人間関係に悩む保育士たちを救え!「1on1」で解消する離職リスク

人間関係に悩む保育士たちを救え!「1on1」で解消する離職リスク

保育事業本部 ゼネラルマネージャー 岡田鉄平さん

社名
中央出版株式会社
業界
教育
従業員規模
101~500人
タイプ
導入ご決裁者の声
導入目的
エンゲージメント向上
キャリア形成支援・人材育成
マネジメント力・リーダーシップ強化
課題
  • 人間関係のこじれによる離職リスクの増大
  • 新任管理職の早期育成
  • 労働集約型ビジネスにおける対話の時間の確保
成果
  • 1on1記録の自動化によるマネジャーの作業負担の軽減
  • 部下からの評価を通じてマネジャーが自身の対話スキルを客観視
  • 本部によるマネジャーのフォローの強化

「人に合わせる」ことが常態化し、本音が言いにくい職場——。認可保育園13園を運営する中央出版では、人間関係に悩む保育士たちの離職リスクが顕在化し、園長らのマネジメントスキルの向上が大きな組織課題となっていました。

保育事業を10年統括する岡田鉄平さんは、その解決策を「対話」に見出し、2023年から1on1を開始。自身が統括する介護事業でも1on1を始め、今年4月には両現場に「Kakeai」を導入しています。

常に時間に追われる社会福祉事業の現場で、1on1制度は機能するのか。岡田さんにリアルな現状を聞きました。

Q. 1on1を導入した背景を教えてください

主目的は保育士間の人間関係の構築とマネジャー育成の効率化

保育の職場では、0歳児から5歳児までのクラスごとに、2、3人の保育士がチームを組んで担当しています。多くの保育士は和を大切にする傾向にあり、それ自体は良いことなのですが、「人に合わせる」ことが常態化し、摩擦を避ける傾向が強くなっています。その結果、本音が言えず、人間関係の悩みを抱え込んでしまう者も少なくありません。

こうした悩みは離職リスクに直結します。今は人材不足の時代。働き手は待遇や人間関係の良い職場を求め、転職してしまいます。離職が増えると採用と育成の両面でコストがかさむため、本来投資するべき予算が減り、悪循環になってしまいます。

この課題に対処すべく、元園長経験者3名を「トレーナー」に任命し、各園を巡回しながら、懸念事項がある保育士をサポートする制度をつくりました。ただ、多くの場合、問題発生後に対応することになります。

理想はトラブルを未然に防ぎ、問題が発生しても園内で解決できる環境を構築することです。そこで、園内のコミュニケーション量を増やすべく、2023年に1on1制度を導入しました。

Q. 介護事業でも2025年から1on1を取り入れていますが、その背景は?

事業拡大に伴うマネジャー育成の強化と効率化

介護事業は拡大期にあり、施設長や管理者の育成のスピードが求められます。部下との対話がマネジャーの成長には不可欠ですが、介護職員は現場に張り付いているため、施設長らが部下と向き合う時間は限られていました。

そこで1on1を導入し、対話機会の創出を通じてマネジャー育成の効率化を図ろうと考えました。

Q. 両事業で1on1に取り組む中、2025年4月に「Kakeai」を導入しています。どのような狙いがあったのでしょうか。

1on1の形骸化防止と、実質的なコミュニケーション強化

保育や介護のような労働集約型のビジネスでは、職員は基本的に現場で働く必要があり、1on1の時間捻出が困難な実情があります。

実際、保育の現場では1on1の形骸化が進んでいました。現場の多忙さから実施が見送られたり、本部からの要請で「とりあえずやる」だけのケースが散見されるようになってきたのです。その状況を改善するべく、Kakeaiを導入しました。

Kakeaiへの期待は主に二つあります。一つは運用プロセスの効率化です。

従来は園長が話しながらメモを取り、終了後にスプレッドシートに転記して本部に共有する手間がかかっていました。Kakeaiは対話の記録が要約されるため、園長は話に集中でき、事後の煩雑な作業からも解放されます。対話の記録が残れば、次回の準備も容易になり、1on1の継続性が高まります。

もう一つは、マネジャー育成の強化です。マネジャーが成長するには、対話を通じて部下としっかり向き合うことが重要です。それを実現するには、マネジャー本人が自身の対話記録を分析して課題や成長余地を把握し、同時に本部もマネジャーと現場職員の間で質の高い対話が継続されているかを確認できる仕組みが必要でした。Kakeaiを活用すれば、そのような環境が構築できると判断しました。

Q. 1on1の実施体制について教えてください。

上司-部下間の1on1は月1回、15〜30分程度

現在は2層の1on1を実施しています。メインは園長・施設長と正社員の1on1です。月に1回、15分から30分程度行っています。

もう一つは、園長・施設長と私のような本部ゼネラルマネジャーとの1on1で、半年に1回程度実施しています。目的はマネジャーの育成推進。園長らの相談に乗りながらアドバイスやフィードバックを行う場と位置付けています。

Q. 1on1ではどのような話題が多いのでしょうか。

人間関係の相談や施設の運営状況について

まずは保育の現場での1on1について。新人は業務に関する質問が多く、子どもへの対応方法について園長に確認したいという相談がよくあります。子どもの年齢によって適切な対応方法が異なるためです。

中堅層になるとキャリアの話も出てきますが、保育士は職位の上がり方が一定で、自己主張する方は少ないのが実情です。その結果、最も多い話題は人間関係の悩みとなっています。

一方、園長と私の1on1では、園児の充足率や収支、職員の育成環境や保育の質向上について話すことが多いです。

園長は施設内のトップで孤独な立場にあるため、寄り添って一緒に考えることを大事にしています。時間はかかりますが、答えを与えるよりも、気づいてもらい、自信をつけてもらいたい。課題解決よりもじっくり話を聞くことに重点を置いています。

Q. 1on1をマネジャー育成の施策として位置づけていますが、マネジャーはどのような課題を抱えているのでしょうか。

コミュニケーション経験の不足と、時代背景による指導の困難さ

社会福祉事業では現場経験は豊富でもマネジメント経験のないまま園長や施設長になるケースが多く見られます。一般企業のように段階的に管掌範囲を広げていくのではなく、いきなり多くの部下を束ねることになるため、指導方法に迷うマネジャーが少なくありません。

また、子どもや高齢者との接触は得意でも、職員同士のコミュニケーションは苦手という方も多くいます。コロナ禍に学生時代を過ごした新卒者は特に言語化が苦手で、そうした部下との対話に苦慮するマネジャーも増えています。

他方で組織と従業員のパワーバランスが変わり、マネジメントの難易度は高まっています。離職が増えると組織が立ち行かなくなるため、マネジャーは厳しい指導を控える傾向にあります。しかし、人材育成には時に厳しさも必要です。踏み込んだコミュニケーションをするには信頼関係が欠かせません。事業の特性上、職員の多くは現場に張り付いていますが、それでも対話を重ねて構造的な課題を解消していかなければなりません。

Q. 1on1の質を高めるために工夫をしていることはありますか。

園長会議での共有と継続的な声かけが肝要

1on1は声をかけ続けなければ徐々に形骸化してしまいます。そこで、月に一度の園長会議で実施状況を発表してもらい、本部がフィードバックを行っています。やり忘れてしまう園長も出てくるため、継続的な確認と励ましは不可欠です。

Kakeai導入後は、園長会議での共有方法も進化しました。各園長が自身の評価画面をコピーして持参し、互いの状況を共有するようになったのです。

Kakeaiでは部下が1on1の満足度を入力します。満足度が低い対応は赤く、満足度の高い対応は青く表示されます。「私の画面は赤ばかりで落ち込む」という園長もいれば、「青が多いけれど、表面的な話しかできていない可能性もある」といった分析を通じて、それぞれの課題感を明確にしています。

マネジャーによって部下の満足度や対話の状況が異なることが可視化され、それを共有することで各々が自己理解を深めながら前に進める環境ができてきました。本部側の確認コストも軽減され、記録が残ることでマネジャーたちの意欲も向上しています。

Q. 今後1on1に関するKPIを設定する予定はありますか。

1on1の実施回数に注視する

当面の目標は対話の文化を定着させること。そのためには1on1を積み重ねることが重要ですから、実施回数は注視したいと考えています。

Q. 今後目指す組織像を教えてください。

全員が主体性を持ち、変化に対応できる組織へ

縦のヒエラルキー型ではなく、フラット型の組織体制を目指しています。新人からベテランまで誰もが気兼ねなく意見を主張し、新しいアイデアを生み出し続ける環境をつくりたいと考えています。

今は保育園も介護事業も淘汰される時代です。待機児童が多くいた時代は、黙っていても利用者が来ましたが、今はそうではありません。選ばれる要素を自分たちで生み出していかなければ生き残れません。

ベテラン保育士は変化に弱く、前例主義の安心感を求めてしまいがちです。環境の安定を求めるあまり「前にやったからこうする」ということが多いのですが、それでは園も保育士も生き残れません。

一人ひとりの職員が変化に対応できる「レジリエンス力」を身につけ、主体性を持てれば、組織が成長し、マネジャー候補も生まれてきます。実際、変化することに慣れ、挑戦を楽しめる職員も出てきております。

当社の職員は全員がマネジャー候補です。1on1を通じてそうした人材を育成していきたいと考えています。


※上記事例に記載された内容は、2025年05月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。

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