企業のマネジメントを担う立場において、社員がメンタルヘルスの不調を理由に休職や離職に至るケースは決して珍しくありません。特に人手不足が深刻化している今、身体の健康を守るのと同じくらい、働き手の心の健康をいかに維持・向上させるかが組織の安定経営には欠かせないテーマとなっています。
そんな背景を踏まえ、本記事では職場での早期発見から具体的な対策まで、マネジメント視点で押さえておきたいポイントを解説します。
目次
1. メンタルヘルスとは何か?──ビジネス現場における基本定義
職場におけるメンタルヘルス(心の健康/精神的健康)とは、私たちが心身ともにバランスよく働き、日常生活や仕事において充実感を得られる状態を指します。
具体的には、意欲をもって仕事に取り組めたり、必要以上に落ち込まずにストレスに対処できたり、周りとのコミュニケーションを前向きに図ることが挙げられます。
このメンタルヘルスによって生産性やモチベーションは大きく左右されます。
実際に、厚生労働省が策定した『労働者の心の健康の保持増進のための指針』でも、過重労働や人間関係の問題がメンタルヘルス不調を引き起こし、それが企業の離職率や休職率につながるケースが増加していることを背景として、事業場におけるメンタルヘルスケアの重要性が示されています。
WHO憲章では健康を「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定義しており、メンタルヘルスについても単に病気ではないということではなく、一人ひとりが自分の能力を活かして社会に貢献できる状態を重視しています。
つまり、ビジネスの最前線で活躍する人ほど、メンタルヘルスを良好に保つことが自分自身のパフォーマンスを高め、ひいては組織全体の成果にも直結すると考えられるわけです。
最近では「メンタルヘルス=心の健康」という表現が広く浸透しており、職場の健康経営や人材育成のキーワードにもなっています。
2. メンタルヘルス不調による休業・退職の発生状況
メンタルヘルスの不調はどんな時に起こるのでしょうか? 厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」から垣間見える、職場のメンタルヘルスの現状を以下にまとめます。
📌 メンタルヘルス不調による休業・退職の発生
同調査によると、令和4年11月1日から令和5年10月31日までの1年間にメンタルヘルス不調で連続1カ月以上休業した労働者または退職した労働者がいる事業所の割合は全体の13.5%。また労働者全体の割合でみると、上記理由による休業者は0.6%、退職者は0.2%にのぼります。
📌 事業所のメンタルヘルス対策の実施状況
メンタルヘルス対策に取り組む事業所は63.8%に達し、そのうち「ストレスチェックの実施」が最多の65.0%、次いで「メンタルヘルス不調の労働者に対しる必要な配慮の実施」が49.6%となっています。
また、ストレスチェック実施企業のうち、69.2%が部・課などで結果について集団ごとの分析を行い、その78.0%が分析結果を職場改善に活用しています。
ここから、約7割の企業がストレスチェックを導入し、さらにその多くが結果を具体的な職場改善に結びつけていることがわかります。
📌 労働者が感じるストレスの実態
同調査では個人調査も実施しています。「仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じる事柄がある」と回答した労働者は82.7%に上り、主な要因は「仕事の失敗・責任の発生等(39.7%)」「仕事の量(39.4%)」「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)(29.6%)」などです。
つまり、8割の労働者が日常的に強いストレスを抱えており、業務の量的負荷や対人トラブルがメンタルヘルスの大きな要因となっていることがわかります。
📌 ストレス相談の状況
ストレスの相談状況については、「相談できる人がいる」と回答した労働者は94.9%。相談相手は「家族・友人」が最も多く71.7%、次いで「同僚」64.9%、「上司」61.3%と続きます。また、実際に「相談したことがある」割合は73.0%で、相談先として「家族・友人」65.7%、「同僚」60.0%が多く挙げられています。
ここから、ほとんどの労働者が相談相手を確保している一方で、実際の相談行動は7割強に留まっているため、職場内での相談しやすい仕組みづくりがさらに求められることがわかります。
これらのデータは、職場での早期発見・対策の重要性を強く示しています。特にストレスチェック結果の活用や、管理職・同僚による日常的な声かけ、相談しやすい体制づくりが求められていると言えます。
3.ライフステージで変わる労働者のストレス原因
労働者が抱える仕事上のストレスは、年齢やキャリアの節目とともに変化します。厚生労働省の発行する令和6年版「厚生労働白書」を参考に、ライフステージごとに増えやすいストレス要因を見ていきましょう。
20~30代前半:環境適応期
社会人デビューから数年は、新しい職場のルールや業務を吸収し、人間関係を築くことが大きな課題です。この時期は「仕事が自分に合うか」「自分の役割を果たせているか」といった適性への不安や、人間関係づくりに伴う緊張感がストレスとして現れやすくなります。
30代後半:責任増大期
仕事にも慣れ、プロジェクトの中核を担う世代です。上司や取引先から期待される役割が拡大し、業務量やプレッシャーが一気に高まるのが特徴です。さらに結婚や子育てといった私生活の変化も重なり、時間管理や役割調整の難しさがストレスの一因となります。
40代:マネジメント期
管理職やリーダーとして部下の指導やチーム運営を任される年代です。自身の専門業務に加えて、部下との調整や組織運営上の判断が求められ、「上司と部下のはざまで板挟みになる」いわゆるサンドイッチストレスが増加しやすくなります。
50代以降:キャリア成熟期~転換期
組織内でのポジションが明確になる一方、役割に応じたプレッシャーや期待の差が顕在化します。また、定年後のライフプランや自身・家族の健康問題、親の介護など、仕事外の不安要素も大きくなり、複合的なストレスに直面しやすくなります。
このように、各ステージで表れるストレス要因を理解し、適切なサポートや業務配慮を行うことが、職場全体の健康維持につながります。
4. 部下や同僚の「不調のサイン」チェックリスト
職場では忙しさやプレッシャーから、本人も気づかないうちに心身のバランスを崩してしまうことがあります。また、仕事とは関係ないプライベートな出来事が原因で不調になっていることも考えられます。
管理職や周囲の人が早めに異変に気づき、適切なケアをすることで、大きなトラブルや長期離脱を防げるケースも少なくありません。以下のチェックリストを参考に、部下や同僚の様子を日ごろから観察してみましょう。
□ 仕事中の集中力が落ちたり、ミスが増える
業務量が変わらないのに、単純ミスが続いたり、同じ作業を何度も説明しなければならなくなったと感じる場合は要注意です。日頃のストレスが蓄積し、集中力を維持できない状態に陥っている可能性があります。
□ 朝の出勤が遅れがちになる、欠勤が続く
これまで時間に厳しかった人が遅刻や欠勤を繰り返すようになったら注意が必要です。朝起きられないほど疲れている、もしくはモチベーションが下がってしまい出社意欲を失っている恐れがあります。
□ ちょっとしたことで落ち込んだり、イライラしやすい
小さなミスや意見の食い違いで過度に落ち込む、あるいは感情を爆発させてしまうのは、心のゆとりがなくなっているサインかもしれません。本人はコントロールしようとしてもうまくいかず、苦しんでいる可能性があります。
□ 話しかけても反応が鈍い、コミュニケーションを避ける
以前は積極的に意見交換をしていた人が会議での発言を控えたり、ミーティングを拒否するようになるのは要警戒です。心理的負担から対人関係を避けるようになっていることも考えられます。
□ スマイルゼロ・表情が暗いまま定着している
笑顔や明るい表情が減り、常に無表情や疲れた顔をしていると感じる場合は、精神的ストレスが大きい可能性があります。仕事の負荷が原因のほか、プライベートでも問題を抱えていることもあるため、気軽な声かけが重要です。
「いつもと違う」という小さな変化に早めに気づき、声をかけてあげるだけでも、部下や同僚は安心感を得られます。深刻な症状が続く場合は、専門家の力を借りたり、社内の相談窓口を案内するなど、本人が適切なサポートを受けられるよう配慮しましょう。
部下に疲労の兆候が見られるものの本人の自覚がない場合は、厚生労働省の「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」を受けてもらうことも有効です。
5. メンタルヘルスを悪化させやすいタイプ──マネジメント視点での注意ポイント
職場のストレス要因は、業務環境や責任範囲、プライベートの状況など多岐にわたります。さらに、個々の性格や思考パターンによっては、特に強いストレスを感じやすい傾向もあります。
以下に挙げるタイプは、組織にとって大きな戦力となる優れた資質を持ちながら、一方で無理を重ねやすくメンタル不調に陥るリスクを抱えています。管理職やリーダーは、彼らの長所を最大限に引き出しつつ、過度な負荷をかけないサポートを心がけましょう。
□ 真面目で完璧主義──「どんなに忙しくても手を抜けない」
長所:業務の質に強いこだわりを持ち、目の前のタスクを最後まで妥協せずにやり抜くストイックさが魅力です。細部まで徹底的にチェックするため、品質向上や顧客満足度の向上に大きく貢献します。
リスク: 「自分だけは休んではいけない」「この程度は頑張れる」と思い込み、疲れやストレスに気づけず深刻な不調を招く場合があります。
マネジメントのポイント:こまめに仕事の進捗を尋ね、必要に応じて目標やスケジュールを調整するよう促すことが重要です。努力家で休むことが苦手なので、周りが適度に声をかけて「休むべきタイミング」を作ってあげると、長期的なパフォーマンス維持につながります。
□ 責任感が強く仕事を抱え込みやすい──「任せるより自分でやったほうが早い」
長所:自分の担当外でも「助けに行こう」と動ける柔軟性とリーダーシップを持ち、チーム全体の成果を第一に考える頼もしさがあります。周囲の信頼を得やすく、緊急時などに大きな力を発揮するタイプです。
リスク:長時間労働が常態化し、自分の心身のケアを後回しにする傾向が強いため、限界に達したときのダメージが大きくなります。
マネジメントのポイント:仕事を抱え込みがちなので、本人と一緒にタスクを整理し、優先度の低い業務はチームメンバーにも分担させるなど、負荷分散を積極的に行いましょう。「自分だけが頑張る必要はない」という環境づくりを意識してください。
□ 相談しづらい性格──「弱音を吐くのが苦手・プライドが高い」
長所:自立心が強く、人に頼らなくても問題を解決しようとする姿勢は、組織内でのリソース確保や短納期プロジェクトなどで大いに役立ちます。周囲からも「安心して任せられる存在」として評価されやすいでしょう。
リスク:困っていても声を上げず、周囲が気づいたときには相当のストレスを抱えているケースが多いです。結果的に大きなトラブルへ発展するリスクが高まります。
マネジメントのポイント:普段から1on1ミーティングや雑談の場を設けて、気軽に「最近どう?」と尋ねられる関係を作っておきましょう。オープンクエスチョンで掘り下げると、本人が悩みを言語化しやすくなります。
□ 自己評価が低く、「他者からの承認が得られないと不安になる」
長所:周囲の期待に応えようとする意識が強く、チームの目標や顧客の要望に対してもきめ細かく対応します。よく気がつき、周囲に配慮ができるため、職場のコミュニケーションを円滑にする存在になることも少なくありません。
リスク:一度の失敗や否定的な意見を必要以上に重く受け止め、自分を過度に追い詰めてしまう可能性があります。長引くと深刻な自己否定感につながる危険性が高いです。
マネジメントのポイント:ポジティブなフィードバックを意識的に行い、「何が評価されているのか」を具体的に伝えるようにしましょう。仕事の成果や成長を見える化してあげると、安心感とモチベーションが維持しやすくなります。
長所を活かしながら、過度なストレスを防ぐマネジメントを
上記のタイプは、いずれも職場で高いパフォーマンスを発揮しやすい半面、ストレスが溜まりやすくメンタルヘルス不調に陥るリスクも秘めています。
管理職やリーダーとしては、無理していないか観察し、表情が暗くなってきた時には「最近疲れてない?」などの軽いトーンでフォローを入れたり、1on1をセッティングするなどの対策が欠かせません。
6. メンタルヘルスの代表例/不調がもたらす症状とは?
メンタルヘルスの不調は、性別や年齢、役職を問わず誰にでも起こり得るものです。特に職場のプレッシャーや環境変化がきっかけとなり、気づかないうちに心に負担が蓄積してしまうケースも少なくありません。
職場の健康を維持し、組織全体のパフォーマンスを支えるためには、管理職や人事が従業員のメンタルヘルスリスクを正しく理解し、早期発見・対応を行うことが欠かせません。
ここでは、身近に見られる代表的な精神疾患である「うつ病」「適応障害」「パニック障害」などがもたらす症状を押さえ、早期発見・対処の一助とするために、知っておきたいポイントをまとめます。
①うつ病(抑うつ状態)
持続的な抑うつ気分や無力感が続き、仕事や日常生活への意欲が著しく低下する精神疾患です。
職場でのサイン: 業務への意欲が著しく低下し、日常的なタスクにも手がつかなくなります。会議での発言が減り、趣味や社内イベントへの参加も消極的に。
マネジメント対応: まずは変化に気づいたら、声をかけること。必要に応じて業務量の軽減やフレックスタイム制の活用を提案し、産業医やカウンセリングの利用を促しましょう。
②適応障害
部署異動や組織改編など環境の変化に対する心理的適応が追いつかず、不安や抑うつ感、焦燥感などのストレス反応が持続する状態です。
職場でのサイン: 異動や組織改編など環境変化後に「これまでできていた仕事が急に不安」といった声が増えます。遅刻・欠勤が増えたり、焦燥感からミスが連鎖する場合も。
マネジメント対応: 環境変化直後は特にフォローを強化。先輩社員とのOJTやロールプレイを組み込み、新しい業務に慣れる支援体制を整え、1~2週間単位で進捗を確認しましょう。
③パニック障害
突然の動悸や息苦しさ、過度の不安感に襲われる発作を繰り返し、その恐怖から日常生活に支障をきたす疾患です。
職場でのサイン: 突然の動悸や息苦しさを訴え、会話中に席を離れる・体調不良を訴えて早退するケースが見られます。表立って症状が見えにくいため、本人も相談しづらい傾向があります。
マネジメント対応: 安心して相談できる環境づくりが鍵。人事制度として「短時間勤務制度」や「休憩スペースの確保」を周知し、本人が無理なく業務に復帰できるよう配慮してください。
職場の健康をマネジメントする視点では、これらの疾患に「早めに気づき、早めに手を打つ」ことが重要です。
7. ビジネスパーソン向け「ストレスに強くなる三つの習慣」
ストレス社会と呼ばれる現代において、ビジネスパーソンにとって「ストレスに強い体質」をつくることはキャリアを長く続けるうえでも非常に重要です。短期的な対処ではなく、日々の習慣を見直すことで、心の健康を維持できる可能性が高まります。
習慣1:十分な睡眠と休養
適切な睡眠は、心身の疲労回復にとって欠かせません。睡眠が不足していると、集中力や判断力が低下し、イライラしやすくなるなどメンタル面にも悪影響を及ぼします。厚生労働省の「健康日本21」でも、睡眠の質を高める取り組みが推奨されており、休日にまとめて寝るだけでは不十分とも言われています。毎日同じような時間に寝起きする、就寝前のスマホ使用を控えるなど、できる範囲で習慣化を目指してみましょう。
習慣2:適度な運動・バランスの良い食生活
運動すると、ストレスを軽減したり、心を安定させる脳内物質が分泌されやすくなるとされています。激しいスポーツでなくても、毎朝20~30分のウォーキングや、仕事の合間のストレッチなど、継続可能な運動を取り入れてみてください。また、乱れた食生活は体調不良だけでなくイライラや倦怠感を招き、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼします。野菜やたんぱく質をバランスよく摂るだけでなく、食事の時間を一定にすることも意外に重要です。
習慣3:悩みを言語化し、相談先を確保
何か不安を感じたりストレスを抱え込んでいるとき、まずはそれを言葉や文章にして自分で客観的に眺めてみると、意外と頭の中が整理されて心が軽くなることがあります。社内での1on1ミーティングを活用し、上司や同僚との定期的なコミュニケーションを図るのも有効です。
もし周囲には相談しにくい内容であれば、産業医やカウンセラーなど、専門の相談先を活用すると良いでしょう。
自分一人で何とかしようとすると限界が来やすいため、早めに助けを求められるような心構えを持つことが大切です。
8. メンタルヘルスチェックとメンタルヘルスマネジメント検定──資格・制度の活用
職場のメンタルヘルス対策としては、法律で義務化されている「ストレスチェック制度」が代表的です。従業員50人以上の事業場では年1回のストレスチェックが実施され、結果を集団分析し、組織のストレス要因を把握することができます。これにより、職場全体の業務量やコミュニケーションの課題を見える化し、早期の改善策を講じることが可能になります。
さらに、個人や組織がメンタルヘルスに関する知識を深める手段として、大阪商工会議所が主催する「メンタルヘルスマネジメント検定」があります。
1種(マスターコース)は経営者や人事担当者向け、2種(ラインケアコース)は管理職向け、3種(セルフケアコース)は一般社員向けと、受検者の立場や目的に合わせて段階的に学べる構成です。受講を通じて、メンタルヘルスに対する正しい理解や、セルフケア・部下ケアに役立つ実践的な知識を得られます。
ほかの関連資格としては「産業カウンセラー」や「公認心理師」がよく知られています。これらはより専門性の高い資格ですが、企業内カウンセリングや組織のコンサルティングなどで活躍できるため、人事部門や健康管理部門の担当者が取得するケースも少なくありません。
9. 会社や職場がメンタルヘルスの問題とどう向き合うか
メンタルヘルスの問題は、個人の自己管理だけで解決できるものではありません。企業や職場の環境整備や制度設計によっては、従業員が安心して働き続けられるよう支援することが可能です。一方で、対策を怠ると生産性の低下や離職率の上昇など、深刻な影響をもたらすリスクがあります。
1. 職場環境整備と相談体制の充実
ストレスチェックの結果を分析し、業務量や作業条件に偏りがないかを確認することは、企業にとっての重要課題です。長時間労働が常態化していたり、上司とのコミュニケーション不足が顕在化しているのであれば、組織として業務フローの見直しや研修の実施が欠かせません。
また、社内に産業医や保健師、あるいは外部のカウンセラーと提携した相談窓口を設置し、従業員が気軽に利用しやすい環境をつくることも重要なポイントです。相談しやすさは心の負担を減らす大きな鍵となります。
2. 管理職・担当者の研修とラインケア
管理職は、部下のメンタルヘルスを支える最前線でもあります。部下の変化に気づいたら声をかけ、必要に応じて産業医や専門家へつなげる「ラインケア」が適切に行われると、不調の深刻化を防ぎやすいです。
ただし、このような配慮ある声かけや対応は管理職自身の経験や知識だけに依存しがちで、統一した指針がないまま進めるとトラブルを招く可能性があります。したがって、会社として管理職向けの研修を定期的に実施し、法令やハラスメント防止の知識と合わせてメンタルヘルスケアの手法を学んでもらうことが大切です。
3. 制度化と社内文化の醸成
ワークライフバランスを重視する企業では、時差出勤やリモートワークなどの制度を柔軟に導入し、従業員の心身への負担を軽減しています。また、経営者や幹部レベルが「心の健康を優先する」という姿勢を明確に発信し、従業員の不調を軽視しない文化を根付かせることも大切です。
「うちの会社は忙しくて当たり前」「体調不良くらいで休むのは甘え」といった風潮が根強いと、どれだけ制度を整えても実際には利用が進まないという問題が起きるため、社内の意識改革にも取り組む必要があります。
なお、企業・組織がこれらの取り組みを怠ると、社員が十分に力を発揮できないばかりか、退職者の増加や休職・医療費の負担といった経済的コストも増大する恐れがあります。
厚生労働省のガイドラインでも、職場環境の改善やストレスチェックの活用を強く推奨しており、企業全体として計画的に取り組む姿勢が求められています。
まとめ
メンタルヘルスは個人の問題だけでなく、ビジネス現場や企業経営にも大きな影響を及ぼします。働く人の心の健康が損なわれると、業務効率の低下や離職率の上昇、組織の活力喪失など、さまざまなリスクにつながりかねません。一方で、職場環境や個々人の習慣を適切に整え、日々のストレスをうまくケアできる体制があれば、心身の健康を維持しながら高いパフォーマンスを発揮することが可能になります。
メンタルヘルスはデリケートな問題でありながら、実は誰しもが一歩踏み込んで知っておきたいテーマでもあります。心の不調は決して他人事ではありません。あらかじめ基礎知識を身につけ、自分や周囲のサインに敏感になることで、より快適な職場・社会づくりに寄与できるでしょう。