多文化組織で1on1が創る変革 ── 村田製作所マレーシアの挑戦

村田製作所マレーシア
芝田 真琴さん
村田製作所マレーシア
ラメシュクマール・ラサッパンさん


芝田さん インタビュー

Q:まずは1on1に本格的に取り組むことになった背景をお聞かせください。

“本音”を引き出す文化づくりへ

当社は村田製作所グループの海外拠点として、マレーシアで製造事業を行っています。マレーシアは多民族国家であり、人種・宗教ともに多様な背景を持つ人が働いています。一方で、「対立を避ける」という価値観が強く、上司と部下が本音を言い合う風土が弱いのも現実です。たとえば、部下が興味深いアイデアを持っていても、上司への遠慮からなかなか口に出せない。上司の側も、部下への指導で踏み込んだ意見を言いたくても、衝突を恐れて控えてしまう。

こうした状況では、組織としての成長力が伸び悩むと考え、まずは「本音で話す場」を定期的につくる取り組みとして1on1に注目しました。

Q:1on1にはどのような期待をお持ちでしたか。

マネジャーの自律と部下の成長を目指して

1on1への期待は大きく二つあります。

一つ目は、マネジメント層の自主性強化です。現社長が掲げる「自主独立的」な姿勢、つまり本社からの指示待ちではなく自分たちで考え実践していく力を養うには、ミドルマネジャーのリーダーシップとコミュニケーション力の向上が不可欠です。1on1はその実現への重要な手段となります。

二つ目は、部下の成長機会の拡大です。部下がキャリアや仕事上の課題を気軽に相談できる環境をつくることで、各自の目指す方向性を明確にできます。特に製造現場では日常業務に追われがちですが、1on1を通じてこの状況を変えていきたいと考えました。

Q:1on1の具体的な導入プロセスを教えてください。

マネジャー5人からの実験的スタート

1年間のスパンで、上期・下期各5人、計10人のマネージャーによるパイロット導入を計画しました。この5人には実際に部下と1on1を重ねてもらい、その内容を振り返る仕組みとしてKakeaiも導入しています。

導入1カ月後、これまでは把握できなかった部下の反応がKakeaiを通じてデータ化されたことで、マネージャーたちの1on1の進め方には改善の余地が大きいことがわかりました。そこで、マネージャーとその上司、管理部門の三者で定期的な振り返りの場を設け、改善に向けた具体的なアクションを検討。「部下が話しやすい雰囲気づくり」や「相手の言葉に耳を傾ける」といった基本的なコミュニケーションスキルの向上に重点的に取り組んだ結果、3カ月後には部下の1on1満足度が顕著に高まりました。

この一連の取り組みによって、かつての「場を設定するだけ」という状態から、組織全体でマネジャーの成長を支える体制へと変わりました。

Q:Kakeaiは具体的にどのような点で役に立っていますか。

可視化がもたらす対話の進化

Kakeaiは主に二つの面で効果を発揮しています。

まずは1on1を確実に実施・定着させる基盤となっている点です。日常業務の忙しさの中でも、Kakeaiの存在が定期的な対話の時間確保を促し、継続的な実施を支援しています。特に製造現場では目の前の業務が優先されがちですが、Kakeaiを活用することで、人材育成のための時間を確実に確保できるようになりました。

次に、マネジメントの質的向上を支援する点です。従来の評価面談やキャリア開発のための1on1では、マネジャーごとのスキルのばらつきが課題でした。

Kakeai導入後は、部下からのフィードバックが可視化され、マネジメントレベルの均一化と向上に向けた具体的な改善活動が可能になりました。これにより、会社の人材育成に対する姿勢や現地スタッフへの期待を、具体的な形で示すことにもつながっています。

Q:今後、組織をどのように変えていきたいとお考えですか。

自立型人材が育つ風土づくりへ

目指すのは、「ローカルスタッフが自分たちの意志で動き出す」ことが当たり前になる組織づくりです。1on1を重ねることで、部下一人ひとりが自分の意見を持ち、やがては「部下がむしろ上司をリードする」ような自立性を育んでいきたいと考えています。


ラメシュクマール・ラサッパンさん インタビュー

Q:1on1パイロット導入のメンバーとして選ばれた時の思いを聞かせてください。

期待と不安が入り混じるチャレンジ

この新しい取り組みのメンバーに選ばれたことを、とても光栄に感じましたが、率直に申し上げると、最初は戸惑いもありました。

マレーシアは多様な人種や宗教が調和して共存している国ですが、同時に「対立を避ける」という価値観も根強くあります。そのため、上司と部下が本音で語り合うというのは、私たちにとって決して簡単なことではありません。

私自身、この文化の中で育ってきた人間として、部下との1on1をどのように進めていけばよいのか、手探りの状態でした。

Q:実際に1on1を行ってみて、これまでと何が変わりましたか?

対話の質を高めるテーマ設定と振り返り

最も大きく変化したのは、部下との対話の質です。以前は「メンター・メンティープログラム」として1on1を行っていましたが、特に話し合うテーマがなく、それが課題でした。

一方、Kakeaiでは部下が話したいテーマを選べ、それに基づいて準備ができます。その結果、会話がより友好的になり、部下が本当に必要としている情報を提供できるようになりました。

さらにKakeaiには、対話の質を高める仕組みがあります。1on1の終了後に部下がフィードバックを送ってくれて、それが積み重なることで私の1on1の特徴がスコアとして見えてくるのです。導入当初は厳しいスコアでしたが、データから自分の課題が明確になり、どうすれば部下がより話しやすくなるか、具体的な改善点が見えてきました。

その中で特に重要だと感じたのは、仕事の話だけでなく個人的な話にも焦点を当てることです。マレーシアの文化では、個人的な問題を上司と共有することに抵抗がありますが、私の経験や年齢を活かしながら、部下が話しやすい環境づくりを心がけています。

Q:多様なメンバーとの1on1で特に意識されていることはありますか?

新世代には理由と成果を示し、共に前に進む

私の部署には、機械、電気、電子、メカトロニクスなど、様々な専門性を持つエンジニアが在籍しています。また、マレー系、中国系、インド系、日本人と、文化的背景も多様です。

さらに、X世代の私とY世代、ミレニアル世代など、世代間のギャップもあります。かつては上司からの指示をただ実行するだけでしたが、今の若い世代には「なぜそれを行う必要があるのか」「それによって何が達成できるのか」をしっかり説明する必要があります。

Kakeaiを通じて、こうした新しい世代の従業員と良好な関係を築き、彼らの考え方をより深く理解できるようになりました。結果として、私自身のマネジメントスキルも向上しているように思います。

Q:今後の展望をお聞かせください。

1on1を通じた対話の深化で、チーム全体の成長を支える

この6カ月間で部下との関係は着実に良くなってきていると感じます。私自身、より積極的な傾聴を心がけ、部下の課題や問題にしっかり向き合い、適切なフィードバックや指導を提供できるようになってきました。部下も安心して話せる環境が整ってきており、実際に1on1の満足度スコアも徐々に向上しています。

今後も世代や文化の異なる多様なメンバーとの対話を大切にしながら、一人ひとりの成長をサポートしていく所存です。


※上記事例に記載された内容は、2025年1月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。