【徹底解説】OKRが企業にもたらすメリットとは? KPI、MBO、KGIとの違いも紹介

変化の激しい現代。誰もが同じことを、同じように行い、決められたルーティンワークを時間通りにこなしているだけでは、企業の競争力を保つことは難しくなっています。

これからの時代に求められるのは、「時間ではなく成果で評価する」「組織の命令に従わせるのではなく、個人のアイデアや独自性を尊重する」といった、新しい人材マネジメントのあり方です。

そこで注目されるのが、シリコンバレー発の目標管理手法であるOKR(Objectives and Key Results)です。

この記事では、OKRの基本的な仕組みや運用方法、そしてよくある失敗とその防ぎ方までを詳しく解説します。社員一人ひとりの自主性を引き出し、企業の変革を推進するOKR活用のポイントをご紹介します。

OKRとは何か?── シリコンバレー企業も注目する目標管理手法

企業が抱えやすい問題点として、「個人の目標が会社の方針や方向性と一致していない」「チームや個人の目標が可視化されず、共有が不足している」「前例や規則に縛られ、新しい挑戦が生まれにくい」といったことがあります。

こうした課題を解決する新たな手法として、OKR(Objectives and Key Results)が注目されています。

OKRは、組織やチームが明確で挑戦的な目標を設定し、その達成度を具体的な指標で評価するための目標管理手法です。

OKRを効果的に運用するには、「具体的であること」「測定可能であること」「達成が可能であること」「期限が明確であること」の四つの要素が必要です。これらの要素を取り入れることで、各目標を深く掘り下げて考え、具体的な行動につなげることが可能になります。

OKRを効果的に運用するための4要素を示した図

OKRの歴史 

OKRは、インテル(Intel)の元CEOであるアンディ・グローブ氏が中心となり、企業における新たな目標管理手法として発展させました。

当時のインテルは、「社員が本当に重要な業務に集中できるようにするにはどうしたらよいか」という課題を抱えていました。そこでグローブ氏は、従来の目標管理手法(MBO=目標による管理)を参考にしながら、より具体的で実践的な仕組みとしてOKRを考案。

グローブ氏の開発したOKRは、ピーター・ドラッカー氏の提唱するMBOを発展させたものです。MBOは必ずしもトップダウンではなく、ドラッカー自身も参加型管理を重視していました。OKRはMBOの頻度を高め(年次→四半期)、透明性を高め、野心的な目標設定を奨励する点で進化しました。

インテルでOKRの効果を実感したジョン・ドーア氏は、Googleの創業初期にこの手法を紹介しました。Googleの経営陣はOKRの有効性をすぐに認識し、試験的な導入を経て本格的に採用。

一例をあげると、2008年にラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが書いたOKRは、「ウェブの速度を、雑誌のページと同じくらい速くする」でした。それによって、会社全体が何を改良し、どう高速化するかをそれまで以上に真剣に考えるようになったと言います。(*出典『Measure What Matters』

現在もGoogleでは、年間および四半期単位でOKRを設定し、四半期ごとに全社的なミーティングを行って目標の公開と達成状況の評価を行っています。

イノベーションを促進し、社員の挑戦意欲を引き出すことで競争優位性を確立しやすくなるOKRは、アメリカのシリコンバレーのIT企業のみならず、多様な業種や企業規模において効果的な目標管理手法として支持されています。

Objective(O)とKey Results(KR)の関係性

OKRは、達成したい「目的(Objective)」と、それを実現するための具体的な「成果指標(Key Results)」の二つで構成されています。

📌 Objective(O:目標)とは
「何を目指すのか」「何を達成したいのか」というチームや組織が向かう方向を示すものです。メンバーが共通して認識でき、日々の業務で意識し続けられるように、明確で具体的な表現が求められます。イメージとしては、チームが共有して追いかける「ビジョン」に近いものです。

📌 Key Results(KR:主要な成果)とは
Objectiveを実際に達成できたかどうかを客観的かつ定量的に測るための指標です。具体的な数値や期限を設定し、進捗を明確に評価できるようにします。

Objectiveは方向性や目指す状態を言葉で示し(定性的)、Key Resultsはそれをどのくらい実現できているかという状態を具体的な数値や指標で示す(定量的)という特徴があります。

つまり、OKRでは「私たちが目指すべき目標(O)を達成するためには、具体的にこのような状態(KR)を実現する必要がある」という明確なつながりが不可欠です。OKRを設定する際は、このObjectiveとKey Resultsの関係性がわかりやすく、社員が納得して取り組める内容になっているかどうかを確認することが重要です。

挑戦度を考える目標設定:「ムーンショット」と「ルーフショット」 

OKRでは、目標(Objective:O)の挑戦度を考慮し、「ムーンショット」と「ルーフショット」という2種を設定します。OKRにおいては、特に「ムーンショット」の設定に重きが置かれています。

ムーンショットは非常に高い挑戦的目標で、100%達成は困難です。一般的に60-70%の達成率でも成功とみなされ、この水準に到達すれば組織は大きな成長を遂げたと評価されます。

例えばGoogleはWebブラウザ「Chrome」の導入初年度のOKRを「7日間のアクティブユーザー数の目標2000万人」と定めました。その後も極めて野心的なユーザー数目標を設定し、失敗しても怯まず挑戦を続け、最終的に大成功を収めています。

ルーフショット:「屋根に届くほど」の目標で、現実的で確実に達成可能な設定です。達成率100%を目指すもので、安定した成果を生み、組織内の信頼感や自信を高めます。

これら二つの目標タイプを適切に組み合わせることにより、企業は挑戦を奨励しつつも、安定的な成果を維持できる組織文化を醸成することができます。

OKRが企業にもたらす三つのメリット

近年、多くの企業がOKRに注目している背景には、急激に変化する市場環境に柔軟かつ迅速に対応できる目標管理手法が求められていることがあります。

OKRがそのようなニーズに応える手法として企業にもたらすメリットは次の三つにまとめられます。

① 明確な目標設定による社員の意欲向上と行動促進

OKRを導入すると、企業の目標が明確になり、社員が自身の役割や業務の意義をはっきり理解できるようになります。目標達成に向けて具体的な成果指標が設定されるため、社員は自分の成果を常に意識して行動できます。進捗がリアルタイムに可視化されることで、モチベーションも維持され、チーム全体の業績向上につながります。

② 市場の変化への迅速な対応力

短いサイクルで目標設定と振り返りを繰り返すOKRは、市場や環境の変化に素早く柔軟に対応できます。定期的に進捗を確認することで問題を早期発見し、迅速に改善策を講じることが可能になります。そのため、変化の激しい現代の市場環境に適した目標管理手法といえます。

③ 挑戦的な目標設定によるボトムアップ型組織文化とイノベーション促進

OKRでは、社員が自ら高く挑戦的な目標(ムーンショット)を設定します。これにより社員一人ひとりが「どうすれば達成できるか?」と考え、主体的に目標設定やアイデアを提案するボトムアップ型の組織文化が育ちます。

また、高い目標に取り組む過程で革新的なアイデアや新しい取り組みが生まれやすくなり、組織全体のイノベーションが活発化します。

なぜ「OKRは意味がない」と言われるのか?

OKRは時に「意味がない」と指摘されますが、多くの場合、導入や運用に関する誤解や問題があります。具体的には以下のようなケースが挙げられます。

失敗例①:目標が高すぎるための諦め

ムーンショット目標を設定する場合、社員の理念理解に加え、企業が実際に利用できる時間・資金・人材といったリソース状況を詳細に検討することが重要です。高すぎる目標は意欲をそぐため、定期的にコミュニケーションをとりつつ調整し、モチベーションを維持できる範囲で設定しましょう。

失敗例②:頻繁な進捗確認が負担になる

短期間で目標の達成状況を何度もレビューすることは、本来、迅速な軌道修正や問題発見につながるメリットがあります。しかし、あまりにも頻繁すぎるレビューや細かな進捗報告を求めると、社員は本来の業務に集中できず、「報告のための報告」が増えてしまいます。その結果、「OKRが余計な仕事を増やす仕組み」と受け止められ、本来の価値が失われ、次第にレビューが形式的に行われたり、放置されることにつながります。

失敗例③:評価・報酬との誤った連動

GoogleなどではOKRの達成率を直接的な評価や報酬に結びつけないことを推奨していますが、企業によって運用は異なります。重要なのは、失敗を恐れずに野心的な目標に挑戦できる環境を作ることです。

失敗例④:目的や意義が曖昧なままの導入

OKRが成功するためには、企業が「なぜOKRを導入するのか」「何を達成したいのか」という明確な目的や意義を理解し、共有することが欠かせません。しかし「Googleが採用しているから」という表面的な理由だけで導入すると、社員はその本質や目的を理解できず、目標設定や取り組みが単なる形式的な作業になってしまいます。その結果、OKRが定着せず、組織全体として導入効果を実感できないまま、形骸化してしまいます。

失敗例⑤:旧勢力による抵抗

OKRの導入は、トップダウン型の組織文化を変え、社員が主体的に目標を設定・管理するボトムアップ型への移行を促します。しかし、従来のやり方に慣れている幹部や管理職が変化を拒み、積極的に反対や抵抗を示す場合があります。

こうした旧勢力がOKRの導入や運用に非協力的になると、組織内で足並みが揃わず、運用が中途半端になってしまいます。その結果、新しい取り組みに対する現場の社員の期待や意欲が損なわれ、OKR自体が組織内で機能しなくなる可能性があります。

導入時には、OKRの本質を理解し、組織全体で目的を共有する

以上のように、「OKRが意味がない」と言われる原因は、導入や運用時の誤解やコミュニケーション不足がほとんどです。OKRの本質を理解し、自社の環境に適した形で丁寧に運用することが成功のカギとなります。組織全体で目的や意義を明確に共有し、柔軟な運用を行えば、OKRは強力な組織変革ツールとなります。

OKRと他の目標管理手法(KPI、MBO、KGI)の違いとは?

OKRとは、企業が迅速に変化する市場環境に柔軟に対応できるよう、社員全員が共通して短期間の具体的かつ挑戦的な目標を設定することで、継続的な改善と高い成果を目指す目標管理手法です。

一方で、KPI(重要業績評価指標)は、必ず達成することが前提の具体的で定量的な指標を設定します。

MBO(目標管理制度)は、個人の評価や報酬と直接関連付けられた目標設定方法です。OKRと比較すると、評価と結びついているため、必ず達成できる目標を設定することが多く、チャレンジしにくい側面があります。

KGI(最終目標指標)は、組織が最終的に達成したいゴールを具体的に示す指標であり、企業全体で共通の認識を持つための指標です。

これらの違いを整理すると、以下のようになります。

項目OKRKPI(重要業績評価指標)MBO(目標管理制度)KGI(最終目標指標)
目標の達成基準60~70%程度の挑戦的な目標100%達成が前提の指標個人の評価や報酬と連動することが多い企業全体のゴールを示す指標
目的短期間で具体的成果を目指すパフォーマンスの計測と管理個人の成果評価組織全体の目標設定
運用方法全社員が組織目標と連動した挑戦的目標を設定達成可能な具体的指標を設定個人ごとの目標設定長期的な最終目標の設定


このようにOKRは、単なる成果管理や個人評価のための仕組みではなく、組織全体が短期間で積極的に挑戦を繰り返しながら、継続的な成長やイノベーションを促進することを目的とした目標管理手法と言えます。

自社の目的や状況に合わせて、他の手法とうまく使い分けたり組み合わせたりすることで、組織の成果を最大限に引き出すことができます。

自社のOKR決め方と導入の流れ

OKRを自社で設定し導入するためには、以下の手順が推奨されます。

①社員への教育と組織の雰囲気づくり

社員がOKRについて十分に理解していない状態では、明確な目標設定は困難です。導入を開始する前に、「OKRとは何か」「どのようなメリットがあるのか」について社員向けに丁寧な教育を行うことが重要。また、OKRを積極的に運用できる組織風土をつくるためには、経営層の強いコミットメントが必要です。導入効果や具体的な導入プロセスを経営層が自ら示し、積極的に推進する姿勢を明確にすることが求められます。

②企業の方向性と目標の明確化

経営層が企業全体の中長期的な方向性や大きな目標(Objective)を明確に設定し、全社に共有します。これにより、全社員が進むべき道筋を理解できます。また、この段階で目標のタイプ(挑戦的な「ムーンショット」か、実現可能な「ルーフショット」か)を決定します。

OKR導入の大きな目的は、「全社員が会社の方向性と一致した目標に向かって行動できる」ことです。しかし、実際には、開発、営業、管理など、それぞれの部門で異なる役割や業務があり、個人単位でも業務内容はさまざま。そのため、企業としての大きな目標を設定したら、それを各部門、各チーム、個人の具体的な目標に落とし込み、関連する部門やチーム間での調整や擦り合わせを丁寧に行うことが重要になります。

③主要な成果(KR)の設定

設定した目標(Objective)を具体的に達成するためには、測定可能で明確な指標(Key Results)が必要です。KRを決める際には、「どのような状態になればObjectiveを達成したと判断できるか」を客観的かつ具体的に示すことがポイントになります。

KRには数値や期限を明確に盛り込むことで、「どこまで達成できたのか」「達成まであとどのくらいか」をメンバー全員がリアルタイムに把握できます。例えば、「新規顧客を30件獲得する」「ウェブサイトの訪問者数を前年比20%増やす」「平均の採用期間を45日から30日に短縮する」など、具体的で分かりやすい指標が望まれます。

④定期的な進捗確認と調整

OKRの進捗確認は、四半期ごとの大きなレビューに加えて、週次のチェックインミーティングを行うことを推奨します。週次チェックインでは15-30分程度の短い時間で進捗状況を確認することで、問題の早期発見と迅速な軌道修正が可能になります。四半期ごとの振り返りミーティングでは、「進捗が遅れている場合はどう改善するか」「KRは実際の状況に合っているか」を議論し、必要に応じて目標を柔軟に調整します。またフィードバックは、単に達成率を見るだけでなく、「プロセスの質」「チーム協力の状況」も含め多面的に評価し、次回のOKR設定に活用しましょう。

⑤評価とフィードバック

各期間の終わりに目標達成状況を評価し、フィードバックを行います。達成できたこと、課題となったことを振り返り、次のOKR設定に活かします。

この流れを通じてOKRを導入・運用することで、組織の透明性が高まり、コミュニケーションも活性化され、組織全体の成果向上につながります。

OKRは老舗企業にもイノベーションをもたらす

OKRは、GoogleなどのスタートアップやIT業界を中心に広がった目標管理手法ですが、決してスタートアップ企業やベンチャー企業だけに有効なものではありません。実際、歴史が長く、伝統的な組織構造を持つ老舗企業や大企業においても、OKRの導入・活用が進んでいます。

老舗企業では組織が硬直化していたり、これまでのやり方にこだわりすぎてイノベーションが生まれにくい環境になったりしていることが少なくありません。

OKRを導入することで、社員一人ひとりが自律的に考え、新たなチャレンジをする風土を醸成することができます。その結果、長年抱えていた組織の課題を解決したり、市場の変化に対して迅速に対応したりと、老舗企業ならではの強みを生かしつつ成長を促すことが可能になります。

日本企業における具体的なOKRの導入や運用事例については、書籍『日本企業のケースからポイントを学ぶ OKR導入・運用メソッド 成長企業はなぜ、OKRを使うのか』に詳しく紹介されているので、よかったらご参照ください。

OKRと1on1を併用する理由

前述の書籍によると、OKRを導入する企業では、多くの場合、1on1ミーティングを同時に活用しています。

1on1ミーティングの中では、個人の業務進捗が主な話題となりますが、特にOKRと連動させる際には、次のような点を中心に確認や話し合いを行います。

 🙋「設定した期限までにKRを達成するには、現在どの程度の進捗率であるべきか」
 🙋「実際の進捗はどの程度か」
 🙋「計画より進捗が遅れている場合、その原因は何か、また挽回するための方法はあるか」
 🙋「そもそも設定したKRがOに対して適切かどうか」


また、状況に応じて、他のメンバーやリーダーからの支援が必要かどうかも議論します。

1on1を通じて、リーダーはメンバーに新たな気づきを与え、適切なサポートを提供します。これによりメンバーは自らのパフォーマンスや業務効率を高められるようになり、個人としての成長や自己実現にも繋がります。

その結果として、OKRに対するメンバーの意欲やコミットメントが高まり、目標達成に向けたチームの結束も強化されるのです。

まとめ:OKRが組織の変革を促す

OKRの導入により、組織は上司からの指示を待つトップダウン型から、社員一人ひとりが主体的に目標を設定し、積極的にアイデアや提案を行うボトムアップ型へと変化します。

Googleのような先進企業では、この仕組みを活用して社員の自律的な行動を促し、新しいアイデアやプロジェクトを次々と生み出しています。

OKRの真価を発揮するには、導入時の明確なプロセス設計や定期的な進捗確認、丁寧なフィードバックを行い、社員が自らの挑戦を楽しめる環境を整えることが大切です。適

切な運用が行われれば、予想もしなかったような急成長や大きな成果がもたらされる可能性があります。OKRの本質を理解し、組織文化として浸透させることこそが成功への鍵です。

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