教員のキャリア支援から三者面談DXまで。私立高校の1on1実践

教員のキャリア支援から三者面談DXまで。私立高校の1on1実践

豊南高校 辻元俊夫校長先生(左)、若木翔太先生

社名
豊南高等学校
業界
教育
従業員規模
51~100人
タイプ
導入ご決裁者の声
導入目的
キャリア形成支援・人材育成

東京・豊島区の学校法人豊南学園 豊南高等学校では、1000人を超える生徒を約50人の教員が指導しています。

近年、団塊世代の退職に伴い教員の入れ替わりが進んだことで様々なコミュニケーション課題が顕在化。その解消策として、2023年に「Kakeai」を導入し、教育現場では珍しい組織的な1on1を開始しています。

現在、校長・教頭・学年主任と各教員による「教員同士の1on1」のほか、教員・生徒・保護者で行う「三者面談」でもKakeaiを活用しています。

また、校長と各教員の1on1ではKakeaiのオプションサービスである「キャリアプランニング支援システム」を追加導入し、教員のキャリア意識醸成に力を入れています。

長時間労働が常態化し、働き方改革が求められる教育現場において、1on1はいかなる価値を生み出すのか。非鉄金属メーカーの研究所から36歳で教育者に転身した辻元俊夫校長と、教員歴4年目の若木翔太先生にお話を聞きました。

課題
  • 急速な世代交代に伴う教員間の価値観の相違
  • 直属の上司なく多様な業務を抱える教員の不安や孤独感
  • 学校方針の浸透不足により教員が業務の優先順位を判断できない状況
成果
  • 校長との対話機会の創出による教員の心理的安全性の向上
  • 教員のキャリア形成に対する主体的な意識の醸成
  • 三者面談における記録作成業務の自動化による負担軽減

辻元校長インタビュー

Q:教育現場での1on1の実施は珍しいと思います。どのような背景があるのでしょうか?

世代交代と組織構造が生む「対話の必要性」

大きく二つの背景があります。

まず、この5年で団塊世代の退職が重なり、若手教員が大きく増えました。それに伴い、価値観のすれ違いが生まれています。

私学は転勤がないため、ベテラン教員は何十年も同じメンバーで「あうんの呼吸」で動いてきました。一方、若手教員は一般企業で働く友人たちを見て、働き方改革を当然と考えています。この感覚の違いから、お互いに「そんなことも言わなければ分からないの?」「言われていないから分かりません」とストレスを感じる状況が生まれています。

もう一つは、教員現場特有の課題です。教員は担任業務、部活動、校務分掌(学校運営に必要な業務を教員が役割分担する仕組み)という複数の仕事を抱えていますが、それぞれ指揮系統が異なり、誰も個々の教員の全体的な業務量を把握していません。

一般企業のような直属の上司が存在しない環境で、各教員は自己管理を求められます。その中で、「仕事の悩みを誰に相談していいかわからない」「校長や周りからどう思われているか知りたい」といった声が上がり始めました。

私自身も学校の方針が現場でどう受け止められているか見えなくなってきたため、組織的なコミュニケーションを増やすことが不可欠だと考えるようになりました。

Q:コミュニケーションを増やす方法は様々あります。なぜ「1on1」に注目したのでしょうか?

教員からの要望が決め手に

一昨年、三者面談の質を高めていく方針を打ち出したところ、多くの教員から「私たちとも面談してほしい」といった声が上がりました。現場は様々な悩みを抱える中で、上層部との対話を求めていたのです。

以前コーチング研修を受け、「話し合いの中から答えが見つかっていく」という考え方に共感していた私は、教員同士の対話を仕組み化したいと思いました。つまり1on1です。

そのようなことを考えていた折に、DX総合展で「Kakeai」に出会い、1on1を仕組み化できるイメージが湧きました。

Q:組織的な1on1をどのような形で開始しましたか?

教員同士から始めて、段階的に三者面談へ

まず、2023年に教員同士の1on1を開始しました。校長、教頭、学年主任がマネジャーを務め、各教員と1on1を実施します。

教員同士で半年ほど実績を積んだ後、次のステップとして三者面談への活用を決めました。狙いは面談記録の効率化です。

Kakeai導入当初から構想していましたが、保護者を巻き込むリスクを考慮し、慎重に進めました。2024年7月に1クラスで試験導入、12月には4クラス、2025年7月から全校に展開。保護者からも「次の担任に記録を引き継げるのはいいですね」と好評です。

さらに、2025年5月からは私と教員の1on1をキャリア支援の場に切り替え、Kakeaiの「キャリアプランニング支援システム* 」を導入しました。

教員が自身のキャリアを考える機会がほとんどなかったため、各教員が将来どうなりたいか、どんな力を伸ばしたいかを考えるきっかけを提供しています。同時に、学校として求める人材像と教員個々の志向をすり合わせる場としても活用しています。

私学では教科指導力だけでなく、生徒募集や評判管理といった学校運営の視点も必要ですから、そうした意識を持ってもらう機会にもつなげたいと考えています。


📕 MEMO:
キャリアプランニング支援システム 

教員が自己評価アセスメントに回答し、伸ばしたい資質能力を選択、将来の職務目標を設定する一連の機能。アセスメント結果はレーダーチャートで可視化され、上司は事前にこれらの情報を確認し、教員のキャリア志向などを把握した上で1on1を行う。サービス紹介動画はこちら

辻元先生と各教員との1on1は互いにPCを持ち寄り校長室で行う

Q:教育現場の長時間労働が問題となる中、1on1の導入が教員の稼働時間をさらに増やす可能性があることをどう考えましたか?

負担にならない頻度で実施

1on1をやるのは、たいてい授業の空きコマです。教員は約50人いますから、毎日1人と話すとしても、一人当たりの実施頻度は3カ月に1回程度。多くの教員が「時間を取ってくれてありがとうございます」という反応で、意外と喜ばれることなのだなと感じました。

Q:1年間の実践を通じて、どのような変化や発見がありましたか?

相互理解の深まりと、Kakeaiそのものの価値

まず、私自身に大きな変化がありました。1on1を通じて「この先生はこういう考え方なんだな」と理解できるようになったことで、指示を自信を持って伝えられるようになりました。説得力も増していると思います。伝えたいことがズレなくなってきたのも良い変化です。

Kakeaiについては、正直、個々の機能というより「Kakeaiを使う」こと自体に価値があると感じています。1on1という対話の場を設けること、それを定期的に続けることの重要性を、このシステムが思い出させてくれる。それが一番助かっています。

各教員との1on1の記録を3〜4年と蓄積していけば、「前はこう言っていましたね」と振り返りながら、各教員の成長を支援できるようになると思います。

若木先生インタビュー

Q:教員としての日々の業務と課題を教えてください。

複雑な業務構造の中での「孤立感」や「確認漏れ」

選抜コース2年生の担任でダンス部顧問です。朝8時から夜8時まで、授業、部活、授業準備で隙間時間はほぼありません。

日々の授業に加え、担任として40人の生徒の成績管理や進路指導、さらに部活動指導と校務分掌もあります。選抜コースなので、三者面談では一般受験に向けた戦略や英検取得の重要性などをプレゼンテーションのように保護者に説明します。面談の時期はその準備も忙しくなります。

校長からも話があった通り、教員には一般企業のような直属の上司はいません。学年主任は学級運営の相談はできても、自分のキャリアや働き方について相談する相手ではない。新任時は誰に何を聞いていいか分からない状況で、引き継ぎで情報が漏れ、気づいたら「それは知らなかった」ということが何度もありました。

今振り返ると、困った時にすぐに誰かに聞ける場があるとありがたかったなと思います。

Q:1on1制度の導入については、どのように受け止めましたか?

初めて得られた「対話の機会」への期待

ポジティブな印象を受けました。そもそも管理職の先生方と1対1で話す機会は意外とありません。学年主任とは学級運営のことで話すだけ。校長や教頭と定期的に話す場はありません。だからこそ、1on1はじっくり話せる良い機会になると思いました。

これまで辻元校長と2回、学年主任と3回実施しています。1on1では「こういう時どうしていますか」「何を大事にしていますか」などと問いかけ、普段聞けない先輩方の価値観を聞くようにしています。

業務のアドバイスは日常でも聞けますが、職業観や仕事の哲学は1on1のような場でないとなかなか聞けません。

Q:1on1を重ねてみて、どのような価値を感じましたか?

「見てもらえている」安心感と自己理解の深まり

1対1で話すことで「見てもらえている」という実感や「自分は一人ではない」という安心感が得られることに気づきました。教員は普段、一人で判断して動くことが多いので、この感覚を得られるのは非常に大きな価値です。

キャリアについても大きな気づきがありました。キャリアプランニング支援システムでアセスメントを受けた時のことです。「なりたい職」に関する選択肢が表示されましたが、正直に「分からない」を選びました。

でもそれが良かった。自分の無知を知ったというか、「(校長、教頭など)いろいろな道があるんだ」「自身のキャリアを考えなければいけないのか」と気づけたからです。

「キャリアは上が決めるもの」という先入観がありましたが、今は違います。もっと将来のことを相談したい。そういうことを話す場としても1on1は貴重です。

Q:三者面談でのKakeai活用には、どのような価値を感じますか?

話し合いに集中でき、面談の記録や引き継ぎも楽にできる

私は今年初めて担任になったので、Kakeai導入以前と比較することはできませんが、先輩方は「面談中にパソコンでメモを取り、ExcelシートやWordにまとめていた」と言っていました。これは非常に大変なことです。

実際、三者面談では、成績のフィードバック、不得意な教科の指導、進路相談、クラスでの様子の報告など、話すことが山積みです。それが一人20分×40人分あります。Kakeaiの文字起こし機能があることで、面談中にメモを取る必要がなく、生徒や保護者との対話に集中できる。これは非常に助かります。

文字起こしの精度も高く、要約機能もしっかりしているため、面談記録を振り返りやすい。次期担任への引き継ぎのハードルも下がるでしょう。

このような業務効率化は、教員歴の浅い私にとって特に重要です。授業の質を保ちながら多様な業務をこなすには、どこかで時間を生み出す必要があります。Kakeaiによる記録の自動化は、そのニーズに応えてくれるものだと思います。


※上記事例に記載された内容は、2025年08月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。

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