マネジメントに不可欠なコンセプチュアルスキルとは? その要素や伸ばし方を知ろう

コンセプチュアルスキルとは?

コンセプチュアルスキル(Conceptual Skills)は、日本語では概念化能力とも呼ばれます。
物事を包括的に理解し、問題の本質をとらえて抽象化・普遍化する能力のことで、組織においてより上位のマネジャーになるほど求められる能力とされます。

提唱者はロバート・カッツ

コンセプチュアルスキルは、1955年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたロバート・カッツの論文で提唱された概念です。
彼は、ハーバード大学やスタンフォード大学などで経営学を教え、企業戦略を専門とするコンサルティング会社の経営者や複数の上場企業の取締役も務めた人物です。

管理職に必要な3つのスキルとカッツモデル

先の論文の中でカッツは、管理職が効果的にマネジメントを行うために必要とされる基本的なスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類しました。

そしてこれらは必ずしも生まれつきのものではなく開発できる能力であること、3つのスキルの重要度はマネジャーの責任のレベルによって異なることを主張しました。
このカッツの主張が図式化されたものが「カッツモデル」として広く知られています。

マネジメントに必要な3つのスキルとは

テクニカルスキル

テクニカルスキルとは、知識や技術が必要とされる特定の活動への理解と熟達を意味します。
その中には、特定分野のツールと技術を利用できる能力・専門分野における分析能力・専門知識も含まれます。

3つのスキルの中でもテクニカルスキルは、最も具体的で目に見えやすいスキルです。
例えば外科医・音楽家・会計士・エンジニアなどが一人前とみなされるには、その職業におけるテクニカルスキルを持っていることが最低条件となるでしょう。

しかし管理職として上位の立場、すなわち個々の現場の仕事よりも部門や事業全体の成果に対する責任が大きくなればなるほどテクニカルスキルの重要性は低くなっていきます。

ヒューマンスキル

ヒューマンスキルとは、管理職がグループの一員としてうまく役割を果たし、メンバー間のチームワークを向上させる能力のことです。
テクニカルスキルが主にモノや技術を扱うのに対し、ヒューマンスキルは主に人との関わりに関係する能力です。

現代の職場は多様性が高まっており、メンバーの価値観や志向は様々です。
メンバーそれぞれに力を発揮してもらい、チームにおける協力を促すには、単に合理的な目標を与えたり、正しいやり方を押し付けたりするだけではうまくいきません。

当人が納得できる目標やプロセスをすり合わせ、達成に向けて支援していくようなコーチング力・他者の言い分に耳を傾ける傾聴力・相手の立場や価値観を理解する受容力などがヒューマンスキルとして求められています。

コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルとは、会社や事業の全体を俯瞰する能力のことです。
組織の様々な機能が相互に依存していることを認識したり、ある部分の変化が他のあらゆる要素にどのような影響を与えるかを理解したりすることも含まれます。

社内の把握だけでなく、業界・地域コミュニティ・社会・政治・国の経済などと自社の事業との関係を描く能力もコンセプチュアルスキルの一種です。

例えば新規事業を立ち上げる時には、社会の動向とその中での自社の立ち位置を客観的に見極め、自社の資産を活かして他社と差別化できる新しいサービスを構想する能力が不可欠ですが、それはまさにコンセプチュアルスキルだと言えるでしょう。

コンセプチュアルスキルが重要な理由

事業に関係する様々なことを全体的に把握し、相互に影響しあう関係を認識することはあらゆる意思決定において重要です。
複雑性と予測不可能性が高いVUCAと呼ばれるビジネス環境においては特に、前例のない挑戦によってイノベーションを起こさなければ企業を存続させていくことが困難です。
そのような状況において、コンセプチュアルスキルはますます重要なものになっています。

管理職・マネジメントにとってのコンセプチュアルスキルとは

例えばマーケティングを担当する役員が全社のマーケティングポリシーを大きく変更しようとする際には、マーケティング部門はもちろん、生産・管理・財務・研究など他部署への影響を考慮することが重要です。
協力を取り付けるために必要なアプローチや他部署が受ける影響まで見えていれば取り組みの成功確率を高められます。

他の例として看護の仕事を考えてみましょう。
看護師というと、患者の看護に関するテクニカルスキルや、患者にどう接するかといったヒューマンスキルの重要性に目が向きがちです。
しかし看護師長や看護部長などの管理職になるとコンセプチュアルスキルの重要性が高まります。
病院が提供する看護の質を高めるためには、医師との連携・病院組織の改革・看護師の育成などが責任の範疇になります。
そのようなことに取り組むためには、病院の経営状態や国の医療制度の動向などにも気を配る必要があります。

看護の仕事を取り巻く様々な要素を俯瞰し、その中で何をすべきかを判断していくためにコンセプチュアルスキルが用いられることになります。

経営者にとってのコンセプチュアルスキルとは

カッツは、経営における管理責任が大きくなるほど、テクニカルスキルと比較してコンセプチュアルスキルの必要性が急速に高まり、特に組織のトップレベルではコンセプチュアルスキルが最も重要なスキルになると述べています。
テクニカルスキルやヒューマンスキルがCEOになくても、それらに優れた能力を持つ部下がいれば補えます。
しかしCEOのコンセプチュアルスキルが弱い場合は、組織全体の成功が危うくなる可能性があるというのです。

なぜなら経営陣が掲げる全社目標と方針は、株主や従業員といったステークホルダーやビジネス環境との関係を彼らがどのように捉えているかによって大きく変わるからです。

コンセプチュアルスキルを構成する能力とは

コンセプチュアルスキルは、次のような複数の能力が組み合わさって発揮されるものと考えられています。

能力詳細
ロジカルシンキング(論理的思考)物事を体系的に整理し、矛盾のない筋道を立てて考える思考方法。
クリティカルシンキング(批判的思考)感情や主観に流されず、物事を客観的に分析する思考プロセス。
ラテラルシンキング(水平思考)常識・過去の経験・慣習などに囚われることなく、物事を多角的に捉えて自由にアイデアを出す発想法。
多面的視野自分とは異なる立場や視点から物事を捉える能力。
俯瞰力物事を広い視野で捉え、全体像を理解する能力。
応用力特定の経験やスキルを、新しい状況や問題の理解や解決に役立てる能力。
受容性自分の考えとは異なる価値観を持つ人の意見に耳を傾けて受け入れる能力。
柔軟性変化する状況や予期せぬ問題に対し、既存のやり方や価値観にこだわらず迅速かつ効果的に対応する能力。
知的好奇心未知のものや新しい情報に対して興味を持ち、積極的に探求・体験していこうとする姿勢。
探究心物事の本質を探り、深く理解しようとし、成果が出るまで粘り強く掘り下げていく姿勢。
洞察力物事の本質を見抜く力や、先を見据えた判断を下す力。
チャレンジ精神未知の領域や困難に対してリスクを恐れず取り組もうとする姿勢。

コンセプチュアルスキルが高い人はどういう人か

先に挙げた種々の能力を併せ持つ人、すなわちコンセプチュアルスキルが高い人とは具体的にはどのような人でしょうか。

事業を率いるマネジメントや経営者に向いている

物事の全体を俯瞰して見られる、全体を構成する各要素の関係性を理解する力があるという特徴から社長などのトップマネジメントに向いているでしょう。
会社を成長させるためにリソースを投入するべきポイントが適切に判断できるため効果的な投資判断ができます。

また業界や社会の中における自社の立ち位置を的確に捉えられるため、適切な提携先やM&Aの対象を判断したり、ビジネスを行いやすいように業界や政府などに働きかけたりといったことにも長けています。

現場の社員の場合

社長や管理職ではなく現場の仕事をしている人であっても、高いコンセプチュアルスキルを身につけている人は大きな成果を上げられる可能性があります。
自分の仕事の本質が見えているため、やるべきこととやらなくても良いことが明確で、生産性の高い働き方ができるからです。

また同僚・取引先・顧客に自分の動きがどのように影響するのかが理解できているので、うまく巻き込んだり、より喜ばれる行動をとったりすることが可能です。
ただしトップマネジメントやマネジャーレベルとは異なり、担当業務をやり遂げるテクニカルスキルやチームプレイができるヒューマンスキルがなければせっかくのコンセプチュアルスキルを活かしきれないでしょう。
実務能力のない“評論家”と見られてしまうことがあります。

コンセプチュアルスキルは測れるのか

コンセプチュアルスキルは先に述べた通り、多様な能力やマインドセットの組み合わせにより発揮されるものであるため測るのが難しいものです。
参考までに、カッツが提供した3つのスキルやコンセプチュアルスキルを診断するサービスをご紹介します。

コンセプチュアルスキルは学習できるのか

カッツは、管理職に必要な3つのスキルは先天的に備わっている場合もあるが、トレーニングによって高められるものだと主張しています。
そしてコンセプチュアルスキルを高めるための方法として上司によるコーチングが効果的だと述べています。
例えば部下に何らかの仕事をアサインし、部下が助けを求めてきた時には答えを与えるのではなく、問いかけを返して自分で考えさせるのです。

もう一つの有効な方法としてカッツが挙げているのが「仕事の交換」です。
今やっているのと同程度の責任レベルの別の仕事に異動させるのです。
これにより、相手の立場に立って物事を見る機会を得られます
これは、日本の伝統的な会社が定期異動によってゼネラリストを育てる方法と似ています。
しかし日本企業の場合は、正社員全員に様々な仕事を経験させ、その中で能力を発揮した者を上に引き上げるというやり方でした。
一方で欧米の場合は、より有望な若手や中堅社員を選抜してそのような経験をさせ、管理職に必要な能力を養わせようとしています

最近では日本企業でも、次の経営人材候補を選抜して育成しようとする機運が高まっています。
大企業の若手社員がスタートアップに一定期間出向して経験を積む「越境学習」などが注目されているのも、それがコンセプチュアルスキルを高めるのに効果があると考えられるからでしょう。
また部門を超えたプロジェクトに育成対象の社員をアサインしたり、中堅の若手社員からなる疑似役員会(ジュニアボード)を組織して経営課題を議論したり提案をさせたりする機会を与えるといった方法もあります。

コンセプチュアルスキルを高める方法

所属している組織において育成の対象となるかどうかに関わらず、コンセプチュアルスキルを自ら高めるための方法としてどのようなものがあるのでしょうか。

先述した「コンセプチュアルスキルを構成する能力とは」を参考に、自分に足りない部分を鍛えていくという方法があります。
またコンセプチュアルスキルをより深く理解するための研修や、コンセプチュアルスキルを鍛えるための研修を受けてみるのも良いでしょう。またコンセプチュアルスキルをより深く理解するための研修や、コンセプチュアルスキルを鍛えるための研修を受けてみるのも良いでしょう。

一番効果的なのは、コンセプチュアルスキルを求められるような状況に自ら飛び込んで実地で鍛えていくことでしょう。
部門横断の社内プロジェクトに参加してみる・越境学習の機会を提供しているプログラムに申し込んでみる・プロボノとしてNPOの活動を手伝ってみるといったことが、普段の業務を離れて会社や社会を俯瞰できる機会となるでしょう。
なおコンセプチュアルスキルを学ぶ研修には以下のようなものがあります。

研修の種類詳細
オンライン研修カッツ理論 ~職位の変化で変わるマネジャーの能力~(GLOBIS学び放題)※2024年11月現在

2・3年目社員フォローアップコース(JMAマネジメントスクール) ※2024年11月現在
オフライン研修管理職向けロジカルシンキング研修~問題解決を通してコンセプチュアルスキルを高める(1日間)(インソース) ※2024年11月現在
Kakeaiサービス資料ダウンロード
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