挑戦しないメンバーに効く! マネジャーの1on1対応ガイド

とある事業部門で、若手メンバーの育成に取り組むマネジャーから「自分のできることしかやらないメンバーがいて困っている」という悩みを聞きました。

「自分のできることしかやらない」とは一体どのような状況なのでしょうか。マネジャーの期待とメンバーの言動にギャップが存在することは前提ですが、メンバーのスタンスや意欲の問題として捉えても状況は改善しません。

この課題の背景には、マネジャーがメンバーの心理や状況を十分に理解できず、「やる気がない」といった誤った解釈をしてしまうことや、期待していることがうまく伝わっていないといったコミュニケーションのズレがあることが少なくありません。

本コンテンツでは、こうした課題に対して組織としてどう向き合うかをテーマに、実際のディスカッションから整理・汎用化した考え方をもとに、状況の捉え方や分解の仕方、そして具体的な対応のヒントをご紹介していきます。

マネジャー視点での成長する人とそうではない人の違いとは?

マネジャーから見ると、「成長する人」とは、多少難しい目標でも前向きに挑戦し、失敗や困難から学びを得て、次のアクションにつなげられる人です。一方、「成長が止まっている」「チャレンジが見られない」と感じられるメンバーは、「自分ができる範囲のこと」から踏み出そうとせず、マネジャーには意欲が低いように映ってしまいます。マネジャー視点からは、次のような違いが目立つかもしれません。

成長する人

 ✅ 新しい仕事や難しい仕事にも自発的に取り組む姿勢がある
 ✅ 失敗を恐れず、フィードバックを受け止めて改善に活かそうとする
 ✅ 困った時や迷った時は自ら質問・相談をする

成長が止まっている・鈍化しているように見える人

 ✅ いつも決まった範囲の業務しかやりたがらない
 ✅ 難しそうな仕事ややったことがない仕事、わからない要素や挑戦要素がある業務を避ける傾向がある
 ✅ 自分から質問や相談をあまりしないため、コミュニケーションが少ない

マネジャーは「成長が止まっている」と感じるメンバーを「やる気がない」と誤解しがちです。しかし、こうしたメンバーの姿勢の背景には、マネジャーの視点からは捉えきれない複雑な心理的要因が存在しています。

メンバー側では実際に何が起きているのか?

マネジャーからは「意欲不足」に見えるメンバーでも、実は内面では次のようなことが起きている場合があります。

① マネジャーからの期待が不明確

マネジャーは「もっとチャレンジしてほしい」「成長してほしい」と期待を抱いていますが、実はメンバーには具体的な期待が十分に伝わっていないことがあります。「何をどのくらいのレベルで期待されているのか」が曖昧なままでは、メンバーは心理的な安全性が感じられず、挑戦を避けてしまいます。

② 挑戦に対する不安・恐れ

メンバーは「失敗すると周囲から評価されなくなる」「挑戦すると迷惑をかけてしまう」といったプレッシャーを強く感じています。本人は「挑戦したい」と感じつつも、不安に負けて行動に踏み出せない状態です。

③ 自己効力感(自信)の低下

過去の失敗や否定的な経験から、「自分には難しいことはできない」と自己認識が低下しているケースもあります。やる気がないのではなく、「自分にできるのはこの範囲までだ」と思い込んでいる可能性があります。

④ 挑戦を妨げる完璧への執着

「失敗できない」「完璧に仕上げないとダメだ」と考える傾向が強いメンバーもいます。このような完璧主義的な思考によって、自分に対する要求水準が高まりすぎて、挑戦そのものを恐れている状態です。

メンバーの心理・状況をより深く理解するためにマネジャーが知っておくべきこと

マネジャーによくある誤解は、メンバーの行動の裏にある本当の心理状態を理解しないまま、表面的に「意欲がない」と判断してしまうことです。マネジャーが見るべきは、「本人にやる気があるかないか」ではなく、「なぜ一歩踏み出せないのか?」という心理的なハードルの正体です。

「やる気はあるけど、挑戦しない」メンバーの背景には、以下のような具体的な心理状況がよくあります。

 ✅ 「挑戦して失敗したら、周囲から評価されなくなる」と不安を感じている。
 ✅ 「挑戦しても、自分の力不足でチームに迷惑をかけてしまう」と懸念を抱いている。
 ✅ 完璧主義の傾向があり、「確実に成功できる自信」がないと動けない。
 ✅ 過去に挑戦して苦い経験をしており、トラウマのようになってしまっている。
 ✅ 自分が挑戦しても良いという上司からの承認を、無意識のうちに求めている。

マネジャーがこうした「見えない心の動き」を理解せず、「やる気がない」と誤解すると、溝が深まってしまいます。具体的には、以下のような視点でメンバーの状況を深掘りし、「成長が止まっている」と感じられる原因を丁寧に探ることが重要になります。

 ✅ 本人のスキルや能力は、期待に対してそもそも不足しているのか?
 ✅ 挑戦する意欲はあるが、失敗に対する恐怖やプレッシャーを感じているのか?
 ✅ 自己効力感が低下し、自己評価が低すぎる状態ではないか?
 ✅ 上司や周囲からの期待が、明確に、かつ前向きに伝わっているか?

このような観点で整理していくと、「成長が止まっているメンバー」と見えていた人も、実はマネジャー自身が正しく支援すれば成長できる人材だとわかります。

マネジャーがメンバーの状況を分解するための五つの観点

まずはメンバーがなぜ「自分のできることしかしない」状況になっているかを、以下の五つの観点で整理しましょう。

① スキルや能力の問題

 📍 メンバーの実際のスキルレベルはどうか?
 📍 本当に能力不足なのか、能力を過小評価しているだけなのかを確認する

② 自己効力感(自信)の問題

 📍 「自分にはできる」と思えているか?
 📍 過去の経験から、自信を失っていないか?

③ 心理的なハードルの問題(不安・恐れ)

 📍 失敗したら評価が下がる、迷惑をかけると思い込んでいないか?
 📍 挑戦に対する心理的安全性が不足していないか?

④ 動機やモチベーションの問題

 📍 仕事へのやりがいや成長意欲は感じられているか?
 📍 どのようなことに興味や動機を感じているか?

⑤ 上司や組織からの「期待」の伝わり方の問題

 📍 マネジャーから具体的で明確な期待が伝わっているか?
 📍 どのような役割や行動が求められているかを本人が理解しているか?

メンバーが一歩前に進めるように導くための五つのポイント

次に、状況を踏まえてマネジャーが具体的に取り組むべきポイントを整理します。

① 傾聴と共感を徹底し、心理的安全性をつくる

 📍 メンバーが安心して不安や課題を話せる環境をつくる
 📍 「できない」「怖い」と感じている本音を引き出し、否定せず共感する

② 具体的なフィードバックで自己効力感を高める

 📍 「できたこと」「成長したポイント」を具体的に本人に伝える
 📍 小さな成功体験を積み重ね、自信を回復させる

③ 期待を明確に伝え、目標を具体化する

 📍 マネジャーが何を求めているのか、具体的に本人に示す
 📍 「どんなレベルまでできればOKか」を明確にして安心感を与える

④ スモールステップの「挑戦」を設定する

 📍 大きな挑戦ではなく、無理なく一歩を踏み出せる目標を設定する
 📍 挑戦自体を評価し、「失敗しても問題ない」ことを強調する

⑤ メンバーが自然に質問・相談できる関係を構築する

 📍 困った時にマネジャーや周囲に相談しやすい環境をつくる
 📍 相談や質問を歓迎し、安心してコミュニケーションを取れる空気を作る

メンバーが挑戦できない背景をこうして整理すると、「やる気がない」という誤解がなくなり、マネジャーが具体的に何をすればよいかが明確になります。

部下の行動変容を促すための1on1とは?

1on1はメンバーの行動変容を促すための有効な機会です。マネジャーが信頼関係を基盤に、「自分のできることしかしない」状態にあるメンバーの心理的背景を理解し、自然に挑戦できる状態へと導くためには、定期的に1on1を行うことが重要です。

具体的には、

 📌 メンバーが安心して自分の課題や不安を話せる場をつくる
 📌 「やる気がない」というマネジャー側の誤解をなくし、本当の課題や状況を把握する
 📌 明確な期待や小さな挑戦の目標を一緒に設定し、自己効力感や成長意欲を高める

ことを目的とするのが望ましいでしょう。

1on1で扱うテーマとは?

1on1では以下の五つのテーマを意識的に扱います。

① メンバーが感じている心理的なハードル

 📌 なぜ挑戦することに不安や恐れを感じるのか?
 📌 挑戦したくないと感じる理由や背景は何か?

② スキルや能力、自己認識のギャップ

 📌 今、自分が得意だと思うこと、苦手だと思うことは何か?
 📌 周囲の評価と自己評価にズレはないか?

③ 本人の動機やモチベーションの所在

 📌 仕事の中でどのようなことに楽しさややりがいを感じているか?
 📌 逆に、どんなときにモチベーションが下がってしまうか?

④ マネジャーからの具体的な期待の伝達

 📌 自分にどのような役割や成果を期待されていると感じているか?
 📌 実際にマネジャーは何を期待しているのか?

⑤ 小さな挑戦の具体的な設定

 📌 少し背伸びして挑戦してみたいことは何か?
 📌 安心してチャレンジできるようにするための具体的なサポートは?

 1on1の具体的な進め方

1on1の効果を高めるために、以下の具体的な進め方を推奨します。

【Step1:心理的安全性を高める】

 ⭕️ 最初は雑談を含め、仕事以外の話も交えリラックスできる雰囲気を作る
 ⭕️ メンバーの最近の仕事や感情について、軽く質問しながら自然な流れで本題へ
 
 「最近、仕事の調子はどう?」「気になっていることや困っていることある?」

【Step2:状況の理解】

 ⭕️ 「できることしかしない」と感じる状況を、メンバー自身がどう捉えているか傾聴する
 ⭕️ 本音を引き出す質問を丁寧に行い、否定せず共感的に受け止める

「挑戦するのに迷いや不安はある? どんなときに特に感じる?」

【Step3:期待の明確化とフィードバック】

 ⭕️ マネジャーがメンバーに対して持っている期待を明確に伝える
 ⭕️ 「できていること」「強み」を具体的にフィードバックし、メンバーの自己効力感を高める

「実はもっと○○を任せたいと思っているよ。前回の○○はすごく良かったしね。」

【Step4:具体的な挑戦目標の設定】

 ⭕️ 「安心して挑戦できる小さな目標」を一緒に設定する
 ⭕️ 失敗しても評価が下がらないことをはっきり伝え、具体的な支援を提案する

「次のプロジェクトで少しだけ新しいことに挑戦してみようか。難しければ私もサポートするから。」

【Step5:振り返りと次回への約束】

 ⭕️ 当日の会話の内容をまとめて、メンバーに次のアクションを促す
 ⭕️ 次回の1on1までに取り組んでほしい小さな挑戦やアクションを確認する

「今日は話せてよかった。次までに決めたことをやってみて、どう感じたか教えてほしいな。」

1on1においてマネジャーが特に意識すべきポイント

 ✅ 「やる気がない」といった誤解を持たず、相手の心理状況を丁寧に理解する
 ✅ 抽象的ではなく、「具体的に期待していること」を明示する
 ✅ 「できないこと」ではなく、「一歩踏み出したこと自体」を積極的に認める

 具体的にメンバーに有効な声がけ

 🙋 「挑戦してみてほしい理由はね、あなたにこうなってほしいという期待があるからなんだよ
 🙋 「完璧にできなくてもいいから、まずは取り組んでみて。あとから一緒に調整しよう。」
 🙋 「あなたは気づいてないかもしれないけど、こんなに成長しているところがあるよ。」
 🙋 「うまくいかなくても評価は下がらない。むしろ挑戦してくれたことが嬉しいんだ。」

このような具体的かつ本質的な関わりを通じて、周囲から「やる気がない」と誤解されそうな状況を解消し、メンバーの挑戦意欲を高め、確実に成長を支援することができます。

組織としてこのような対応ができるマネジャーを育成するためには?

組織として「自分のできることしかしないメンバー」に対して、今回紹介したような丁寧で本質的な関わり方ができるマネジャーを育成するためには、以下の取り組みが有効です。

① マネジャー自身が心理的安全性を体験する場をつくる

メンバーに心理的安全性をマネジャーが提供するには、マネジャー自身が心理的安全性を体感し、それがどのようなものかを知っている必要があります。そのためには、組織として経営層や上司がマネジャーに対し、日頃からオープンな対話の機会を提供し、「安心して本音を話せる環境」をつくることが重要です。

② 「傾聴・フィードバックの文化」を現場の行動規範として浸透させる

傾聴や具体的なフィードバックは研修で単発的に学ぶだけでは定着しません。実務の中で日常的に行われるフィードバックやコミュニケーションに組み込まれるようにする必要があります。組織として、現場のリーダーが日々の行動としてメンバーへのフィードバックを実践し、それを他のマネジャーが参考にできるような仕組みづくりが重要です。

③ 挑戦を評価する文化を明示的に定着させる

組織として、挑戦そのものを評価し推奨する文化を経営層が率先して明示的に発信します。メンバーが結果の失敗を恐れず安心して挑戦できるよう、挑戦を積極的に認め、成功したかどうかに関わらず挑戦した事例を称える仕組みを導入します。マネジャーもメンバーの挑戦を支援する動機を持てるよう、評価制度に組み込むことも有効です。

④ マネジャー同士が現場の実践事例を共有しあうコミュニティを作る

マネジャー同士が実際に現場で起きているリアルな課題や成功事例を持ち寄り、ノウハウを共有する機会を作ることも有効です。「やる気がないと誤解していたメンバーが実際に成長した具体的事例」などの成功体験を共有することは、それを聞いた他のマネジャーたちの意識と行動を変える強い動機づけになります。

⑤ マネジャーの評価指標に「部下の成長促進」という項目を具体的に組み込む

マネジャーの評価を「業績達成」だけではなく、「メンバーが挑戦しやすい環境を作ったか」「メンバーの心理的なハードルを理解して適切な支援を行ったか」などの具体的な基準を評価指標として設定します。研修の受講状況などではなく、実際の現場行動や結果に紐づいた評価を行うことで、マネジャーが主体的にメンバーの成長を支援するようになります。

本質的には組織全体が現場で日々実践するコミュニケーションやフィードバック、評価制度や行動規範の設定を通じて、マネジャーが本質的な対応を行えるようになることが重要です。

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