできるようになりました。問題が大きくなる前にメンバーと一緒に対応できるため、トラブルが減り、チーム全体の成果も安定してきました。」
「メンバーの希望やキャリアを理解し、適切な役割を与えられるようになった」
「以前はメンバーの得意分野やキャリアに対する希望を深く理解していなかったため、一律の役割分担になりがちでした。1on1を通じてメンバーの希望や適性を詳しく理解できるようになり、一人ひとりに最適な仕事を任せることでチームのパフォーマンスが大きく向上しました。」
このように、実際に1on1を導入することで、マネジャー・メンバー双方にとってさまざまな良い変化が生まれています。
マネジャーからの1on1に関するよくある質問
1on1を進めていく中で、多くのマネジャーが同じような悩みや疑問を抱えています。「メンバーと何をどのように話せば良いのか」「頻度や時間はどうすればいいのか」「1on1をうまく活用できないメンバーがいる」など、実際に運用すると直面する課題も多いでしょう。
ここでは、そんなマネジャーの皆さんからよくいただく質問と、その具体的な対応方法をQ&A形式でご紹介します。ぜひ、自分の状況に近いものを探し、1on1運用のヒントにしてください。
① 1on1の時間と頻度は、どのくらいが適切ですか?
→基本は30分〜60分程度、頻度は2週間に1回〜月に1回のペースで、とにかく定期的に実施することが大切です。
特に成長支援が必要なメンバーや経験の浅いメンバーとは週に1回など頻度を高め、密に対話を重ねるのがおすすめです。一方、経験豊富で自律しているメンバーの場合は月に1回程度など頻度を下げても問題ありません。ねらいは、定期的に向き合い対話する時間を「習慣化」することです。
② 毎回話題が尽きそうで不安です。どうしたら良いですか?
→1on1の初期、関係づくりの段階では、お互いが自己開示しながら、まずは「過去・現在・将来」の視点で話してみましょう。慣れてきたら、以下のようなテーマを準備しておくと話題が尽きません。
✅ 業務の進捗や進め方、人間関係について
✅ 心身の状態(体調やメンタル面)についてキャリアについての考えや希望
✅ スキルや能力向上のために取り組んでいること
✅ プライベートな話題(趣味や家庭のことなど)
✅ 会社や部署の方針、働く環境への意見や疑問
幅広いテーマを持ち込むことで、自然と会話が深まり、話題が尽きる不安は徐々になくなっていきます。
③ メンバーが本音を話してくれません。どうしたら引き出せますか?
→メンバーの本音を引き出したい時は、まずマネジャー自身が先に自己開示をすることが効果的です。マネジャーが自分の本音を話すことで、「どこまで話しても大丈夫か」のラインが相手に伝わり、話しやすくなります。
「相手の本音だけ」を引き出そうとすると、警戒されてしまうものです。お互いが安心して話せる関係を作るためには、自分からも積極的に本音を伝える姿勢が必要です。
また、他のメンバーとの会話例を紹介して、「こんな話もよくしてるよ」と具体例を示すことも効果的です。
④ 話は盛り上がるけど、成果につながる感じがしません。改善のコツは?
→1on1の最後に「次回までに具体的に何をするか」を、メンバー自身に言葉にしてもらい、実際に取り組んでもらいましょう。
次回の冒頭で必ずその振り返りを行うことで、日々の業務に具体的な成果が現れやすくなります。
「次回までにやること」は、新しいチャレンジはもちろん、普段の業務の中で意識したり、こだわったりすることでも構いません。どんな小さなことでも、「少しチャレンジを盛り込んだ内容」にすると、日常業務の中で変化や成長が生まれやすくなります。
⑤ 1on1で愚痴などネガティブな話題ばかりをメンバーが話すので困っています。どう対応すればよいですか?
→ネガティブな話題や愚痴が出たら、まずは否定せずに一旦きちんと聞いて受け止めましょう。
その後、少し視点を変えて「その状況を別の角度から見るとどうだろう?」と捉え方を変えるきっかけを与えると、前向きな話につなげやすくなります。
最終的には、「じゃあ具体的にどうしていこうか?」と、今後の行動や改善方法についてメンバーと一緒に考えることで、単なる愚痴に終わらせず前向きな時間に変えることができます。
⑥「1on1はメンバーのための時間」といいますが、メンバーが主体的になってくれません。どうしたら良いでしょうか?
→最初からメンバーに主体性を求めるのが難しい場合は、まずマネジャー主導で1on1の設定を行い、「定期的に対話する習慣」を作ることから始めましょう。
初期の段階ではマネジャーが事前にテーマを決め、「次回までに考えてきてほしいこと」を具体的にメンバーへ伝えることで、メンバーも準備や意識を持ちやすくなります。
徐々に回数を重ねていく中で、メンバーが自分からテーマを設定したり、話したい内容を持ってくるように、少しずつ主導権を移行していきましょう。
⑦ 1on1での会話は他の人に言って良いものでしょうか?
→基本的に1on1での会話は守秘するのが原則です。話した内容が本人の許可なく外に漏れてしまうと、「ここで話したことは他の人に知られてしまう」という不安が生まれ、信頼関係が崩れてしまいます。その結果、メンバーが安心して本音を話せなくなります。
ただし、部長など第三者にメンバーの成長支援やサポートを依頼する際には、「どのような趣旨で話したか」という要点のみを伝え、詳細や具体的な発言内容については本人の許可を得てから共有しているケースが多いです。
⑧年上のメンバーから「成長というフェーズでもないので、1on1は不要」と言われました。どうしたら良いでしょうか?
→「成長支援」だけが1on1の目的ではありません。むしろ経験者だからこそ、客観的なフィードバックが少なくなりがちで、パフォーマンスを維持・向上するための「活躍支援」の意味合いが重要になります。
「業務上の課題の解消」「お互いの状況共有」「安心して仕事ができる環境づくり」など、相手が納得しやすい目的を伝え、1on1の意義を感じてもらいましょう。
また、経験豊富なメンバーの場合、「貢献の仕方が画一的になっている」「期待がうまく伝わっていない」「本当は問題があるが本人が言わなくなっている」などの状況はよくあることです。実は対話すべきことは多くあるため、「年上だから」と遠慮しすぎずに積極的にコミュニケーションをとることが大切です。
1on1はマネジャーにとっても試行錯誤の連続です。迷ったり悩んだりしたときには、他のマネジャーも同じ悩みを抱えていることを思い出しながら、このQ&Aを活用し、メンバーと向き合う時間をより良いものにしていきましょう。