1on1はいろんなところに使える『道具』。信頼関係の構築やチームビルディング、成長支援やオンボーディングに、気負わず自然体で向き合う。

【1on1 Days イベントレポート】
8月3〜5日の3日間、1on1における現実の工夫や挑戦を共有するオンラインイベント、1on1 Daysを開催し、組織と一人ひとりの今とこれからに向き合う企業とマネジャーに登壇いただきました。
このセッションでは、「意見を伝えること」を求められる1on1においてPeople Success Awardを受賞された、NTTコミュニケーションズ株式会社の吉野祥之氏をお招きして、現場における1on1で、どのような工夫や挑戦をされているのかをお話しいただきました。
Profile
ゲスト
吉野祥之氏
NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートファクトリー推進室
モデレーター
皆川恵美
株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者
Q:現在、どのような位置付けで1on1を実施していますか?
吉野氏:メンバー5人と月に1回、1人あたり30分の1on1を行なっています。私のスケジュールが空いているところにメンバーから設定してもらう形で、1on1を実施しています。1on1自体は、マネジャーに昇格する前のリーダー時代から取り組んでいました。
1on1とは別に、毎朝30分、チーム全員で雑談する場も設けています。私がマネジャーになったのは、コロナ禍が始まった頃の時期です。そのタイミングでリモートワークが始まったので、メンバーの顔が見えなくなることに危機感を感じました。うちの課は若手メンバーが多く、メンバー5人中4人が独身の一人暮らしです。リモートワークによる「コミュニケーションの分断」を生まないためにも、毎朝みんなで30分雑談することを決め、現在も続けています。
皆川:リモートワークで日常的なコミュニケーションが少なくなっている中、1on1に加えて毎朝雑談の場も設けていらっしゃるのは、素晴らしいですね。ちなみに、マネジメントにおける1on1の位置付けは、どのように捉えていらっしゃいますか?
吉野氏:1on1の目的は3つあると思います。純然とある「コミュニケーションの土台づくり」、業務における「目標の目線合わせ」、ある程度中長期的に見た「キャリア支援」の3つです。若手メンバーは、中長期的なキャリアといってもなかなかイメージが湧かないので、キャリアの考え方や大枠の道筋についても、1on1の場でアドバイスをしています。
皆川:プロジェクト型で業務に従事されている方からは、「業務で日常的にコミュニケーションを取っているので、1on1の意味合いが分からない」という声をいただくこともあります。吉野さんのご視点ではいかがでしょうか。
吉野氏:プロジェクト型業務でも1on1をやった方がよいと思います。その理由は2つあります。
一つ目の理由は、プロジェクト内のコミュニケーションと、1対1の関係性だからこそ話せる内容には、大きな違いがあるからです。わざわざプロジェクトの会議に出して話すほどのことではないものの、「モヤっとしていること」「もっとこうしたらいいのにと思っていること」などのメンバーの本音は、1on1の場だからこそ引き出せると思います。
二つ目の理由は、プロジェクト内のコミュニケーションは、限られたメンバーと目の前の業務の話に集中しがちなので、中長期的な育成観点が弱くなるからです。現在の組織は、SIerとしてのプロジェクト型業務と、プラットフォームサービスの企画開発業務の、ハイブリッド型です。プロジェクトとは別に、日常業務をベースにした場があるのは、良いと思います。
Q:1on1という時間を設定することで、自分自身/メンバーの変化は?
吉野氏:リモートワークになったものの、日常のコミュニケーションで困ったことはありません。何かあればチャットやコールで、気兼ねなくフラットにコミュニケーションできています。それは、1on1でベースが整えられたからだと思います。
皆川:本人のやりがいや、目指す姿にあわせて育成の方向性を決め、業務を割り当てていく部分については、1on1の場で具体的にどのように話していらっしゃいますか?
吉野氏:WILL・CAN・MUSTのフレームを意識しながら話しています。「あなたの今の状態はこうですよね。先月に比べてどういうことができるようになり、どういう学びがありましたか。1〜2年後を見たときに、どういった領域のスキルセットを身につけていきたいですか。そうなるためには、どのような業務を与えていくといいですか。」という話をしています。
皆川:1on1によるメンバーの変化は感じますか?
吉野氏:1on1をやるようになって、コミュニケーションの土台となる、その人なりの考え方や、やりがいが見えてきました。みんなそれぞれ、何にどんなやりがいを感じるかは異なるので、1対1の関係性を築いて、前段となるメンバー一人ひとりを理解するようにしています。そうやって1on1を積み重ねていくと、「実は、こういうことをやりたい」「こういう自己研鑽をしていきたい」「こういうスキルを伸ばしていきたい」という、メンバー一人ひとりの想いが出てきます。
皆川:吉野さんは「意見を伝えること」を求められる1on1において満足度トップでしたが、「話を聞くこと」や「一緒に考えること」を求められる1on1の数も多いです。ある種「兄貴的な上司」としてメンバーから慕われているように思いますが、他にも意識されていることはありますか?
吉野氏:メンバーの心理的安全性は作れている気がしており、ある程度の手応えも感じています。普段のコミュニケーションでも、みんなの前でちゃんと気付いて褒めたり、チャットでありがとうと伝えたりするよう、心がけています。特に、先に自己開示することはかなり意識しています。メンバーに自己開示してもらうには、上の立場となるリーダー・マネジャーの自己開示がポイントになってきます。自分のトリセツを作ってチーム内で公開し、新しいメンバーが増えた時は最初に説明するようにしています。slackのchannelで自分が考えたことや調べたことをオープンに発信したりもしています。
Q:1on1の難しさや、それに対する工夫は?
吉野氏:メンバーによっては、1on1で話す内容が目の前の業務の話に終始し、業務以外の話題まで広がらない場合があります。KAKEAIでは、今後のキャリアやスキル、プライベートの話など、業務以外のトピックも自由に選べるので、マネジメントとしては話題を広げていきたいものの、中にはトピックが広がらないメンバーもいます。
大前提として、1on1はメンバーのための時間なので、メンバーが業務のことで悩んでいるなら、それを1on1の時間で聞いてあげるのも良いと思っています。業務の話が全く足りていないようなら、他の場を併用し、色々な方法を組み合わせてメンバーが困っていることを解消します。
困っていることを解消すれば、他の話もしていこうという気持ちになります。マネジャーもメンバーも、そういう方向にマインドセットが変われば、より価値の高い1on1、チームビルディングができると思います。
毎朝30分の雑談タイムもそうですが、時には話題がなくなり、みんな黙っていることもあります。でも、そういう日があってもいいと事前に合意しておけば、沈黙も怖くありません。定期的な場があると「ちょっとした細かい話は、その場で相談しよう」となり、場があることで解消できることは、実際かなりあります。1on1の立ち位置は多面的に見ていくのが良いと思います。
もう一つ難しいと感じているのは、メンバー側が「忙しそうだから…」と気を遣い、1on1の予定を入れてくれない場合があることです。1on1は強制的に行うものではないので、トッププライオリティで1on1の時間をとることを伝え続けていくしかないと思いますが、ここは悩みであり、今後改善していきたいと思います。
皆川:それではここから、いくつか質問をご紹介します。「1on1は月に1回でも十分でしょうか? 毎回どんなことをテーマに話をされているのでしょうか? 1年もやるとネタがなくなっていく印象があります。」というご質問ですが、いかがでしょうか?
吉野氏:KAKEAIの仕様上、メンバー側が話したいトピックを決める構造になっているので、それを踏襲して会話をスタートしています。同じ人と同じようなことを話していても、毎回状況やその時の感情は異なり、関係性も時間の経過とともに変わっているので、マンネリ化してネタが尽きることはないと思っています。
皆川:「具体的にどのようなことをしたら、1on1で心理的安全性が築けるのでしょうか?」というご質問もいただきました。吉野さんのお考えをご教示ください。
吉野氏:心理的安全性というのは、特殊な場で頑張って築くものではなく、日常の関わり合いによって生まれるものだと思います。日頃から色々なことを発信したり、相手に対して細かく反応したりの積み重ねで、1on1の場だからと言って特別なことではないと思っています。
皆川:「一般的に、1on1は『上司ばかり話している。ついつい業務の指示になってしまう』という問題があると言われますが、何か対策はありますか?」というご質問をいただきました。
吉野氏:言うべきところは言っても良いのではないかと思います。伝える際に「どう思いますか?」「私はこうだけど、あなたは?」と問いかけたり、コーチングのように悩んでいる人自身が答えを持っている前提で投げかけたり、コミュニケーション上、役立つテクニックはあると思います。
皆川:「1on1の副次的な効果として、メンバー同士の主体的な1on1や、コミュニケーションの促進が生まれたりしていますか?」というご質問については、いかがでしょうか?
吉野氏:スクラム開発やアジャイル開発で業務を進める際、メンバー同士で活発に意見を出し合いながら進めていたりはしますが、1on1という形ではやっていないです。我々がフラットな関係での1on1を活用しているのが、オンボーディングです。新しいメンバーが右も左もわからない状態でリモートワークをスタートすると、誰に何を聞いてよいのか分からない状態になるため、心理的なバリアを少しでも軽減するため、ニューカマーに対してはマネジャー、メンバー含めて1on1をやり、まずは人となりを知ってもらうようにしています。
Q:1on1とは?
皆川:最後に改めて「1on1とは何か?」という問いを立てると、どうお答えになりますか?
吉野氏:1on1はいろんなところに使える『道具』だと思います。万能とまでは言わないものの、信頼関係構築やチームビルディング、オンボーディングなど、様々な場面で1on1の有効性を実感しています。マネジメントとしては、1on1をよりうまく使いこなし、回数を重ねながら武器として活用していきたいと思います。
1on1は特殊なものではなく、ただのコミュニケーションツールです。「こうでなければならない」というものはないので、気負わずに、みなさんの環境にあった形で、自然体で向き合っていけばいいと思っています。