リアルタイムフィードバックで成長支援を強化。全社1on1必須化で取り組む人材育成

リアルタイムフィードバックで成長支援を強化。全社1on1必須化で取り組む人材育成

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 人事総務本部 人材戦略部 人材開発課 課長 細辻享子さん

社名
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
業界
IT・情報通信
従業員規模
5001人以上
タイプ
導入ご決裁者の声
導入目的
キャリア形成支援・人材育成

「“人材育成”に1on1の活用を」──。2023年度の人事制度改定を機に伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が進める重要な取り組みの一つです。

同社は1on1を「評価」を目的とした面談ではなく、信頼関係づくり、成長促進、モチベーション向上など「人材育成」を目的とした対話型コミュニケーションと位置付けています。自発的な発言を尊重する対話を通じて部下の悩みや将来のビジョンを理解し、問題解決や気づきを与えながら成長を中長期的にサポートしています。

CTCは1on1導入前にどのような課題に直面し、その解決に向けてどんな取り組みを進めたのでしょうか。

課題
  • 「戦略の現場浸透」「上司との対話」のエンゲージメントスコアの伸び悩み
  • キャリア展望に悩む社員が一定数存在
成果
  • 若手社員と管理職の定期的な対話機会の創出
  • 1on1実施率とエンゲージメントスコアにポジティブな相関を確認
  • 1on1が心理的安全性の高い場として機能

Q:1on1に取り組み始めたきっかけを教えてください。

上司-部下のコミュニケーションの重要性を確認したため

2021年度から一部組織で1on1をスタートしました。直接的なきっかけはエンゲージメント調査の結果です。「戦略の現場浸透」「上司とのキャリア対話」といった項目のスコアが伸び悩み、「キャリア展望」については、自分が何を目指すべきか悩んでいる社員が一定数いることが明らかになりました。

これらの課題を分析した結果、上司と部下のコミュニケーション強化が不可欠との結論に至りました。1on1は当時すでに有効な施策として認知されていたため、導入に踏み切りました。

Q:1on1をどのような形で推進しましたか?

手挙げ式の研修から始めた草の根的な活動

最初は「1on1はコミュニケーション強化に有効なのでぜひやってみてください」というメッセージと共に、任意参加のセミナーやロールプレイング研修を実施しました。全社規模で見ればごく一部の参加でしたが、参加者からは「1on1、いいね。やってみよう」という前向きな反応があり、手応えを感じていました。

実際に研修に参加した組織では、エンゲージメントスコアの上昇傾向が見られたほか、成長支援の効果も感じられました。ただ、全社的な広がりまでには至っていませんでした。

Q:2023年度に1on1を全社で必須化したとうかがいました。その背景は?

人事制度改定と成長支援の強化

2023年度の人事制度改定が大きな転機となりました。弊社の企業競争力の源泉は「人材」です。環境変化にあわせて、等級・評価・報酬を含めた人材マネジメント全体を見直しました。その狙いは社員の成長スピードを引き上げ、企業価値向上につなげることです。

そのためには、社員ひとり一人の働きや成果を評価し、成長につなげることが重要です。そう考えたとき、果たして評価制度に基づく期初・中間・期末の面談だけで十分なのでしょうか。個人の自律的な行動を促し成長につなげるためには、上司が部下にリアルタイムでフィードバックを与え、フィードバックを受けた本人が次にとるべき行動を考え、行動の質を高めることでより大きな成果に繋げる────そんなフィードバックを起点とする成長サイクルが重要です。

明確な評価基準も大切ですが、評価という営みの根本は「人と人がどう向き合うか」にあると思います。上司が部下を正しく理解するには、普段からの継続的なコミュニケーションが不可欠です。

そこで、月1回の1on1の実施を必須化し、実施支援の仕組みとしてKakeaiを導入しました。

Q:1on1必須化にあたって直面した課題はありますか?

意識の醸成

最大の課題は、社員に「腹落ち」してもらうことです。「ルールだからやる」ではなく、「メリットがあるから1on1をやる」という意識を根付かせるのは容易ではありません。

ツールを導入しても活用しない層もいますし、集計データ上ではありますが1on1そのものを実施しない層も一定数は存在します。全社必須だからと強制するのではなく、その価値をいかに理解してもらうかが鍵となります。

Q:それらの課題にどう対応していますか?

実施状況を活用した「見える化」戦略

Kakeaiの魅力の一つが、上司と部下のペア毎の実施データを取得できることです。各組織の実施状況を可視化して、定期的に経営層へ報告しています。経営層への報告により各部署への働きかけが促進されます。

また、1on1の真の効果を測るため、実施率とエンゲージメントスコアとの関係性を分析したところ、実施率の高い組織ほどコミュニケーションやキャリア関連項目のスコアも向上しているという相関が確認できました。こうしたデータを示しながら、1on1の価値を社内に訴求しています。

並行して、マネジメント層向けセミナーも継続して実施しています。「日常的にコミュニケーションを取っているから十分」と考えがちな管理職に対し、継続的な対話としての1on1の意義を粘り強く伝え続けています。

Q:Kakeaiの具体的な効果は?

習慣化の促進と業務効率の向上

Kakeaiを利用する最も大きな効果は“習慣化”の支援です。実施履歴が可視化されることで、「今月、まだやっていない」「そろそろ実施しなければ」という気づきが自然に生まれます。多忙な日々では気づけば数か月経過していることもありますが、履歴機能により定期実施への意識が向上しました。

人事部門では月1回以上の実施率を注視するとともに、エンゲージメントスコアとの相関分析を継続していますが、重要なのは、各人が1on1の価値を理解して自発的に取り組むことだと考えています。

Q:1on1を本格導入してから組織に変化はありましたか?

若手と管理職の距離が縮まった

「1on1」という言葉が組織に浸透しました。特に若手社員にとって、課長クラスとの1on1は貴重な機会となっています。例えば、日常業務では中堅社員との接点が中心だった新入社員も、定期的に管理職と直接対話できる環境が整いました。

私自身の体験でも、部下から「今日はプライベートな相談があります」と切り出されることが増えました。あらかじめ時間が確保されているからこそ、普段は話しづらい内容も気兼ねなく相談できる、そうした心理的安全性の高い場が形成されています。

Q:エンゲージメント調査で「キャリアの展望」のスコアが低いという課題がありましたが、その根本原因は?

豊富なキャリアパスの存在を社員が認識できていない

「自分が何を目指すべきかわからない」という声が多く聞かれます。組織規模が大きいがゆえに、ほかの組織の業務が見えにくい状況です。キャリアの選択肢は豊富に存在するにもかかわらず、それらが可視化されていないのが実情です。

この課題を受け、今年度から各組織のキャリアパスを可視化する取り組みを開始しました。会社が求める人材像を改めて明確にし、組織ごとのキャリアパスを提示します。1on1では、個人の志向と組織のキャリアパスを照合することで、「この方向性なら他組織への異動も視野に入れてみては」といった具体的な対話ができるようになると期待しています。

ただし新たな課題も見えてきました。マネジャーが自組織以外の情報を十分に持っていないことです。

他組織の業務内容やキャリア展望を語れない状況では、真の意味でのキャリア支援は困難です。組織横断的な対話機会の創出や、マネジャー間の情報共有が必要だと感じています。

Q:対話文化の定着の先に目指す組織像を教えてください。

「忙しいからこそ1on1」という逆転の発想

私が目指すのは「忙しいからこそ1on1でコミュニケーションを取れば、仕事が楽になる」という組織です。

「1on1の時間をとるのが難しい」と言う人もいますが、チーム内で相互理解が深まれば、業務効率は格段に向上するはずです。

現在は習慣化の段階にありますが、次のステップは質の向上です。最終的には、支援策がなくとも自然な対話が生まれる組織を目指しています。そこに至るまでの道のりで、Kakeaiには伴走役としての役割を期待しています。


※上記事例に記載された内容は、2025年06月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。

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