アルバイトから正社員へ。二郎系ラーメン店の「1on1」を活かした人材登用

二郎系ラーメン「限界を超えろ」を全国に展開する株式会社夜明け。創業者であり代表取締役の深川智行さんが学生時代に一号店を立ち上げ、現在は5店舗を運営。さらに今年中に2店舗の追加出店を控えています。

2022年には飲食業の枠を超えてITビジネスにも参入。NewsPicksの番組「メイクマネーサバイブ」で深川代表が堀江貴文氏らの前で投資ピッチを披露するなど多方面で注目を集めてきました。

現在はラーメン事業に集中し、2026年には海外進出も計画。その成長戦略の中核となるのが「1on1」を通じた人材育成です。

飲食店における1on1の実態、そして対話を基盤とした組織づくりの核心とは? 深川代表と千葉の店舗「限界を超えろ 京成大久保校」の統括責任者を務める梅木彰士さんにお話をうかがいました。


業界:飲食
従業員数:51~100人(アルバイト含む)


課題

  • 業務フィードバック中心の1on1からの脱却
  • 部下の満足度重視から成長支援重視への転換
  • 組織拡大の手段としての人材育成の仕組み化

成果

  • 1on1文化の定着
  • マネジャーの対話意識向上と部下主体の対話の実現
  • 店舗を超えた「ナナメの1on1」による多角的な成長支援体制の確立

深川さんインタビュー

Q:1on1を導入した背景を教えてください。

試練を乗り越え、対話を軸とした組織づくりのために

大学3年次の2021年9月に「限界を超えろ」という二郎系ラーメン店を開業しました。創業当初は周囲のメンバーに支えられ順調でしたが、2023年には新規事業の失敗も重なり、休業の危機に直面しました。

この苦境からの再起を図る過程で、「組織の力」で成長する重要性を痛感しました。組織はメンバー間の有機的な対話があってこそ「集団」として機能します。創業以来、業務に追われるあまり対話を疎かにしてきた反省から、2024年に1on1を導入しました。メンバー一人ひとりの成長が組織全体の成長につながる——その信念を形にする第一歩という位置付けです。

Q:1on1はどのように運用していますか。

「縦」と「ナナメ」の二つの1on1を組み合わせた運用

1on1は二つの形式で運用しています。基本となるのは店舗内での「縦の1on1」。これは店舗のマネジャーとメンバー間で行う通常の対話です。

もう一つは店舗を超えた「ナナメの1on1」。例えば津田沼店のメンバーと青森店のマネジャーといった組み合わせです。

この仕組みを導入したのは、直属の上司には相談しづらい内容でも、別店舗の先輩なら話しやすい場合があるからです。店舗を超えた「メンター制度」として機能しています。

私自身も全社員と月1回の1on1を実施しています。1on1の頻度は、直属メンバーとは毎週、ナナメの関係では隔週。時間帯は主に15時から17時の「中休み」に設定しています。

Q:1on1を実施する中で、Kakeaiを導入した理由を教えてください。

「部下のための時間」という理念に共感

1on1を始めた当初、私自身のコミュニケーションが業務フィードバックに偏っていました。成長意欲の高いメンバーには効果がありますが、全員がそれを求めているわけではありません。1on1が有意義な時間にならないケースもあり、どうすれば改善できるか悩んでいました。

そんな中で友人から聞いたのが「Kakeai」です。「1on1は上司のための時間ではなく、部下のための時間」という捉え方に共感し、2024年9月に導入しました。

Q:Kakeai導入後、どのような変化を感じていますか?

1on1の質向上と「御用聞き」が生じるジレンマ

1on1が社内文化として定着したことが一つ。また、「Kakeai」上で部下の1on1の満足度が可視化されることにより、「部下にとって有意義な時間にしよう」という意識がマネジャー層に広がっていることも大きな変化です。

その一方で、ある種の副作用も生じています。部下の満足度を気にするあまり、マネジャーがいわゆる「御用聞き」になってしまうケースが散見されるのです。部下の成長には時に厳しいフィードバックも必要ですが、部下の受け止め方を意識するとそこに踏み込めないというジレンマが生じています。

Q:そのような「1on1の形骸化」を防ぐために取り組んでいることはありますか?

マネジャーの成長が部下の成長を生み出す好循環へ

1on1の質を高めるために、二段階のアプローチを取っています。まず、マネジャーに対話の質を確認するとともに、メンバー側にも直接ヒアリングを行っています。そのようにして双方の声を聞きつつ、現場に赴き実際にメンバーがどう変化しているかを自ら観察することも重視しています。

具体的には、マネジャー陣が集まる週次会議で、担当メンバーの変化や成長、挑戦していることなどを各マネジャーに報告してもらい、私自身が翌週そのメンバーの仕事ぶりを直接確認します。そこで、マネジャーの報告と実態にギャップがあれば、それが環境由来なのか、マネジャーのスキル不足なのか要因を分析し、必要な改善策を講じています。

今はこのようなアプローチを取っていますが、この先組織が拡大すれば、私が直接観察するのは難しくなるでしょう。当社は2026年に海外1号店オープン、2028年までに47都道府県への出店を目指しています。組織の拡大に合わせて、何らかの形で1on1の効果の確認・判断プロセスを仕組み化することが次なる課題です。

Q:事業拡大に向けて進めている組織改革はありますか? 特に1on1に関連する改革があれば教えてください。

「人の成長」を軸にした組織へのシフト

私たちは「人が育てば店舗が増え、売上も上がる」という信念を持っています。そのため1on1は単なる対話の場ではなく、人材育成の原動力と位置づけています。

当社では社員のほとんどがアルバイトからの登用です。アルバイトがインターンに、インターンが社員に、社員がマネジャーへと成長する道筋を支援することが重要だと考えています。

この考えに基づき、人事制度も変革中です。現場力だけでなく「人の成長にどれだけ寄与したか」をマネジャー評価の中心に据える予定です。この実現に1on1は不可欠のツールです。部下に本気で相談したいと思われる上司と、形式的にしか関わらない上司では、部下の成長に大きな差が生まれます。この違いを可視化し、マネジャー層全体の育成力向上につなげていきたいと考えています。

梅木さんインタビュー

Q:1on1の実際の取り組み方をうかがいます。日程調整はどのように進めていますか?

定例で予定を入れて習慣化

手間を省くため、「毎週⚪︎曜日△時」というように日時を固定しています。スケジュールを定例にすることで、お互い予定が立てやすく、1on1が自然と習慣化されました。

実施方法も状況に応じて変えています。自店舗のメンバーとはパソコンを開いて対面で行うことが多いですが、青森など遠方の店舗のメンバーとはスマホを片手に散歩しながら行うこともあります。

Q:1on1導入時の印象はいかがでしたか?

店舗間コミュニケーションの新たな発見

最初は正直、「店舗のメンバーとは普段から話しているのに、なぜ改めて時間を設ける必要があるのか」と疑問を持ちました。

その一方で、普段接する機会が少ない他店舗の方々と定期的に対話できる点には大きな価値を感じました。遠方のキーパーソンと話す機会が設けられることで新たな視点や知見を得られるのは非常に有意義だと思います。

Q:1on1で大切にしていることは?

傾聴とフィードバックのバランス

1on1で最も大切にしているのは「傾聴」です。メンバーが思いを吐き出せる環境をつくるため、まずは否定せずに話を聞くことを心がけています。

ただ、聞くだけでは不十分だとも感じています。過去には他責思考のメンバーに課題を指摘できずマインドチェンジを促せなかったり、落ち込みやすいメンバーに共感だけして鼓舞できなかったこともあります。1on1の後に彼らの行動に変化が起きなかったことから、局面に応じて踏み込んだ提案や方向修正も必要だと学びました。

Q:メンバーの悩みや課題が複雑化し、マネジャーには多様な対応が求められるようになっています。そうした課題をどのように克服していますか?

組織全体で支え合う「ナナメの1on1」の活用

実際、自分の経験や知識だけでは部下の悩みに十分応えられないことがあります。そんなとき、「ナナメの1on1」が非常に役立っています。

例えば、部下の課題に対して自分のスキルでは適切なサポートができないと感じたら、その分野に強い他店舗のマネジャーに相談します。

その際、基本的には私自身がそのマネジャーと1on1をして「このメンバーにはどうアプローチすべきか」という助言をもらい、それを次の部下との1on1に活かすようにしています。ただ、時には「このメンバーの相談に乗ってほしい」とお願いし、部下に「次のナナメの1on1で、あのマネジャー(他店舗のマネジャー)にこのようなことを相談してみては」と提案することもあります。

これにより部下は多角的な視点からアドバイスを得られますし、私自身も他のマネジャーの育成アプローチから学べます。

Q:1on1に取り組む中でKakeaiをどのように活用していますか?

対話の質を高める機能の活用

対話の内容を振り返れるよう「要約」機能は必ず使っています。また、事前のテーマ選定は1on1の質を左右するため、必ず設定するよう呼びかけています。Kakeaiではこのプロセスが自然と組み込まれているので便利です。

他では「サイコロトーク」も活用しています。私たちは週1回と高頻度で1on1を実施しているため、話したいテーマが一時的に出てこなくなることもあります。そんなときにこのツールが新たな視点を提供してくれます。メンバーから「今日はサイコロトークをやりましょう」と提案されることもあり、対話のきっかけづくりとして役立っています。

Q:深川代表は1on1を組織成長の重要な取り組みと位置付けています。梅木さんは、御社のメンバーに1on1にどのように向き合ってほしいと考えますか?

準備と目的意識を持った対話の場に

1on1はメンバーにとって「自分のための時間」です。限られた時間を有効に使うためには、事前の準備が大切です。「この悩みを解消したい」「このアイデアについてフィードバックが欲しい」など、対話を通じて達成したいことをあらかじめ考えておくと、より意義のある時間になります。

一方で、マネジャー側から「期待」を明確に伝えることも重要だと感じています。若手メンバーは自分の将来像が描けていないことが少なくありません。そのような状況においては、「こういう役割を担ってほしい」「こんな成長を期待している」と組織の期待を伝えることで、メンバーが自らの方向性を考えるきっかけになります。

何より大切なのは、1on1の時間を形式的なものにしないことです。お互いが「何のために対話しているのか」という目的意識を持ち、安心して本音を話せる環境の中で、共に成長していける場にしていきたいと思います。

※上記事例に記載された内容は、2025年04月取材当時のものです。閲覧時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。