「1on1、今週はスキップしていい?」と部下に言った経験はないだろうか。多くの企業で推奨される1on1ミーティングだが、「重要性は理解している」と言いながらも、なかなか定着させられないマネジャーは少なくない。
本稿では1on1を組織文化として定着させるための実践的アプローチを解説する。今すぐ始められる、チーム全体の成長と生産性向上につながる1on1の習慣化メソッドを紹介しよう。
目次
歯みがきのように1on1をしているか?
「部下との1on1、週1回で設定しようと話したけど、お互い忙しくてスキップしてたら1カ月経ってしまったな……」――そんな経験を持つマネジャーもいるのではないだろうか。部下の話を聞く時間を取らなくてはと思いつつ、なかなか1on1が定着しないと頭を悩ませている管理職は多いものだ。
そもそも、「1on1が定着している」状態とは、それが習慣化され、業務の一部となっているということだ。すでに1on1が定着している人にとっては、「顔を洗う」「歯みがきをする」といった日常行為と同様に、意識せずとも継続される当たり前の活動になっている。つまり、「なぜ1on1をするの?」という質問は、「なぜ歯みがきをするの?」と似たようなものなのだが、定着していない間は、やはり「やらないといけない」という義務感が伴うのだろう。
一例を挙げよう。ある企業のA部長は部下であるB課長がメンバーとの1on1を実施しないことに手を焼いているという。B課長が部下と1on1をしない理由は、「部下たちはタスクを問題なく遂行できているから」だ。そのB課長が業務で重視しているのはタスクの遂行であるため、その処理を滞りなく行うことができているならば、部下と1on1で話す必要はない、という理屈だ。
1on1はチームのメンバーが上司と話す場であり、メンバー側はマネジャーであるB課長に対して不満があるかもしれない。A部長からすれば、1on1はマネジャー業務の一部であり、現在の状況はB課長の職務放棄のように見える。しかし、こうなってしまっては、A部長が何度1on1をするように指導しても、このB課長のチームの1on1は定着しないままになってしまう。そして、こうしたケースは、多くの企業で見られる現象なのである。
1on1を習慣化する三つのポイント
では、1on1の習慣化のためには何が必要なのだろうか。習慣化を促すポイントは三つある。

①目指すゴールを決める
1on1の習慣化のためには、マネジャーやメンバーに「1on1をしたい」というモチベーションが不可欠と考えがちだ。しかし、まずは個人の動機と切り離し、組織として何のために1on1を行い、どんなゴールを目指すのかを決めることから始めよう。
マネジャーが「忙しくて1on1ができない」と言っている状況では、多くの場合、1on1の目的についてマネジャーとマネジャーの上長との間に認識のずれが存在している。先のA部長とB課長の事例で言えば、A部長は部下とのコミュニケーションやフィードバックのために1on1を実施してほしいと考えているのに対し、B課長は1on1は業務遂行のための手段だと考えている。1on1の実施が個人のモチベーションに依存していれば、B課長が「したくない」と思うだけで、1on1は開かれなくなってしまう。
A部長はB課長に目線のずれを伝え、1on1のゴールについて互いの認識を合わせる必要がある。A部長の場合は部下とのコミュニケーションや業務のフィードバックを目的としていたが、組織の状況に応じて部下の成長支援やキャリア形成、働きやすさの改善など、異なる目標をゴールにおいてもよい。
②1on1が続く仕組みを作る
1on1を習慣化させるためには、繰り返すためのリマインドの仕組みが必要だ。仮にあなたが筋トレを習慣化させたいと思ったら、週1回ジムに通う予定を入れるところからスタートするのではないだろうか。1on1も習慣化するならば同じである。スケジュール上で繰り返しの予定を入れたり、1on1ツールからリマインドを発信するなど、スケジュールを固定化してルーティン化することが重要である。
また、継続のための仕組みが組み込まれている1on1支援ツールを活用するのも有効だ。実施頻度の選択や繰り返し設定が初めから可能になっているものもある。こうしたツールを活用し、1on1の時間を自動的に確保しつつ、都度話したいテーマを事前に共有しておくとよい。これにより参加者は1on1で得られる価値を認識しやすくなり、継続への動機づけとなる。
③組織として1on1をするカルチャーを作る
1on1を組織として継続させるためには、カルチャー作りも大切だ。そのアプローチはさまざまである。「1on1実施率を組織別に集計して公表する」方法は、「他の部署はこれくらいやっている」という部署間の比較を通じて実施を促進する狙いがある。また、1on1を定着させるタイミングで、人材育成における1on1実施をマネジャーの評価基準に含める企業もある。人事が人材育成の評価比率を高くすることで、1on1実施を促し、対話文化の醸成を狙っているのである。
さらに、1on1で成果が出た組織や、改善を実現した部署を、社内報などで周知する方法もある。上司と部下の対話で組織が改善に貢献したという事例は、「時間が取れないから1on1しない」という発想から、「1on1をするために時間を作る」という思考への転換を促すきっかけを生み出す。
「マネジャーだけで何とかする」からの卒業
マネジャーのやるべき仕事の中には、自チームメンバー全員の成長支援が含まれている。しかし、業務タスク重視のマネジャーの場合、タスク完遂さえできれば良いため、メンバーの足りない部分を自らの労力でカバーしようと考えてしまう。しかし、本来そのタスクは、チーム全体の協力によって実現することが望ましいはずだ。
特に若いマネジャーの場合、ハードワークで状況を打開できることもある。ただ、それが続けば、いずれは自転車操業になってしまう。短期目標ならまだしも、中長期的な目標は、マネジャー一人の力では達成困難だ。組織全体の生産性を上げるためには、協力的なチーム作りが重要であり、そのためには継続的な対話が必要なのだ。
人の意識は簡単には変わらない。だからこそ、目的や仕組みを見直すことが非常に大切なのである。体を鍛え始めるときのように環境を整えながら、1on1を習慣化していこう。